ハルケギニアの誓約者   作:油揚げ

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あけましておめでとうございます。
年明けに投稿したかったのですが、遅れてしまいました。申し訳ないです。


第八話 空は惑い、竜は舞う

払暁《ふつぎょう》の日が朝日と変わった頃、ワイバーンが猛々しい咆哮を響かせる。何事かと乗艦する兵達が騒ぐが、ワイバーンが咆哮した理由はすぐに皆が理解した。

 他の竜達や使い魔達も、ワイバーンの声に合わせ同じ方向を向いてこれまた哭いていたからだ。

 何人かの貴族が翼を持つ己が使い魔を竜達が向く方角へと向かわせる。そして視覚を共有する彼らの目に飛び込んできたのはアルビオンの敵艦隊であった。

 

 

『敵艦見ゆ』

 

 その報告は瞬く間に司令部へと届き、幾ばくもしないうちにナツミ達へもその報は届いた。

 昨晩の内に、ナツミとルイズは敵艦隊を引き付けるのに最適な魔法を選んだと司令部に報告をあげている。その結果、ナツミ達はダータルネスに向かう様に伝えられていた。だが先の敵艦隊の接近の報と共にナツミ達には計画時間の繰り上げ、つまりただちに出撃せよという命を受けていた。

 ナツミは神妙に手渡されていた参謀達による計画書の写しに目を通す。……ちなみにナツミには読めない。

 

「分かりましたか?」

「……要はダータルネスに行って、魔法唱えてくればいいのね」

 

 読めないにも関わらずナツミには臆するという様子が一切見受けられない。大方、言われた方角に飛べばいいだろうという楽観的な思考に至ったのだろう。無論、甲板士官はまさか計画書が読めない人間がここまで堂々としているなど微塵にも思っちゃいない。

 

「はい。では、こちらに」

「ええ」

 

 これから、起こる戦いに甲板士官は表情を険しくし、ナツミもそれに倣い凛々しく返事する。

 

「竜騎士隊が護衛として先導します!遅れないように!」

「任せて!」

 

 颯爽と声をあげ、ナツミは風の様にワイバーンの元へと急いだ。

 

 

 

 ナツミが背に乗ると以心伝心、ワイバーンは勢いよく大空へと飛び出した。

 戦場は戦列艦同士が互いが互いを落とさんと雨あられと艦砲射撃の応酬をする空間へと成り果てていた。そんな爆音の鳴り響く大空に飛び出すナツミ達が最初に見た光景は、なんとワイバーンに向かって飛んでくる火を纏った艦であった。

 

「避けろっ!!!!」

 

 仲良くなった少年竜騎士の声が何故か爆音にも消されずにナツミの耳へと届く、だが艦は既にワイバーンですら避けられない距離まで近づいていた。

 黒色の煙の大爆発が大空を覆い、大気がびりびりと振動する。

 ワイバーンにぶち当たった艦は所謂、火船。

 ナツミがいた世界において、かの赤壁の戦いにおいて使われた戦術でもある。本来、人が乗る空間にも火薬を搭載出来る火船は、その船体そのものが巨大な爆弾。敵艦隊の中央で上手く爆発させれば数隻の艦を沈めることも可能だろう。

 現状、単純に艦数で劣るアルビオンにとって諸刃の剣ではあるが、当たることがなくとも艦の戦列は大きく乱れる。練度の高さで知られるアルビオンにとってその隙は痛手になりかねない。とは言っても、多くのベテランを内乱とタルブ戦で損耗したアルビオンにそこまで出来るかは微妙だが、それでも損害を被るのは避けられなかったであろう。

 当たっていればである。あくまでも。

 アルビオンにとって乾坤一擲の一撃で放たれた火船の内、一つは逸れ、また一つは三国同盟の艦に当たる前に落とされ、そして最後の一つはワイバーンに命中していた。

 

「なんてことだ……」

 

 せっかく仲良くなった女の子が爆炎と共に露と消えたのだ。

 少年からすれば、ただカッコいいからと入った竜騎士隊。

 時勢の悪さから戦争へと参加することになった彼らはまだ戦争を経験していなかった。

 知り合いが死んだことで彼らは死の恐怖を身近に感じていた。見知った人が無くなる恐怖と、次は己かもしれないという恐怖。漠然とした戦争の恐ろしさが少年達の胸の内で形になり始めた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「なんてことだ」

 

 総司令部で三国同盟の総司令官を務めるポワチエは竜騎士の少年と同じ言葉を口にしていた。だが、そこにはナツミ達の無事を、もしくは死を悼むような感情は一切含まれてはいない。

 彼の中にあったのは、女王から預かった切り札を早々に失ったかもしれない絶望感と、無様に散ったかもしれないナツミ達への苛立ちしかなかった。

 

「くっ、どうせ死ぬなら敵を引き付けてからにしろ!」

 

 感情のままに卓を思い切り叩くポワチエ。総司令部に居るのは彼だけではない。三国の将軍、参謀が勢揃いしている。

 その中にはポワチエの言葉にあからさまに眉を顰めるものの極少数いたが、過半数以上はポワチエと同じ意見であった。それほどまでに貴族というものの考えは凝り固まっていた。同じ貴族でも自分より活躍すれば面白くない、ましてやそれがただの使い魔であれば、良くて道具として見るのが限界だ。

 彼らからすれば道具が役目を終えないままに壊れたような感覚なのだ。

 

「総司令官」

 

 参謀の貴族がポワチエを嗜める。

 戦は生き物だ。一つの策が使えなくなったことを悔やんでいる暇なぞない。今にも刻々と自体は動いているのだ。

 至善の策がダメなら次善の策を、不意の事態が勝敗を分ける戦場では、只一つに策で挑むなど愚の骨頂……なのだが、

 

「ど、どうすれば……とりあえず艦砲射撃を!」

 

 ここのところ、トリステインは他国への遠征をしたことはなかった。精々が国境付近での小競り合い程度、ポワチエも今回の遠征軍の総司令官に任命されたのは確かに伊達では無い。それなりに頭も切れるし、話術も達者である。故に総司令官という立場に据えられた。

 しかし、戦争の条理を知らぬ彼にこの咄嗟の事態を御するのは無理らしからぬこと。

 しかも、艦隊戦など彼を指導した先代でも碌に経験していていなかったのだ。

 満足な指揮など出来うるはずもないのだ。

 その総司令官の痴態に、将軍達が落胆の視線を向ける前に、一人の将軍が大声を上げる。

 

「皆!外を見ろ!」

 

 

 その言葉にポワチエを含む、総司令部の皆が意識を大空へと向けた。

 そこには……。

 傷一つ無く、空へと浮かぶワイバーンの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

「ごほっ!、おっどろいたぁ」

「あわわわわ……」

 

 ケホケホと辺りに漂う煙で咳をしつつ、あまり驚いていないようなナツミと、目の前で劫火の華が咲き誇る光景を見たルイズがガタガタと震えている。碌に心の準備が出来る前に戦場に飛び出したうえにいきなりワイバーンより大きな火船が突っ込んできたのだ。さすがに十六の少女には刺激が強すぎた。

 

「ルイズ大丈夫?」

「……う、うん。なんとかね…………っ!はぁぁぁ……良かった漏れてない」

 

 心配するナツミになんやら、ごそごそと挙動不振のルイズ。

 少々顔が青いが、溜息を吐いている様子からはそこまで深刻そうではなさそうだ。

 

「なんか注目浴びてるような気が……なんでだろ?」

 

 知らぬは本人ばかりなり、山の様な巨竜、そびえ立つ塔の様な悪魔、世界を破滅へと導く魔王をその目で見て来たナツミからすれば火船の攻撃は確かにすごいものだが、ワイバーンの甲麟とナツミの魔力の障壁があれば、そこまで危険なものでない。

 だが、それはあくまでナツミの常識、ハルケギニアの住民からすればそれは常識外に他ならない。

 

「ん?」

 

 そこでナツミはワイバーンの周りに十騎程の竜騎士が飛んでいることに気付く。

 竜騎士の正体は第二竜騎士隊の面々。

 彼らはナツミの無事に驚愕しつつも安堵の表情を浮かべている。彼らとしても知り合ったばかりとはいえ、顔見知りが死ぬ事には抵抗があったのだ。その中で一騎の竜騎士が竜に尻尾を振らせながらワイバーンの前に出る。どうやら彼が先導するらしい。 

 さらにワイバーンの前後左右、上下に彼らは展開する。

 彼らの任務はワイバーンの護衛……要るかどうかは甚だ疑問だが。

 そんな彼らは全員貴族であったが、皆気のいい連中ばかりであり、ナツミを友人……いや偉大な先達として扱った。栄えある竜騎士として高いプライドを持つ彼らは魔法の腕よりも竜を駆る事に誇りを持っていた。自分達よりも遥かに上手く風竜を手なづけるナツミの実力は羨むところだが、彼らはそんなことで腐ったりはしなかった。

 タルブ戦で多くの先輩を亡くし、目指す高みを見失った彼らの新たなる目標となったのだナツミは。

 そんな彼女と空を駆ける事に彼らは場違いな嬉しさをその胸に抱く、何があろうと彼女達を無事にダータルネスへと導く想いと共に十と一騎の混成部隊は戦火の空を飛ぶ。

 

 

 

 

 

「信じられない……」

 

 本来ナツミを護衛するために随伴する竜騎士の少年の一人がぽつりと呟いた。十数騎のアルビオン竜騎士が、ワイバーン以下十騎の竜騎士を打ち取らんと上空から急降下してきたのだが、彼らはものの数分でこの大空から消えていた。

ただワイバーンが翼を打ち、尻尾を振るだけで無双と謳われたアルビオンの竜騎士達は屠られていく。

 まさしく歯牙にもかけない。

 護衛なぞこのワイバーンにはそもそも要らなかった。巨大なワイバーンがタルブ戦で七十騎の竜騎士を敗走させたとの噂が一時期流れた事も確かにあった。少年達はそれはただの噂と聞き流していた。

 風竜と毎日のように触れ合っている彼等だからこそ、そんな事はありえないと断言できた。

 確かに優れた竜使いは数の暴力を覆すことも可能ではある。だが、それにしても限界というものがあるのだ。

 あるのだが、その条理を打ち破る存在が目の前に居るのだ。もはやありえないという言葉で逃げる事はできない。彼の噂は真実であったと認めるしかない。……ならば、その後の奇跡の光の噂も――――――――。

 

 

「ねぇ!どっちに行けばいいの~!?」

 

 戦場に関わらず思索に耽っていた少年の意識はナツミの声で現実へと引き戻される。

 

 

「っ!……呆けている場合じゃないか。おーい!こっちだ!!」

 

 少年騎士は頭を振って考えを打ち消すと、大声と共に風竜に尻尾を振るわせ行くべき方角を指し示す。

 

「なんてこった……」

 

 少年は進行方向へと視線を向けて、声を震わせる。

 少年の視線の先には……、百騎を超える竜騎士達が大空を覆っていた。

 アルビオンの竜騎士隊はハルケギニアにて天下無双とその名を轟かしていたが、それは何も質ばかりではない……そうその数もまた無双なのだ。竜達は主の意思とは無関係にワイバーンに近寄る。風竜達もあまりの数の違いに怯えていたのだ。

 だが、そんな彼らを励ます様にワイバーンが静かに唸る。

 

「gulll……」

 

 強大な力と理知の光を宿した大きな目で自らに寄り添う風竜達を宥めるワイバーン。

 怖い顔をしていて敵には決して容赦しない彼女だが、意外にも仲間になった者には無類の庇護を与える優しさも有している。

 

「gaaaa!」

 

 ワイバーンは自らの意思を乗せて主に向かって吠える。

 

「分かったわ」

「gaaaaaa」

「なら任せたわよワイバーン!」

 

 風竜とその乗り手達を守りたいと伝えるワイバーンの意を汲んだナツミが徐にサモナイトソードを引き抜いて無尽蔵の魔力を解放し彼女に向かって送り込む。ただでさえ強力なワイバーンが召喚術を真の意味で行使できる誓約者の莫大な魔力を受ければ……。

 

「――――――――――――――――――――――っ!!」

「guuuull……guoooooooooo!!!!」

 

 翼を羽ばたかせるだけでまさに暴風。

 真の力を解放した空の女王が大空の支配者たる自分の領域から出て行けと言わんばかりに咆哮をあげた。

 アルビオンの竜騎士隊の竜達の反応は劇的だった。

 半数を優に超える竜達が、まったく逡巡することなく方々へと逃げていく……いや逃げるだけならまだいい。二十騎近い竜達は乗り手を振り下ろすと次から次へと味方を襲っているのだ。

 

 実はワイバーンの咆哮はあくまでフェイク……本命はナツミの召喚術。

 それは幻獣界でも指折りの美しさとそれ以上の厄介さで知られる召喚獣ドライアード。

 美しさで相手の視線を奪い、そして自らの甘い芳香と甘美な魔力で意思を奪う魅惑の術を得意とする妖精。それがナツミの召喚した召喚獣だ。

 ナツミはワイバーンの咆哮に紛れてドライアードのラブミーストームを同時に行使していたのだ。ワイバーンの咆哮はナツミの声をかき消し、その羽ばたきはドリアードの魔力と香りを効率良く目の前の竜騎士達に降りかける。いくらナツミの魔力といえども屋外、しかも風吹きすさぶ空とあっては、その効力をかなり薄まらせてしまう。……本来なら。

 だが、人間の何百倍もの嗅覚を持ち、本能に訴えかけるどころか本能に怒鳴りつけるようなワイバーンの咆哮を浴びた竜達にその効果は劇的に働いた。ワイバーンから近いものから順に二十騎ほどの竜は完全にドライアードの虜となっていたのだ。

 この時点でアルビオン竜騎士隊四十弱、かたやワイバーン及びドリアードの支配下にある風竜二十騎弱プラス、トリステイン竜騎士隊十騎。

 しかも、アルビオン竜騎士隊は突然の味方からの攻撃にうろたえるばかりでろくに反撃すら出来ずにいた。

 アルビオン竜騎士隊達が半ば全滅寸前の形で撤退するまで、さほど時間は要らなかった。

 

 

 

 

 

 金髪の少年騎士は興奮を抑えられないでいた。

 十数騎の竜騎士をなんなく敗走させた時もそうだが、その次の百を超える竜騎士を打ち破った時は正直、心が沸いた。彼が百の竜騎士達を見たときに感じたのはまさに絶望……だが逃げ出すわけにはいかないと、なけなしの勇気と故郷に残した彼女の為に歯を食いしばる。

そんな彼の様子に気付いているわけではないだろうが、ワイバーンが励ます様に勇気付ける様に唸る。

 怖すぎるワイバーンの顔からそんな低い声をあげられては本来ならビビるだろう。だが、彼の相棒の風竜が彼の意と関わらずワイバーンへと近付いたことで、少年の恐怖心は解れる。このワイバーンは主人だけではなく、昨日出会ったばかりの彼らをも守ろうという優しさをひしひしと感じさせていた。

 そして、大咆哮の後の戦いとも呼べない蹂躙。

 敵ですら味方につける圧倒的な存在感に裏打ちされたカリスマ……。少年達は思い出す……初めて竜を見た時の気高さと力強さを。

 物語の中で語られる伝説の竜とその乗り手、かつてそれに憧れて自らも竜騎士を志した幼い想いそれがなぜか少年達の脳裏をよぎった。

 

 

 

 

 

 

 

「ルイズ頼んだわよ!」

 

 百騎の竜騎士達を下し、ダータルネスへと辿りついたナツミ一向と欠けることのなかったトリステイン竜騎士、そして魅了効果が解けたにも関わらず付いて来たアルビオン竜騎士隊の火竜と風竜達。

 どうやら竜達は自らよりも遥かに強い猛者を使役するナツミに思うところがあったのか、付いて行くことを決めたらしかった。

 それに頭の良い彼らは気付いてもいた、主人を叩き落とした手前、どの面下げて帰ればよいのかを。メイジたる彼らはただ空中に放り投げてもレビテーションやらフライやらで軟着陸できるため、死ぬことはないだろう。

会っても気まずくなるだけだし、最近は餌も不味い。

そんな理由で彼らはワイバーンの後ろを恐る恐る飛んでいたのだが、ワイバーンは彼らを一瞥して軽く吠えただけで後はなにもしなかった。

竜達にしか理解できない言葉ではあったが、ワイバーンはこう告げたのだ。

 

「guull(好きになさい)」

 

 主人同様、このワイバーンも中々に器がデカイ。例え、敵であったとしても危害を加えない限りは手を出さない。

 そんな彼女に竜達は心底惚れ込んだ。本来なら自分達より劣るワイバーンに負けたとあっては怒り狂うであろうが、ここまで力の差があるとそれも起きない。ただこのワイバーンは自分達の牙を預けるに足ると竜達は思い。今度はその後ろを誇らしげに飛んでいた。

 

 

 そんな竜達が円状にワイバーンを守るように展開する。

 ちなみにトリステインの竜騎士達はそれを遠巻きに見ていた。

 ナツミがダータルネスに敵を引き付ける大魔法を放つ為、距離を取るように言ったためだ。アルビオンの竜達はワイバーンが邪魔にならないようにと指示したら何故か円状に広がった。

少年達は数多の竜を引き連れ、その上自らの乗騎たる大空の君臨者の背で、神々しく剣を掲げるナツミの姿に見惚れていた。

 そして、その後ろでは使い魔たる少女を見つめる、分厚い魔導書を構える主人の姿も見える。

 まるで一枚の絵画のような荘厳さがそこにはあった。

 

 

 

 

「なんかカモフラージュとはいえ、ただ剣を掲げるのって恥ずかしいわね……」

 

 少年達が言葉すら失って、その光景を見ている中、その中心に居るナツミはそんな幻想をぶっ壊して余りある言葉を呟いていた。正直、欠伸すら出そうだったりする。

 ルイズはそんなナツミとは真逆に精神をうねりそのままに虚無を詠唱している。

 そうあくまで公式上ではナツミが虚無の担い手でルイズはその守人なのだ。それを他者にバレるのを避けるためにナツミとルイズははっきり言って間近で見ればバレバレの演技をしていた。だが距離が離れている上に、先のワイバーンの活躍とそれを竜達が見守る中での詠唱は洒落にならないレベルで演技を打ち消していた。

 

 やがてルイズの朗々とした詠唱は終わりを迎える。

 すぅっとルイズは息を吸い、魔法の最後の工程、その魔法の名前を口にした。

 虚無の系統、初歩の初歩が一つ。

 

「イリュージョン」

 

 その瞬間、それまで竜達が総て居た大空が数多の戦艦で覆われる。

 今やダータルネスの空は偽りの艦隊によって支配されていた。

 

 

 

 

 

 ダータルネスの他に三国連合の地上部隊が下ろされると目されていたロサイスの地。

 五万の大部隊を指揮するはアルビオンきっての地上戦のエキスパート、ホーキンス将軍であった。彼もまた、今やトリステインの艦の一つに乗艦する空中戦で無類の強さを誇る元アルビオン軍人たるボーウッドと同じ、生粋の軍人である。

 貴族階級に囚われない優秀な戦術眼を持ち、此度の内乱で幾つもの戦場を勝利に導いた強者。

 そんな彼が布陣するロサイスに急報が届く。

 

「なんと……ダータルネスの空に大艦隊の姿ありだと!」

 

 椅子を蹴倒すようにホーキンスは立ち上がる。

 知らせが正しいなら、これはまさしく一大事。敵の軍勢は本来は別国ということもあって指揮系統の複雑さが推察されていたが、それでも数は大きく彼らを上回る。

 そんな彼らを打倒する策はアルビオンにそう多くは残されてはいないのだ。

 その中の一つが敵が陣を完成させる前に最大兵力で叩きのめすことであった。九万近い軍勢と五万が真っ向から戦えば、いくら指揮系統が複雑でも負ける可能性の方が高いに決まっている。

 そのために、アルビオンの空に幾重もの哨戒網を展開してロサイスに敵が近付くのを把握したというのに、まさかダータルネスにも艦隊を向かわせていたとは。ホーキンスはまさに裏をかかれたことに思わず歯を噛み締める。

 

「くっ……放っておくことは出来ぬか、急ぎ遊軍をダータルネスヘ!後詰を編成する、各隊に伝令を!」

 

 思わず何かに当たりそうになるが、そこは歴戦の将軍。一時の感情に流される様なことはない。

 だが、ぽつりと一言。

 

「せめて敵軍が布陣する前に到着したいものだ」

 

 間に合う可能性が低いからこそ、そう願ってしまう。

 ホーキンスは周りを見渡すと自らの弱気な独り言が聞かれなかったのを安堵し、背を正すと細かい指示を出す為に歩き始めた。

 




正月なんて無い。そう思っていた時期がありました。

……本当に無かったです。正月休みが一日ってどういうことなの?いつも通りです。


とは言え、ゼロの使い魔も別の作者様では有りますが、遺されていたプロットで続くそうですね。一体どんな形で終わるのか楽しみです。
そして、サモンナイト6。わくわく。

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