ペルソナ4 正義のペルソナ使い    作:ユリヤ

13 / 23
今回は後篇ですね


第11話

『じゃあな……俺』

 

 明日香の影は、太刀を明日香に向かって振り下ろした。

 そのまま太刀によって、明日香が両断されそうになったが

 

「イザナギ!」

 

「ジライヤ!」

 

 悠と陽介がイザナギとジライヤを召喚し、明日香を太刀から護ってくれた。

 だが明日香の影の力は強く、徐々に押され始めた。

 

『邪魔を……するなぁ!!』

 

 明日香の影の気合を纏った風圧で、イザナギとジライヤが吹き飛ばされる。

 

「クソ!これでも喰らえ!」

 

『ガル』

 

 陽介はジライヤにガルを発動させ、風により明日香の影を切り刻もうとした。

 だが…

 

『鬱陶しい風だ!』

 

 明日香の影は自身の周りで吹いているガルの風を太刀で斬り裂いてしまった。

 

「んな!そんなのアリかよ!?」

 

 陽介はいとも簡単にガルが防がれてしまった事に、愕然とする。

 ならばと今度は悠が

 

「イザナギ!」

 

『ジオ』

 

 悠がイザナギのジオを明日香の影に放った。

 ジオは明日香の影に直撃した。これは効いただろうと悠と陽介は思った。

 

『こんな電撃、効かないな!!』

 

 明日香の影が軽く手を振るうと、電撃がいとも簡単に消え去ってしまった。

 明日香の影は今のところ、ダメージと言うダメージが入っていなかった。

 

「マジかよ……全然効いてねぇ」

 

「クッ……!」

 

 陽介は青い顔となり、悠は苦虫を噛み潰したような顔となる。

 悠は悟った。今まで戦ってきた陽介に千枝の影、そしてさっきまで戦ってきた雪子の影より厄介で強いという事を……

 明日香の影は太刀で中段の構えをして

 

『来ないのか?だったら……こちらから行くぞ!』

 

 一気に踏み込み、イザナギとジライヤの間合いへと入った。

 此れは躱せない…!そう思った悠と陽介はイザナギとジライヤに防御をさせた。

 

『ハァッ!』

 

 明日香の影の見えない程の太刀の斬撃がガードしているイザナギとジライヤに直撃する。

 

「イッツ~!防御してるはずなのに、なんて力だ!」

 

 陽介はジライヤに伝わってきたダメージで腕をブンブンと振るった。

 悠もダメージに耐えていたが、このままでは負けてしまう。

 

「花村!鳴上君!アタシも」

 

 千枝もトモエを出そうとしたが、陽介が制した。

 

「里中、お前は天城と一緒に下がれ!正直言って俺と悠でアイツを止められるかも分からねぇ。もしもの時は天城を連れて逃げろ!」

 

「でもッそれじゃあ……!」

 

 千枝は納得がいかずに首を横に振った。だが雪子を護りながら明日香の影と戦うのは無理がある。

 現に2対1なのに悠と陽介は押されているのだ。

 先程からイザナギの矛による斬撃、ジライヤの手裏剣の攻撃が、太刀にいとも簡単に防がれているのだ。

 

「クソ!里中の影みたいな長い髪があるわけでもないのに……!」

 

「天城の影のような鳥かごや炎があるわけでもない。武器は太刀だけ……なのに強い!」

 

 陽介や悠の言う通り、明日香の影は武器は構えている太刀と、もう一つ腰に差している脇差だけだ。

 武器はいたってシンプルなのに強い。それは明日香の影が普通に強いと言う訳だ。

 明日香は剣道をやっているから、それが明日香の影に影響を及ぼしているのであろう。

 

『ハァッ!!』

 

『木っ端微塵斬』

 

 明日香の影が太刀の振り回す斬撃で、イザナギとジライヤを切り刻む。

 陽介と悠は悲痛な声を上げて膝をついた。スキルが効かず尚且つ相手の方が強い。こんな相手に勝てるのだろうか……そう一瞬悠と陽介が思ってしまった。

 だが、それがいけなかった。

 

「クッソ、舐めやがって……!」

 

 陽介は痛む体に鞭打って立ち上がったが、明日香の影を見て固まってしまった。

 そして次の瞬間から顔から脂汗を吹き出し、呼吸は荒くなり後退りを始めた。

 

「如何した陽介!?」

 

 悠は陽介に近づき、体を支えたが体が震えていた。

 悠も明日香の影を見たが、明日香の影を見た瞬間悠も固まってしまった。

 明日香の影が二回りも大きく見えているのだ。そして影に纏わりついている邪気の様な気。

 それを見た瞬間、悠は陽介と一緒に震えが止まらなくなってしまった。

 此れは……まさしく恐怖、2人は恐怖により動けなくなってしまった。

 恐怖で戦意が途切れたのか、ペルソナは元のカードに戻ってしまった。

 もう一度ペルソナを出そうとしたが、恐怖で動けないでいた。

 

『如何した?もう終わりなのか?だったら……トドメと行くか』

 

 動けなくなった2人を見て、明日香の影はトドメと太刀を上段へと構えた。まるで斬首をする処刑人の如く。

 2人がやられる。そう思った千枝はトモエを召喚した。友人を置いて逃げるなんて考えは、千枝には無かった。

 太刀が振り下ろされる瞬間、トモエが両刃の薙刀で太刀を防いだ。

 太刀と薙刀がぶつかり合い、火花が飛び散る。

 

『千枝ッ……!』

 

 明日香の影はトモエに太刀を防がれ、少々驚いていた。

 トモエを操っている千枝は俯きながら、アタシ……と小さく呟いていた。

 

「アタシ、今まで明日香の事知ってるつもりで知らなかった。それが明日香を傷つけていたのかもしれない。ごめんなさい……だからアタシが明日香の事を受け止めてあげるから!」

 

『そうかい千枝、だったら受け止めてくれよ。俺の……千枝に対する気持ちを!!』

 

 明日香の影は腰に差した小太刀を抜き、二刀流となる。そして一気にトモエの間合いへと入った。

 

「ハァァァッ!!」

 

『ウオォォォォォォッ!!』

 

 千枝と明日香の影の叫び声と一緒に、斬撃がぶつかり合う。

 太刀と小太刀の二刀流による斬撃を、両刃の薙刀で防ぎ、両刃の薙刀の薙ぎ払い攻撃を太刀と小太刀で防いだ。

 時折トモエが千枝の足技を模した蹴りを放つ。が、明日香の影はトモエの足を掴むと今度はトモエに足技を喰らわした。

 明日香は剣道の他に空手をかじっていた事もあり、千枝の修行の時に足技を明日香が教えていたのだ。

 互いに攻守互角の攻防が繰り広げられ、引く事は無かった。

 

「あれ……俺ら何してたんだっけ?」

 

「さっきまで、何かに怖がっていたような…」

 

 悠と陽介は恐怖状態から元に戻り、正常に戻った。そして千枝と明日香の影が戦っているのを見る。

 

「おッおい里中!お前何やってんだよ!?お前は天城の所にいろって!」

 

 陽介は千枝を下がらせようとしたが、千枝は首を横に振りながら

 

「悪い花村、明日香の影とはアタシ一人で戦わせて」

 

「はぁッ!?何言ってんだよ里中!無茶だって!」

 

 陽介は無謀だと千枝にそう言った。2対1で苦戦を強いられていたのを、一人で戦うと言っているのだ。

 

「分かってる。けどアタシが止めなくちゃいけないんだ……明日香が色々と閉じ込めていたのも、アタシにも責任があると思うから」

 

「けどよ!」

 

 陽介はまだ何かを言おうとしたが、悠に手で制止られてしまった。

 そして悠は黙って首を横に振り、千枝の方に顔を向けた。

 

「里中、本当に一人で大丈夫なのか?」

 

 悠が一人でも大丈夫かと尋ねると、まっかせてよ!と千枝はサムズアップしながら

 

「身勝手な言い分かもしれないけど、明日香の影を止めるのはアタシの役目だと思ってるから、絶対勝って見せる」

 

「そうか……絶対勝てよ」

 

 そう言って負けるなよと悠もサムズアップで返した。

 短い遣り取りであったが、千枝はトモエを再度明日香の影に向かわせた。

 

「おッおい悠!里中一人で大丈夫なのかよ!?」

 

「今は里中を信じよう。それよりも……今は天城や明日香の方を優先しよう」

 

 そしてその明日香はと言うと、膝から崩れ落ちて床に手を置き、項垂れていた。

 近くではクマが明日香を励まして、これ以上明日香の心が折れない様に支えてあげている。

 

「あれが俺の中にいたのか……俺の本心、俺が本当に望んでいた事……」

 

「アスカ危ないクマよ!早くセンセイが居るところに行くクマ!」

 

 明日香はトモエと戦っている自分の影を呆然と眺め続け、クマは明日香を悠たちの元へ連れて行こうとした。

 明日香の影はトモエと戦いながらも、自身が隠していた本音を話し始めた。

 

『父さんが刑事だったから、人一倍正義感が強いと自負していた。どんな時でも、間違っている事は正してきたつもりだ』

 

『人に対する嫌がらせに虐め。人様が迷惑するようなピンポンダッシュ……悪い事してる奴がいたら、何が何でも止めていた。助けてあげた子達には正義の味方、なんて呼ばれていた事もあった』

 

 一度下がり、太刀と脇差で飛ぶ斬撃を放つ。トモエは薙刀で飛ぶ斬撃を弾く。

 弾かれた斬撃は、部屋の柱に直撃し柱は砕け散る。

 

『女の子達には正義の味方として慕われ、先生や大人たちには真面目でしっかり者として褒められた……だが、同性の奴等には俺のやっている事が、疎ましく思われていた。遊ぼうと誘っても仲間外れにされる事が多かった』

 

『女にちやほやされて調子に乗ってる……先生はアイツを贔屓してるなんてことはしょっちゅう言われた。他の男子には妬まれて……気が付けば一人でいる事が多くなっていた』

 

 明日香自身の過去を話しながら、今度は太刀と脇差を鞘に納め、太刀で居合切りをする。それをトモエは足で防御する。

 

『慕われて、褒められる事があっても、俺は……何時も一人。そんな中……千枝だけが俺と一緒にいてくれた。一緒にいてくれて、俺の事を好きだと言ってくれた……それだけで俺は救われた!』

 

 また2刀流となり連続攻撃をするが、トモエにいとも簡単に躱されてしまう。

 

『今まで人のためにしていた事は、全部千枝に俺を見てもらうため!俺を見てくれるための偽りの正義の味方でしかないんだ!』

 

 太刀と脇差を振り回すが先程の様な剣術ではなく、ただ闇雲に振り回しているだけだ。

 だが太刀と脇差を振り回すだけで、城の床や柱が切り刻まれ、剣圧で弾丸のように吹き飛ばされていった。

 トモエは瓦礫の弾丸から千枝を護る為に、飛んでくる瓦礫を薙刀で切っていく。

 悠は雪子を陽介は明日香とクマを、イザナギとジライヤを召喚し瓦礫に当たらない様に防ぐ。

 

『そして!千枝の前に雪子が、陽介が、悠が……終いにはペルソナなんて力が……千枝が俺の前から居なくなってしまう!そんなのはイヤダ!俺から千枝を取らないでくれ!!』

 

 遂には癇癪を起した子供のように、見境もなく大暴れをしだした。太刀と脇差が扇風機の羽のように高速に動き、斬れる竜巻が発生した。

 柱や壁がどんどん崩れ去り、城の原型が段々と無くなっていった。

 明日香は暴れている自分の影を見て、あぁそういう事か……と呟きながら

 

「俺は……千枝を独占したいって言う気持ちがあったんだな。全く……ガキじゃないんだから」

 

 明日香は乾いた笑みを浮かべていた。

 この心境はまさしく、好きな子が他の子と話しているのを見て、嫌な気持ちになると云う小学生特有の恋愛感情なのだろう。

 あぁ何という幼い考えだろうか……こんな自分に千枝は振り向いてくれる事なんかない。

 明日香がそう結論付けていると

 

「勝手に決めつけないでよ馬鹿!」

 

『ブフ』

 

 千枝は叫びながら、トモエにブフを発動させて明日香の影の足元を凍らせ、動きを封じた。

 

「ちッ千枝?」

 

 明日香の声に千枝は何も言わずに黙って近づいた。

 何も言わずに明日香に近づいた千枝は、黙って明日香の頭を叩いた。

 

「イテッ!何すんだよ!?」

 

「何すんだじゃないわよ!自分の気持ちを抑え込んで!」

 

「何時もアタシに護ってやるって言ってるけど、あれは嘘だったの?そうじゃないでしょ!?」

 

「だったら護るなんて回りくどい事言わないで……素直に好きだって言いなさいよ!!!」

 

 千枝は感情の高ぶりで思わず言ってしまい、ハッとしながら明日香の方を見た。

 明日香は千枝の叫びに思わず呆然としてしまった。

 千枝も勢いで言ってしまい、恥ずかしくなり顔を明後日の方向に向けててしまった。

 

「千枝……俺は……」

 

 明日香は何を言えばいいのか口ごもっていると

 

「おいおい明日香、何ビビってんだよ」

 

 陽介が

 

「好きな子が告白したんだ。男だったらちゃんと返事をしなきゃだろ?」

 

 悠が

 

「アスカは男クマ!だったら男らしく、バシッと決めるクマよ!」

 

 クマが明日香にエールを送った。

 

「陽介……悠……クマ……あぁ、そうだよな」

 

 明日香はゆっくりと立ち上がり、先程の呆けた表情から覇気の戻った表情へと変わっていた。

 

「あぁそうさ、俺は千枝の事を……ずっと前から好きだったよこんチクショウ!!!」

 

 明日香は今迄ため込んでいた気持ちを吐き出した。

 明日香が本音をぶちまけて、明日香の影は苦しそうに呻きながら、最後のあがきと暴れ出し氷の拘束から抜け出した。

 

『アァッ!千枝!千枝ェェェェェェ!!』

 

 明日香の影は矢鱈目鱈に太刀を振り回し始めた。あともう少しだ。

 

「千枝、陽介、悠には頼みがある。俺の影を一思いに倒してくれ」

 

 明日香の頼みに3人は黙って頷いた。

 

「行くぞ!」

 

「「おおッ!!」」

 

 悠の掛け声に、陽介と千枝は応じた。

 

「イザナギ!」

 

「ジライヤ!」

 

「トモエ!」

 

 

 3人は自身のペルソナの今の最大の一撃を、明日香の影に喰らわせた。

 これにはひとたまりもなく、明日香の影は断末魔を上げながら、影を爆散させた。

 そして鎧武者の影から元の人の姿をした明日香の影が出て来た。

 明日香の影がゆっくりと倒れそうなのを、明日香は支えあげながら

 

「お前は、俺だ」

 

 自身の影を認めた。

 明日香の影は満足そうに静かに頷くと、人の姿が消えて新しい姿となった。

 新しい姿は下半身は鎧具足であり、上半身は白い鎧武者の甲冑で身を包んでいる。

 仮面は日曜の朝のバイク乗りのヒーローを思い浮かべる。

 此れが明日香のペルソナ『ヨシナカ』である。

 

「これが俺のペルソナ……」

 

 明日香はヨシナカを見上げながら呟いていると、ヨシナカはペルソナのカードとなってしまった。

 明日香はカードが自身の体の中へ入っていくのを感じると、仰向けに倒れてしまった。

 

「「「明日香!」」」

 

「明日香君!」

 

「アスカ~!」

 

 悠達は倒れた明日香に駆け付けた。

 倒れた明日香は辛そうではあったが、清々しいほどの笑顔を浮かべていた。

 

「大丈夫か?」

 

 悠がそう訪ねると、明日香はあぁと頷きながら

 

「正直言うと、スッゲーしんどい。けど……今は清々しい気分だ」

 

 そう感想を述べた。悠が手を伸ばしてきたので、明日香は悠の手を取り立ち上がるのを手伝ってもらった。

 

「あッあの明日香君、私その、千枝の事を考えて無くて……ごめんなさい」

 

 雪子は明日香の影が言っていた事を気にして謝ったが、明日香は気にしていないと首を横に振った。

 

「こっちだって、雪子に危害を加えようとしたんだ。謝るのだったらこっちの方だ」

 

 と明日香が逆に謝った。このままだと謝りが平行線になるだろうという事だ。

 しかし何はともあれ、雪子を救出出来て明日香もペルソナの力を手に入れる事が出来た。もうこの城にこれ以上いる必要もない。

 

「さてと、んじゃま帰りますか」

 

 陽介の提案に誰も反対はせず、明日香達は廃墟同然となった雪子姫の城を、後にしたのであった。

 

 




今回で漸く明日香のペルソナが出てきました。
明日香の初期ペルソナは「ヨシナカ」で元ネタは木曽義仲となっております。
千枝のペルソナがトモエつまり巴御前なら、明日香は木曽義仲と試行錯誤で決まりました。
ヨシナカはと言うか今更ですが、明日香のイメージカラーは白と自分では思っているので、ヨシナカも白を強調するようなペルソナとなっています。
ヨシナカのペルソナイメージは仮面ライダー鎧武の仮面ライダー斬月となっています
分からない方は画像検索を行ってください。

次回は雪子姫の城の後日談となっています。
ではまた次回

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。