ハルケギニアの誓約者   作:油揚げ

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第六話 新たなる剣

 瞬く星々の明かりに二つの人影が中庭に照らされていた。両方とも非常に細いが、片方がすらりとしているのに対し、もう一人は小柄と言っていい体躯をしていた。その小柄な方が両手を頭上に掲げると淡い光が周囲に漏れた。

 

「ロックマテリアル!」

 

呪文とともに数メートル規模の岩石が前触れも無く空中に出現し、地面を陥没させた。

 

「やった!また出来た!」

 

小柄な人影、ルイズは召喚術の初歩の初歩とはいえ、術が成したのが余程嬉しいのか、小さな子供の様にぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを表している。一通り喜ぶと召喚術の師匠というか先生役をしてもらっているナツミに褒めてもらおうとキラキラした瞳をナツミに向けた。

 

「?どうしたのナツミ」

「う~ん、ちょっとね」

 

 するとナツミはなにか納得できないのしきりに首を傾げていた。そんなナツミに自身の召喚術に何か問題があったのかルイズが不安の声をあげる。

 

「……なんか失敗しちゃった?」

「いや失敗というより、う~ん。威力がありすぎるのかな?」

 

 本来、ロックマテリアルは一抱え程の岩石を召喚するという初歩の初歩の召喚術である。利点は基本的な術と言うこともあり消費魔力が極少ないということだ。そして欠点というのが良くも悪くも初歩の術ということで威力が弱いということである。

 もちろん使用する術者の魔力に依存するため誓約者であるナツミが本気でロックマテリアルを行使すればルイズよりも破壊力は断然上だ。

だが、今ルイズが使用したロックマテリアルは初心者が発動したものにしては威力があり過ぎたようにナツミは感じていた。

 

「弱いより良いんじゃない?」

 

 初めて、魔法……ではないにしろそれに近い現象を起こせたことが余程嬉しかったのだろう。ルイズは小首を傾げるナツミを脇に大艦巨砲主義のような事を言い出した。

 

「まぁ良いか……よく考えれば、あたしを召喚した位だし魔力はいっぱいあるんでしょうね」

 

ルイズの言葉にナツミもそれ以上考えることを辞める。元々、彼女は考えるより先に行動するタイプの人間だ。リィンバウムではまさにそれだった。むしろ下手に考えた方が悪い方向に行ったくらいだった。

 

「まぁ術は行使できてるし、とくに問題はないでしょ」

「……多少不安が残るわね。まぁいいわ次は何をすればいいの?」

 

これが生き物を召喚するのであれば、もう少しナツミも悩んだであろうが、無機物ならあまり大事には至らないだろうと判断する。

 そして、ルイズはルイズで初めて魔法の様なモノができて嬉しいのか、ナツミの言葉足らずな説明を必死に聞き、それを自分なりに解釈してその知識を吸収していった。

 

「次はそうね無属性の誓約をしてもらおっかな」

「ええ!」

 

 そんな喜ぶルイズを見るナツミもまた嬉しそうに微笑むのであった。

 

 

 

「ふぁあああ、眠ぃ……」

 

 朝方、ルイズのベットの二つの小山の一つが起き上がり大きな伸びをする。起き上がった人影―ナツミ―の目の下には多少の隈が浮き出ていた。

 あの後ルイズは無属性の召喚術の誓約に成功し、シャインセイバーの召喚石を手にしていた。

 相変わらずその他の属性の召喚術の誓約は出来なかったが、多少なりとも召喚術の素養があることにルイズは大いに喜んでいた。

 不思議なことに何個かの無属性の誓約の際に拳銃などの兵器など意図しないものまで召喚していた。

 どうやら、ルイズはナツミの当初の見立て通り、リィンバウムの召喚士では見られない無属性―名も無き世界―の召喚術に特化してるようであった。詳しく調べたくはあったがルイズがあまりに喜んで無属性のサモナイト石が無くなるまで誓約をしてしまったためこれ以上の調査は出来なくなってしまった。

 ……それに、もともとナツミは感覚的というか、リィンバウムに召喚された時点で全ての属性の召喚術をいつの間にか身に着けていたので、学術的な意味での召喚術を全くといっていいほど知らないためどちらにしても手詰まりであったが。

 

 昨夜の鍛錬をぼんやりと思い出ながら、ナツミは再び体を伸ばし、こしこしと右目を擦りようやく本格的に意識を覚醒させる。

 ゆっくりと覚醒した頭に、ルイズと計画した今日の計画が過ぎり、ナツミは隣で未だに小さな寝息を繰り返す仮の主に手を伸ばした。

 

「ルイズ~朝よ朝。今日は王都に買い物に行くんでしょ?」

 

 世界を左右する力を秘めているとは思えぬ嫋やかな細腕がゆさゆさとルイズの肩を揺らし、その目覚めを促す。

 

「う、うーん」

「ルイズ~おはよう」

「……おはよう、ナツミ……」

 

 元気の塊であるナツミと違い低血圧気味なルイズは基本的に朝が苦手だ。この時計が無いハルケギニアでどうやって今まで一人で起きていたのだろう。そんなどうでもいいことを思い浮かべながら、ナツミは寝癖でぼさぼさのルイズの桃色の髪に手櫛を通していた。

 

 

 

ルイズを起こし、それぞれ食事を取った二人は王都トリスタニアへ続く道を馬に跨って向かっていた。

 

「あはは、ナツミにも苦手なものがあるのね」

「……ははは、買い被り過ぎよ」

 

 珍しくくたびれたナツミを見て、はつらつとしたルイズの明るい声とは対照的にナツミの返事は酷く暗い。慣れない馬に長時間乗っているため大分疲れが出ていた。とてもワイバーンを代表とする数多の幻獣を使役する人物とは同一人物には見えない。

 

「王都まで三時間もかかるなんて聞いてないよ~」

 

 そう言うと馬に倒れこむように体を預ける。

 

 

 

「第一、馬に乗ったことの無い人間に遠乗りさせるなんて…」

「もぅだらしないわね」

「……今どの位まで来たの~」

「ちょうど、半分ね」

「帰りたい……」

 

 

 

 

「やっと着いた……」

 

 トリステイン魔法学院から王都まで三時間ようやく目的地まで着き、転げ落ちるように馬から降りるナツミ。腰に手を当てひょこひょこ歩く様子はエルゴの王とも呼ばれ讃えられる召喚師にはとても見えない。

 

「ここが王都……」

 

 やや腰を屈めながらナツミは周りを物珍しげに見渡す。

 

「ここはブルドンネ街、トリステインで一番広い通りなの。この先に王宮があるわ」

「これで一番広い……どう見ても狭いんだけど」

 

 トリステインで一番広いと言われた通りはどう見ても五メートル程しかない。ナツミがリィンバウムで暮らしていた聖王国の一都市であるサイジェントの大通りでもここよりは広かった。

 さらに行きかう人々の人数に対応出来ていないため歩くのも一苦労であった。

 

「さぁ服屋に行きましょうか」

 

 そう今日はここ王都にナツミの服を買いに来たのだ。召喚時に来ていた服をずっと着ていたことをルイズに指摘されたためだ。

 なんかんだでフラットで孤児達と生活していたときは節約、節約で暮らしていたため服に関してはやや無頓着になっていたようであった。ルイズもルイズで使い魔に人間が召喚されるなど露ほども思ってなかったため衣服の準備などしていなかったし、召喚後も色々とゴタゴタがあったりですっかり忘れており、昨日の夜の召喚術の練習の時うっかりナツミの服を汚してしまって、ようやく気付いた位であった。

 

「そうだ。ナツミ、スリには気を付けてね」

「あはは、流石にこんな重いの取られた気付くわよ」

「魔法を使われたら一発でしょ?」

 

 ルイズの言葉にナツミは周りの人々に視線を飛ばし貴族がいないか確認する。

 

「貴族はいないみたいだけど?」

 

 貴族はマントを必ず着けているため判別は容易である。

 

「メイジが必ず貴族とは限らないのよ。トリステインでは貴族は必ずメイジだけどその逆は別よ。没落した貴族や、家を継げない次男、三男が身をやつして傭兵になったり、犯罪者になることもあるわ。だからメイジだからといって貴族とは限らないのって……通り過ぎた」

 

 話をしながら大通りを二人で歩いていると目的の服屋を通り過ぎ慌てて道を引き返す。

 

「ここが服屋よ」

「ふーん」

(サイジェントにある服屋とあまり変わりないわね)

 

 店内にはあまり特徴の無い服が雑多に並んでいた。ナツミが見る限り主に女性用の服を扱っている店の様であった。

 

「ルイズは欲しい服とか無いの?」

「無いわね。いつも服屋は直接屋敷に来てたから、ここで服を買うのは平民ぐらいよ」

 

 なんでもないことの事の様にさらりと言うルイズ。こう見えてルイズの父親はこの国では貴族の中でも最高位の公爵家、超が付くほどのお嬢様なのだ。

 そんな彼女にあはは、と乾いた笑いで返すナツミ。彼女は彼女で超が付くほど貧乏な孤児院で暮らしていた。

 

 

「ま、特に私は欲しい服は無いからナツミの好きに見ていいわ。そのために来たんだし」

「ありがと」

 

 ルイズに礼を言うナツミはリィンバウムでも似たような事を言われたことを思いだしていた。

 

(あの時はガゼルに絡まれたなぁ……)

 

 今回と同じく、リィンバウムに召喚された時も着の身着のままだったため、当時はリプレに服を買って貰った。そして、それを当然の善意の様に捉えてしまいガゼルに怒られたのだ。

 

(まぁ、その後で仲良くなったけどね。でもあいつなんて当時、泥棒とかカツアゲしてたのよね。まぁリプレにバレて折檻されてたけど……)

 

 クラスが大盗賊だしね、とどこか遠い目をしながら必要そうなものを選んでいくのであった。

 

「えっとこんなに買ってもらっちゃって良かったの?」

 

 そう問いかけるナツミの両手には先程、服屋で購入した服が入った袋がぶら下がっていた。

 

「いいわ。大した額でもないし、ナツミには色々とお世話になってるから。っていうか二着って少なすぎるわよ」

 

 少し照れながら返事をするルイズ。

 

「そう?洗って乾かしてで二着で良くない?」

 泣けるほどに貧乏が染みついているナツミ。召喚士の派閥の総帥の様な生活をする必要はないが、もう少し召喚士の頂点に立つ者としてもう少し贅沢をしてもバチは当たらないだろう。

 

「いやいや少ないし、それに召喚術を教えてもらってるんだからそのお礼なのよ」

「う~ん。あたしとしては衣食住のことがあるからお礼に召喚術を教えてるって感じなんだけど」

「それを言ったらキリが無くなっちゃうわよ。良いから気にしないで。この位は全然気にならないから」

「……分かった。ありがとうねルイズ」

 

 馬を預けた場所に向かう道すがらそんな会話をしているとナツミの視線にあるものが入ってきた。

 

 剣。槍。戦斧。ナイフ。数多の武器が窓ごしに並ぶ店であった。

 

「?どうしたのナツミ。武器でも見たいの?」

「うん。ちょっとね」

 

 ナツミはギーシュとの決闘の時に起こったことをルイズに話す。

 

「つまり、ナツミは元々そこそこ剣は使えたけど決闘の時は何故かそれ以上に剣が使えたと」

「うん。サモナイトソード、えっとこの腰の剣なんだけど。なんかこの剣の最適な使い方?っていうのかなそれが剣を握った途端にルーンから伝わってきたわ」

 

 伝わってきたのは剣の使い方だけで、溢れた魔力の制御が出来ず危なくギーシュを殺すところであったことをナツミはルイズに伝えた。

 

「そ、そんなおそろしい事はもっと早く言いなさいよ」

 

 ナツミの力が魔王すら打倒するものだと聞いていたが故に、その恐ろしさがはっきりと感じていた。世界を滅ぼす魔王の力がどのようなものか分からないが、それでも学院を吹き飛ばすのは訳ないだろう。そして、それを倒したナツミはそれ以上の力を持っているだろう。その力を制御しきれなかったなど考えたくも無い。

 

「ごめん、ごめん。なんか色々あってすっかり忘れてたわ」

「忘れんじゃないわよそんな事……でそれでなんで武器を見てたの」

「いや、他の武器でも同じ事が起こるか試そうかなぁと」

 

 いざというときあれでは何が起こるか分からない。魔王や悪魔などの人外が相手であれば手加減無しで手を出せるが、あの時の力をそのまま人間にぶつければ跡形も無く吹き飛ばしてしまうだろう。

 

「確かに……殺人は私も勘弁して欲しいわ。いいわ、見ていきましょ」

 

 

 

 チリン。チリン。

 武器屋の扉を開けると扉に備え付けてあった。ベルが二人の来店を店主に告げる。

店の中は薄暗くランプの明かりが灯っていた。外からは武器しか見えなかったが、甲冑や楯、兜などの防具も多く販売しているようであった。

 ほどなくすると店の奥から五十代の男性、おそらく店長であろう人物が出てくる。

 

「いらっしゃい……おや、貴族のお嬢様とは珍しい!ここは貴族のお嬢様がくるところじゃありませんぜ。ところで何の御用でやすか?うちはお上に逆らうことなんてしてませんぜ」

「客よ」

「これはおったまげた。貴族が剣を!?」

「私じゃないわよ。この子が使うのよ」

 

 大げさに驚く店主にルイズはナツミに視線を送りながら言う。

 

「この方が剣をお使いになるんで?」

「ええ」

 

 訝しみながらナツミをじろじろと見る店主。見た目が唯の女の子にしか見えないナツミが剣を使うようには見えなかったようだ。

 

「……!腰にもう剣があるようですが?」

 

 ナツミを上から下まで眺めようとして腰に下げてあった剣―サモナイトソード―に目が留まり思わず問いかける店主。

 

「ああ……っと。よ、予備に」

 

 実は買うつもりなんてなくて武器を握ってみてルーンが反応するか確かめたいだけのナツミはどもりながらも誤魔化す。

 

「……お嬢さんでしたら、ええとこれなんてどうでしょう?」

 

 ごそごそと店主が棚から取り出したのは細剣、レイピアという刺突に特化した剣であった。本来のナツミのスタイルである横切りには向かないが武器を握るのが目的なので特に不備は無い。

 

「これはレイピアといって最近貴族の方々がよくお買い上げになってるんでさぁ」

「貴族が?なんで?」

「へぇ最近、盗賊の土くれのフーケがトリステインで貴族の家々からお宝を盗みに盗んでるんで警備の強化を兼ねてお屋敷の下僕達にこのレイピアを持たせてるんでさぁ」

「ふーん」

 

レイピアをルイズに売りたい店主は滑らかに口を滑らせるがルイズはあまり興味が無いのか適当に返事をしている。

 

「ちょっと持って見ても良いですか?」

「え、ああ、どうぞ」

 

 ルイズにレイピアの良さを説く店主に剣を握る許可を貰うナツミ。そんなナツミに声をかけるものがあった。

 

「娘っこ、やめときな。おめえさんじゃ剣なんて使えねぇよ!」

「え、誰?」

 

 きょろきょろと周りを見渡すナツミだがその視界には人影なぞ無い。

 

「デルフ!うるせぇぞ!仕事の邪魔だ」

「はっ何が仕事だ。なまくらしか置いてねぇだろ!」

「なんだと!」

 

 客そっちのけで何かと言い争いをする店長。店長の視線の先にはたくさんの剣が突き刺さった籠があるだけだ。

 

「もしかして……」

 

 なにかに気付いたルイズが剣が突き刺さった籠に近づくとやはりその籠から声が聞こえる。

 

「大体、商売する気あんのか!」

「お前がいつも邪魔すんだろ!」

「店主がロクでもねぇから客の質も悪いんだよ!」

 

 もはや客がいることすら忘れているほど怒声が飛び交う。ルイズはそんな二人には意を介さず籠を注視している。

 

「ルイズどうしたの?」

「これ」

 

 ナツミの問いに一本の剣を指さすルイズ。するとその指が差された剣が

 

「なんだ!そんなに剣が喋るのがおかしいか」

 

 カチャカチャと鍔を鳴らし言葉を漏らす。

 

「わあ!?け、剣が喋った!?」

「知性ある剣。インテリジェンスソードね」

「その通りだ!結構物知りじゃねぇか嬢ちゃん」

 

 驚くナツミ、当たり前のように答えるルイズ。

 ナツミなぞ目を白黒させている。召喚術とか魔王とか経験してきたナツミだが流石に喋る剣はリィンバウムには無かったため(ナツミの知る範囲だが)驚きも一塩だった。

 

「なんでぃそこの娘っこはそんなに喋る剣が珍しいのか?」

「ええ、こんなに驚いたのは久しぶり……」

「ナツミこんな剣はいいから早く剣を選びましょ」

 

 ルイズは多少喋る剣に興味を持ったようだがあまりに錆びついたその剣にこれ以上の用はないのかナツミを別の剣を選ぶように促す。

 

「ふん!小娘に扱える剣なんてねぇよ!花でも買って帰れ」

「ちっデルフ、客になんて口ききやがる!」

 

 ナツミを馬鹿にし帰るように促す剣、切れる店主。よくも飽きないのもだとナツミは別の意味で感心していた。

 

「これでも剣は使えるんだけど……」

 

 ナツミはそんな二人の口喧嘩には遠く及ばない小さな声を上げる。

 

「なに言ってやがる。小娘が剣なんて……ってウソじゃねぇみてぇだな」

 

 とっさにナツミの発言に噛みつこうとする剣であったがナツミの身のこなしに何らかの剣術の仕草が垣間見えたのか剣は少しナツミを見直すかのような発言をした。店主でも見抜けなかったナツミの所作を見抜くあたり、伊達に六千年に亘って存在していたわけではない。

 

「おい娘っこ」

「な、何?」

「ちょいと俺を持ってみろ」

 

 剣に促されるままにナツミは彼(?)を握る。

 その瞬間、淡く左手のルーンが光り出す、するとナツミには到底不釣り合いな大剣の部類に入る剣であったが片手で軽々とその剣は持ち上げられた。左手のルーンからはサモナイトソードを握ったときと同様に大剣の最適な使い方が流れ込んでくる。だが魔力の増大はそれほど見られなかった。

 

(あれはサモナイトソード特有の能力だったみたいね)

 

そんな考察をしていると

 

「へぇ、横切りが主体の剣術使いかそれも中々の腕と見たぜ……まぁ俺とは相性は良いとは言ぇねぇな……!っとおでれーた。おめぇ使い手か!」

「え?つ、使い手?」

「何言ってんのよボロ剣」

 

 ナツミが剣術を使えるのを握っただけで看破し関心し、使い手と言い出す剣。

 もちろん、いきなり固有名詞を言われてナツミは疑問を浮かべ、ルイズは眉を顰めていた。

 

「まぁそんな事はどうでもいい。さっきは悪く言って悪かったな。……娘っこ、俺を買いな。いや買ってくれ」

「だれがあんたみたいなボロを買うのよ」

 

 先程よりも眉をしかめるルイズ。元々、剣なぞ買う気は無い。ただナツミのルーンの効果が武器を持つと発動するのかどうか確認したいだけだったのだ。無駄にお金を浪費するのは賢いとは言えない。

 

「ルイズ。この剣買うわ」

「ええ!?」

 

 驚くルイズの耳に口を近づけるナツミ。

 

「……何も買わずに出るよりいいでしょ?どうせボロだから安いだろうし、喋る剣なんて面白そうでしょ」

「……まぁ一理あるわね。わたしはボロってとこが一番妥協したくないけどしょうがないわね」

 

 こそこそと何事かを話し合う二人。

 

「頂くわ。幾ら?」

「百エキューでさ」

「安いわね……」

「あはは、こっちからすれば厄介払いみたいなもんなんで」

 

 大剣としては破格の値段で売買されるインテリジェンスソード。……大層な名前だが扱いは酷い。

 

「あたしはナツミ、よろしくね」

「なんか、俺の扱いがすげぇわりぃ気がすんだが……まぁいい久しぶりの使い手だ!よろしくな!俺はデルフリンガーってんだ」

「じゃあ、デルフでいいわね」

「ああ、構わねぇよ。こっちも娘っこが二人じゃややこしいな、相棒って呼ばせて貰うぜ」

 

 

 

 これがナツミが新たな相棒―デルフリンガー―と初めて出会った日の出来事であった。

 


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