その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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注意書きです。

今回の原作モチーフの若獅子トーナメント。色々改変が有りますので、嫌な方はご注意を。


解消

 

 

 

ーワァァアアアァァァッッッ!!!ー

 

 

大歓声が空気を振動させ平野であるに関わらず木霊が響く。

 

場所は七浜スタジアム。本来野球する為に作られたそこは今回の催しに限り若き闘志がぶつかり合う場と化していた。

 

 

「さあ!今熱狂の渦に巻き込まれているこの七浜スタジアム!!

日本全国に向けて生中継を送らせている今大会の若獅子トーナメント、実況を務めさせていただきますTVアナウンサー、稲田堤がお送りさせていただきます。

そして解説役には、武神四天王の頂点とも言える川神 百代さんにお願いしております。」

 

「どうもー。カワイイ子ちゃんの連絡先と差し入れは何時でも歓迎の美少女、川神 百代でーす!」

 

観客席の中に置いてある実況席から見えるのは、四角上のリングの上で戦っている四人。そう、川神 鉄心が宣言した若獅子トーナメントの真っ最中であった。

 

「ではここで今初めて見ている視聴者様に向けてもう一度本大会のルール説明を。

まず出場者は学園生徒に限り二組のタッグチーム。人間、悪魔、堕天使、天使、魔族、種族の制限無く出場できます。尚、学園の生徒でなくともペアの一人が生徒であるチームの場合、エントリー可能です。」

 

「武器の使用はあり。試合が行われてるリングには三大勢力の協力の元。非殺傷の術式が組み込まれてる為、真剣や銃弾などのダメージは軽減され流血しないようになっております。

それでも受けるダメージはソレに応じかなりのモノを受けるので出場チームには厳重に注意を呼び掛けております。」

 

「人間以外の種族には公平を期する為に幾つかの制限が課せられます。

神器持ちは神器の使用は可ですが禁手化は禁止。攻撃も直接攻撃以外のモノは認められない等のルールを課せられ破った場合は失格です。」

 

「これらのルールを除いてもアイツ等は力はあってタフだから結構手強いぞ。ま、私に掛かればちょちょいのちょいだがな!」

 

「勝敗は相手ペアチームの内一人がノックアウト、リングアウト十秒経過で負けとなります。」

 

「大会の内容は、まず16組の予選グループから一組のチームを選抜し、本選にて選抜されたチームが戦います。

そして見事優勝したチームには九鬼財閥から優勝賞品と…。」

 

「この私!武神・川神 百代と一騎打ちの決闘が出来る権利が与えられるぞ!!」

 

「…との事で、各出場者は大いに熱意を込めているでしょう……さあそして只今の試合は第8ブロックの予選決勝戦の真っ最中!対戦チームは…。」

 

「私のカワイイ妹二人が戦っているぞ!頑張れ!!!」

 

「川神さん、応援じゃなくて解説の仕事してください…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今、観客の歓声の中心のリングでは百代の言った通りの二人、ペアを組んだ一子とゼノヴィアが本選を賭けた予選決勝戦の真っ最中。

 

二人の巧みなコンビネーションに相手のペア二人組は苦戦を強いられてた。

 

「行くよゼノヴィア!!」

 

「おうッ!!」

 

掛け声と共に一斉に駆けだす二人。

その先には籠手と棍棒を武器に戦ってる対戦チーム。ここまで上がってきたかなりの実力者であるが、二人の息の合ったコンビネーション戦法に手も足も出ず、向かって来る二人に対し自棄になって向かうだけにまで追い込まれていた。

 

「ハァアッ!!!」

 

「「うあぁぁああッッ!?」」

 

ゼノヴィアのデュランダルが向かって来る相手二人を薙ぎ払う。

 

「てぇええいッ!!」

 

吹き飛ばされる二人を前に一子が後ろに素早く回り込み追撃。振りかざした薙刀が背中を向けて向かって来る二人を斬り、これが決定打となった。

 

【決まったーーーッ!!!ノックダウン!!!

8ブロック予選を勝ち抜いたのは、ダブル川神のチーム、チャレンジャーズに決まったーーーッ!!!】

 

「やったな。」

 

「うん!」

 

二人は互いに上げた手でハイタッチし、景気良く乾いた音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…。にしても本選か~。今から考えるとワクワクしてきた!!」

 

「おいおい。これから戦うのは予選を潜り抜けた猛者達だぞ?浮かれるのは早すぎないか?」

 

出場選手控室の一角、そこではベンチに座って安堵の息を吐く一子に対しゼノヴィアが口を出していた。

予選での快勝が影響か、浮かれていると言うゼノヴィアの指摘が当て嵌まってる風に見える。

 

「分かってるよ!でもこの日の為に一杯鍛錬してゼノヴィアとの連携もバッチリ整えたし!!」

 

「でもなぁ。世の中にはその慢心が命取りになる事があるんだぞ。」

 

「命取りって、そんな大袈裟な…。」

 

「俺もゼノヴィアに同意かな~。」

 

「うわぁッ!?!?」

 

不意に後ろから掛けられた声に驚き跳び上がってしまう一子。勢い良く振り向き背後に立ってた人物を確認すると一子が良く知る人物だった。

 

「こうして声を掛けるまで気付かなかったってのが満身の表れだと思うよ?」

 

「ユウ!?どうして此処に居るの!?だって此処、選手以外は…。」

 

「あれ、てっきりゼノヴィアから聞いてると思ってたけど?」

 

「え?…ゼノヴィア、どういう事?」

 

「あぁ。言って無かったが、悠もこの大会に出てるぞ。」

 

「だから控室に居るってワケ。」

 

「え…ええええぇぇぇッ!?!?!?

ど、どうして言ってくれなかったのぉ!?」

 

「言おうとしたが大事な予選を前にキミの集中を切らすのもどうかと思ってな、本選進出が決まったら言おうと思ってたんだよ。」

 

「もしかして俺が出てる事にヤバいって感じちゃった?」

 

過去に一子は悠との決闘で敗戦してる。しかも今ペアを組んでるゼノヴィアと共に戦っても圧倒的な実力差を見せ付けられての結果で。

だが当の一子はそんな過去を振り払ったかのようなやる気に満ちた眼をしている。

 

「まさか!むしろあの時のリベンジを果す絶好の機会よ!!余計に燃えて来たわ!!!」

 

「そりゃまた、大した向上心だ事で。」

 

「時にキミはどこまで行った?少なくとも負けては無いんだろう?」

 

「あぁ。あと一勝で本選進出。12ブロックだ。」

 

「流石だな。なら本選で当たる可能性は十分あるな。」

 

「そういうこった…と、そろそろ次の相手が決まるから此処で。

遅れたけど本選進出おめでとう。もし当たった時はよろしく。」

 

「うん!…あ、さり気無く悠も慢心してない?もう本選に進むだなんて決まった風に言っちゃって。」

 

「おっといけない言ったそばから。忠告どうも。気を付けて勝って来るよ。」

 

そう言って悠は一子達の前から去って行った。

去って行く悠の背中を見つめながら一子の頭にふと、ある疑問が浮かんできた。

 

「…ねぇゼノヴィア。そういえばユウってどうしてこの大会に出たんだろう?

てっきりユウってこういった目立つ事はしないと思うんだけど…。」

 

「さぁ……目立つのが苦手なユウも出る程の理由が有る、としか言いようがないが…。」

 

「ふぅーん…なんだろうね、その理由って…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

控室の外で待っていたのは秋のニヤケ顔。それに対し顰め面で返す悠。

 

「…何だよ、その顔。」

 

「べっつに~。流石モテる男は振る舞い方が上手いとしか思ってませんよ?」

 

「ただ称賛を言っただけだよ。」

 

「それが好きな男に言われたら余計に、って言いたいんだよ。」

 

通路を歩きながら話す二人の背中にはこれといった緊張感の無い、いわば自然体である事がものが語られるほど落ち付いてた。

 

「それはそうと、来るかな?連中。」

 

「派手好きならこの祭りを見逃さないだろう。もし来なくても二つ目の目的を果たすために動くだけだ。」

 

「そだね、それまでは息抜き感覚で体動かすとしますか。」

 

「あと、お前の不慣れなエモノを扱う練習の場である事も自覚してやってくれよ?気ィ抜いたら龍田ご指導のスパルタレッスンが待ってるだとよ。」

 

「い゛ッ!?マジでぇ…。」

 

イヤな知らせを聞いたと言わんばかりに肩を落とす秋を横目に悠の視線の先にはトーナメント表が写ったスクリーンに目をやる。

そして次の対戦相手の名前を目にすると、思わず声が出る。

 

「へぇ、アイツ等も出てたんだ。」

 

「ドコドコ?…あぁ~、この二人…ちょっと手強いかな?」

 

「ふぅん………秋、少し予定を変更するぞ。」

 

「何?急な作戦会議?」

 

「イヤ、極めて個人的なお願いさ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタジアム観客席。

 

観客は街の住民だけでなく遠くから来た格闘技ファンや一部選手のファンなど様々な人間や人外達が見応えのある試合を心待ちにして席が満ちて行く。

 

そしてその中には当然一部の選手を応援する為に訪れる一団も居る訳である。

 

「…なぁ浅葱。灰原んとこの試合って何時?」

 

「えーっと…次ね。予選決勝戦。」

 

「スゴイですね灰原先輩と桜井先輩。ここまでの試合全部快勝らしいですよ。」

 

「ほぇ~。ゆーくんってそんなに強いんだ。」

 

観客席の一角で固まって座ってる古城達クラスメイトと雪菜達中学生組が悠と秋の応援に観客席に居た。

携帯から見れる大会の公式サイトでこれまで試合内容に悠のこれまでの試合結果を見てこの前雪菜が話した仮説に過ぎない考えが過ぎってしまうなか、二人の心情を物と知らず悠達がここまで勝ち上がって来た事に意外な結果だと古城達の話は盛り上がっていた。

 

「にしても人って見掛けによらないのね。あのぼーっとしてるイメージしかない灰原がこんな大会に出てここまで勝っちゃうんだから。」

 

「普段はそんな一面全然見せねえのにな。

でもお蔭でコッチは予想以上に…。」

 

「?おい矢瀬。なんだよその如何にもってカンジのニヤケ顔。」

 

「フッフッフ。実はな、この大会裏ではちょっとした賭けがあってな。賭けたチームが勝つごとに賭け金が倍になって返ってくんだよ。」

 

「ちょっと、アンタもしかして…。」

 

「おう!灰原達のチームが大穴だったんでな!!思い切って賭けたら大当たり!!!

これでアイツ等が勝てばさらに倍だぜ!!!」

 

「最低、クラスメートをそんな風に見るなんて…。」

 

「いやいや、クラスメートを信頼しての行動だぜ?その証拠にまだ換金してねえし、負けたら即ゼロになんだぜ?」

 

「よく言うぜ……な、なぁ。ちなみにその賭けをしてる所って…。」

 

「先輩…?」

 

「い、いや、やっぱ何でも無い。ハハ…。」

 

【さぁ続きましては、第12ブロック予選決勝戦。選手の出場で――す!!!】

 

「あ、来たよ!ゆーくんガンバレー!!!」

 

「お兄さん、ファイトです!!!」

 

「雪菜。」

 

「…はい。分かってます。」

 

目配りをして雪菜とアイコンタクトを取る紗矢華。二人はこの大会で悠の底知れぬ実力を見極めようとスタジアム中央のリングへ目をやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーワァァアアァアアァアッッッ!!!ー

 

 

ーキャァアーーーーーッ!!!ー

 

 

 

【おーーーっと観客の中には熱い声援だけでなく黄色の声援も聞こえてくるぞーー!

さぁ12ブロック予選、決勝まで上り詰めチームがリングに上がってきました!!

まずはここまで余裕の快進撃!!灰原、桜井選手の、チーム・グレーオータム!!!】

 

 

 

ーキャァアーーーーーッ!!!ー

 

 

「ハハッ!センキュー!」

 

「…こりゃまた違う意味で目立っちまった…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ゆーくんすごい人気だね。」

 

「すごい、です…。」

 

「まぁ秋のヤツもそうだけど、灰原も元の顔はいい方だからじゃない?」

 

「頼むぞ灰原ーーーッ!!秋ーーーッ!!ここで勝ったら3倍だーーーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【対するはオカルト研究部兼リアス・グレモリーの眷属!

神器持ち、しかもそのうち一人は神滅具持ちの木場、兵藤選手のチーム・ドラゴンナイトだーーーッ!!!】

 

 

 

 

 

 

ーキャァアーーーーーッ!!!ー

 

 

ーBooooooooo!!!ー

 

 

「ちょッ!?何でオレに対してブーイングの嵐!?」

 

「ハハ。まぁ…日ごろの行い、じゃないかな?」

 

 

 

【おや、何故か兵藤選手にはブーイングの嵐が沸き起こってますね。】

 

【アイツは二年屈指の問題児だからな。特に学園の女子はほぼアイツの被害者だ。私も着替えを除かれた際に川神波をぶちかましたぞ。】

 

【アハハ、そうなんですか…。おっと、両チームリング中央に歩み寄った!!】

 

 

 

 

 

リング内で互いに対面し合う悠と秋のチーム、グレーオータムと祐斗と一誠のチーム、ドラゴンナイト。

 

悠達は特に心乱れた様子無い平常心で居るのに対し、一誠は何故か目の前の二人を睨んでいた。

 

「まさかキミ達がこの大会に出てたとはね。しかもここまで勝ち進んむ実力者とは。」

 

「なんかおたく等は俺達を知ってる口ぶりだけど、生憎こっちは全然身に覚え無いぜ?」

 

「ああゴメン。僕らは桜井さんと…。」

 

「それよりも、お前等に言いたい事がある。」

 

「イッセー君?」

 

「…悠兄さんなんかやった?なんかものすんごい睨めつけてるよ?」

 

「さぁ?お前の方がなんかやったんじゃねえの?知らぬ間に。」

 

「お前ら二人にだ!!」

 

「「はぁ?」」

 

一誠の言葉にそろって口が漏れてしまう。仮面越しで会ったにしても悠は二度程、秋は今回が初めてである。

つまり一誠の嫉妬と恨みが混ざった視線を向けられる覚えが全くないのである。

 

「自覚が無いのか…だったら言うよ…アレを!!」

 

「「ん?」」

 

一誠の指差した方へ向けると…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人共頑張ってくださーい!!」

 

「秋ーーーッ!つまらないヘマすんじゃないわよーーッ!!!」

 

観客席に並んで座っているラ・フォリア(鹿島コスVersion)とハルナ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それと、アレ!!」

 

「「んん?」」

 

 

 

 

 

 

「いっけーユウ!変態なんかブッ飛ばしちゃえーーーッ!!!」

 

「悠さん!秋さん!油断せずにいってくださーーい!!!」

 

「ガンバレーー!!勝ったら那珂ちゃんの勝利ソングが待ってるよーーー!!」

 

同じく観客席に居る川内姉妹。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんでもって…アレだ!!!」

 

「「んんー?」」

 

 

 

 

 

 

「ファイトーッ秋君!!」

 

「ちゃんと特訓の成果見せてねーーッ!!」

 

「秋さーーん!ファイトです!!」

 

 

同じく観客席に居る飛龍、蒼龍、速吸の姿が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その他もお前等を応援しているのはどれも美人やカワイイ子ばっかり…なんでお前等の周りにはカワイイ子が一杯いんだチクショーーーッ!!!

オマケにおっぱいもデカいとか、羨ましすぎんぞテメェ等ァ!!!」

 

 

「「……。」」

 

 

「イッセー君…。」

 

訳も分からぬ理由に無言で目を合わす悠と秋。そしてペアの奇行な叫びに頭を抑える祐斗であった。

 

「あー、なんかゴメンね?ウチのイッセー君がこんなんで。」

 

「いや、色んな意味でびっくりしたが、まぁ…アンタも苦労してるみたいで。」

 

「というかよくこんな人だかりで的確に見つけるねウチの娘達を。」

 

「それだけじゃねえぞ!!オイ灰原!!

お前夏休みの時に、喫茶店でヤンキーなイケメンとつるんでオレ達を嵌めたらしいじゃねえか!!お蔭で金足りなくて皿洗いする羽目になるわで、最悪だったんだぞ!!!」

 

「……えーっと……なんだっけ?」

 

「覚えてないの?」

 

「うーん喫茶店は覚えがあるが、アレに関しては覚えがないと言うか記憶に無いと言うか…。」

 

「テメッ…木場!アイツはオレがやる!!」

 

「分かった。じゃあ僕は、桜井さんの弟を相手するね。」

 

「ハイハイそう焦るなよ。大声あげなくたって相手するさ。」

 

そう言いながら悠は今回の大会に登録した武器、片手剣を取り出した。

 

そしてその片手剣を…秋に手渡した。

 

【さぁそれでは、試合、開始ーーーッ!!!】

 

「じゃ、頑張ってね悠兄さん。」

 

「おう。」

 

悠の武器を渡された悠をその場に残して下がっていった。

 

この奇行に二人はおろか観客席の人間もざわざわと騒ぎ出す。リングの端っこで座って眺める秋の姿を見て祐斗はもしやと思い口に出す。

 

「まさかとは思うけど…キミ一人で僕たちとやる気かい?」

 

「あれ?分かんなかった?御覧の通り如何にもってカンジだったけど?」

 

「お前どういうつもりだよ!!オレ達のこと嘗めてんのか!!!」

 

「別に?ただ俺一人で十分かなーって。」

 

【どういう事だーー!?桜井選手、灰原選手を置いて後退しました!!まさか一人でやる気なのかーー!?】

 

(…灰原。お前は何を考えて…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとちょっと!!アイツ何考えてんのよ!?」

 

「秋のヤツが怪我でもしたのか!?だから灰原一人で…。」

 

「いえ、それなら武器を桜井先輩に渡して下がらせませんよ。桜井先輩も武器を持ってる筈だから、むしろ灰原先輩に渡すべき筈です。」

 

「何やってんだよ灰原ーーーーッ!?ココで負けたら今までの勝ち金全部パァになっちまう!!」

 

「アンタはいい加減に黙んなさい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「野郎ふざけやがって!木場!手ぇ出すなよ!!」

 

「ちょ、イッセー君!!」

 

赤龍帝の籠手を出し悠に向かって特攻する一誠。

 

拳を構え殴りかかろうとする一誠を前に悠は腕を組みながら悠々と立ってる。

 

「喰らえぇえぇぇえぇッ!!!」

 

「…ほい。」

 

「ぬぉッ!?」

 

一誠の左のストレートを軽く躱し、通り抜け様に足を引っ掻ける。

当然の如くバランスを失った一誠は前のめりに倒れた。

 

「ぐッ…!」

 

「おっと失礼。足が、長いんでね。」

 

「ッ、このぉ!!」

 

挑発に反応し起き上がって再び殴りかかりに行く一誠。

 

そんな一誠の攻撃を上体を反らして躱す悠。構わず悠へ拳を握り猛打を繰り返して放つもまるでどこに来るか分かってるかのように悉く躱されてしまう。

 

尚を攻め続ける一誠だが此処で悠が動き出す。左のストレートを右手で受け流しその反動で回りながら背後に立つ。無防備な一誠の背中に掌を押し当てて軽く力を入れて押した。

 

「ぬおッ!っととッ!!」

 

前方に向かって力んでたのもあってまたしても転びそうになるが、今度は足を踏ん張って持ち堪えた。

同じ手を繰り出されコケにされたと感じた一誠は背中を向けてる悠に対し更に憤り湧き上がらせた。背中を向けた無防備な悠に後ろから殴りかかるが、悠にとってはエサに掛かった獲物の行為にしか思っていない。

 

「──フンッ!」

 

「ゴガッ!?」

 

背中を向けた状態から右足の回し蹴りが一誠の頭部に直撃した。

 

悠のカウンターを蹴りを皮切りに今度は悠の猛攻が始まった。

 

よろける一誠に接近した悠は右足を上げて下段の横蹴り、前蹴り。地に着いてる左足で跳んでハイキックに続きそのままの勢いでローリングソバットと言う足技のコンボを決める。

そして追い討ちに体制を低くしての足払いをかけて一誠をダウン。背中から倒れた一誠を前に跳んで…。

 

「ハァッ、ラァッ!!」

 

「ガハッ──!!!」

 

空中で回転を決めそのまま腹部に両膝をめり込ませた。

 

息が一気に腹から吐き出され胃液が逆流しそうな感覚を堪える一誠からすぐさま退いて距離を取る。

 

暫く様子見でジッとしてると、腹部を抑えた一誠がゆっくりと立ち上がり此方を睨んで来る。まだやる気のようだ。

 

「ワァォ、タフだねぇ。今のゲロ吐いても可笑しく無かったでしょ?」

 

「生憎…コレよりキツイの…喰らってんだよ…!」

 

「そう、そりゃ良かったね…時におたく、素手で向かうタイプの癖に格闘技のいろはも習ってないって…実際どうよ?」

 

「ああ!?」

 

「だってソレ見たまんま殴る専門の武器じゃん。能力とか除けば。なのにすんごい素人丸出しだったからその辺つどうなのかなって。」

 

「余計なお世話だ!!そこまで言うなら見せてやるよ、コイツの能力を!!!」

 

[Boost!]

 

「…あぁー。確かそれって時間が経つごとにパワーアップだっけ?…いいよ。充分に溜めなよ。その間…。」

 

悠は後ろから迫る影に目を配らずにしゃがんで回避する。

その正体は神器で魔剣を手にした祐斗が力を溜める一誠の前に立った。

 

「木場!」

 

「イッセー君。どうやら彼相手に一人で立ち向かうのは困難みたいだ。

ここからはボクも行くよ。」

 

「いーよ。最初から二人相手にする気だったし。その間に倒せるだけの力を溜めてなよ。ヒョロ男くん。」

 

「オレは兵藤だ!!テメエさっきからいい加減に…!」

 

「落ち着いてイッセー君!相手の挑発に乗って冷静を欠いたら思う壺だよ!イッセー君は構わずに倍加の準備を!!」

 

一誠を抑えた後、一本の魔剣を手に祐斗は騎士のスピードを活かし接近して行く。

 

両手に持つ魔剣を横に水平に振る祐斗に対し悠はバックステップで回避。切り返しの最中踏み込んで間合いに入り込む悠に祐斗が下がろうとするが、悠は祐斗の両足の間、股下に片足を割り入れて踵につま先を触れた。

 

「ッ!?」

 

「──デァッ!!」

 

ほんの少し、ほんの少しだけ自分のペースを乱されれば命取り。

祐斗は下げようとした片足の踵ら辺に躓いてしまうとほんの僅かな隙が生じる。それを見逃さんと言わんばかりに悠が後ろ回し蹴りを仕掛ける。

 

祐斗は咄嗟に魔剣を立てて剣を盾代わりとして蹴りを防ぐ。

 

(ッ!なんて蹴りだ!)

 

「ゼァッ!!!」

 

「クッ!ハァァッ!!!」

 

余りの威力に舌を巻いてしまう祐斗だが、迫る追撃の左足のソバットを下がって避け、攻めに行く。

 

斜めの袈裟懸けを上げた右足の靴底で受け流されるという卓越な足技で防ぎ、時に横蹴りや蹴り上げで、足と剣という異色の打ち合いに観客は歓声が上がった。

 

【こ、これはスゴイ!!木場選手の熟練された剣技を前に、灰原選手が巧妙な足技で迎え撃ってます!!

川神さんこれをどう見ますか!?】

 

【あ…あぁそうだな。木場の剣技は遠目から見ても達人クラスの腕前だ。だがそれに足で対抗してる灰原の実力も異質と言って良い位のレベルだ。まだアイツが手を使ってる所を見てないからな。灰原のスタイルは足技主体の格闘と見ていいのかもしれない。】

 

【だから武器を桜井選手に渡したんですね…。本気でやる為に剣は邪魔だったと言う理由で。】

 

百代の解説が会場内に響くなか、リングの端で試合を眺めてる秋は内心百代と実況にツッコんでいた。

 

(足技がメインって、そんな訳無いじゃん。オレより色んなライダーに変身してる人間が、足技鍛えてもソイツの性能を百パーセント引き出せないっての。)

 

そう、悠の持ってるライダーシステムは武神鎧武のような多様な武器を扱うモノや、サイガやダークカブトの様にテクニックが必要なのや、ガオウやオーガの様なパワータイプなど、個々によって扱いにクセが一癖二癖もあるのが殆ど。

 

いわばレーシングカーを操る様なモノだ。乗る車によって必要な技量が求められるのと同様にライダーシステムを十全に扱うにはそれに必要な技量が求められる。つまり…。

 

(悠兄さんはある意味万能型。今やってる足技も、悠兄さんにとっちゃ数ある技の中の一つ、て事になんだよね~。)

 

 

 

 

「シッ!、ラァッ!!」

 

「ハァァアァアッ!!!」

 

今も尚互いの猛攻が続くなか、戦況が動き出した。

 

 

[Boost!]

 

「いよぉしッ!木場ァ!こっちは十分溜まったぜ!!」

 

「イッセー君!」

 

一誠の倍化が済み、籠手にはかなりの魔力が籠められた。

 

此方に向かって走る一誠を横目に祐斗はギリギリまで悠の動きを止めて寸での所で一誠と切り替わりトドメを刺すというイメージを組み立てる。恐らくそれは一誠も同様にイメージしていると長く共に戦ったから分かる信頼で通じ合っていたのだ。

 

だが、それを読めぬほど目の前の相手は甘く無かった。

 

 

ーガシッ!ー

 

 

「ッ!」

 

「隙有り。」

 

ほんの少し、一誠に目をやった隙を突かれ剣を持った手首の方を掴まれる。

そして合気の技、四方投げの様に手首を捻りながら腕を勢い良く振り下ろすと祐斗の手から剣が離れ、背中を地面に打ち付けられた。

 

次に悠は此方に向かって来る一誠に目をやる。その距離は5メートルを切りほぼ間近だった。

 

「これで終わりだぁあぁッ!灰原アァアッ!!!」

 

一誠が左腕を引き渾身の一撃を入れようとする。

 

そんな一誠を前に悠は、先程祐斗の手から離れた魔剣を逆手に持ち、そして一誠に向けて、投げた。

 

「ッ!?う、うわぁッ!!」

 

突然の事に面を喰らう一誠は思わず反射的に籠手を前に出し、魔剣を弾いた。それが狙いだと気付かず。

 

「イッセー君ッ!!!」

 

「ッ!」

 

祐斗が伝えようと叫ぶも事は既に遅し。一誠の眼前には跳んでここまで来たのか、宙に浮いた悠の姿。

 

悠は突き出した右足で一誠の籠手を抑え付けると、それを支えに左の回し蹴り、そのまま一回転をして右足の後ろ回し蹴りを顔面に浴びせた。

 

今ので脳震盪を起こしてる筈だが目の焦点が合って無いが未だに倒れない一誠を前に一息吐くと、一誠の鳩尾目掛けて蹴り上げ、体がくの字の状態で浮かんでる所に…。

 

「フンッ!!」

 

前方宙返りを加えた踵落としが一誠の後頭部に入り、顔面から地面に突っ込んだ。

 

少しピクピクと体が痙攣した後、ピクリとも動かなくなり…。

 

【き、決まったぁーーーッ!!!

最後はアクロバティックな蹴り技で兵藤選手ノックダウーーン!!!

12ブロック本選出場者は、チーム・グレーオータムだーーーッ!!!】

 

沸き起こる歓声に熱意が籠められながら会場内はより一層に騒がしくなる。

そんななか悠は見事に顔面から地面に突っ込んでる一誠の後頭部を見て「ん?」と気付き、しばらく眺めた後に何かに気付いた。

 

「…あ。あぁー!。あん時野郎と一緒に床にキスさせたのってキミだったんだ。

いや道理で覚えがない筈だ、後頭部しか見てなかったのに加えてあの時は感情的だったから……って、聞いちゃいないか。」

 

思い返すにしてはどうでもよかったな、と思いながら悠はリングを後に歩み出す。途中祐斗の居た方から地面を叩く音が聞こえたが無視した。

 

リングを後にし、悠が歩む先には肩に悠の剣を担いだ秋が待ち構えていた。

 

「お疲れ。どうだった?」

 

「うん。前から連中に対する鬱憤がようやく晴れた。超いい気分。」

 

「そりゃよかった。」

 

剣を返され通路を横に並んで歩く二人。通路を歩く悠の機嫌が何処か良い事に秋は横目で感じ取る。

 

「そんで?今の所計画は順調なワケ?」

 

「あぁ。鬱憤も晴れた。本選に進めた。そしてイイ感じに目立てた。倒した相手が神器持ちって所が特にな。」

 

「じゃあ後は予定通り…。」

 

「適当に勝ち進みながら待つ。来なくとも第二の目的を果たす。」

 

「了解。気分が良いねえ。問題無く物事が進むって♪」

 

「…いや、問題は無いが、一つ、不満な点が有る。」

 

「え、なに?」

 

「…チーム名なんだけどよ。やっぱグレーオータムって安直すぎやしないか?」

 

「あーそれ?しょうがねえじゃんアミダで決まっちまったんだし。

オレが考えたチーム・マッハGO!の方が断然よかったのに。」

 

「いやそれお前メインじゃねえかよ。俺要素何処にもねえし。」

 

「そういう悠兄さんこそなんだよチーム・キリマンって!なんでコーヒーなワケ!?」

 

「好きな豆。後、キリマンジャロのてっぺんの様に目標を高くっていう意志表示が…。」

 

「後に着けた感マンマンだからソレ!!

…それと思ったんだけど、どうしてキックがメイン?アレはアレでインパクトあったけど。」

 

「あぁアレ?深い意味は無いよ。ただ文字通り、”軽くあしらう”ってね。」

 

「うっわ、つまんないシャレにあの二人は負けたってのか、可哀そう。

…あ、そういえば血の繋がってない兄弟で、仮面ライダーで、兄がキックって、まんま地獄兄弟みたいじゃねオレ等?あとはオレがボクシングでも習えば…。」

 

「そう、じゃあ俺とマンツーマンでスパーリングでもするか?」

 

「…いや、やっぱいいです。ホントに地獄行っちゃいそうだから。」

 

「あっそう、残念………地獄兄弟、ね…アイツ、あの後何処行ったのやらか。」

 

「ん?なんか言った?」

 

「………いんや別に。昔勝負に負けた奴を思い返してた。」

 

「ふ~ん………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠達が去っていった後のスタジアム内では未だ冷めぬ熱い歓声が起こり、リング内では気絶した一誠を担架で運んでいく姿が見られる。

 

興奮の渦と化した観客席の中で最初は悠の奇行に驚いてた古城達はさっきとは一変してただ茫然としていた。

 

 

「……勝っちまったぞ、アイツ…。」

 

「……アレ、本当に灰原よね?灰原の皮被った別人って言われても可笑しくない位動いてたわよ…。」

 

「…すごいゆーくん。まるで忍者みたいだった…。」

 

「…言葉が、出ない、でした…。」

 

「よくやったぞーーッ!!灰原ァ!!これで3倍だぁ!!!」

 

一名を除き今でも信じられないと言った顔ぶれでいる古城達。

 

なにしろ先程圧勝して勝った相手が相手である。普段学園での悠といえば、気の抜けた口調と態度、学園に来るなりよくサボって寝ているなどある意味古城よりも昼行燈な人間があそこまで俊敏に動くなど誰が想像出来ようか。

 

「そういえばよ、短い間だったけどアイツこんな噂立ってたよな?ドイツ留学生相手に素手で決闘勝ったって。もしかしてアレ、マジの話しだった?」

 

「少なくとも今の見てれば信憑性アリね。私だってまたアテも無いホラ吹きの話しかと思ってたけど…。」

 

「…ねぇ雪菜。あの動き…。」

 

「はい…洗練された動きですね。」

 

「なになに?何か知ってるの雪菜ちゃん。」

 

試合を見ていた紗矢華と雪菜が何か気付いた事に反応した凪沙が雪菜に詰め寄って聞いて来る。思わず身を引く雪菜だが全員の視線が此方に向いており、教えてくれと言う無言の圧力に負けてしまう。

 

「えっとですね、さっきのを見る限り灰原先輩の動きは武道の動きでは無く独自の動き、つまり型の無い実戦向きの動きなんですよ。」

 

「それって…どういう事?」

 

「我流、って訳よ。投げ技は合気っぽかったけどそれ以外は完璧に独学ってカンジのスタイル。無茶苦茶な動きだったわ。」

 

「…ちょっと待てよ。アイツ確か師匠から色々教わったって言ってたけど、あの動きを教わったんじゃないのか?」

 

「それもあるわね。でもアレはクセが有り過ぎるわ。とても人に教えて扱いこなせるってレベルじゃない。」

 

「それだけ独特なんですよ灰原先輩のスタイルは。そもそも足技だけで戦うなんてスタイルは本来有り得ません。」

 

「確かに…途中足でも斬られたらそれこそ大惨事だよな。」

 

「…なんだか灰原について色々疑問点が浮かんでるようだけど、それこそ本人に聞けば一発じゃない?アイツの事だから気さくに答えると思うわよ?」

 

「じゃあ試合見終わったら後でゆーくん達の所に行こうよ!本選出場のお祝いも言わなきゃいけないし!!」

 

「そうね、ちょうどお祝いする資金もあるみたいだし…。」

 

「…おい。何だよその目。まさか……オレ?」

 

「アンタ灰原のお蔭でお金溜まったんでしょ?ならその為に使っても別に可笑しくは無いでしょ?」

 

「ちょ、待った!コレ明らかに高い店に、「何か言った?」…あぁ、はいはい。こりゃどう言ってもダメなヤツだ…。」

 

「じゃ決まり。後でアイツ等の出待ちでもしましょ。色々聞きたいからね。」

 

「じゃあ凪沙ゆーくんにメール送っとくね!」

 

「…紗矢華さんどう思います?」

 

「その場で色々聞けるかって話し?なんか上手い事はぐらかされそうな未来しか浮かべないわ。」

 

「ですね。相手があの灰原先輩ですから…。」

 

「?お前等二人してなに話し合ってんだ?少し様子変だぞ?」

 

「コッチの話しよ。アンタは良いわねそうお気楽で。」

 

「はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふぅむ。」

 

「ん?どしたの?」

 

「凪沙ちゃんから、祝勝会のお誘い。」

 

「お、いいねぇ~。なんなら姉ちゃん達も一緒に行っちゃう?」

 

「ハイハイ聞いてみますよ。ま、十中八九質問攻めに遭いそうだけど。」

 

選手控室で悠と秋は備え付けているテレビからこれからの試合を見てから帰るつもりでいた。二人にとってはお祭りの行事にしか思って無いこの大会だが、すべき対策は取っておくに越したことはないという心構えである。

 

「あんだけの事しちゃったからね。……悠兄さん、オレちょっと小腹空いて来たから外の売店行って来るけど…。」

 

「ならコーヒー頼める?ブラックで。」

 

「あいよ。」

 

控室から出て行った秋を見届けた後悠は携帯を仕舞ってテレビを見る。

画面には別の予選決勝の最中、普段命がけで戦ってる悠から見たら特に何も感じない試合だがこれも一種の観察と思って画面から目を離さずにいた。

 

そんな悠の後ろから忍び足で徐々に近づく影が…。

 

「…いや、もうバレてるんで普通に声掛けてくださいよ。」

 

「うっわ、すごくつまらない反応。お姉さん傷ついちゃうよん。」

 

「これでも優しい方ですよ。普通なら間合いに入った途端蹴り喰らわしてますから。」

 

「いやいやそれは流石に…嘘だよね?」

 

「なら今度試してみます?」

 

「…気を付けます。」

 

声を掛けて来たのは同じく大会に出場してた燕だった。肩を落とした燕は少しした後と並んで画面を見ながら話し掛けてきた。

 

「見たよさっきの試合。流石だね。」

 

「どうも。そちらは?」

 

「うん、こっちは順調♪本選まであと一勝だよん。」

 

「そうですか。そりゃ流石ですね。うん。」

 

「うわ素っ気無い。もうちょっと言う事無いの?」

 

「俺なりのエールだったんですけど?」

 

「ふ~ん、一子ちゃん達に対してちゃんと言ったのに?」

 

「また耳が早い事で。」

 

「それが取り柄だからね。…そうれはそうとさ。」

 

「ん?」

 

「…キミはどうしてこの大会に出てるの?こう言っちゃなんだけど、この大会で時間潰しちゃっていいの?」

 

「…その答えは……いずれ分かる。」

 

真剣な表情で聞いて来た燕に対し悠はさらりと返して答えた。流された事に対し燕は納得のいかない表情をするがそこへ別行動を取っていた燕のペア、大和が控室にやって来た。

 

「燕さん!次に当たるチームの情報掴んで、って、灰原…!」

 

「あ、大和クン。」

 

「へぇー、先輩のペアってキミだったんだ。確か……何ファミリーだっけ?」

 

「風間ファミリーだ。それよりお前燕さんと何を話してるんだ?」

 

「別に、ただの世間話だよ。」

 

「おっまたせー!…ってあり?何この状況?」

 

大和が燕との関係性を聞きに来るなか手に缶コーヒーを持った秋が現れる。場がしん、と静かになるなか画面では最後の予選決勝が終わった所だった。

 

「今日はもうお終いね。秋帰るぞ。」

 

「お、おい待てよ!まだ話は…!」

 

去ろうとする悠の肩を思わず掴んで止める大和だが振り返った悠の眼光にたじろいでしまい、掴んでた手を放してしまった。

 

「…話って、そこの納豆先輩との関係?納豆押し付けられる迷惑な関係だよ。じゃ、そういう事で。」

 

「あ…。」

 

話しを軽く受け流して悠は控室から出て行った。

残された大和は先程まで悠と一緒だった燕に前から疑問に思ってた事を口にした。

 

「…燕さん。ペアを組んでる今だからこそ聞きたい事があるんですけど。」

 

「ん?いいよ、何が聞きたいの?」

 

「…燕さん。本当は灰原が何者か知ってるんじゃないんですか?だからアナタは最初から灰原に近づいた。」

 

「う~ん………何て言えばいいかな?

大和クンの言ってる事、大体合ってるよ。でも私が知っているのは彼の一部分だけ。彼が一体何者かは、私も詳しくは知らないんだなコレが。」

 

「そうですか…ちなみにその一部分って…。」

 

「それは言えないんだな、残念ながら。別に脅されてるとかそういうのじゃないよ?個人的に黙ってるだけ。」

 

「…オレが頭を下げてもですか?」

 

「ゴメンね。…でもね大和クン。これだけは教えてあげる。

少なくとも彼、そこまで悪い人じゃないよ?ただ素直じゃ無いってだけ。それが勘違いで悪い方に向かってると私は思ってるんだ。」

 

「…はぁ。」

 

何処かイキイキと笑って悠の事を語る燕に大和は嫉妬にも近いような感情を悠に向けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ。」

 

同時刻。観客席の一角で一人席に座らず試合を眺めていた人物が一人。その者は周りの観客とは違い冷めた表情をしてた。

 

(大きい武の大会があると聞いて試しに来てみたけど…想像通りだったわね。この程度って分かってたつもりだったんだけど。)

 

顎に手を当てて溜息を吐く大柄の男性。ラヴァーは勝手な期待だと知りながらも何処か自分の心が沸き立つようなものが見れるかもしれないと思った末に来てみたがどれも自分の満足いくようなものではなかった事に再度溜息を吐いて踵を返した。

 

(見ている限りじゃ出てた子達の殆どがやる気に満ちてたけど、ワタシ個人からしたら足りないわね。

…やはり武と言うのは命を賭してからこそ…ん?)

 

このまま帰ろうとした矢先、ラヴァーの目にあるモノが目に入ってしまう。

 

スタッフ用通路に男二人組が入って行く光景だが、二人は入る時やたら周りを気にしてたし何しろ服装が会場スタッフの制服で無い事に強く疑心が浮かんだラヴァーは思い切って後をつける事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──首尾の方はどうだ?」

 

「はい侯爵。選別と準備は整いました。」

 

会場の配電室内で異様に固まってる集団が一つ。中心に居るのは脂ぎった体で如何にも貴族が着そうな服装で固めており周囲には黒づくめの男が固まって話し合ってた。

 

「しかし侯爵、本当に実行するので?ただでさえ仮面ライダーの所為で我らの種族が危機に瀕してるとは言え…。」

 

「黙れ!だからこそ使える駒を揃え、我ら悪魔の繁栄を実行するのだ!!

その為にもまずは人間共のつまらぬ催し物から使える人間を攫い我が隷属として戦力を揃えるのだ!!!」

 

「ですが流石に魔王様方の影で隠れてコレは……ッ!誰だ!!」

 

仕切っている悪魔の侯爵の考えを前に手下の一人が渋るなか気配を感じて大声を上げる。

全員が一斉に目をやるとそこに居たのは物陰から顔を覗かせて見ていた大柄の男、ラヴァーだった。

 

「あらヤダ。ワタシもしかして見てはいけないモノ見てしまったのカンジかしら?」

 

「ふん。なんだただ図体がデカいだけの人間ではないか。しかも気色悪い喋り方をしおって。

悪いが見られたからには此方も困るのでな。計画の支障になる前に消えて貰う。」

 

侯爵が手を上げると周りに居た黒づくめの悪魔達が前に出る。

 

圧倒的に数で不利な状況だが彼等は気付いていない。目の前の男が自分達の種族を絶滅にまで追い込んだ者達の一人である事に。

 

「やぁねぇ、どうしても見逃してはくれないのかしら?ワタシ無駄な争いは避けたい方なのよ。」

 

「ハッ!この期に及んで良くそのような口が叩けるな人間風情が!貴様等のような矮小な存在など我ら高貴な悪魔にとって家畜に過ぎぬ!故にどう扱おうと我らの勝手よ!」

 

「………醜いわね。」

 

「なに?貴様!今何と言った!?この私を醜いだと!?」

 

「えぇ。言ったわ。細かく言わずともただ一言で十分よ。…アナタ、醜いわよ。」

 

「貴様ぁ…殺せ!すぐに奴をただの肉塊に仕上げろぉ!!!」

 

「…仕方ないわね。──フゥゥーーーーッ──ムンッ!」

 

突如纏う雰囲気が変わったラヴァーは武道独特の構えをするやラヴァーに向かって飛来する小さな影が悪魔の集団を掻い潜る。

 

前に突き出した右腕の手首に嵌められたブレスレット。[ライダーブレス]に自ら嵌っていく金色のゼクター[カブティックゼクター]が装着されていき…。

 

「──変ッ身ッ!」

 

<< HENSHIN >>

 

ブレスから展開されるアーマーが全身を包み込みその体が煌びやかな金色の戦士、仮面ライダーコーカサスに変わる様を悪魔達はまるで幽霊を見るかのような眼差しをしながら見るなか、やがてその恐怖の対象の姿を間近にした。

 

 

<< CHANGE BEETLE >>

 

 

未だ構えを解かず自分達の前に現れた黄金。悪魔達の耳にはある仮面ライダーについて嫌でも耳に入っている。それは悪魔のトップたる魔王を四人打ち負かした仮面ライダーの特徴。その特徴が合う仮面ライダーが今自分達の目の前で堂々とした構えを取っていた。

 

「き、金色に、頭部と肩の角の仮面ライダー…まさか、き、貴様が…!」

 

先程と打って変わり侯爵の顔から余裕と言うモノが消え、汗がひっきりなしに流れていた。

そんな悪魔達の様子などお構いなしに一歩一歩ゆっくりと歩み寄って行く。

 

「う、撃て!全員ありったけの攻撃をヤツに放てぇ!!!」

 

「「「「う、うぉおおおぉぉおおおおッッッ!!!!」」」」

 

侯爵の掛け声と共に悪魔達は各々の攻撃をコーカサス向けてただひたすら放ち続けた。

 

ある者は魔力弾、ある者は火炎弾、氷の棘。様々な攻撃がコーカサスに放たれ続け約る事二分近い時間が過ぎていった。

持てる力を全て振り切った攻撃に息を切らす物や膝に手を着く者など。疲労した状態の先には爆炎と煙で見えなくなったコーカサスの居た場所だった。

 

「…ハ、ハハ…フハハハハハッ!!!

なんだ!!簡単に倒せたではないか!!!所詮人間の造った兵器!我々悪魔の前では通用せぬゴミ同然よ!!!

ククク、魔王様方でも倒せなかった仮面ライダーをこの私が!!この報せだけで我が家の名に箔が…フハハハハッ!!!」

 

コーカサスを倒したと確信してる侯爵は一向に笑いが消えずどれだけ有頂天に立っているか様子を見ただけでも丸分かりであった。

 

「ハハハハ…………は?」

 

「お、おい…。」

 

「ウソ、だろ…あれだけ、撃ったのに…。」

 

 

 

 

 

 

「──スゥゥゥーーーーッ。」

 

爆炎と煙が晴れ、そこに立っていたのは拳を前に突き出した無傷のコーカサスだった。

 

腰を落としてゆっくりと息を吐くコーカサスに誰もが唖然とし、辛うじて口が動いたのは侯爵であった。

 

「き、ききき貴様ァ!!ななななんでッ、なんで、立って…ッ!!!」

 

「なんで?簡単よ。貴方達の攻撃、ただコレで打ち消しただけよ。」

 

そう平然と言って握り拳を突きつけるコーカサス。侯爵と悪魔達は更に信じられないと言った顔をする。

今まで二分近く放った攻撃が全て、しかも位置やタイミング、放った攻撃の種類にも何の問題無く、ただの拳だけで自分達の決死の攻撃が全て無効化されたのだ。

 

この時侯爵や悪魔達は全て理解した。これが仮面ライダー。魔王、いや冥界を壊滅寸前まで追い詰めた圧倒的な強者の存在を。

 

「…さて、念の為聞いておくけど、先程の攻撃。アレは貴方達の全力、って事でいいのかしら?」

 

「ひ、ヒィィィィィィィイッ!!!!たたたた、頼むッ!!い、命だけは助けてくれ!!!」

 

「こ、侯爵!!」

 

「…フゥ。やっぱり醜いわね、命乞いというモノは。」

 

尻込みして後ずさる侯爵を前に戦意を喪失して絶望する悪魔達を前にコーカサスはベルトに付けられたもう一つのゼクター、[ハイパーゼクター]へ伸ばす。

 

「安心なさい。ワタシ、弱い者イジメは嫌いなの。だから…一瞬の散り際で、美しくお死になさい。」

 

「ヒイイィィイッ!!!ヤダァァアアアッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

<< HYPER CLOCK UP! >>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フゥ。」

 

入って来たスタッフ用通路の扉から出て来たラヴァー。

試合を見た後よりもその表情は良く無く、盛大に溜息を吐いていた。

 

(気分転換のつもりで来たつもりだけど、反ってイヤな気分になっちゃたわ。

早くお店に帰って、ブーケでも作りましょ。)

 

内心見た目と想像つかない考えをしながら歩くラヴァー、その前方から…。

 

「だから何でも無いって言ってるだろ。」

 

「いやいやまた悠兄さんの事だからあの先輩も知らぬ間に…。」

 

「それ以上言ったらマジでスパやるぞ、朝まで。」

 

(…アラ?あの子達って確か…。)

 

前方か来た悠と秋の二人組を見てラヴァーは思い出す。大臣から伝えられた自分達敵であると言う事を。

そんな事を考えてる内にラヴァーは二人とすれ違う。足を止めて振り返り二人の歩く背中を眺めた。

 

(確かにイイ面構えの子達ね、特にキンちゃんを倒したあの子は。

あの子達ならワタシを本気にさせてくれるかしらね。ワタシの、美しい武を極める為に…。)

 

底知れぬ期待の眼差しを向けながらラヴァーは背を向けて歩き出した。

 

 

 

 

「ッ!!!」

 

「?どしたの?すっげえ形相してるけど?」

 

「…いや、何でも無い。」

 

「?…そう?

それよりも姉ちゃん達と合流して祝勝会行こうぜ!」

 

「…あぁ。(何だ今の悪寒?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、若獅子トーナメント大会本選日。

 

 

 

【さぁ皆様遂にこの日がやって参りました!

厳しい予選に勝ち抜いた16組の猛者達の戦いが今ここに始まろうとしています!!!】

 

 

 

ーワァァアアァアアァアッッッ!!!ー

 

 

全ての予選が終わりリング内には16組のペアチームが立つ光景を前に観客の歓声は予選の時よりもさらに熱を増していた。

 

 

【ではここで皆様お待ちかねの本選出場チームの紹介です!】

 

 

【新たな英雄伝説を築けるか!?今大会目玉チームの一つ、源 義経と那須 与一のチーム・源氏物語!】

 

「義経の名に恥じぬ様な剣を見せるぞ!」

 

「フン…オレはオレでやらせて貰うぜ。」

 

 

【ドイツからの最強タッグ!軍人仕込みの戦法で攻めるマルギッテ・エーベルバッハ、クリスティアーネ・フリードリヒのチーム・大江戸シスターズ!】

 

「今こそ自分の義が試される時!」

 

「私を本気にさせてくれる相手が居る事を願います。」

 

 

【武神四天王と天下五弓のコラボレーション!その剣と矢は何処まで進むか!?黛 由紀江と椎名 京のチーム・松風紅蓮隊!】

 

「がががが、頑張りますッ!」

 

『まゆっち、リラックスだぜリラックス!』

 

「全力で援護するから、ドンと構えなさい。」

 

 

【今大会もう一つの目玉チーム!その細腕からのパワーは測定不能!武蔵坊 弁慶と板垣 辰子の怪力チーム・デスミッショネルズ!】

 

「ま、ぼちぼちよろしく~。」

 

「ふぁ~~。」

 

 

【喧嘩殺法と幸運のスピードスターのナイスガイコンビ!風間 翔一と源 忠勝のチーム・ストームファイターズ!】

 

「なんとかここまで来れたぜ!ホントゲンさんにはマジ感謝してるぜ!」

 

「勘違いすんな。喧しかったから仕方なくでだ。」

 

 

【川神院を代表しての本選出場!武神の背を超えられるか!?川神 一子とゼノヴィア・川神のチーム・チャレンジャーズ!】

 

「ここまで来たからには行けるトコまで行くわよ!」

 

「修行の成果、今ここで見せる!」

 

 

【世界を突き動かす男、今此処に君臨!九鬼 英雄と井上 準のチーム・フラッシュエンペラー!】

 

「フハハハッ!我を倒したくば全力で来い!」

 

「頼むから仕事増やさないでくれよ…。」

 

 

【戦うメイドここにあり!獲物をひたすら刈り続けるステイシー・コナーと李 静初のチーム・ワイルドナンバーズ!】

 

「っしゃあッ!ロックに決めてくぜ!」

 

「九鬼の名に恥じぬ様、精進致します。」

 

 

【強さこそ全て!何人も投げて蹴る!不死川 心と榊原 小雪のチーム・KKインパルス!】

 

「にょほほほ!本選でも投げまくってやるのじゃ!」

 

「のじゃー!」

 

 

【柄がワルいが腕は確か!決めるぜ四露死苦!羽黒 黒子と板垣 天使のチーム・地獄殺法!】

 

「ん~!イイ感じ系!もっと視線プリーズ!」

 

「オイ!ウチの名前フルネームで言うなって言っただろ!?」

 

 

【天使と悪魔の異色コラボ誕生!?新たな歴史に名を刻むか、紫藤 イリナと塔上 子猫のチーム・セイントキャッツ!】

 

「ああ主よ!今この場に立てた事に感謝してます!」

 

「ッ…お願いですから隣で祈らないでください。」

 

 

【学園を支える生徒会が今戦いの場に!匙 元士郎と花戒 桃のチーム・ブラックフラワー!】

 

「見ていてください会長!オレの勇姿を!」

 

「頑張ろうね元ちゃん!」

 

 

【今回は犯人では無く優勝を捕まえる!武偵クラスから神崎・H・アリアと星枷 白雪のチーム・バレッドブレード!】

 

「フン、少なくともここまで足手纏いにならなかった事を褒めてあげても良いわ。」

 

「こちらのセリフです。あ、キンちゃーん!」

 

 

【その素顔、名前、経歴なにもかも全てが不明!謎のチーム・アンノウン!】

 

「……。」

 

「……。」

 

 

【武力で無く知性がメインのこのチーム、武神四天王松永 燕と直江 大和のチーム・知性チーム!】

 

「はーい!一生懸命、粘り強く行くよ!」

 

「ここまで来たからにはやってやる!」

 

 

【そして最後はこの二人!ここまで快勝の快進撃!波乱を呼び起こすか!?灰原 悠と桜井 秋のチーム・グレーオータム!】

 

「イエーイッ!こっからはオレ達のステージだ!」

 

「…どうもー。」

 

 

 

 

 

ある者は栄光を、ある者は褒賞を、またある者は己の計画を進める為の布石として勝ち抜いた猛者達の戦いが…。

 

 

 

 

【以上16組!この中でたった一つの栄光の座を賭けた戦い、若獅子トーナメントの開催だーーーッ!!!】

 

 

幕を開けた。





春映画ではキリヤが、エクゼイドスピンオフでは浅倉が。

正直俺得の復活祭りです!

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