その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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仮面ライダーパラドクス…またクセの強そうなライダーが出て来ましたね。


誤解

 

 

 

インベス騒動から七日目。

 

 

とりあえずロードマルス戦での怪我が癒え完治にした悠は、久しぶりに学園へ登校しようと制服に袖を通していた。

 

 

「……。」

 

 

そしてその朝。並べられた朝食を目に悠は固まっていた。

 

 

「どうしたのさ悠兄さん。じっと固まっちゃって、冷めちゃうよ?」

 

「そうよ。早く食べなきゃ遅刻するわよ。」

 

「…いや、食うけどさ……量、可笑しくね?」

 

「「そう?」」

 

 

・朝食メニュー

 

白米=ラーメンどんぶり山盛り

 

味噌汁=同じくどんぶり

 

ベーコンエッグ=卵6個使用

 

グリーンサラダ=約三人前

 

特製スムージ=一杯

 

 

 

そう、なぜか今食べてる秋やハルナの量とは違い悠の前に出される量が異常に多かった。

 

 

「そう?じゃ、ねぇよ!!!何コレ?何このとんでもない量?秋のと間違えてない?」

 

「いやいや、間違ってねえよ。それ悠兄さんの分。」

 

「昨日までずっと栄養剤だったんでしょ?よかったじゃない。沢山食べれるようになって。」

 

「山盛り過ぎるっつうの!!!なにこのガチの運動部員が食うような量!?あれか!?お前等まだ俺に対して怒り収まって無いの!?」

 

「「うん。」」

 

「即答かよ!?」

 

悪ノリをする秋ならともかく普段ならこういった行いをするような性格でないハルナでも悠の追及に対し、しれっと答える。

 

こうなった原因は昨日に遡る…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る事昨日。ラボで事の報告を聞く前に極ロックシードの代償についての説明を聞いていた。

 

 

「衰弱状態?俺がか?」

 

<簡単に言えばな。あの時キミの体をスキャンした時に人体に必要な物質。

鉄分、ナトリウム、カルシウム、水分、その他人体に必要な抗生物質の低下が確認された。早い話、キミは栄養失調と脱水症状を同時に体感したと言うわけさ。>

 

「だから変身解けた時、ものすっごくだるかった訳か…。要はアレか?このロックシードは力を使った分だけ俺から養分やら何やら吸い取るってワケか?」

 

<そういう事になる。>

 

悠は手にしてる極ロックシードを眺める。戦ってる時はほぼ我武者羅状態で細かい変化に気付かなかったが言われて思い出してみると確かに体の奥底から何か吸い取られたような感覚があったのを感じた。恐らくあの時に養分やら何やら吸い取られそのままロックシードのエネルギーとして使われたのだろう。

そしてまた新たに思い出した事が一つ…。

 

「でも最初の時は何とも感じなかったんだよなぁ…。むしろ激しく動いた時にそれを感じた様な…。」

 

<それを裏付けるモノがあるよ。コレを見てくれ。>

 

クリムの台座から空中にスクリーンが現れる。写ってたのは極アームズへと姿を変えた場面から戦闘している場面等複数の映像が流れてた。

 

<あの時の極ロックシードを使用した時の様子を詳しく映像解析してみた。

ベルトの所を良く見てみろ。>

 

「…光ってるな。しかも時間が経つごとに少しづつ。」

 

<そうだ。この映像からロックシードの力を使う度に発光現象がみられてる。つまりは…。>

 

「長期戦、あるいは力を引き出そうとすればロックシードは俺から色々吸い取っていく、と。」

 

<…せめて最後まで言わせてくれ…。>

 

クリムの言葉を流しつつ、悠は手にしてる極ロックシードを見る。

 

これは例えるなら種のようなもの。美しい花を咲かせるために必要な養分は自分の血肉。まるで…。

 

「とんだ人食い花ってワケかい、コイツは…。」

 

<言い得て妙だな。それで?それがどういったモノか分かった上で手元に置いておくのかね?>

 

「当然。使い方を気を付ければ良いだけさ。こんなんでも使える戦力はどんどん使うよ俺は。」

 

<フゥ…G4といい、一癖も二癖もある厄介なモノを良く使う気になれるな。>

 

「G4は一から組み直してもう別モンのパワードスーツさ。デメリットはあるが前より使いやすくなったよ。

…それにねクリム。これだけ戦力を整えても正直まだ足りないんだよねぇ、奴等と互角にやり合うのは。」

 

<BABELか…だが主力の一人を倒せたのなら少しばかり優位になったのでは?>

 

「全然だよ。よーく思い出して見ろよ。

情報戦で此方の手を分析して優位に立つゴルドドライブに、何でか倒しても死なないオーディン、多彩な魔法を使うソーサラーと、かなりの実力者であろうコーカサス。おまけに怪人軍団だ。」

 

<そうだったな…。まだ前途多難が山積みと言う訳か…。>

 

「そういうこった……あぁそうだ。まだ肝心の事後報告聞いてねえけど?」

 

<おっとそうだったな。

まず此方の被害状況だが、艦娘達の初実戦はこれといった被害は無かったよ。小破はあったものの深手の怪我は無しだ。>

 

「相手が知性の無いインベスだったからって言うのが一番の理由だろうね。情報漏洩は?」

 

<それも問題無い。彼女たちに備え付けられた天界式の認識障害の術式は正常に機能した。メディアやネットワークからの情報も全て隠蔽したよ。>

 

「そう……なら、ヘルヘイムの浸食については?死傷者は出て無くとも怪我人は出ただろ。今だったら多分発症の兆しが出てると思うが…。」

 

<それも既に調べがついてる。確かに怪我人は出たが私のデータベースにあるヘルヘイムの種子による感染は起こっていない。全員病院での検査入院で、誰一人以上が見られなかったと書かれてる。>

 

「…傍観者が珍しく手を回したってか……俺が寝ていた時に襲撃は?」

 

<私と秋で対応した。後、ハルナがサポートとして戦闘に参加してたよ。少しでも人手が必要だろうと言ってね。>

 

「桜井が?…そうか、使ったのか、アレ。」

 

<…浮かない顔だね。>

 

「ん…正直使って欲しく無かった。って言うのが本音かな…報告は終わり?」

 

<ああ。事件についての話す事はこれで終わりだ。キミは早く休んで体調を万全にしたまえ。>

 

「はいはい。…あ、そうだ。

極アームズの件アイツ等に言うなよ。聞かれても特に問題無かったって言っといてくれ。」

 

<…はぁ。皆の言ってた通りだな…。>

 

「なに?」

 

呆れ顔のクリムのディスプレイ。その声色にはこうなる展開が前から読めていたと思わせるものであった。

 

<残念だがキミが寝ている間にキミの体の状態を皆に伝えてしまったよ。一から十まで、全て、ね。>

 

「…皆、って?…。」

 

<秋とハルナ、艦娘達とラ・フォリア。あとお見舞いに来たゼノヴィア、という子にも伝えたね。>

 

「………。」

 

<…ま、彼等がどういう態度を見せるかは予測不能だが、受けて当然の事だと諦めたまえ。>

 

「……え~~~?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてその翌日。目の前に大量の所持を並べられてる場面へと至る訳である。

 

「だからといって…こうまでするか!?俺普段小食だって知ってるだろ!?」

 

「本当にそう?聞いた話だと悠兄さん前に鳳翔さんのお重弁当、ほぼ一人で食ったって聞いたぜ。朧ちゃん達の分除いても三人分はあるって聞いたよ。」

 

「本当は食べてないだけで実際はたくさん食べれるんでしょう?可笑しいと思ってたのよね、普通あんなに戦ってる人が小食だなんて良く考えれば矛盾してるわよ。」

 

「それは…確かに!食えなくはないけど、それは個人的な理由と言うか…。」

 

「ならこの位も食べれるでしょ?それに、せっかく作ってくれたのに残すなんてのも相手に失礼よ。」

 

「そうだけど……ちょっと待って、”作ってくれた”?これ桜井が用意したのじゃねえの?」

 

灰原家の食事は、悠か料理が少し出来ると言うハルナが普段から台所に立っている。

自分は一番遅く起きたからてっきりハルナが用意したものばかりと思ってたが本人はこれを否定。そういえばまだ一度も姿を見せてない人物が脳裏に過った…。

 

「まさか…。」

 

「そ、悠兄さんの考えてる通りの人♪」

 

「あら?まだ食べて無かったんですか?」

 

後ろから聞こえる声に振り向く悠。そこに居たのは洗った衣服が入った洗濯籠を持ったエプロン姿のラ・フォリアが姿を現わした。

 

「王女…なにやってんの?」

 

「なにって、ご覧の通りお洗濯ですよ。今日は良く晴れてますので洗濯日和かと。」

 

「いやそうじゃなくて、なんで朝飯作ったり、洗濯したりっつう家政婦みたいな事を?」

 

「仮にも居候なのでこの位はした方がよろしいかと思いまして、それにやってみると案外楽しいですよ?ついでに花嫁修業にも打って付けですし。」

 

「ヒュ~♪良かったね悠兄さん。オレがラ・フォリアちゃんを義姉さんって呼ぶの近いかも。」

 

「あらヤダ秋ったら。おだてても何も出ませんよ…それはそうとそんなにゆっくりして良いんですか?学校、遅れちゃいますよ?」

 

「そうよ、早く食べないと置いてっちゃうわよ。」

 

「……はい。」

 

最早何も言う事も無くなった悠は急いで朝食に手を付けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、いってきまーす!」

 

「お弁当ありがとうね、ラ・フォリアさん。」

 

「はい、いってらっしゃい。帰ったら感想聞かせてくださいね。」

 

「……行ってきます。」

 

玄関先で見送るラ・フォリアを背に三人は学園に向けて登校した。若干一名冴えない顔で腹を擦っているが…。

 

「うぷ……メシは美味かったけど朝からあの量はキツイって…。」

 

「でもなんだかんだで全部食べたじゃない、これを機に食事量増やしたら?」

 

「…善処はするが、流石にあの量を毎日はキツ過ぎるぞ。弁当は普通の量で助かったが。

…にしても王女のヤツ何時の間にあんな事を…。」

 

「悠兄さんが寝ている時だよ。オレ等だって驚いたぜ?帰ったらラ・フォリアちゃんが掃除機手に部屋掃除してたし。」

 

「料理の方も私や料理できる娘から教わってたそうよ。しかも覚えが早くて今じゃあんな調子。」

 

「…アイツの国の住民が知ったらそりゃエライ事になりそうだな。家事をこなす王女とか…。」

 

「でも当の本人はイキイキしてるからいいんじゃない?…で、そんなラ・フォリアちゃんの事、悠兄さんはどう思いますか?ん?」

 

握った手をマイクに見立て悠の口元に突き出す秋の手を払いのける。ラ・フォリアの突然の変化に置いてけぼりにされた悠は驚いたが、彼女の突発な行動を起こす性格を考えて最早馴れるしかないと自分に言い聞かせる。

 

そんなやりとりを続けながら三人は何時の間にか学園の校門近くまで辿り着いた。

 

「…なんか久々に来たってカンジ。」

 

「実際そうでしょ。アンタの場合は。」

 

「まぁまぁ、こうしてまた三人揃って来れる事に感謝しようよ。よくよく考えるとオレ達何時死んでも可笑しくない立場なんだしさ。」

 

「…お前本当に秋か?普段のお前の口から出ない言葉が聞こえる…。」

 

「ヒッデェ!悠兄さんが寝てる間にオレだって色々成長してんだぜ!?」

 

「秋……お調子者のアンタが知らない間に賢くなったのね。」

 

「姉ちゃんまで!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(アイツ、確かこの前の…。)

 

校門から下駄箱へ向かう道中に偉人のクローンとして生まれた那須 与一はとある三人組の中から一人の男、悠に視線を向けてた。

学園襲撃前に屋上で見せたあの威圧感。武神と言われた川神 百代すらも怖れた気が頭から離れない与一は険しい目付きで悠を見ていた。

 

「どうしたのだ与一?急に顔色を変えて…まさか!どこか具合でも悪いのか!?」

 

「そう心配する事ないよ主。どうせいつものこじらせでしょ。」

 

与一の傍に同じく偉人のクローンとして生まれたポニーテールの少女、源 義経と瓢箪を手に呑んでいる武蔵坊 弁慶が近寄る。

 

「静かにしてろ。オレは今脅威と成り得るアンノウンを見定めているんだ。」

 

「はぁ?どれどれ~?…もしかして、あそこで談笑してる三人組かい?」

 

「義経の目にはとても仲が良さそうさそうに見えるぞ!…そうか!与一もあのような友が欲しくなったのだな!!

ならば義経に任せろ!!」

 

「違えよ!オイ!声掛けに行こうとするな!!」

 

「ぷっはぁ~。今日も川神水は美味いねぇ~。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋とハルナから別れた悠は自分の教室に向かって歩いていた。

 

随分久しぶりに感じる風景に浸りながら身に纏ってる雰囲気を変える。もう一つの顔である、気怠な灰原 悠に切り替えて教室のドアを開けた。

 

HR前の教室は談笑の声で包まれているが悠が教室に入った途端少し小さくなった。何日も休んだ人間が顔出したからかもしれないがそこまで注目するモノかと内心思った。

 

そんな周りの視線を気にする事無く欠伸をしながら自分の席に着く悠。あまりにも普段通りに振る舞ってる悠に気にする事が無くなったのかまた談笑の声で騒がしくなる。

 

「えーと、確か一限は…。」

 

「ってオイ!何しれっと普通に入って何事も無く授業の準備してんだお前は!?」

 

鞄から教材を取り出そうとする悠に古城がツッコむ。その後ろでは何時ものメンバーが微妙な顔つきで悠を見てた。

 

「やぁ暁、珍しく朝から元気だねぇ。なんかあった?」

 

「あるわ!いきなり怪我で休んでたヤツが急に来て何も無かった様に振る舞ってるの見たらこうなるわ!!」

 

「何言ってんの。この通り元気になりましたって、行動で示してるんじゃないか。」

 

「…何か全然変わらなくて少しでも心配して損って気分ね…。」

 

「まぁ良いんじゃねえの?灰原も変わりなく戻って来たって事で、な、ゼノヴィア!」

 

「……。」

 

「?…どったの?そんなじーっと注視して。」

 

悠の言葉にも反応を見せず只ジッと観察するように見るゼノヴィアだったが、突如悠の眼前に近ずき、悠の顔を手で両側から掴んで自らの顔に近づけた。それはもう鼻と鼻の先がぶつかる位に。

その場に居た古城達は面を喰らったような顔をするが、そんな事を構いも無しにゼノヴィアは顔を近づける。

 

「…あの…ゼノヴィアさん?」

 

「…やっぱり痩せてるな…顔。」

 

「え?」

 

「キミの顔だよ。………やっぱりあのベルトの言う通り。」(ボソッ)

 

「…あー!顔が痩せたって?そうなんだよずっと寝たきりで点滴で過ごしてきたからさぁ。良いダイエットになったかな?」

 

そっと手を除けて周りにも聞こえるくらいの声量で語る悠。その声で唖然としてた古城達の表情が戻る。

 

「ゼノヴィア…アンタ本当に大胆ね。」

 

「そうか?少なくともこれ位の事ならすぐ気付くと思うが?」

 

「いやいや、そんな事に気付いてあんな行動起こすのゼノヴィア位だぜ…浅葱もそれくらいしなきゃあなぁ~?」

 

「な、なんでそこで私なのよ!?」

 

「?浅葱、お前なにそんな慌ててんだよ?」

 

「うっさい!このバカ古城!!」

 

「…なーんか普段と変わりないみたいだね。」

 

「いやそうでも無いぞ。昨日このクラスに転校生が来たんだ。」

 

「こんな時期に?そりゃまた余程の事情をお持ちってヤツ?」

 

「それは流石に分からないが…本人に聞いたらどうだ?ちょうどキミの後ろに居るぞ。」

 

「へ?」

 

ゼノヴィアに言われて後ろに振り返る。

そこに立ってたのは腕組みをして此方を睨み付けているポニーテールが特徴の長身の女性だった。

 

「お久しぶりね。余程の事情?えぇそうよ。色々有り過ぎて此処に来た次第よ。」

 

「なんだ。知り合いだったのか…悠?」

 

「えーっと……確か王女の護衛やってた、あの…………あ!ヒラサカ!」

 

「煌坂よ!煌坂 紗矢華!!何アンタ、私の事忘れてたの!?」

 

「そうは言うけど、実際おたくと俺、そこまで仲良くないから忘れてもしょうがなくない?」

 

「…確かにアンタとはたった二度程くらいしか顔合わせてないけど…!」

 

ワナワナと震える彼女、紗矢華を前に悠は表情とは裏腹に内心勘ぐっていた。紗矢華は雪菜と同じ組織に属してる人間。今余程の事情で此方に来たと言った。しかも一つでは無く複数あると見て。

そんな悠の心境に気付かないまま紗矢華は話を進めて来た。

 

「まぁその話はもういいわ。それよりもアンタ、昼休み空いてたらちょっと付き合って欲しんだけど。」

 

「う~ん。昼休みは昼飯を食う予定が…。」

 

「様は空いてるって事でしょ。場所は…屋上で良いわね。」

 

「ちょっとちょっと。誘う相手間違えてんじゃないの?ねぇ暁?」

 

「な、何でそこでオレに振るんだよ。」

 

「ハァ……アンタも色々苦労してるね。」

 

「ちょッ!?だ、誰がそんな変態相手に苦労なんて…!とにかく!絶対来なさいよ!!」

 

そう言って紗矢華は自分の席に戻って行った。悠は面倒臭そうに息を吐くなか古城が話し掛ける。

 

「灰原、お前煌坂と何かあったのか?」

 

「いんや、少なくとも恨まれる覚えは全くないね。逆の方でも。」

 

「でも彼女明らかにキミに対して良くない感情を持っているようだぞ。そんな相手と二人きりで大丈夫なのか?」

 

「…まぁ、その時はその時ってカンジにやるさ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして昼休み。

 

悠は紗矢華の誘い通り一人屋上へ足を運んだ。

 

少し肌寒い風が吹くなかその場に居たのは悠一人だけ、当の紗矢華の姿は何処にも無かった。

 

「…あれ?もしかして…嵌められた?」

 

風が空しく吹く音がより一層空しい気分にさせられる。何かと思って来てみればまさかのイタズラというオチは流石に無いんじゃないかと思ったが、無いならないで戻って弁当でも食べようとした時だった。

 

「──あぁハイハイ。そういうカンジ、ねッ!」

 

一瞬の空気を読み取りその場から素早く跳ぶ悠。

 

そして先程まで立っていた場所に、白刃がコンクリートの床に切れ込みを入れていた。

 

振り降ろした剣を構える人物、紗矢華に肩をすくめる。

 

「後ろから驚かすにしてもそれはやり過ぎじゃないかなぁ。」

 

「心配せずともこれは峰打ちよ。」

 

「いや嘘でしょ。足元ご覧よ、頭ミンチにする気だったでしょ。」

 

「別に避けたから良いじゃないの。それにアンタならあの程度の奇襲でやられるとか最初から思ってなかったわ。」

 

「それはどうも。で?飯食う時間割いて後ろからドッキリ仕掛けた理由はワケは?」

 

武器を構えた少女を前に余裕の態度で理由を聞いて来る悠。凶器を突きつけられてるこの状況で、尚且つ突然の奇襲を後に朝と変わりない態度に顔をしかめるが本来の目的を思い出して堪える。

 

「…そうね、回りくどい言い方もアレだから単刀直入に言うわ……アンタ、ラ・フォリア王女をどこにやったの!?」

 

「…あぁ。成程そういう事ね。」

 

突きつける切っ先と共に言葉を投げ出す紗矢華を前に悠は一人納得したような様子であった。

 

「おたくも大変だねえ、家出娘の捜索に態々ここまで来るなんてさぁ。」

 

「家出?…何の事よ!?」

 

「は…?」

 

一変して呆然とした顔になる悠。呆然とする悠に対し痺れを切らしたのか決心した目付きになる。

 

「もういいわ。こうなったら手っ取り早く力づくで聞き出すしかないようね。」

 

「ちょ、タンマタンマ!え、なに、もしかして詳しい話聞いてないとかそういうの!?て言うか俺一般人!」

 

「問題無いわ、これはれっきとした私の仕事よ!!」

 

悠の言葉など一切耳にせず手にしている剣、煌華麟を手に悠へ肉薄して振り降ろす。

流石に悠を斬るつもりなどなく寸での所で止めて臆した所で眼前に切っ先を突きつけて聞き出す…つもりだった。

 

 

 

ーギィィィインッ!!!ー

 

 

「なッ!?」

 

「──フゥ。」

 

紗矢華の振り降ろした剣は、何時の間にか悠が手にして細身の両刃剣によって止められた。しかも鞘からまだ抜けきって無い状態で。

 

「アンタ、その剣一体何処から取り出したのよ!?」

 

「タネも仕掛けもあるただの手品だよ……さてどうするかねぇ。こっちは身の危険感じて思わず抜いちゃったし…とりあえずッ!」

 

悠は受け止めてた煌華麟を弾いて間を空ける。片手に抜身の剣をだらんと脱力した状態で切っ先を向けて。

 

「ちょっと聞かせて貰えないかなぁ?アンタが此処に来た理由、諸々と。」

 

「…そう、少し痛い目を見て貰わなきゃいけないって事ね……後悔しないでよッ!」

 

肉薄して向かって来る煌華麟の刃を受け止める。その際に紗矢華の右側から左足の蹴りを見舞わすが剣から手を放した右腕でガードされ不発。剣を弾き、今度は悠から斬り掛かりに行く。

 

小振りを効かせた剣戟を前に紗矢華は煌華麟を前に防戦。反撃する与えない悠の剣に翻弄されるなか、悠は一瞬の隙を突いて足払いをかける。

 

「ッ!──」

 

体勢を崩してしまい転んでしまう紗矢華。紗矢華を前に切っ先を突きつける。勝負は終わったと言う無言の言葉を表して。

 

だが紗矢華はそれを受け入れなかった。腰を地につけた状態から今度は悠に足払いをかけるも軽く跳んで躱される。だがそこから威力を高めた煌華麟を振るって宙に浮いた状態の悠に斬り掛かり、剣で受け止めるも足が着いてない空中ででは踏ん張りがきかずに吹き飛ばされてしまう。

 

そのまま屋上のフェンスまで飛ばされる悠。衝突した際にフェンスがへこむが当の悠には大したダメージでは無かった。

起き上がって再度煌華麟を構える紗矢華はダメージを受けた様子を見せず首を鳴らす悠に言葉を掛ける。

 

「…アンタ、一体何者?」

 

「ん?何者って…ただの高校生ですけど?」

 

「ただの高校生が手加減してるとは言え舞威姫と互角に闘り合える訳がないわよ。…さっきの太刀筋もとても素人が振えるものではないわ。」

 

「そう?アンタが思ってるよりその、マイヒメ?ってのが大した事無いんじゃねえの?…おっと、失礼。」

 

「アンタってホント一々癇に障るわね…!」

 

「生憎、生まれ付きでね。で、話もう終わり?」

 

「えぇ。どうやらアンタには手加減は必要ないらしいから…本気で行かせて貰うわ!」

 

紗矢華の纏う雰囲気が鋭いナイフの様に研ぎ澄まされる。それを前に悠も剣を持った手を弓なりに引いて突きの体制に入る。

 

先に動いたのは紗矢華。呪力で強化した足で矢の様に向かって駆ける。少し後に悠も瞬発力を活かして紗矢華目掛けて特攻する。

 

振り降ろされる煌華麟と突き出される細剣が合わさろうとした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーギィィィィンッ!!!ー

 

 

 

 

 

「──そこまでですよお二人共。」

 

「ゆ、雪菜!?」

 

「──もうその辺にしておけ。折角治ったその体をまた傷付けるつもりか?」

 

「…あらあら。」

 

紗矢華の煌華麟は間には言って来た雪菜の雪霞狼に阻まれ、悠の剣は同じ間に入って来たゼノヴィアのデュランダルのよって阻まれた。

 

突然の介入を前に戦闘態勢を解く悠と紗矢華。二人の戦う意志が無くなったのを見計らい雪菜が口を開く。

 

「紗矢華さん。これはどういう事ですか?なんで灰原先輩と紗矢華さんが戦ってるんです?」

 

「ち、違うのよ雪菜!これにはその深い訳が…!」

 

「この人がいきなり襲い掛かってきましたー。そんで俺は身を守る為に仕方なく剣を出しましたー。」

 

「な!あ、アンタねえ!アンタだってやる気満々だったでしょうが!!」

 

「あれー?そうだったっけ?最近物忘れが激しくて…。」

 

「ちょっと!人の話無視すんじゃ…!」

 

「紗矢華さん?…」

 

「待って!お願い雪菜!話を聞いてぇぇぇぇッ!!!」

 

「…にしてもお前は兎も角何で姫柊さんも此処に?彼女中等部でしょ。」

 

「あぁそれはだな…。」

 

「オレが呼んだんだよ。」

 

そこへ悠の疑問に答えるべく姿を現わしたのが、屋上の入り口から現れた古城だった。

 

「暁 古城!?何でアンタまで!?」

 

「お前が灰原を見る目が前に俺と会ったばかりの目と同じだったのが気になってな…。もしかしてと思って姫柊に声を掛けたんだよ。」

 

「私はただ単純に気になったから此処に来た。」

 

「ふぅん、暁にも突然斬りかかって来たんだ、アンタ…。」

 

「それは最初コイツが女を何人も侍らせてる変態だと思っていたからよ!!…じゃなくて!アンタが素直に王女の居場所言わないからこういう事になったんじゃない!!」

 

「王女?…もしかして、ラ・フォリア王女の事ですか?」

 

「そうよ。アルティギアから直接指令が下ったのよ、失踪してる王女を保護しろって。

王女の行方を調べてくなかでソイツが一番接触してる可能性があるから聞き出そうとした訳。」

 

「なら普通に聞けばいいだろ、襲い掛かって脅すようなマネなんざしなくともよ。」

 

「ソイツが普通の奴だったらね。ついでに調べたのよソイツの事。

そしたらこの学校に来るまでの詳しい経歴が無くて怪しいと感じたからああいう手を使ったのよ。」

 

「経歴が無いって、紗矢華さんそれどういう…。」

 

「ハイハイ。俺がどうこうのより、王女の行方?えぇ知ってますよバリバリ。」

 

話しを変えるかのように手を叩いて話題を切り替えた悠に全員の視線が集中する。

 

「やっぱり…それで王女は今何処に居るの?変な事してないでしょうね?」

 

「それは……本人に聞いてみたら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ちょっとアンタ、本当に王女に会わせるんでしょうね?」

 

「ここまで来て嘘吐く理由が有る訳無いでしょ。少しは暁以外の男を信用したら?」

 

「ふん、どうだか…って、なんで暁 古城が出てくんのよ!?」

 

「…煌坂のヤツ、灰原に遊ばれてるなぁ…。」

 

「紗矢華さんが苦手そうな人ですからね、灰原先輩って…。」

 

「アレを見ればなぁ…それはそうと灰原のヤツ、なんで煌坂をからかうのにオレを所々出して来るんだ?」

 

「先輩…。」

 

呆れ顔の雪菜は古城を睨んだ直後悠に弄られてる紗矢華を見る。

 

あの昼休みの騒動は、ラ・フォリアに会わせると言う半ば強引な流れで終わった。

そして授業が終わり放課後となった今屋上のメンバーで灰原家へと向かっている最中であったが…。

 

「…ねぇ。今更聞くのもなんだけど言って良い?」

 

「何だよ?」

 

「これからアイツに会わせるのにポニテを除いて暁達も行くのには何の問題も無いよ。でも……何でキミ達が居るの?」

 

悠が順番に相手の顔を確認するように見て行く。紗矢華、古城、雪菜、ゼノヴィア、そしてあの場に居なかった浅葱と矢瀬だった。

 

「んだよつれねえなぁ、オレ等だけ除け者扱いは流石に泣くぜ?」

 

「実際に今回の事と関係無いから除け者扱いと言う事になるんだが…。」

 

「ならこれ期に関係者になればいいだけのハナシよ。それともなに?アンタ達私達に言えないような悪巧みでもこれからしようってワケ?」

 

「…それは無いけど…う~ん…。」

 

「まぁいいじゃないか。二人共信用出来る人間だし…何かあったらフォロー入れるさ。」(ボソッ)

 

二人をこのまま連れてくべきか否かで悩む悠にゼノヴィアが肩に手を置いて周りに聞こえないくらいの声量で呟く。

ラ・フォリアに会わせる場合何より気を付けるべきはそこから悠が仮面ライダーである事を知られないようにする事。万が一を考えラ・フォリアにももしこのような場合になった際に前もって言ってある為彼女の口から洩れる事は無いが、なるべく危機に陥る状況を作るのは避けたい。

 

ゼノヴィアもフォローを入れると言うが物事に絶対は無い為頭を捻る悠であった。

 

「──あら悠さんじゃないですか。学校の御帰りですか?」

 

そんな悠の後ろから何処かで聞いたような声がするので振り返る。

 

そこには買い物帰りか食材で一杯になった買い物籠を持った長身で眼鏡を掛けた外国人と同じく買い物籠を持ったウェーブの掛かった金髪の外国人だった。

 

「あら珍しいですね。ご学友と一緒に帰宅とは、明日は砲弾でも降るんですかね。」

 

「それなんだけど、ちょーっと訳ありでこいつ等を家に上げるんだけどさ、王女は家?」

 

「えぇ。ラ・フォリアさんなら姉さんと今晩の食事の準備してますよ。前から教わる約束してたようで、私達はその材料を買いに。」

 

「そう……めっちゃ作ってる、とか無いよね?」

 

「さぁどうでしょう。姉さん今日の為に張り切っているようでしたから…。」

 

「…ちょ、灰原、オレ達の事放って置いて話してるようだけど、この二人って…。」

 

「あぁ、親戚です。」

 

「ローマです。ご覧の通りイタリア人ですが日本語を話せますのでご心配なく。」

 

「ザラです。Piacere!(初めまして。)」

 

「…なぁ灰原。お前の親戚事情に深く関わるつもりは無いんだが、お前の親戚ってどんだけ居るんだよ!」

 

「そりゃまぁ……幅広く?」

 

「なによその曖昧な答え、アンタ自分の身内も覚えらんないの?」

 

「居すぎて全員把握しきれないんだよ、まぁその辺の詳しい話は二人に聞いて。」

 

「二人…?」

 

悠の言葉に何処か引っ掛かるワードがあったのかローマは突然辺りを見渡す。そしてすぐその異変に気付いた。

 

「ねぇザラ。リベッチオは?」

 

「え?…アレ?居ない…?」

 

「?、どうした?」

 

「いえ、その…リベッチオも一緒だったんですけど、居なくなっちゃって…。」

 

「あの子好奇心旺盛だから、目を離した隙にどっか行っちゃたわね。」

 

「迷子かよ…しょうがねえなぁ。

あー、悪いんだけど先家に行ってくれる?俺ちょっと迷子探しして来るから。」

 

「それだったらオレも手伝うよ。人数多い方が見つけやすいだろ。」

 

「私も手伝いますよ。灰原先輩、その迷子になった子の特徴教えて貰えます?」

 

「あぁ。肌が小麦色で、肩無しのワンピースに、長いツインテール…。結構目立つから見つけやすいと思うけど。」

 

「……ねぇ。アンタの言ってる、リベッチオって子、もしかして、アレ?」

 

「え、もう見つけた?何処よ…………scherzo(マジかよ。)」

 

紗矢華が指差す方へ目をやると思わずイタリア語が出てしまう。悠の視線の先には確かにリベッチオが居たが、そのリベッチオと共にいる人物達に対してだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ローマ~~!ザラ~~!どこ~~~!?」

 

「大丈夫だよ!お姉ちゃん達がすぐ見つけるから!ね?」

 

「だから泣き止んでほしい、です。」

 

泣きじゃくるリベッチオの傍で慰めてるのは凪沙と夏音だった。

 

思わぬ偶然に頬がひくつく悠であった。

 

(こんな偶然…あり?)

 

「リべ!」

 

「あ!ザラ~!!!」

 

此方に気付いたリベッチオがザラの元に駆け寄り抱き着く。そして当然の如く傍に居た悠達に気付いた凪沙達は少し驚いた表情をした後悠達の元に駆け寄ってきた。

 

「ゆーくん!?それに古城くん達もどうしてここに居るの!?」

 

「あー、その…ウチの親戚が迷子になってたのを探してたら丁度凪沙ちゃん達が見つけてた所に遭遇したってカンジ?…ほらリべ、ちゃんとお礼言っとけ。」

 

「そうよ、迷惑掛けたんだからお礼言わなきゃダメよ?」

 

「ぐす…うん。お姉ちゃん達、Grazie (ありがとう)。」

 

「はい、良かったですね。お姉さん達見つかって。」

 

「うんうん…それはそうと、古城くん達は?みんな揃って何処か行くの?」

 

「あぁ。これから灰原の家にちょっと…。」

 

「そうなの!?…ねぇ、それなら凪沙達も一緒に行って良い?」

 

「え?…。」

 

「あらそれはイイですね。リベッチオのお礼もしたいし。ね、ローマ。」

 

「そうね。迷惑掛けた分、此方もお礼をしとかないと気が済まないわ。」

 

「あの、ちょっと…。」

 

「…お兄さん。ダメ、ですか?」

 

「………うん。良いよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なぁ浅葱。何かオレ達、本当に除け者扱いされてね?」

 

「…言わないでよ、バカ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして凪沙と夏音を含めた計7人を連れて灰原家へ招き入れた悠であったが、またしても絶句する光景が。

そしてそれは悠だけでは無く想定外の光景に目を奪われるのもいれば、悠と同じく絶句して言葉を失う程のものである。

 

 

 

 

 

「フッ!ハッ!」

 

「イイですよラ・フォリアさん!その調子!そのまま集中を切らさないで!」

 

「ハイ!」

 

 

 

「…ねぇ、王女は今何やってのよ、アレは…。」

 

「…何って……ピザ回し?」

 

 

「ハァッ!」

 

 

威勢の良い掛け声を上げながらラ・フォリアはローマの姉でるリットリオの指導の下、ピザ生地を自身の頭の上で器用に回してた。それはもう職人並の技量であった。

 

「ホッ!──あら、お帰りな──まぁ!紗矢華に古城に雪菜も、夏音までどうし、あ。」

 

此方に気付いた際に回してたピザ生地が誤って飛んでしまい、床に着い──。

 

「──ハァアッ!!」

 

──て、しまう前にリットリオが驚異の反射神経でピザ生地を指で摘まんで上にあげそのまま指先で器用に回しながら用意してたさらに載せた。

 

「──と、このように集中を切らすとあらぬ方向に飛んでしまいますので、くれぐれも気を付けてくださいね?」

 

「ハイッ!」

 

「流石姉さん。見事な生地捌きだわ。」

 

 

 

 

 

 

 

「…とまぁ、こんなカンジに過ごしてますけど?」

 

「…頭が痛いわ。」

 

 

この時の悠は、頭を抑える紗矢華を見てコイツも苦労人何だと内心少し同情したとか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あの、ラ・フォリア王女。聞き間違いでは…。」

 

「ですから、私はお父様の決めたお見合いに納得がいかなくて跳び出してったんです。彼の言う通り、所轄家出ですよ。」

 

リビングの一角で事の事情を対面のソファーに座ってるラ・フォリアから知らされた紗矢華は余りの真実に愕然とする。上からは消息不明のラ・フォリアを保護しろとだけ言われたが詳しい詳細は聞かされておらず、あったとしてもアルティギアを狙ったテロの一つだと思ってた反面、それがただの家族喧嘩による家出だと知った衝撃に面を喰っていた。

 

そんな紗矢華を背に一人、いや、両サイドに凪沙と夏音を挟んだ状態で窓辺に腰を掛けた悠は今絶賛質問責めにあってた。

 

「じゃあこういう事?あの夏音ちゃんそっくりの人は、夏音ちゃんの血の繋がった腹違いの家族?」

 

「まぁね、昼ドラみたいな関係だけど一応丸く収まってるみたい。」

 

「私も最初は驚いたでした。」

 

「へぇ~…で・も!、それよりも気になるのがどうしてその人とゆーくんが一緒に暮らしてるの!?しかもかなり前からみんなに黙って!!」

 

「…色々訳があって一から話すと長くなるが…まずこれだけ。

一つ、確かに今向こうの個人的な理由で一緒に暮らしてるが二人きりじゃないし、ご覧の通り親戚に頼んで男女間の問題は回避してる。

二つ、コレが一番肝だが、一国の王女がこんなありきたりな一軒家に居るとなると色々目を付けられる。…悪いヤツ等とかにね。」

 

「ッ!」

 

「…出来る限りの手を打ってるがいずれも完璧じゃないんだ。だからこの事は此処に居る全員の秘密にして欲しい。」

 

「…うん。ゴメンゆーくん。凪沙そういうの全然頭に浮かばなかった…。」

 

「構わないよ。というか、こういうのはお転婆な凪沙ちゃんには考えろと言っても無理そうな一件だし。」

 

「ヒドイ!!それ凪沙の事バカにしてるって事じゃん!!」

 

「じゃあこれを機に一つ賢くなった、って事で。

…?、どうした叶瀬?」

 

凪沙との話が弾むなか隣の夏音の表情が浮かないことに気付いて声を掛ける。顔を上げた夏音は不安げな声で悠に問い掛けた。

 

「…お兄さんは、お姉さんの頼みで私に近づいたんですか?」

 

「…あぁ、そうだな、叶瀬には謝らなきゃいけないんだったな。

確かにアイツに頼まれて、お前を気に欠ける様に言われたのは事実だ。でも、あの廃教会でお前に助けられたのは

本当の偶然だよ。それにこれだけ言わせて貰うが…。」

 

「?」

 

「お前は自分が王女との繋がりがあって俺があの廃教会で一緒に猫を世話したり、とんだトラブルから助けたんだろうおもってるようだが、当の俺はそういったのは関係無しに叶瀬と会ってやっていたよ。」

 

「お兄さん…。」

 

「…まぁぶっちゃけあの時もう会う事は無いだろうと思ってたけど、流石に恩返さないままハイお終い、っていうのがね。」

 

「い、いえ!私の方こそお兄さんに色々助けて貰ってるのに…。」

 

「まぁ気にしない気にしない。でも言わせて貰うと、キミは少し遠慮し過ぎなんだよ。性格もあるんだろけど、もう少し我儘言う位バチ当たらないんじゃない?」

 

「そうだよ!夏音ちゃんは優しいけど、時に自分のやりたい事思い切ってドーンと言っちゃってもいいんだよ?」

 

「…それなら、一つお兄さんにお願いが。」

 

「いいよいいよ。今まで黙ってたお詫びにドーン、と来なさいよ。」

 

「…私の事、夏音、って呼んで欲しいです。」

 

「ふぇ?」

 

「…え?それだけ?」

 

「はい。凪沙ちゃんだけ名前で呼ばれてて、ズルいって思う所があったです。…ダメ、ですか?」

 

「…分かったよ、夏音。」

 

「──ハイ!」

 

「むぅ~…。」

 

先程とは違い明るい笑顔を振り撒く夏音に少しムッとした表情を浮かべる凪沙は悠との間を詰めて体を密着した。これに夏音も負けじと悠との距離を詰め密着した。

 

そんな光景を後ろから見ていたゼノヴィアとラ・フォリアは見ていた。

 

「アラアラ、夏音も随分積極的になりましたね。」

 

「随分余裕だな。それも一緒に住んでいる者の特権か?」

 

「いいえ、単純に負ける気が無いだけです。」

 

「奇遇だな。私もだよ。」

 

そんな二人の後ろで頭を抑える紗矢華を除き、古城が割り込んで行こうとしたのを三人掛かりで抑えていたの簡略する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日・学園校庭~

 

 

「ふぁあ~~~。ったくなんだよ、急な朝礼って、コッチは眠いってのに…。」

 

「全くだ、これでロクでも無い長話だったら立って寝てやる。」

 

「お前等相変わらずの寝坊助だなぁ…それはそうと、昨日は晩飯ご馳走さん!いやぁ美味かったなぁ、本場の人間が作るイタ飯は!また作る際は呼んでくれよ!」

 

「メシ代払ってくれるならね、特にそこの金髪さんは。」

 

「だって美味しかったんだもの。ピザと言いパスタと言い、他の料理だって、ついつい食べ過ぎちゃってもしょうがないじゃない。」

 

「だからって秋と同じ位バカ喰いしますかねぇ、キミ達遠慮ってモノ知りなさいよ。」

 

「まぁまぁ、昨日はお前の全快記念と言う事で、大目に見てくれたっていいじゃねえか。凪沙ちゃん達も楽しんでたしよ。」

 

「昨日心配して損したとか言って無かったっけ?」

 

校庭のど真ん中で悠達を含めた高等部全生徒が集まっていた。

 

前のサボりの一件もあるので朝礼の連絡を受けた際、ロスヴァイゼから那月を通じて注意深く言われたために悠は今にでも抜け出してサボる気満々だが仕方なく校庭に居る。

 

そしてそんな悠を横目に紗矢華は昨日の雪菜との会話を思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──え?アイツの事について?」

 

「はい。紗矢華さん言ってましたよね、灰原先輩について調べたって。」

 

昨夜夕食時に様子を窺ってリビングから廊下に紗矢華を連れだした雪菜。

 

誰にも気づかれず連れ出した訳は屋上で聞いた悠の素性について、それを聞くべく雪菜は行動を起こしたのだった。

 

「どうして雪菜がアイツの事について知りたがるのよ?」

 

「それは………これは私の勝手な憶測なんですけど、もしかしたら灰原先輩が……噂の仮面ライダーじゃないかって思うんです。」

 

「えぇ!?あ、アイツが!?まさかそんな…。」

 

「私も何を考えてるんだって自覚はあります。…でも、もし本当にそうだったならピタリと当て嵌まるんです。今まで謎めいてた灰原先輩の正体が。」

 

「…確かにあの男については簡単な身元調査で調べたわ。でも分かったのは、これといった情報が”無い”のが分かったのよ。」

 

「どういう事です?」

 

「この街の役所や学園にある資料なんかをあさって分かったのはプロフィールと生まれた場所。それ以外は一切無し。その生まれた土地も調べたけど…そこは既に廃墟となった街だったわ。しかもかなり前から。」

 

「一切の情報が無い…そう言えば先輩は、師匠から生き残る術を教わったと聞いてますけどその事については?」

 

「全然。でも今日剣を交えて分かった事があるわ。あれは並の鍛錬で得た剣術じゃない。荒削りが見られたけど実戦向けの剣だったわ。…おまけに持ってあの剣も、霊力も魔力も感じないのに煌華麟と打ち合って刃毀れの一つも無かった。ただの鉄の剣で、おまけにあんな細い刀身でなんて普通なら有り得ない。」

 

「私もその剣を見ました。先輩は師匠から貰ったと言ってます。」

 

「その師匠っていうのがカギか、それともその師匠自体も嘘か…。ねぇ雪菜。私表向きは王女の保護を命じられたけど上から…獅子欧機関からはこの街に滞在する際にある指令が下ったの。」

 

「機関から?…まさか…!」

 

「えぇ。出来るなら仮面ライダーの捕獲、それか…抹殺よ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(──もしコイツがそうだとしたら…。)

 

「…ん?何だよ、今日はまだ何も言って無いだろう?」

 

「…別に、暁 古城と同レベルでだらしないって思ってただけよ。それよりも前見なさいよ。」

 

「ヘイヘイ。小言の多い女だこって、彼氏にする奴は大変そうだ。ねぇ、暁。」

 

「え?あーーー、まぁ煌坂はそういうヤツだから。」

 

「そこ!誰が小言が多いですって!?それに暁 古城も私をそういう風に見てたの!?」

 

「前向けよポニテ。注目、浴びてんぞ。」

 

「ッ~~~~!アンタねぇ…!」

 

 

仮面ライダー関係無く斬ってやろうかと思うなか、壇上では学園長である川神 鉄心がマイクを前に語り出した。

 

 

 

 

 

 

 

【諸君!近頃最近は怪物による物騒な事件や、仮面ライダーと言う荒れくれ共の抗争で、不安がってる所為とも多数いると見受けられる!!】

 

(──率直な意見、どーも。)

 

【じゃが!こういう時こそ皆が一団となって団結し、共にあらゆる困難に立ち向かう”絆”が今必要不可欠と儂は見る!!よって──】

 

ダンッ!っと手にした杖を壇上に思い切り叩く音が校庭内に響く、それにより全員の気が引き締まる。

 

【此度!九鬼企業、三大勢力の全面協力を持って、二人一組のタッグマッチ!”若獅子トーナメント”の開催を、此処に宣言するッッ!!!】

 

鉄心の言葉に校庭内がざわめきだす。

 

【詳しい大会ルールは後日宣言するが、今回の大会は二人一組。つまり、お互い背中を預けられるペアを組みその者共に試合を行う!!

エントリーは今から一週間後!!諸君らの切磋琢磨、質実剛健な姿を見れる事を期待する、以上!!!】

 

 

 

 

 

 

(大会、ねぇ……いや待てよ……これ、使えるかも…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その日の夕方・街道にて~

 

 

 

「う~~~ん、今日はこの辺にしましょうか。」

 

街の一角に佇む花屋、ブラックフラワーという名の花屋ではある意味有名な店員が居る。

 

大柄の逞しい体つきと顔とは反面、女性らしい口調と物腰を持つ、所轄オカマの店員が一人で切り盛りしてる店だが、以外にも街の住人には好評の人柄の良さで評判の良い店となっていた。

 

そしてオカマの店員は時間を見計らい店を閉じようとした時、背後の入り口から人影が入って来るのに気付き、接客対応を取る。

 

「いらっしゃいま…なんだ、アナタか。」

 

「どうも。お店の方は順調ですか?」

 

「えぇお陰様で、アナタの店よりかは、楽しい所よ。」

 

「それはそれは。」

 

入って来たスーツ姿にハットを被った紳士風の男とは面識がある様に見えるなか、店員は素っ気ない態度で訪れた理由を聞く。

 

「それで?前にも言ったけど、本格的に動くまでお店の方に集中するって言ったわよね?」

 

「えぇ存じてます。今日来たのは…手向け花をお願いしたく。」

 

「手向け?」

 

「…この前、離れた所で怪人の騒動があったのはご存知ですよね?」

 

「当然よ。あんなに騒がれちゃあ…まさか…。」

 

「………キングが、先に逝きました。」

 

「……そう…あの子、ヤンチャ坊だったけど、嫌いじゃ無かったわ。」

 

「私もです。結局、店のツケを払わずにそのままになってしまいました。」

 

「…分かったわ今用意してあげるから少し待ってなさい。」

 

「お願いします。…後、お耳に入れておくことが一つ。」

 

「なにかしら?あの子が居なくなった穴埋めをしてくれって言うんじゃないでしょうね?」

 

「場合によっては。キングは、仮面ライダー君に倒されて死にましたが、些か腑に落ちなことが幾つかありましてね。

私とドクターはそれを調べるので、アナタには近い内、予定より早く動いてもらいたいのです──。」

 

 

ハットを脱ぐ男、大臣は背中を見せる店員に目をやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その時はお願いできますか?ラヴァー。…いや。仮面ライダー、コーカサス。」

 

 

此方を見据える刃の様な眼差しと共に、手にしてる青いバラがその実態を明かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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