それではどうぞ
4月18日(月) 放課後
放課後、学校が終わったらすぐさまジュネスに向かい、すぐさま城の攻略へ向かった。
「トモエ!」
千枝はペルソナのカードを足で蹴りあげてトモエを召喚する。
トモエは千枝のペルソナらしい戦い方で、蹴り技でシャドウを蹴り飛ばしたり両刃の薙刀で斬り裂いていた。
また千枝の足技でもシャドウを倒してしまうなど、無双状態であった。
「千枝ちゃん無双クマ…」
「里中、張り切ってるな」
「あぁ俺らの出る幕なしって感じ?」
悠と陽介は自分らのペルソナが出る幕も無く、ただ見てる事しか出来なかった。
シャドウを1人で倒してしまった千枝は振り返りながら
「何してんの!?さっさと先に行くよ!」
そう言って先に行ってしまった千枝。このままだとまたもや先に行ってしまいそうだったから急いで明日香達も千枝を追いかけた。
「千枝、無茶しなきゃいいけど…」
明日香はどんどん先に行ってしまう千枝を心配そうに眺めていた。
幾らペルソナの力が手に入ったからと言って昨日の今日の事だ。あまり無理しないで欲しいと明日香は内心そう思っていた。
「アスカ大丈夫クマか?」
明日香と一緒に走っていたクマが明日香に心配そうな表情を向けていた。
「大丈夫って何がだい?」
明日香が走りながら聞いてみるとクマは
「アスカさっきから怒ったような、悲しそうな顔をしてるクマ。何かあったんじゃないかって心配クマ」
クマにそう言われ、明日香は表情を固まらせた。そんな表情をしていたのかと顔を押さえた。
確かに今の明日香の心の中はモヤモヤとどろどろでグチャグチャしており、そんな感情で一杯であった。此処のお城に来てからその感情があふれ出そうであった。
恐らく怒っているような悲しんでいるような顔はそのせいであろう。
「大丈夫だよクマ。心配かけてゴメンな」
「うん、大丈夫ならいいクマ。アスカが悲しいとクマも悲しいクマ」
気を使ってくれているクマにありがとうとお礼を言う明日香。そうだ今は、雪子を救出するまで気を抜いてはいけないのであった。
―――例え悠たちが羨ましいと思っていても……―――
ある程度城の中を登って行ったら広い場所へ出た。
更に上へ登ろうとしたが、急に真っ暗になってしまった。
「まっクマ闇クマァ!」
「いやクマ、それを言うなら真っ暗闇ね」
明日香がクマの間違いを指摘していると、急にドラムロールとスポットライトが照らし始めた。
そしてドラムロールが終わったのと同時にスポットライトがドレス姿の雪子を照らし出した。
「雪子!」
千枝は思わず声を出してしまった。
「いや違うこれは…」
悠が否定した。目の前にいるのは雪子の影である。
雪子の影が千枝たちの姿を発見すると
『あらぁサプライズゲスト?うっふふぅ~盛り上がってまいりました!』
オーバーリアクションを取り始めた。まるでバラエティ番組に出ているアイドルのように
『と言う訳で、次はこのコーナー!』
と雪子の影が言った瞬間、ドンと空中に『やらせナシ!雪子姫 白馬の王子様探し』というバラエティ番組にありがちなタイトルロゴが浮かび上がった。
「今文字浮かんだよな?」
「やらせナシって何クマか?」
陽介とクマが今出たタイトルロゴについて話していると、千枝が目の前の雪子の影にアンタはだれ?と強気で聞いた。
雪子の影はフフフと笑って
『何言ってるの?私は雪子、雪子は私』
「違う!アンタ…本物の雪子は何処!?」
千枝が本物の雪子の居場所を問いても雪子の影は笑っているだけで答えようともしない。
『それじゃ、再突撃いってきま~す!王子様、首を洗って待ってろよ!』
雪子の影はまるで台本通りのようなセリフを言って、ドレス姿で奥へと走って行った。
「!待って!」
千枝が追いかけようとした瞬間、部屋の電気が一斉に点いた。明かりが点いたのと同時に、球体シャドウと鳥の形をしたシャドウが行く手を阻んだ。
「このッ!邪魔すんな!」
千枝は立ちはだかるシャドウ達に叫んだ。
「「「ペルソナ!!」」」
悠・陽介・千枝が各々のペルソナを出し、シャドウの軍団と戦い始めた。
数分後にはシャドウは全滅したのだが…
「ハァッハァッハァッ!」
明日香が肩で息をしながら、模擬刀を杖代わりにしていた。
無理もない。明日香は悠や千枝のようなペルソナの力など持っておらず、自身の力だけで戦っているのだ。
「ねッねぇ明日香、大丈夫?」
千枝は見るからにキツそうな明日香に大丈夫かと聞いてみた。
「問題ないって千枝、少し疲れただけだ」
明日香はそう言って平気だと言い切った。
「でもよ明日香、お前だけペルソナ持ってないだろ?これ以上俺らと一緒に戦うのはちょっときついんじゃ」
陽介が無理をするなよと言った瞬間
「だから大丈夫だって言ってるだろ!!」
明日香は大声で叫んでしまった。余りの大声に千枝やクマに陽介は体をビクッとしてしまった。
ハッとした明日香は、すまないと皆に謝りながら、刀を鞘に戻した。
「取りあえず今は俺の事よりも雪子の事が最優先だ。ぐずぐずしてないで早く行こう」
「明日香の言う通りだ。今は先を急ごう」
悠が先に行こうと言い、明日香はすまないと悠に言った。とりあえず今は先に進む方が大事だ。
「しっかし、さっきの天城は間違いなく本物じゃ無かったな」
「あれもヨースケや千枝ちゃんと同じように、心の中で押し込めていた感情が噴き出したクマね」
だよなぁと陽介は頷いた。
「マヨナカテレビを見てた時から可笑しいと思ってたんだ。あの天城が逆ナンなんて、言うはずないもんな」
「逆ナン?逆ナンってなに?」
「逆ナンって言うのは、まぁ簡単に言えば女の人が男の人を遊びに誘う事だよ」
と明日香がクマに簡単に逆ナンの事を教えてあげた。ホウホウとクマは何度も頷いて
「じゃあクマのこのプリチーな姿に、女の子はメロメロでクマは逆ナンイッパイされるクマね」
「いやそれはない」
クマが胸を張って自信満々に言うが、陽介に無いと言われ膝からガックリと崩れ落ちた。
しかし…と明日香はこのお城やドレス姿の雪子の影、そして白馬の王子様。これらが雪子にどのように関係があるのか考えた。
お城に捕らわれの御姫様、それを助ける白馬の王子様…
「若しかして、雪子は天城屋旅館での手伝いとか、女将修行がもう嫌になっちゃったんじゃないか?」
明日香の推理に千枝は如何いう事明日香?とその推理の理由を聞いてみる。
「雪子って毎日毎日、天城屋旅館の手伝いで忙しいだろ?千枝も何回か雪子を遊びに誘ったけど、やんわりと断られたのが何回かあっただろ?」
「それは…うん確かにあった」
「それに極めつけに、山野アナの事件で女将さんが倒れて女将の代役だ。恐らく今まで以上のハードスケジュールだったはずだ。疲労や精神的な疲れでストレスが溜まってたんだろうな」
旅館の仕事なんて朝から晩まで仕事で休む暇もあまりないのだろう。女子高生の雪子にとっては自由の無い生活であったのだろう。
それが嫌になってしまった。
「言わばこのお城は天城屋旅館そのもの、そして雪子はそのお城に捕らわれ身の御姫様…そしてそんなお城から外に連れ出してくれる白馬の王子様を求めている」
「でもよ?だったらさ、天城にナンパをしてる男だったら誰でもいいんじゃ?」
陽介の言った事にそれはないなと首を横に振る明日香
「アイツらの目的は
「うわ…想像しちゃった…」
千枝は雪子がそう言う駄目な男に着いて行ってしまった事を想像してしまい、苦虫を噛み潰したような表情となる。
「雪子は待っているんだ。自分の心労を理解してくれる、そんな白馬の王子様を…一度は誰だって嫌になるはずさ。人生にレールが敷かれている事を…」
話は此処までだと明日香は話を切り上げて、上の階を目指す事にした。
遂に城の最上階に辿り着いた一行、重々しいドアを開けた瞬間、雪子とドレス姿の雪子の影が其処には居た。
「雪子!」
千枝は雪子の姿を見て、雪子の名を叫んだ。
「千枝!」
雪子も千枝や明日香達の姿を見て叫んだ。
『あらあらあらぁ、王子様が4人もぉ。雪子困っちゃう~』
雪子の影は同じように大袈裟な芝居掛かった口調でそう言った。
「なんなんだあの天城の影、すっげぇテンション高くねぇか?」
「あぁ今迄と違って別人みたいだ」
陽介と悠はいつも見ていた雪子とはテンションが真反対であった為に戸惑っている状態であった。
『ねぇ~雪子どっかに行っちゃいたいんだぁ~誰も知らないずうっと遠くに。王子様なら連れてってくれるよねぇ。ねぇ早くぅ~』
雪子の影は絡みついてくるような甘ったるい声で、誘うように言った。
「ムホホホ~これがさっき言ってた逆ナンクマねぇ~クマなんかドキドキしちゃう!」
クマは生まれて初めての逆ナンなのか興奮気味である。
「4人の王子様って…若しかしてアタシも入ってるの?」
千枝は自分も王子様と見られているのかと思うと、少し引いてしまう
「4人目はクマだクマ!」
クマが自信満々にそう言うが、明日香がクマの頭を優しく撫でて
「ごめんクマ、恐らくそれは無いと思う」
と明日香がそう言うと、クマはショックを受けていた。
『千枝、ウフフそうよ、私の王子様。何時だって私をリードしてくれる、千枝は強くて素敵な王子様…だった』
「だった?」
千枝は何故過去形なのか分からなかった。千枝はゆっくりと雪子に近づいて行った。
『でももういらない』
雪子の影が言った次の瞬間、千枝の頭上にシャンデリアが落ちてきた。
「!危ない、千枝!!」
明日香は千枝に駆け付けそのまま千枝を突き飛ばし、シャンデリアの落下から護った。しかし…
「しまった、千枝を突き飛ばした後の事を考えてなかった」
終わった、自分はシャンデリアに潰されて死ぬのか…明日香は逆に冷静になっていた。
千枝の悲鳴が何処か小さく聞こえ、明日香は目を瞑った次の瞬間
「アラミタマ!」
悠が叫んだ瞬間、紅い怒ったような御霊のペルソナが明日香をシャンデリアから護り、吹き飛ばした。これで3個のペルソナを悠は所持していた。
悠がペルソナアラミタマで明日香を護ったが、ダメージが大きかったのか膝を着いてしまう。
「悠!」
「鳴上君!!」
明日香と千枝が悠の元へ駆け付け、大丈夫かと聞く。心配ないと言ったが悠は少し苦しそうだ。
『結局は千枝でも駄目だった…千枝じゃ私をここから連れ出せない救ってくれない。明日香君なんてもっと駄目…明日香君は私と友達だって言っても、何処か余所余所しい所が有った。それに千枝と私じゃ千枝の事しか見えてなかった』
「…それはすまないと思ってる。自分にレールが敷かれているのが辛いと思う気持ちも分かる。けど雪子、レールが敷かれていることが何も辛い事だけじゃ…」
『黙れ!!』
明日香が雪子の影を説得しようとしたが、雪子の影の叫びに掻き消されてしまった。
それと同時に先程吹き飛ばしたシャンデリアが戻ってきた。
明日香達はシャンデリアを避け、陽介はジライヤでシャンデリアを防いだが、壁に叩きつけられてしまった。
シャンデリアを防いだジライヤの腹にダメージが来たのか、陽介は腹を押さえ蹲る。
「一旦戻せ!」
悠は陽介にジライヤをカードに戻すよう言ったが
「駄目だ…この距離じゃ戻せない」
ジライヤと距離が離れすぎたのか、カードに戻せないと訴える陽介。
仕方ないと、悠はアラミタマをイザナギにチェンジしてジライヤを助け出す。
「こんな事…」
雪子は自分の友人が傷付いているのを見ていられなかった。
『老舗旅館、女将修行…そんな束縛まっぴらなのよ!!』
雪子の影は今迄ため込んだストレスを発散するかのように叫んだ。自由の無い生活なんて過ごしたくないと
「この!」
千枝はトモエを召喚し雪子を助け出そうとするが、レッドカーペットが突如動きだしトモエ、千枝に何故かクマまでもが身動きを封じられてしまった。
「千枝!」
雪子は苦しそうにもがいている千枝の元へ駆け付けようとするが
『たまたまここに生まれただけなのに、生き方を死ぬまで全部決められている。あぁイヤだイヤ』
たまたまレッドカーペットから逃れた悠、陽介に明日香は助け出そうとするが、雪子の影のイヤァ!という絶叫とシャンデリアのろうそくが連動するかのように、ろうそくの火が大きくなりまるで火柱となった。
そして溶けたロウが3人の足にくっつき、瞬時に固まってしまいこれまた身動きを封じられてしまった。
「そんな事無い…」
雪子は自身の影の言った事を否定した。
『どっか遠くへ行きたい。此処じゃない何処かへ、誰かに連れ出して欲しいの一人じゃ出て行けない』
「やめて…もうやめて…」
『希望も無い、出て行く勇気も無い。だから私はずっと待ってるの。いつか王子様が連れ出してくれるって』
『此処じゃない何処かへ、連れて行ってくれるのを!』
「お願いもうやめて…」
雪子は耳を塞ぎたくなった。だが次に雪子の影が言った事に雪子は身を凍らせた。
『老舗の伝統?町の誇り?…そんなのクソくらえだわ!!』
「なッなんてことを…」
雪子をは目を見開いた。幾らなんでも言い過ぎだ。暮らしていた旅館やよくしてくれた町の皆へそんな事を言うのはあんまりだ。
『それが本音、そうよね?私』
「ち…がう。違うあんたなんか」
「雪子!」
「よせ言うんじゃない!」
千枝と悠が言うなと叫ぶ。だがもう遅い。
「あんたなんか、私じゃない!」
雪子も自身の影を否定してしまった。
うふふと雪子の影は笑みを浮かべていた。雪子の影は力が高まっていく。
『そんなにしたら私…わたしぃぃぃぃッ!!』
雪子の影は影に包まれて空へと登って行った。
そして降りてきた時には鳥かごの中に、赤い鳥のような姿をした雪子の影が現れた。
『我は影…真なる我』
雪子の影は赤い羽を広げてそう言った。
「あ…あぁ」
雪子はもう一人の自分が赤い人面の鳥となったのを見て、後ずさりをした。
が、雪子の足元に空の鳥かごが現れ、鳥かごが巨大化し雪子を捕らえてしまった。
「雪子!」
「千枝ェ!」
千枝と雪子は手を伸ばしたが、届かずに雪子を捕らえた鳥かごは天井へと持って行かれた。
「雪子!こんのどけえ!!」
千枝はトモエにレッドカーペットを斬ってもらい、漸く自由となった。
「待ってて雪子、アタシが全部受け止めてあげる!」
『あら嬉しい。だったら私もガッツリ本気でぶつかってあげる!』
雪子の影は羽を羽ばたかせると、羽根が抜け落ちた。その羽根が燃えて、連続して大きな爆発となった。
「きゃッ!」
「あっちい!もっと優しくしてくれよ!」
「燃えるクマ燃えるクマ!!」
何とか火に焼かれる事は無かったが、クマに火がついてしまい火を消そうと動きまくった。
火によってロウが脆くなり、何とか動ける様になった。
「行くぞ陽介!」
「おう!やっちまえジライヤ!」
『ガル』
ジライヤがガルを使った瞬間、雪子の影はかごに戻ってしまいガルを防いでしまった。
ならば接近戦とイザナギが大剣を振るったが、かごはビクともしなかった。
「クッ固い!」
「ビクともしねぇじゃねえか!」
「だったらこれは如何!?トモエ!」
『ブフ』
トモエは雪子の影を凍らせる氷のスキル、ブフを使った。雪子の影は火の属性であり、氷が有効だったのか怯んだ。
「よっしゃ今の内に!」
「イザナギ!」
イザナギとジライヤが怯んだ雪子の影に総攻撃を仕掛けた。
攻撃は脅威だが、耐久力はそこまで無いのか直ぐにボロボロになってしまった。あと少しで倒せると思いきや
『くッバカにして…王子様!王子様!!私のために来て下さい!!』
『召喚』
雪子の影は何かを召喚し、ハッキリ言って白馬の王子様には見えないシャドウが現れた。
「なんだアイツ、しょっべえ奴だな」
「油断するな陽介、あのシャドウはきっと…」
悠は現れたシャドウを警戒していた。そしてその警戒は現実のものとなる。
『ディアラマ』
白馬の王子がスキルを使った瞬間、雪子の影はボロボロだったのが元通りの元気になってしまった。
「んな!そんなのアリかよ!?」
「あのシャドウ、厄介すぎる」
「だったら…」
明日香は模擬刀を構えて、白馬の王子に突貫して行った。
「明日香!お前何やってるんだよ!?」
「俺があのふざけたシャドウを引き付けておく!だからお前らは雪子の影を!」
明日香は白馬の王子に模擬刀を振り下ろす。白馬の王子も持っているサーベルで防ぎ、フェンシングのようにサーベルを突いてきた。
剣を持った敵なら負ける気はしない明日香、確かに自分はペルソナなんて力は持ち合わせていないが、足止めぐらいなら出来る。
「はぁッ!!」
明日香は白馬の王子のサーベルを弾くと、思い切り蹴飛ばして転ばせた。
白馬の王子は大してダメージが入ってはいなかったが、明日香の気迫に恐れをなしたのか逃走してしまった。
『王子様!王子様!』
『召喚』
雪子の影は再度白馬の王子を召喚しようとしたが、何も出ては来なかった。
『なんで…何で来てくれないの…』
雪子の影は白馬の王子が来てくれない事に少なからず動揺していた。
その隙を逃さず、イザナギとジライヤが雪子の影にダメージを与えていく。
『ケッやっぱ見込み違いだったわ…』
雪子の影が白馬の王子に対してそう悪態をついた。
「雪子!」
悠と陽介が戦っている間に、千枝が雪子を助け出そうとするが、雪子の影が入っているかごのシャンデリアが、トモエを跳ね飛ばす。
「千枝!」
トモエと一緒に飛ばされた千枝に悲鳴を上げる雪子。
『千枝なら、アタシを助けてくれると思った。だけど駄目だった!千枝は私の王子様じゃなかった!ずっと…ずっと』
雪子の影が力を溜めるのと同時に、シャンデリアのろうそくが激しく燃え上がる。
「やっばい!里中!」
「千枝、逃げろ!!」
明日香は千枝の元へ駆けよりたかったが、白馬の王子との戦いで知らず知らずのうちに体力が減っていたのだ。こんな時に…と自分自身を叱咤する明日香。このままでは間に合わない。
「来い!」
悠はイザナギを別のペルソナにチェンジする。
『待ってたのにぃ!!』
雪子の影の感情が爆発し、ろうそくの炎が巨大な炎の渦となり千枝に迫ってくる。
このまま千枝が焼き殺されてしまうのではと思われたが、千枝の前に千枝の影と戦ったペルソナ、ジャックランタンが現れた。
ジャックランタンはランタンを前にかざすと、炎の渦がランタンに吸い込まれていった。
「雪子…」
千枝は雪子の心の叫びを聞いて、自身は雪子の友達だったのに何も知らなかったと後悔した。
だがしかし
「里中は王子様じゃないかもしれない。だけどそれがなんだ!?」
悠が雪子の影の叫びを否定した。
『何ですって…!』
「里中は天城を助けたくてここまで来た。自分を本気で思ってくれるのって、凄い事じゃないのか?」
悠は千枝が雪子の事をどんなに大切に思っているのか伝えようとした。しかし
『私は…わたしはぁぁぁぁぁッ!!』
元々暴走している雪子の影がそれだけで落ち着くはずもなく、更に感情を爆発して炎と言うよりも爆発になっていた。
部屋が殆ど火に呑まれており、クマは燃えない様にと逃げ惑っていた。
ジャックランタンも千枝に炎が当たらない様にと炎をランタンで吸い込んでいたが、不意を突かれて炎に吹きとばされてしまった。
「これじゃあ近づけねぇよ!」
陽介は一歩も前に出れなくて焦りを感じていた。
「雪子…」
千枝はゆっくりと雪子の元へ歩いて行った。
「千枝…逃げて…」
雪子はこれ以上千枝に傷ついてほしくなく、逃げてと言った。しかし千枝は逃げないよと首を横に振りながらそう言った。
「アタシ、雪子に伝えなきゃいけない事があるから」
千枝は爆発にも怯まず、ゆっくりとそして力強く前へと進んで行った。
「アタシね、ずっと前から雪子が羨ましかった。雪子は何でも持ってて、アタシなんて全然で…だからそんな雪子がアタシを頼ってくれると思って嬉しかった」
千枝は今迄黙っていた気持ちを雪子に伝えた。自分は雪子に嫉妬していたと…
「雪子は私が護んなきゃいけないって、そう思っていたかった」
『そうよ!私は一人じゃ何にも出来ない!何もない!!』
雪子の影は羽ばたきながら炎を大きくした。雪子自身も自分には何もない。そう思い始めていた…
「そんな事無い!雪子は…雪子は本当は強いもの」
「外に出たい?だったらそんな鳥かごなんか自分で壊して、何処までも羽ばたいて行けるよ!」
「雪子なら…雪子だったら!」
遂に千枝は涙を流し始めた。
「そんな事無い…私は強くなんかない…」
雪子は前に地面に落ちている雛鳥を見つけた。そして少しの休みの間や学校の行と帰りに世話をしていた。
鳥に自分と一緒だと鳥かごの中でしか生きられないと言い聞かせていた。
だがある時鍵をかけ忘れて、鳥は鳥かごから逃げてしまった。鳥が鳥かごから飛び立ってしまい、悔しかった。
自分と同じだと思っていた小鳥が自分の意志で鳥かごから出て行ったのが悔しかったのだ。
鍵をかけ忘れたのは確かに雪子だった。しかし鳥は勇気を出して空へと飛び立って行ったのだ。鳥が出来たのに自分には出来ない。それを認めるのが嫌だった。
「私は強くなんかない…私は…最低…」
「勇気が無くて、人に頼って連れ出してもらおうと思って…」
「最低だって…ゲホッ!ケホッ!!」
千枝は煙を吸ってしまい咳き込んでしまった。
「いいよ!アタシだって雪子の思うようなアタシじゃない。最低な所だっていっぱいある…それでも!アタシは雪子のそばに居たい!」
そばに居たい。その気持ちは本物である。千枝は雪子に手を伸ばしながら
「大切だから…友達だから」
友達だから一緒にいたい…
『ヤメロ!ヤメロォォォォォォッ!!』
雪子の影は足掻いて喚き散らして炎をまき散らした。
「……私は何を怖がってたんだろ。怖がる必要なんてなかった。私には…」
雪子は鳥かごに力を入れ、そして自分の力で鳥かごを開いた。
「千枝!」
「雪子!!」
漸く千枝は雪子の手を掴むことが出来た。千枝は雪子を強く抱きしめた。
「千枝ありがとう…」
「ううん、雪子が戻ってきて嬉しい」
千枝と雪子は本当の意味で通じ合う事が出来たのだろう。
『嘘よ…ウソヨォォォォォォォォッ!!』
雪子の影はもがきながら空へと逃げようとした。
「様子がおかしいクマ!今なら倒せるクマ!」
「やるぞ相棒!」
「あぁ」
陽介の掛け声に悠は頷き、ジャックランタンで周りの炎を全て吸いこみながら雪子の影に突撃させた。
『何なのよ!離れなさいよ!』
雪子の影は羽ばたいて炎を出してジャックランタンを追い払おうとするが、ランタンに炎が吸い込まれて意味が無かった。
雪子の影がジャックランタンに気を取られている内に、ジライヤが雪子の影の背後に回り手裏剣を刺した。
「決めろ里中!」
「とんでけぇ!!」
千枝はトモエの強力な蹴り技で雪子の影を蹴り飛ばし、雪子の影は上へと飛ばされていった。
飛ばされながら雪子の影は炎に呑まれていき、遂には爆発してしまった。
爆発した雪子の影から、赤い羽根がヒラヒラと舞い落ちて行った。
千枝は落ちてきた一枚の羽根をギュッと握りしめながら
「ゴメンね雪子、アタシ自分の事しか頭に無かった。雪子の悩みを全然分かってあげられなかった。友達なのに…」
「私も千枝の事を見えてなかった。自分が逃げるばっかりで、だから貴女を生んでしまったのね」
雪子はドレス姿に戻った雪子の影にそう言った。
ゴメンねと雪子は雪子の影の手を取ってそう言った。
「認めてあげられなくて、逃げたい誰かに救ってもらいたい。そうね確かに私の気持ち」
雪子は優しく自分を抱きしめてあげた。
「貴方は私だね」
雪子は自身の影を認めた。うん…と雪子の影は満足そうに頷くと姿を変えた。
雪子の影は赤き女性のペルソナ『コノハナサクヤ』へと変わった。
「これが天城のペルソナか…」
陽介がコノハナサクヤを見上げながらそう言った。雪子らしい綺麗なペルソナだと
コノハナサクヤはカードに戻ると雪子の体の中へ入って行った。
そして雪子はフラフラと座り込んでしまった。
「雪子!」
千枝が座り込んでしまった雪子をゆっくりと立ち上がらせてあげた。
「少し疲れただけ。皆助けに来てくれたんだね」
「当たり前だろ?」
「俺達友達だし」
悠と陽介が友達を助けるのは当たり前だとそう言った。
「んで君を此処に放り込んだのは誰クマ?」
クマが雪子に行き成り犯人は誰だったのかを尋ねた。
「へ?あなた誰?ていうか何?」
「クマはクマクマ!」
クマは雪子に自己紹介をした。
「ごめんなさい、意味が分からない」
「お前は存在自体が意味不明だってーのちょっと黙ってろ」
「クマは差別反対クマ!」
陽介の呆れたような言い方にクマはムキーッと反論した。
「ねぇ犯人の事も気になるけど、早く外出ようよ。雪子も辛そうだし」
「そうだな。戻ろう」
千枝の提案に悠も賛成し、今日はもう戻る事にした。
「えぇクマを置いてっちゃうの!?」
クマは急に慌てだすが、陽介は呆れながら
「なに言ってんだよ、置いてくって元々はこっちに住んでるだろうが」
「そッそうだけど…」
急に1人になるのは寂しいとしょんぼりするクマだが、雪子がゴメンねクマさんと謝りながら
「また今度改めてお礼に来るから、それまでいい子に待っていてね」
「くックマァ~ユキちゃんは優しいクマねぇ~。クマ良い子で待ってるクマ!」
とクマも良い子で待っているとそう言った。今度こそ帰る事にした。
「…なんか少し蚊帳の外だったけど、まぁ雪子が無事だったからそれでいいか」
明日香はそんな事を呟きながら模擬刀を鞘に戻した。これで一応一件落着だな。そう思っていると……
『一件落着ぅ?何言ってんだよ、結局はまた俺一人が取り残されてるんじゃねぇかよ』
明日香ではない、もう一人の明日香の声が聞こえた。
明日香や悠達もハッとして今の声が何処から聞こえたのか辺りを見渡すと、あそこ!と千枝が指を差した。
千枝が指を差したのは女王の椅子に気怠そうに座っている。
『よう…俺』
もう一人の明日香、明日香の影が其処には居た。
次回は明日香の影戦になる予定です