青学・新チームの挑戦 作:空念
青学 不動峰
ダブルス2 永山・伏見 桜井・刀根
ダブルス1 荒井・池田 内村・森
シングルス3 桃城 石田
シングルス2 越前 伊武
シングルス1 海堂 神尾
補欠 加藤 白松
レギュラーが決まってすぐに、新人戦地区大会が始まった。今大会、前評判が高いのは青春学園と不動峰である。どちらも旧チームの戦力を残している為、最初から有力視されている。
だが、今回は不動峰の方が評判が高かった。青学と不動峰のシングルスは互角。だが、ダブルスでは現時点では差があった。不動峰は旧チームの全国ベスト8メンバーからは六人が残っており、ダブルスも全国を経験した選手が揃っているのである。
それでも青学は決勝まで勝ちあがった。しかし、その決勝では大方の予想通り不動峰相手に苦戦していたのである。
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「くそっ、やられた!」
「あいつら、容赦ねえな」
ダブルス1の試合で敗れて戻って来た荒井は、苛立ったような様子である。相手の内村・森ペアに翻弄され、いい様にあしらわれた悔しさがにじみ出ている。
その隣では、池田が力無く首を振っている。スコアは『6-0』で、まさに力の差は歴然である。
先にダブルス2の永山・伏見ペアも相手の桜井・刀根ペアに『6-1』で叩き潰されている。もう一敗も出来ない状況である。
「……情けねえ。もっと根性見せやがれ」
海堂があっけなく敗れて戻ってきた二人を睨みすえる。
誤解の無いように言っておくと、荒井たちも決して勝負を諦めたわけではない。彼らとて、ここまで頑張ってきたのである。準決勝まではヨタヨタしながらも、一敗もせずに何とか青学の面目を保ってきたのだ。ただ、今回は彼らにとって相手が強すぎたのである。
その一方で、海堂ら旧チームのレギュラーはまだまだ余力を残している。むしろ、全然本気を出していなかった分、力が有り余っている感じである。
「桃先輩、これ以上負けられないっすね」
「ああ……お前ら、後は俺らに任せろ」
シングルス3の桃城が、勢い良くコートに飛び出していく。その対戦相手は、石田鉄。パワーを誇る両者の対決である。
本来なら、シングルス3は越前であった。だが、小柄な越前では石田鉄の波動球を受けるのは困難だと判断した顧問の竜崎は、シングルス2の桃城と入れ替えて決勝に臨んだのである。
だが、試合が始まれば、石田は通常の波動球に加え、ジャンプ波動球やノーステップ波動球まで駆使して最初から飛ばしてきた。傍から見れば、桃城は防戦一方に見える。
「おいっ! 俺のラケット壊す気か!」
桃城は波動球を必死で受け止めながら叫ぶ。もうこれで三本目である。最初に使っていたラケットのガットは破壊され、二本目のラケットも大穴が開いている。今のラケットも粉砕されれば、もう使えるラケットがなくなってしまう。
普通なら、こんなに頻繁に波動球を打ち込むのは不可能である。波動球による故障を防ぐ為、石田は波動球を一試合に二度以上使うのを、前部長の橘から禁止されていた程である。
だが、ジャンプ波動球を会得した事で、連続での使用が可能になった。普通の波動球は腕力で力任せに振りぬく分、負担も大きかった。だが、ジャンプ波動球ならば全体重を乗せて球を打つので、腕への負担も比較的少ない。これが、何度も波動球を打てる理由である。
さすがに全部の球を波動球で返すのは不可能だが、ここぞという時に使用するので、桃城は石田を大きくリード出来ない。それでも桃城は何とか緩急を使って相手の虚を突き、ジャックナイフで切り開いてブレイクを許さない。まさに一進一退の攻防が続いていた。だが、このままでは決め手に欠ける。
途中、桃城は波動球の弱点に気付き、球を相手の足元に打ち込むことで石田の波動球を封じていた。足元の打球を波動球の打ち方で捉えるのは難しく、捉えたとしてもネットに引っかかる。無理に掬い上げれば場外ホームランである。
その作戦は、最初は上手くいっていた。だが、石田は試合の途中で無回転波動球を会得してしまったのだ。無回転の球は空気抵抗が大きく、その為に掬い上げるような打ち方でも途中で急降下し、コートに入ってしまう。桃城の波動球封じは、見事に敗れたのである。
もたもたしていては負けるばかりではなく、石田の馬鹿力によって怪我させられてしまうかもしれない。これ以上は好き勝手に波動球を打たせる訳にはいかない。
試合展開的にも、ここが勝負所。短い期間とはいえ、先月の全国大会終了後から練習してきた技を、今ここで披露するときである。本当ならもっと上の大会まで取っておきたかったのだが、相手が不動峰ならば仕方が無い。
本来ならば、地区大会の上位二校は都大会に進めるので、今ここで本気を出す必要は無い。だが、青学も不動峰も手を抜くという選択肢は皆無である。
「桃城っ、何してやがる! モタモタしてねえで、さっさと決めやがれっ!」
「うるせえっ、マムシっ!」
あの様子だと、桃城が何をしようとしているのかを、海堂は知っているようである。桃城は海堂に怒鳴り返しながらも、内心で苦笑する。
(全く、人の秘密特訓を覗き見するとは……マジで嫌な野郎だぜ)
だが、正念場なのは確かである。今ここで相手のサービスゲームをブレイクすれば、流れは完全にこちらのものである。
「いくぜっ、俺の桃城スペシャルを喰らいやがれっ!」
桃城は大きく踏み込み、ラケットを構える。その構えは、ジャックナイフである。
「そんなもの、俺の波動球で粉砕してやる。来い、桃城っ!」
ジャックナイフは見飽きた。そう言わんばかりの自信満々な石田の構え。その石田の前で、桃城の放った打球は着地し、そのまま地面を抉るようにして石田の足元を通り過ぎた。
「な、何だと……」
波動球の構えのまま、石田が固まる。いや、固まっていたのは石田だけではない。青学サイドや不動峰サイド、そしてギャラリーも固まっている。いつも冷静な越前でさえ、声も出せずに居た。
「……つ、つばめ返し」
石田が、放心したように呟く。彼の脳裏には、春の地区大会での一戦が蘇っていた。不二周助のつばめ返しを直接喰らった彼は、その時の衝撃を思い出したのだ。
だが、桃城はその石田の呟きを否定した。
「ちげえよ。あんな良いもんじゃねえよ」
見る人からは同じつばめ返しに見えるかもしれない。だが桃城に言わせれば、技の原理が全く違う。
不二周助のつばめ返しは相手の力を利用して強烈なバックスピン、あるいはトップスピンをかけて打つのだが、桃城のそれはジャックナイフの構えから渾身の力を込めて強引に振りぬき、ジャックナイフの数倍の威力のショットを放つ事で、地面を抉って進むような球を放つのである。
確かに、不二のつばめ返しをヒントにした部分はある。だが、桃城のはカウンター技ではなく、明らかな攻め技である。技の原理が違うというのは、このような理由による。
「さあ、どんどん行くぜ!」
相手のポイントをブレイクし、勢いに乗る桃城。それとは反対に、闘志とは裏腹にだんだん押し返される石田であった。
結局、この桃城の新技によって流れが変わり、青学は何とか一勝をあげるのである。だが、トータルではまだ一勝二敗。依然として不利な形勢に変わりは無かった。
【オリキャラ情報】
●刀根 圭太
不動峰中学一年。ダブルス2で桜井のパートナーを務める。
入学時は、昨年に不祥事を起こしたテニス部への入部を避け、実家近くのテニススクールに通っていた。しかし、部員の団結力と全国大会での活躍に感銘を受け、引退した橘と入れ替わるようにして入部した。
プレースタイルそのものは地味だが、基本に忠実で粘り強さが特徴。
●白松 総司
不動峰中学一年。刀根と同じく全国大会直後にテニス部に入部。
地区大会では一度も試合に出なかった。