やはり俺は浮遊城にいること自体が間違っている(凍結中)   作:毛利 綾斗

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やはり俺の始まりは間違っている

俺たちは次々とフィールドの情報を集め、改訂版として攻略本を出していた。しかし此処一ヶ月で死者数は800人に近づく一方。まるで俺たちの尽力を嘲笑うようだった。

 

 

「鼠、やっぱりこの扉ってボス部屋のだよな」

 

 

「βの時と少し変わってるけどそうだね。どうする、私たちで発表する?」

 

 

「いや、少し待とう。俺ら2人だけで発見したってなると面倒臭いことになるかも知れん。それまでに手札を増やすぞ」

 

 

「わかったよ。にしてもアハト強くなったね。一人で此処まで戦い続けたんだから」

 

 

「そう思うんだったらお前も戦え」

 

 

そう、この部屋を見つけるまで俺は鼠とパーティーを組んでいた。

俺が上げていた索敵でモブを見つけるとこいつは隠密で隠れ俺一人に戦わせるのだ。

 

此処でどうでもいい話だが、全然隠密を使っていないはずの俺の方がスキルレベルが高い。

なんなのこれ、八幡泣いちゃうよ。

 

って話が逸れたがそのおかげで俺は攻略を目指している中でも高レベルプレイヤーだと思っている。まあ自慢できる友達なんていないがな。フレンド登録も鼠としかしてないからな。

 

 

「もう中のマッピングも終わったしクエスト消化しとこうぜ。俺は戦闘系、お前は非戦闘系を頼む」

 

 

「えー、お姉さんアハトと一緒がいいなー」

 

 

と言いながらチラッチラッと見てくる。正直言ってボッチを極めた俺には聞かないし何より鬱陶しい。

 

 

「そんなの効率が悪い。それに俺たちが見つけられたんだ、そろそろ他の奴らも来るだろう。それまでにできるだけ情報が欲しい。いつも言ってるだろ、手札を増やすんだ」

 

 

「むー、わかった。じゃあ4日後に落ち合おうね」

 

 

おう、と言い鼠を町まで送り届け戦闘系クエストを受けに行く。俺の情報をまとめる能力は相当高いらしく、始めは鼠が一人で纏めていたが今では半々で纏めている。

 

それにしてもあざとかった。なんなの彼奴、一色なの。俺がプロボッチじゃなかったら同伴認めてたぜ。それにお姉さんって絶対俺より年下だろ。俺の妹スキル発動してたし。

 

 

 

それから俺はさっさとクエストを全クリし、曲刀の熟練度を上げるべく戦闘をしていた。

俺が最前線で攻略してるって知ったら彼奴らどんな顔するんだろう。きっと由比ヶ浜は馬鹿みたいな面して、雪の下は妄想は自分の中だけにしておきなさい、とか言うんだろうな。

彼奴らは上手くやっているだろうか。きっと彼奴らのことだ、ゆるゆりしてるに違いない。そんな俺が居なくて取り戻した平穏を俺は壊すつもりなのか。本当は俺がいない方は上手くいっているのではないか。俺の作戦が上手くいかなかったら。その時は........。

って駄目だ。もう俺は決めたんだ。彼奴らの隣に並んで立てるように、自分を含めた全員を救う方法を見つけるってな。

まあ裏があるのではないか、と深く考える癖はまだ治っちゃいないが。

そんなことを考えながら街に戻る最中に俺の索敵に一人のプレイヤー反応が。

珍しいな。迷宮区でソロなんて自殺行為かよ。まあ近くに安全地帯もあるし問題ないか。

にしてもきっとボス戦に参加してくるだろうし顔だけでも拝んでおくか。

 

そう思いプレイヤーの方に向かっていくとHPが数ドットしか残っていない相手にソードスキル《リニアー》を放つフード姿が。あまりの正確さに目を奪われたが何より驚いたのはそのフードが数歩歩くか歩かないかの内にいきなり倒れたのだ。

 

何かの仕様なのか

 

そう思いながら駆け寄り生きているか確かめる。いや、ダメージは全然食らってなかったし、何より死んだら消えるはずだ。ってことは未発見のバッドステータスかなにかか。

 

 

「おい。大丈夫か?聞こえるなら返事を.......。」

 

 

辺りから聞こえてくる可愛らしい

 

スースー

 

という寝息。

こいつぶっ倒れるまで戦ってるってどういう事だよ。此処に放置して死なれたら寝覚めが悪いしなー。やだなー。仕方ない、安全地帯まで運ぶか。何よりこいつは戦力になるしな。

 

 

 

と安全地帯まで連れてきたはいい。ついでに無駄も教えてやろうと思ったのはいい。でも何で俺は怒鳴られているんだ。

 

 

「どうして余計な事をするのよ。私は、私は」

 

 

どうする。この状況でこいつを納める方法。どうすればいいんだ。

 

 

「そんなに死にたいのか。わかった、じゃあ出るぞ」

 

 

そう言って安全地帯から出て俺は引き抜く。

フードは一言も発す事なくその場で立ち尽くしている。

 

 

「どうした。死にたいんじゃないのか」

 

 

静かに告げる。フードはハッとすると安全地帯からでて壁際に立つ。

そして俺は引き上げた武器を振り下ろし、フードの首が胴から切り離れる

 

 

 

 

事はなかった。

フードはその場に座り込み泣き始めた。

ここまでは計算通りだ。ここからは上手くいくかわからない。でもやるしかないんだ。変わった所を彼奴らに見せるためにも......。

 

「お前は一度ここで死んだ。今のお前は新しいお前だ。生きる事を選んだんだから今度は自分を大事にしろ」

 

 

「明日攻略会議が開かれるらしい。もしまだ戦う力が残ってるなら来てくれ。そして攻略の手伝いをして欲しい」

 

 

立ち去り状に場所を告げる。今の俺ではここが限界だ。おそらく奴は来ないだろう。貴重な戦力を失ってしまった。でも死なれるよりはマシ.......だよな。

 

 

「鼠の、そっちで何か情報があったか?」

 

 

「あるクエストをクリアしたらこんなのをもらったよ」

 

 

そう言って差し出されたのは羊皮紙。俺は覗き込むとそこには

 

 

NAME

イルファング・ザ・コボルト・ロード

 

 

と書かれている。

この名前見覚えがある。思い出そうとしているといつも以上に真剣な鼠を見て思い出す。

第1層のボスはこんな名前だったと。

 

 

「アハトも思い出した?多分だけどこいつはボスだよ。そっちも何か見つけた?」

 

 

俺は2枚だ

 

 

そう言ってストレージから取り出して机に広げる。

そこには

 

 

HPバー5本

一本減るにつき、ルイン・コボルト・センチネル3体

 

 

HPバー5本

HPが少なくなると武器を変更

 

 

と書かれている。

 

 

「此処まではβ時代と同じだ。確かあん時は斧とタルアールだったよな?」

 

 

そうだったよ

 

 

鼠の返答を聞き少し落ち着く。

タルアールは曲刀カテゴリに入る。曲刀の扱いなら誰にも負けるつもりはない。それが例えボスだとしてもな。

お互いの意見を噛み砕き消化して眠りにつく。

 

 

 

 

 

トールバーナの大広場、俺は今そこの隅で攻略会議が開かれるのを待っている。既に時間を5分オーバーしている。

 

 

「これ以上待っても誰も来そうにないな。それじゃあ攻略会議を始めるよ」

 

 

そう言って話し出したのはイケメンな材木座、によく似た奴だった。

 

 

「俺の名前はディアベル。気持ち的にナイトやってます」

 

 

当然だがこのSAOではジョブシステムなどない。これは奴がこの場の人間を掌握する為に言った表面上の言葉。だが効果は覿面のようで辺りから笑いながらツッコミが入る。

いけると思ったのだろう奴は急に真面目な顔をして話し出す。

 

 

「昨日俺たちのパーティがボス部屋だと思われる扉を見つけた。そこで明日の12:00に攻略を開始する」

 

 

辺りから凄いだのなんだのと声がする。

周りからの反応に満足したのか少し微笑んで頷き話し出そうとする。

が遮られた。それでも嫌な顔をしない奴に俺は感動すら感じている。

話を遮った男は前の舞台に飛び出てくる。

 

 

「こん中に侘びをいれやなあかん奴がおるはずや」

 

 

「それはβテスターのことかい?」

 

 

「そうや。彼奴らが情報を独占した所為でビギナーが沢山死んでもうたんや。今此処で土下座して持ってるアイテムやコルを分け与えん限りわいは背中を預けられん」

 

 

早かれ遅かれぶつかる事になるとわかっていたこの問題。このモヤットボールは鬱陶しいが攻略前に言ってくれてよかった。攻略中に言われるよりかはまだマシだ。さて、俺の持ってる切り札で勝ちきれるか。

 

 

ちょっといいか?

 

 

そう言って手を挙げる俺。こんなとこで確執を産むのはよくない。頑張っていた鼠が報われん。

 

 

「なんや兄ちゃん。ベーターの事知っとんのか?」

 

 

「いや、俺はこの会議でどう攻略するかの対策を話あうと思っていたんだが」

 

 

こうやって少しずつ相手に余裕を無くすように持っていく。沸点低そうだしすぐに食ってかかってくるだろう。

 

 

な、なんやてー!これはわいにとっては大事なーーーー

 

 

「あんただけにだろ。それに今何人くらい死んだのか知ってんのか?」

 

 

グッ、と唸るモヤットボール。

いいそのまま静かに聞いてろ。

 

 

「今は800人強。その中でβテスターは500人弱だ。分かるか、βテスターの方が沢山死んでるんだよ。それにデスゲーム宣言される前に200人近く死んでるんだ。ビギナーが死んだのはほとんどがゲーム開始前なんだよ。それに此処でテスターと確執作ってどうするんだよ。あんたの変なプライドの所為でこのSAOから出るのが遅くなるかもしれないんだぞ」

 

 

此処で話を切り周りを見回す。所々で顔を顰めているが静かに聞いてくれている。

 

 

「これを見てくれ。これは鼠の攻略本だ。β版と改訂版がある。結構βテストの時と仕様が変わってるがそれでも細かく書いてあるんだぞ。これだけあれば変更が入っている事は分かっているのにそれでも検証しているんだ。文字通り命をかけてな。これでもまだβテスターの事を悪く言うのか?」

 

 

「そのにいちゃんの通りだ。βテスターは見えない所で動いてくれてる。お前の怒りはお門違いだぜ」

 

 

と俺に続いてスキンヘッドの男が言う。

モヤットボールは勢いを削がれたのか静かに戻っていく。

舞台には少しホッとしている青髮。少し違和感をかんじる。

 

 

「じゃあ今から6人で1パーティ組んでくれ。そうじゃないとボスには勝てないからな」

 

 

しまった、と思った。俺はボッチだし悪目立ちした後では誰も仲間に入れてはくれないだろう。仕方がない帰るか。

 

 

おい、ちょっと待ってくれ

 

 

バカな事をしたかもしれない。でもこれでビギナーとテスターの確執は減ったはず。

 

 

おい、そこのあんた。俺と組まないか

 

 

鼠には申し訳ないがこのまま帰るしかないな。

 

 

だから待てって

 

 

でもなんて言って誤魔....ゴホン、説得するかな。

 

 

「いい加減に反応しろ」

 

 

いきなり腕を掴まれる。さっきから誰かを呼び止める声は聞こえていたが俺の事だったのか。

俺が振り向き声の主と目が合うと声の主は一瞬固まり息を呑んだ。

 

 

「俺はキリト。一人なんだろ、俺たちと組もうぜ」

 

 

俺たち?後ろにはフードがいる。フードを見て思い出すのはこの前の自殺志願者。もしかしたらあいつなのか?と思ったが口にはしない。

 

 

「いいぜ、キリト。俺はアハトだ」

 

 

見た感じソロで此処まで来たのだろう。こいつは出来るし、手札になる。そう思いながらパーティ申請にYESを押す。パーティが組み終わると解散となった。

結局攻略会議らしい会議してねぇ。最後に攻略本最新版が出たから目を通しておいてくれだとさ。余裕ないな、あいつ。

しかも明日の正午に攻略開始だとか何で周りの奴らはもっと慎重にならないんだよ。その後キリトとフードと少し連携の練習をして、アクシデントもあったがなんとか終わる。

今日の事を鼠に報告すると

 

 

全部知ってるよ、見てたからね

 

 

などとほざきやがった。

そして俺たちの第1層攻略がスタートする。


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