東方物部録   作:COM7M

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端的に流せばいいところを中途半端に伸ばした結果、文字数の少ない蛇足回になってしまいました。
皇居での話が無駄に長い。これは許されないな(聖蓮船早苗ポーズをとりながら)



帰宅

 

 

あろうことか神子様に対して馬乗りになり全身くすぐると暴挙に出た我だったが、無事五体満足で宮を出る事ができそうだ。神子様をくすぐった後非常に気まずい空気が流れていたので、互いに一度風呂に入って水に流した。湯を上がってから今まで読んできた書物について夜まで熱く語り合った。

翌日も一緒に早起きして日課である鍛錬を行った。神子様は相変わらず走り込みの途中で疲れ果て、結局は昨日と同じ様に途中からは我の鍛錬を見るだけで合ったが、それでも神子様と一緒にいられて楽しいものであった。

しかし時は残酷なまでに早く過ぎ、気が付けばもう我が帰る時になってしまった。

 

「この度は呼んでいただき誠にありがとうございました。楽しい時間でありました」

 

我は神子様に深々と頭を下げると、鏡の様に神子様も動く。

 

「ええ、長いようで短い楽しい二日間でした。本当に、今までで一番楽しい時間でした。もしよろしければまた声を掛けてもよいですか?」

 

「勿論!神子様の命あれば飛んで駆けつけます。そしていつになるかは分かりませぬが、近い将来、矢の三本繋ぎをお見せしますぞ」

 

「楽しみにしています。私も布都の言われた方法で少しずつ周りを変えていこうと思います」

 

「…女を口説いて」

 

「おやおや、随分棘のある言い方ですね」

 

発案しておきながらこんなことを言うのも見当違いだが、やはり神子様が誰これ構わず女性を口説くのを想像したら余り楽しいものではなかった。いや、別に神子様が誰を口説こうと我には関係のない話だ。

何とも言えぬ複雑な感情が心の中でグルグルと回っている中、神子様は手元に置いていた書物を数冊我の元へ移動させる。

 

「私のお気に入りの書物です。よければご覧になってみて下さい」

 

ボーとしていた我は一瞬反応が遅れた為、急いで頭を下げた。最初は高価な書物を何冊も頂くわけにはいかないと断ろうとしたのだが、神子様は是非とも我に読んでほしい書物とのことなので、ありがたくお借りすることにした。

 

「布都様、そろそろお時間です」

 

部屋の外にいる召使の男の声が部屋に響いた。

 

「分かった。それでは神子様、お体に気を付けてください」

 

「私より布都の方が心配です。毎日の鍛錬は大事ですが、体調に合わせるのですよ」

 

「はい!」

 

最後に一礼と、神子様の手を両手で包んでお別れの挨拶をする。次いつ呼べるかは神子様自身にも分からぬらしいが、時間が出来たら呼んで下さるとのこと。

流石に八カ月の期間が開くことは無いであろうが、やはり神子様と離れるのは寂しかった。それは我が神子様をお慕いしているからでもあるが、この時代の者でここまで話が合う人は神子様を置いて他にいないからもあるであろう。()が思想や思考を暴露しようとも、神子様は理解した上でしかりと受け止めて下さる。我もまた、神子様にとってその役目ができていると自負しておる。だからこそ神子様は我に秘密を打ち明けてくれたのだろう。

 

「最後におまじないを」

 

「え?」

 

きめ細かく美しい手を握り締めている我の手に、神子様の唇が軽く触れた。一瞬だけ感じる事ができた柔らかい感触に途端に顔が赤くなったが、我をからかう目的でやったのではなかったので、今回は怒ったりしなかった。

 

「また会いましょうね」

 

「は、はい。ではえっと、これにて」

 

内心ドキマギしながら神子様の部屋を後にした。部屋の外には既に昨日と同じ召使が待っており、その者が牛車まで案内してくれた。召使に続き回り廊下を歩く途中で、神子様が唇を落としてくれた手の甲を眺める。

不思議、誠に不思議な魅力を持っていた。前はカリスマの一言で片づけてしまったが、神子様の魅力には何か魔性の力が宿っているように感じられた。まだ七歳だと言うのに神子様には他人()を惹きつける力が強すぎる。その力も入れて人はカリスマと呼ぶのであろうが、我のカリスマのイメージはどこぞの運命を操る吸血鬼の口癖である為、神子様の魅力をカリスマの一言で片づけるのは嫌だった。

 

「布都様、到着しましたが手がどうかなさいました?」

 

「何でもない。案内感謝する」

 

我は牛車に乗り込みながら、いつもより雑に召使に礼を言った。

整備されていながらも決して平坦とは言えない道によって牛車の中はガタゴト揺れており、日が沈んできた為か外で働いていた庶民たちが家へと戻り騒がしい。しかし我は周りの音や揺れが全く頭に入らず、ただずっと手の甲の一点を眺める。神子様がキスしてくれた、そればかりが頭の中で駆け巡っている。

 

「ハァ…あのすけこましめ…」

 

既に彼女に魅入られている自分にか、それともキザな台詞が似合ってしまうあの少女に対してか。一人呆れたように溜息を吐きポツリと呟いて、まだ柔らかな感触が残っている手の甲に口づけした。

 

 

 

 

気が付けばいつの間にか家に帰って来ていたようだ。ここに来るまでの間ずっと神子様の事を考えていたかと思うと非常に恥ずかしかったが、顔には出さなかった。今のうちにポーカーフェイスを練習しなければまた神子様にからかわれるというのもあったが、待っていた召使達ににやけた顔を見せるのが嫌だったからだ。

 

「お帰りなさいませ布都様」

 

「うむ、迎ご苦労じゃ」

 

頭を下げる召使たちが作る道を通り、門を潜る。これでも十二分に広い我が家なのだが、やはり宮を見た後だとどうしても小さく感じてしまう。なんとも贅沢な話であろう。これ程恵まれた家を持っていながらそのような考えを持つ自分に咳払いすると、改めて家を見る。うむ、大層立派で落ち着きのある家じゃ。

さてと、まずは家に帰って来たら母上に挨拶せねばならん。父上はおそらくご不在であろうから、また後日でよいだろう。

というのも、この飛鳥時代の婚姻制度は妻問婚(つまどいこん)、あるいは通い婚と呼ばれるもので、簡単に言うと夫が妻の家に通い、適当な日数その妻の家で過ごしたらまた別の妻の家へと行く。だから子供を育てるのは母の一族が行うもので、父上が鍛錬をしてくれる我が家は随分と変わっていたりする。まあ父上が行っているのは教育ではなく鍛錬であり、また我自身が父上にお願いした形であった為、父上からの鍛錬が許されたのであろう。何より母上はおっとりとした性格で、父上の方針に逆らわないところがある。その性格がまた父上に気に入られたのか、父上は我が家で生活するのが他家よりも多い。

 

「母上ー!ただいま戻りましたー!」

 

ドタバタと慌ただしく廊下を走り、勢いよく扉を開く。扉の向こう側にはのんびりと庭を眺めながら()と呼ばれる物を食していた母上がおられた。この蘇は牛乳をゆっくり煮込んで作られたもので、所謂この時代のデザートに位置する食べ物だ。我もこの時代の薄い味に舌が慣れてきたが、それでも時折は前世を思い出して濃いものや甘いものが食べたくなる。それを叶えてくれたのがこの蘇であり、少々牛乳臭いもののホットミルクの様な甘みがとても美味しく、我はすぐにこの蘇にハマった。また触感はチーズに似ているのも、我の評価が高い理由の一つだ。そんな蘇だが、これもまた一般人が普通に食べられるものではない頭に超が付く高級食材であり、蘇を食べる度に我は豪族に生まれてよかったと心の底から思っておる。

母上はニコッと笑みを浮かべると、皿に乗っていた蘇を手で半分個にして手招きされた。

 

「お帰りなさい布都。豊聡耳様に迷惑はかけませんでした?」

 

そう言って母上は半分になった片割れを口に含む。我は勿論母上もこの蘇は大好きで、口に入れた瞬間に幸せそうに笑みを浮かべる。

 

「あ~…ん~…た、多分大丈夫だと思います。少なくとも、気に入っていただけたはずです!それと我は宮で頂いてきたので結構ですぞ。母上が全部食べて下さい」

 

迷惑どころかとんでもない無礼を働いてしまったので、母上の質問に堂々と返すことができなかった。我の反応に母上は呆れ果てており、やれやれと言った表情で先程まで物柔らかな雰囲気をどこかラフに感じるものに変えた。

母上は残ったもう片方の蘇を遠慮なく口に入れると、またまた幸せそうに頬を緩ませる。

 

「はぁ…美味しかったわ。煮え切らない返事でしたが、布都が大丈夫と言うのなら大丈夫でしょう。それで、二日の間豊聡耳様と何をしていたの?」

 

「え~とですね。まずは世間話をして、それから神子様の頼みを受けて一緒に走り込みをしました。それから弓の腕を披露したあとにまあ色々あり、一度風呂に入ってからはひたすら書物について語り合いました」

 

神子様をくすぐった事を適当にぼかすが、やはり母上はそこが気になった様子。その事を聞く為口を開こうとしたので、間髪入れずに話を続ける。

 

「それがなんと夜更けまで語り合ってしまってですね、召使の者がいい加減に寝ろと言ってくる程でした。しかし今朝も我等は早起きをし、早速走り込みやらなんやらをしました。そうそう!宮の食は大層美味しかったですぞ。我が家で食す蘇も十分に美味しいですが、やはり宮の蘇もまた美味しいものでした」

 

「はあ…」

 

「それからは神子様に軽く弓の心得を教え、更には実際に警備の者と軽く剣の打ち合いをしました」

 

「打ち合い!?だ、大丈夫なの?」

 

やんちゃ者の()を持つ母上であるが、目の離れたところで危険な打ち合いをしたのには驚いたらしく、我の体を触ってどこか怪我してないか確認してくる。この優しさこそが我が母上が大好きな何よりの理由じゃ。母上の様に暇な一日を過ごしたいとは思わんが、母上の様に優しく温かみのある女性にはなるのも我の持つ密かな目標だったりする。

母上の好意は嬉しかったのだが手がこそばゆかったので、我は優しく母上の手を解いた。

 

「大丈夫です。警備の者も手加減はしておりましたので、結果は我の敗北でありますが。しかし弓の勝負では我が勝ちましたぞ。全戦全勝、相手も手加減なしです」

 

「それはまあそうでしょうね」

 

「おろっ」

 

せっかく威張って武勇伝を話したのにも関わらず、先程の心配性の母上は何処へ行ったのか弓の話に関しては随分淡白な返事で、思わず体から力が抜けてしまい漫画の様にガクッと倒れ込んだ。まあ母上も我の鍛錬は時折見てくれておる。我の弓の腕も当然知っておるので、リアクションも薄かったのであろう。

 

「ところで、豊聡耳様はどのようなお方でした?」

 

「むぅ~。少々長くなりますがよいでしょうか?」

 

「ええ」

 

母上にとっては何気ない質問だったのだろうが、我にとっては神子様の魅力をお伝えできる良い機会であった。わざわざ前置きをした事に母上は首を傾げていたが、我がスーと息を吸うと察したようだ。

 

「神子様はまずはとても綺麗なお方でした。七歳ながら、あれこそがまさに正しい美貌とも呼べる顔立ちをしており、また整った輪郭と力強い瞳で凛々しさを感じられます。その美しさの中にある凛々しさ、まさにあれこそが美少女(美男子)です。そして瞳もただ力強いだけではなく、只ならぬ覇気と、他者を引き寄せる力、そして優しさが込められております。そんな凛々しさと美しさを持つ神子様ですが、髪が動物の耳の様な形をしており愛らしさを感じます。勿論その髪もサラサラでいい匂いがしました。他にも肌は白雪の様に細かくも健康的でした。つまりとても綺麗で美しく凛々しく、ですが優しさが感じらる容姿でございました!」

 

「えっと布都もう分かり――」

 

「更に神子様の素晴らしいところはその明晰な頭脳でございます!神子様の思考はとても大人びており――」

 

それから何十分の時が経過しただろうか。母上はこっくりこっくりと船を漕いでいたが、無我夢中になっていた我は気づくことができずにひたすら神子様の魅力について語り続けていた。

我の話が終わったのは、部屋に入ってきた召使が風呂の準備ができたと伝えに来た時。まだまだ神子様について語れることはできたが、二日間の外出で疲れている体は湯に浸かって疲れを落とす事を欲していたので、我は話を中断して風呂へと向かった。

 




あら^~タマリマセンワー





今回出て来た飛鳥文化要素

○婚姻制度
○蘇

今回は婚姻制度についてお話ししようかなと思います。
飛鳥時代の婚姻制度は本文でチラリと説明した通り、男性が女性の家に通う形になっております。実際日帰りだったのか、数日間在宅していたのかは分かりませんが、まあ学生じゃないんですから日帰りはないでしょう。色々な意味で。
なるべく女性は身分の高い婿を得るのが一般的で、生まれて来た子供は女性側の家(一族)が育てるようです。

これもまた男尊女卑とは程遠い考え方ですね。それでですね、改めて小説を見返してきたのですがさほど男尊女卑の描写は無かったので、そこだけ書き直します。ただそれでも、豪族の女性が剣を振ったり走り込みするのは変わっていると思うので、布都ちゃんの鍛錬に関しての導入や周りの反応などはそのままのつもりです。
また、神子が男装している理由は仏教的の男尊女卑による、飛鳥時代の一般的な思想とは違うものなのでこのまま続けていきます。
もはや修正報告が恒例となりましたが、ネット小説の利点と思って前向きに行きます。

修正点
第一話 ○まだ主人公の口調が男の時、男尊女卑の時代に生まれたので発言力がない→カット

第二話 ○布都が神道を学びたいと言った時の父親が何故と言った時の布都の返事。今の世女子は家を守り子を産むのが務め→女子は争い事には関わらず、家を守るのが務め。

    ○上記の後の布都の一人称。この時代は男尊女卑で女性の仕事が限られていた→男尊女卑の時代ではないが女性が戦う事は避けられており、特に豪族の女性は子を産む体が大事。

第四話 ○弓の練習の時。侍女が両親には息子はいないが布都なら大丈夫→布都が継げば物部はもっと繁栄する。

以上となります。

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