ハルケギニアの誓約者   作:油揚げ

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第三話 タバサと召喚術

昼間、ワイバーンの知られざる一面を知ったりして混乱させられたがそれでも夜はやってくる。ソルと昨日までのことや今後の事を確認し、これ幸いとルイズの召喚術を見て貰おうと、夜までハルケギニアに居てもらっていた。

 ナツミはソルが嫌がると思っていたが、特に嫌がる様子がないのが不思議だった。あれでソルは結構人見知りなのだ。

 

 

 そして夜、中庭。

 数日ぶりの召喚術の講義をするためにプロデュースナツミ、生徒ルイズ、特別講師にソルを招いての召喚術の講義が開かれていた。

 

「ん?ナツミなんか余計なのがいないか?」

「あれ、タバサどうしたの?」

 

 

 その視線の先にはタバサがいつもの大きな杖を両手に持って立っていた。タバサはルイズの質問にタバサはナツミに視線を送る。

 

「ああ、前に召喚術ばれたときに召喚術を教えてくれれば、あたしのこと黙ってくれるって言ってたから、呼んだのよ。ちょうど今日は先生役がいるし」

「おい、お前が教えるって言っといて俺に振るのかよ」

「……あはは、冗談よ冗談。タバサはあたしが見るわよ」

「今の間がすげぇ気になるんだが……」

「タバサー、あっちに行こうか」

 

 タバサをソルに丸投げしようとした作戦があっさりと見破られ、ナツミはソルの言葉を最後まで聞くことなく、タバサを連れて少し離れた所へ移った。

 

 

 

 

 

 

 

「さ、タバサ。あっちはあっちでやってもらって、こっちはうちらだけでやろうか」

「……」

 

 こくこくと無言で頷くタバサはぎゅっと強く杖を握ってやる気を出していた。

 

「じゃあまずは、この召喚術の適性を見るね、はい」

 

 そう言ってナツミはタバサに霊属性のサモナイト石を渡す。敢えて霊属性を渡した意味は特に無い。

 

「これは?」

 

 タバサは杖を右手に、そしてナツミから受け取った霊属性のサモナイト石を左手に持って、にぎにぎしていた。

 

「それはサモナイト石って言って、召喚術を使う際に使う召喚媒体。タバサ達が杖がないと魔法が使えないでしょ?」

「うん」

「それと同じね。召喚術師もサモナイト石が無いと召喚術が使えないの。まぁ、あたしは例外的にサモナイト石がなくとも召喚術が使えるけどね。ソル達を喚ぶ時なんかは使ってないんだ」

「どうやって使えばいいの?」

 

 タバサは普段と同じクールな表情をしていたが、目はやる気に満ち溢れたように輝いていた。

 

「うーん。あたしはよく分かんないだけど、なんかこう魔法を込める様な感じで念じてみて」

「……」

 

 サモナイト石をじっと見つめて、タバサが念というかそれっぽいものを込めてみようとサモナイト石をぎゅっと握る。サモナイト石は一向に感応せず、タバサは業を煮やしたのか杖を放り投げ、両手で石を包み込んでまるで祈るように念を始める。だが、タバサの努力も空しく、サモナイト石は一向に反応してくれなかった。

 

「……」

 

 タバサは一見すると無表情のように見えるが、よく見るを少し落ち込むように眉毛が下がっていた。そんなタバサの様子にナツミが気付けたのはラミという妹分がフラットにいたからだろう。

 

「タ、タバサそんなに落ち込まないで……まだ4種類も石があるからさ」

「早く渡して」

 

 少しむっとしたようにタバサはそう言って右手を前に突き出した。いつもは見せない子供っぽいタバサの仕草はナツミは苦笑しながら、獣属性のサモナイト石をタバサに渡す。

 はいはいと言いながら渡すその光景は、フラットで子供の世話をしている時の様であった。

 

 

 その後、タバサは獣属性、機属性、鬼属性と四大属性は軒並み適性が無いという燦燦たる有様で、最後に残ったのが無属性のみというナツミがつい最近経験したような結果であった。

 タバサは無表情を通り過ぎ、影を背負ったように暗くなってしゃがんでいる。先の子供っぽい様子も含めて意外に負けず嫌いなのかとナツミはタバサに抱いていたラミっぽい子という印象を忘れることにした。

 ナツミはしゃがみこむタバサにいよいよ最後となった無属性のサモナイト石を差し出した。

 

「タバサ、落ち込むのはまだ早いよ。まだ最後の一個が残ってるよ」

「……」

 

 のそっと顔あげ、無表情に無属性のサモナイト石を受け取ったタバサは祈るように目を瞑って念じる。最後の属性ともあってか、タバサは今まで以上の集中力を見せていた。

 タバサは初めて魔法を唱えたときの感覚を思い出しながら、サモナイト石が光る光景を脳裏に浮かべる。

 トライアングルクラスの魔力がサモナイト石を光らせようとうねりをあげる。

 

だが、無情にも無属性のサモナイト石は光らなかった。

 

 

 

 

 普段感情を見せないタバサが初めて落ち込むという、初めて見せるにはあんまりな感情をナツミに披露していた頃、ルイズは中庭の芝生に座り込み、ソルの座学を受けていた。

 タバサが召喚術の適性があれば、簡単なコモンマテリアル位使わせてみようということもあっての中庭だが、座学を中庭で受ける意味はズバリ無い。

 それでもルイズはナツミではあっという間に限界を迎えていた召喚術の知識をソルに享受され興味津々で話を聞いていた。

元々ルイズは魔法学院の同学年で座学のトップの成績を誇っている。その知識の吸収スピードによりナツミの知識量を上回りつつあった。

 

「そもそも召喚術師が召喚術を使えるのは例外もあるが血統による遺伝によるところが大きい。誓約の儀式は召喚術師でなければ絶対できない。だが術自体は誓約された石であれば感応するサモナイト石と同じ属性のものが使用できる。そしてリィンバウムの人々は必ずと言っていい程、四大属性の内一つと感応するわけだ」

「四大属性と?それじゃあ、あたしが無属性にだけ感応したのは?」

「……」

「……ち、ちょっとどうしたの?」

 

 ルイズの問いに、それまで饒舌に語っていたソルが突然無言になったことでルイズは、何故かどもる。

 

「わからん」

 

 がくっと分かりやすくルイズはずっこける。

 

「あ、あんたね~」

「だが、誓約を出来たということは召喚術師としての適性があると見ていいだろう」

「ほ、ほんと!?」

「ああ、だがそれだけだ」

「?」

「一度にあまり話しても逆効果なんだが、無属性の召喚術は他の召喚術と違って色々と例外が多いんだ。例えば、四大属性のいずれかに適性があれば、それだけで無属性の適性もあるということなんだ」

 

 ソルはそこで一呼吸入れ、ルイズが話に付いて来ているか、確かめる。

ルイズは、持ち前の頭の回転の速さでソルの会話にもなんとか付いて行く。

 

「だが、お前は四大属性のどれの適性もないくせになぜか無属性の召喚術の適性がある。しかも誓約もできる。リィンバウムの召喚術の概念ではありえないが無属性召喚術師といったところだな」

「無属性召喚術師……」

 

 ルイズがソルの言葉を反芻するように自らの口で口ずさんだ。

 

 

 

 

「そっちはどう?」

 

 タバサが落ち込んで、再起動を未だにしない中、貧弱な語意でなんとかタバサを慰めようとして諦めたナツミは、手持無沙汰となったのでルイズ達のところへ顔を出していた。

 

「ん、まぁぼちぼちだな」

「それはよかった」

「というかな、お前相変わらず召喚術の基礎位知識として知ってろとあれほど言ったのにやってなかったんだな!」

 

 ぎくっとナツミは分かりやすく体を強張らせる。

 

「モナティを正式な護衛獣にするんだって言って、誓約の勉強を真面目にやってたから、一般的な召喚術師ぐらいの知識は付いてるかと思えば……」

「……うへぇ」

 

 ソルはここぞとばかりに、ナツミへと説教を開始した。

 

 

 

 残りの召喚術の講義はソルからナツミへと説教と言う形で終了することとなった。

 ソルとしてはまだまだ、説教したこともあったが、流石に深夜に差し掛かりそうな時間になってきたので、途中で説教を切り上げる。

 

「二人は先に戻ってていいぞ」

「ええー!?あたしは?」

「もうちょい説教だ……それと」

 

 ソルはナツミにしか聞こえない声で呟く。その声を聞き、顔を少しだけナツミは顰めるとそれっきり黙ってしまった。

 

「「?」」

 

 顔を顰めるナツミにタバサとルイズのちっこいコンビは首を傾げるが、説教が嫌で顔を顰めたと結論した。

 

「ナツミ、しっかり説教を受けなさいよ!ソルのおかげで大分、座学が進んだけど、逆にナツミがどれだけ座学が疎かになってるか分かったからね。先生役なんだからしっかりしなさいよ。……頼りにしてるんだから」

「ん?なんか言った?」

 

 ルイズが掠れるように語尾に付けた言葉を耳にできなかったのかナツミがそれを問う。

 ルイズは顔を真っ赤にすると

 

「なんでもない!先に戻ってるから!」

 

 びゅん!と聞こえてきそうな程の速さでその場を後にした。

 

「どうしたんだろ?……トイレかしら?」

 

 貴族は常に余裕を持って優雅たれ、と誰かが言ってたような気がするのになぁ。と鈍感かつ失礼なことをナツミは考えていた。そしてもう一人の未だに再起動しきれていない少女へ視線を移す。

 

「タバサ、召喚術は元々リィンバウムで生まれたものだから、ハルケギニア人のタバサが使えないのは当然だよ?」

「……ルイズは?」

「ルイズは異世界人のあたしを召喚するぐらいだから、相当変わってるんだと思うよ多分」

「……」

 

 一応とは言え主人という括りの人間に対してあんまりな事をナツミは口にする。タバサはしばらくナツミのじっと眺めていたが、やがてゆるゆると動きだし、寮内へと向かいだす。

 

「……また来る」

 

 召喚術にまったく適性が無いと分かっても、召喚術という未知の技術に興味があるのか、タバサはいつもよりちょっぴり小さな背中をみせてそう呟いた。

 

「うん。今度は召喚術について詳しく教えるからね。ソルが」

「……俺かよ」

 

 堂々と他人に丸投げするナツミにほんの小さな苦笑を見せ、タバサは室内へと戻って行った。

 

 

 

 

「それでさっきの話したいことって?」

 

 二人の気配が完全に無くなったのを確認すると、ナツミはソルへと向き直る。

 

「ああ、別に二人に聞かれては不味いとかそんな話じゃないぞ」

「そうなの?」

「ああ、多少気になるという程度だ」

 

 そう口火を切ってソルは話を始めた。

 

「アルビオンでお前に召喚された時に感じたマナの濃さだ」

「マナの濃さ?」

 

 マナ。

 魔力の源であり、生命の力の源でもある、その世界の血とも言える生命の根源たる存在それがマナ。マナが豊富な世界であれば、世界は豊穣な土地、豊かな生態系をもつ楽園となる。

 だが逆にマナが枯渇すれば大地は痩せ枯れ、生き物がいない滅びの地となる。

かつてリィンバウムはその溢れんばかりにあったマナを異世界に妬まれ、多くの悪魔や邪神、果ては機械兵器からの侵略を受けたこともあった。ソルが言うにはそのマナが浮遊大陸アルビオンでは異常に濃かったという。

 

「それって誰かが召喚術を使ったってこと?」

「……ああ、あの感じだとおそらくサプレスのマナだろう」

「ふぅん……って言われてもよく分んなかったわね」

「お前は自分が一つの世界並みの力を持ってるから外部の魔力を細かく感知するのがものすごく下手なんだよ」

「サラっと言われるのがなおさらむかつくわね」

 

 またしてもナツミを馬鹿にするソルにナツミが青筋を立てるが、それを気にせずソルは続けた。

 

「事実だ……話が逸れたな」

「誰が逸らしたのよ、誰が」

「もう一つ気になったのが、召喚術を使ったときに感じた抵抗だな」

「抵抗?」

「ああ、使用した召喚術がいつもよりも多くの魔力を使ったぞ、まさかお前は感じなかったのか?」

 

 信じられないという顔をナツミにソルは向けていた。

 

「うん」

「……お前が人外というカテゴリーに入るのをすっかり失念していた、すまん」

 

 ソルはがくっと肩を落とした。

 

「まぁお前はエルゴの王だからな真名と心で誓約を交わすお前と比較してもしょうがないな」

「人を貶めるのか褒めるのかどっちかにしてよ。でそれがどういうことなの?」

「ナツミが抵抗を感じていないなら別にいいけど、俺ら召喚師がいつもの感覚で召喚すると思ったよりも威力は出ないってことだな。まぁリィンバウムよりもそれぞれの世界と距離があるかもしれないな。気にする程じゃないだろう」

 

  それに馬鹿魔力のナツミには関係無いなと、ソルは無遠慮に笑っていた。ナツミはなんだか今日は馬鹿にされっぱなしな上に最後まで馬鹿にするソルに怒りを覚え、テキトーに送還術を組む。

 

「お、おいナツミ、お前そんなデカイ魔力でいい加減に術を作ん……」

「ソル……お休み!!」

 

 その日リィンバウムの孤児院にお空からお星様が落ちてきました。

 

 

 ソルに対して無駄に魔力を込めて送還し、大分溜飲が下がったのか、ナツミはすっきりした顔でルイズの部屋へと足を運んでいた。

 

 

 それから数日はアルビオンでの戦いが嘘のように日常は、流れて行った。

 そして、幾日が経ち、枢機卿マザリーニからルイズとその使い魔のナツミが王宮へ来るようにと書簡が届いていた。

 

 殿下について話したい。

 

 そう書簡には記してあった。

 

 

 


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