やはり俺は浮遊城にいること自体が間違っている(凍結中) 作:毛利 綾斗
最前線は37層になっていた。3日前に開かれたばかりの階層だが攻略本・フィールド版が既に出ている。
これまでも充分に早いスピードで出していたが段々と早くなっていき今では1日でフィールドを制覇し、1日で作成、フィールドボスの撃破している。残り1日は迷宮区の下調べに費やした。
これから未到達エリアである迷宮区にレベルはわからないがあまり高くないだろうプレイヤーと一緒に行動するのだ。例え俺のレベルが58手前だとしても気は一瞬たりとも抜けないだろう。
そんな事を考えているといつの間にか俺の目の前に3人が集まっていた。
時間を確認すると8時5分前。
「そろったか」
俺が声を掛けると肩をビクッと震わせて驚く彼女らに俺は『隠蔽』を使っていた事を思い出した。
いや、彼女らがキョロキョロと辺りを見渡した事で気が付いた。
驚かされた事に雪ノ下は不服そうな顔をしたが直ぐに謝罪するとなんとか気を収めてくれたらしくパーティー申請が送られてきたのでYESを押す。
そうして情報集めを兼ねたインゴット集めが開始された。
この37層は鉱山地帯のようにゴツゴツとした岩山と洞窟が集まっているフィールドだった。迷宮区には岩を固めたような固めなmobや炭鉱夫を真似たmob、山岳地帯に生息する動物の形を象ったmobが出現した。
俺はいつも通りメイン武器を刀に、狼牙を腰に付けている。
雪ノ下......ユキは刀、一色........クレアは短剣、リズベットは片手棍を装備している。
ユキとクレアのレベルは安全マージンちょうど位なのだろう。こちらは安定して狩れているので危なげなリズベットのフォローをしつつ計算してトドメをリズベットに撃たせ続ける。べ、別に護衛対象のレベルが上がれば俺が楽できるからってわけじゃ無いんだからね!
つか俺がやってもキモいだけだな.....。
初日の鉱石集めを終えリズベットの店まで戻ると店の奥に招待される。
今日集まったのは最前線レベルの鉱石が10個ほど、少しレア度が低めの鉱石が20個ほど取る事が出来た。
リズベットはレア度が低いものから武器を作り始める。
結果としては最前線では心もとない武器が12個、最前線でも通用するものが8個、更に上層でも通用するであろうレベルの武器が6個完成する。失敗は4回と成功はいつもより多いらしい。
何本か刀はあったが俺の武器である『黒鳥』に比べると少し見劣る。
それから俺は明日の約束をさせられ店から出た。
店を出る前にユキとクレアが付いてくると煩かったが足手纏いだと告げると引いてくれた。
その代わりに足手纏いじゃ無くなったら一緒にパーティーを組む事を強制させられたが..........。
それから更に3ヶ月がたった。リズベットはマスタースミスとなり、ダンジョンへの材料集めの契約は一通り落ち着いた。ただ、出来のいい店として知られてしまったためにそれを盾にされて週3回程の鉱石集めを依頼されて正式に雇われた俺は一緒に最前線に行っている。
昨日bossを攻略し最前線は50層となった。俺はいつも通りフィールドの調査をして、フィールドで受けられるクエストもクリアして情報をまとめていた。
「コレで一通りは纏められたな。後は添削待ちだ」
日が丁度真上に来る時間帯に俺は圏内のとあるカフェに鼠を呼び出している。この時間なら殆どがフィールドに出ているため周りの目を気にせずに話ができる。だからこの時間を選んだ。
奴の事だから後数分でくるだろう。そう思いながら甘くないコーヒーを啜る。人生はこんなにも苦く苦しいのだからコーヒーくらいは甘くしたっていいと思う。
茅場の奴、喫茶店にマッ缶がないだけならまだしも、甘さ上限を付けるなんて....やっぱ帰ったら自作マックスコーヒーでも飲むか.........。
そんな事を考えていると
「はーちゃん、来てやったゼ。早く原稿を見せてクレ」
と珍しく最初から仕事モードの鼠の声。珍しいと思い顔を上げるとそこには『閃光』と『鼠』という俺の頭が上がらないコンビが立っているのだった。
「ちょっと待て如何して副団長様がここにいるんだ?」
そう、37層からヒースクリフという男が作った血盟騎士団が攻略に参加してきたのだった。メンバーはヒースクリフが直接声をかけて集めたらしく、アスナは副団長として入団したのだった。そして少し経ったある日からアスナは『攻略の鬼』と呼ばれるようになり、なりふり構わない攻略をする様になった。
「何よ。私がいたら不味いの?」
と今にも怒り出しそうな声で問いかけてきた。
こんなタイミングで、質問に対して質問するなって教わらなかったのかって聞きたくなったが命欲しさに断念する。
「いや、副団長様は仕事で忙しいだろうからな。折角の休みに何故と思っただけだ」
「なによ嫌味?私も一緒に話を聞くから」
そう言って俺の斜め前の席に腰掛けるアスナ。俺は助けを求めるべく鼠に視線を送るが逸らされる。
つか、攻略本の作製に俺が関係しているってのをバラすなと目で語ると
「アーちゃんは前々カラ気付いていたらしいゼ。秘密にする代わりに同席サセロってヨ」
........そうでしたか。
押してダメなら諦めろが教訓の俺はため息を吐く。
「これが原稿だ。一通りチェックは済ました。最後の確認を頼む」
「受け取ったゼ。やっぱはーちゃんガ作ったヤツは完璧ダナ。後はオレッチの独自の情報網からのネタを入れてット」
サーっと目を通してOKをする鼠。
仕事の話も終わり席を立とうとすると腕を掴まれ引っ張られる。
「なんだ.....よ?」
目の前には完全に苛立ちを露わにしているアスナと怖くなるほどの笑みを浮かべる鼠がいた。
怖い、怖いからやめてくれよ。
「アハト君、何で君はアルゴさん以外の人とパーティーを組むようになったのかな?」
「そうだゼ、はーちゃん。経緯ヲ話して貰おうカ」
俺は逃げ出したかった。ただ逃げた所で先延ばしになるだけと思うと再びため息を吐く。
某ツンツン頭の人はいつもこうなんだろうか?ここは彼に敬意を払って言わせて貰おう。
不幸だ〜!!
俺はリアルの話関連以外を全て隠さずに話した。
するとアスナは
「じゃあその武器は完成したの?」
と聞いてくる。
「それがまだ何か条件があるらしく作れないんだ」
そう、マスタースミスになった直ぐにリズベットと『煉獄の炎』を手に入れ依頼したのだがリズベットがハンマーを振ることはなかった。
彼女いわく、今は作れないわね。まだ時じゃないみたい、だそうだ。
んでその時とやらが来るまでは保留になったのだ。
「ならこれから依頼以外の時は私とパーティーを組んでよ。足手纏いにはならないはずよ」
「.........いやだ。つかなら、てなんだよ。文脈ぶった切んな」
如何してよ!、と憤慨するアスナ。拒否する理由なんて決まってるだろ。俺はソロが好きだからだ。
「言わせてもらうが今のお前には背中を預けられない」
そう言うと俺はカフェから出る。俺のこの言葉が後に響いてくるなんてこの時の俺は思っていなかった。