やはり俺は浮遊城にいること自体が間違っている(凍結中)   作:毛利 綾斗

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就活もひと段落着いて、試験終わったので投稿しますね。
でも今、留学の準備で忙しくて......。次早くても上がるのは10月になると思います!

ではでは、楽しんでいただけると幸いです。


後悔と....

カキーン

 

 

金属がぶつかり合う音が遠くで聞こえる。

実際は目の前の出来事なのに、だ。

俺は地面に転がっている短剣を拾い上げることなく、そのまま肩に当てていた得物を振るう。

ダメージを与えるためではない。ただ単に距離を作らせるためだ。

短剣を蹴り飛ばし他の2人にも存在をアピールする。

俺の目の前では誰も殺させない。俺から目を離すといつでも殺してやるぞ、と。

 

 

遠くで声がする。

 

 

「今度は『執行人』かよ。いいぜ、まとめて相手してやる」

 

 

「いや。ここは3人でこいつを消す。行くぞ、ザザ、POH」

 

 

と。

3人が突っ込んで来る。

POHの攻撃を躱し、片手剣を弾く。その隙に突き出された針剣の腹を伸ばした手で払い、切っ先をそらす。

隙をついたつもりだったのだろう。刺さるはずだった針剣は受け止められるはずだった力が前に残り、ザザは少し前体重になりストップが遅れる。

そんな奴の鼻っ柱を殴り飛ばす。

数メートル吹き飛ばされたザザはそのままダウン。

おそらく目眩でも起こしているのだろう。

 

 

 

急に動きを止めザザにに近づいたフードの男は片手剣を振り下ろそうとするが、POHの友切包丁が2人の間に伸ばされる。

何故か睨み合いを始めた2人だったが、フードの男が先に言葉を発した。

 

 

 

「もういい、こいつらは俺1人で処分する。死にたくなかったらここから消えろ」

 

 

と、静かに呟くフードの男。

POHは何も言わずにザザを抱えて走り出した。

雪ノ下を拉致った時は高圧的だったのに対し、かなりの服従っぷりで呆気に取られてしまう。

 

 

 

「チッ、使えないコマだ。Poh以外使えねえのにそのPohは言うこと碌に聞かねえし。あーイラつく............だから死ね」

 

 

 

そう言って目にも留まらぬ速さで突っ込んでくる。

1撃、2撃と無茶苦茶に片手剣を振り回してくるが全てを辛うじて弾く。

奴の意識を自分一人に上手く寄せられたのだろう。こちら側の残りは痺れているキリトのみ。残りは上手く逃げられたようだ。

まぁ茂みに隠れただけかもしれないが。

 

 

 

「もう直ぐ攻略組のメンツが応援に駆けつける。お前も早く逃げたらどうだ」

 

 

 

自らの口から出たはずの言葉はやはり、何処か遠く感じる。

 

 

 

 

「あぁ、イライラする。イライラする、イライラ、あぁアする!バカにしてるのか!俺が貴様なんか、攻略組の奴らから逃げるだァ!

いい、いいぜ。お前ら全員ここでゲームオーバーだよォ!」

 

 

 

そう言うと奴は片手剣を構えずに脱力する。

何をするつもりなのか、疑問に思うも頭の中でシミュレーションを欠かさずに。しかし、常に視界に残し、いつでも対応できるように意識する。

 

奴の右足が微かに前に動く。

無意識のうちに左手を得物に添える。

 

 

右足を後ろに振った瞬間......消えた。

 

 

直感で得物を構える。直ぐ横で金属がぶつかり合う音が響く。

そこで第一撃を防げたことを理解する。

二撃三撃、三撃四撃と紙一重で防ぎ続ける。

と言っても見えているわけではない。ただ近くの殺気を感じ、得物を合わせているだけ。

一撃必殺な刃は確実にダメージを蓄積させる。

致命傷は全ていなしているが少しずつ擦り傷が増えていき、身体には無数の紅い線が刻まれている。

 

 

「アハト君!」

 

 

急に飛んできた短剣を左手で上手く掴む。

飛んできた方を確認する暇が無いから感謝は後でいいだろう。何かを引き摺る音が微かに聞こえる。

 

 

 

「もういいですよ、先輩!」

 

 

 

そのまま右手にある得物を変形させる。

変形に必要な時間は1秒前後だったが、短剣でいなし躱すことでダメージを負うことはなかった。

 

 

「装備を変えた所で何が変わるってんだ!お前は俺に消されて終わりダァ!」

 

 

右手の曲刀で片手剣を受け止め、左の短剣を突き出す。

手数のアドバンテージは大きく防戦一方だったさっきまでとは変わり、一気に攻撃が決まり始める。

と言っても隙を生む大振りは避ける。そのために右の曲刀でいなし、左の短剣で素早い切り返しが入る。

 

 

圧倒的手数で押し切れるはずの両手装備。なぜ誰も扱っていないかというとソードスキルが制限されるからである。

簡単に言えば得物を持つことで溜めのモーションにズレが出たり、攻撃途中にバランスが崩れ無効化される。無効化されたとしてもクールタイムは同じだけ必要になるから誰も使おうとしない。

当然と言えば当然で、たった1秒されど1秒の殺し合いで生きている中、発動確率が落ち、しかもクールタイムのみが発生した日には死を覚悟しなければならない。

そんなリスクは誰も負いたくないのだ。

 

 

そんな現状の中俺は二刀流である実験をした。

結果としては実験は成功。リアリティを追求した茅場に対して感謝するしか無い。

試したのはソードスキル無しでの二刀流の実用性。それと同時にmob毎に行った部位によるHPバーの減少量や即死の確率。

mobのモデルとなった現実世界の生き物の特性が色濃く残っていて、ほとんどのmobは斬首で即死。百足など斬り落としても動くことが可能なmobもいたがコッチに襲いかかってくることなく、その場で暴れて消えていった。

ただこれを実践するには少なくとも数十のレベル差が必要になり、なかなか実践は難しいだろう。ただ一言言わせてもらいたい。両手装備は得物によって隙を全く無くし、攻撃し続けることができるということを。

 

 

対人戦において大事な技はソードスキルではなく、自身の経験による技だと俺は思っている。

ソードスキルはシステムのアシストが入るため発動速度、モーション全てが一緒になる。そのために避けることも余裕であり、隙を作ってしまう。

隙を作った瞬間に首を切られたら死んでしまうし、俺のレベルまで行けばどんな相手でも余裕で斬首を可能にしてしまう。いくら骨が硬いとしても力のパラメータをあげれば簡単に断裂させることができてしまう。

結論は隙を作りづらい短剣でちょっかいをかけ、刀などで攻撃を弾き、相手の隙にとどめを刺すというのが対人戦では案外強かったりする。

つうか俺のレベルだったら通常の攻撃でもかなりのダメージを与えることができるから関係ないのだが。

 

つまり何が言いたいかというと奴の攻撃を受けることはなくなり、怒りで雑になり始めた奴の体には多くの深く広い赤線が刻まれている。

奴のhpバーが赤く染まると同時に身体から黒い何かを吹き出し始める。

 

 

「あ、ガ.....アぁ..........ぐアァァァ!」

 

 

突然の変化に唖然としていた俺に得物を投げつけ、突っ込んでくる。

飛んで来た片手剣を弾こうと構えた瞬間それは急激に動きを変える。

急に止まったかと思うと横に振られたのだ。右横っ腹に激痛が走り吹っ飛ばされる。吹っ飛ばされる最中に何が起こったのか理解する。

奴は片手剣を投げ俺が意識をそれに向けた瞬間走り出す。弾くか避けるか、何かしらのアクションを起こす直前で追いつきそれを振るう。

もしこの技が完璧に完成していたらどうなっていただろうか。横っ腹を斬られ、即死ではないもののかなりのダメージを負う。

今の一撃でイエローゾーンギリギリまで削られたのだ、吹っ飛ばされずにその場で追撃を喰らい死んでいたかも知れない。

追撃を警戒し、受け身を取って急いで起き上がる。もう目の前まで奴が迫っていてもおかしくは無いのだから。

そんな俺の予想は外れていて奴は一歩も動いていない。

動いていないどころか奴はその場で笑っているのだ。

 

 

 

「ありがとなぁ。こいつ俺を手に入れたのに使おうとしない。狂ってるのに狂おうとせず狂ってるようにみせていやがるんだ。

だがお前のおかげで俺が表に出てこれた。完全にこいつは狂うことができた。感謝するぜ、だから今日は帰ってやる。次会うときがお前の命日だと思よ」

 

 

 

再び片手剣を投げるとクイックドローを用いて短剣を出し、時間差で投げてくる。

片手剣を弾き、短剣を受け止める頃には奴は既に見えなくなっている。索敵を発動すると赤カーソルは俺や他の9人が纏まっている方向とは反対側にものすごいスピードで動いていく。

あと少しで俺の索敵範囲からも抜け出すだろう。

辺りの索敵を辞めずにその場で腰を下ろす。

 

 

 

「.....あぁ、疲れた.....」

 

 

 

まだ帰ることはできない。するべきことがまだ残っているからだ。

一息つき立ち上がると9人がいる所まで足を運ぶ。

そこには鼠、雪ノ下、一色、キリト、アスナ、黄金林檎の4人がいる。

黄金林檎の面々は急に姿を現した俺に警戒しているらしい。

それも一瞬だけで他の5人の表情を見て大丈夫だと思ったのだろう。3人は感謝の気持ちを言葉にする。

一気に辺りに漂っていた暗く濁っていた雰囲気は霧散していくのがわかる。

そんな雰囲気をぶち壊すべく言葉を発する。

 

 

 

「.....グリムロックさん、ですよね。今回の事件の発端は......いえ、グリセルダさんの殺害も」

 

 

 

予め可能性を伝えておいた雪ノ下、一色、鼠以外が驚きを隠せずに、中には激昂する者もいた。

 

 

 

「グリムロックはグリセルダと結婚までしていたんだ。そんな彼が殺すわけないだろ!」

 

 

「そうよ。グリムロックさんとグリセルダさんはいつも仲が良かった。グリムロックさんも何か言ってくださいよ!」

 

 

彼は何も言おうとしない。ただただ、先程から変わらずその顔面に微笑みを貼り付けている。

彼らも薄々気が付いているのだろう。だから否定してほしい。だがそんなことは関係ない。

俺はそのまま続ける。

 

 

 

「......じゃあ何故グリムロックはここにいたんだ。しかもお前らとは別の所にわざわざ隠れて」

 

 

 

「そ、それは私たちが呼んだの。グリセルダさんを売った犯人を追い詰めたって言って。.....それで」

 

 

 

「別々に隠れていた理由は?」

 

 

 

「.....それは」

 

 

 

彼らはグリムロックを信じ、ミスを犯し、間違った答えをたどっている。

別に間違うことが間違いだとは思わない。間違って間違って、それでも諦めずに挑戦することを誰が馬鹿にできるだろう。それはあり得てはいけないことだ。ただそれは命をかけてまで行うことではない。

どの人も『無知は罪だ』と言うだろう。だからこそ自身が知らないことでさえも、知っているかの様に語り、ミスを犯す。

知らないことを何故認められないのか。

恐らくは人間が集団を求めること、少しでも集団内で優位に立ち続けたいという意識を少なからず持っていることが原因だろう。

まあ、ぼっちの俺には知ったことではないが、得意の人間観察からはそういう傾向が目についた。

 

人間とは集団で生きていく上で自分よりも下位の存在を必要とするのだろう。だからこそ隙を見せてはならない。隙を見せれば弱みを握られ今までは下位だと見下していた者に見下されてしまう。だからこそ人は自身の無知を隠し、憎み、恨み、罪とする。

彼らは自身らの無知を忘れ、下位の存在を作り上げ、考えることをやめてしまった。

彼らの犯したミスは『信頼』し過ぎたことだろう。彼は彼女の夫だからあり得ない。彼女は彼女と親しかった、彼は彼女と親しかった、彼だけが彼女が死んでから大きく得している.....etc.

 

うわべだけを汲み取り、知った様に感じてしまったこと。其れこそが最大の『誤ち』だろう。

 

本当の『賢者』とは己の『無知』を知っているものであり、『無知』を認めぬ者は『賢者』足りえない。現状に満足し考える事を放棄する者はそれこそ『愚者』だ。

彼らは無意識に感情論で知らないことを知っていると信じ込み過ぎた。疑うことを、考えることを辞めた結果がこの始末だ。

 

 

 

彼らは彼に言葉を求める。

俺の質問に対する否定の言葉を。

一向に変わることのない彼の態度に違和感を覚えたのだろう。彼らの表情は次第に強張り始め、今までは交互に送っていた視線が今では彼に貼り付いて離れようとしない。

そんな中

 

 

「あぁ、ここで君たちを殺せていれば私とグリセルダのことを知る者が居なくなるはずだった。そしてあの世でまた2人で.....。そんな考えも今、君に邪魔されたが」

 

 

 

「......グリムロックさん.....嘘.....ですよね」

 

 

 

彼女の声は虚しく響く。

 

 

「グリセルダは現実でも私の妻だった。あれは良く出来た女だったよ。家を守り、夫をたて、話をしてもいつも楽しかった。そして2人で一緒にSAOに入った。だがそれは間違いだった。

初めは2人で一緒に震えていた。ただ生活が厳しくなってくると、狩りをしなくてはならない。だから私たちは攻略本を基に狩に出るようになった。

次第に狩りのためフィールドに出ることが増えていった。狩りに余裕ができてきた私は気が付いてしまったんだ。グリセルダが狩りを楽しんでいたこと、これまでに見たことがない程に活き活きとしていたことに。

それから私たちは話し合い、攻略組は無理でも抗おうという結論に至り中堅プレイヤーの仲間入りをした。彼女は徐々に変わり始めた。だから私は私の知る彼女でいてもらうために殺した。私は私の知る彼女を守るためにグリセルダを殺したんだ」

 

 

3人は唖然とし、1人は泣き崩れ、1人は顔面を青くさせ、2人が哀れみとも怒りとも捉えられる表情をしている。

そんな中俺はどんな表情をしていたのだろうか。失望だろうか、それとも『本物』と勘違いした醜い気持ちの押し付けへの苛立ちだろうか。やはり自分ではわからない。

 

 

「あなたは間違っています!どうしてグリセルダさんを愛せなかったんですか。グリセルダさんもあなたが愛した人の1つの内面だったんですよ」

 

 

彼は笑いながら告げる。

 

 

「君は無条件で人間を愛することができるのかい。私には無理だった。そして君にも無理だろう。そんな甘い考えはやめたほうがいい」

 

 

「違う。私が言いたいのはそうじゃない。なんで愛した人のことを無条件で信じなかったんですか。新しい一面を知れたと喜べなかったんですか。なんでそれだけで.......それだけで愛する人を殺してしまったんですか」

 

 

どんどんと言葉から力が消えていくアスナ。

 

 

「彼女はあれで完成していたんだ。グリセルダなんて私が知らない一面は無駄だった。だから彼女をグリセルダが覆い尽くしてしまうために救済する必要があった。それに君にだけは言われたくな「黙れ」」

 

 

 

「そうかい。君は既に気が付いていたのか。いや、君ほど聡明な子なら気づいていて当然か。

そして君にだけは言われたくないよ、『血盟騎士団』副団長、『閃光』のアスナ。私と同じように奴らを使った君なんかにはね。私を裁くと言うのなら君も同罪だよ」

 

 

「あいつがしたことは知ってるよ。少なくとも俺とユキ、クレアの3人は。んで多分鼠も気づいてるんじゃねえの。まあ知らんけど。

って話が逸れるところだった。んで何が言いたいかっていうとユキも俺も怒っていない。違うな、気にしていない。

だからあんたが言ってアスナを追い詰めるのは違うだろ。

んでグリムロックさん。死ぬか牢獄に入るかどっちがいい。選ばせてやるよ」

 

 

 

「ハハ、気にしていない....か。面白いことを言う。傷付けているのは君の方じゃないか。君はもっと他人のことを考えた方がいいんじゃないのかい。

まぁいいか。ぜひ私を殺してほしい。この世界から彼女の記憶が薄れる前に退出したい」

 

 

笑いながらそう言うグリムロック。

 

 

 

「忠告ありがとうございます。それでは.......」

 

 

 

と一言告げると曲刀を首に振り下ろす。首を斬り落とすには十分な切れ味の曲刀に、俺のステータスだ。

グリムロックはその場に崩れ落ち、動き1つしない。

ポーチから青い結晶を取り出す。

 

 

「コリドーオープン」

 

 

もちろん俺が刃を向けて入ればの話だが。

そのまま気を失った彼を掴み上げると開いた青い光に投げ込み、閉じる。

 

 

「これで奴は黒鉄宮の牢屋だ。当分は反省してもらうことにした。じゃあ俺はこれを消してくるから」

 

 

そう言って頭の上にあるオレンジに染まったカーソルを指差す。

 

 

「私も行くわ」

 

 

「私もです」

 

 

ユキとクレアも付いてくるらしい。

取り敢えず予定になかったカルマクエストが必須になった今、本来の目的を告げることもできないだろう。

 

歩き出そうとした時、急に腕を掴まれる。

 

 

「ねぇ、アハト君。今さっきのはそう言う事なんだよね?」

 

 

「あぁ。さっきも言ったが俺もユキも気にしていない。お前は早く忘れろよ」

 

 

 

あの事とは雪ノ下がラフコフの連中に捕まったことを指す。

きっとアスナは拉致だけを頼んだのだろう。それで奴らが暴走した。

ただ彼女は気がつかなければなかった。奴らは殺人者だという事、そして自分の考えが歪みきり、狂っているということに。

まあ今は反省しているようだし、後悔もしている。なら何も言うことはない。

 

 

 

「アハト君、その言い方は無いんじゃないかしら」

 

 

 

「本当に先輩もユキ先輩も甘すぎです。2人とも命狙われたんですよ。ていうかユキ先輩はもっと怒っていいはずです!むしろ黒鉄宮送りにしても良いと思ってるんですよ私は。

でも2人がいいと言ってるのに私がずっとは言えませんしね。

でも先輩、もっと上手に言わないとユキ先輩が言うように勘違いされるかもですよ。

現にアスナの表情を見てくださいよ」

 

 

 

勘違いとは一体どういうことだろうか。

今は取り敢えずオレンジを消さないと悪い噂が立つかもしれないしで早く行動したい。

んであいつらにも話さなきゃいけないことあるし。

アスナの顔を見ろって。気にしなくて良いって言って許したのに何勘違いするってんだよ。

 

 

「アハト君!ユキさん!本当にごめんなさい!

私がしたことが許されないのはわかってる。でも謝らせてください。本当にすみませんでした」

 

 

それを聞いた雪ノ下と一色は俺に視線を向ける。どうやら俺に相手をさせるきらしい。

つかその『やっぱりややこしい事になった』みたいな顔やめてくれよ。

 

 

 

「別にいいって言ってるだろ。それに正直気にしてないことに謝れても困るしな」

 

 

 

「で、でも」

 

 

 

「んでお前はどうするんだ。謝ってもそれで終わりか?」

 

 

 

「いいえ。私はこれから私用でアハト君、ユキさん、クレアに近づかない。だって私が何でもするって言っても迷惑でしょ?」

 

 

 

ん?なんかおかしくないか。

 

 

 

「こら。女の子が簡単に何でもするって言っちゃいけませんよ。俺じゃなかったら大変なことになるかもしれん」

 

 

 

「なんでこんな時に私を注意するの。私は加害者で君達が被害者。君達には私を裁く権利がある」

 

 

 

「人に他人を裁く権利なんてねぇよ。あるのは自分を裁く権利だけだ」

 

 

 

「でも「ちょっと待ったー」.....クレア?」

 

 

アスナと問答をしている中、急に一色が声を出して邪魔をする。

 

 

 

「ちょっと待ってくださいよ、先輩。完全に話噛み合ってないですから。じゃあまずアスナ。アスナは今の現状をどう思ってる」

 

 

 

「私のせいでユキさんとアハト君が死にそうになったのに気にしてないって言われた。私のことなんてどうでもいいって言われてるみたいで.....。だから私は距離を置こうと思って」

 

 

 

「ちょっと待ってくれ。俺はそんなこと思ってないぞ。事の大きさに気がついて反省してるようだしもう言うことはねぇってことだよ。

それにお前らはまだまだ子供だ。実際の世界だったら親に対して迷惑をかけるような、な。

でも親は気にしたりしない。だろ?親にとって自分の子供を正しい道に導くのも仕事の1つだからな。

ゲームに囚われて正しい道から外れかけたかもしれない。正してくれていた人がいない今、何が正しいのかわからなくなることもあるだろう。

ただそんな時には俺を....俺やユキを頼って欲しい。多分だがこの中で年長だろうし、それに俺やユキはアスナやキリトに迷惑をかけられたところで気にしない。むしろ嬉しいとまで感じるかも知れん。

いつも迷惑しかかけてこないクレアのお守りもしてるくらいだしな」

 

 

 

「ちょっと先輩、それどう言う意味ですか。後でわかってますよね」

 

 

 

「今はちょっと黙ってろ。

あー俺は道を正すことはできるか分からんが一緒に歩くことくらいは出来ると思う。

道を正したいんだったらユキのとこに行けよ。

えーっと、俺の言いたいこと伝わってるか?」

 

 

 

「つまりは頼りにしてくれってこと?」

 

 

「まぁそう言うこった。おんなじ事を何回もされたら流石に迷惑だが迷った時に手を差し伸べたり、一緒に迷ったりはできるはずだからな」

 

 

 

ここにきてアスナは笑みを浮かべる。

ちゃんと伝わったのだろう。一色のおかげで誤解なく伝わったようだが、やはり俺は口下手なのだろうか?

 

 

「口下手というよりかは言葉足らずかしら。あなたと付き合いが長いか、ある程度理解がある人じゃないと本質が伝わり辛いというのは確かね」

 

 

 

「うっせ。でもそうか......って口に出してたか俺?」

 

 

 

「いいえ。でもあなたってすぐに顔にでるもの。その感じだと当たってたようね」

 

 

雪ノ下も微笑みながら言葉を発する。

そんな俺と雪ノ下を見た一色はほっぺを膨らませながら

 

 

「何2人で笑いあってるんですか。嫉妬しちゃいますよー。それより先輩、私に何か言うことがあるんじゃないですか?」

 

 

フフン、と胸を張りながらも褒めて褒めてというオーラを全開にする。ブンブンと振られている尻尾が見える気がする。

 

 

「いつもありがとな、クレア。ほんと助かってる」

 

 

 

そう言って頭を撫でてやると目を細めて嬉しそうにしている。

 

 

 

「今更機嫌とっても遅いですよーだ。後で付き合ってもらいますからね」

 

 

 

「んで、この話はもう終わりでいいだろ?」

 

 

 

俺たちの中では既に終わっていた話だ。異論など出るはずがなく話は終わるはずだった。たった1人を除いて。

 

 

 

「また今度皆の前で説明するから。だから........」

 

 

 

「ならちょうど良いや明後日の朝、リズベット武具店に集まろう。俺も話がある」

 

 

 

そんな俺の話をまとめる姿を見てアスナは

 

 

 

「なんだかアハト君、お父さんみたいだね」

 

 

 

「何言ってんだよ。アハトは兄ちゃんだろ。あ、そうだこれからハチ兄って呼んでもいいか」

 

 

「ん?どうしてハチ兄なの?」

 

 

「アハトってドイツ語なんだよ。日本語に直すと8。だからハチ兄」

 

 

「そうなんだ。じゃあこれからは頼りにしてるよ、ハチ兄!」

 

 

こんな感じで雰囲気は最悪から一転、いいものに移り変わった。『黄金林檎』の連中からは恐怖とも何とも言えない視線で見られているが関係ない。

それとそっちで話し合ってる4人。そろそろ俺との出来事を共有するのやめてもらっていいですか。ちょっと恥ずかしくて死にたくなるんですよ。

 

 

「アスナ、キリト。そこの3人は頼んだ。んで鼠を使って連絡送るから。んじゃカルマクエスト行ってくるわ」

 

 

そういうと転移結晶を使い、青い光に包まれた。


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