と言ってもふたりとは絡んでいません。
「はぁぁ♡猫♡」
「…」
猫ノ下さんは満足した様子です。
息抜きにって来たが、これでは息抜きし過ぎて腑抜けてしまいそうな気がする。
頬も緩みきっているし。
もう俺がその顔を真似したら通報されちゃうレベル。
しかし軽く3時間以上はいたんですけど。
「あと5時間くらいは居たかったわ。比企谷君、また今度誘っても良いかしら?」
え?それって次は8時間コースなの?なにそれ無理。もうあれだな、猫アレルギーになっちゃうまである。
もう猫飼っちゃえよ…
「い、いや、うちにはカマクラがいるから俺は遠慮しとくわ」
「…カマクラ」
…なんかまた猫ノ下さんになってるんだけど。
この調子だとうちに来るとか言いそうだし、適当に話を逸らさないといけない。
「猫ノ下、今もろに通りすがりの人に見られてるぞ」
通りすがりのカップルの男子が猫ノ下をチラチラ見ていたのだ。そしてその女子の方が怒り始めて男子が叩かれている。
そしてそのあとなにやら話して女子の方が顔を真っ赤にしていた。
全くこれだからリア充は…
リア充は爆発しろ!とまでは言わない。
破片が飛び散ってきたないからな。
だからリア充は溺死しろ。
我に返った雪ノ下も恥ずかしかったのか、少しだけ頬を赤らめていた。
「と、とりあえずどこかへ入りましょう。…話したいこともあるから」
雪ノ下はその場から逃げるように歩く速度を上げた。
今度はまた別の猫カフェじゃないことを祈る。
夏休みと書いて宿題の山。
私、一色いろはは今現在夏休みの宿題と戦っています。
私には時間がないのです。8月の始めまでにはどうしても終わらせておきたいのです。
午前中は生徒会の仕事で大体午後はフリー。
え?サッカー部?なんですかそれ。私そんな部活に予算出した覚えはありません。そんな部活知らないです。
そんなフリーな午後は基本、学校の駅近くの喫茶店でひとり宿題をしているのです。
落ち着いた雰囲気の店内。心地の良いBGM。暑くもなく、寒くもないちょうど良い温度。
そしてMAXコーヒーのように甘いコーヒー。
その甘いコーヒーを一口飲むと、店内に鈴の音が涼しげに響いた。
「なんかここ、雰囲気いいな」
「私もたまにしか来ないのだけど、ここに来て読書をするのが好きなの」
…なんかよく聞き慣れた声がふたつ。
なんとせんぱいと雪ノ下先輩の声です。間違いありません。
すぐ後ろの方から聞こえてくるのでおそらく隣のテーブル。
もしかして、で、デートなんじゃ…
せんぱいが雪ノ下先輩を誘うなんてのはほとんどないですから、多分雪ノ下先輩からですね。
やばいです、これは非常にヤバイです。雪ノ下先輩に先越された。
い、いや、でもまだデートとは限らないじゃないですかぁ?というかそれを切実に願う。
デートだったらどうしようかな。明日の生徒会サボっちゃおうかな。
なんか一気にやる気がなくなってきたんですけど。
「比企谷君、後でさっきの写真送るわね」
「ん?ああ、別にいいよ。俺は」
「いえ、後で必ず送るわ。あなたにあの子たちの可愛さを残しておいて欲しいもの。いらないと言うのなら、そうね、小町さんに送ろうかしら?小町さんならわかってくれるわ」
「まあ小町も、あの店知ったら来たがるかもしないな」
雪ノ下先輩が饒舌ですね。おそらくは猫の話をしているのでしょうか?
ということはふたりで猫カフェデート…
私も行きたい。せんぱいとふたりで。いいな、雪ノ下先輩。
「もう次は小町と行けばいいんじゃないか?小町なら8時間でも多分大丈夫だろうし」
「そうね。あなた、途中からまるで妻の買い物に付き合わされている休日の夫のような顔をしていたもの。見ていて不愉快だったわ」
「なんかリアルだな。まあたまに小町にもそう言われるけどな」
…なんか会話がデートしてる感じじゃないんですけど。むしろなんか物足りない感じすらあります。
結局いつもの奉仕部みたいです。結衣先輩はいないですけど。
「あなた、引きこもりのわりには小町さんのためならどこへでも出て行くわね」
「当たり前だろう。小町に悪い虫でも付いたら大変だからな」
シスコン…。
小町ちゃんが羨ましい。小町ちゃんへの愛を私に向けてくれればいいのに。
せんぱいの鈍感シスコンやろー。
バカ、ボケナス、八幡。
「…小町さんも苦労しているのね」
今、絶対雪ノ下先輩こめかみを押さえてますね。
なんか容易に想像できちゃいます。
「そう言えば話ってなんだ?さっきなんか言ってただろ、ここ入る前」
「そうだったわね、ごめんなさい。あなたがいるとつい罵倒したくなってしまったりするのよ」
「由比ヶ浜にかまってもらえないからって、俺を罵倒して遊ぶのやめてもらえませんかね?」
「べ、別にそういう訳ではないわ。…話、始めて良いかしら?」
せんぱいからかうのおもしろいですよね。
雪ノ下先輩の気持ちはなんとなくわかります。まあ私の場合罵倒じゃないですけど。
「その、私、迷っているの」
「…何にだ?」
「進路よ」
「確か雪ノ下は国立理系だっけ?」
「ええ、そうよ」
なんかすごい頭良さそう。
わたしでは絶対無理だろうな。
そう言えばせんぱいは結局どこにしたんですかね?どこにするかの話最後まで終わってなかったんですよね、この間。
「前にあなたが相談してくれたでしょう。私立文系か専門学校で悩んでいると」
「おう。第一志望が抜けてるけどな」
せんぱいこの期に及んでまだ専業主夫って言ってるんですか?
しょうがないですね。
せめて私が就職するまでは仕事していて欲しいんですけど。
「あなたを見ていて私も少し、羨ましいと思ったわ」
「まあ、雪ノ下の家だと色々ありそうだしな。好きなことをしたいって言ったってそれが通るとは思えないしな」
「私、猫に携わる仕事がしたいの」
ですよね。雪ノ下先輩ですもん。むしろそれしかないまであります。
私だったらせんぱいに携わる仕事がしたいです。
ということはせんぱいの妻ですね。
「親にはまだ話してないのか?」
「ええ。なんて言われるかくらいわかるもの」
「まあ正直、雪ノ下なら親に反対されたとしてもどうにか行けるとは思う。学年一位のお前なら奨学金ももらえるだろうし、バイトすれば生活費もどうにかなるかもしれない。まあ生活についてはかなり厳しくなるとは思うが」
しばらく沈黙が続いた。
気が付けば甘いコーヒーは冷めてしまって、ちょっぴり酸っぱい。
やっていたはずの数学のプリントは一枚も進んでいなかった。
「平塚先生はなんて言ってたんだ?もう話したんだろう」
「ええ。親とぶつかるのは仕方ない。時にはぶつかることを大切なことだと言っていたわ」
平塚先生なら拳で語れとか言いそうですけどね。
「なあ雪ノ下、案外勢いでやってみたらあっさり大丈夫だったってこともある。初めてやったバイトで社員に聞けなくて間違ってもいいから適当にやってしまえってな。まあ居づらくなったらバックれちゃえばいいし、なんて考えたりもした」
「あなた、相変わらず捻くれているわね…」
「まあ結局、後悔したくないから相談して慎重に決めるんだ。決めることは覚悟がいる。じゃないと、それはいつか言い訳になる。遊びだからとか、親が決めたから、なんとなく勢いで、とかそんなんで俺は後悔したくない」
せんぱいは捻くれているけど、誰よりも真面目。真面目過ぎて捻くれてしまったのかもしれないですね。
そしてそんなせんぱいを、私は好きです。
なんかさっきランキング見たら6位になってました。
感動。
まあすぐにランク外になるとは思うんですけどね。
感想・ご意見お待ちしています。
でわでわ。