やはり比企谷八幡は捻くれている。   作:秋乃樹涼悟

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夏休みくらい羽目を外しても良いと思う。

夏休みも終盤を迎え、面接練習も大分仕上がってきた。

練習のときだけは捻くれた発言や態度を取ることが無くなって、どうにか本番でもいけるようになったと平塚先生からお墨付きを頂いた。

それではお墨付きを頂いたとは言えないだって?なにを言う。俺が面接の間だけでもまとも、というのは自分言うのもアレだが凄いことなのである。

もうあれだ、沖縄に雪が降っちゃうレベル。

 

まあそうして平塚先生からお墨付きを頂いて家に帰って勉強しているときにケータイは震えた。

一色からの電話で、俺の誕生日以降とくになにもなかったのだが、おおよそはまた買い物に付き合えとか言われるんだろう。そして俺はこの電話に出てしまったら必然的に行くことになるだろう。

…ここは見なかったことにしよう。

ケータイをベッドに放り投げMAXコーヒーを取りに行った。

 

 

部屋に戻りケータイを一度チェックしてみた。

いつもなら電話を無視した後にはメールが来てその後に小町に連絡がいって逃げ道を潰されているのだが、さっきの電話以降なにもない。

試しに五分程小町が来るのを待ってみたがやはりなにもない。

あの一色が俺に用がありながら電話一本で終わるとは思えない。だがなにもない。

もし俺の考え過ぎでなければ一色は今普通の状況ではないのかもしれない。

 

「…全く手のかかる後輩だな…」

 

これでは気になって勉強出来ないだろうが。

仕方なく一色に電話をかけることにした。

3コール目で一色は電話に出た。

 

「おう一色か、すまんな。勉強してて気付かなかった」

『せんぱいが途中で気付いて電話をかけてくれるなんて、明日は雪が積もるかも知れませんね』

「人の行動に対していちいち天変地異になるかもしれないとか言うな。今は夏だ」

 

どこか落ち着いた声で、いつものあざとさはあまり感じられなくて、やはり何かあったのではないかと思わせる。

 

「で、用件はなんだ?」

『せんぱい、花火大会に行きませんか?せんぱいにとっては高校最後ですし』

「別に花火興味はないんだが…」

『ですよね…別に無理はしなくて良いんです。せんぱいも受験生ですしね…』

 

一色は風邪でも引いているのだろうか?それとも夏バテだろうか?どうしてこうもあっさりと引き下がるのだろうか。いつもの一色ならあの手この手を使い食い下がるはずだ。

 

「…まあ別に勉強とか面接は大分余裕出てきたし、行けなくはないが」

『良いんですか?』

「まあたまには羽を伸ばすのも良いだろう。それに俺は頭いいし」

『知ってます』

 

クスクスと小さく笑いながらそう言った。

 

『でわでわ、詳細はメールで』

「おう」

『せんぱい、ありがとうございます』

 

やはり一色はなにかの病気かもしれない。

 

 

 

 

 

 

いつものように小町コーデで待ち合わせの場所で待つ。

途中電車を乗り換えて合流することになった。

去年由比ヶ浜とのときもそんな感じだった気がする。

 

「せんぱい、お待たせしました」

 

振り返ると、浴衣を着た一色がいた。青とピンクの不思議と綺麗な模様の浴衣で、それが似合う一色はただただ綺麗だった。

 

「おう、一色」

「えへへ。せんぱい、どうですか?」

「ああ、…合ってると思うぞ」

 

そんなありきたりな言葉しか出てこない。

今の俺の顔はきっと、少しだけ赤いのだろう。

夕陽が少しばかり隠してくれているとは思いたい。

 

「でわでわ行きましょうか、せんぱい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「一色はなにか食いたい物とかないのか?」

「…そうですね〜」

 

色々出ているお店を忙しなく見ている一色はどこか楽しそうである。まあお祭りとは楽しむものだし、それが普通なのだが。

 

「あ!せんぱいせんぱい、私りんご飴食べてみたいです!」

「なんかあざといが定番ではあるな」

 

りんご飴というチョイスがあざといかは一瞬迷ったが、一色が言うとなんでもあざとく感じるのでしょうがない。

 

「ん?てか一色、りんご飴食べたことないのか?」

「はい。というか、あまりこういうお祭りとか来ないですし」

「なんか意外だな。一色の事だから、いつもクラスの男子でも連れて荷物持ちにでもしてると思ったが」

 

というか一色がお祭りにあまり行かないということ自体が意外だ。

 

「まあ確かに前は買い物とかで荷物持ちとかさせてましたけど、お祭りとか花火大会とかはなんか違うかなって思ってたんです」

 

りんご飴を食べながら一色はそう言った。

 

「せんぱい」

「なんだ?」

「手、繋いでもいいですか…」

 

差し出された手は小さくて、綺麗だった。

 

「まあ人も増えてきたし、はぐれたりしたら面倒だしな。こういう時に限ってケータイの電池が切れたりするしな」

「せんぱいも中々に捻くれてますね」

 

まあ捻くれてなかったらぼっちじゃなかっただろうしな。

 

「せんぱいのそういうところ、私、結構好きですよ」

 

ああ、俺もこんなに捻くれているが割と自分は好きだ。

 

「そいつはどうも」

 

それからも色々回って食べたり遊んだりした。

なんというか、普通に楽しい。

 

 

 

 

 

「せんぱい、そろそろ花火の時間です」

「そうか、じゃあ移動するか。いいところ教えてやる」

 

手を繋ぐのも慣れて、そのまま二人で絶好の場所へと向かう。

 

「せんぱい、なんでそういうのは知ってるんですか?」

「よく小町と来てたからな」

「納得です」

 

歩くこと数分。

人気はほとんどなくなり、俺と一色のふたりになった。

やっとこさベストプレイスに辿り着いた。

 

そこにはあまり大きくはないベンチがあるだけの場所で、ここで毎回小町とふたりで花火を見ていた場所だ。

そこで今日は一色とふたり。

小町が知ったら拗ねてしまうんじゃないかと思った。

 

 

 

 

 

「いい場所ですね」

 

せんぱいがこんなにロマンチックな雰囲気の場所を知ってるなんて、思ってませんでした。

いろは的にポイント高いです。

 

「まあとりあえず座るか」

「はい」

 

ベンチはあまり大きくなくて、ふたりで座ると肩が当たっちゃいそうです。ドキドキします。

今もせんぱいは私の手を握っていてくれて、それが私のドキドキがせんぱいに伝わっていないか心配です。

 

「せんぱい、私…」

 

私が話そうとすると、目の前で綺麗な花火が咲き始めてしまった。

少しベタなタイミング。

 

せっかくなので、せんぱいに甘えちゃいます。

せんぱいの肩に持たれて少しだけ手を強く握る。

 

「一色。近いんだが…」

「いいじゃないですか。今日くらい」

 

それきりせんぱいはなにも言わなくなりました。このままでもいいみたいです。

 

花火も終盤になったらしく、大っきな花火が打ち上げられ始めた。

 

「せんぱい、」

「なんだ?」

 

私を向いたせんぱいに、私はキスをしました。私の想いが届くように。

 

「せんぱい」

 

固まるせんぱいをもう一度呼んだ。

 

「好きです。せんぱい」

 

 

 


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