かくして、私は裏ボスになりました   作:ツム太郎

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誰が、なんのため動くのか。


魔獣此処に在り

魔獣此処に在り

 

 

 

都市の一画にある廃教会、そこに住んでいる神はその異常に気付いた。

 

悪しき力、天を突き刺す禍つ力。

その根源が、都市のどこかで発生した。

彼女の頭でその正体が誰なのか、心当たりは一つだけだった。

 

(まさか、ベル君も同じ所に…!?)

 

たった一人のファミリアのため、愛しき彼のため、優しき神は動く。

 

 

 

 

 

巨大な塔の最上階で、神はその異変に気付いた。

 

自分が欲する輝き、歪な光を放つ宝石。

彼が何処にいるか、既に知っていた。

故に、その力を目にして笑みを浮かべる。

 

(やっぱりあの人は…アリスは私にこそ相応しい…!)

 

己の欲望のまま、美の神は立ち上がる。

 

 

 

 

 

鍛冶工房の部屋の中、神はその歪みに気付いた。

 

時空が曲がるかと錯覚するほどの、論外の波導。

どんな魔装備も劣るであろう、その陰惨さ。

まさか、と思う時間すら惜しかった。

 

(アイツが動いた…? チッ、何が起きてるのよ!?)

 

真相を確かめるべく、男装の神は剣を持つ。

 

 

 

 

 

巨大な像の建物の中、神はその衝撃に気付いた。

 

かつて挑んだ最邪のモンスター。

共に生きると決意した、優しき化け物。

覚えのある魔力に、意識せず笑う。

 

(解放したか…久方ぶりだッ! 今行くぞ友よォッ!!)

 

瞳を輝かせ、仮面の神は疾走する。

 

 

 

 

 

東洋風の建物の中、神はその邪気に気付いた。

 

かつて己が相対した数々の悪神。

そのどれよりも深く、広く、歪な闇。

混沌の底でも見ているのか、そう思ってしまうほどに黒い光。

 

(魔獣が…やはり倒さねばならないのか!?)

 

己の神剣を片手に、義心の神は決意を固める。

 

 

 

 

 

神と人が感じ取る。

 

現世の終焉を。

 

戦争の幕開けを。

 

そして嘆きを。

 

故に神は、ヒトは動く。

かの魔獣を倒すため、捕えるため、救うため。

それぞれの目的のため、動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、ハハッ…これだ。 これを待ってたんだッ!」

 

荒れ狂う邪気を見て、パンドラから放たれる暴風を直に受けながらローガは笑う。

 

「…がっかり、してはいないようで安心しました」

 

「がっかりだって? おいおい、何言ってんだ。 むしろそう来なくっちゃあなァッ!」

 

「おや、そうですか?」

 

一人は相手の常識はずれの力に喜び、一人は予想外の喜びように若干戸惑っていた。

少し力を入れてみただけなのに、ここまで喜んでもらえるとは思っていなかったのだ。

 

確かに腕からは大分昔に見た覚えがあるような、黒々とした光が放たれている。

威力は予想できないが、少なくともこれが当たると痛そうだ。

インパクトとしては十分なのか。

 

「これでようやく、アンタも本気ってワケか…ハハッ。 行くぞ裏ボスッ!」

 

彼がそんなことを考えていると、ローガは遂に攻撃を仕掛け始めた。

先程以上に俊敏な動きで、パンドラを仕留めようとする。

 

しかし、ソレは途中で止められてしまった。

彼らの間に現れた、ローガの主神であるロキによって。

 

「止めんか、このアホンダラ共っ!!」

 

普段糸目である彼女は、その眼を見開き彼を睨み付けた。

それを面白く思わないローガは、足こそ止めたが殺気を放ったままロキに話しかける。

 

「…おい、さっきも言ったはずだぜ。 邪魔しないでくれってよ」

 

「アンタもエエ加減にしぃやっ! おいっ、パンドラ! 何力ぁ解放しとんねん! まさかソレをベートに叩きつけるんじゃ無いやろなぁ!? んなことしたら、アイツがどうなるか分からんアンタや無いやろ!?」

 

ロキは彼が人ひとり殺すほどの力など使わないと考えていた。

しかし、今目の前で発せられるそれは明らかに「殺す気満々です」と言っているような強烈なモノであった。

故にその焦りと怒りは道理であった。

 

「いえ、さすがに直接当てるかどうかは迷いますが…」

 

「アホッ、直接かどうかが問題やあらへん! 分かっとんのか!? アンタのソレがどれだけの威力を出すか!」

 

「…先ほども、貴方のご家族に申し上げた筈です。 威力、つまり力を見ることが彼の望み…応えない事こそ道理でない」

 

「ッ、この…ドアホがぁッッ!!」

 

途端、ロキの体より途方もないほどの光が現れる。

夜であるというのに、真昼かと思うほどの明るさを放つソレは、やがて炎のようにうねりを上げて彼女を包み込む。

彼女のファミリアたち、そして観客たちはその威圧感に圧倒され、知らぬ間にひれ伏していた。

ただ一人、パンドラとの一戦を意地でも果たしたいと願うローガを除いて。

 

そんな中、パンドラは静かにその姿を見つめていた。

驚く様子もない、当たり前だろう。

彼は、彼女がその光を発する時を一度だけ見たことがあった。

 

「神威の解放…いえ、それだけではありませんか。 力も少しだけ解放している様子…しかし、力を出せば強制送還の筈では?」

 

「はんッ、世の中には例外があるんや。 例えば…アンタを仕留める時とかなァッ!!」

 

その刹那、ロキは一瞬で上空まで飛び、そこから彼目がけて無数の炎を飛ばした。

街の影響も考慮してるのだろう、威力はさほど無いように見える。

しかし、ソレでもただの冒険者を止めるなら十分すぎる力だった。

 

そう、ただの冒険者なら。

 

 

 

「…お退きなさい」

 

 

 

煙が立ち込める中、その奥より先ほどの邪悪な魔が彼女に向かって放たれたのだ。

ロキはとっさの事で避けきれず、ガードした状態でソレを受けることとなった。

魔は彼女に触れた瞬間、まるで大爆発が起きたかのような轟音が響き、彼女の体中に耐え切れない衝撃が走った。

 

「か…はっ…!?」

 

「ロキッ!?」

 

「…ご無礼を、お許しください」

 

上空より落ちてくるロキを見て、ヴァレンシュタインは彼女を受け止めるべく駆ける。

そして地面に落ちる瞬間、なんとか彼女を受け止めることはできたが、その姿を見て絶句した。

 

かなり抑えた状態であったが、それでも彼女は本来の力を解放したはずだ。

 

(それだけで、私たち以上に強い筈、それなのに…!)

 

目の前の主神は、目も当てられないほどボロボロになってしまっていた。

目の前で笑う化け物の、たった一撃で。

 

 

 

「オオオォォォォオッッ!!!」

 

 

 

その時、直ぐ近くからとてつもない叫び声が響く。

その声が誰のものか、ヴァレンシュタインは一瞬でわかった。

故に、彼女も叫ぶ。

 

「ダメッ、ベートッ!」

 

「行くぞッ、裏ボスゥッッ!!」

 

彼女はパンドラに向かって突撃するを止めようと必死に叫んだ。

しかし、彼はそれだけでは止まらず、ただただパンドラに向かって突き進む。

それが彼の力を見たいという欲求から来るものなのか、はたまた主神が傷つけられた怒りから来るものなのか。

なんにせよ、その勢いは今までの彼の全てを凌駕していた。

 

その結果。

 

「…お絶え下さい」

 

放たれた無慈悲な魔を、直に受ける形となった。

 





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