やはり俺は浮遊城にいること自体が間違っている(凍結中)   作:毛利 綾斗

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やはり俺のboss攻略は何かが起こる

「あ〜ぁ危なかった。boss戦の前日に武器の耐久が10切るとか」

 

 

 

マジで壊れてたら洒落にならん。

まあそのおかげであと少しでレベルアップまでたどり着いたんだが......。ボス戦でレベルが上がるだろう。

 

そのまま宿に帰り、アイテムの整理、武器のメンテをして眠りにつく。明日も無事に生きられる様に戦闘のイメージを頭の中で巡らせながら。

 

 

 

 

 

「今回も定員まで埋まらなかったけど集まってくれてありがとう。この層では犠牲者を出すことなく攻略するぞ」

 

 

 

辺りからは気合いを入れるべく叫び声が上がる。

リンドはbossの扉を開く。中から流れ出てくる冷たい風に身震いする俺。

 

 

何も起こらなければいいんだが......。

 

 

俺たちが全員入ると奥の穴からトーラス族が二体出てくる。

1匹は2m位だ。こっちがナト大佐だろう。その後ろからくる、そちらは3mくらいだろうか、のはバラン将軍だ。

 

 

 

 

俺たちのパーティー、アスナ、キリト、あとはエギルさんとその仲間の計6人で構成されている、は何故かこれだけで大佐の相手をしている。

 

攻略会議で俺以外のパーティー全員が

 

 

「大佐は中ボスレベルだと聞いた。それを1パーティーで相手するのは荷が重い」

 

 

と訴えたのだがやはり通らなかった。

 

現在はboss部屋の広さを活かし二体を引き離して戦っていて大佐のHPは既に最後の一本で真っ赤に染まっている。将軍の方は2本目を削り切ったところの様だ。今の所ブレスによる麻痺の被害者はおらず順調にいっているらしい。

違和感が在るとすればブレスを何人かが被弾しているのにというところだ。最後のバーになったら麻痺付与になるのだろうか。

 

これならいける、そう思った俺がソードスキルで大佐の息の根を止めると、エギルがデカイ声でこっちが終わったことを伝え、次の指示を仰ぐ。

リンドが俺たちに命令すると同時にとてつもなく大きい咆哮が辺りに響く。

プレイヤーは突然の出来事に動きを止めてしまった。

 

 

 

「な、馬鹿か。早く逃げないと将軍の攻撃が来るぞ」

 

 

 

キリトが怒鳴るが未だに気がぬけている状態の様だ。

将軍は足に力を込め跳び上がる。

俺は気づいてしまった。大佐と将軍が出てきた真っ暗な穴から明るい光が見えるのに。将軍が跳び上がった理由が、そして今まで誰一人として麻痺状態にならなかった理由が。

不味い。全員が将軍に目を奪われている。これじゃ全員が食らっちまう。

 

 

 

「アスナ、すまないがあとは頼んだ」

 

 

 

アスナが驚いた声をあげ、振り向こうとする。俺はその隣を走り抜け、薄暗い穴に突っ込む。

辺りに広がる明るい光。俺は真正面からそれを斬りつける。

 

 

 

 

 

 

真っ二つに分かれた光はプレイヤーに当たらずに地面をえぐっていき壁にぶつかり白塵を巻き上げる。

ほっとするプレイヤー達は何とかバラン将軍の攻撃を避け一息つく。

 

 

 

「........なんだ、なんなんだよあれは」

 

 

 

恐怖に慄く声が聞こえる。それもそうだろう。

 

穴から全長は5m程で、刃渡2mはあるだろう片手剣を持ち、腰に何かを指しているトーラス族の王があらわれた。

HPゲージは4本だがこれまで戦ったmobとは比べ物にならない圧力を放っている。それこそ殺気が赤い靄として視認できそうなほどに。気を抜けば殺られるそんな重圧だ。

 

 

 

「全員撤退だ。一旦引いて作戦を練り直す」

 

 

 

リンドはこう叫び、各々がboss部屋から撤退する。

 

 

 

「何を言っているのよ。アハト君を残していくというの!彼は皆の盾になったのよ!」

 

 

 

「だからどうした。一人の命と複数の命。どっちが大切か言わなくても分かるだろ。ましてもあの《執行人》の命だ。誰も咎めないし寧ろ死んだほうが喜ばれるだろうさ」

 

 

 

「なっ!。........もういいです、私たちでなんとかします」

 

 

 

その言葉を待っていたかのように、キリトが王の元へ、エギルが将軍の元へ走っていく。エギルの姿を見て他の二人も将軍へ向かっていく。アスナは一足遅れながらも王と対峙しているキリトに加戦する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしているんだ!

君達まで死んでしまったら大きな痛手になる事はわかっているだろ。早く撤退するんだ!」

 

 

 

リンドの声が響く。

 

 

 

 

 

バカな事をしてるのは一体誰だよ。普通に考えたら俺を置いて撤退するだろ。

 

視界を遮る砂埃が立ち込める中、そんな事を思いながら俺は唯一動く右手で解毒ポーションと回復ポーションを口にする。

 

口の中が甘ったるいのと爽やかな風味で満たされる。

あと数秒もしたら身体が動くようになるだろう。

残って戦っているバカは5人。ただ動けるようになったとしてもこの人数じゃ撤退は難しい。やるしかない.....か。

 

 

俺は思考を纏めて、ポーチから出したものを腰につける。それから身体を起こして一気に走り出した。

 

俺は王の所まで走り、背後から《オーパル・クレセント》を繰り出す。王が怯んだと同時に

 

 

 

「キリト、アスナ、お前らはエギルと一緒に将軍をやるんだ」

 

 

 

「でもアハト君一人じゃ.....」

 

 

 

「この程度のボスなら一人で時間は稼げる。最後は集中放火で一気に畳み掛ける」

 

 

 

その言葉を聞き、残り少ないHPの将軍のほうへ走り出す二人。

硬直が解け、キリトへ攻撃しようと走り出した王に、腰に差してあった『狼牙』で《シングルシュート》を放つ。短剣は冠に吸い込まれて行き金属音が響く。

 

 

グァァァァ

 

 

王の口からは悲鳴のような唸り声が溢れる。だが直ぐに反撃はない。恐らくだがスタンしたんだろう。

 

今の一撃で俺にタゲが移ったらしい。HPゲージを見てみると今の一撃だけでキリトとアスナが減らしたのと同等の減りをしている。

耐久が無限の『狼牙』は投擲に向いている様だ。

俺はそう思いながら曲刀を使って王と刃を交える。

 

 

 

 

 

しばらくして遠くから何かが砕ける音がした。

 

 

 

「アハト、こっちは終わった。今直ぐ加勢するぞ」

 

 

 

キリトとアスナがこっちに来る。

これまでの偶に攻撃、回避メインで避けきれないものだけ弾くという戦法からスイッチを多用し、攻防にメリハリがある戦法に変わる。

その攻防の間で俺は短剣を拾い直し腰につけ直す。

 

 

いつも以上に緊張の糸が張り詰めた戦いが続いたせいだろう。精神的な疲れから二人への気遣いを忘れて一歩分早く動いてスキルを発動してしまう。

攻撃は躱されクールタイムに突入した。

 

 

「アハト君!避けて!」

 

 

スキル使用後の硬直はそこまで長く無い。本来ならば問題は無いはずだ。

しかし相手はボスで、紙一重の戦いをしていた俺たちにはそんな些細なミスでさえ命を落としかね無い。

現にボスの刃が弾かれる事なく俺の身体目掛けて振り下ろされている。

 

 

死んだな

 

 

俺の目に映ったのは駆け込んでくるキリトとその場でしゃがみ込み叫んでいるアスナ。

 

........そして戸塚に城廻センパイ、雪ノ下さんに一色。由比ヶ浜、雪ノ下、小町が浮かぶ。

 

ごめんな小町。お兄ちゃんそっちに戻れそうに無いや。雪ノ下、由比ヶ浜すまん。約束遅れるんじゃなくて破っちまうようだ。

 

殺られる。そう覚悟した時に何か風を切る音がする。

 

 

 

グァァァァ

 

 

 

金属音がした後辺りにボスの咆哮が響く。ただその咆哮は喜びによるものでなく苦痛が滲んだものだった。

 

 

 

「助かった......のか?」

 

 

 

硬直が解け後ろに跳ぶ。何が起こったのか分からないが一先ず息を着き、扉周辺をみると誰かが立っている。そいつが何かをしてくれたおかげで俺は生きているらしい。

 

 

 

「ネズハ!どうしてここに!」

 

 

 

「間に合ってよかったです。《投擲》と《体術》を使いこなせるようになるのに少し時間がかかりまして......。このように遅れての登場となってしまいました」

 

 

 

ネズハ......か。

間違ってたら恥ずいけど言ってみるか。

 

 

 

「ありがとう。助かったわ、ナタク。.......あと、鼠。お前いるんだろ、出てこいよ」

 

 

 

ネズハと呼ばれている少年は驚きの表情を見せる。

その後扉の影になっていた所から鼠が顔を出すと、いたずらっ子のような笑いを溢し

 

 

 

「ヤハハ。よく気づいたネ、はーちゃん。もしかしたら気づいてるカモとは思ってたケド声をかけてくるノハ予想外ダッタ」

 

 

 

「いつもちょっかいかけてくるお前が出てこないから気味悪かったんでな」

 

 

 

 

ヤハハ、と笑い鼠が俺の所まで走ってくる。すると耳元で囁いた。

 

 

 

「絶対に生きて帰ってきてね」

 

 

 

俺は何も答えずに王の元へと走り出した。

残りゲージは1本半、こっちの人数は7人。タンクが3人でダメージディーラーが3人、遠距離主体が1人。バランスは悪くないどころか最高と言える。このメンバーならいけるかもしれない。

 

 

 

「ナタク、お前はブレスを警戒してくれ。奴はブレスのモーションに入る前に冠が光る。そのタイミングで冠に攻撃を頼む。王を倒すぞ」

 

 

 

その言葉で全体の士気が上がる。王が攻撃のモーションに入ろうとするとタンク隊が防ぎ前に、それ以外は俺、キリト、アスナが攻撃する。そんな感じで少しずつだが確実にHPバーを削っていく。

 

 

 

「ラスト一本だ。何か変化があるかも知れないから気をつけろ!」

 

 

 

キリトの声が響くと同時に王が後ろに跳ぶ。

冠が不気味な光を放つと同時に放たれたナタクの『チャクラム』による攻撃が冠に当たるのを確認すると全員が駆け出しいていた。何か起こるかも知れないと足が竦んでしまった俺以外は。

そんな俺だから気付けたのだろう。

 

 

 

「早く後ろに跳べ!」

 

 

 

まさかの状況だった。

ブレスは防いだものの冠が砕け散り、スタンするはずの王は怒り狂っている。そのまま何かを引き抜くとそこには禍々しい形をした曲刀が握られていた。

 

 

 

「トールグリム、アナス何してるんだ!一度引け!」

 

 

 

エギルが声を張り上げるが2人はそのまま突っ込んでいく。

 

俺は走り出していた。

どうか俺の予想が当たらないでくれ。

そんな俺の願いは無情にも叶わず、片手剣が蒼白く輝き始めた。

2人はその光景に驚き目を奪われ固まってしまう、奴の攻撃範囲内でだ。

 

普通、両手に武器を持っていると互いの武器が邪魔しあいソードスキルは発動されない。それが俺たちプレイヤーの共通認識だった。現にそれがあったために2人は止まらなかったのだろう。

 

そのまま無情にも繰り出されたソードスキルを受けその場に倒れる2人。王はクールタイムに入る事なく、曲刀によるソードスキルでトドメを刺しに来た。

恐らく冠が壊された事によってスピード、威力共に上昇しているのだろう。防御出来なかったとは言えたった一撃でレッドゾーンになった2人は恐怖で顔を歪めている。

 

 

 

「届けぇ!」

 

 

そう言って放たれた《オーパル・クレセント》が相手のソードスキルを相殺する。バランスを崩した王はさっきの様にソードスキルを連続で放つ事なくその場に立ち尽くしている。クールタイムだ!

 

 

 

「キリト、アスナ、エギル今がチャンスだ。攻撃しろ!」

 

 

 

「「「おう(わかった)」」」

 

 

 

キリトは《バーチカル・スクエア》、アスナは後に彼女の代名詞となる《リニアー》、エギルは片手棍のスキル《デストロイスマッシュ》でHPバーを削る。

俺はその間に恐怖で動けないでいた2人に回復ポーションを飲ませる。

いつまで経っても動かないのをいい事に俺は走り出していた。

 

奴のHPバーは残り一本でしかも残り半分を切っている。一か八かだがかけてみるのも良いかもしれない。bossのように武器が邪魔にならないように意識すれば良いだけの話なんだろう。

俺は短剣を左手で持つと構えを取る。

 

 

 

「何をするつもりだ、アハト!馬鹿な真似はやめろ!」

 

 

 

俺がしようとした事に気付いたキリトが大声を出してとめる。

 

壁役が一人じゃ壊滅するのが目に見えてんだよ。此処で此奴を倒し切らないと誰かが死ぬ。

 

 

 

「俺は死にたくないからするんだ」

 

 

 

 

クールに、焦るな。俺は1人で誰よりも自分を意識してきた。それに誰よりもソードスキルを使ってきたんだ。上手く組み立てるんだ、終わりの態勢が次のスキルに繋がるように。俺ならできる、bossのように二刀でも扱ってみせる。

 

 

 

やはりお主は面白い

少しだけじゃが助力してやるぞい

 

 

 

頭の中で何か声がした。

 

 

「今はそんなこと気にしてられねぇ」

 

 

そう呟いたと同時に俺は曲刀スキル《フェル・クレセント》を放つ。

 

いつも以上にリラックスして集中できているのが分かる。

 

王の懐で止まった俺はそのままの流れで構えを取っていた短剣スキル《ムーンスラッシュ》を、それが終わる頃にはまた曲刀が光っていて《オーパル・クレセント》を放つ。

残りは既に1/10を切っている。

と王はバックステップを取り息を吸い込み、胸を膨らませた。

 

ブレスが来る!

冠もない。使い慣れていない短剣ではとめる手立てはない。それに此処でスキルを繋げないと俺は当分動けなくなって殺られる。

俺は計算を止めて投擲スキル《シングルシュート》を放つ。運良く喉に刺さった事によりブレスを回避し、そのままソードスキル《ワイドシュナイダー》を発動させる。

つい最近覚えたばかりで距離と速さによって威力が変わる今の様な状況にうってつけの技である。

 

王の胴体に一筋の紅い線が入る。そのまま俺はスキルの影響で走り抜け止まる。硬直が始まり動けずにいる俺はそのまま前のめりに倒れ、意識を手放した。


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