パソコンを新調したり、相も変わらず入職者が居なくて大変ですが、私は元気?です。
ウェールズはあんぐりと口を開けて、
その隣でラミはウェールズの左手を握り、薄くではあるが何処か得意げな表情を浮かべていた。
「これが……召喚鉄道かい?」
「うん」
ようやく平静さを取り戻したのかウェールズはぎこちなく口を開いた。
だが、その視線は目の前の巨大な生物に注がれていた。この巨大な生物は召喚術によってリィンバウムに招かれた召喚獣であり、その役目は自身の身体に繋がれた貨車を運ぶこと。所謂、馬車や牛車の召喚獣版である。
ラミとしては本当ならもう少し、何か話したいと思ってはいるのだが、悲しいかなラミはまだまだ幼い少女、召喚鉄道が走っている場所位なら分かるが、その運用方法などはさっぱりだった。
「大勢の人間と、荷物を一度に運ぶことが出来るのか」
しかし、そこはリィンバウムより文化レベルは進んでいないとはいえ、ハルケギニアでは一流の教育を受けていたウェールズ。召喚鉄道をざっと見渡しただけで、ある程度の概要を掴む。
情報にしろ貨物にしろ新鮮な事に越したことは無い。ハルケギニアでも移動の速さから要人が出かける際は竜を使ってはいるが、いかんせん絶対数が少なすぎる。それに一度に運べるものにも限りがある。風石を利用して空飛ぶ船も有るが、これも経費が掛かるという欠点がある。召喚鉄道にはそういう欠点は無い。
「これはすごい」
目の前の召喚鉄道の利便性に気付いたのか、ウェールズは知らずそう口にしていた。それと同時にこれと似たような事がアルビオンでも出来ないかと考え始めた。軍事用、商業用と幅広く応用できそうだとうんうんと一人で頷いている。
(……大きな動物さんが好きなのかなぁ)
目を輝かせて召喚鉄道を見やるウェールズを見てラミは大きな動物が好きなのかと一人で勘違いしてしまう。
(誰かに召喚してもらおうかな……)
二人が各々の考えから復帰するのには幾ばくかの時間が掛かったとは言うまでもない。
「……ただいま」
「戻ったよ」
幾ばくか日が傾きかけたころ、二人は若干立てつけが悪くなっているフラットのドアを開けて、帰宅を告げる。ここが我が家であるラミはともかくとして、ウェールズもこのフラットに戻って来ると王宮に居た頃よりも安心感を得るまでに馴染んでいる。
フィズやガゼルが毎日の様に騒々しくしていたり、モナティがドジを踏んだり、リプルが怒ったり、なんだか変わった来客が良く訪れる落ち着きの無い家にも関わらずだ。
(本当に楽しいなここは)
自分でも意識せずにウェールズはニコニコと調理場に買ってきたものを置きに行く。もう慣れたものだった。
食堂を通り抜け調理場に向かおうとしたところで、ウェールズは食堂に椅子に座る来客達に気付く。
「ん?ウェールズとラミか、お邪魔してるよ」
「お邪魔しています」
「イリアスとサイサリスじゃないか。いらっしゃい」
「……」
二人の来客にウェールズは嬉しそうに破顔する。来客はこの紡績都市サイジェントの守護を担う若き騎士団長イリアスと、その補佐であるサイサリスであった。
イリアスは人好きのする笑みを常に湛える金髪の美青年であり、サイサリスはじと目が特徴的で、ラミと同じく無口な少女である。
「今日はどうしたんだい?夕飯でも取りに来たのかい?」
「ははは、リプレのご飯は美味しいからねって、実は残念ながら別件なんだ」
「とはいえ、夕食がてらお話をしようとこの時間に訪れた訳ですが」
「……う」
「ふふふ」
サイサリスの的確な突込みにイリアスは思わず口淀んでしまう。どうやら夕飯をご馳走になる腹積もりだったらしい。
「作る側としては嬉しい話ですけどね。でももう少し待ってもらえるかしら?あとラムダさんも呼んだんですよね」
「やれやれ、今日は随分と客が多いな……まさか」
「勘がいいねガゼル」
それまで何処にいたのやら、夕飯の気配を察知してガゼルが何処からともなく姿を現す。そしてイリアスとラムダという紡績都市サイジェントの騎士団の重鎮とも言えるメンバーが集まることに、何か感づいてしまう。
「まぁた厄介ごとかよ。うちはただの貧乏孤児院なんだぞ。何でも屋と勘違いしてるんじゃないのか?」
どこの世界に魔王や悪魔の軍勢を屠る孤児院が有るのだと突っ込みたいイリアスだったが、ナツミが居る時点でありとあらゆる常識から外れていることは明白だった。
「何でも屋程度で解決できるなら、僕達で何とかするさ。君達に協力を仰ぎたい。と言うだけで何となくわかるだろ?」
「あー分かった、分かった。後でまとめて話してくれ」
冗談めかした自分の問いに生真面目に答えるイリアスに、ガゼルはひょいと腕を振るうと自分の席へと座る。騎士団でも手が余るとなれば、先の無色の派閥の乱、傀儡戦争の様な厄介ごとだと気付いたのだ。
「そう言えばイリアス」
「なんだい?」
「ナツミが今、居ないって知ってるのか?」
眉を顰めながらガゼルはフラットの現状をきちんとイリアスが知っているか確認をとる。後で話を聞くとはいえ、ナツミの力がいるほどの事態だと流石にそれは大事すぎる。
「知ってるよ。出来れば彼女が居てくれたほうがいいけどね」
「ってことは、無色の時程はヤバくないってことか?」
「うん。……というか流石にあんなことがそうそう発生してほしくないよ」
「全くだ」
二人はお互いに肩を竦め、苦笑しあう。互いに世界を救うその一助を担っただけあり、その笑いには何処か哀愁が漂っていた。
「
イリアスの話を聞いて真っ先に反応したのはソルだった。いつも冷静な彼らしくなく。荒々しく両手をテーブルに叩きつけ、誰がどう見ても動揺しているのが見て取れた。
「ソル、落ち着け話がまだだぞ」
「―――――っ」
「ソル」
「ああ……済まない。続けてくれ」
話を良く分かっていない子ども組まで、ソルに注目する中、落ち着いた声音でレイドとラムダが注意を促すと、自身の醜態に気付いたのか、ソルは素直に謝り、イリアスに続きを促した。
「いや、ここは一度、霊属性のエキスパートに源罪について詳しく聞いておきたい。悪魔王メルギトスの遺した悪意の遺産とは分かっているが、どの程度、不味いのかいまいち分かっていないのが現状なんだ」
「……分かった」
再び、皆の注目が集まったのを肌で感じながら、動揺がなるべく出ないように呟くと、ソルは源罪について訥々と説明を始める。
源罪とは魔王と呼ばれる最上位の悪魔が操るとされる見た目は黒い風であり、人間が持つ憎しみや暴力といった負の感情は太古の昔にこれを浴びたのが原因とされている。太古に浴びただけで未だにその影響が残っていることから素のままにこれを浴びれば、それが及ぼす災害は際限ない負をまき散らすとまで言われている。
さらに不味いのはそのまき散らされた負の感情と血は悪魔に膨大な力を与え、リィンバウムでもサプレスと同様に事実上の不滅の存在に至ってしまうという。
「おいおい!それってマジでヤバいじゃないか!?」
「あぁ、しかし実態が無いものをどうしろというのだ?」
悪魔の力を知っているが故か、ガゼルとエドスが青い顔をして声を張り上げる。世界、敷いてはフラットを守る為ならば力を惜しまない二人だが、黒い風という漠然とした物に対処する手段は無いように感じられたのだ。
「うむ。ただ剣を振るえば良いって問題でもなさそうだな」
「ソル、なにかいい手段は無いのか?」
ラムダも腕を組み唸ってしまう。レイドはナツミという規格外を除けば、間違いなく世界最高峰の召喚士であるソルが何か打開策を打ち出すのではと一縷の期待を寄せた。非凡なる召喚士であり、さらに霊属性を極めた彼ならば、何か手段を講じれるのではと考えたのだ。
「……」
レイドひいては、テーブルに着く全ての視線を受けながらソルは黙り込んでしまう。それは、沈黙でありながら、雄弁な答えでもあった。
そもそも、源罪という言葉であれほど、ソルが動揺していたのだ。最初から答えは出ていたと言えた。
そして、ソルが、世界最高峰の霊属性の召喚士が、手段を講じれないとなると―――――――。
「あ、ちょっと待って、源罪については、どうにかする解決作があるんだ」
絶望に打ちひしがれる皆の話の腰を折るようにイリアスが明るい声を放った。
「……は?」
少し間を開けて、それまでのイメージを覆すようなソルの間抜けな声が辺りに響く。
「ど、どうにかって、源罪をどうにかしたって事か?」
「そうだよ。と言うか現在進行中」
混乱から抜けきらぬソルを尻目にイリアスは訥々と、長い長い説明を始めた。エルゴの王が表れるよりも昔に存在したという最強の召喚士の一族、クレスメント家とメルギトス、そして豊穣の天使アルミネの深い因縁で結ばれた歴史を。
「つまり、そのアメルって子が豊穣の天使アルミネの転生体で、今わの際にメルギトスがまき散らした源罪を浄化するために大樹へとその身を変えたってことか」
「そうだね」
「おいおい、それじゃあ俺たちに頼みたいことってなんだよ?源罪ってのは俺達にどうこうできるもんじゃないんだろ?そのなんとかって奴が変身した木が浄化しきるのを待つしかないんじゃないのか?」
うんうんと頷き合う、イリアスとソルに対して、二人の意図が分からず堪らずガゼルが大きな声を張り上げた。ガゼルが疑問に思った通り、源罪は人の力でどうこう出来るものではない。それに即効性は無いとはいえ、源罪が現在進行形で浄化されているなら、差し迫っての脅威は無いように思えた。
「そうだね。浄化に何年費やされるかは不明だけど、源罪に対して僕らが出来る事は無いね」
「なら、なんの用で……」
「でも、その浄化を担っている大樹を悪魔達が見過ごすと思うかい?」
「っ!」
ガゼルを遮ったイリアスの言葉に食堂に会した多くのメンバーがはっと何かに気付いた様にイリアスに視線を集中させた。
源罪は負の感情を増幅させ、そこから生まれる絶望や恐怖、憎悪が終わり無き戦争を再びリィンバウムに齎すだろう。そしてそれが更なる負の感情を生み、それらを糧とする悪魔を際限無く成長させてしまう。ならば自分達に利する源罪を浄化してしまう大樹を悪魔達が放っておくはずがない。
「アメルって子と一緒にメルギトスを倒したメンバーが中心となって、悪魔達に抗してはいるから、焦ることは無いんだけどね。流石に事が事だからね。戦力は有るだけあったほうが良い。というか魔王と戦った君達が協力してくれると非常に助かるんだ」
大樹が根を下ろしている聖王国は自らの復活のために暗躍したメルギトスとその配下のせいで多くの騎士が失われたからね。とイリアスは眉を顰めた。
「僕らも協力したいのは山々なんだけど、知っての通り各地で活性化した悪魔達も放っては置けなくてね。自由に動けて且つ、腕が立つ君達の手を貸してはくれないか?」
しんと静かになった食堂にイリアスの声が響いた。
そして、その言葉に真っ先に反応したのは、ソルだった。
「もち……」
「任せろ!」
「しょうがねぇなぁ」
だが、ソルの言葉に被せるように二人の男、ジンガとガゼルがやる気に満ちた声とどこか諦めた声を上げた。
「ジンガ、ガゼル?」
「あぁ、それ以上、何にも言うじゃねぇよ。どうせ自分一人ででも手伝うとか言い出すつもりだったんだろう」
ソルが背負い込みやすい
「今更だ。こんな話を聞かされて手伝わねぇ奴なんて、この中にはいねぇよ」
「すまない」
神妙に頭を下げるソルに、有らぬ方向を向いてガゼルは鼻を鳴らす。誰が見ても照れを隠しているのは明白だった。
「じゃあ、協力してもらえるのかな」
「あぁ、悪魔達を放っておいて良い事なんざ無いからな」
協力を得られた事にほぅとイリアスは安堵の息を吐き出した。このメンバーが断る可能性は無きに等しいが、ナツミが不在の為、万が一にも断られてしまうのではと心のどこかで思っていたのだろう。
「では、急な話ですが二日後に出発でもよろしいでしょうか?」
「二日後……仕方ない事が事だからな」
ラムダは腕を組みながらそう呟いた。他にもレイドが剣術道場が、とかエドスが石切の現場とか呟いているが、基本的にフットワークの軽い一同だ。そこまで悪影響は無い。
大して詰まることなく一同は話し合いを進めていく。そんな中、たった一人の声が響いた。
「私も、それに協力させてもらってもいいかな?」
そこには何故か、やる気に満ちたウェールズがにこやかに笑っている姿があった。
前のノーパソから一括で買った一体型パソコン。あまりの性能差とOSの違いに驚いてしまいました。
最近はライトミステリーやらホラーミステリーなんかを読んだりしてます。
速読とは行かなくても大抵三時間で読んでしまうため、推理小説を推理小説として読んでいないことに最近、気付きました。何処から辺から犯人分かった?って聞かれても、主人公が犯人追いつめるまで分からないという。
後、前のパソコンが完全に死んでいるのに気付き焦りました。起動しねぇ。一体型を購入してから二日後に死んでるって……そこまで頑張ってくれた事に感謝です。
お蔭で何話か編集した本編が、遥か彼方に逝ってしまいましたが……。
ホラーもいつか書いてみたいですね。