やはり俺は浮遊城にいること自体が間違っている(凍結中)   作:毛利 綾斗

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やはり俺たちの50層攻略は失敗に終わる

 

50層は龍人の都というコンセプトらしく一体一体の強さは恐ろしいが滅多にパーティーで来ることがないのである。一対一なのでスピードで勝っている俺は其れをフルに使い切り刻んでいる。ただ何処かに違和感を感じるのだ。

HPゲージは満タンだが何処か無理をしている様に見える。相手はゲームのmobだ、そんなことあり得るわけがない。そう思い俺は違和感を放り捨てた。

 

簡潔に言おう。50層のフィールドボスは物凄い弱かった。

フィールドボス『ドラグパラディン』はヒースクリフみたいな装備の龍人だった。最初こそ巨大な盾に攻撃を阻まれていたが愚鈍な動きで俺の動きに着いてこれず、30分も掛からずにケリを付けた。LAボーナスは『龍の鋭爪』と言う名前の指輪だった。ステータス値を見ると攻撃が+20となっている。

俺はこれまで付けていた緑色のリングの代わりに紅く輝くリングをつける。

たった20、されど20を実感する。mobを攻撃する手数が減るのだ。手数が減れば武器耐久の減りも少なくなり、今まで以上にmobを狩れる。そうすればいつも以上に攻略スピードが上がる、とプラスに繋がった。

そんな感じでハーフポイントである50層をいつも以上に順調に攻略していったのだった。

なんやかんやで開層から1週間でboss部屋に着いた。それから先遣隊を何度か派遣し、何度も会議、作戦のシミュレーションを行い、boss部屋発見から3日目の今日攻略が開始された。

俺たちは大きな間違いをしていたんだ。25層の時はフィールドボス、普通のmobもかなりの強敵だったのに対し大した危険もなく攻略してきたからだろう。何処かプレイヤーの間には緊張感がない。そんな中俺はいつも以上に気を張り詰めていた。理由は簡単だ。忘れていた違和感をふと思い出したから。そしてこういう時は大体悪いことが起こる。それだけでも最悪なのにあいつらがこの層、50層から攻略に参加してきたからだ。

こいつらを死なせはしない。俺の命に代えても絶対に守ってみせる」

 

同じパーティーのため近くにいたユキ、クレア。そして何故か近くにいたアスナが頬を微かに紅く染めるのをアハトは気づかなかった。きっと気づいていたら羞恥で死んでいただろうから良かったのだが。

扉を開けて先ず目に入ってきたのは白く長いもの。

余りにも大きすぎてまだ全長を視認できない。そんなbossに先陣をきって斬り込む。

あとbossまで5m程となった時にHPゲージ、名前が現れる。ゲージは5本で名前は『ロードオブドラゴン』。その周りには5体の精鋭『ナイトオブドラゴン』。ここまでは事前情報の通りだ。後の情報はHPゲージが減ってもmobはポップしない、mobを呼び出す、と言うものだった。

俺は手始めに《オーパル・クレセント》をbossに食らわせる。1本目のバー1%程しか喰らわせれてないがヘイトが俺に集まりbossが前足でなぎ払おうとする。それを他の隊のタンクがガードし、俺はそのままmobの殲滅に入る。mob討伐はG、H隊に任されていたのだが誤算が発生した。迷宮区で出たものよりも動きが早く鋭いのだ。俺、キリトは各個撃破、残りの4人で一匹と言う内訳で我らがH隊は戦っている。俺はmobの一体をさっさとポリゴン片にすると同じH隊のフォローに入る。と言ってもキリトのフォローにまわるだけだ。キリトも対処は出来ているので邪魔をしない様に攻撃をするというスタンスなのだが余裕があるため考えに耽る。なぜ迷宮区のmobとここまで動きが違うのか、違いを挙げることにする。

動きが早くなり鋭くなった、その一言に限る。

いや、違う。これが通常の実力なんだろう。迷宮区のモブは何処か足を引きずったりと、どこかを庇っている様な素振りを見せていた気がした。まるで何処かを痛めていたかの様に。そこから導き出される解の中で一番最悪なものは.......bossの戯れで傷付いた体で迷宮区を彷徨っていたから。なぜ単数だったのか、それは恐らく彼らの誇りだったのだろう。最後まで戦い抜くこと、そして仲間には弱った姿を見せないことが。

 

だがbossの戯れであそこまで傷つくということは本気の攻撃の威力はどうなるんだろうか。

今とは比べものにならない威力だろう。ABCDEF隊の戦いを横目で見ながら冷静に思う。今のままだと死ぬと。

そんなことを思っていると目の前のmobはポリゴン片に変わり、もう一体のmobも消える。

H隊は敵を殲滅し終えるがG隊は些か手こずっている様だった。と思っていると一匹ポリゴン片に変わる。ラスト一体というところで仲間の加勢に気を一瞬緩めたプレイヤーの胸に刀が突き刺さる。そのままmobは刃先を持ち上げる。

周りのメンバーが助けるために一気に攻撃する。プレイヤーはもがくが体から刀身が抜けることはなく、逆に傷口が広がっている。数秒後mobとプレイヤーが同時にポリゴン片に変わり辺りには沈痛な雰囲気が漂った。

25層の軍の大打撃と言う名の大量死以来久しぶりにboss戦で死人が出た。それも取り巻きによってだ。そんな受け入れたくもない事実によって動きを止めるGH隊のメンバー。ABCDEF隊は気付いていないのが唯一の救いだろう。

 

 

「......今は気を落としてる場合じゃない。行くぞ」

 

 

そう言ってH隊のメンバーを引き連れてbossの撃破に加わる。

 

 

「.......取り巻きの討伐は終わった。H隊も今からそちらの指揮下に入る」

 

 

「わかりました。大まかな指示はこちらが出します。引き続き細かい指揮はそちらでお願いします」

 

 

先ずは後方待機のようで時間ができ、ボスを観察する。首は長く背には棘が生えていて全身が真っ白な鱗で覆われている。頭には短いが確かに2本の角が生えていて目は青く輝いている。

 

 

「ABC隊退却準備、DEFH隊攻撃準備に入ってください。3、2、1」

 

 

俺は《ワイドシュナイダー》を発動させる。

 

 

「スイッチ」

 

 

アスナの号令が下った瞬間に俺は飛び出していた。

俺の刃が切り裂いた部分は鱗が捲れていた部分。すると一気にHPバーが1割ほど減り、更に鱗が数枚外れる。俺は硬直後に落ちている鱗を拾うとポーチに放り込む。2回攻撃してみてわかったのは硬さがとてつもないことと鱗の無い部分少しだが多めにダメージが入るということだ。あの距離からの《ワイドシュナイダー》は取り巻きmobのHPバーを全損させるほどの威力を誇っている。それで一本の1割ほどというのだ。驚異的な硬さである。

だが隊ごとのスイッチを繰り返しているうちにどうにか2本半削ることができた。それでもこれまでに30分以上かかっいる。単純に考えてあと30分以上戦わなければならないということで、集中力が途切れ、思考が鈍るのは必然だろう。

 

 

「スイッチ」

 

 

アスナの号令により俺たちH隊は後ろに下がる。入れ替わりの攻撃が入ると白龍は動きを止めそれからすぐに白龍が大きく息を吸う。これまでには無い攻撃パターンだ。

本来ならばブレスが来るだろう。

しかし白龍はブレスを吐くことなく全身から黒い炎を撒き散らした。前衛のタンクが盾でガードするが体に炎が移り燃え始める。と同時に動きが止まり急に倒れ始める。

 

 

「何が何でもあの炎には当たるな!」

 

 

俺が珍しく叫んだことでH隊の殆どのメンツは飛んできた炎を躱している。ただタンクだったエギルとクリスは盾でガードしてしまった。2人の体は黒い炎に包まれ動かなくなる。2人を確認すると継続ダメージと行動阻害のバッドステータスが付いている。

黒い炎を喰らわずにいられたのは生存者47名に対して5人だけだった。そして今の炎で命を散らした数は3人、また人数が減った。俺はウィンドウを開くと籠手を取り出しエギルに当てる。

 

 

「キリト、アスナ、ユキ、クレア、お前らはメンバーの救出を頼む。火は移らないから門の外まで運んでくれ!

俺が此奴を抑える」

 

 

「何を言ってるのかしらアハト。貴方1人で『ロードオブドラゴン』を倒せるとでも思ってるの?」

 

 

「ユキ、今は言い合ってる暇は無いんだ。それに見ろ、今の彼奴は『エビルドラゴン』だ。鱗を捨てた分スピードもかなりのものになっているだろう。これ以上犠牲を出す前に安全圏まで連れて行くんだ」

 

 

全身から純白の鱗が落ち、真っ黒な体が露わになる。そしてその体を守るように纏っている黒い炎は全てを燃やし尽くす勢いだった。

恐らくだが鱗を捨てた分早くなっているがその分ダメージも通りやすくなっているだろう。攻撃力も増してそうだが........。

俺の言葉が正しいと思ったのかこれ以上は文句を言わずに動いてくれる。

ただ1人アスナだけが硬直して動かない。

 

 

「アスナ!」

 

 

俺の声に反応し振り向いた彼女は恐怖と絶望、責任の重さに押しつぶされている。

 

 

「今、お前に出来ることは少しでも早く、転がっている奴らを安全なところに運ぶことだけだ」

 

 

アスナが動いたかどうかはわからない。

それから俺は待ってくれていた『エビルドラゴン』の方に向き直り刀を握り直す。

次の瞬間斬りかかった俺を前足で受け止め尻尾で反撃してくる。俺はギリギリのところで回避したが僅かに擦り2割ほど持っていかれる。

攻め続けないと、防戦に回れば何て甘い考えを持てば手も足も出ずに殺られる。もっと反応速度を上げ無いとダメだ。

そう思って集中した瞬間声が聞こえる。

 

 

 

『君に僕の力を貸してあげるよ』

 

 

 

目の前から飛んでくる攻撃を俺は紙一重で躱す。それから俺は一度もダメージを食らってい無い。ただ問題としては速さが互角のためにお互いの攻撃が入らないということだろう。幾ら攻撃したとしても防がれていては武器の耐久値が減っていくだけだ。耐久という制限がある以上長期戦は不利でしかない。しかもいつもより耐久値の減少が激しいのだ。あと少し、もう少しでも速く動けたら..........そんな思いが生まれる。

 

 

 

『仕方ないわね。私の力を貸してあげるわ』

 

 

 

再び声が聞こえた。

いよいよ俺はどうかしてしまったのだろうか?

俺はこの声を不思議に思いながらも今は目の前のbossだけに集中する。少しずつだが俺の攻撃が当たり始めている。それでもギリギリ当てているという感じで大したダメージにはならない。

もっとダメージを与えるにはクリティカルを狙うしか......。難しいのはわかってる。それでもそうしないと終わらないんだ。

 

 

 

 

『君の覚悟は受け取ったよ。私も君に力を貸してあげる』

 

 

 

 

まただ。少しずつだがbossの体に刻まれる赤い線に太いものが増えている。

少し攻撃が単調になってしまったのだろう。

bossも学習しているらしく次の行動を予測されて待ち構えられてしまう。

だがそれはフェイクだ!本命はこっちなんだよ。

投擲スキル《スピンショット》を放ち直ぐに高く跳ぶ。目の前の刃に意識がいっているbossは俺がどこにいるのか一瞬見失う。俺はすかさず体術スキル《ワイドスクリュー》を発動する。

今じゃ硬直時間すら勿体無い。

少しでも早く、今よりも早く動け!

 

 

 

『お前、俺つかいこなす』

 

 

 

『そうだ。その調子を忘れんじゃねぇぞ』

 

 

 

ヘイトを向けている俺が時々視界から消えるせいで困惑するboss。

残りは1本半。ただこのままじゃ俺の武器が先に限界になるだろう。あの身に纏ってる黒い炎が武器の耐久値を削ってるみたいだ。

俺はもっと力が欲しい。一撃一撃にもっと重みがいるんだ!

 

 

 

『いいぜ。俺の力を与えてやる』

 

 

 

 

俺の放った攻撃でbossが怯む。今までで一番太い線が身体に刻まれる。初めてのことに嬉しくなるが心をクールにして攻める。攻め時を決して間違えないように。

 

 

 

『いいのう、その冷静さ。儂はお主に全面的に協力するぞい』

 

 

 

バーは残り1本。更に攻撃の手を休めることなく攻め立てる。刀で切り裂き、左手に持った『狼牙』で《スクリューショット》を放つ。投擲された短刀は目に突き刺さりbossは苦痛の悲鳴を初めてあげる。

そのまま姿を消しては攻撃、重攻撃を与えたら一度引き間合いをとる、そしてまた隙を見つけてダメージを与える。そんなことをしているうちに救助は終わり4人が戻ってくる。

どうやらアスナも動いてくれていたようだ。

俺が重攻撃を与え、黒龍がスタンしたところを全員で集中砲火する。やっとHPバーは最後の1本の半分となり、黒龍は吠える。同時に再び黒い炎を撒き散らす。先ほどとは比べものにならないスピードだ。アスナ、キリトは無事に回避したが他の2人は諸に喰らってしまった。

 

 

プチン

 

 

俺の頭の中で何かが切れる音がした。そのまま俺は怒りに身をまかせる。

よくも雪ノ下と一色に手を出したな、と。

ただドス黒い感情が体を巡りただ壊すことだけに集中する。

 

 

 

『いいねぇ、その感情。身を委ねちまいなよ。そうすりゃ俺がお前を最恐で最強にしてやるよ』

 

 

 

俺は今までとは比べものにならないスピードで立ち向かう。俺は先程まで感じていた恐怖を忘れ、身体のあちこちに出来た傷による不快感もない。ただ《エビルドラゴン》を殲滅することだけに集中しているようだ。

奴の槍のような尾と刀が交差する。

攻防の最中にも余裕ができ、その余裕の中で冷静に先を読み、思う。

このままでは武器が持たない、もっと彼奴を殺るための力が欲しい、と。

 

9個目の声がした。

 

 

『お前は何故力を欲するのだ』

 

 

俺は答える。

俺に仇名す敵を全て消し去るためと。

 

 

 

『貴様に仇名すというのは一体なんだ?』

 

 

 

俺に仇名すということは俺の大事なモノを傷つけること。俺はそれを許さない。

 

 

 

 

『貴様が欲するのは守るための力.......。しかと貴様の思い受け入れた。俺の力も貴様に分けよう

そして9つの力を手にした者よ。『『『『『『『『今こそ新しい力を貴様に与える』』』』』』』』』

 

 

 

 

『You got an extra skill!』

 

 

 

首を一閃する。これ以上は危険と思い刀を両手剣に持ち変える。スピードは落ちるがパワーでゴリ押す。HPはあと1/4、ただ両手剣の耐久値もここまでのようだ。持っていた武器が砕け散り、刀もいつの間にか消失している。俺は『狼牙』を握ると短剣スキル《ペンタクライズ》を発動。斬り刻み、出血のバッドステータスを付与する。『狼牙』は耐久値が減らない。それはすごいありがたいのだが威力は低く俺の手に直接痛みが走る。残りHPは一割程度。こっちは残り1/3位か......。

キリトとアスナは超高速バトルに手を出せずにただ立ち竦んでいる。俺は最後の賭けに出た。『狼牙』を腰に付け、ポーチから3枚の鱗を取り出すと投擲スキル《ドライショット》を発動する。俺はそのまま走り出し最後で最大火力の体術スキル《グランブレイク》を使う。拳による10連撃、そのまま踵落としにサマーソルト、最後に両手での突きという13連撃。

 

一撃一撃に炎のダメージが加算される。

拳は焼けただれているが痛みはない。ただ細かい動きが出来なくなっているところを見ると、もう手は限界なのだろう。

体術スキルの中でも長い硬直に縛られる。

僅か数ドットのHPを残したエビルドラゴンはいやらしい笑みを浮かべながら俺の心臓めがけて尾を伸ばした。

遠くから叫び声が聞こえる。

......大丈夫だ、心配する必要なんてねぇよ。

 

 

 

 

 

 

 

先ほどからの比企谷君の攻撃は凄まじい。最初こそほぼ互角だったのに対し(1人でboss相手に互角は異常でしかないが)今では完全に圧倒している。しかもあのハーフボスにだ。

炎で動けなくなった私たちは彼に守られている。そんなことで嬉しく思う私はなんて単純なんだろう。

これまで1人で生きていた影響かしら?後で考えを纏めないといけないわ。

でも彼の横に立っていたいと思う気持ちは紛れも無い本物で、でも彼に守ってもらいたいという気持ちも本物で........。

だから私は決めたわ。もっと強くなって私は貴方を守ってみせる。あなたは何も言わずに助けてくれるのだし、当然よね。

それが今の私が考えられる本物の関係だから。

それからすぐ彼はboss目掛けて何かを放つと走り出しタメを作る。

そこからはbossに身動きすらとらせない攻めを見せる。

彼の技はヒットアンドウェイを主体としたものだった。

技が終わり着地した時、全てが終わったようだった。だってbossのHPは全損せずに今にも彼のHPを全損させようとしているのだから。

私は気づいたら叫んでいた。ただ何を叫んだのかわからない。

尾が彼の胸を抉った瞬間、辺りに青いポリゴン片がキラキラと飛び散る。

彼が死んだ......。

攻略は失敗だ。

それにもう彼はこの世にいない。私はこれからどうすればいいのだろう。

彼が死んだ世界に私が生きる意味はあるのかしら?


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