まだドライブサーガ見て無い(悲)
だってどこのレンタル店にも無いもの…。
ーチッ…チッ…チッ…ー
時計の針の進む音が聞こえる。
僅かな音である筈の時計の音が聞こえるだけの空間。悠の自室では思いつめた表情の部屋の主がただ、じっ、とベットに腰掛けた状態で時間が過ぎる時間を過ごしていた。
「………。」
顎に手を添える仕草はあの彫刻像を連想させるポーズの通り、悠はある深刻な問題をどう対処すべく知恵を振り絞らせていた。
(…どうすればいい?……。)
意味の無い自問自答をかれこれ朝目覚めて…いや、ベットに入っていざ寝ようにも先程から悠を唸らせてる大きな問題が気になって実の所一睡もせずこの状態。その証拠に今の格好は寝巻のジャージ姿だ。
ここまで深刻に至らしめてる発端は、昨日に遡る…。
「………デート?」
「そう!男女が揃ってお出かけするあのデートだよ!」
川内から告げられたとある名案。それは悠にとっては余りにも予想を超えるものであった為かとびきりの笑顔を振り撒く川内とは対象に絶句していた。
「お…おいおい待てよ、今言った奴等から本音聞き出すのに良い考えがデート?そんな…。」
「でもこれしか無くない?何の不自然も無くどう好きか聞き出すのって。…それとも何の策も無しにストレートに聞き出す?」
「そんな事は………無い…………のか?」
かなりの間を空けて考えたが、悠の脳内には川内が持ち出した案が最適だと思う様になってた。
「深く考え過ぎなんだよ悠は、もう少し柔らかくなったら?」
「今更無理な考えだな、この仕事に就いてる限り…あぁ所で、もしデートの案を使うとしてどう誘え…・「ストップ!」・…なに?」
「私はただ一つの案を出しただけ。採用するかどうか、したとしてどういうプランを立てるかは悠次第。」
「…ちょ……待て待て待て、つまり…こう言いたいのか?
その案を起用したとして、俺は六人全員にデートのお誘いして、プラン立てて、そして最後に……本音を聞き出す?」
「そ。
でも六人じゃなくて七人だよ。当然私もね♪」
「お前も!?ちょっと待てよ、案を出したのは…!」
「当然でしょ、私もその中に入ってるんだから。ちなみに訳を知ってるからって半端なのは許さないからね。ちゃんと他の子にしてくれたのと同じくらいの緊張感を持ってくれなきゃ一切口きかないから。」
提案してからイタズラな笑みが消えない川内。今の彼女は何処かこのやり取りを楽しんでる様に見えた。
「…お前もしかしてさっきので怒ってる?」
「さっきのって?」
「そりゃ俺が…いややっぱいい。」
「そう、なら私はそろそろ行くね。この後青葉と打ち合わせあるから。」
「…なぁ!」
そう言って近くに立っている高さ五メートルはありそうな木の枝に助走も付けず飛び乗る川内を悠は下から呼び止める形である質問をする。
「なに?デートの件で聞いて良いのは行っちゃいけないお店ぐらいだよ?ちなみに私はオシャレすぎる店は遠慮したいなぁ。気軽に行けるトコがイイ。」
「…何度もこう言うのに聞き飽きてる所悪いんだが、コレを最後に……知っているお前だから聞きたいんだが……俺って、こんな事していい人間かな?………そう…
この仕事始めたきっかけが……ただの個人的な復讐で人殺しした俺なんかがさ…。」
「……。」
その言葉が発した所でおちゃらけてた川内の顔が瞬時に真顔になった。
「……それは分からないなぁ。悠の昔は知ってるとしてもその時の悠の気持ちまでは分からなかったし…。」
「…そう、だよな…悪い…。」
「ううん…でも、私は最後の最後には悠には笑って欲しいって思うよ。
だって、何時も無愛想な顔かそういう暗い顔しかしないもん。」
「……。」
「…じゃあ、私行くね。どんなデートか楽しみにしてるから!」
そう言って生えてる木々の枝を跳び移りながら川内は去って行った。
残されたのは呆然と立ち尽くす悠と、風で乾いた音を立てながら散る枯葉の音だけであった…。
「──てなわけで、今絶賛迷走中なんだ。」
<……事の事情は分かったが、それを何故私に言うのかね?>
考える場所を部屋からネクストライドロンの車内へと変わり、所々を省いた事の事情をクリムに話したが、当のクリムは困った顔をしてた。
「ここ最近、誰かに打ち解けるのがちょっと身に付いてしまってね。…弱くなったな、俺…。」
<いやそうではなくてだね。私ベルトだよ?ただのAIデータに恋愛事の相談は多少どころかかなり無理があるぞ?>
「今はベルトの手も借りたいのさ…。で、俺は先ず何をすればいいと思う?」
<フム……今の君を見ていると持ち合わせてた余裕が無くなっている気がするよ。
少し息抜きでもしてみたらどうかね?>
「息抜きって、こんな時にかよ?」
<こんな時だからこそ今の君には必要なモノだよ。
戦いはともあれ、人間の心情に深く関わるのならまずは君のその心を整理すべきだ。
丁度G4の改良を終えたとこだし、休むのにいい機会だと思うよ。>
「…何事も万全の準備、ね…。
…なら少し、外をふらついて来るよ。幸いまだ休校中だし。」
<そうしたまえ。皆からは私が伝えておくよ。>
「助かる…。唯一相棒には恵まれてるよ、ホント…。」
<…相棒、か…。>
車内から出ようとしたとこでクリムの様子が変わった事に気付く。
「なんだよ。急にしんみりしちゃって。」
<…いや、この前、消沈してたハルナに一喝入れたら父親みたいと言われてね。あれ以来、どこか回路の調子が可笑しいんだ。>
「オイオイ。何で黙ってたんだよ。そんな大事な事。」
<済まない、言い方が悪かったな。調子が悪い訳ではないんだ。ただ…。今みたいに君に人生租談された時に困惑の片隅で頼ってくれた事に喜びのようなモノを感じてね…。
まるで人間になったような錯覚を此処最近しているんだ。>
「……成程ね。」
笑顔の顔で何処か誇らしげ語る様子のクリム。
そんなクリムに悠も少し浮いたような声色になりながら車内から出てドアから顔を覗かせながらクリムに語る。
「お前の成長に俺も嬉しい気分だよ。」
<止してくれたまえ。君らしくない。その素直さを秋にも振り撒いてやればいものの。>
「そしたらすぐ調子に乗るのが目に見えてるだろ、あの馬鹿の場合。」
<ハハッ、確かにそうだな。>
「…じゃ、気分転換に行かせて貰うわ。アドバイスサンキュー。」
<気にするな。それが私の役目だからね。>
「…そうだな。」
(…さて、とは言えどう気分転換すればよいのやら。)
一先ず灰原家を後にし街へくり出た悠であったが、何の予定も無しに出たのでただ街をぶらつきながら歩いている最中だった。
ふといつもの癖か周囲の様子に目を向ける。今歩いてる辺りは若者向けの店も多くあって人通りが多い筈なのだが、本来ある筈の人の活気が何時もより少ない。昨日も見て思ったがこの街から人が居なくなっているのが確信近ずいていたのだ。
そしてすれ違う通行人の顔を見れば何処か怯えてる様な、不安に満ちた表情をしながら歩いてるのを幾度か見た。これだけでBABELがこの世界の人間にどれだけの恐怖心を植え付けたか、悠は改めて思い知らされる。
(…イカンね、すっかり気分転換どころじゃ無くなって来ちまった。)
空を見上げながら大きく溜息を吐く悠。どうにも気分が優れない悠の目に映ったのは以前霞と入った喫茶店だった。
(あそこのパフェは美味かったよな…。あそこでいいか。)
前入った時はとんだ偶然の再開があったが流石の二度目は無いだろう。そう思いつつ店に足を運び中に入ると前のように満席では無く幾つか空席があった。
「いらっしゃいま…あ、アナタあの時の!」
「やぁどうも。」
店の中を見渡してると声を掛けたウェイトレスが声を荒げた。悠もその顔見てすぐ気付いた。あの時この店で起きた騒動に居た時のウェイトレスだ。どうやらあの時の印象が強かったらしく一度しか来て無いのに顔を覚えられてしまったようだ。
「…今日は相席じゃなくてもよさそうだ。」
「えぇ。ご覧の有り様で…。あ!でも先程お友達が来てあそこの席に着きましたよ。」
「お友達?……ッ!」
ウェイトレスの言葉に一瞬首を傾げたが察しの良い悠はすぐその言葉の心意に気付いた。
悠はまだこの店に一度しか来て無い。しかもあの時連れだった霞はいない。あの時騒動を起こしたバカな三人は間違っても友達と言わない。なら残るは…。
悠はウェイトレスの指差した席へと突き進む。急に態度が一変した悠にウェイトレスが最初の時同様にあたふたするが悠の目には席に座ってる一人の男に目が行っていた。
そして目を向けられてる事に気付いた男も悠を見るやニヤリと口角を上げた。
「…よォ。やっと来たかよ。待ちくたびれたぜェ。」
「…まさか本当に通い詰めてるとはね。」
二度ある事は三度ある。咄嗟に頭に浮かんだ言葉が今正にこの場面に合う言葉だった。
悠が睨む先に顎に手を添えて対象に笑う小金井 竜二との三度目の遭遇だった。
「言っただろ?ココのアップルパイ気に入ったって。嘘だと思ってたのかよ?」
「普通そうだと思う筈だぜ?敵に良く来る店教えるなんてそんな奴…。」
「ここに居るぜ?」
「…お前にはホント色んな意味で悪戦苦闘だぜ。」
呆れ交じりな溜息を吐きながら悠は竜二の席に座った。対する竜二も何も言わず同席を許し。手を上げて先程のウェイトレスを呼んだ。
「はい!ご注文は?」
「オレいつものアップルパイのセットで。」
「…DXミックスフルーツパフェ。コーヒーセット。」
「はい!アップルパイのコーヒーセットとDXフルーツパフェのコーヒーセットですね。
…竜二さんいつもコレですけど、ホントに好きなんですね。」
「うっせ、別にイイだろ何食おうがよ。んな事より仕事しろや。」
「フフッ。はい。今お持ちしますね。」
先程のウェイトレスとぶっぎらぼうだが親しげに話す竜二のやり取りを見て悠は目を点にする。特に話している時のウェイトレスの様子から彼女が竜二をどのように見てるのかが、今なのだろうか敏感に察してしまった。
「……なにお前。店員に名前教える程ココに通いづめなワケ?」
「見ての通りだよ。この前少し騒いだせいで顔覚えられたからああなっただけだっての。お前だってそうだろ?」
「あぁ確かに覚えられてたよ。でもお前に対するあの態度って…。」
「あ?んだよ。」
「…いや、何でも無い。(俺の周りに居る野郎ってどうしてこうも鈍いヤツばかりなんだ?明らかに違うだろ俺とコイツの接し方。…いや、それともいち早く気付く俺が異常なのか?)」
「おい何ダンマリ決め込んでだよ。言いたい事あるんなら言えっての。」
「いや、言っても無駄になりそうだから止めとくよ…可哀そうに、あのウェイトレス。」
「?…変な奴だな。」
内心、楽しそうに振る舞ってるウェイトレスに深い同情をする悠。そんな悠に竜二は首を傾げながらも敵同士である事を感じさせない様な雰囲気で話しかけて来る。
「で、どうだったこの間のは?流石のお前でもびっくりしたろ?アレ。」
「お陰様で。お宅等随分と派手好きなのがよーく分かったよ。
今の今まで上手く隠してたのにあそこまで大胆にやってくれちゃってさ。参っちまうよ。」
「それはオレじゃなくてあのエセ紳士魔法使いに言ってやれよ。あと、顔文字科学者にも。」
「あぁ今度会ったら物理的に文句を言うよ。
…前から気になってたけどお前ら実は仲悪い?さっきの言い振りと言い、鳥野郎と言い。」
「まぁお世辞にも仲良しとは言えねえな。元はおっさんが声掛けて集めた寄せ集めだし、転生者と戦り合うよりアイツの口車のほうが面白そうと思ったから乗ってるだけだかんな。他のヤツ等もそんなもんだ。」
「ふーん……どんな口車に乗せられたんだ?」
「…さぁ?どんなんだろうなぁ?」
「「……。」」
互いに口数が止まったのを見計らったのか、ここで丁度先程のウェイトレスが二人の頼んだ品物を運んできた。
「お待たせしました。
アップルパイコーヒーセットとDXミックスフルーツパフェコーヒーセットです。ごゆっくりどうぞ。」
頼んだ品が前に出され取りあえずそれぞれスプーンとフォークを手に黙々と手を付ける。この時の二人は喋らないのではなく、ただゆっくりと甘味を味わいながら食べていた。
黙々と口に運び、半分ほど減った所で竜二の方から口が出る。
「…ところでよ、これ喰い終わったら当然やる事は決まってるよな?」
「当然だろ。コッチもいい加減一人は潰さないと進展しそうにないんでね。このチャンス逃すかよ。」
「だよな。そんなお前にイイ知らせだがよ、思いついたんだわ誰にも邪魔されないとっておきの場所。そこなら
二人きりだし、カタが付くまで遠慮なく暴れられる。絶好の場だぜ?」
「そ、ま、邪魔さえなければどこでもいいがな。死体の処理が面倒じゃ無ければ。」
今後の行動、つまり戦闘だ。少なくともこんな話スイーツを食べながらする話じゃない。でも何故か二人はそう言った違和感など何も感じず平常に言葉を交わす。互いの関係を知りつつこうして相席するまでの仲というのがこのようなものなのかと見せているようでもあった。
そして二人が食べてたパイとパフェもあと一口で完食といった所だった。
店のベル付きのドアが荒々しく開かれた音に二人は口に運ぶ手を止めて思わず目がそちらにいくと、あからさまな強盗だと言わんばかりの目と口が開いたマスクを被った三人組が押し入り慌てた様子で手に持ってる拳銃を近くの店員に向けてた。
「騒ぐな!全員大人しくしてろ!そうすれば撃たないでやる!」
「オイどうすんだよ!?金奪ったのはイイが武偵に見つかるなんざよ!?」
「黙ってろ!ここに居る奴等人質にすれば済む話だろ!こんくらいでギャーギャー喚くんじゃねえ!!」
彼等の会話から察するに逃亡中の強盗の様であった。店の中が強盗による立て籠もりと知り中に居る客と店員は恐怖と混乱に包まれるなか当の二人は対して変わりない様子であった。
「…なぁ。なんでオメェと相席するたんびにこうジャマが入るんだ?最初の時以降オレ普通に喰えたんだけど?」
「そういう俺だってまだ二回しか来て無いのにコレだぞ?なんなの?ゆっくり落ち着いてパフェ喰わせてくんねえの?オイ。」
「「…ハァ。」」
「オイそこの二人!お前等だよ!呑気に飲んでるお前等!!」
ガッカリしながら最後の一口を口にしコーヒーカップを手にする二人に強盗の一人が詰め寄って来る。
強盗は銃口を交互に向けて来るが当の二人は少し冷めたコーヒーを飲んでるのに痺れを切らしたのか怒鳴りつけて来る。
「お前等…!なに余裕こいてんだガキ共!大の男が揃って甘いモン喰いに来やがって、スカした態度取ってんじゃねえぞ!オイ聞いてんのか!!!」
「「……フゥ。」」
一歩的に怒鳴りつけて来る強盗に対し、コーヒーを飲みきった二人はカップをゆっくりとした動作で同時に置く。そして視線を強盗に向けた。
「あ?なんだその眼は?どうやら痛い目にあわ─へぇぶッ!?」
バッッカァァンッ!
強盗が最後に見たのは眼前に迫る二つの拳。それが同時に顔面に喰らった感触を味わいながら僅かな浮遊感と背面を強く壁に当たった衝撃を味わって気を失った。
店の外と中の周囲を見ていた二人は突然仲間がマンガの様に吹っ飛ばされて壁に激突する光景を前に慌てて周囲を見渡した。
「ッ!?な、なんだ!?どうなってんだ!?」
「お、お前等か!?う、動くんじゃねえ!撃つぞ!」
二人の強盗が銃を向けた先には席を立って殴ったであろう悠と竜二の二人に銃を向けるが、二人は強盗の言葉に従うわず歩み寄ってく。
竜二が拳をポキポキと鳴らしながら止まる気配も無く進んで来るのに対し本気で撃とうしたが、向けていた銃に何かが当たった感触があった。
「な、なんだァこりゃあ!?」
「ナ、ナイフ…。」
二人の銃にこの店のであろうテーブルナイフが見事なまでに銃口に突き刺さっていた。この状態で撃ったら確実に暴発し大怪我してしまう事に最早役に立たなくなった銃を目に顔が青ざめるなか二人の強盗の目に凶悪な笑みを浮かべた竜二が既に眼前に来ていた。
「「あ…あぁ…。」」
「ハッ…ウラァッ!!!」
「ブギャッ!?」
脅す武器が無くなった為に目の前の悪魔を前に怯えるしか出来ない強盗の一人に竜二が顔面に向けて強烈な右ストレートを叩き込むと、強盗の一人が先程の一人と同様に壁まで吹っ飛ばされてノビてしまう。
最後の一人は「ひぃぃぃぃッ!?」と情けない声を上げて店のドアから逃亡しようとしたが、強盗の横から迫る影が一つ。
「フンッ!」
「アビャッ!?」
逃げようとする強盗の横っ面に悠のドロップキックが叩き込まれこれもまた壁まで吹っ飛ばされて仕舞いに重なる様に気絶した三人が出来上がった。
一連の行動に竜二が首を鳴らし、悠が服の埃を払う動作をした後に二人の目に付いた店員。あのウェイトレスの姿を捕えて声を掛けた。
「「オイ。」」
「…あ、は、はい!」
「「オレ・俺の代金とここに居る客の支払いはそこの三人でヨロシク。」」
「あ…はい、かしこまりました。」
何故か息ピッタリの二人にウェイトレスが鉄砲を喰らったハトの様に唖然とすると、店の中が歓声に包まれた。
そしてその歓声を鳴りやますように店のドアが蹴破られ、そこから現れたのが…。
「銃を捨てなさい!アンタ等まとめて逮捕…。」
「アリアお前何一人で突っ走って…灰原?」
「アレレ?この空気はもしや?」
「…どうやら既に事が終わってるみたいですね、キンちゃん。」
各々武器を手にした、アリア率いる武偵組だった。
「──アンタ達ねぇ、素人が銃持った強盗に無闇に突っ込むとか何考えての!?
今回は丸く収まったからいいけど、下手したらアンタ等だけじゃなくて中に居た人たちも危険だったんだからね!?」
「ムシャクシャしてやった。それだけだ。」
「右に同意。」
「少しは反省の色見せなさいってのーーッ!!!」
「まぁ落ち着けよアリア。今回は灰原達のお蔭で何とか強盗集団を逮捕出来たって事で良いだろ。」
「そうだけど!何か気に入らないのよコイツ等!こんだけ言っても聞き流してるカンジだわ、全然コッチを見て無いわで!」
「そういえばお前あん時オレにもナイフ当てる気だったろ?知ってんだからな鏡に投げようとしてたお前が写ってたの。」
「さぁ?なんの事やら。」
「キィーーーーッ!アンタ等風穴ぁ!!!」
「だから落ち着けよ!」
店の前で強盗集団を追っていたアリア達が無力化させた悠と竜二に対し事情聴取と説教をしていたが、当の本人達は面倒臭そうなので聞き流していた。
そんな二人の態度に業を煮やしたアリアが銃を抜こうとするのをキンジが止め、それを後ろからアリアに敵意を向ける白雪と悠と竜二を興味深そうに見る理子がいた。
「悪いな灰原こいつちょっと短気なトコあって。えっとアンタは…。」
「小金井 竜二だ。」
「そうか、オレは遠山 キンジだ。
…で、アンタは灰原の知り合いか何かか?」
「正確には顔見知り以上友達未満だよ遠山。偶然この店で会ってね。」
「そ、そうか…。まぁなにわともあれ、余り無茶な事は今後すんなよ?今仮面ライダーの騒動か知らないが、こういった犯罪が少しづつ増えてるんだ。」
「…へぇ。そりゃ大変な事で…。」
キンジの話を聞き悠は隣の竜二をジト目で見る。当の竜二は関係無いと言った風に振る舞う。
そんな中後ろで様子を見ていた白雪と理子が前に出て来て初めて口を交わす。
「フムフム…ウンウン!二人とも中々に良いキャラしてるね!おまけに強いときたもんだ!」
「峰さん。初対面の人に対してそれは失礼に当たりますよ。
すみません。この人少し頭可笑しいもので。あ、私星枷 白雪と言います。灰原さんの事はキンちゃんから良く聞いてます。気の合う友達が出来たって。今後ともキンちゃんと仲良くしてくださいね。」
「………”友達”。」
「白雪…お前は俺の母親かよ。
…灰原気にしないでくれ、コイツの場合は少し過保護……灰原?」
「ん?……あ、あぁ。何でも無い。
…いや、良い子じゃないの。この子だろ?言ってた幼馴染って。こりゃ将来良い奥さんになるよ遠山。」
「奥さん…!
キンちゃんの!キンちゃんの奥さん!……フフフ。キンちゃん!この人良い人だね!!」
「え?…あぁ、そう、だな、うん…。」
「ちょっと白雪!アンタ何コイツの口車に乗ってるのよ!それとキンジはアタシのドレイなんだからアタシのモノよ!!!」
「あら、負け犬の遠吠えですか?まぁでも仕方ないですよね。銃を撃ちまくることしか出来ない、身も中身も小さな人がキンちゃんを満足になんて出来やしないでしょうね。」
「なんですってぇ!この贅肉の塊がーーーーッ!!!」
「あらやりますか?イイですよ。私は今例え仮面ライダーが来ようと勝てそうなくらいに昂ってますから!!!」
「おおッ!遂に決着か!?ここできーくん争奪戦の勝敗が決まるか!?」
銃を引き抜くアリアと刀を抜く白雪、そして横で実況の様に興奮を隠さない理子にキンジは溜息を吐かざる得ない。
そんなキンジの両肩に手が置かれ左右を見ると、憐れんだ目で見る悠と竜二が居た。
「大変だよな。モテる奴って…。」
「オレも昔は女の事で色々あったなぁ…。ま、アンタほどじゃないが。」
「………とりあえず。ありがとうって言っておくよ。」
哀愁漂うキンジを慰めながら、銃と日本刀の凄まじい攻防繰り広げるアリアと白雪の喧嘩を眺める三人だった。
「…さて、と。灰原、小金井。オレはあの二人の喧嘩を止めて今回の事報告すっから二人はもう帰っていいぞ。」
「そう、なら俺達はこの辺で。」
「あぁ。アレ見せられちゃあこっちも早くヤリたくなって来ちまったしな。」
「ヤル?」
竜二が視線を向けるその先はアリアと白雪の武器を使った喧嘩と言う名の云わば殺し合い。キンジは竜二に先程の言葉について聞き出そうとしたが、気付いたら二人は背を向けて何処かへ行こうとしていた。
「おい……おい灰原!お前、お前等一体何しに行くんだよ!?」
「気にすんなよ。こっちも白黒つけに行くだけだから。」
「そういうこった!だからよく目に焼き付けておけよ!これが最後になっかもしれねえからな!!!」
「…お前さっきから余計な事しか言わねぇな。」
「悪いな。オレはバレようが一向に構いやしないんでね。」
「…何の話だよ、…おい灰原ァ!!!」
キンジは二人の遠くなっていく背中を見て思った。このまま行かせていいのかと。悠の名を叫ぶより駆けてって止めた方が手っ取り早いのにキンジは何故か動けなかったのだ。
どうして思うように足が動かなかったかはこの時のキンジは頭で整理しようにも、後から思い返しても分からなかった。それでも頭ではなく直感で分かる事が一つ…。
──あの二人の間に入ってはいけない──。
それを破った場合どうなるか。なんとも言えない感情を感じながらキンジは背中を向けたまま手を振る悠の姿を見届けるしか出来なかった。
そしてキンジ達と別れた悠と竜二は適当なビルの物陰に入って人目から避けていた。
辺りを見渡すもこんな所では邪魔を気にするどころか派手に動けない狭い場所に顔を顰める悠だが、竜二はそんな事考えてる様子では無く腰に戦極ドライバーを着けていた。
「まさかとは思うけど、ここがお前の言ってたとっておきの場所?」
「なわけねぇだろ、良いから黙って見てろよ。
──変身。」
<< ゴールデン・アームズ! 黄金の果実! >>
竜二はマルスへと変身し、悠はすぐさまゲネシスドライバーを着けて構えるがマルスは一向に攻めて来る気配は無かった。
そんな事知らずにマルスは盾を持って無い方の手を前に翳すと、空間にクラックを呼び出しヘルヘイムの森への道を作る。この時竜二の言ってたとっておきの場所と言うのがヘルヘイムの森だという意図がようやく分かった悠だった。
「成程、確かにここなら誰にも邪魔が入らないな。」
「あぁ。多少うるさい虫が集るが、特に問題無いだろ?」
空けたクラックの中へ先に入るマルス。森の地に足を踏み込んで後ろを振り向くや顎で早く来いとジェスチャーをし先を進む。
先に行く悠は少しの間に携帯へ早打ちでメールを打つとそれを仕舞って次に出したのは赤いエナジーロックシードだった。
「ふぅ……。とんだ息抜きになっちまった。」
そう言って悠は歩き出しクラックの向こう側であるヘルヘイムに足を入れた。
後ろでジッパーが閉じるのを振り返らずとも察した悠は、これからの死闘を覚悟した。
「──変身ッ!」
<< ドラゴンフルーツ・エナジー! >>
「さ、桜井。今、なんて言ったんだよ、お前…。」
同時刻。場所はオカルト研究部の部室の中、そこには椅子に座るリアスを前に立つハルナと、アザゼルを除いたオカ研メンバーが揃っているなか、ハルナは一つの決断を告げたとこだった。
「…ハルナ。さっき言った事は、冗談ではないのね。」
「はい。私はこのオカルト研究部を退部させていただきます。」
ハルナが告げたのはオカ研の退部。リアスを除いたメンバーが突然の退部に唖然とするなか、納得がいかないと言う表情で一誠が前に出る。
「どうしてだよ桜井!何でオカ研を止めちまうんだよ!?もしかしてアレか?自分だけ悪魔じゃないって言うのを気にしてるんならもう一度駒を入れて…。」
「そうじゃないわよ。悪魔だとか人間だとかそう言うの関係無しに、もうここに居ても意味は無いって思ったのよ。」
「意味は無いって、何言ってんだよ!!お前は…。」
「怪我の治療ならアーシアが居れば十分事足りるし、戦闘面だってただ腕っぷしが強いだけじゃなんの役に立たないってのは前から思ってたのよ。私が居ても居なくてもオカ研にとって差ほど変わりは無いだろうって、前から思ってたわよ。」
「でも!・「イッセー。その辺にしなさい。」・部長!?部長はいいんですか!?仲間が一人居なくなるんですよ!?」
「これがハルナの下した決断なのだとしたら、私はそれを無理に止める事は出来ないわ。彼女は元々眷属でなくなっても協力者としてここに居た訳だし。運良く助かったとしても冥界での襲撃同様にハルナもファントムにされかけたのよ?それを引きづって今まで無理をしてたと言うなら、それは私の監督不足よ。こうなる前にもっと早く気に欠けてあげられなくて、ごめんなさいね。」
「……いえ、相談しなかった私にも非が有りますから。(本当はそうでも無いんだけどね。こうした方がすんなり抜けられるからいっか。)」
「…そう。」
リアスが申し訳なさそうにハルナに言葉を投げるも、内心その感情を利用しようとする時点でハルナはすっかり悠達の影響を受けたらしい。
後はこのまま部屋を出ようとしたハルナであったが、ここでリアスから思いもよらなかった質問に表には出さなかったものの内心肝を抜かれる事になったのは今はまだ思いもしなかった時だった。
「…時にここから出る前に一つ。確認しておきたい事があるのだけど、イイかしら?」
「?なんですか?」
「アナタ、最近学園寮の部屋じゃなくてとある男子生徒の家に出入りしてる様じゃない?
名前は…灰原 悠、だったかしら?」
「ッ!!」
「灰原?…アレ?確かソイツって、あの…。」
「知ってるのかい?イッセー君。」
「あぁ。ちょっとした事で知り合ったんだよ。…その時桜井も居たな。確か、共通できる仲が出来たって桜井が言ってたっけ。」
「へぇ、そうなの。…アナタには謝らなければいけないけど、少し耳に挟んだのよ。アナタが寮を空けてとある家に出入りしてるってハナシを。しかもその家に住み着いてるとも聞いたわ。それも人間に戻った時期の後に…。
これはアナタの退部と関係してるかどうかは知らないけどどうなのかしら?」
「……。」
思い掛けないリアスの追及に一瞬言葉が出て来なかったハルナだが、予めこういう事態に備えておいたプランを思い出し少し空いた間を有効に使って心を落ち着かせて、リアスの疑問に答えた。
「…すみません。コレも言って無かった事なんですけど、灰原君の家に上京した弟が住み着いてるんです。」
「弟?驚いたわ、そんな事初めて聞いたわよ。」
「…もしかして。」
「どうしたの子猫ちゃん?」
「…いえ、私のクラスに桜井って転校生が居るんですけど、その人が…。」
「…えぇ。弟よ。実家から上京したは良いものの、住む家がちょっとした手違いで無くなってね。それで知り合った灰原君が家に空きがあるから使うか?って話が有ってお世話になってるのよ。
彼の家に行くのは弟の様子を見に行ってるからです。」
「…成程ね。そういう理由なら行っても何ら可笑しくないわね。
ごめんなさい、変に勘ぐっちゃって。」
「…いえ、じゃあ私は此処で。今までお世話になりました。」
「桜井!お前…本当に止めるのかよ…。」
「ハルナさん…。」
「…寂しくなるね。」
部屋を出ようとするハルナにオカ研のメンバーが名残惜しい顔をする。罪悪感を感じながらもコレが自分の選択だと割り切ってドアの前で深々と頭を上げた後ハルナはオカ研を出て行った。
各々が顔を俯くが一誠はやはり何処か納得がいかないと言った目でハルナが去った跡を今でも見ていた。
そしてリアスも椅子の背もたれを身を預けながら、何処か別の何かに目をやる様に思考を巡らせていたのは、誰も気付かなかった。
ヘルヘイムの森
そこは所轄別世界と言っても過言では無いが、その実態は他の生物の存在を否定した災厄の跡。死の森とも言える世界だった。
今この世界にある生物を覗いて存在する人間が二人。
一人は黄金の果実の力を持った西洋の騎士。マルスこと小金井 竜二。
もう一人は、侯爵の名を持つ弓を持った騎士。デュ―クこと灰原 悠。
広けた岩場に離れて相対する姿は決闘前の騎士と言っても過言では無い二人は、一歩一歩、ゆっくり歩み寄って距離を少しづつ縮めていき。やがて止まる。
一歩踏み込めば届くと言う所で止まり仮面越しに見つめるなか、先に口を開いたのはデュークだった。
「…三度目の正直、ってヤツだ。」
「おうよ。…なぁ、殺り合う前の最後に一つイイか?」
「何だよ。」
「…正直な所、オレはお前の事そんなにキライって訳じゃあねぇ。むしろ強いヤツと出会えて嬉しいって思ってる。
…もしオレ達が敵じゃ無かったら、どういう関係になってたと思ってる?」
「……さぁなぁ。…例え敵じゃ無かろうがなんだろうが、今の関係と何も変わらねぇって、俺は思うけど?」
「…ハッ、そうかよ…まぁそれも悪くはねえな。」
マルスは盾、アップルリフレクターから大剣、ソードブリンガーを引き抜き、ソレをデュークの前に突き出す。
対するデュークも手に持ってるソニックアローを突き出し、ソードブリンガーと軽く触れる様に交差させた。
「…結局の最後の食事はアップルパイになっちまったな。」
「別にイイさ。アレは何だかんだで美味えからよ。もし勝てたら喰ってみろよ。万が一勝てたら、な。」
「覚えておくよ…。」
少しの言葉を交わし、沈黙の空気が流れる。それと同時に徐々に濃くなってるのは、二人から発せられる殺気が混じった威圧。
そして時が来たように、二人はそれぞれの武器を引き───
「──セィァッ!!!」
「──ドラァッ!!!」
ーギィィイイイィィインッッッ!!!ー
「──決着だァ!」
「──おう!おもっきし楽しもうぜェ!!!」
凄まじい剣戟の音が開戦の合図となった。