もう少し更新遅れて続けるかもです。
授業が終わり、部活へと向おうと教室を出て立ち止まり、思い出した。
五時限目の国語の授業の後に平塚先生に呼ばれたのだ。
「放課後職員室に来るように」とだけで、内容はわからない。
俺がまた何かやらかしたというわけではないはずだ。心当たりはないし。
歩きながら考えていると、何ガハマかはわからないが近寄ってくるのがわかった。
後ろからバッグで叩かれ「なんで先行くし」と、もはや恒例になっている。
別に由比ヶ浜に叩かれるが気持ち良いとかそういうわけではない。
「ヒッキー、部室行くの?」
俺の横に並んで歩く由比ヶ浜。
由比ヶ浜を見ていると、昨日小町に言われたことが唐突に浮かぶ。
『逃げないでね』
何からだろうか。由比ヶ浜?雪ノ下?それとも奉仕部から?
「いや、平塚先生に呼ばれてな。…少し遅くなると雪ノ下に伝えといてくれ」
「ヒッキーまた何かやらかしたの?」
なんでそうなる…
俺はそんなに問題児じゃないだろ。少なくとも由比ヶ浜よりは頭とかいいし、ぼっちな俺は人にそんなに迷惑とかかけてないだろ。
ぼっちなのに迷惑かけるとかダメだろ。
「なんでそういう発想になるんですかね?」
「なんでだろ。ヒッキーだから?呼び出しと言えばヒッキーじゃん?なんとなく」
いやまあ中学にそんな奴いたけどさ。
そいつが呼ばれる度に、
「お前またなんかしたのかよ〜」とか言われてたな。
これは俺じゃないぞ。
俺の場合、反応無しか「え?比企谷?誰それ?」って感じだったからな。
あんなうざ絡みされたことないし。
「なんだよそれ…まあどんな内容かはわかる。この時期だしな」
進路調査表のことだ。さっきのホームルームで最終の進路調査表を渡されたのを思い出した。
まあこの時期になって急に進路変更をした生徒なんてのはそうそういないとは思うが、念には念をって奴だろう。
ってことはあれかな。
「この後に及んで専業主夫とは言わないだろうな」
とか釘でも刺すんだろうか。
どうしよう、そんなこと言われたら八幡困っちゃう。
「そっか。じゃあ、先に行ってるから。ちゃんと来てよ」
「サボるわけないだろ…終わったらすぐ行く」
「うん!」
雪ノ下の待つ部室へと向かう由比ヶ浜は楽しそうで、可愛かった。
職員室を覗いて探していると平塚先生と目が合った。特にドキドキはない。
平塚先生に応接室に入るよう言われて中に入った。
扉を閉めると平塚先生はいつものようにタバコを吸い始めた。煙を吐き出して数秒、平塚先生は口を開いた。
「比企谷、進路はどうするのかね?」
「特に前回書いた内容とあんまり変わりないですけど」
「…まあいい。今ここで先ほど渡した用紙に書いてくれ」
平塚先生はタバコを持っていない方でこめかみを押さえている。
雪ノ下の癖に似ていると思ったが、それを呑み込んだ。
今なにか言うとファーストブリットくらいそうだし。
バッグから進路調査表を出し、進路について書いた。
書き終えたものを見せると、平塚先生はため息をついた。
そんなに悪いとは思わないのだが。
「…第一志望、専業主夫。第二志望、私立文系。第三志望、バリスタ専門学校。……第二志望と第三志望の理由を聞こうか」
第一志望については触れられてもいない。
先生も疲れたんだろうな、うん。
「まあ私立文系は元々変わらないです。出来れば編集者になりたいなとは思っていますけど。専門学校についてはただ単に珈琲が好きだから興味がある、それだけです」
理由を話し終えると、平塚先生はもう一本吸いだし、何かを考えているようだ。
まあ今のは簡単な説明でしかない。
俺自身、バリスタ専門学校に行きたいのかはまだはっきりとはしていない。
「第二、第三のどちらかを選ぶかは君の自由だ」
「第一は?」
「却下だ」
コンマ1秒なく却下されしまい、もはや清々しい。
「比企谷」
「はい?」
これからまた長いお説教が始まるのだろう。耳栓でもあればなぁとどうでもいいことを考えていると平塚先生は立ち上がりもう一度俺の名前を呼んだ。
「比企谷、私は君が淹れる珈琲が飲んでみたいとは思うよ」
そう言うと平塚先生は応接室から出て行った。
決まっていたはずの俺の気持ちが傾いたのがわかった。
どうすればいいんだ。
自分はどうすればいい?何がしたい?
何もしたくない。だから専業主夫とかそんなことを言っているわけだし、なんなら専業主夫すら嫌だ。専業主夫だって家事をしないといけない。
自分が私立文系を目指す?いや、目指すというかただ単にそれが得意だからというだけで、消去法に過ぎない。
もし自分が理数系が得意ならその逆だろう。
編集者になりたいと思ったのは?
給料が高いから?自分が頑張ればなれそうだから?
専門学校に行きたいと思ったのは?
珈琲が好きだから?一番好きなのはMAXコーヒーだ。
そう言えば、戸塚にも平塚先生と似たようなことを言われた気がする。
どうすればいい…
あれこれ考えているといつの間にか部室の前だった。
部室の扉とは不思議なもので、頭の中のごちゃごちゃとしたものがスゥーっと消えていくような感覚になる。
扉を開けると紅茶の香りが漂ってきた。
「こんにちは比企谷君」
「ヒッキーおっそい!」
「せんぱい、こんにちはです」
「お兄ちゃんおかえり!」
いつもの奉仕部。
それがたまらなく心地いい。
「おう」
「紅茶、淹れるわね」
「サンキュな」
どうすれば、いいのか。わからないなら誰かに聞いてみるのもいいのかもしれない。
自分の答えがわからないなら、自分を知ってる、知ってくれている誰かに聞いてみてもいいかもしれない。
今まではそんな人は小町くらいしか居なかったが、こいつらになら、俺は聞けるかもしれない。
「せんぱい、ニヤついたり真剣な顔になったりして色々キモいです。…なにかあるなら聴きますよ。私たち」
普段はあざとい生徒会長一色いろはも頼りになりそうだ。
「…そうだな」
自分の椅子に座ると、雪ノ下はそっと湯呑みに入った紅茶を置いてくれた。
次回は八幡が相談する話です。
シリアスな感じにはならないとは思わないと思います。