ハルケギニアの誓約者   作:油揚げ

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明けましておめでとうございます。
今年、最初の更新です。
今年もよろしくお願いいたします。


第五話 一路ロマリアへ

 

 

 ガリア王国領。高度約三千五百メートル付近をルイズ達一行はワイバーンに乗り、ひたすら飛び続けていた。そのスピードは風竜など及びもつかない程の速さである。

 本来、このように他国の領空を飛ぶのは、領空侵犯と取られかねない危険な行為ではあったが、ワイバーンが高高度、並びに風竜を上回る速度で飛ぶことでその問題をクリアしていた。高度が高ければ、それだけで見つかる可能性は低くなるうえ、たとえ目撃されたとしてもハルケギニアで有数の飛行速度を誇る風竜でも追いつかれない速度で飛んでいれば捕まる事もないであろう。

 しかし、そんなスピードで空を飛べば、通常であれば背に乗った人間は風圧で遥か後方に投げ出されてしまうだろう。だが、そこは風のトライアングルであるウェールズの魔法で風を逃がす障壁を張ることで万事解決していた。

 そのおかげで一行は風圧とは無縁の快適な空の旅を楽しんでいたが、魔法を使ったとうのウェールズ自身は、なぜかワイバーンの背から見える風景をどこか遠い目で眺めていた。

 

「君が羨ましいな」

「え?」

 

 それまでルイズ達の言葉に相槌しかしなかったウェールズは突然、言葉に羨望の色を滲ませてナツミにそう言った。

 

「君は自分の力だけで、好きな所へ行き、好きな事ができる。私は王族としてずっと縛られて生きてきたのかも知れないな……」

「王子様……」

「なにをするにも王族として恥ずかしくない態度を常に心がけてきた。まわりが望む王族を常に演じてきたのだ」

 

 ウェールズはそこで一旦言葉を区切り、ナツミと目を合わせる。

 

「そして今、アルビオンが滅んでもこの体に流れる王族としての血が私を縛っている。あの場では言わなかったが私も本当なら争いなど忘れてアンと一緒に暮らしたかった。だが、私がトリステインに居るのが知られればレコンキスタにとってトリステインに攻め入る口実になってしまう」

 

 そこでウェールズは再び、遥か遠くに視線を移す。

 

「私も君のような強い力を持っていれば、こんなことにならなかっただろうにな」

 

 ウェールズのその言葉を聞き、ソルが静かにだが厳しく言葉をぶつける。

 

「いい加減にしろ。力が無いのを理由に出来る出来ないを論じるな」

「……なんだと」

 

 ソルの言葉にそれまで、暗い表情をしていたウェールズに怒りという感情が灯る。

 王族という下から持ち上げてもらうことに慣れきってしまった彼にソルに厳しい一言は余計に響いたようだった。

 

「なにもしなかったことの言い訳に力の有無を使うなって言ってるんだよ」

「君に何が分かる!」

 

 辛辣な言葉をさらに続けるソルに、ついにウェールズは激高して大声を上げながらソルの胸倉を掴み上げる。ぎゅうぎゅうとまるで殺さんばかりの勢いを持って胸倉を掴むウェールズにソルは苦しい表情をしながらも淡々と言葉を紡ぐ。

 

「ごほっ……分か、るさ、俺も親の言、いなりで、高い地位に甘ん、じて生きて、きたん、だからな……ごほっ」

「えっ」

 

 ソルが話す内容にウェールズは驚きの声をあげ、思わず腕の力を緩めてしまいソルはそのままワイバーンの背に膝をつき、苦しげに喉を押さえた。

 

「ぅごほっ!ごほごほっ」

「す、すまない!つい頭に血が上ってやりすぎてしまった。申し訳ない!」

 

 ソルの話した言葉の内容を頭の中で反芻していたウェールズであったが、苦しげに咳を繰り返すソルを見て我に帰り、頭を下げる。

 

 

 

「いや、気にしないで下さい。怒らせる様な事を言ったのは俺ですから」

 

 吹っ切れたとまではいかないが、先程よりも大分、気分が晴れた表情をウェールズは浮かべている。そんなウェールズを見て、ソルは満足する様に微笑んだ。怒りを煽るような言葉は不器用な彼なりの励ましだったのだろう。

 

「……しかし」

「いや、ホントに気にしないで下さい。むしろこっちが不敬罪で首をはねられても文句は言えない位ですよ」

「いや、流石に首をはねたりはしないが…っと、それよりも君が言っていた話だが」

「ああ、それですか」

 

 ソルは一つ頷くと自らの身の上を話を始めた。

 悪の総帥の息子として生まれた事。

 親の言われるままに、召喚術をひたすら学んだ事。

 魔王召喚のいけにえとして選ばれた事。

 いざ召喚の際に怖くなり助けを求めてしまった事。

 そしてその召喚の際にナツミが召喚され、出会い、孤児院で一緒に暮らす中で変わることが出来たと。

 

「まぁ、あのバカなら、きっと力の有無に関わらず俺達を助けたはずですよ。そういうやつです。ナツミは。巻き込んだ元凶の俺が言うのもあれですけどね」

「はは、確かに話を聞く限りそんな感じだな」

 

 ソルの話に共感できる部分と、ソルのナツミへの気持ちを感じ取ってウェールズはほんの少しの笑みを浮かべた。ウェールズは微笑みはそのままに、ふたたびワイバーンの背から見えるどこまでも青い空を見る。

 そして思った。

 まだ、心の中のわだかまりは消えてはいない。

死んでしまった父王、忠臣への申し訳ない気持ちもあるし、自分を含む王党派が不甲斐無いせいで愛するアンリエッタには望まぬ結婚を強いてしまったことも申し訳なく、それ以上に悔しかった。

 しばらくはふとしたことで、また暗い感情に囚われてしまうこともあるだろう。だが、ソルも言っていた力の有る無しを理由になにもしないのはもう止めようと。

 その手本のような少女が目の前にいるのだから。

 

「それに……殿下が望むならこんな方法もあるんですよ?」

「……む?」

 

 感慨にふけるウェールズに何事かを耳打ちする。その顔に浮かぶ笑みは何かを覚悟するかの様なモノだったが、ソルが鏡を見ていたら間違い無く全力で己の頬を張り倒していただろう。何故なら、その笑みはナツミの浮かべる笑みに良く似ていたのだから。

 

 

 

 

「ジンガ~お腹冷えるわよ」

「むにゃむにゃ。姐御もう食えないよ~」

 

 長い話にジンガは飽きて腹を出して寝てしまい。ナツミはそれを心配していた。シリアスな空気は完全にぶち壊されていた。

 

 

 

 そこからさらに数時間が過ぎ去り、ワイバーンはロマリア皇国の領内を悠々と飛んでいた。ちなみにジンガはまだ寝ていた。とはいえ、彼くらいの格闘家なら、殺気を感じれば勝手に起きるであろうが。

 そんなことはさておき、ナツミ達はどうやって、ロマリアの宗教庁まで行こうかと話し合っていた。

 一応マザリーニが既に連絡を入れたと言っていたが、急にゲルマニアでの軍事同盟締結の調印が決まったため、どうやってウェールズをロマリア皇国内に連れて行くかなどの詳しい打ち合わせが出来なかったのだ。

 それに詳しく打ち合わせをすれば、その分、外部に情報が漏れる機会をも増やしてしまう。そんな行きあたりばったりな任務であったが、ワイバーンで直接、教皇がいる宗教庁には流石に行けない。

 他国の中枢部にいきなりこんなワイバーンが現れれば、どんな国でも蜂の巣を突いた様な騒ぎが起きるだろう。それはもう先日のトリステインの様な。極秘にウェールズを匿って貰うというのにそんな騒ぎを起こしては本末転倒だ。

 ならば、ワイバーンを郊外に降ろして歩きで大聖堂まで向かうという案も出たが、目立つ容姿をしたウェールズが街を歩いたら歩いたでそれは大騒ぎになる可能性もある。

と二つの案どちらも一長一短があるため、皆は頭を突き合わせ、あーでもない。こーでもない。と相談中だ。

 相談が平行線になってしばらく経った頃にウェールズがまた自分のせいでと言い出して、軽くネガティブモードへ突入しかけてのは、どうでもいいだろう。

 

「せめて迎えが来てくれれば別なんだけどね、ん?」

「gyaaaalll!」

 

 そんな言い争いが続く中、突然ワイバーンが叫び声をあげナツミへと注意を喚起する。

人語ならざるその言葉の意味を明確に理解したナツミは立ち上がるなり、ワイバーンの首の付け根付近まで移動する。

 

「どうしたの?」

「gyall」

 

 ナツミの問いに対し、ワイバーンは首を前に振って答える。ナツミはワイバーンが示す通り、前方を注意していると、雲間から米粒ほどの小さな塊が姿を現した。

 

「あれは……?」

 

 向こうは向こうでこちらに近づいてきているようでぐんぐんとその距離が縮まっていく。

そしてそれがやっと視認できる程の距離まで近づいた。

 

「風竜?」

 

 そこには幼竜たるシルフィードよりもさらに大きな成竜と思われる風竜がこちらに向かい猛スピードで接近していた。そしてその風竜は野生の風竜では無かった。なにせその背には人が乗っていたのだから。

 

「っ!」

 

 人影を確認するなり、ナツミ、ソルが立ち上がり警戒態勢をとり、二人の臨戦態勢を感じ取り、ジンガが飛び起きる。風竜はワイバーンの手前でスピードを緩めるとその場に滞空し、小さいながらもロマリア皇国のものだと分かる旗をこちらに向い振り始める。

 

「なんだあれは?」

「さぁ?」

「蹴散らそうぜ姐御!」

 

 しかし悲しいかな異世界出身の三人にはその旗に刻まれた紋章がなにを表すか分からず、ソルとナツミは首を傾げ、異世界に来てテンションが上がりやすくなっているのかジンガは物騒な事を言いだす。

 

「あれは……ロマリア皇国の国旗だね」

「ええ、でも何の様でしょうか?私たちがここを通るなんて誰も知らないと思いますよ」

 

 そんな異世界出身者をルイズとウェールズは軽く流し、ソルやナツミとは別の理由で首を傾げた。

 

「しかし、無視するわけにもいかないだろうな」

「そうですね。ナツミ!ワイバーンをあの風竜の目の前で止めてくれる?」

「了解」

 

 ナツミはルイズの指示通り風竜の目の前でワイバーンを滞空させる。すると、風竜の背に乗る少年が笑顔でナツミに笑いかけた。

 

「やあ!君達が皇太子の護衛を任された人たちかい!?」

 

 爽やかなオーラをこれでもかと振り撒き、少年は右手をあげ大声をあげる。

 

「ええっむぐぐ……!」

「違うといったらどうするんだ!?……お前は馬鹿か?」

 

 ソルは素直に答えようとしたナツミの口を手で塞ぐと代わりに質問を質問で返す。そして楽観的すぎるナツミに釘を刺しておくことを忘れない。

 

「違っていたらかなり困るね。なんせ僕は教皇様から皇太子の案内をするように頼まれたんだからね」

「証拠はあるのか?」

 

 ソルの言葉に、少年は筒を取り出すと、ソルに向かって手にした物を放ってきた。

 

「おわっ!?」

 

 今まで格好よく決めていたソルであったが、ワイバーンの背と言うこともあってバランスの悪い場でそれを少々不格好にキャッチする。ソルは少し恥ずかしそうに顔を赤らめるが、気にしない風を装い筒を開けるとそこには一枚の質の良い紙で作られた書簡が納まっている。

 ソルはその書簡を引っ張りだし、中身を確認する。ざっと紙に目を通すとソルはその内容のせいか顔を眉間にしわを寄せた。

 

「どうしたの?」

 

 そんなソルの表情を見て、ルイズは不安気にソルに声をかけた。ルイズの問いにソルは表情そのままに書簡をルイズへと渡して一言。

 

「読めん」

「あ、あんたね」

 

 よっぽど文字が読めなかったのが恥ずかしいのか、ソルは誰とも目を合わせずにクールを装っていた。

 

 ルイズはソルに若干以上に冷たい視線を送ると渡された書簡へと目を通す。そこには、現ロマリア教皇ヴィットーリオ・セレヴァレのサインが刻まれていた。

 

 





まだ、にじファン時の投稿まで追いついていないとは……情けないですねぇ。頑張ります。

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