やはり俺は浮遊城にいること自体が間違っている(凍結中) 作:毛利 綾斗
違和感とかおかしいじゃんとか感じたらコメントいただけるとありがたいです。
またコメントを下さった方、ありがとうございます。モチベーションになります。
また新規の方もありがとうございます。
楽しんで頂けるようなものをかけるよう精進していく所存です。
と言っても当分は暗めな気もしますが....。
「シュミットダロ。そいつなら今は聖竜連合に所属してるゼ。ちょうど一年前ダ」
俺は今鼠と話している。違うな....情報を買っている。
ギルド立ち上げ用のクエストを終え、来ているメッセージを確認するとキリトから何通も届いていた。いつもの俺ならスルーしていただろうがギルドに勧誘しようと考えている手前現時点での無視は得策でないだろう。
内容を確認し、詳細を聞くと俺はある仮説にたどり着き、メッセージを返した。
メッセージにはただ一文、シュミットの動向を監視してくれ、と書いて。
「オイ、聞いてるノカ、はーちゃん」
グリセルダさんは殺されたんだろう。おそらく犯人はあいつらで間違いない。
なら誰が依頼したかだ。1番疑わしいのはシュミットだ。
最前線から10層も下で活動していたギルド『黄金林檎』を抜けてすぐに聖竜連合に入るなんてあり得ない。あそこはレベルだけでなく装備の品質も確認してくるからだ。寧ろ装備がしっかりしていれば入団することも可能とまで聞いたこともある。かなりの金を装備に費やしたことになるだろう。
そんな金をどこから調達したのか疑わしいが、ただ怪しすぎる気もする。もっと上手く出来るだろうにここまで怪しい要因があると逆に疑わしくなくなってくるから不思議だ。というかここまで揃えば誰かに謀られたというのが正しいだろう。
なら、誰にだ......?
パシ
っという音と共に頭に痛みが走る。
「ねぇ、話くらいちゃんと聞こうよ。考え事してると周りが見えなくなるのはアハトの悪い癖だよ」
「痛い、何すんだよネズ......ミ?」
さっきまで前にいたはずの鼠フードは消え、代わりに浅黒い整った顔の少女が座っている。黒い綿パンに黒いタートルネックを着た少女が座っているのだ。
「.....あの、どちら様ですか?
それにさっきまでネズ....情報屋がここに居たはずにゃんだ.....なんだが知らないか?」
この世界で死線を幾度となく、くぐり抜けてきたとしてもやはり俺のぼっち体質は治らないらしい。もうここまでくると誇りに思うレベル.......って恥ずいからこんなん早く慣れたいんだよ、正直に言えば。
「オイオイ、何寝ぼけたコト言ってんだヨ。俺ダゼ俺。皆の情報屋、『鼠のアルゴ』さんダゼ」
目の前の少女はジト目で独特な口調を使った。
そういえばこんな外見だったな....。
「久々に素のお前を見たから頭回らなかったんだよ。しかも仕事の話の途中にだぞ」
「話の途中に考え込み出すアハトが悪いんでしょ。わかったらちゃんと聞こうよ」
ごもっともな忠告に抗議を辞めて頭を下げる。ボッチはちゃんと弁えているものなのだ。
「まぁいいや。怪しまれてるし一回移動するよ」
移動した先は22層、俺が拠点としているホームの前。
市街地からそこそこ離れたところにあり、mobが湧かないように設定されているエリアにあった家。値段もあまり高くなく人から離れた立地ということが決め手で買ったが思った以上に景色も良い。
我ながらいい物件を見つけたと密かに喜んだレベルだ。
家に帰れたのは嬉しいし、ありがたい。ただ問題が1つあるとすれば、『なぜ、アルゴが俺の家を知っているのか』だ。
俺はこの家を誰にも教えてはいないし、勘付かれたくないから帰宅するときにはかなり気を配っていた。
「なぜここを知ってるって聞きたそうな顔だね。知ったのはたまたまだよ。下層に用事がないとこないアハトが22層にだけは頻繁に来ているような気がしてね。ここならレベル的にも問題ないし1人で探してたらアハトが好きそうな条件の家があっただけ。後はアハトが来るかを数日間張り込みしてたんだ〜」
頬に手を当て、恥ずかにそうにそう言うアルゴ。
やってる事はただのストーカーということに何故気がつかないのだろうか。
バレているならしょうがない。俺はアルゴを迎え入れ話を聞く体制に入る。
「この情報は誰にも売るなよ。んじゃ話を始めてくれ」
頷き情報を話し出すアルゴ。
残ったメンバーの現在、問題の指輪の詳細、killの方法、etc.....。
普通に考えればグリムロックが他の奴らをkillしているのだろう。ただ彼にはアリバイがあるらしい。
「ちょっと待て、今日が命日なのか?」
「うん。もっと詳しく言えば今日の16:00だよ」
2年もかけて復讐をするような相手が命日の前に2人をkillするのだろうか?
俺はよくわからないがここまで執着する奴なら命日に一掃するんじゃないのか......。
「鼠、今すぐ黒鉄宮に行って確かめて欲しいことがある。大至急だ!」
「え、ちょ。どこに行くのさ」
「十字の丘だ!お前は絶対に来るなよ。
後は頼んだ」
鍵を出し鼠に投げる。
そのまま走り出し転移門まで急ぐ。
途中キリトからのメッセが届き転移結晶を使い19層まで飛ぶ。
どうやら想像していた最悪の未来が訪れたようだ。
シュミットの後を追い、辿り着いたのは19層の十字の丘。
大きな十字架が1つオブジェクトとして置かれている所からそう名付けられた丘だ。
奴の挙動がおかしかったからアハトにメッセを飛ばした。
彼は何かに怯えているように辺りにキョロキョロと目を向け、今にも発狂しそうな様子だ。
「おい、いるんなら出てこいよ!」
急に叫び出すシュミット。
隣にいるアスナが動こうとするが止める。
目で訴えてくる彼女にシュミットを見るように促すと、何かに気がついたかのように黙る。
「俺を疑ってるんだろ。でも、あれは俺のせいじゃない。俺だって知らなかったんだよ!
あんな事が起こるって知ってたら絶対に言う事聞いてねえよ!」
気がつくとローブを着た女性が十字架の前に立っている。
「.......悪かった。あんたが死ぬなんて思っていなかったんだ。本当に悪かったよ.....」
その場に崩れ落ち、赦しを乞うシュミット。
シュミットが独白を始める。
立ち去ろうと動き出した瞬間、すごい速さでこっちに向かってくる3つの反応現れる。
「アスナ、誰かくるぞ。カーソルは....赤だ」
アスナは何も答えない。
「あと数秒でここに来る。撃退するぞ」
視界に映るアスナは強張りながら無言で頷く。
「.....3、2、1、今だ!」
茂みから飛び出して奇襲は成功。あとは刀身が身体を貫くだけだ......と思っていた。
切っ先は友切包丁によってずらされ、行き場を失くした力はそのまま虚空に消えていく。
「ハハ、アニキの言った通りでしたね。ナーPOH!」
「そうだな、ってお前だったか『黒の剣士』」
目の前にいたのはPOH、ザザ、そして見知らぬ『アニキ』と呼ばれるフードを被ったプレイヤー。
距離を置こうとするも体が動かない。
すると左足の甲に鋭い痛みが走る。
ザザが愛用している針剣が貫き、麻痺のデバフが身体を蝕んでいた。
「いいねぇ。アニキ、『黒の剣士』は俺がいただく。ザザと2人で残りの雑魚を頼んます」
甲から針剣が抜け、不快感がなくなる。
体はピクリともせず、周りの状況が全くわからない。ただわかることは他の皆はまだ無事と言うことくらいだ。
と言っても彼らは動けずに止まっていることから考えることを放置したんだろう。
「本当は正々堂々闘って殺したかったが.....。じゃあな」
俺の首めがけて振り下ろされる友切包丁はスローモーション。まるで映画のワンシーンのようだ。
気がつくと目の前は真っ暗になっていて.....。
あぁ、死ぬときは最後まで目を開けていようと思ってたのに。
走馬灯ってやっぱりデマだったんだな......。
やっぱり......死ぬのは............怖いよ......。