大学の課題であったりバイトであったり某遊戯王であったり某ラブライブのゲームであったりで忙しくて更新できませんでした。後半は…とりあえず切腹してきます(狂乱
それと、デアラ劇場版決定しましたね。狂喜乱舞です。出来れば七罪篇を見たいですけど難しいかな。
それでは、作品をお楽しみください
午後2時ーーーー琴里は中学の制服を着たまま『喫茶 十刄』に来ていた。いくら一つの艦の司令官だといえ琴里は女子中学生である。甘いものには目がないのだ。
これが『喫茶 十刄』に来た理由の一つなのだが、それとは他にここに来た方が都合がいいことが多くあった。
「ここが喫茶店といわれるところなんですか?」
テーブル型の向かい合う席で琴里の目の前の席に座っているのは前に一緒に来た令音ではなく今日中学校に編入した四糸乃。もちろん、よしのんも一緒についてきている。
「そーだよ。私が最近見つけた美味しいお菓子とか飴ちゃんとかを頼めるのだ!」
『楽しみだねぇ』
「うん!」
この店で出てくるものは琴里曰く全てが相当な美味らしいので四糸乃とよしのんは楽しみに心を躍らせた。そろそろ何かしらを注文しようかとメニューを探そうとしたところで、いつものお兄さん店員ではなくて偶にしか出てこないおじさん店員のいるカウンターからドカドカと足音を立てながら自分たちの席にやってきた。
「琴里ー、メニューを持ってきてやったんだからな」
「おー、リリネットちゃんではないか」
「そんなに驚くことなんてないじゃん。あたし達さっきまで一緒に帰ってただろ」
琴里のかましたボケにすかさずツッコミを返すメニューを持った緑髪の少女。その少女はスタークの娘ということになっているリリネットだった。実は今朝、一護に言った『頼れる女の子』はリリネットのことである。実際琴里の言ったことは本当で、中学校でのリリネットはクラスの学級委員となり、しかも在籍している学年の学級委員長にもなってしまったのである。これもグータラ店主を毎度叩き起こしている結果なのだろうか。
「ごめんごめん、一緒に帰ったからそんなに怒らないで。でも、メニューならここにあるよ?」
「うにゃあああぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁ!」
あまりの羞恥に顔を紅潮させ訳のわからない珍妙な叫び声を上げながら琴里に猫のような引っかき攻撃を仕掛けてきた。
「痛い、痛いよ!謝るから、今ここですぐに頭を下げて謝るからゆるしてぇぇぇ!」
琴里が謝罪の意思を見せるがリリネットは尚も止まらない。そんなリリネットの暴走ぶりに四糸乃は戸惑い、よしのんは面白そうに見ているだけであった。琴里もいよいよ自身の涙を抑えて切れなくってきた。
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃーーーーベプッ」
今まで暴走していたリリネットの暴走が突如として途切れた。その理由はカウンターの方から鉄製のトレイが高速回転をしながらリリネット目掛けて飛んできたのである。その結果、それの直撃を受けたリリネットは昏倒したのだった。
「ったく、お前の友達に何してんだ。ついでに、俺の労力を返せ」
最後の言葉でせっかくの台詞が台無しなのだが、琴里の危機を救ってくれたのは事実。いろいろと言いたいことがあるが、とりあえずお礼をする。
「助けてくれてありがとうございます」
「別にいいぜ。うちのリリネットが面倒を掛けたな」
「うちのリリネット……というのはどういうことですか?」
鉄製のトレイを飛ばしたスタークの言葉に引っ掛かって四糸乃が尋ねてくる。少なくとも、鉄製のトレイを飛ばして昏倒させても問題がないぐらいの関係性はあるのだろうがどんな関係性なのだろうか。
「一応、俺がこいつの親ということになるな」
「……」
「?」
琴里は言われたことを理解出来なかった。四糸乃は何故琴里がこんな天文学的確率の出来事が目の前で起きて放心しているような様子に首を傾げた。
「う、嘘ぉぉ!」
「なんで俺が嘘をつかないといかねぇんだ」
「え、本当に本当?」
こんなに疑われて誠に心外なのだが、実際は親子ではない。というよりも、むしろスタークがリリネットで、リリネットがスタークなのだから、スタークとリリネットはもっと緊密な関係のはずであろう。まあ、こんなことを言う必要性は全くないのだが。
「で、注文はどうするんだ」
「スルーした!?」
もう本当にめんどくさくなってきたので、さっさと注文を受けて早く提供して休もうと手帳を開く。その態度に対して有無とも言わせない空気も漂わせてきたので琴里はしぶしぶ注文をして、四糸乃は琴里と同じものを頼んだ。
――――数分後。琴里の横の席でダウンしていたリリネットが意識を取り戻した頃、2つのショートケーキとオレンジジュースが運ばれてきた。
「うわぁ!」
「すごい……です」
『おわぁ、美味しそうだねー。…はっ、もしかしてケーキの上にちょっこんと乗っているのは苺は小っちゃい時の一護くんでその苺を大事そうに抱えているのは四糸乃なのかな?』
「ッ! もう、よしのん……そんなこと言っちゃって」
『……』
四糸乃は体を火照らせながらクネクネさせた。予想以上の反応にさすがのよしのんも(足はないのだが)後ずさった。
そんな四糸乃の様相にフォークにケーキを乗せたまま口をあんぐりと開けていたこのときの琴里は知らなかったことだったが、四糸乃の霊力が封印される前に幾度目かの逢瀬で一護が話してくれたことがある。それは、一護自身がかつては四糸乃以上の泣き虫だったことであった。今の一護からは俄かにも信じられないことであったが、母親にかなり依存していたとのことらしい。実は四糸乃は密かにその頃の一護を想像しては脳内で仲良くしてもらっていたとか。
「四糸乃ちゃんはどうだった、学校は?」
若干夢の世界へのトリップを果たそうとした四糸乃はリリネットに呼び戻された。少し混沌に傾きかけた空気の中でリリネットがそんなことを言えることに琴里はすごい度胸を持っていると改めて認識させられた。
「学校……ですか?」
「そう、学校。楽しかったかな、って」
「私もそれが気になるかな。もし、何かあったら私が出来る範囲で助けちゃうよ」
リリネットは学級委員長として、琴里はラタトスクの司令官としての責任感を以て四糸乃に尋ねる。もし、四糸乃に何かしらの不安があるのならば2人は少しばかり無茶をするつもりだった。
「えっと……学校は楽しいです。勉強とかは難しいですけど……クラスのみんなが優しくしてくれて楽しいです。明日になったらまた行きたいです」
『今日はクラスのみんなに質問攻めにされてたね』
あんな楽しそうな笑顔で言ってくる四糸乃にリリネットと琴里は思わずドキッとしてしまった。それと、学校が楽しいという言葉を聞けて琴里は学校に通わせて本当に良かったと思えた。
その後の3人は、四糸乃が今ハマっている『プリキ○ア』と『ワルキューレ・ミスティ』の話で盛り上がった。リリネットと琴里は一護よりもこの2つのタイトルについて精通しているのでより深いところまで話した。『プ○キュア』に関しては今放送されているシリーズ以外にも沢山のシリーズがあるということに四糸乃の好奇心がマックス・ハートである。
――――ピロロロロロロピロロロロロロ――――
とここで、琴里の携帯から着信音が聞こえてきた。画面で示されている電話を掛けてきた相手は士道だった。確か士道が通っている高校は今日も通常の時間割なのでまだ学校は終わっていないはずである。琴里は2人に断りを入れてから電話に出る。
「どうしたの?士道おにーちゃん」
『頼む、琴里。知恵を貸してくれ』
「どゆこと?」
『今日、クラスに転入生が来て言ったんだ。わたしは精霊だって』
『精霊』というワードが通話口から聞こえてきた瞬間、琴里は無意識に黒いリボンを通学カバンから取り出して今つけている白いリボンと取り替えた。
「詳しく聞かせてちょうだい」
『詳しくといわれてもなぁ……今俺が言ったとおりとしか言いようがないけど、何だか俺と兄貴のことを知ってそうな雰囲気だった』
「私たちのサポートなしで精霊が高校にいるというのは俄かには考えられないけど、少し調べてみるわ」
『ああ、頼む』
件の精霊の恐れのある女子生徒について調査するためにフラクシナスに戻ろうと席を立ちあがった。それから店の出口の方へと行こうとしたのを四糸乃が見て何かあったのではないかと思い尋ねる。
「琴里さん、どこにいくんですか?」
「ごめん! ちょっと急用を思い出して。もう行かなきゃいけないから本当にごめん。四糸乃はリリネットちゃんと話してていいよ。それじゃ」
琴里はそのまま店を出ていった。その琴里の慌てように四糸乃とリリネットは不思議に思い互いに顔を見合った。
「どこにいったんでしょう…」
「たまに琴里が学校を抜け出してどっか行っちゃうこともあるから結構そういうの慣れたけど、やっぱりどこに行ってるのか気になる……あ、そうだ」
何かを思いついたらしいリリネットなのだが、このときの四糸乃はただのリーダーシップのある明朗な女の子だとしか思っていなかった。だが、実際はかなり肝の据わった人物であり、四糸乃はそのリリネットの性格故に様々なことに巻き込まれるようになる。
「行こう!」
「……どこにですか?」
「それは決まってるでしょ」
四糸乃が何かしらのリアクションを起こす前にもう既にリリネットは制服の後ろを掴んでいた。そしてそのまま引きずって外に出ていく。
「『あーれー』」
最終的に誰もいなくなった店内で唯一人残ったスタークは一人呟いた。
「よし、店を閉めよう」
―――――午後3時30分
もうこの時間になれば来禅高校の授業も終わり下校時間になっている。5分ほど前にSHRがあったがそのときに謎の失踪事件が相次いでいるということが伝えられ士道は気をつけるように言わなければと思ったが、黒琴里ならばすぐに返り討ちしそうなものだ。だが今はそれよりも心配すべきことがある。
「兄貴が一人で大丈夫かよ」
「……まぁ、なんとかなるだろ。一応インカムも着けてるし」
実はあの後に転校生の時崎狂三が学校内を案内してもらうという形でアプローチしてきたのである。最初は士道がそれを受けて、一護に何かあったらのサポートをしてもらおうと思っていたのだが一護が先にその申込みを受けた。どうやら家庭のこと(特に十香と琴里の夕食)を思いやって判断したのだが、昔からそういう甘い感情に関してはかなりのものの鈍感であるから士道は少しの不安を覚えた。
「俺の心配なんかするよりも、十香とイチャイチャしながら一緒に買い出し行ってこい」
「イチャイチャは余計だ」
士道が一護に軽く抗議しながらも、そのまま十香を連れて学校を出ていった。それとすれ違うように狂三が声を掛けけてくる。
「一護さん、今日はよろしくお願いしますわ」
「こちらこそよろしくな、時崎」
「わたくしあまり名字で呼ばれることがありませんので、狂三で構いませんわ」
「それじゃあ、狂三。まずはどこから行きたい?」
「それは一護さんに全て任せますわ」
行き場所を任されるということは一見して取り得る選択肢が多くその場の主導権を握れるように思えるが、実はこういう風に任せられる方が困ったりする。実際のところ一護も狂三が行きたいと言った場所に連れていこうと思っていたのである。
『一護、選択肢よ』
ちょうどいいところで琴里の声が聞こえてくる。どうやら行き場所を決めてくれるらしい。
「あまり変な場所に行かせるなよ。何か変な指示したら……わかってるよな」
『……』
琴里率いるラタトスクの面々にあまり変な指示しないように声を低くしプレッシャーを掛けて釘を刺しておく。それが伝わったのかインカムを通してクルーの面々が緊張しているということがわかった。
「いかがなさいまして?そんな怖い顔をしていらっしゃって」
「いや、特になんでもねぇよ」
「そうですの?」
狂三が不思議そうに首を横に傾げてくる。その素振りに一護は不覚にも可愛いと思い見惚れてしまった。
『デートが始まってもいないのに、何であなたが落ちているのよ』
「ッ!」
正しく琴里の言う通りだった。もしこのまま琴里が何もしなければ、一護は狂三のペースに飲み込まれて霊力を封印するという目的を忘れてしまうところであった。
「何だかさっきから調子が悪そうですわよ」
「べ、別にそんなことはないぜ。まぁ…ちょっと俺のことを心配してくれた狂三に見惚れたけどな」
「まぁ!」
一護にそんなことを言われるとは露とは思わなかった狂三はポッと頬を赤らめた。そんなことをさり気なく言ってくる一護に少しの間目を合わせることができなかった。
『やるわね、一護。おかげで狂三の好感度が急上昇してるわ』
「それは、どうも」
一護は平静なフリをしているが、実は女子にこんなに親しくされるのに慣れていないせいでテンパって心の内側に押しとどめたいものを言葉にしてしまっただけである。本当のことをいえば、恥ずかしくて逃げたい。そんな気持ちを紛らわせるために、早く指示をしてくれとインカムをつつく。
『そうね、最初は食堂・購買部に行きなさい』
「案外普通な指示だな」
『私たちはいつも真面目にデートに臨んでいるわ』
「ま、そういうことにしておいてやるよ」
インカム越しから琴里の不機嫌そうな顔が思い浮かんでしまうが、まぁ、それは気にしないようにしよう。
「?」
琴里の指示通りに購買部に行こうとしたところで、一護はクラスの窓から何やら見たことのある姿を見た気がした。ついでにいえば、小っちゃかった。
「今度はどうしましたの?」
「いや、何でもない」
ここで何かを見たと認めてしまえば、これから面倒なことになるということも認めてしまうことになるのでとりあえず見なかったと自己完結した。
教室を出て一番近い階段を下りてから渡り廊下を挟んでそこに食堂と購買部がある。昼休みの時間には生徒たちの怒号が響く戦場になるが、今は放課後で生徒が一人もおらず昼休みのころの面影はない。
「ここが食堂と購買部だ」
「ここですの。随分とスペースが広いですわね」
「ここの生徒って結構人数がいて、広めにしないと全員が席に座れないからな。とはいっても、大学の学食に比べりゃ全然小さいけど」
「そうなんですの。でも一護さん、ここにいるということは高校生ですわよね。それなのに何で大学の学食のことを知っておられるのですか?」
「えっと…それはな…」
一護は自分の油断を呪った。こちらの世界に来る前は死神業を兼業しているものの基本的には大学生なのである。あまりに自然な流れで尋ねられたので、ついつい大学の食堂を引き合いに出してしまった。
「俺って結構食べるのが好きでさ、よくネットとかでどこの大学の学食が美味しいか調べて食べに行ってるけど、やっぱり規模が違うぜ」
どう考えても柄にもないことを言っている一護に狂三は口元を隠してクスクスと笑った。
「嘘がお下手ですのね。でも、そういうことにしておいてあげますわ」
「そ、そうか」
こんなやり取りをしている一護と狂三を遠目から見ているのは亜衣・麻衣・美衣の名物トリオであった。
「ア…アレ……ナンナノカナ?」
「亜衣ぃぃぃ、しっかりしてぇぇぇぇ! 一護くんが転校生と一緒にいたとしてもデートじゃないかもしれないよぉぉぉぉぉ!」
「マジひくわー…って、私は本当は普通に話せるけどね」
現在一護と転校生とのデートらしきものを目撃した亜衣はアキレス健にに弓矢が何本も刺さっているぐらいの精神的ショックを受けている。実は、亜衣は一護に対して密かに恋愛感情を抱いたりするのだ。
「転校生とデート転校生とデート転校生とデート転校生とデート転校生とデート転校生とデート転校生とデート転校生とデート転校生とデート転校生とデート転校生とデート転校生とデート転校生とデート―――――」
「亜衣が壊れたぁぁぁぁぁ!」
「傷は浅……いや、傷が深すぎるわ」
何か言った一護に対して微笑んだ狂三を見たときは、傍からは完璧にデートにしか見えないその事実に亜衣は完全に心を折られてしまった。
誰かが何かを嘆いているような叫び声が聞こえてきたのだがどうせ外で練習している部活の部員達の掛け声だろう。
とりあえず食堂は案内した一護は続いて琴里の指示通りに今度は保健室に案内することになった。
『いいわよ、一護。このままいけば順調に好感度を上げることができるわ。大分打ち解けたみたいだし、こちらから質問したら』
「確かにそうだな」
まずは、ありきたりなのだが転校生が来たということになれば必ずといってもいいほどの質問をしてみた。
「あのさ、狂三ってどこから来たんだ?」
精霊というのは琴里のような例外もあるが隣界といわれる世界にいつもは眠っているはずである。本当に狂三が精霊なのかを遠回しに尋ねることになる。それでも狂三はそれを見透かしているような不適な笑みを浮かべながら言う。
「自己紹介のときにも言いましたけれど、わたくしは精霊ですわ。一護さんになら、わたくしがどこから来たのかはもうすでに知っていらっしゃってるのではございませんか?」
『何よこいつ……もしかして一護のことを前から知っているっていうの……まだ相手の手の内がわからないのにこちらの情報を晒すのはうまくないし、とりあえず惚けなさい』
今日出会ったばかりの相手に嘘をつくのは少々躊躇われたが、致し方ない。これも精霊の霊力を封印するためだと割り切る。
「さぁ、どうだろうな」
「ふふふ……やっぱり嘘がお下手の方」
「うるせ」
どうもこちらの嘘は見事に見破られているようだ。今回は嘘だと気づかれない自信はあったのだが、と思った一護。狂三を見ていると身に纏っている空気というのだろうか、それが年相応に見せてくれることを妨げる。精霊という人智を超えた存在ならば目に見える外見以上に何某かの
『選択肢がまた出たわ』
現在、フラクシナスの艦橋のスクリーンに映し出されているのは…
1.「狂三は、休みの日とかは何をしてるんだ?」
2.「狂三は、前はどこの学校にいたんだ?」
3.「パンツをよこしやがれ」
「……」
1と2の選択肢は問題はない。ただ3は限りなくギルティーだった。ただし、3の選択肢が出た瞬間に歓喜乱舞していた神無月にキャンディーの棒を手裏剣の要用で投げて目玉に当てることを琴里は忘れなかった。
「何なのよ?この『パンツをよこしやがれ』っていう選択肢は…」
「まぁ…下ネタで場が和まないこともないですし…」
なんてことをコンソールを操作しながら中津川が言ってくる。
「そんなものかしらねぇ…あっ」
琴里は映し出されているギャルゲー画面のテキストを見て、サーッと血の気が引いた。なぜなのかといえば、一護がその3の科白を口走っていたのである。よくみると、自分の肘でマイクの回線をonにするボタンを押されていた。
「パンツよこしやがれ」
「パンツ……ですの?」
体の熱が物凄い速さで逃げていっている。少し考えれば絶対に可笑しい指示である。そういう指示には従わないと言っておきながら脊髄反射的にそのまま口にしてしまうとは。
『今のは指示じゃないわ、どうにかして状況を建て直しなさい』
いきなり立て直せといわれても、一護に今の状況を帳消しにできるようなハイレベルのトークセンスはない。だが、そのままにしておけば狂三に変質者という印象が定着してしまう。とにかく、誤解は解かなければならない。
「今のはあれだ。ここでいうパンツってのはな、下着のパンツのことじゃなくて…」
「……いいですわよ、一護さんになら」
「へ…?」
狂三はもじもじしながら恥ずかしそうにそう言う。まさか、本当に了承するとは思わなかった一護は変な声を上げてしまう。狂三はそんな一護の反応に構わずスカートの中に手を掛ける。
「お、おい!?」
狂三は本気だ。このまま止めなければ本当に脱いでしまう。パンツを脱ごうとする狂三を止めるべく手を掴もうとするが、ちょうどそのときにスカートで隠されたゾーンから這い出た黒い生地が一護の視界を支配する。
「…あらま?」
スカートを脱ごうとしていた狂三はそのスカートが足で引っかかってバランスを崩してしまう。しかも、運が悪いことにバランスを崩した場所は階段の近くであったのでそのまま階下に落下をし始めた。
(まあ…これぐらいでは
「大丈夫か?」
狂三はこのまま自分で着地しようと思っていたら一護に抱えられていた。それもお姫様抱っこで。瞬間、狂三は素直に一護のことをかっこいいと思ってしまった。見つめられた瞳には一護しか映らない。
「えっと、もしかして頭とか打っちまったか?そしたら、保健室よりも病院に連れて行くけど」
「大丈夫ですわ…わたくしは精霊ですのよ。これぐらいで怪我をすると思いまして?」
「確かにそうかもしれねぇけど、そういうことじゃねぇよ。俺は誰かが傷つくのを見るのは嫌なんだ。だから、少しでも怪我をする可能性があるんだったら助けるよ、俺は」
狂三はこの五河一護という人間がどういう人間なのか少しだけ分かったような気がした。誰かが傷つくことを嫌う少年は狂三の闇に気づいている。そうでなければ、そんな確かな強い瞳で見てこない。だけど、狂三には目的があり、それを達成するには神を欺く力を孤独で得るしかない。それでも…
「一護さんは本当に不思議な方ですわね」
「そうなのか?」
「自覚が無いのですのね」
「だから何だってんだよ」
「ふふふ、教えませんわ」
(この
「「……」」
一護と狂三が無言で見つめあう。色々とあれこれを考えていた狂三はようやく今もお姫様抱っこされているという事実に気づく。完璧に降ろしてもらうタイミングを逃していた。かといって、このままというのも若干恥ずかしい。
――――カタカタカタ……ドッシャン
2人の目の前の掃除用具箱がそのような音をたてて揺れたかと思ったら何かが飛び出してきた。
「こらぁぁぁぁあ一護ぉぉぉぉ!四糸乃がいるのに浮気してるってどういうことだぁぁぁ!」
「一護…さん…」
『これは修羅場だねぇ』
その用具箱から飛び出してきたのは中学生の制服姿のリリネットと四糸乃、そしてよしのんであった。この現状でリリネットは怒り、四糸乃は信じがたいものを見たかのような顔を作り、よしのんはニヤニヤと笑う。
「なんでリリネットと四糸乃とよしのんがいるんだよ」
「ごめんなさい…迷惑でしたか?」
「いや、迷惑とかじゃなくて普通にびっくりしただけなんだけど。ここに来たっていうことは何か俺に用があるのか?」
「それは…その…」
一護に尋ねられて心の中で思ったことを言いよどむ四糸乃。その様子を見た狂三はここぞとばかりに一護の首を掴んで顔を近づける。
「な、何すんだ、狂三!」
「一護さんを愛してくれる人がいるなんて妬いちゃいますわ。でも、一護さんはわたくしの「虚r――――うーうーうー」」
いち早く危険を察知した一護はリリネットが学校という公共の場で
「馬鹿野郎!こんなところで
ウルキオラといいリリネットといい、何か気に入らないことがあれば
いきなり学校が崩壊するという物騒な言葉が一護から出たことにより、四糸乃は目を見開き、よしのんは口をパクパクとさせていた。一方で狂三は特に大きなリアクションを取ることはなかった。むしろ、リリネットの口を抑えたということに対して自分で分からないぐらいに対抗心を燃やしていた。
「一護さん……わたくし…」
狂三はもたれ掛るようにして一護の腕を掴んだ。しかも、それをリリネットと四糸乃を見せつけるようにわざとらしかった。一護からみても不自然だった。
「えーと、これはどういうことだ」
「貧血で・す・の」
「そ、そうなのか?」
貧血のわりには狂三の顔は赤かった。いきなりの大胆なボディタッチに四糸乃は狂三に釣られたかのように顔を紅潮させる。リリネットとよしのんはこれを見て同じ思考回路で同じ答えに辿りついた。そして、2人は四糸乃に何かを耳打ちすると今まで以上に赤くして、誰からでも分かるようなオーバーヒート状態に陥り、体がフラフラである。
「四糸乃ちゃん…」
『まったくしょうがないなぁ、四糸乃は』
そのオーバーヒート状態を見て、2人は再び四糸乃に耳打ちをする。そうすると、オーバーヒート状態だった四糸乃はフラフラとした状態から回復して、狂三がもたれ掛っている腕とは反対の腕をロックオンした。
「一護さん…私が守りますから…腕を掴ませてくださいッ!」
「四糸乃、全くどういうことなのかわかんねぇんだけど」
いきなりそんなことを言われても一護にしてみれば全く話がわからない。状況が掴めていない一護であるが、四糸乃は粛々と腕を掴んでくる。
「一護さん、わたくしだけを見てくださいまし」
「一護さん…私のことをみてください」
もうどうすればいいのだろうか。女性対応検定初級(非公式)の一護の手には負えない。こんな状況の中で最後の望みを託したのは…
『さすがの女垂らしね。頑張ってね、おにーちゃん…うぅっ』
最後の希望にも見離された。しかも、最後に何故か涙ぐんでいる。これからこの修羅場の中で学校の案内をしなければならないと思うとむしろ自分が泣きたくなる。それでも一護には『はい』と『yes』という選択肢しか無かった。