英雄よりも騎士になりたいと思うのは間違っているだろうか   作:琉千茉

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お気に入り件数2000人突破!
本当にありがとうございます!!
知っている方もいるかもしれませんが、この番外編本当は1200人突破記念として書いていたんですが、作者の執筆が遅く、尚且つ予想以上にお気に入り登録をしてくれる方が多く、キリもいいからと2000人突破記念とさせて頂きました。
作者の都合で申し訳ないです(汗)

遠征から帰還途中の話です。



番外編 第4.5話 お気に入り2000人突破記念

 

 

 

 新種との交戦により、物資を失ったロキ・ファミリアに帰還中の護衛を冒険者依頼(クエスト)されたチヒロは、安全階層(セーフティポイント)と呼ばれる18階層まで辿り着いていた。

 明日にはホームに帰れるだろうと思いながら、ホッと息をつく。そして、この状況も今日でやっと終わりだと。

 現在チヒロは、一人用の野営テントに一人の少女と一緒にいた。

 小さなテントでお互いに正座して向き合っている二人は、顔を真っ赤にして俯かせている。

 目の前にいる金髪金眼の少女――アイズ・ヴァレンシュタインをチラッと見る。

 

「「!」」

 

 お互いに目が合ってしまった。

 バッと同時に顔を逸らす。再会した日から今日まで既にこのやり取りを何度やってきたか分からない。

 気まずいと思いながら、チヒロはこうなった経緯を思い出す。

 始まりはロキ・ファミリア団長の笑顔での一言だった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「新種に幾つかテントまで溶かされてしまってね、数が足りないんだ。だから、キミはアイズとこのテントで眠ってくれ、チヒロ」

「……は?」

 

 フィンが告げた内容に、チヒロは間抜けな声を出す。

 笑顔で差し出されたのは、どう見ても一人用の野営テント。そして、彼はそれで異性と二人で眠れと言ってきた。

 思考が一瞬停止した頭を片手で押さえる。

 

「……ごめん。なんて?」

「だから、アイズとこの一人用のテントで二人っきりで抱き合いながら添い寝してくれ」

「……生々しく言い換えないでくれ」

 

 ど直球に言い直された。

 目の前でニコニコとしている彼。

 だが、もちろんそれを受け入れる事は出来ない。

 

「さすがにそれは無理だ。それに抱き合いながらっていうのもおかしいだろ。考えろ、俺は男でアイズは女だ」

「そうだね」

「そ、そうだねってそれだけ!?」

 

 慌てているチヒロが反論しようとも、彼の笑顔は崩れない。

 

「ま、万が一だ。万が一、俺がアイズに……その……て、手を出したりとかしたら……とか、考えないのか?」

 

 顔を真っ赤にして途中声が小さくなったチヒロだが、フィンの耳にはしっかりと届いていた。

 そして、頼むから勘弁してくれと懇願してくる空色の瞳に、変わらない笑顔で答える。

 

「まぁ、その時はその時でキミに責任(・・)を取ってもらうから構わないよ」

「いやいやいや!! 冷静になってくれ!!」

「僕は至って冷静さ。仲間の恋にちょっとだけ手助けしたいだけであってね」

「どう考えても行き過ぎた手助けだよな、これ!!」

 

 無理矢理渡してこようとするテントを、チヒロは必死に押し返す。

 もちろん、フィンもそれに対抗するように更に手に力を入れて渡そうとする。ちなみに笑顔で。

 正直、一番それが怖かったりする。

 周りの団員達が近づけないそんな二人に、べートを除くロキ・ファミリアの上級冒険者とレフィーヤが近づいてきた。

 

「団長! アイズ連れて来ましたよ」

「ああ、ありがとう、ティオネ」

 

 想い人(フィン)に笑顔でお礼を言われて、ティオネは頬を赤く染めながら団長の言いつけなら当然ですと嬉しそうに胸を張る。

 そんな彼女の横にいるアイズは、突然の呼び出しに何事かと首を傾げている。

 フィンの意識が彼女達に向けられた事で、チヒロはそーっとその場から離れようとする。

 だが、それはフィンの「ガレス」という一言により、一瞬でチヒロの前に回り込んだガレスに阻止――捕らえられてしまった。

 

「すまないが、アイズ。今日から地上に戻るまで、眠る時はチヒロと同じテントで眠ってもらう事になるけど、いいかい?」

「……え?」

 

 突然の問いかけにキョトンとするアイズ。

 どうやら思考が追いついていないようなので、再びフィンはアイズに問う。

 

「このテントでチヒロと一緒に眠ってもらう。いいね?」

 

 問いかけではなく、既に強制だった。

 アイズの顔がフィンからガレスに捕まれて逃げられないチヒロへと向けられる。そして、フィンの持つ一人用のテントへ。

 やっと意味を理解したのかボンッと顔が真っ赤に染まった。

 

「まぁ、仕方ないよねー。テントの数足りないんだし」

「私達のテントも溶かされて三人用になってしまったので、一人は抜けなくてはいけませんでしたからね」

「それなら私が団――コ、コホンッ……ちょうどいいじゃない。アイズがチヒロと眠ればこの問題も解決されるわ」

 

 フィンに乗っかるように、ティオナが切り出せば、レフィーヤもそれに乗ってきた。

 本音が一瞬出かけたティオネだが、フィンに鋭い視線を送られて、すぐに言い直す。内心悔し涙を流しながら。

 すると、遠くから怒声が飛んでくる。

 

「ふっざけんな糞異端児ッ!! てめえぶっ殺す!!」

 

 よくよく見れば、遠くに縄で縛られて芋虫のようになっているべートが、体をクネクネさせながらこっちに向かって叫んでいた。

 そんなチヒロとべートの間を割くように、リヴェリアがそこに立つ。

 

「気にするな。あいつに邪魔はさせん」

「……今の俺的には邪魔された方が助かるんだが」

 

 フッと口角を上げた彼女を、チヒロは半眼で見る。

 すると、そんな彼の身動きを封じているガレスが問う。

 

「なんじゃ、チヒロはアイズと一緒は嫌なのか?」

「!」

 

 チヒロよりもアイズの方が大きな反応を示した。そして普段は乏しい表情が見るかにどんどん暗くなっていく。

 それを見たチヒロは、頬を引き攣らせて慌てる。

 

「い、嫌とかそうじゃなくて!!」

 

 その言葉にアイズ以外のメンバーがニヤリと口角を上げた。

 

「それは了承してくれたという事でいいかい?」

「男に二言はないな?」

「アイズと一緒に眠りたくても眠れない男なんて沢山いるんだから、そこは素直に喜ぼうよ」

「アイズさんのこと泣かせたら許しませんよ、チヒロさん」

「言ってしまったものはもう取り消せんぞ」

「もう鬱陶しいから、さっさと『一緒に寝る』って言いなさいよ」

 

 最後に関してはもはや脅迫だ。

 自分を囲む面々とその後ろでショボンと落ち込んでいるアイズ。

 チヒロに逃げ道はない。

 

「……一緒に寝かせて頂きます」

 

 

 ◆◆◆

 

 

 承諾したあの日から今日まで、チヒロはアイズと就寝を共にしてきた。そして、それも今日で最後となる。

 それに安堵からホッとしている自分にハッと喝を入れる。まだ今日が残っていると。

 

「(油断は出来ない、相手はあの(・・)アイズ・ヴァレンシュタインなのだから)」

 

 チヒロは、モンスターを相手にする時よりも警戒心を強く持つ。

 今日まで何度ギリギリの戦いを生きてきたかを思い出す。一瞬の隙を見せたその時が終わりなのだ。

 

「……ね、寝るか」

「う、うん……」

 

 一つだけ敷かれた敷物の上にアイズがこてんとチヒロの方を向く形で寝そべる。

 一人用のテントなのだから敷物も一つしか敷けない。何度も仕方ないことだと自分を納得させてきたチヒロは、今日も自分を納得させながらアイズに背中を向ける形で寝そべる。もちろん、向かい合って寝ようなんて、死地へ自らを送るような事はしない。

 ちなみに、アイズが眠っているのはチヒロの左側だ。

 背中越しにアイズの気配と微かな息遣い、そして温もりを感じるが、それに意識を持っていかないように、今日こそ絶対に見ない向かないと何度も自分に言い聞かせる。

 テントの白地の壁を見つめていたが、何度も言い聞かせる事で落ち着いてきた気持ちに、そっとその空色の瞳を伏せる。この環境にだいぶ慣れてきたのだろうかと思いつつ。

 そんな時、背中に突然の奇襲を受けた。

 

「!!」

 

 目を閉じたチヒロだったが、それにビクッと体を揺らして目を見開く。

 確かに背中に何かがちょんちょんと触れた。

 タイミングを見計らったかのような奇襲に、チヒロの額を冷汗が伝う。

 チヒロは、この奇襲を今日まで何度も受けてきた。ならば今日も来るだろうと警戒しておくべきだったのだ。

 否、警戒はしていた。警戒していたのに、この環境に慣れてきてしまっていたせいで、どこかで諦めている自分がいた。どうせ彼女には勝てないのだからと。

 

「……チヒロ」

 

 勝てないと分かっていながらも、最後の悪足掻きと反応せずにいれば、どこか懇願するような声で呼ばれた。

 そういうのがダメなんだと思いつつも、チヒロは渋々体を反転させて、アイズに向き直る。

 そうした事で彼女の金色の髪と金色の瞳がチヒロの目に飛び込んでくる。

 自分が振り返った事で頬を微かに赤くしながらも嬉しそうに目を細めた彼女に、内心ドキッとしてサッと目を逸らす。負けてはならないと。

 

「は、早く寝ろ」

「うん」

「!?」

 

 頷いたアイズがチヒロの胸元にポスッと顔を埋めてきた。やられた本人はピシッと固まっている。

 ギュッと掴まれた服に、服越しに感じるアイズの温もり。

 宙で固まっている自分の両腕を見て思う。ここ数日と同じパターンだと。自分が敗戦するパターンだと。

 そんなチヒロの耳に届いたのは、規則正しい寝息。

 音の発信源である自分の胸元へと顔を向ければ、既にアイズは眠りについていた。

 

「(……相変わらず早いな)」

 

 これもここ数日と同じパターンだ。

 チヒロに抱き着いた後、アイズはすぐに眠りにつく。

 冒険者にとって体力回復は大切な勤めの一つだ。早く彼女が眠りについてくれるのはいい事ではある。

 

「ん……」

「(俺の心臓には悪いが)」

 

 どこか嬉しそうに胸に擦り寄ってくる彼女に、ビクッとしながらそんな事を思う。

 アイズを見れば、安心しきったような寝顔。そして未だに宙に浮いている自分の両腕を見る。

 諦めたように嘆息し、その手を下ろした。左腕は自分の頭へと枕がわりにし、右腕は彼女の砂金のような金色の髪へ。

 優しく頭を撫でれば、彼女の顔が緩む。

 それに目を細めて優しく微笑み、チヒロは思う。今日も俺の負けかと。

 

「ん……チヒロ……」

「(て、手を出すな! それだけはダメだ! 絶対ダメだ!!)」

 

 

 ◆◆◆

 

 

 白い布地越しに零れ落ちる光。

 意識が浮上してくる中で、アイズは思う。

 

「(朝……)」

 

 まだ重たい瞼をそっと開いた。

 ぼやける視界に映ったのは黒。

 覚醒しきれていない頭が、長い沈黙を終えて疑問符を出した。

 

「(テントは白だったはず……)」

 

 でも何でだろうか。この黒は物凄く落ち着くと、そっと黒に触れて、額をコテンと軽くぶつける。

 感じたのは、人の温もりと規則正しい心音。そして、耳に届いた寝息。

 眠気が一瞬で飛んでいった。

 アイズは金色の瞳を開いて、寝息が聞こえた頭上へと顔を向ける。

 

「ん……」

「チヒロ……?」

 

 そこには、穏やかな表情のチヒロが眠っていた。ちなみに、黒の正体は彼が着ている服だ。

 眠っている彼を見つめながら思う。彼とは長い付き合いではあるが寝顔を見たのはこれが初めてじゃないかと。

 昔はよく、彼と『秘密基地』で過ごして、一緒に夜を明かしていたが、彼は基本自分よりも後に寝て先に起きる。

 今回の遠征でもそうだった。アイズが起きた時には隣はもぬけの殻で、初日はチヒロと再会出来たのは夢だったのではないかと思って、慌ててチヒロを探しに行ったりもしたぐらいだ。

 余談ではあるが、テントから出てすぐに鍛錬をしていたチヒロに出くわしたアイズは、その存在を確かめる為にほぼ無意識にチヒロに抱き着いて、チヒロをあたふたさせていた。

 そんなこんなで、アイズが彼の寝顔を拝んだことは一度も無かった。

 いつか絶対に見てやろうと、密かな野望があったが、三年ぐらい前から一緒に眠る事すら殆ど無くなり、その野望も風化しかけていたそんな時に、まさかの野望達成。

 まさかの展開に一瞬呆気に取られたアイズだが、すぐにハッとして息を潜める。

 寝顔を拝むという野望は達成した。だが、そうすれば次なる欲が出てくるのが人間というものだ。

 まずは観察。

 

「(……肌白い……睫毛長い……)」

 

 真っ白な肌に今は見えない空色の瞳を縁取る長い睫毛。

 整った顔立ちの彼は、よく周りから『イケメン』と言われていた。それだけが理由で彼に近づこうとする異性も昔から多かった。そういう相手はチヒロがバッサリとお断りしていたが。

 チヒロの顔をまじまじと見つめていたアイズの視線が、微かに開いていている彼の唇へと向けられる。そこから小さな息遣い――寝息が漏れる。

 チヒロの唇を見て思い出すのは昔のこと。とある酒場で自分が起こしたとある事件。顔に熱が集まるのを感じる。

 考えてはダメだと軽く頭を横に振れば、頭上から微かに声が漏れた。

 

「ん……」

「!」

 

 マズイと、体を強ばらせる。

 今ので起きたのではないかと、身を縮こまらせながらギュッと目を閉じる。

 だが、その後すぐに再びアイズの耳に彼の寝息が聞こえてきた。

 それにホッと胸を撫で下ろす。

 眠っている彼にまだやりたい事は沢山ある。ここで起きられては、次がいつ来るかなんて分からない。このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。

 よしもう一度と気合いを入れ直したアイズだったが、突然のチヒロの行動にそれは一瞬で消し飛ばされた。

 ギュッと強く引き寄せられ、再び視界が真っ黒に染まる。

 チヒロの胸元に顔を埋める形になったアイズは、顔を真っ赤にしながら、自分の心音が異常な程高鳴っているのを感じる。

 彼の寝顔を拝めた感動のあまり気付いていなかったのだ。彼に抱き締められているという事に。

 とにかく、気持ちを落ち着かせようとするが、それを彼は許さなかった。

 追撃とばかりにスリスリと。

 

「!!」

 

 金色の髪に頬を擦り付けてきた彼に、アイズはピシリと固まった。

 落ち着かせようとしていたアイズの心は、もう爆発寸前。

 どこか甘えるように擦り寄ってくる彼は可愛い。

 ギュッと自分を抱き締める腕に力が入れば、同時に心もギュッと掴まれたように苦しく、でも嬉しくなる。

 爆発寸前の感情に、もう抑えきれないと心の中で思う。

 顔を上げれば、すぐそこに彼の顔があってドキッとしたが、そっとそんな彼へと手を伸ばした。

 起こさないようにそ~っと彼の頭の後ろに腕を回し、ゆっくりと包み込むように、自分の胸元へと引き寄せる。

 小さすぎず、大きすぎない胸にぽふっとチヒロの顔が埋まる。

 初めての事に慣れない恥ずかしさを感じ頬を赤くする。

 だが、ここまで来たからには止まれないし、止まる気は毛頭ない。

 ドキドキと煩い自分の心音にチヒロが起きてしまうのではないかと、ちょっとした不安を感じながらも、彼の頭の後ろに回した手を優しく動かす。

 昔彼が眠る自分にしてくれたように――きっと今回も自分が眠った後にしてくれたであろう――彼の白い髪をそっと撫でた。

 そうすれば、彼の顔がどこか安心したように微かに緩んだ気がした。

 アイズの中の何かが擽られる。その何かがもっともっと彼に何かをしてあげたいとアイズに訴えてくる。

 そんな時にふと思い出したある記憶。

 

 ――恋の駆け引き最終奥義! 『既成事実』だ!

 

 小さな体を張って堂々と言われた言葉。

 もちろん、アイズにそんな事を教えるのはあの異端の神、又は変神と畏れられているチヒロの前主神クロノスだ。

 条件はチヒロが眠っている時。やる事はチヒロを気持ちよくしてあげる事。

 只、その具体的な内容を聞く事は出来なかった。チヒロが顔を真っ赤にしながら何を教えてるんだと割って入ってきた事で。

 その後、チヒロにどうすればいいのか聞いたが、アイズは知らなくていいの一点張りで教えてもらう事は出来なかった。

 

「(チヒロを気持ちよく……気持ちよく……)」

 

 考えた末、アイズは再びチヒロの頭を撫でる。

 自分がチヒロにこうしてもらった時、気持ちよかったのを覚えている。

 だが、眠っていなくてもやろうと思えば出来るし、頼めばやらせてくれるだろうとも思う。

 もしかしたらと思ったが、クロノスの言う条件は必要が無い事になる。

 うーんと少し考えるが、全く浮かんでこない。

 そんな時に目に入ったチヒロの寝顔。

 愛しいと思えるその寝顔に、クロノスの教えが全て飛んでいく。

 ずっと触っていたくなるような男性にしては線の細いサラサラな髪を優しく撫でながら、そっとその白髪に頬を寄せる。今はこの状況を堪能すべしと。

 

「(チヒロを気持ちよくする方法……またチヒロに聞いてみようかな)」

 

 チヒロが顔を真っ赤にしながら絶対に教えてくれないであろう事を思いながら。

 

 

 それから少ししてチヒロが目を覚ました。

 少しだけ開いている空色の瞳は、只々ぼーっとしている。

 アイズは、そんな彼の頭を変わらず撫でている。そうすれば、その空色の瞳がアイズを見上げてきた。

 

「……」

「……」

「……おはよう」

「ああ、おは……よ、うっ!?」

 

 返事を返したチヒロは、自分の置かれている状況に固まる。

 自分の顔を覆う柔らかな感触、頭が擽ったく感じるような手付き、そして真上にある彼女の顔。

 彼女の長い綺麗な金色の髪がサラリと落ちてきてチヒロの頬を撫でた。

 まるでそれが合図のように、チヒロは彼女から飛び離れる。その時にむにゅっと柔らかなあるもの――アイズの胸を顔で押してしまったが、それどころではない。

 そして。

 

「どわぁああああああああっ!!」

 

 顔を真っ赤にしながらテントから走って出て行った。

 その場に残されたのは、アイズのみ。

 チヒロが居なくなったテントの中で、少しだけ呆然としていたアイズだが、逃げられたという事にずーんと目に見えるほど落ち込む。

 すると、テントの入口が開かれた。

 

「ア、アイズさん!? 何かありましたか!? 今、チヒロさんが走って……!!」

「アイズー? どうかしたの? チヒロが顔真っ赤にして出て行ったけど……」

「まったく、朝から騒がしいわね」

 

 ひょこっとテントの入口から顔を出したのは、レフィーヤとアマゾネス姉妹。

 だが、今のアイズに三人の声は届いていない。

 

「……気持ちよくなかったのかな」

「……アイズ、あんたチヒロに何やったのよ」

 

 この後、フィンやリヴェリアに連れてこられたチヒロが、アイズに土下座したのは言うまでもないであろう。

 そして、チヒロの胸に再び深く刻まれた。

 

 やはりアイズ・ヴァレンシュタイン(天然娘)には勝てない――と。

 

 

 

 




只々、イチャイチャしてただけのチヒロ君とアイズたん。
そして、天然アイズたん最強(真顔)

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