やはり比企谷八幡は捻くれている。   作:秋乃樹涼悟

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雪は溶けてやがて奉仕部に春が来る。

4月。

新しい出会いの季節だとか期待や希望に満ちた季節とか言うが、春なんてそんないいものじゃない。

むしろ一番大変ですらある。

 

何かのテレビで見たが春が一番自殺が多いそうだ。

まあわからなくもない。

 

受験生や新社会人になる人なんかは1年後、自分はどうなっているかと未来のことを嫌でも考え、夏休みはプレッシャーと不安に駆られてひたすらに勉強する。

 

最後の学園祭やイベントでも息抜きも兼ねてと言ってその時は楽しそうな顔をしているが、心のどこかで思っているのだ。

 

自分はこんなに楽しんでいるがそれでいいのだろうか。

 

自分はこんなことをしている場合じゃない。

 

みな様々な不安に駆られ、その不安に怯えて狂った様に勉強する。

 

クリスマスになれば、いちゃつくカップルや呑気な他の人を見て悪態をつく。

 

年が変わると藁にもすがる思いで神に祈る。

 

それからはあと何ヶ月、何週間、何十日と勝手に自分の中でカウントダウンが始まり、数字がひとつ減る度に不安や恐怖は積み重なり、押しつぶされそうになる。

 

いっそ潰されて諦めてしまった方が楽だとそんなことを考え、自分との戦いにも負けそうになる。

 

 

そんな一年を始めないといけない4月。

四月は君の嘘ならぬ、四月は俺の鬱、である。

 

 

 

 

 

「すみませ〜ん今日せんぱい持って行ってもいいですか?球技大会の準備があって、男手がほしいんですよ〜」

ぱたぱたと忙しく奉仕部へ来た一色。

いつもはただここでおしゃべりしているだけなのだが、こういう時いつも俺は仕事を押し付けられる。

 

やっぱ一色を会長にさせなければよかった。

 

「ええ、比企谷君なら貸し出しているわ。ただ一応これも受験生だからなるべく使用は控えてね」

「はい。使い終わったらすぐ戻しますのでご安心を。せんぱいも一応は受験生ですからね。多少は気を使わないと」

 

雪ノ下さん?優しくしている風だけど人の扱いしてないからね?

一色も雪ノ下も俺を道具扱いするのやめてね?

それと一色は既に気を使えてないから。

 

人権を訴える気も失せた。

今なら希望や期待を失った奴隷の気持ちがわかるかもしれないまである。

 

「…受験生になってもこき使われるとは思ってなかったな」

「可愛い後輩に頼られてるですからいいじゃないですか?せんぱい」

「そういうのは頼ってるとかじゃないだろ、…もういい、さっさと行くぞ」

 

というか俺らもう奉仕してる余裕とかなくね?

むしろ奉仕されたいんですけど。

 

「んじゃ行ってくる」

「ヒッキー行ってらっしゃい〜」

「行ってらっしゃい」

「でわでわ〜」

 

男手が必要ってことは重労働なんじゃないか?

余計に面倒になってきた。

ふと小町のことを思い出した。

 

「小町は生徒会の手伝い頑張ってるのか?」

「小町ちゃん頑張ってますよ。小町ちゃんとお仕事するのも楽しいですし」

 

小町がしっかり頑張ってるなら生徒会もまあ安心だろう。

奉仕部に小町が入りたがっていたがそのうち小町が1人になってしまうため、入部はさせなかった。

 

まあ小町なら他に部員になりそうなやつを引っ張って来れそうだが、そもそもこの部の必要性はあまりない。

 

雪ノ下と俺に奉仕活動をさせるために作られたといっても過言ではない。

由比ヶ浜はなんか、あれだな、いつの間にか部員になってた感じ。

一色も部員になりそうな勢いだ。

もうほとんど部員みたいなものだが。

 

生徒会がない日は小町もくるから結構賑やかだ。

というか小町がいるから明るいまである。

さすがは太陽の小町エンジェル。

 

 

「ところでせんぱい?なにかとっても大事なことをお忘れではありませんか?」

「忘れたと言うと、そうだなぁ、あれだな、MAXコーヒー飲み忘れたな」

 

部室で飲もうと思ってたのに材木座に声かけられて迷惑していたからなぁ。

おかげで買うのを忘れたのだ。

 

「それは大事なことには入りません」

 

頬を膨らませてぷんぷん言っている姿はとてもあざとい。

 

「…もうちょっと普通にしてたら可愛いのになぁ…」

「きゅ、急になに可愛いとか言っているんですか、も、もしゅかして私を口説こうとしてますか、ちょっとときめきましたけど、もっとちゃんと告白してくれないとお返事できませんごめんなさい」

 

よく噛まないよなぁ〜

 

「どうせあれだろ、一色の誕生日だろ?覚えてるよ。4月16日だろ」

「まさかのおいうち⁉︎もうせんぱい、あざといです。もう私が勘違いしてせんぱいのこと好きになっちゃいます。

 

…まあもう好きなんですけどね…」

 

「奉仕部で祝ってやろうと思ってるから心配すんな。ほら、仕事行くぞ」

 

早く小町エンジェルの元へ帰りたい。

一色がぶつぶつ言っているがどうでもいい。

どうせまた俺に対する文句だろう。それを気にしたら身がもたん。

 

「せんぱい、」

「なんだ?」

「私のお祝いとは別にデートしてくださいね。この間のお願い」

「はいはい〜」

 

ちっ、覚えていやがった。

そのまま忘れててくれば楽だったのになぁ。

 


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