やはり比企谷八幡は捻くれている。   作:秋乃樹涼悟

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すいません、何話か伸ばすかもとか言ってやっぱりこれで最後です。
途中から結構飛びます。


人生は珈琲のように熱くて苦くて甘い。

「一色、」

 

繋いでいた唇は、せんぱいに優しく離された。

優しいけど、どこか拒絶するように。

 

ただ名前を呼ばれただけなのに、もう全部聴こえてしまった。わかってたのもあるけれど。

 

大丈夫、大丈夫。覚悟していたことだから。

傷付く覚悟もしてたし、傷付けさせる覚悟もして来た。

せんぱいごめんなさい。

 

「その、なんだ、嬉しいよ」

 

嬉しいと、そう言ってくれるせんぱい。

その気持ちも多分本当で、でも全部じゃない。

戸惑い、動揺、疑問、疑い。色々混じってる。似たような感情、全く違う感情も。

 

うつむく私の手を握りなおすせんぱい。

 

「一色も知っていると思うが、俺はあまり人から好かれない。そういう人間だったし、そういう生き方もして来たからしょうがないんだが」

 

花火を見ているのか、私に話しかけつつも、自分自身にも語りかけているように聞こえた。

 

きっと今、せんぱいの中にあるのは奉仕部のことなのだ。

暖かくて、紅茶の香りがする。

 

「でも奉仕部に入って、いや、正確には強制的に入らされたのか。あいつらと出会って色々わかった。口で言わなきゃわからないって言うけど口にしたってわからなくて、わかり合えなくて」

 

あの日3人が屋上に行った後のことは私は知らない。

きっとぶつかり合って、わかり合えなくて、それでもまだ奉仕部でいたい言うなにかがあったのだろう。

 

「それでもな、一色。追い求めないといけないと思った」

 

握ってくれているその手がじわりと暖かくなるのがわかる。伝わってくる。

 

「一色、俺は私立文系に行く。多分凄く遠回りだと思うが」

 

最後の花火が咲き終えて、せんぱいが私の手を離して立ち上がった。

とてもさむい。

 

地面と砂利を擦るようにして歩くせんぱい。

せんぱいにも辛い思いをさせてしまった。

 

「…一色、俺も本物がほしい…」

 

しばらくして足音は聞こえなくなってしまいました。

 

「フフフッ」

 

やっぱりせんぱいって捻くれてますよね。

 

「フフフッ」

 

ついて来てくれって聴こえました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卒業式です。

少しばかり寒い体育館、我が子の晴れ姿を拝まんと駆けつけたそれぞれの家族。教え子達の最後を優しく見送る先生。平塚先生には大分お世話になってますからね。

卒業式って何回やっても緊張しますよね。下手なことできないですし、首元もいつにも増して苦しいです。あ、私別に太ってないですよ。むしろスレンダーボディです。

これで落ちない男はそうそういないですよ。

 

舞台の上に立ち、生徒会長として挨拶をさせてもらってます。

頭の中でどうでもいいことを考えていても、覚えた文章はスラスラと出てくるから驚きです。

まあこう言う場では形が大事ですからね。それらしい事を言っておけばいいんですよ。

と言ってもまあ、真面目にやらないとまた平塚先生に怒られてしまいますから真剣ですよ、一応。

 

「卒業生代表、一色いろは」

 

 

 

 

 

 

 

「いろは先輩!ご卒業おめでとうございます!」

 

花束を抱えて走ってくる小町ちゃん。

 

「ありがとう小町ちゃん」

「いろは先輩、写真いいですか⁉︎」

 

小町ちゃんには生徒会でずっとお世話になっちゃいました。

もうほんと、小町ちゃんがいなかったらやっていけなかったと言える。そんな小町ちゃんは現生徒会会長です。

 

「一色、ご卒業おめでとう。私も嬉しいぞ」

「平塚先生…私も早く平塚先生を祝ってあげたいです。結婚祝い」

「私だって祝われたいよ…」

 

平塚先生はからかい甲斐がありますね。まあほどほどにしておかないと大変な事になるので自重しますけど。

 

「一色は、調理科の専門学校に行くんだったな。頑張れよ」

「はい。まあ正確には調理科に一年と製菓で一年ですけどね」

 

結局、私はせんぱいの行っている大学に落ちました。そしてなんとなく、その大学に割と近い専門学校に行くことになりました。

頑張って勉強したんですけどね…やっぱり簡単にはいかないですね。せんぱいの頭が良すぎるのが悪いんですとは言えない。結局落ちた私が悪い。

 

「いろは先輩は調理師になるんですか?それともパティシエですか?いろは先輩ならどっちも似合いそうですね」

「まだどっちにしたいかは迷ってるんだ。どっちも興味があるから」

 

それでも藁にもすがる思いで、少しでもせんぱいの近くに居たい。

 

 

 

 

 

 

 

 

専門学校の生徒になって一週間、やっと学校にも慣れてそしてなんと⁉︎友達が出来ました!

 

「いろはす〜」

「なに〜葵〜」

 

青峰葵(あおみねあおい)ちゃんです。

 

「いろはすごめん!今日一緒に行く予定だった喫茶店行けなくなった!」

「ははぁ〜ん。もしかして彼氏かな?」

 

脇腹を肘でツンツンすると葵は急にニヤけながらまた謝ってきました。

全く、羨ましいです。

 

「ほんとにごめん!この借りはいつか必ず」

「じゃあ今度いちごパフェおごってね」

「うん!ありがと!またねいろはす!」

 

元気よく帰っていった葵。急に予定が空いてしまった私。

まあ仕方ないよね。だってあんなにニヤけて幸せそうな顔してたら許しちゃうよ。

 

とりあえず暇になってしまったし、当初の予定通り喫茶店にでも行きますかね、ひとりで。

ずっと気になってたんだよね。

あそこの前を通る度に珈琲のいい香りがするだよね。

 

うちの専門学校からは歩いて10分くらいのところで、ちょっとした隠れ家みたいな雰囲気のお店。

純喫茶クレマ。

 

ドアを開けると涼しげな鈴の音が鳴り、たったそれだけでここに来て良かったと思った。

中に入るとあの珈琲の香りと、アップルパイでも焼いているのか林檎の甘酸っぱい香りが漂っていた。

 

鈴の音を聞きつけてか、店員さんが「はいはい〜ただいま〜」と気だるそうに言った。それはいつか聞いた声にとてもよく似ていた。

 

「一色?」

「…せんぱい?」

 

 

 

 

 

 

 




今まで「やはり比企谷八幡は捻くれている」を読んで頂きありがとうございます。
他のssとは違う最後にしたくてこうなりました。

もし続編を書くとしたらまた頑張ります。
タイトルはなんにしましょうかね?
「やはり比企谷八幡は捻くれている。続」
とかですかね?w

でわでわ、ありがとうございました。

追伸、やはり比企谷八幡は捻くれいる。続
連載開始しました。続の方も読んで頂ければ幸いです。

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