やはり比企谷八幡は捻くれている。   作:秋乃樹涼悟

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更新遅れてごめんなさい。いつもより長くなってごめんなさい。気が付いたら12月でごめんなさい。
別にアニメとか見まくって更新遅れたとかじゃないです。ゲ○とか○タヤとか行きまくったとかじゃないです。ごめんなさい。


回り巡ってかえってくる。

「比企谷、」

 

面接練習を終え家に帰ろうとした間際、くわえ煙草の平塚先生が呼び止めた。

とてもその格好が似合っていて、そして残念だった。

 

「はい」

「家に帰る前に、奉仕部の部室に寄ってくれ。昨日あの部屋の整理をしていたら君達3人の忘れものが残っていてな。既に雪ノ下と由比ヶ浜はもう来ていて、部室も空いているだろう」

「はぁ」

 

忘れ物なんて何もなかったはずなのだが。

そもそも忘れるものがあるほど私物は持ち込んではいないし、各々のカップだってしっかり持って帰ったし、今も使っている。忘れもしない。

 

なぜなら、パンさんのイラストの湯呑みに珈琲を淹れていつも飲んでいるからな。

いついかなる時に見てもシュールだ。

それでいて心地よかったりもする。

 

「早く行かないと部室を閉められてしまうぞ」

「はい。…何を忘れていたんですか?俺や由比ヶ浜はともかく、雪ノ下がそんなミスをするとは思えないんですけど」

 

懐から携帯灰皿を取り出し吸い終えたタバコをしまう平塚先生は一瞬だけ優しい顔をしていた。

 

それがずっと出来れば誰かもらってくれると思うのだが。

 

「行けばわかるさ」

 

そして平塚先生はどこかへ消えた。

 

まあさっさと行って、さっさと帰りますかね。

雪ノ下達と入れ違いにでもなったらまた鍵を取りに行かないといけないし。

 

「うん、うん。わかった。今から行くよ」

 

ふと聞こえてきた天使、もとい戸塚の声。

夏休みになっても戸塚の声が聞けるなんて。

戸塚は電話を終えたらしく、ジャージのポケットにケータイをしまった。

そして一瞬だけ戸塚と目が合ってしまった。

もう運命を感じるレベル。

 

「とつk」

「あ!ご、ごめん八幡」

 

戸塚は一目散に逃げ出した…

 

はちまんはめのまえがまっくらになった!。

 

 

 

 

それから立ち直るのに時間がかかった。ショックのあまりその場に立ち尽くし、時々すれ違う生徒から変な目で見られた。

もうそのまま家に帰って泣きたかったがなんとか堪えた。

まああれだよ、部活で忙しかったんだよ、うん。うん…

 

落ち込みながらも足を動かしているといつの間にか元奉仕部の部室に着いてしまった。

由比ヶ浜がいるという割には静かな気もするがまあどうでもいいことである。

 

とりあえずドアを開けて中に入ると、いきなりド派手な音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁ⁉︎は!はーぁ⁉︎」

「せんぱい、(比企谷君)(ヒッキー)(お兄ちゃん)(八幡)お誕生日おめでとう〜!」

「へぇ?」

 

…頭にぽつぽつとクラッカーから放たれたカスを乗せて惚けているせんぱい。イマイチ状況が飲み込めていないようです。

 

「ほら、せんぱいって、コミュ障ぼっちで誰からも誕生日とか祝ってもらえないじゃないですかぁ?だから、今日はせんぱいに同情して誕生日会を企画したんですよ」

 

よくよく考えると、結衣先輩や雪ノ下先輩とかの時は祝ったりプレゼントしたりしましたし、私だって祝ってもらいましたし。

 

「てかヒッキー、ビックリしすぎだし」

「確かにそうね。気持ち悪すぎて通報しようとか思ったわ。あなたの誕生日でなかったら今頃はパトカーのなかだったわよ」

 

せんぱいを罵倒している雪ノ下先輩は、どことなく楽しそう。

せんぱいって、誕生日でもいじめられるんですね。

まあでも確かにさっきの悲鳴はキモかったです。

 

「八幡、さっきはごめんね。八幡を驚かせようと思ってたから、慌てて逃げちゃって」

「いや大丈夫だ、戸塚、いや彩加。俺は彩加に祝ってもらえてとても嬉しい」

「は、八幡。急に名前呼びはずるいよ…恥ずかしいよぅ」

 

顔を真っ赤にしている戸塚先輩…可愛すぎる。そして戸塚先輩に嫉妬してしまいます。

私だっていろはって名前呼びされたい。

 

「お兄ちゃん、戸塚先輩といちゃいちゃしない。でわでわ早速、主役が来たことですし誕生日パーティーを始めましょう!どんどんぱふぱふー!」

 

小町ちゃんの合図と同時に雪ノ下先輩がケーキを取り出す。

保冷剤が持つかどうか心配だったんですよね。戸塚先輩が来てから20分くらい後に来ましたし。

 

ケーキを見たせんぱいは少し子供のような顔をしている。腐った目が少しだけ輝いています。

 

「このケーキはね、ゆきのんといろはちゃんが作ったんだよ」

「ひとつ聞くが、由比ヶ浜は製作には参加してないよな?参加してると、俺の誕生日が命日になる可能性ががあるんだが」

「ヒッキー酷すぎ!私は飾り付けとかしかしてないし」

 

ちょっとそれは私が困りますね。今死なれては困ります。

せんぱいには私が死ぬまで生きていてもらわないと。

私はせんぱいの胸の中で死ぬ予定なんですから。

 

「冗談だ由比ヶ浜。…これはチョコレートケーキか?」

 

せんぱいがケーキに反応していますね。まあ私と雪ノ下先輩が作ったんですから間違いなく美味しいと思いますけどね。

 

「本当は無難にショートケーキにしようと思ったのだけど、一色さんがアイディアがあるというからこれを作ったのよ」

「そうか。…もう食べてもいいか?」

「ヒッキー急ぎ過ぎ。まだお誕生日の歌歌ってないじゃん」

 

そうですよ。ちゃんとロウソク持ってきたんですから。

また来年もこうしてせんぱいの誕生日を祝えたらいいな。今度はふたりきりがいいですね。

ケーキもせんぱいにあーんして食べさせてあげたいです。私今ヤバイです。顔が緩みそう。

 

「じゃあ歌おうか。ねぇ、歌の最後は『はちまん』にしない?バラバラっていうのも味気ない気がするし」

「そうですね。さっきもみんなバラバラでしたし、戸塚先輩の言うとおりにしましょう。…なんかお兄ちゃんをはちまんって呼ぶのは恥ずかしいな…」

 

私もいつかせんぱいと、「はちまん」、「いろは」って呼び合う仲になりたいです。

でも私、せんぱいっていうのに慣れちゃってるんですよね。なので、せんぱいにいろはって呼ばせたいです。

 

「まあなんでもいいが、早く始めてくれ。俺はこのケーキが食いたい」

 

私にはそれが照れ隠しに見えます。俺は早くこのケーキ食べたいんですけどー、みたいなこと言ってますけど、ちょっとそわそわしちゃってますし。

 

みんなで歌いながら、小町ちゃんはそんなせんぱいを見て嬉しそうにしている。というか本人より嬉しそう。

なんだか小町ちゃんがせんぱいの保護者みたいです。

 

せんぱいが羨ましくなってきました。だって、こんなにも愛されているんですから。

私だけではなく、ここにいるみんなから。

でも本当なら、せんぱいはもっと愛されていいはずの人だと思うんですけどね。

救った分、救われたって良いはずです。

 

「〜♪ハッピバースディ、ディアはちま〜ん、ハッピバースディトゥ〜ユ〜♪はちまんおめでと!」

 

みんなで歌い終え、せんぱいもまんざらではない様子です。

 

「その、あれだな。みんな、…ありがとな」

 

ロウソクの火を吹き消して残った煙は辺りを漂う。

せんぱいは照れているのか、その煙を見ながらお礼を言った。

 

「ふふぅん。でわでわ続きまして、小町達からのお兄ちゃんへのプレゼントです。はいはい皆さんプレゼントを出してください」

 

場の空気がしっとりしてしまい耐えかねたのか、小町ちゃんが司会進行する。

まあしょうがないですよね。いつも捻くれているせんぱいが素直にお礼を言うんですから。みんな恥ずかしいですよ。

 

「じゃあ、僕からで良いかな?」

「でわでわ戸塚さん、どうぞ!」

 

プレゼントを後ろに隠しながら席を立ち、せんぱいの前に来た戸塚先輩。恥ずかしがっているのか、頬を赤らめながら上目遣いでちらちらとせんぱいを見ている。

 

なんですか告白ですかバレンタインデーの日にチョコを渡す女子ですか。なんで戸塚先輩は男の子なのにこんなに可愛いんですか。

もうせんぱい、今告白されたら了承しちゃいそうじゃないですか。

 

「は、八幡…」

「お、おう」

 

今せんぱいの唾をゴクリと飲み込む音と心臓の音が聞こえる気がします。

 

「はい、八幡。」

「おう、サンキュな。…彩加」

「もう、八幡!」

 

戸塚先輩顔が真っ赤です。そして羨ましいですとても。

 

「開けていいか?」

 

こくりと頷くのを見たせんぱいは優しくプレゼントを開け始めた。

戸塚先輩は上目遣いのまませんぱいを見つめている。それは女の子が好きな子のために作ったお弁当の感想を心待ちにしているような顔をしていた。

 

「リストバンドか…。」

「うん。また一緒にテニスしようね、八幡」

「彩加、次はいつ予定空いてる?テニスしよう。なんなら今かr」

「はいはい!次は小町ですよ」

 

せんぱいが戸塚モードになりそうになったのを見かねて小町ちゃんが次に進める。せんぱいは気を抜くとすぐそうなるんですから。

それは私にしてくれればいいのに…

 

「ジャジャーン!小町からはね、お兄ちゃんが欲しがってた新作ゲーム!」

「なんで俺がこれを欲しいと思っているとわかった?俺はそんなこと一言も言ってはいないぞ」

「ふふん。まあ小町はお兄ちゃんの妹だからね」

「…そうですか」

 

胸を張り自慢げに言う小町ちゃん。

そして小町ちゃんの頭を撫でるせんぱい。とっても仲がよくて羨ましいです。

私もされたいです。

 

「えへへぇ〜。……うふん!でわでわ次は結衣さん!行っちゃいましょうか⁉︎」

「うん!」

 

元気よく立ち上がりせんぱいの前へ。

 

「あはは。なんかこっちに来ると恥ずかしいね」

 

片手でせんぱいへのプレゼントを持ち、もう片方の手でお団子のポンポンと触る結衣先輩。

あれって結衣先輩の癖ですよね。恥ずかしいときに出るんですかね?

 

「ヒッキー。お誕生日、おめでと」

 

満面の笑みでプレゼントを渡す結衣先輩。

アニメでなら周りに綺麗なお花が咲いていそうまであります。それくらい明るくて暖かい顔。

「開けていいか?」

「うん。いいよ」

「…ブックカバーか。なんか質が良さげだな。ありがとな」

 

あ、結衣先輩、頬が少し赤いです。再びお団子を触ってますし。

 

「ヒッキーたまにブックカバーなしで読んでたから。…たしか、俺の妹がこんなになんたら?」

「ああ。あれな。あれもな、千葉の兄妹の話なんだ」

 

せんぱいどんだけ千葉好きなんですか。全く。

私のせんぱいがこんなに千葉が好きなわけがない。

 

「高坂兄妹はどうでもいいんで、次は雪乃さん、行っちゃいましょうか!」

「ええ。そうね」

 

どうして私が最後なの?というか普通は奉仕部を最後にしそうなんだけどなぁ。

ちらりと小町ちゃんを見ると目が合い、小町ちゃんがわざとそうしたことがわかった。

私に気を使ってくれているらしいです。

別に告白するとかじゃないんですけどね。

 

「あなたに何をプレゼントすればいいのかかなり迷ったのだけど、あなたの将来のことを考えて、これにしたわ」

「開けるぞ。…コーヒーミルか。しかも手回し式」

 

プレゼントをもらったせんぱいは、まるで大好きなおもちゃをもらった小学生みたいです。

あの腐った目に光が灯ってますよ。

 

「前に読んだ小説に、このハンドミルで豆を挽きながら謎解きをするバリスタがいて、それを思い出したの。まさか、あなたにこれを贈るとは思っていなかったのだけれど。…いつか、あなたの淹れた珈琲、飲ませてね」

「…そのうちな」

 

なんか、さっきから思ってましたけど、なぜかお別れ会のような感じになっている気がします。別にまだお別れじゃいので勘違いしないで下さいね。

 

「でわでわ最後、今回の誕生日会を企画したいろは先輩、お願いします」

「はーい。」

 

バックの中から自分でラッピングしたプレゼントを取り出す。

席を立ち、せんぱいと目が合い不意に心臓がドキドキするのがわかった。

私がどれだけドキドキしても、せんぱいには全然伝わらないんですけどね。

 

「せんぱいは良かったですね。こんなに可愛い生徒会長からプレゼントをもらえるんですから」

「そーだな。光栄だ」

「棒読みですね…」

 

手ごたえなしです。せんぱいって無駄に手強いですよね。

私がプレゼントをあげたいって思うのはせんぱいだけなんですけどね。

 

「せんぱい、あげます」

「おう。ありがとな。開けていいか?」

「どうぞどうぞ」

 

せんぱいはリボンをスルスルと丁寧に解いて中のものを取り出した。

せんぱいは少しだけ驚いているようです。

アホ毛がビックリマークになりました。

 

「これ、俺へのプレゼントだったのか。てっきりお前が自分で使うものだと思ってたな」

「せんぱいは本当に鈍いですよね」

 

本当に。

 

「このボールペンとメモ帳はしっかり使わせてもらうわ」

「はい。むしろちゃんと使ってもらわないと怒るまであります。ふふん。せんぱい、来年の私の誕生日は期待してますから」

「ああ。そうだな」

 

来年。

来年にはみんなどうなっているんでしょう。せんぱい達は卒業して、それからもこの関係は続けていられるのでしょうか。

一度離れてしまったものは、少なくとも元には戻らない。

今でさえ、少しずつ変わっていく。勝手に変わっていく。

必ずしも悪いことばかりとは限らないと言う人もいますけど、争うことができない変化が、私は怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




多分あと2、3話で終わるかもです。多分。

感想お待ちしています。感想なら真夜中でも大歓迎です。
罵倒なら仕事中以外でお願いします。仕事中はいつもうつっぽくなっているので色々と辛いです。

でわでわ。

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