やはり俺は浮遊城にいること自体が間違っている(凍結中) 作:毛利 綾斗
「それで君は攻略もせずに一体何をしてるのかな?みんな迷宮に篭り詰めてるんだよ」
赤と白の少女が黒い少年を半ば咎めるように言う。そんな少女に対し少年は
「今日はSAOでも初めての最高な天気なんだ。そんな日は迷宮に篭るよりもこうやって風を体に感じながらゆっくりするよ、俺は。
こうやって息抜きするから明日からも頑張れる、そう思わないか」
とのんびりと答える。
ちょうど凪いだ風に押されるように起こしていた上半身を再び下げ、目を閉じる少年。
「なんでそんなに余裕で居られるのよ。最近攻略ペースはだんだん落ちてきてるのよ。なのに攻略組でもトップレベルの実力の君が.....示しがつかないとは思わないの」
額に手を当てため息をつきじと目を向ける少女。
「息抜きだよ。モチベーションが下がれば効率も落ちる。メリハリは大事だって俺は学んだからな。焦ってもミスを引き寄せるだけだし君も休んだら」
少女は焦っている。だから説得が無駄だと理解してすぐに立ち去るだろう。
そう思って発されたのに反するように少女は腰を下ろしていた。
「あのー、攻略には行かないんですか?」
お前がそれを言うのかというまさしくブーメランな質問。
「君が提案したのにそれ言っちゃうんだ?」
とジト目で呟いた少女は横になり目を閉じる。
その後、3分もしないうちに小さな寝息が聞こえてきたことは言わずもがなだろう。
「ちょっと待てってアスナ。誰にも言わないからいいよ」
「何よ。私とご飯食べられないっていうの?」
「そうじゃない。ただ女の子に奢られるのはプライドが.....」
所は57層。時は昼ごろ。
全身黒ずくめの男は半ば無理やりといった感じで白と赤の衣で包まれている女に引っ張られている。
男の方は抵抗していたものの御構い無しに突き進んでいく女。
男は抵抗することを諦め、割り勘で落ち着かせるために頭の中で何度もシミュレーション開始するのだった。
「NPCだけど意外に美味しいな」
「そうなのよ!私もたまたま見つけたんだけど自分で作るのが面倒な時はここにお世話になることが多くって」
「へぇー。俺もこれからここにしようかな」
昼食も食べ終わり、食後のティータイム。
2人の会話は客が殆どいない室内で響き渡る。そんな仲の良い姿を見ながらマスターと呼んでも違和感がない風貌の男性がグラスを拭きながら微笑んでいる。
そんな空気を女側が切り裂き、本題に入るようだ。
「この前は本当にありがとうございました。
私結構勝手なこと言ってた。それに睡眠PKされなかったのも君が居てくれたからだし」
「気にしなくていいよ。俺が昼寝を勧めたんだし、攻略を頑張っていた疲れが出ただけだろうし。それに俺としては目の保養に.......聞かなかったことにしてください」
「それに君に睡眠PKをする奴なんていないよ」
アスナが何か言っている。それは動いている口から理解できた。ただ彼女の声は外から聞こえてきた悲鳴によってかき消されてしまった。
「アスナ、行くぞ」
俺の声と同時に飛び出していくアスナ。
俺は急いで食事代を払うと遠くにあるアスナの背中を見失わない様に走って行ったのだが....
いつも朝市が開かれている教会前の広場。其処は沢山の人でごった返していた。それはおかしな事ではない。
色々な物が置かれている朝市にはプレイヤー、NPC関係なく人が集まり大盛況だ。
ただ今は朝市にしては遅すぎる時間で、教会の目の前、しかも入り口を中心として綺麗な円形の人集りができているというのがおかしい。
さらに言えば全員が見上げている。
視界の先には甲冑を着込んだプレイヤーが槍で貫かれ首をつった状態で教会の時計の下あたりにぶら下がっていた。
どこにいるかもわからないが今は一刻を争う状況だ。
「アスナ、俺が上に行って縄を切る。できるだけダメージを負わない様に受け止めてくれ」
と大声で聞こえるように叫ぶ。
それと、と続けようとするが
「わかったわ。後周りに注意しておけばいいわよね」
と思ったより近いところから返答が返ってくる。
俺は軽く頷き俊敏パラメータをフルに使って教会の階段を駆け上った。階段は木製で古く、人1人が通るので精一杯の広さだ。
階段を上りきり、扉を開けると足元には麻縄が。
俺は剣を抜き足元の縄を見る。足元からはこの世界で血の役割をしている紅いポリゴン片が浮かび上がってきている。
時間がないかもしれないと急いで縄を切ると男は下へ自由落下を開始した.......が途中でシャンっと音がなり何かが壊れたことを意味する青いポリゴン片が
ガチャン
何か金属が地面に落ちる音だけが虚しく響いた。
足場に隠れていて見えなかったが空中でHPが全損してしまったらしい。
そう分かった瞬間、俺は地の利を生かして辺りを見回した。目的のモノを見つけ出すために。