ハルケギニアの誓約者   作:油揚げ

76 / 79
第七話 風竜とナツミ

「べー」

 

 とルイズは会議室から廊下に出るなり扉に向かって舌を出す。

 

「嫌な感じ!ナツミを戦争の駒としか見てないわ!!」

「多分その通りね」

 

 会議室から退室したルイズはそれまで大人しくしていた反動からか顔を真っ赤にして怒りを露わにしていた。

 ナツミは珍しく真剣な顔をしつつもルイズへと相槌を打つ。かつて、ナツミは魔王をその身に宿しているのでは疑われた際に人として扱われなかった事があった。

 半ば犯罪者に近いその扱いは彼女をあわや幽閉にまで追い詰めた。……幸いにもソルがそれまでのキャラをかなぐり捨てて熱血した為、それは阻止されたがその時の扱いと今の状況は酷似しているようにナツミには感じていた。

 兵器と魔王の違いはあれど、ナツミを人として扱わないそれは、かつての不快感を想起させるには十分だったが、同時に彼女は安堵もしていた。本来なら真の虚無の担い手たるルイズがこの道具扱いを受けていたであろうからだ。

 ルイズの扱いはあくまでもナツミの主人、圧倒的な存在感を持つ彼女の舵を取るルイズを将軍達は無碍には扱えない。莫大な力を有すれど、その身は使い魔。そんなものに簡単に頭を下げる程、自らの誇りは安くない。などと下らない事を考えていたのだ。

 今回の作戦にナツミの力は不可欠、しかし使い魔風情に頭は下げたくない。

 ならばその主には?

 幸いにもルイズはトリステインでも最上級貴族の娘。

 使い魔に頭を下げるよりは、遥かにマシと将軍達は考えた。ナツミにはほとんど視線も言葉も向けずに、将軍達は軍議を続けた。ときおり向けられる質問は全てルイズを通してだ。だが、それは侮りと言うよりも自分達では御しきれない力を持つナツミを刺激したくないという恐怖の現れだった。

 そこに居るにも関わらず、居ないように扱われるナツミ。

 その態度に自らの使い魔でありそれ以上にナツミを友人と尊敬し、信頼するルイズが怒りの声をあげようとしたが、それはナツミ自身により止められた。

 

「ありがと、怒ってくれて」

 

 貴族の娘がする口元を隠した小さな笑いとは違う、歯を見せるようなナツミの笑顔は見るものに安心感を与えるものだった。

 本来であれば、自分がまるで兵器の様に扱われたはずだ。

 それをナツミが肩代わりしていることを気付かないルイズではない。だからルイズは将軍達を後先顧みずに怒鳴ろうとしたのだ。……情けない自分も諸共に。

 それなのに、優しい言葉と笑顔を向けられルイズは不覚にも泣きそうになった。

 だが、そんな顔を将軍達に見せたくないというプライドがルイズが涙を流すことを拒んだ。そんなルイズの心の機微はともかく、軍議は粛々と進む。

 軍議の結果、ルイズとナツミはダータルネスに三国連合軍が上陸するように見せかける陽動作戦を受け持つことになった。

 艦隊規模からすれば、真っ向から戦っても落とせない事はないであろうが、上陸兵を乗せた艦を落とされては多くの兵が損耗してしまう。

 幾ら数が多くても、元々は違う国の兵達、ただ単純に物量で考えるのは早計だ。三国の同盟は物量で言えば、かなりの大戦力だが同時に指揮系統の複雑化を招いていた。それは、敵の心理戦への脆弱さを内包している。

 多くの兵を有する連合軍は補給物資も膨大なものとなってしまう。長期戦は各国の軍拡で疲弊した経済力では賄い切れない。戦略的にも今後の政策的にも最大戦力で一気呵成に首都ロンディニウムを落とすのは三国ともに必須であった。その為に連合軍に必要なのは無傷で上陸する九万の兵だ。

 ナツミ達は虚無を用いてダータルネスに敵を引きつけ、その間にロサイスに本隊が上陸。

 今回の作戦の要はそこにあった。

 だが、ナツミの召喚術はかなりの汎用性を有するが、それでも敵を引き付けるという類のものは思いつかない。魅了の召喚術も有るには有るがそれも敵兵が有る程度、近くに居ないと効果は無い。

 眉を顰め悩んだが、それはデルフによって解決された。

なんでも、始祖の祈祷書に記された魔法は、必要な時に必要な魔法が読めるようになると。それを聞いた二人はとりあえず、明日までに最適な魔法を選んでおくと告げるとそれ以上の用はないとばかりに、半ば強引に退室を促され、現在に至っていた。

 

「まぁ、必ず勝たなきゃいけないし、そういうもんかもね」

 

 負けてしまっては、人権も何もない。全てが無くなってしまうのだ。

 ナツミは自分とルイズに言い聞かせるようにそう呟いた。

 理解したくはないが、少なからず戦いと言うものを経験したナツミは気落ちしながらも、与えられた自室へと戻ろうと会議室の扉に踵を返す。だが、その歩みは踏み出す事は無かった。

 ナツミ達の進行方向、その先には目付きの鋭い貴族が五、六人、ナツミを睨んでいた。

 

 

 

 

 

 年の頃はナツミやルイズと変わらない、少年と呼んで差支えの無いように見える。一行は皮の帽子を被り、揃いの青の上衣を纏っていた。杖は軍人……ワルドと同じレイピアタイプの物を腰に差していた。

 

「おい、お前」

 

 リィンバウムはまだしも、ハルケギニアの貴族に対して然程良い感情を抱いていないナツミはその言葉にカチンとくる。ついでに、何故かガゼルと最初に出会った時にいきなりナイフ片手にカツアゲされた時を思い出す。

 

「なによ」

 

 いまさらだが、ナツミの性格は乙女然としたものではない。かなり、男前な性格を彼女はしていた。

 少年達の言葉に臆することなく答えるナツミ。だが威圧感は出してはいない。扉の向こうには、各国のお偉いさん達が今も軍議をしている。流石にそれを忘れるほど短気では無い。

 

「来い」

 

 リーダー格の少年が顎をしゃくってナツミを促した。

 なんかやる気まんまんねぇ、とか思いながらナツミはつかつかと少年達の後ろを付いていく。

付いていきながらも、こっそり身体能力を強化するための憑依召喚の準備を行うナツミ。

 一行がやってきたのは、ワイバーンが眠っている上甲板。本来なら十騎近い竜を乗せることがそこは、今はナツミのワイバーンと隅っこの方に数騎の竜が居るのみとなっていた。広いところに出たことで、ここでやる気かとナツミが憑依召喚を唱えようとするが、

 

「なぁ、こいつはワイバーンか?」

「は?」

 

 一人の少年の思ってもみなかった言葉に思わずナツミは間抜けた声をあげてしまう。

 

「む、そうじゃないなら、なんなんだよ」

 

 馬鹿にされたのかと思ったのか、今度は違う少年が質問してくる。

 

「いや、普通にワイバーンだけど……」

 

 とナツミが呟く。

 

「ほらみろ!僕の言った通りじゃないか!僕の勝ちだ!ほら一エキューだぞ!」

 

 一番太った少年が、自慢げに胸を逸らす。すると他の少年達がしぶしぶとポケットから金貨を取り出して、その太った少年に手渡す。

 そのやり取りに、ルイズとナツミはポカンといった言葉がぴったりの顔をしてしまう。ナツミに至っては発動寸前まで準備していた憑依召喚術を意図せず霧散させていた。そんな美少女と言って差支えない少女達が揃って口を開けているというアレな光景を見て、少年達は気まずそうな笑みを浮かべた。

 

「驚かせたかな?申し訳ない」

「はい?」

「僕達は賭けをしてたんだ。こいつがなんなのかってね」

 

 眠っているワイバーンを指差してリーダー格の少年はそう言った。

 

「僕はワイバーンじゃなくて竜だと思ったんだ。流石に大きいし頭も良さそうだしね」

「僕は韻竜かな~。竜達の怯えっぷりが半端ないし」

「いくらなんでも韻竜はないだろ!もう絶滅したって言われてるじゃないか!」

「居るかもしれないだろ?世界は広いんだから」

 

 年頃の少年達らしい良い意味で馬鹿っぽい会話にナツミはやさぐれていた心が随分和んでいた。

 その光景はまるで名も無き世界に居た頃の学校のクラスの男子達の会話のようであった。

 

 

 

 

「僕達は、竜騎士なんだ」

 

一通り言い争いを終えてナツミ達の事を思い出した少年達は、中甲板の竜舎にナツミ達を案内した。トリステイン軍の竜騎士はタルブ戦で、ほぼ全滅に近い損害を受けた為、見習いだった彼らがそのまま正規軍として繰り上げられたと説明した。

 

「本来なら、あと一年近く修行しなきゃいけないんだけどね」

 

 そう言ってはにかんだ笑みを浮かべているのは、先程賭けに勝った太っちょの少年であった。聞けば彼は第二竜騎士中隊の隊長であると言う。

 竜舎の中にいたのは、風竜の成体達であった。タバサのシルフィードよりも二回りほど大きい見事な風竜だ。

 ……それでもワイバーンの半分もないが。

 

「竜騎士になるのは大変なんだぜ」

「そうなの?」

「ああ、竜を使い魔にできれば、簡単なんだけどね。皆が皆、竜を召喚できるとも限らないしね。使い魔として契約しない場合、竜は凄く気難しい。一番乗りこなすことが難しい幻獣と言われる所以でもあるんだ。なんせ、自分の背に乗るにふさわしい乗り手しかその背を許さないんだからね」

「うん、うん。竜はただ乗り手の騎手としての腕を見るだけじゃない。自分に相応しい魔力を持っているか?頭は良いか?そんなところまで見抜くだ。侮れない相手さ」

 

 竜騎士に選ばれること自体が大層な誉。少年達はそれに見合ったプライドの高さを持っていたようだった。

 

「だから君は運が良かったね。あれだけのワイバーン、普通なら、ううん普通でも乗れるもんじゃないよ?」

 

 ハルケギニアのワイバーンは本来、人を背に乗せる様な気性をしていない。

 とは言え、これだけのワイバーンを召喚する実力がある事は理解できるのでナツミを嘲るつもりは少年達は無かったが、ナツミからすれば召喚で使い魔の契約を交わしたからあれほどのワイバーンを乗騎として扱えると思われてるようで面白くない。

 

「ふぅん。ねぇ、その風竜に乗せてもらってもいいかな?」

「え、やめた方がいいよ。気に入らない人が乗ると容赦なく叩き落とすから」

「大丈夫よ」

 

 ナツミの妙な気迫に押されながらも、女の子が怪我するのは頂けないのかその身を案じる少年。

 ナツミはその忠告を聞きながらも、堂々と真正面から風竜へと近付く。

 そんな風竜はじろりとナツミへと視線を向ける。

 

「あ、馬鹿!せめて横からって……ええええ!?」

 

 竜の正面に立つ、ナツミに大声で警告するが、その声は途中で驚きの声に変わる。風竜はナツミがさらに近付くと、床に伏せナツミが乗りやすいような姿勢を取った。ナツミはそんな風竜の頭を優しく撫でると、颯爽とその背に乗る。

 ワイバーンの背も悪くはないが、風竜の鱗はワイバーンに比べて手触りが良いなぁなどとナツミは考えていた。

 

「ど、どういうこと!?、初対面の人間にあそこまで忠誠を誓うなんて……」

「こ、こんなことがあるなんて……」

 

 少年達は自分達に対してもしない風竜の行動に驚きを隠せないでいた。そして同時に気付く、この少女が契約によってワイバーンの騎手となっているのではないことを。真実、あの巨大なワイバーンを御して余りある実力をその身に宿していると。

 そんな少年達の感情を知ってか知らずか、ナツミは風竜の鱗の撫で心地を一頻り楽しむと颯爽と飛び降りる。

 

「よっ!と、こんなもんかな?」

 

 そう言って、にっこりと笑うナツミに少年達は不覚にも頬を染めてしまう。

 

「ナツミ大丈夫?」

 

 ぱたぱたとナツミに近寄るルイズ。

 大丈夫とか言いながらもルイズ自身はナツミの実力を微塵も疑っていない為、心配は一切していない。

 ただ少年達の向こうに居るナツミに近寄る口実が欲しかっただけだ。戦争と言うことで殺気立った艦の中、知り合いと離れるのは怖いのだ。……そんな事を口にするような素直な喉をルイズは持っていないが、近付くことが出来る分だけ前よりは素直になったのかもしれない。

 

「うん。大丈夫だけど、どうしたの?」

「う、ううん、なんでもない!」

 

 ナツミの笑顔に呆けていた少年達だったが、ルイズと喋るナツミの様子にその硬直もようやく解ける。

 

「すごいな君!」

「ああ、侮っていたよ!さすがあのワイバーンの主、かなりの実力を持ってると見た!」

 

 やんややんやとナツミを囃し立てる少年達を宥めるにはそれ相応の時間がかかったという。

 ……少年達がナツミがルイズの使い魔と知って更に驚いたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 ナツミがそんな事をやってるちょうどその頃、まともな授業がめっきり減った魔法学院に、騎馬隊の一団が現れていた。門から入って来たのは、アニエス以下銃士隊の面々だ。

 本来は近衛隊として女王の護衛が主任務の彼女達だが、先のリッシュモンの背信の際にアンリエッタを一時期とは見失った件で、王宮での立場が微妙なものとなっていた。リッシュモンを誘い出す為の策と素直に言えれば良かったのだが、王宮の高級官僚に対してアンリエッタが背信を疑っていると他の貴族に知られるのは今後のトリステインを統治していく彼女にとって不味い。

 というわけで形だけでも罰に近い物を与えなければならなかった。

 その罰と言うのが、魔法学院の警護である。圧倒的な戦力で挑む三国同盟ならば敵が反撃するのはほぼ無理、トリステイン本土での戦闘が無いと想定される中での魔法学院の警護は他の貴族からすれば体のいい閑職に見えるだろうし、近衛隊と言う女王の警護を任された彼女達は大層な侮辱だろうとも思うだろう。

 そんな思惑の中、彼女達は元々貴族では無いしこの魔法学院の警護も形だけと理解しているので、今は雌伏の時と考えていた。

 女王の心配はするだけ無駄だ。なんせ女王と枢機卿、銃士隊しか知らない凄腕の護衛である忍者娘が四六時中、彼女を守っているのだから。

 

「アニエス以下銃士隊、只今より魔法学院の警護の任に着任いたします」

「お勤め、ご苦労様な事じゃな」

 

 これでいて中々にアンリエッタからの信認がある学院長は今回の魔法学院の警護の事情を知っていたため、複雑そうな視線をアニエスに送っていた。

 

「いえ、任務ですので」

 

 背を伸ばし、学院長の言葉を受け頭を一つ下げ、アニエスは退出する。

 アニエスとしても今回の任はありがたかった。リッシュモンを殺害して……否、シオンからの言葉を受けて以来、アニエスはどうにも自分の心の置き場を見失っていた。女を捨てて今の実力を得た彼女だったが、そんな彼女に対し、アカネは少女の心を持ったままアニエスよりも遥かに強かった。復讐の為にそうであれと自分に課したアニエスに、シオンに指摘されたアカネの在り方は衝撃的だった。

 自分の過去を悔いる気はないが、他に道があったのではないかと思うほどには悩んでいた。

 復讐する相手が分かれば烈火の如き復讐心でそれを打ち消すことが出来ただろうが、リッシュモン以外の復讐の対象を彼女は未だに見つけられずにいた。

 王軍の資料室からやっとの思いで彼女が発見した復讐の相手達である魔法研究所(アカデミー)実験小隊について書かれた資料には名も知らぬ貴族や、すでに死している人物の名しかない……しかも隊長の名が記してあったと思しきページは破り捨てられていたのだ。

 まるで宙ぶらりんのブランコのようにアニエスの心は居場所が定かではない。こんな状態の彼女では女王陛下を守ることも覚束ないだろう。

 

「ふ、どうせアカネが居れば事足りる……私が居なくても変わらん」

 

 学院の中庭をとぼとぼと言った言葉がぴったりの様子でアニエスは歩いていた。

 彼女は自虐的な事を呟いているが、その実、王宮に居ればアカネがなんだかんだで、からかってくれるためここまで落ち込むことはなかった。アニエスが気付くことはなかったが、あれで人の機微にはナツミよりも遥かに敏感なアカネ。アニエスを気にしていたのだ。

 

「はぁ……」

 

 以前の他者からの侮蔑の眼差しを真っ向から受け流す凛とした彼女はそこには居なかった。

 

 

「ぬおお!?」

 

 魂が抜けた様に歩くアニエスの目の前をなんやら黒と紅の暴風が共に駆け抜けた。

 

「な、な、なんだ!?」

 

 思わず抜剣しアニエスが構えるが、その暴風はアニエスなぞどこ吹く風と言った体で暴れまわっていた。

 

「流石えすがるど殿、朱イ死神ノ名ハ伊達デハナイト言ウコトカ」

「……殿ハ要ラン、ぜるふぃるど。慣レテイナイ機体(からだ)デコノ動キ……余程良キ主ノ元デ研鑽シタノダナ」

「フ……世事ハ要ランゾ!」

 

 動きはまさに暴風。

 それぞれが片手に付けたドリルを猛回転させ相手を削り穿たんと、凄まじいスピードの突きを連射する。まだ慣れぬ体とはいえ、良いパーツを無駄に詰め込まれたゼルフィルド(改)を押し気味のエスガルド。

 そもそもエスガルドは機界が滅んだ原因の機械大戦で切り札として作成された存在、つまり最強の機械兵である。ゼルフィルドが弱いとは言わない。だがルヴァイド達に発掘されるまで眠っていた彼と機械大戦を越え、魔王との戦いを経たエスガルドとではありとあらゆる面で経験が不足していた。

 

「ク……」

 

 エスガルドの突きに咄嗟にゼルフィルドは屈み、ドリルの左手を地面に突き立てる。

 ドリルを突き立てられた地面から大量の土砂が巻き上げられ、ゼルフィルドはそのまま上空へと金属の体をもって飛び出した。と言っても別に彼に飛行能力があるというわけではない。

 ただ相手の意表を突こうと思っただけだ。

 土砂は未だに辺りの視界を遮っている。だが、ゼルフィルドにそんな土砂は何の障害にもなりはしない。元よりゼルフィルドは索敵、射撃に特化した存在。さらにこの新ボディは彼の長所も強化している。

 右手の銃をエスガルドに向けて、発砲しようする。

 だが、彼はそこで機械兵らしからぬ驚きの声をあげてしまう。

 

「ナニ!?」

 

 ゼルフィルドの優秀なセンサーは、自分をまっすぐ見て、右手の銃を向けるエスガルドを捉えていた。

 狙い撃ち、エスガルドが有する射撃のスキル。

 ドリルを愛好し近接戦に特化したように見えるエスガルドだがその実態は、衛星兵器とリンクし精密射撃を行う射撃兵器としての側面も有しているのだ。大抵の攻撃を平然と受け止め正面から敵を撃破し、殲滅対処を視認すれば衛星攻撃を行う。それがエスガルドが切り札とまで言われた由縁。決して近接戦闘だけで切り札と呼ばれたわけではない。近距離、遠距離、殲滅、全てにおいて高レベルだからこその切り札なのだ。更に自己修復能力すら有している。なんでも有りとはこの事だ。

 

 

「マサカ射撃デモ敵ワヌトハ……私モマダマダダナ」

「コチラモ良イ経験ヲサセテモラッタ。ソレニ慣レヌ体デソコマデ動ケルノダ、アマリ気ヲ落トスナ。マタ訓練ノ時ハ声ヲカケテクレ、相手シヨウ」

 

 まったく抑揚というものが感じられない言葉を躱すと二人はアニエスの視界から消えていく。

 地面を陥没させるような重さにも関わらず何故か無音で。

 

「……あれはなんだ?まさかアカネの仲間か?」

 

 魔法学院にはアカネが主兼友人の少女が居ると言っていたが、あんなのが居るとは聞いていなかったのでアニエスはそれまでの悩みが一時吹き飛ぶ。

 

「いや、まさかな。ゴーレムの一種だろう……うん」

 

 アニエスが選んだのは思考の停止。

 魔法だと思えば大抵の事は納得できる。

 魔法の範疇に入らない規格外はアカネとシオンで十分だ。

 キャパが色々限界を迎えつつあるアニエスは、先程とは違う意味で重い足取りで中庭を歩く。

やがて彼女の常識は芥子の一粒も残さずにぶっ飛ぶことになる。何故なら、彼女が規格外だと言うアカネすらも上回るとんでもないのがまだ控えているのだ。

 

 

 アニエスの脇を彼女の毛嫌いする火のメイジと思われる人物が横切ったが、なぜか気にはならなかった。

 それほどまでに彼女は心労が溜まっていた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。