英雄になりたいと少年は思った   作:DICEK

17 / 55
ダンジョンに行こう②

「おはよー、レフィーヤ」

「おはようございます。ティオナさん」

 

 黄昏の館、女子塔の入り口。ティオナとレフィーヤは共にダンジョンに行く時、いつもここで待ち合わせる。ベルが合流するのは、ここから少し離れた所にある訓練場か本拠地の大門なので、ここで合流する時は基本的にレフィーヤが一人だ。

 

 2人でダンジョンに潜っていた所に、別の者が加わるのである。レフィーヤも、最初は良い顔をしていなかったが、二度、三度と一緒に潜る内に少なくとも態度には出なくなった。悪いことをしたなぁとはいかにティオナとて思わない訳ではない。

 

 しかし、こういうことは何も早い者勝ちではないのだ。後からやってきた者だって、良い目を見たいのである。

 

「聞いた? ベルってば鍛冶屋まで行ったのに、何を作ってもらうか決めてなかったんだって」

「ヘファイストス・ファミリアまで行ったのにそれじゃあ、無駄足でしたね」

 

 実際にはヘファイストス・ファミリア団長である椿と繋がりができたのだから、完全に無駄足という訳ではないのだが、出来るだけ早くという注文を出していたのに、肝心の内容が決まっていなかったというのだから、レフィーヤに無駄足と評されるのも仕方ないことではある。

 

 とは言え、ベルは冒険者になって日が浅い。出した結果こそ華々しいものであるが、人生をかける武器をこれ、と決めるにはまだまだ経験が足りない。これについては、もう少し周囲の人間が相談に乗ってあげても良かったかもとティオナも反省していた。

 

「ティオナさんは、ベルはどういう武器を使うのが良いと思いますか?」

「あんまり大きな武器は止めておいた方が良いんじゃないかな。長くても、普通の剣。とりあえずは、短剣かナイフか、そんな所が良いと思うよ」

 

 敏捷特化のベルは、その速度を重視した戦い方が向いている……というのが、ティオナに限らず、ベルの面倒を見ている冒険者全員の見解である。大きな武器は取り回しが難しく、彼の最大の長所を殺してしまう。これが一生で唯一の武器というのではないのだし、まずは向いていそうな物をというのがティオナの考えだ。

 

 

 ベルの姿が見えると、レフィーヤは相好を崩した。正式にランクアップを果たしたベルに、彼女自身がプレゼントしたシャツとズボンを、ベルが身に付けていたからだ。プレゼントして数日経つのにこれなのだから、実に安上がりだとティオナは思った。自分ならば、リヴェリアがプレゼントしたものがベルの身体により近いことが気になって仕方なくなると思うのだが……

 

 それはともかく、ベルはその服の上に倉庫から借りてきた防具を身に付けている。微妙にサイズの合っていなかったそれは、ガレスの手によって今は調整されていた。本職ではないため、分類上は素人のはずなのだが、ドワーフだけあって手先が器用なのである。

 

 武器をオーダーメイドにするのだ。欲を言えば防具もというのは当然の流れだが、残念なことにベルにはそこまでの予算を捻り出すことができない。何の制限もなければこっそり捻出するかも、と危惧したフィンは資金を捻出しそうな団員筆頭であるところのリヴェリアに『高額なプレゼントは禁止』という団長命令を言い渡した。

 

 成果相応とは言え、ヘファイストス・ファミリアの団長が打った武器の入手が確定しているのだ。この上防具までオーダーメイドとなると、流石に他の団員に示しがつかないという訳だ。

 

 にこにこしているレフィーヤは気付いてすらいないのか、ベルの隣に別の誰かがいる。

 

 黒髪、ハカマ、褐色の肌に左目を隠す眼帯。これらの記号だけでも、オラリオに住む冒険者ならば誰のことか察しがつくだろう。ヘファイストス・ファミリア団長、椿・コルブランドだ。彼女は当たり前のようにベルの横に立って彼と談笑をしているが、その隣には大荷物が置かれている。

 

 ドラゴンの爪でも破れないのでは、という程頑丈な作りになっているその鞄からは、長物の武器がはみ出していた。ティオナの位置からはただの槍とハルバード、それからドワーフが好んで使う柄の長い斧があった。離れていても解る重量感からして、見えない部分にも武器が詰まっているのだろう。

 

 あれだけの重量となると、基本的な種類の武器は全て詰まっているのではないだろうか。流石鍛冶師と感心するが、これだけの大荷物を持ってきたとなると、これからの探索に参加するのは目に見えていた。まさか荷物を持ってきただけ、ということはあるまい。椿が持てたのだから自分でも持てるだろうが、あの大荷物を運搬するだけでも一苦労だ。レベル2と3のベルとレフィーヤにあれが運べるはずもないから、そうなった場合、運ぶのは必然的に自分ということになる。そんなのは御免だ。

 

 自分たち以外の人間がいることに、レフィーヤが早速目くじらを立て始めたが、ティオナはこの時点で椿を歓迎することに決めた。

 

「……『大切断(アマゾン)』に『千の妖精(サウザンド・エルフ)』か。ファミリアの事情が絡まぬところで話をするのは、初めてだったかな?」

「かもね。でも、その二つ名はあんまり好きじゃないから、できれば名前で呼んでほしいかな、『単眼の巨師(キュクロプス)』」

「それは申し訳ないことをした。手前も、自分の二つ名はモンスターのようであまり愉快ではないからな。気持ちは良く理解できる。それでは改めて。椿・コルブランドだ。今日は鍛冶師として同行させてもらう」

「ティオナ・ヒリュテだよ。よろしく」

「レフィーヤ・ウィリディスです。よろしくお願いします」

「話がまとまったところで、行こうか。これを全て片づけておきたいのだ」

「……まさか、これを全部ベルに試させるつもり?」

「そのつもりだが? できるだけ早急に、というのはお前たちからのリクエストだぞ?」

 

 何か文句があるか? という椿に、ティオナとレフィーヤは首を横に振った。これが武器作成に必要な行為であると言われてしまうと、冒険者は何も口答えすることはできない。そも、曖昧な注文を持ちかけたのはこちらの方なのだ。試し切りに付き合うくらいは、正当な要求の範疇だろう。

 

 今日はこっちがメインになるかな、と何も考えていなさそうな顔でにこにこしているベルを見て、ティオナは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レベリングというものがある。高レベルの冒険者が低レベルの冒険者に着いて行き、低レベルの冒険者だけでは到達できないような場所で、安全マージンを取った上で戦わせ、経験値を稼ぐという手法である。

 

 レフィーヤがやっているのは、それに近い手法だ。経験値よりも安全を重視したプランであるが、その分時間をかけているので、全体としての取得効率はそれほど悪いものではなくなっている。安全を重視しつつも、早期にランクアップできるようにとリヴェリアが考えた手法であるが、これが安全をある程度犠牲にし、本当の意味でのレベリングを行っていたら、最短記録を大幅に更新した一か月半という記録でさえ、更に更新していたはずである。

 

 さて、ベルに行われているレベリングであるが、安全が重視されているため、付き添いの冒険者の役割というのは少ない。何かあった時のために手助けするのが精々で、それもベルが大抵のことを一人で何とかしてしまうために出番も少ない。精々、ここはこうするべき、というアドバイスをするくらいだ。

 

 レベル3とは言え、魔法使いであるレフィーヤ一人でも間に合っていたのだ。ここにレベル5のティオナと椿が加わるのは明らかに過剰人員であるが、これでもっと安全に深い所まで行ける、と考えたリヴェリアは人知れずほくそ笑んだのだが、それはまた別の話だ。

 

「では、手前が持ってきた武器を一通り使ってみてもらえるか。まずは明らかに向いていないと思われるものから行ってみよう」

 

 どしん、と眩暈のするような重い音を立てて荷物を置いた椿は、その中から一際目立っていた鑓を取り出してベルに放った。柄の部分まで金属でできた、それなりの重量のものだ。一般人であればそのままひっくり返るだろう重量にも、レベル2になったベルの筋力ならば安心である。

 

 難なくそれを受け取り――しかし、スムーズにいったのはそこまでだった。鑓などまともに扱ったことのないベルは、鑓をもったまま途方に暮れてしまう。いつまで経っても動き出さないベルに、椿は眉根を寄せて疑問の声を挙げた。

 

「……なんだ。フィンが使っているのを見たことはないのか?」

「一緒にダンジョンに潜ったことはないもので……」

「随分と勿体ないことをしているな、ロキ・ファミリアは。せっかくの逸材なのだ。もっと経験を積ませても良いと思うが……今まで何をやってたんだ?」

「浅層でのモンスターの撃退と黄昏の館での訓練。後はリヴェリア様による座学ですね」

「ベル坊、お前それでレベル2になったのか? 凄まじい才能……と片づけるのは早計だな。何か特別なスキルを持っているらしいと噂になっているが……」

 

 いきなり核心を突いてきた椿に、ベルを含めた三人は一斉に視線を逸らした。その態度は椿の言葉を肯定しているに等しかったが、同時に、聞いても答えられない類のものだと雄弁に語っていた。この話題を突き詰めていくと話が大きくなる。それを察した椿はあっさりと追求を諦めた。

 

 椿・コルブランドは鍛冶師である。彼女が興味があるのは打った武器の性能と、その担い手の強さそのものだけだった。担い手がどうして強いかなど、別段の興味はない。

 

「とりあえず、好きなように振ってみろ。この程度のモンスター相手ならば、慣れない武器でも遅れを取ることはあるまい」

 

 新しい武器を試すということで、実力相応の場所よりも浅い層でモンスターを狩ることにした。使い方もよく解っていない鑓だが、この程度ならば大丈夫だろう、という審議をレフィーヤとティオナで重ねて決定した場所だ。彼女らも大概に過保護だが、万が一があってはいけないのだ。

 

 ミノタウロス相手に死にかけたことで、現在リヴェリアがティオナたち以上に過保護になっていた。本来ならば自分でついてきたいと思っているのだろうが、他の団員の手前それは我慢しているらしい。立場があるというのも時に考えものだが、そのせいでレフィーヤはくれぐれも適切に無理をさせろ、と念を押されてしまった。

 

 腰のポーチには、リヴェリアから預かったエリクサーまである。それで、このメンバー、この階層だ。万が一にも死ぬことはないだろうが、それでもリヴェリアは不安らしい。お母さん役というのも大変なのだ。

 

 椿の言葉を受けて、鑓を持ったベルがモンスターに突撃していく。突く、突く、振り回す。本人なりに頑張っているのは見ていて解るのだが、ロキ・ファミリアで一番の鑓の使い手であるフィンの動きを見たことがあるレフィーヤとティオナには、ベルの動きははっきり言って遊んでいるようにしか見えなかった。

 

 早い話、とても恰好悪い。本人の顔立ちがそれなりに整っているだけに、それが余計に際立って見えた。レフィーヤには武術の心得はないが、少なくとも鑓に『これだ!』というものがないのは解った。

 

 女性陣の残念な視線の中でもベルは奮闘し、全てのモンスターを片づけて戻ってくる。ナイフや剣であればここまで苦戦はしなかっただろうが、これも使っている武器の差だろう。息を切らしているベルに、椿は次の武器を渡した。

 

「次だ。斧でも使ってもらおうか。こういうものを持ったことはあるか?」

「郷里に住んでいた頃に、木を切るのに使ってましたが……」

 

 ベルにとっては武器、というよりは日用品である。勿論、武器として使ったことは一度もない。とは言え、使ったことがあると言うだけあって、鑓よりは立ち姿も様になっていた。先程が先程だけに、それだけでレフィーヤはもしや、と思わずにはいられなかったが、薪を割るようにモンスターを割るとはいかず、動きも鑓程ではないがモタついていた。これも、ピンとこない。

 

 次々と武器を切り替えて行くが、椿にこれはと感じさせるのは剣の系統だった。ロキ・ファミリアに入ってから一番使っていたということもあるだろうが、その中でもベルの動きを阻害させない短い武器が、現時点では最も相性が良いように見えた。

 

 短剣、ナイフ。東の武器を入れて良いのであれば、小太刀や脇差など、強いて専門を挙げるとすれば刀剣類が専門である椿は、ベルに働かせながら、彼にあった武器を自分の中で模索し始めていた。

 

「最初の提案にあった通り、短めの武器というのが良さそうだな。東の武器が好みであれば、そういうものも作れるが……」

「カタナ、とかそういうものでしたっけ? ファミリアの倉庫ではあまり見なかったんですが」

「こういうものだな」

 

 鞄の中から、椿が取り出したのは小太刀である。斬ることを前提にした片刃の刀剣であり、西の剣に比べると重量も軽い。頑丈さという点では西の剣に劣るものの、とにかく良く斬れるということで、西の出身者の中にも根強いファンは多い。

 

 鞘から抜いたり戻したりしながら、小太刀を矯めつ眇めつ眺めてみる。ナイフなどよりは長いが、試しに剣帯に差し込んでみると、意外な程に邪魔にならない。鞘が木造というのが良いのかもしれない。オラリオで流通している西の剣の鞘は動物の皮か金属でできているものがほとんどのため、木鞘の手に馴染む質感が気に入った。

 

「やはりか……」

「何がやはりなんです?」

「いやな。ベル坊くらいの年齢の人間の男はな、どういう訳だか小太刀を二本まとめて使いたがるのだ。もしかしたらと思っていたのだが、ベル坊もその口か?」

「二刀流ってかっこいいなーとは思いますけど、使いこなせそうな気はしないので……」

 

 憧れがないと言えばウソになるが、見た目を重視して我が身を疎かにしては本末転倒である。好きな物を作ってもらえると言っても、他人のお金であるので、それじゃあ二刀流で、とも言い難い。ベルの物言いに、椿もうんうん、と大きく頷いた。

 

 鍛冶師である椿は今まで、分不相応な要求をする冒険者を嫌という程見てきたが、そういう連中は総じて早死にする。自分の程度を知っているというのは、生き残るのに必須のスキルと言えるだろう。冒険者は冒険してはいけないというのは、冒険者ならば誰でも知っている格言である。

 

「それが良いだろうな。そういう技術はこつこつ積み重ねて行くと良い。取り回しの難しい武器と同じだ。さて、大体の武器は使ってもらった訳だが――」

「ねえ椿。魔剣って持ってきてないの?」

 

 黙ってベルの動きを見ていたティオナの言葉である。普段使いの武器とは言えないものだが、これだけ武器があるのだから一本くらいは、と期待していたのだ。ティオナも自分の身体と武器を頼みに戦う冒険者であるから、普段自分では使うことのない魔剣が使われるのを、密かに楽しみにしていたのだ。だが、椿の返事はつれないもので――

 

「ない。あれはここぞという時に使うもので、普段使いにするものではない」

「僕も聞いたことがあるだけなんですけど、魔剣っていうのは『魔法みたいなことができる剣』ってことですか?」

「概ねその通りであるな。魔法を遣えない者でも、その魔剣の名前を唱えるだけで、一定の効果を発揮することができる」

「凄い武器じゃないですか!」

 

 魔法が使えず、魔法に憧れを持っているベルからの反応は良い。半面、魔法使いであるレフィーヤの反応は渋かった。ベルが魔法を使えるようになってしまったら、自分の役割が減ってしまう。ただでさえ、かなりのハイペースでランクアップしたのだ。数か月後にはおそらくレベルで並ばれ、一年もする頃には抜かれているだろうことは想像に難くない。

 

 一芸に秀でていることで、レベル3ながら準幹部の扱いを受けているレフィーヤと違い、ベルは純粋なレベル、力量で幹部の座に上り詰めるだろう。監督している者としてそれはそれで誇らしいことではあるのだが、どんどんベルが遠くに行ってしまうような気がして、レフィーヤも少し寂しいのである。

 

「……そうは言うがな。作り手によって威力が全く違うし、何回か使うと確実に破損する。この回数を補充する研究もされてはいるが、今のところ有効な手段は見つかっていないな。武器というよりは固形化した魔法のようなものだと思ってくれ。手前も武器というには、聊か抵抗がある。あれはもう、魔剣という種類のものだ」

「椿さんも打てるんですか?」

「ある程度以上の力量を持った鍛冶師ならば、打てないことはない。無論、かの『鍛冶貴族』の打った物には劣るだろうが……いや、すまん。エルフの前でする話ではなかったな」

 

 珍しく、椿の相手の気遣うような視線を受けて、レフィーヤは慌てて首を横に振った。エルフとして、かの『鍛冶貴族』に思うところがないではないが、話題一つに頭に血が登るほどではない。とは言え、ロキ・ファミリアの中でさえ、かの貴族を蛇蝎の如く嫌っているエルフは大勢いる。椿の配慮も、もっともと言えば尤もだった。

 

「魔法みたいなものを撃たない魔剣とかないんですか?」

「……言っている意味が解らんのだが、どういうことだ?」

「その、魔法みたいな効果を持ち続ける武器っていうのも、あると聞いたんですけど」

「ああ、そういうことか。代表的なものでは『不壊属性(デュランダル)』などがそうだな。早い話が、この力が摩耗しきらない限り、武器が破損することはない。どういう訳だか魔剣の消費回数と違って、こちらの力は鍛冶師が補修することで全快する。何度も使える魔剣と言えばそうなのだろうな。無論、剣の形をしていない武器にかけることもできる。ロキ・ファミリアで言うと、ベートに作ってやったフロスヴィルトなどもそうだな。あれは魔法を吸収するという他ではあまり類を見ない能力を付与してやったのだが、あの狼は装備を雑に扱い過ぎるきらいがあってな……ティオナ、奴にもう少し装備を大事に扱うように言っておいてくれないか?」

「無駄だと思うよー。装備を気にして自分が危なくなったら意味ないし」

「だろうな。手前もそれについては同意見だ」

 

 同じファミリアの、特別な効果の付与された武器の話を聞いてベルは目を輝かせたが、余計に広がってしまった選択肢に混乱することになった。武器の種類一つとっても決めることができないのに、これで特殊な効果の話までされてしまっては、いつまで経っても決められなくなる。

 

「大昔には色々な魔剣があったと聞くがな。この大陸の遥か南にある大陸の更に南にあるとされる、ロータスだかコーラルだか言う島には、かすり傷一つつけただけで魂をも砕く魔剣があるというが」

「不壊属性みたいな感じで、武器に魂を砕く効果がついてたってことかな?」

「手前どもの技術で強引に解釈するなら、そういうことになるな。どうやってそんな属性を付加するのか、手前には見当もつかんが……」

 

 武器が壊れない、という属性が付与できるだけでも、冒険者ではない普通の鍛冶師からすれば神の御業と言っても過言ではない。かつて存在したという以上、椿には見当がつかないというだけで、理論的には可能ということでもある。

 

「まぁ、鍛冶の道を究めていけば、いずれそういう武器を作れることもあるだろう。今はそんな未来のことよりも、こやつのことだ。ベル坊、お前はいくつになる?」

「今年で14になります」

「ならばまだまだ背が伸びる余地はあるな」

 

 からかいを含んだ椿の言葉に、ベルは反射的に苦笑を浮かべた。思春期の人間の少年にとって、身長というのはかなり悩ましい問題なのだ。身体を動かす行為のほとんどにおいて、大きい、高い、長い方が有利であるとされる。人間、14歳のベルはまだ成長期ではあるものの、人間種族の男性としては小柄な部類に入る。

 

 今の身長に合わせて武器を作っても、身長がすくすく伸びればやがて小さく感じるようになるだろう。それはそれで男の子であるベルにとっては好ましいことではあるのだが、椿の言葉はそうはならないだろう、という予想が混じっているように思う。

 

「フィンほどではないが、これはこれで可愛らしいからな。手前は別に成長してくれなくても良いのだが、人間の男としては癪だろう? 牛の乳が良いとも聞くぞ。試してみたらどうだ?」

 

 乳、という単語に、ベルの視線はこれ見よがしに衆目に晒されている椿の胸部へと吸い寄せられた。サラシに包まれただけのそれは、椿の動きに合わせて揺れている。その破壊力は凄まじいものがあり、見ないように見ないようにと念じているベルもついつい視線をやってしまうほどだった。

 

 そして、そういう視線に女性というのは敏感なものである。当事者でなくとも、ベルの視線を感じ取ったティオナとレフィーヤは、何の躊躇いなく拳を振り上げ、ベルの後頭部に思い切り叩きつけた。気絶しそうな程の衝撃にベルの脳裏に火花が散るが、無遠慮におっぱいに視線を向けていたのは事実である。

 

 今度から気を付けようと心中で呟いたベルは、多大な労力を要して椿の胸部から視線を逸らした。




椿のキャラを模索中です。
もう少し原作に出番があれば……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。