やはり俺は浮遊城にいること自体が間違っている(凍結中) 作:毛利 綾斗
俺が自分の意識を手放した日から早7ヶ月。
もう一度あのチート的な連続技が出来るのか試したがあれから一度も成功することはなかった。
気付いたら最前線は27層となっているなか俺は20層で狩りをしている。
攻略組を辞めたのかって?違う、ただ用があってこの層に降りてきたんだ。
最前線で戦っているものが下の層で狩りをするのは狩場の横取りと言われて忌み嫌われる。そんな事はわかっているが武器強化の為にアイテムが必要なのだ。説明すれば納得はしてもらえるだろうが面倒くさい。だから俺は誰も来ないだろう最深部で狩りをしている。
パリーン
俺は射程範囲内の敵を全て倒しきり、出てきたアイコンを確認する。
そこにはドロップ率10%以下のレアアイテム『ギフトスパイダーの鍵爪』と書かれている。最後の一個となってから彼此5時間篭ってやっとドロップしたのだ。
「.........やっと終わった」
そう呟いてしまったのもしょうがないだろう。
コレで強化素材は全部揃った。
なんかいちゃもん付けられる前に立ち去るか........。
そう思った俺は静かに20層の圏内に向かって走り出した。
圏内まであと少しという所で聞いた事のない声と聞いた事のある声がする。
取り敢えず木の陰に隠れると耳を澄ませ、様子を伺ってみる。
どうやらキリトが指導しているらしい。気づかれない様に通り過ぎようとした時にキリトが視界に入った。
夜、27層の迷宮区前の草原で俺はレベリングをしていた。ソロで戦う分レベルは高くないといけないと言うことで定期的に深夜の狩りをしている。
風が緩い。
......こんな日は何か碌でもない事が起こるかもしれない
そう思った矢先キリトに出会いお節介だと思いながらも話しかける。
「キリト、お前ギルドに入ったんだな」
少しビクッとしてキリトは答える。
「.......なんだ、アハトか。........アットホームな雰囲気でここならいいかも知れないって思ってさ。誘われたから入ったんだ」
「自分のレベルを、自分は攻略組だって事を話してあるのか?」
俺は答えが分かりきっている質問をする。
答えはNoに決まっている。
中堅ギルドが攻略組を誘うなんてあり得ない。何よりさっきからキリトは何か隠しているようの見えるしな。
キリトは黙り続ける。
「.......黙っているのはいいが一つだけ忠告だ。お前が傷つく前に正直に話すかギルドを抜けろ、そうしないと取り返しが付かない事になるかもしれないぞ」
「........皆は俺が守る。それに言わなくたって何も問題ないだろ、自己のステータスは詮索禁止だ!」
「........それがお前の本心って事でいいんだな。流石は『黒の剣士』様だ、信じれもしない奴らを守るだなんてな。そんな欺瞞はやめろ、今すぐにでもボロが出るぞ」
「うるさい!ずっとソロでやってるアハトに何が分かるんだ。俺にも守りたいと思う仲間が出来た。それを守りたいと思った俺の気持ちを踏みにじりはさせない!」
「踏みにじるつもりはない。ただそんな嘘と欺瞞で溢れている関係は直ぐに壊れるって言ったんだよ」
キリトはそのまま踵を返し街の方へ走り出した。
俺はどうしてしまったんだろう。何時もなら何も言わないのに..........。
それから3日後、27層の攻略が終わり28層が開通された。25層以来まだ被害者は出ていない。ただ何時もと違った事といえば戦闘狂のキリトが攻略どころか攻略会議にも来なかった事だ。それから2ヶ月間キリトを一度も見る事なく最前線は33層にまで移動していた。
LAボーナス?んなもん取っても必要無いものは全部トップギルドに売ってるわ。マジでキリトが居ないからソロの俺の独壇場になっているまである。
それから数日後、重役である俺の朝は遅いのだがアルゴからのメールを見て飛び起きた。
『アハト大変だよ!キリト達が27層に入っていった』
一体何をやってんだよキリトの奴。最悪の事態を想定してんのか?あそこはトラップの宝庫で中堅プレイヤーじゃ辛い所なんだぞ。
俺が27層の迷宮区に入り索敵を開始するとプレイヤーの反応が5つ。一人少ない気がするが固まって進んでいる事から何も起こっていないようだ。
ひとまず安心した矢先、一つの反応が走り出し部屋に入って止まる。
不味い、そう思った俺は走り出す。
「ダメだ!そのトレジャーボックスは罠だ!」
キリトの声が聞こえたと同時にアラーム音が鳴り響く。
同時にたくさんのモンスター反応。どんどんと入口が閉じていくのが見られた。
俺は自分の俊敏値をフルに使い部屋にギリギリで滑り込む。そして装備していた〈両手剣〉の全範囲技で周りのモンスターを一掃する。
「キリトはmobの数を減らしつつギルドのメンバーを守れ。残りの奴は固まってお互いをカバーし合うんだ!」
硬直時間にmob共が俺の周りに群がり攻撃を放つ。がHPバーは少し減るだけで直ぐにバトルヒーリングで回復する。
硬直が解けると全範囲技、再び硬直というのを5回ほど繰り返すとmobの数が両手で数えられるほどになる。
俺は武器を〈刀〉に持ち替えるとソードスキルを使わずにmobを切り裂いていく。
最後の一体を切り裂くと扉が開き一息付く。そのまま俺はプレイヤーが固まっているところ迄歩いて行く。今の状況でキリトのHPは半分になりかけていて、他の奴らは赤になりかけている。それを確認すると俺はキリトの胸ぐらを掴む。
周りからはいきなりの行動に唖然とする声、俺の行動を非難する声、キリトを放すように言う声が上がった。そんな声を全て無視して俺は告げる。
「もし俺が来てなかったらお前の仲間は全員死んでたんだぞ。しかも回避できる罠で死んでたんだ。コレの意味がわかるか?お前が自分のレベルを話していれば説得出来ていたかもしれないのを、俺の言った事を無視した結果がこれだったんだ」
「どういう事だよキリト。君のレベルは32だよな。そこの奴が嘘を言ってるんだよな。..............なあ、何か言えよ!」
「...................」
仲間の一人、シーフのような服装をした奴が声を荒げて問うがキリトは黙り続ける。沈黙は是なり、その意味を体験できる機会だった。キリトも悪い。だがここでキリトだけを責める事はさせない。
「宝箱を開けたのはお前か?」
先ほどキリトを責めた奴に聞く。
「そうだ。宝箱を開けたのは俺だよ、だからどうしたってんだ!今は嘘をついたキリトに........」
少し黙れ、そういう意味を含めて刀を鼻先に向ける。
「お前も同罪だ。キリトが止めたのにも関わらず開けたのはお前だろ。シーフがトラップも解除せずに開けるなんてあり得ない。それにお前らも同じだ」
そう言って他の奴らを見渡す。
だってだの彼奴がだの言い訳を考えているプレイヤー。俺は胸くそが悪くなるが抑える。
「キリトが悪いっていうなら私も同罪なの。だからキリトを悪く言わないで!」
そんな中責任なら自分にもあると女が言う。そんな女の言葉を無視してキリトは続ける。
「........今までずっと黙っていてすまなかった。本当の事を言えばギルドに入れてもらえなくなる、そう思った俺は本当の事を言えなかったんだ。俺、ケイタにこの事を告げてから脱退するよ」
ずっと黙っていたキリトはそう告げると歩き始めた。取り残された俺以外のプレイヤーはただ黙って難しい顔をしていた。
「それでお前らはいいのか?」
キリトに聞こえないであろう距離になるまで黙っていた俺は告げる。
「........どういう事だ」
シーフ姿の男が問う。
「お前らがそれでいいなら俺は何も言わん」
理解出来ないならこいつらはそれまでの関係だったってだけだ。
「言い訳ない!私はキリトのレベルを知ってたの。だから私も同罪。それにこのままじゃキリトが言ってた通りになっちゃう!」
そうして走り出した女はキリトの後を追いかけた。他の3人はまだ立ち尽くしている。
仕方ない、少しだけフォローを入れるか.......。
「まず.....だ。誰がこの層の攻略を提案した?キリトなら絶対にこの層に入る事を認めないはずだ。次に如何してキリトの警告を無視した?ここがデスゲームだという事を忘れてるんじゃ無いのか?最後にお前らは誰のおかげで生きているのか分かってんのか?」
あー疲れた。この世界に来てから話す量が増えてきている気がするなー。まあこれで奴らも気がつくだろう。これでも気づけないんならキリトには済まないと思うが俺がリセットさせるかもしれん。
暫く時間が経ち、ドタドタと走る足音が響く。
どうなるかはわからない。ただ俺は上手くいけばいいと珍しく希望的で前向きな考えを肯定している事に気がついた。
「アハト、俺またソロに戻るよ。でも時々暇を見つけてはあのギルドの、サチの指導をする様に約束できたんだ。............ありがとう」
「.....俺は何もしてない。でもよかったな」
ギルドが壊滅しかけたあの日から数日経った日の事だった。