MAXコーヒーとネタの在庫が早くも少なくてピンチです。
せんぱいは誰よりも優しくて、だから冷たくて。
誰よりも人のことを考えて、誰よりも気持ちを理解していない。
いつかはるさん先輩が言っていた。
比企谷君は理性の化物だと。
せんぱいの中には私はいないのだろう。
私の中にはせんぱいがいつもいるのに。
きっとせんぱいの中には雪ノ下先輩と結衣先輩だけがいる。
せんぱい。
もう私に優しくしないでください。
手を差し伸べないでください。
辛いです。寂しいです。
せんぱいが優しくすればするほどに。
「最近、いろはちゃん来ないね…」
由比ヶ浜が一色のティーカップを見ながら呟いていた。
「まあ生徒会長だしな。何かしらの仕事が溜まってるんじゃないのか?それにあれだ、小町も来るしな今年」
「正確には来年度なのだけれどね」
「小町ちゃんが来ることは決まってるんだね」
「当たり前だろ。由比ヶ浜でも来れたんだ。小町が落ちるわけがない」
小町もあんなに頑張ってたしな。
お兄ちゃん、信じてるぞ。
「それにしても、一色さん、頑張り過ぎてはいないかしら」
「でもほら、またいつもみたいにヒッキー借りに来るんじゃない?」
「それもそうね。どうせ消耗品なのだし」
もはや備品などですらない。
なんか悲しくなってきたな。
もう帰っちゃおうかな。八幡泣きそう。
「むしろこちらから派遣したほうがいいのかもしれないわね」
「それある!」
折本かよお前は。
ていうか同意するなよ。仕事増えちゃうじゃんかよ。
まあこの間のデート?以降会ってないし、てか最後寝ちゃつてたし俺。
それも謝っておいた方がいいかもな。
絶対なんか言ってきそうだなぁ。
『せんぱい、可愛い後輩を家まで送らずに寝るなんて酷いです。私的にポイント低いんですけど』
とか言いそう。てか最後の方とか小町入っちゃってる。
「んじゃまあ、ちょっと様子見てくるわ」
「仕事が溜まってるようなら手伝ってあげて。もしあれなら私たちも呼んでくれて構わないわ」
「最初からみんなで行くっていう選択肢はないんですね」
俺もう既に社畜じゃん。
俺も親父と同じ運命を歩むのか。嫌だな。
「だいたいのことならあなた1人で充分でしょう。あなた、無駄に優秀だもの」
雪ノ下、貶したかったのかもしれないがただの褒め言葉だったぞ。
「確かに。ヒッキー無駄に頭良いもんね。無駄に」
「同じこと2回も言わなくていいだろ。…まあ行ってくる」
なんだかんだであいつらに褒められると嬉しい。
あいつらと話しているときはあまり裏の意味とかそういうことを考えてないからだろうか。
他の奴からだとどうしても考えてしまうけど。
まだ完全下校の時刻には1時間ほど早く、仕事が残っていれば手伝うことになるだろう。
まあ一色を押したのは俺だし、一色が頑張っているなら俺もサポートしなければいけないだろう。
生徒会室の前に着き、ノックをしたが返事がない。
ただのくうしつのようだ。
開けてみると書類の束と一緒に寝ている一色がいた。
いや、いつもなら俺をこき使う量でしょこれ。
どうする比企谷八幡、あれをやるか。
というか仕事だしな。
もうほとんど社畜じゃん俺。
まああれだな。とりあえずMAXコーヒー飲みながらぼちぼちやりますかね。
かさりかさりと紙の擦れる音がする。
視界が暗い。
というか見えない。私、寝てたんだ。
書類が溜まってることを思い出す。
こんなときせんぱいがいたらなぁ。
「…せんぱ〜い」
「おう一色、起きたか」
せんぱいの声で覚醒した私。
なんでせんぱいいるの?今日呼んでないですよ?
「せんぱい、なんでいるんですか?」
「奉仕部から派遣されたんだよ。一色が仕事忙しいんじゃないかってんで」
「せんぱい、私の寝顔、見ましたか?」
せんぱいに寝顔見られるとか恥ずかし過ぎです。
「見るも何も、うつ伏せで寝てて見れるはずないだろ。それより、七割くらいは終わってるから残り片付けるぞ。時間ないし」
時計を見ると完全下校まであと15分。
せんぱいがいてくれなかったらやばかった。
せんぱいに感謝すると同時に苦しくなる。
せんぱいから身を引こうと決めたのに、せんぱいは、私に手を差し伸べてくれる。
やっぱりせんぱいはずるい。
「せんぱい、ありがとうございました」
「まあ、気にするな。仕事だしな」
やっぱり社畜って嫌だなと思いました。
「せんぱいお疲れ様です。でわでわ」
「おう」
今日の一色はやけにあっさりしている気にする。
今日は一度も振られてないし、全然あざとくなかった。
なんというかただの、後輩一色いろは、って感じ。
とほとほと歩く一色の後ろ姿はどこか悲しげに見える。
「一色」
一色を呼ぶと、静かに振り返る。
「まあそのなんだ、なんかあったら奉仕部に依頼なり相談なりしろよ。個人的にでも構わないが」
「ありがとうございます」
礼を言う一色の笑顔はやはりどこか悲しげで、あのときの雪ノ下を思い出させた。