その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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色々詰め込み過ぎて内容が二話分の今回。長すぎだと感じたならすみません。


布告

学園に突如襲い掛かった怪人騒動に持てる力を出し切って見事全制覇した悠達、ライダー群は新たに訪れた脅威イーターロイミュードとグレムリンを相手に更なる激闘を強いられる。

 

そして大量の怪人軍団を学園に仕向けた諸悪の張本人は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………フゥ。」

 

「なんだい柄にも無くそわそわして、もしかして緊張してるのかい?」

 

「えぇ。恥ずかしながら……ですが、緊張してると言っても、これからの顛末についてどうなるかと言う楽しみの意味での緊張ですよ。生前、大勢の前に幾度立っていましたが、今回は規模が違いますからね。」

 

「あァ。そういえば前世は考古学と物理の教鞭を大学でやっていたんだっけ?」

 

「えぇ。物理学が本業で、考古学は趣味感覚でクラブの顧問を。」

 

「それで料理が出来て、あのクセ揃いの連中を纏める程のカリスマか…改めてハイスペックな男だね、君は。」

 

「いえいえ。こういった機械や科学の分野では、エネルギー工学の元エリートには敵いませんよ。」

 

「……昔の、いや、前世の話しさ…。」

 

他愛も無い談笑をするように、大臣ことソーサラーと、ドクターことゴルドドライブは、学園で起きている騒動を巨大なスクリーンで見ながらこれからの段取りについての最終確認を行っていた。

 

スクリーンでは、グレムリンと戦ってたリュウガがエターナルに姿を変えて再戦する場面や、デッドヒートとなったマッハが巨体のイーターロイミュードを高速のラッシュを叩き込ませる場面など、今現在の様子が映し出されてた。

 

「フム。向こうもいい感じにギアを上げてますねえ。」

 

「ここまでは計画道理だね。後はキミの演説の出来次第だ。」

 

「止めてくださいよ。変なプレッシャーをかけて来るのは…。」

 

二人が他愛も無く談笑してるなかで、敵の計画が着々と進んで行ってるのに画面に映る仮面ライダー達は知らずに、ただ目の前の倒すべき敵へその強大な力を世界へと知らしめているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょいさァァァッ!!!」

 

「フンッ!」

 

そして今画面上に写されてるエターナルとグレムリンの戦闘。

 

絶え間無く迫るラプチャーの猛攻をコンバットナイフ型のエターナルエッジ一本で鮮やかに捌くエターナル。

攻める手を休める事無くむしろペースを上げて攻めるグレムリンに対し、巧みなナイフ捌きと立ち回りで受け流すエターナルに対しグレムリンは段々イラついてしまう。

 

「あァんッ!もうッ!いい加減当たってくんねぇっすかねぇッ!」

 

「なら口より手を動かせ、やッ!」

 

「ぬおッっと!」

 

一瞬の隙を突いて、ラプチャーの攻撃を受け流した後に顎を狙って前蹴りをするも、軽やかなバク転でコレを避けるグレムリン。

 

距離を空けてまた姿を消しての奇襲攻撃を仕掛けて来るが、エターナルは一本のメモリを取り出す。

 

<< METAL MAXIMUM DRIVE! >>

 

マキシマムスロットに闘志の記憶を宿すメタルメモリを挿すと体から銀のオーラが纏われる。

オーラを放ってるエターナルに対しグレムリンはエターナルの死角から現れ、ラプチャーを首元目掛けて振りかざす。全く躱す気配も受け止める気配も感じないままグレムリンは首の飛ぶエターナルの頭部を想像して刃を首に食い込ませるが…。

 

 

ガキィンッ!

 

「ハァッ!?」

 

刃が当たった所から音を鳴らしたまま微動だにせず立っているエターナルの姿に驚きを隠せないグレムリンに対しエターナルはこの隙を逃さず瞬時に首に当たってるラプチャーを掴んでそのまま引き寄せると鳩尾に肘鉄を喰らわせる。

 

ぐふッ!と声を漏らすグレムリンに逆手に持ったエッジでまだ掴んでるラプチャーの持った手の手首に一閃。

思わず手からラプチャーを放し奪い取ると放り投げた後にもう片方のラプチャーで斬り掛かるグレムリンだが、エターナルはコレを躱し、懐に入った所をエッジで左の脇腹を斬り、グレムリンが怯んでる内に素早く後ろに回り込んで左足の膝関節の裏を斬り付ける。

膝を斬られて片膝を着いた所で、丁度腰元まで下がった頭部に右足の回し蹴りを叩き込む。蹴りを喰らったグレムリンは横に吹っ飛び、盛大に顔から地面に打ち付けられた。

 

すぐに起き上がって首を鳴らすグレムリン。対するエターナルは自然体の状態だが、何時でも対応出来る様に目を離さずにいた。

 

「あー、イテテ……ホントなんでもありでやんすねぇ。反則過ぎてもはやイジメですわ、コレ。」

 

「殺し合いに反則も何も無いだろ。負けたら死ぬんだ。使えるモノ使って何が悪いんだってハナシだ。」

 

「ですよねー。いやー、お互い別の形で会ってたらいいオトモダチになれた気がしますよォ、いやコレ、ホントマジの本音で。」

 

「もしもの話しだろ。今は殺し合う仲って事で…良しとしようや。」

 

そう相槌を打つエターナルはマントを脱ぎ捨てるとメタルメモリを抜き、新たに三本のメモリを取り出し、胸部と腰のマキシマムスロットへ挿し込んだ。

 

<< FANG MAXMUM DRIVE! >>

 

<< ACCEL MAXMUM DRIVE! >>

 

<< JOKER MAXMUM DRIVE! >>

 

「───ハァァァ…ッ!」

 

三本のメモリの力を解放させるとエターナルの体に変化が訪れる。

 

アクセルメモリで身体、加速能力を強化。牙の記憶を宿したファングメモリで闘争本能を爆発的に上げ、肩・手首・踵から鋭利な刃が生え、底上げした闘争本能を暴走しないようエターナルメモリの次に適合率が高いジョーカーメモリで制御、強化を施す。

 

メモリの恩恵によって実質フォームチェンジと同等の変化。悠が試行錯誤を繰り返し、メモリの組み合わせによって得られるオリジナルとは異なる、悠だけの戦い方の一つだ。

赤、白、紫と様々なオーラを出しながら腰を低くした構えを取り、まるで獲物を前にした野獣のようであった。

 

「…ウガァッ!」

 

「おおッ!?」

 

低い体勢から縮んだバネを伸ばしたように踏み込んだエターナルはグレムリンでも気付くのが遅れる程の速さで瞬時に懐に入ると手首から生えた刃、アームセイバーがグレムリンの胸部目掛けて斬り掛かる。

瞬時に上体を反らして躱したグレムリンだが、余りの切れ味に直撃してないのに関わらず、グレムリンの胸に斜めから斬られたような跡がくっきりと残されていた。

 

「フゥー…ッ!」

 

「…殺し合う仲ねぇ……確かに、それもそれで悪くは無いですなァ!!!」

 

胸の傷跡を撫でながら、偶々近くにあったエターナルが投げ捨てたもう一本のラプチャーを回収すると、グレムリンは湧き上がる高揚感を胸にエターナルへ向かって行った。

 

ただこの殺し合いを楽しむ事だけを考えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてもう一つの戦いであるイーターロイミュードの戦闘では、ダークドライブとデッドヒートと化したマッハが優勢に立ち回っていた。

接近戦をメインにコンビネーションで行くスタイルにイーターは苦戦を強いられていた。

 

<< Burst! DEAD HERT! >>

 

「オララララララララララッ!!!ウラァッ!!!」

 

【ウガッ!、ブアァッ!…こんのォ!】

 

<ハッ!>

 

【んぎゃッ!】

 

パワーと高熱を帯びた拳を目に見えない程のラッシュでイーターの胴に容赦なく叩き込み、ダメ押しに渾身の右ストレートを決めるマッハ。

怯んで下がるイーターは、大口を開けて溜め込んだエネルギーをマッハに向けて撃ち出そうとするが、ダークドライブが横からすれ違い様に腰元にブレードガンナーで斬り付ける。

真正面からでは大したダメージを与えられないと知ったダークドライブはイーターの死角から、人体の急所を狙いに行き、流石に体を支える役目を持つ腰に攻撃されるとそれなりに効果は在り、イーターが放とうとした攻撃は不発に終わった。

 

「よし行くぜ!ハッ!」

 

<OK!トォッ!>

 

怯んで隙を見せるイーターに二人は声を掛けて同時に跳ぶと足を突き出してキックの体制に入る。

顔を上げて跳び上がった二人を見上げるイーターの目には既に此方に向かってキックするマッハとダークドライブの姿が入るが先程の腰の一撃が効いたのか上手く動けず…。

 

「デァッ!」

 

<ハッ!>

 

【うわァッ!!!】

 

マッハとダークドライブの同時キックは見事に決まり。その巨体は後ろへ吹き飛ぶ。

 

「この調子なら、分離させるのにあと一歩ってトコ?」

 

<あぁ。そろそろ融合してるロイミュードの抵抗力が下がる頃合いだ。>

 

「よォーし!ならさっさと分離させて、向こうの加勢に行きますか!」

 

【うぅ……グゥゥゥッ!!!】

 

イーターを前に有利に立ち回り、この調子なら融合してる人物とロイミュードを引き剥がすのに何ら問題無いと高を括る二人を前にイーターの様子が変わり始める。

 

与えられたダメージで蹲ってる風に見えるが、隠してる口から見える歯がどんどん伸びていき涎まで垂らす等、声も人から発せられるような声では無く、獣の呻き声に似たようなのを発していた。

イーターの様子が可笑しい事に気付いたダークドライブはイーターロイミュードをもう一度解析してみると、思いがけない結果が出たのか声を上げて驚く。

 

<そんな、一体どういう事だ!?>

 

「なに?どうしたのさ、いきなり驚いちゃって…?」

 

<イーターの体内から高エネルギー反応を感じる。しかも段々上がってきてるぞ!>

 

「はぁ!?なんでだよ!?

オレ達の攻撃が喰われない様にと思って、さっきから一発も撃ってねぇんだぜ!?」

 

<あぁ、最後に喰らったのはリュウガの火炎放射が最後なのは確かだ。それなのにあそこまでエネルギーが上がるとなると…。

もしや、融合してる人間の感情があれ程のエネルギーを…!?>

 

ダークドライブがイーターの変化の原因の推測を立てていた最中、顔を上げたイーターの姿が大きく変わっていた。

 

鈍色だった体の色が赤くなり、口から覗かせている歯は猛獣の如く鋭いモノとなって剥き出しており、ここなしか体系が細くなり、動き易そうな姿になるまで変化をしていたのだ。

 

【スイタ……オナカ、ズイ゛ダァアアアァァァァァァッッッ!!!!】

 

「なッ!?」

 

<は、速い!>

 

【タベサセロォォォオオッッッ!!!】

 

暴走気味のイーターは最早食欲を満たす事しか頭に無い状態であった。あまりの空腹の所為かイーターの目にはマッハとダークドライブが先程まで自分を痛め付けた敵という認識は既になく、目の前の二人は自身の食欲を満たす獲物としか見えていなかった。

 

だからか鈍重な動きは嘘のように俊敏になりマッハとダークドライブの虚を突くのに十分であり、イーターはそのままダークドライブの左肩にその鋭い歯を突き立てた。

 

<ぐぅッ!?>

 

【ガゥッ!バゥアアゥゥアァァッ!】

 

「ベルトさん!このヤロッ!」

 

<< ゼンリン! >>

 

獣のように噛み千切ろうとするイーターの顔面にゼンリンシューターで殴り付けるマッハ。

ヒットした拍子にイーターとダークドライブは離れるが、噛み付かれた左肩の装甲が噛み千切られ、千切られた装甲はイーターが口からスパークを放ちながらも喰らっていた。

 

「アイツどんだけ飢えてんだよ。今の明らかにベルトさんを喰う気満々だっだぞ!?」

 

<それだけ融合してる人間の欲が強いと言う事だろう。しかしこれは手痛いな。先程のが思いの外効きすぎた…。今の奴は私達二人の力を合わせても勝てるかどうか…。>

 

「マジかよ…。」

 

咀嚼するイーターを前にマッハは仮面の下で苦い顔をする。

敵の力が増大してるのに対しダークドライブは先程ので戦闘続行が不能。なれば必然的に戦うのはマッハ一人。だが幾らデッドヒートを使おうにもパワーが上がった敵の前にどう立ち向かえばいいか。

 

(…こうなりゃ仕方ねえ。いっちょ無茶やってみっか…。)

 

前から考えてたデッドヒートの更なる形態変化。本当は強すぎるパワーによって起こる危険信号のようなモノなのだが、秋にとってはマッハの更なるパワーアップした姿だと信じ、それを扱いこなす為に何時ものトレーニング量を倍にする程に自身を高めて来た。それを今この場で披露してやろうと思いきったのだ。

装甲を呑みこんで更なるパワーアップを遂げたイーターを前にマッハは膝を着くダークドライブの前に立った。

 

「本当は練習したかったんだけど、ぶっつけ本番の方がオレらしいちゃらしいよな!」

 

<マッハ?一体何をする気だね!?>

 

「限界を超えるんだよ!

マッハで……ぶっちぎるぜぇぇぇぇッ!!!」

 

決意を固めた雄叫びと共にドライバーの上部スイッチを連続で何度も押し続けるマッハ。

肩のメーターがデッドゾーンの危険値まで上がってきてるが一向にスイッチを押すのを止めない。後ろでダークドライブが静止の声を掛けるが一向に止めずそしてメーターが危険域まで達すると胸のデッドヒートタイヤが破裂した。

 

「ウオォォォォォッ!!!」

 

<< Burst! キュウニ・DEAD HERT!!! >>

 

本来なら、胸のタイヤはデッドヒートのエネルギーを制御する機能が付いてるが、バーストしてしまった今エネルギーを制御できず暴走状態に陥ってしまう。だがマッハはあえて暴走させデッドヒートの過剰なエネルギーを自身の気力だけで操ると言う荒業をやって見せたのだ。

 

「行くぜぇこの大食い野郎!!!」

 

【ンガァァァァァッ!!!】

 

全身から異常な程のエネルギーを出しながらマッハは駆ける。

イーターも本能に従いマッハに向けて駆け出し、両者拳を突き出した。単純なパワー比べの勝負。端から見れば体格の大きいイーターが有利だが、実質イーターを少しづつだが押していたのは全身から高温の蒸気を噴き出したマッハだった。

 

「ンンンンッッッ!!!!──ウラァッ!!!」

 

【ムガァッ!】

 

拳の押し合いに競り勝ったマッハは押されて下がるイーターの追撃に跳び上がって頭に手をやると顎元に膝蹴りを叩き付ける。

モロに喰らったイーターの口から膝蹴りで折れた歯が撒き散りながらも追撃の手を休めず鼻っ柱に左のストレート。容赦のない追撃の手にイーターの意識はノックダウン寸前であった。

 

「これでぇ、シメだ!」

 

着地したマッハはゼンリンシューターを手にふらついてるイーターの懐に入り下から突き上げる様に振るうと、赤い亀裂が入りそこに手を突き出す。掴み上げた感触を確かめ腕を引くと、そこから学園の制服を着たふくよかな体系の男子を引き上げると、イーターの姿が下級のコブラロイミュードに変わっていった。

 

<< ヒッサツ! >>

 

<< Burst! Full Throttle! DEAD HEAT!! >>

 

「デアッ!」

 

必殺技であるヒートキックマッハーがコブラロイミュードに炸裂。爆散していったロイミュードを背に通常のマッハの姿に戻ると、無理した対価か膝を着いて肩で息をする程の疲労を見せていた。

 

「ハァ、ハァ…。クッソ、やっぱまだまだだなァ…。」

 

自身の実力不足について嘆くマッハに肩を抑えたダークドライブが近寄る。

ここでマッハは仰向けに倒れてる太った男子を目をやった。

 

「にしてもどんだけ食い意地張ったヤツかと思えば、ウチの生徒かよ。」

 

<あぁ。身元も判明したよ。

熊飼 満。学園内ではかなりの食通で知られてるようだ。>

 

「へぇー……さて、っと。コッチは終わったし、向こうの加勢に、おっとと…。」

 

立ち上がるマッハだが、足元が覚束ない状態であり、倒れそうな所をダークドライブが支える。

 

<お互いこれ以上の戦闘は無理だな。先程向こうを見たが加勢の必要は無さそうだったよ。

我々はいち早く退散するとしよう。>

 

「…ちぇー、もうちょっとカッコよく行きたかったんだけど。」

 

<もう十分やったさ、特に最後の方はな。>

 

「でしょ?」

 

マッハを支えながらネクストライドロンへ向かうダークドライブは横目で見えるエターナルとグレムリンの激闘を気にしながら、マッハのケアを行う為にマッドドクターへの呼び掛けを行うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして勝負を早々に決めるエターナルとグレムリンとの戦闘もすでに終盤に近い状況だった。

 

「フゥゥウウウ──ッ!」

 

「うっひゃっひゃ…こりゃ無理ゲーにも程が在りますよォ…。」

 

体の至る所に生々しく斬られた跡が目立つグレムリンとは対象に無傷のエターナル。

手に持つラプチャーも刃がボロボロの状態であり、圧倒的な力の差に失笑するしかないグレムリンを前にエターナルは両肩の刃、ショルダーセイバーを掴むとそれを取り外し、それをグレムリンにブーメランのように投げた。

 

「ッ!ちょりゃあッ!!!」

 

反撃と言わんばかりにラプチャーを振るって三日月状の斬撃を幾つも繰り出すが、不規則な軌道を描くセイバーはグレムリンの攻撃を次々と切り裂いていくと、二枚の刃はグレムリンの体を何度も斬りつけて行った。

 

「ちィ!こんのォォォォオッ!!!」

 

体を斬り刻まれながらも渾身の力を籠めてラプチャーを叩きつけショルダーセイバーを破壊したグレムリン。だが最早傷が付いてない所を見つけるのが難しいほどまでにやられたグレムリンはふざける余裕も無い位に完璧に積まれた状態だった。

 

<< FANG MAXMUM DRIVE! >>

 

<< ACCEL MAXMUM DRIVE! >>

 

<< JOKER MAXMUM DRIVE! >>

 

「ウゥゥッ──ガァッ!」

 

エターナルはスロットのスイッチをもう一度押し、必殺技のモーションに入る。勝負を決める為にだ。

 

メモリから送られる力を極限にまで自身の体に巡らせ、大きく跳ぶ。

全身を包み込むオーラが恐竜の頭部を形作り、グレムリンに迫る。

 

「あっちゃー、どうやらボクちんもここいらが潮時ですかねー。

…なんちゃって諦める訳無いじゃないですかァァァァァァッ!!!」

 

ラプチャーの合わせ巨大なハサミにさせると持てる限りの魔力を刃先に集めるグレムリン。

その先には踵の刃で後ろ回し蹴りをかまそうとするエターナル。

 

「ウガァッ!」

 

「ヒャッ、ハァーーーーッ!!!」

 

両者の技がぶつかり合うと、その場が大きな爆炎に包まれる。

 

爆音が辺りに響いた後に広まるのは静寂な間。次第に炎が晴れると見えた影は一つ。元の状態に戻ったエターナルがそこに立ち尽くしてた。

 

(…手応えはあったが…なんか引っ掛かる感触だったな…。)

 

「いっやーッ!やっぱ強ェですわお兄さん!!」

 

手応えは確かにあったものの腑に落ちないエターナルの耳に先程まで戦ってた相手の声が響く。声のした方へ振り向くと学園からそう離れて無い家屋の屋根に、右の肘から先が無くなったフリードがボロボロの状態で立っていた。

 

「それでこそオレがぶっ殺したいランキング一位っすよォ!

んもうホント惚れ惚れしちゃう!」

 

「あっそ…コッチはいい加減死んでくれって思いで一杯だが?」

 

「いやんいけず。でも今日はボクちんここでおさらばなのです!ホラァ右腕スパッと切れちゃったしィ?正直もう負けるムードメッチャするんでェ…。

んじゃーねェーお兄さん!次はちゃんと殺すんでその首ピッカピッカに洗って待っててねェ~!」

 

残った左腕をブンブン振りながらフリードは人間離れした脚力で屋根伝いにその場を後にした。

追い掛けようとするエターナルだが、足に力を籠めた瞬間、鋭い痛みが走り右足に目をやる。

 

(あの時斬られてたか……抜け目のないヤツ…。)

 

ふざけてる癖にあの場から右腕の犠牲だけで済ませ、おまけに自身の足に一撃叩き込ませるとは、内心フリードの評価を改めたエターナルだった。

 

(秋達は…撤退したか。なら俺もさっさと…。)

 

辺りを見渡してマッハ達の姿がない所を確認すると、ゾーンメモリを取り出してスロットへ入れようとした時だった。

 

今日の一大イベントの発表に使われていたであろうステージの巨大スクリーンに突如ノイズが走り思わず目をやるとエターナルは仮面の下で目を見開いた。

 

 

ノイズが消え、段々画面が鮮明に映し出される画像にエターナル、悠にとって衝撃的な映像が出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『全世界の紳士淑女の皆様方、御機嫌よう。如何でしたでしょうか?我々が皆様にご覧入れたショーは。」

 

丁寧且つ紳士的な振る舞いで映像を見てるであろう視聴者に語る様に写しだされてるのは、敵の一人である仮面ライダー、ソーサラーであった。

そしてソーサラーを中心に左右に分かれて姿を見せているのはマルス、ゴルドドライブ、オーディン、そしてコーカサス。倒すべき敵の全員が今写しだされると言う光景に悠は目を疑った。

 

 

 

 

 

 

 

『皆様も既にお気づきでしょうが、ここに居るのは全員、先程までショーを盛り上げてくれた仮面ライダーです。

私は魔法使いのソーサラー、仮面ライダーソーサラー。ファントムと言う怪人を生み出し、冥界の転生悪魔をファントムに変えた張本人です。』

 

場所は変わり学園の避難区域内では、携帯のテレビ機能から今現在悠が見てるのと同じ映像を目にしてる古城達が突然の事に誰もが口を出さないなか、浅葱だけは自身の携帯画面に映るAIプログラムのモグアイに映像の発信源を辿らせてた。

 

<…オイオイマジかよ、コイツはちと洒落にならねえぜオイ。>

 

「モグアイ!何か分かった!?」

 

<あぁ。この映像、日本どころか全世界に向けて電波ジャックされてやがる!しかも各国の言葉に合わせた翻訳も込みでだ!>

 

「全世界!?この映像が今、全世界に向けて放送されているって言うの!?」

 

<その通りだ。しかもこれだけ大胆なことやりながらも、ハックした痕跡を何一つも残してねえ。

この手際の良さ…認めたくねえが嬢ちゃん以上の腕前だぜ。>

 

モグアイから告げられる事実を余所に映像は進んで行く。

 

『折角なので他のメンバーもご紹介しましょう。

まず右から、仮面ライダーマルス。冥界襲撃時に大勢の悪魔を見事返り討ちにした猛者です。』

 

『ってオイ。何勝手に紹介してんだよゴラ。』

 

『その隣が、仮面ライダーゴルドドライブ。機械生命体ロイミュードの開発者であり、主に電脳戦を担当してます。』

 

『フフフ、よろしく。』

 

『次に左から、仮面ライダーオーディン。主に単独での行動が多いですが、北欧神話の精鋭を相手に単独で攻め入る程の戦力を持ってます。』

 

『我を安々と語るな。下等生物共が簡単に知って良い我が名では無い。』

 

『フゥ…そして最後は、仮面ライダーコーカサス。冥界のトップ、魔王四人を倒した我々のエースです。』

 

『………。』

 

『さて自己紹介が終わった所で皆様にご報告を。

我々組織一同──通称”BABEL”は全世界に対し、宣戦布告を告げます!』

 

放送を見る誰もがその言葉に驚愕の色に染まる。それはスクリーン越しに見てる悠も同じだった。

 

(アイツ等…。この場で自分達の存在を知らしめて何を企んでる…。)

 

『我々はある目的の為にまず通過点として世界を一度壊します。先程のショーをご覧の限り、我々の怪人軍団に皆様の苦戦は必須でしょう…。それでも我々に立ち向かうと言う意志のあるお方は是非とも来てください。

我々を…私達を、少しでも楽しませてくれる為にね。』

 

『そして、今コレを見てる仮面ライダー君達。今回のショーを盛り上げてくださり実に感謝してます。キミ達が見せてくれた大立ち回りは、世界中の皆様にいい刺激を与えたでしょう。』

 

「ッ…野郎…ッ!」

 

『キミ達との決着。それは我々の目的を果たす上で大いにその命運を分けるものとなりましょう。ですから、次に会うまで更に力を磨き上げてください。──キミの存在は、私達を高みに昇らせる為の試練だ。』

 

『つー訳だ、次会ったらいい加減カタ着けようぜェ。三度も邪魔されるのはゴメンだからよォ。』

 

『ボクも忘れないでよ?でもその前にキミの相棒を消させて貰うんで、それまでちゃんと面倒を見るんだよ?』

 

『人間。我の判決は変える事は出来ない絶対の宣告。故に貴様の運命は、我が直々に終わらせてやる。』

 

『………。』

 

『では皆様、長々とご清聴、ありがとうございました。

次に姿を見せる時は、世界を終わらせる時ですので、その時まで───御機嫌よう。』

 

そこで映像は切れて、スクリーンにはノイズも走らない真っ黒な画面だけが写るだけになった。

 

映像を見ていたエターナル、悠は手から血が出そうなほどに握りしめながら仮面の下で隠しながら怒りを露わにした。

 

「ここまでコケにしやがって──やってやろうじゃねえか。

テメエ等全員、ロイミュードもファントムも、俺が全部───殺してやる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園で起きた怪人騒動。

 

数多くの怪人が襲撃したにも関わらず死者は0という奇跡的な数字が出たが、代わりに迎撃、避難に遅れた生徒、教師に数多くの重軽症者が出てしまい、心機一転で始まる筈だった学園生活の初日は混乱の恐怖に包まれた最悪の日となってしまった。

 

そして同様に大きな衝撃と言えば、全世界に宣戦布告を公表した敵仮面ライダーの組織、BABELの存在。

 

噂で語られてた仮面ライダーの存在と、それ同士が敵対していると言う衝撃的なニュースは瞬く間に全世界に知れ渡り、今現在もテレビやインターネットではその話題で一色である。

 

そしてその衝撃的なニュースを警戒が解かれた避難区域にて避難してた古城達も情報通の浅葱からどれ程のスケールかを耳にしていた所だった。

 

「世界を壊すとか……コイツ等正気かよ?そんな事が本当に…。」

 

「…本当なら私も否定したいとこですけど、先輩も見たでしょう?

特に私達を助けたあの黒い仮面ライダー。あの数の怪物をいとも簡単に倒したあの力…。あれ程の力をあの金色の仮面ライダー達も持っているとするなら…。」

 

「………否定、出来ねぇな。」

 

映像で見たリュウガのサバイブの力は圧倒的な数の暴力とも言える怪人の集団を容易く葬った映像は中継で見た誰もが圧巻としたのだ。

 

武偵はおろか悪魔勢も太刀打ちできなかったロイミュード、ファントムを簡単に。世間は嫌と言う程仮面ライダーの圧倒的な力を見せられ、特に古城は強大過ぎる力が周囲をどれだけ混乱に導くかその実例を見せ付けられたのもあって、もし仮面ライダーの立場が自分だと想像するだけでも嫌な汗が止まらずにいた。

 

「先輩?」

 

「ッ!ど、どうした?」

 

「いえ、先輩顔色が…。」

 

「な、何でもねぇよ。……そうだ!灰原!アイツが何処でどうしてるか、ちょっと心配になってな。」

 

「そういえば…先輩らしい人影は何処にも見当たらないから別の避難場所に行ったかもしれませんね。この学園は只でさえ広いですから…。」

 

「あぁ。ったく、あの野郎こんな時にサボりなんざしやがって。お蔭で…。」

 

古城がこの場に居ない悠に対し悪態を吐く理由。それは視線の先で夏音に背中を擦って貰ってる凪沙であった。

凪沙は人外に対してトラウマを抱えており、今回の騒動でロイミュードやファントムなどの怪人を見た所為で精神が不安な状態なのだ。それに付け加え、悠の安否が不明と言う事態が重なり凪沙の顔色は普段の明るい雰囲気とは別物でひどく暗い表情であった。

 

「心配ですね、灰原先輩…。無事だといいんですけど…。」

 

「大丈夫だろ。アイツ訳分かんない所あるけど、それなりに強いらしいし、案外ひょこっと出て来たり…。」

 

「呼んだ?」

 

「うおォォッ!?」

 

「ッ!?」

 

暗い空気を和ませるつもりで言った古城の背後から、宣言通りにひょこっと現れた悠に跳び上がる程驚いてしまう古城。雪菜も古城程ではないが、気配も無く現れた事に対し内心驚いてたがそれを表に出す事はしなかった。

 

「灰原…オマエなぁ!今まで何処行ってたんだよ!?こんな状況で一人はぐれて、こっちは心配したんだぞ!?」

 

「あぁ悪い悪い。

屋上で寝てたら急に騒がしくなって、何だ?って思って目ぇ開けたら急にファントムが襲い掛かって来るわで、しかもこれまたしつこく追いかけて来るもんだから人が居るトコに逃げたら巻き込みむかと思って人通り避けて一人必死に逃げてたってワケ。」

 

「そうだったんですか…。もしかして先輩も仮面ライダーに?」

 

「うん。黒い仮面ライダーが助けてくれてね。

いやーにしてもあの時ホント死を覚悟したわ。うん。」

 

「ったくお前は……?お前…何処か…。」

 

「先輩、急で申し訳ないんですけどこっち来てください。」

 

「え?なによ?俺ちょっと疲れて休みたいんだけど…。」

 

死にかけたと言ってるのに反して何時もの如く軽い調子で語る悠に、今まで安否を気にしてたのが馬鹿らしくなった古城だったが、ふと吸血鬼による体質の所為かあるモノの匂いに敏感な嗅覚が悠に反応した。もしやと思い追求しようとする古城だがその前に雪菜が悠の手を引いて何処かへ連れて行かれてしまう。

 

半ば強引に連れてく雪菜に対し悠は申し訳程度の抵抗するが、連れてかれる行く先を見て抵抗を止めた。悠の目にいつも元気ハツラツである凪沙が酷く沈んだ表情で蹲っている光景を目にしてしまったからだ。

 

雪菜に手を引かれて此方に近ずく悠の姿を見た夏音が凪沙に声を掛けた。夏音の言葉に反応して下を向いてた表情が暗い凪沙の顔が悠に向かれた。雪菜に背を押されて、雪菜の言いたい事を察した悠は目線を合わせるべく凪沙に近づいてしゃがんだ。

 

「ゆー…くん?」

 

「うん。正真正銘、生きてる俺ですよ。ゴーストでもなんでもない。」

 

少しでも和ませようとした悠だったが、瞬く間に涙目になる凪沙を前に夏音と雪菜を交互に見るが、”自分で何とかしろ”との意味合いが込められた視線を返されるだけだった。

 

内心困りながらどうすべきか悩むが、行動を起こす前に体に軽い衝撃が走る。

その正体は凪沙が悠に抱き着いて胸の中で泣いていた。

 

「ひぐっ、…本当に、心配したんだからぁ。…ゆーくんのバカ…。」

 

「……心配掛けて、本当にすみません。」

 

肩を振るわせて胸の中で泣いてる凪沙に対し、頭と背中を出来るだけ優しく手を添える悠。

そんな二人を後ろから見守る雪菜だったが、ふと悠の右の足元に赤い点、血が落ちてる事に気付く。

 

「灰原先輩、もしかして足、怪我してます?」

 

「え?…ッ!ゆーくん、血が!」

 

「え、…あーコレ?

これはぁ…。」

 

「良いから見せてください!」

 

追及する雪菜に口籠る悠だが痺れを切らした雪菜が強引に悠の足を掴んでズボンの裾を上げると、足首辺りをハンカチで止血はしてるが余りの出血量に抑えてた血が滲み出ていた。

出血量からかなり深く切ってる事に雪菜が思うなか古城はやはりと言った感じで悠に話し掛ける。

 

「やっぱりお前ケガしてたの黙ってたのか、こんなに血が出てるってのに…。」

 

「あーいやコレは、ねぇ…。」

 

「ゆーくん…。」

 

「お兄さん…。」

 

追及される現状を誤魔化そうにも、凪沙と夏音からも説明を要求するような視線を向けられ、悠は渋々話す事にした。

 

「いやね、助けられる前に逃げてばっかじゃ埒が明かないから反撃しようと、ドロップキックかまそうとしたら…。」

 

「失敗してこんな傷を付けられたって訳か?」

 

「…ま、そういう事になるね。」

 

「だとしても!こんなに血が出てるのに治療も受けないで私達の前に来るなんて、非常識にも程が在りますよ!?」

 

「男って生き物はね、無駄にカッコつけたがるバカな生き物なんです。うん。…ってアレ?」

 

開き直るよ様な物言いに雪菜と古城が文句を言おうとするがそうする前に悠の両脇を凪沙と夏音がそれぞれ掴んで逃げられない様にがっちりと拘束した。

 

「あの、お二人さん?何コレ?」

 

「別に?ただちょっとお話ししながら一緒に治療してる所へ行こうと思って、ね。」

 

「…凪沙ちゃん、何か元気になった?なんかいつも通りのカンジに戻ってるけど…。」

 

「うん。お陰様で♪とりあえず、何で真っ先に手当てしなかったのと、朝礼サボったのか聞かせて貰うからね♪」

 

「……叶瀬?」

 

「お兄さん。私にも聞かせて欲しいでした。」

 

「……暁?姫柊さん?」

 

「自業自得だ。バカ野郎。」

 

「これには先輩に同意見です。お二人とも、灰原先輩の事は任せましたね。」

 

「うん!じゃあ行こっか夏音ちゃん。」

 

「はい。」

 

「イヤお気持ちだけ受け取って置くよ!俺専属の掛かりつけ医居るからさ!ね!?ちょっとーーー!?」

 

女子中学生二人に引き連られる男子高校生という異妙な光景を前に古城と雪菜の二人は苦笑いでそれを見送った。

 

「…凪沙ちゃん、元に戻ってよかったですね。先輩。」

 

「そうだな。暫くあのまんまになっちまうかと思ったけど、こればかりは灰原に感謝だな…礼を言う気はねえけど。」

 

「もう先輩ったら…。にしてもあの傷…。」

 

「?どうした?」

 

「…気になるんです。灰原先輩、さっきファントムに襲われたって言ってましたよね?それで反撃した所を返り討ちに遭ってケガしたと。」

 

「それがどうしたって言うんだよ?」

 

「…裾を捲った時、僅かだけど見たんです。撒いたハンカチの隙間から灰原先輩の負った傷口。

あれ、剣か何かで斬られた時につく跡でした。」

 

「…つまり、どういう事だ?」

 

「思い出してください。学園を襲ったファントムは武器を持ってませんでした。爪でやられたのなら引っ掻いた様な跡が残る筈です。」

 

「…待てよ、つまり灰原は、オレ達に嘘吐いてるって、言いたいのか?何の為に?」

 

「それは分かりません。……ひょっとしたら…。」

 

「?」

 

「……いえ、何でも無いです。少し、考えすぎでした。」

 

口ではそう言うが、雪菜の心情は悠に対する疑惑の思いと、あの時、画面越しに見たエターナルとグレムリンの最後の一撃の光景を不意に頭に浮かべるが、考え過ぎだとその振り払ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────いや、確かにこうしちっまたのは俺だけどさぁ。

一人って可笑しくない?可笑しいよね、コレ?」

 

あの後、朝礼をサボった罰として那月に与えられたのは校庭に出来たクレーターや焼け焦げた土の入れ替えなどの後始末だった。(足の傷はマッドドクターで治した。)

しかも明日が臨時休校なだけに終わるまで帰宅してはならないとのご丁寧な後押しまで付けられては流石の悠もスコップで穴を埋めながら一人愚痴を溢すしかなかった。

 

───いや、正確には一人愚痴を溢してる訳ではなかった。

 

<確かにこれだけの広さを一人でやらせるのはどうかと思うが、キミの今までの授業態度を改めると、これは言い返しが難しいと私は思うが?>

 

「あぁそうですね。かもしれないねぇ。

でもねぇ、そうだとしても一つ腑に落ちない事があんだよねぇ…。」

 

肩に乗ってるシフトネクストに意識を移してるクリムに対し悠は喋っていた。

罰の内容に納得がいって無い所為か、珍しくも胸の内の不満をさらけ出す。

 

「……何で俺は一人土方みてえな事して、あの野郎は普通に帰ってんだよ!普段なら要らねえとこにまで出て来るクセにこう言う時に限ってよォ!」

 

<秋はキミと違ってちゃんと朝礼に出ていたからね。それに今日の戦闘で一番体に負荷を掛けたのは秋だからね、今日はもう休ませた方がいい。今日の彼はよく頑張ってくれたさ。>

 

「……まぁそうだな。流石に二度目でバースト状態はな…。」

 

<あぁ。彼も随分無茶をするようになったものだ。キミと同様に。>

 

「んだよ、俺の所為ってか?」

 

<そうは言って無いよ。キミの背中を見て、良い所も悪い所も伸びて来たと言ってるだけさ。>

 

「いや、結局それ俺が悪いって事になんじゃん。」

 

<そんな事よりも口を動かす前に手を動かしたらどうかね?もう暗くなり始めたし、モタモタすると本当に朝までするハメになるぞ?>

 

「ハイハイ、分かりましたよ、っと!終わらせてやりますよ、えぇ!………ん?」

 

クリムに言われてスコップを持つ手を動かした悠。クリムの言う通り日は落ち始め夜になり欠けてる為早いとこ終わらせてさっさと寝ようとスコップを動かすペースを早めた時であった。不意に後ろに誰か居るのに気付いて振り返ってみると。

 

「やぁ悠。後片付けまでご苦労様だね。」

 

「ゼノヴィア?お前帰ったんじゃねえの?」

 

そこに立っていたのは一子達と帰った筈のゼノヴィアが動きやすい学園指定のジャージでいた。

 

「いや、今日一番の功労者を手伝おうかと思ってね。一子にはそれなりの理由を言って先に帰って貰ったんだ。」

 

「手伝うって、イヤいいよ。確かに不満はあるけど、こんな風にしちまったの実質俺だし。」

 

「それは仕方のない事だろう?確かにキミはやり過ぎたのかもしれないけど、死者を出さない為に戦ってくれた事には変わらないんだから。

…それ、使わせて貰うぞ。」

 

そう言ってゼノヴィアは悠の了承も聞かずに近くに置いてあった焦げた土の入ってる一輪車を押して作業を始めた。

どうしたものかと溜息を吐いてこめかみ辺りを搔いていると肩に乗ってるシフトネクストが語り出す。

 

<…どうやら、人が来たみたいだし此処はお邪魔しないで立ち去るとするよ。>

 

「え?ちょ、おいクリム!」

 

所謂、空気を読んだのか自分はここに居るべきではないと言って悠から離れてったシフトネクスト。

頬を引き攣らせながら唖然とする悠の元に、土を運び終えたゼノヴィアが戻ってくる。

 

「どうしたんだ?向こうに何かあるのか?」

 

「あ。…いや、何でも無い。うん。」

 

「……そうか。なら早く終わらせてしまおう。まだこれだと時間は掛かりそうだからな。」

 

「……あぁ。そう、だな。」

 

この後黙々と作業を続けた結果、夜にこそなってしまったが3時間程である程度校庭は綺麗になったと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──本当にここで良いの?」

 

「構わないよ。キミと一緒に居たとなると、一子から質問攻めにあってしまいそうだから。」

 

罰を終えた悠は手伝ってくれたゼノヴィアをローズアタッカーの後ろに乗せて川神院の近くと言った所でゼノヴィアを下ろしていった。

別れを言って川神院に行こうとするゼノヴィアを後姿を見て、悠は今日の襲撃と敵の宣戦布告の映像を思い返して此処でいずれ言うべき思いを今伝えようとした。

 

 

「……ゼノヴィア。」

 

「ん?どうした?」

 

「…いや。今日起こった事を思って、ここでハッキリと、お前に言わなきゃいけないと思ってな…。」

 

バイクから降りた悠の戸惑いながらも真面目に向き合う態度にゼノヴィアは只事では無いと察したのか、黙って耳を傾ける事にした。

 

「俺達、お互いの為を思って今後余り関わらない方が良いと思ってる。学校でも、それ以外でも…。」

 

「…詳しい訳を教えてくれるか?」

 

「理由は言わずもがな、今日の宣戦布告だよ。

敵は本腰入れて来たと言って良い。そんな中連中が何時俺の周りの奴等に手を出すかなんて予想は尽かない。」

 

「……なぁ悠。私は…。」

 

「それと!……その………コレは俺の自惚れかもしれないが、その…………お前が、俺に向けてる気持ちは、すっごく嬉しい。…あまり…そう言うのに、縁が無かったから素直に受け入れ難かったが…。」

 

「………。」

 

口元に手を当てて途切れ途切れで普段の口調とはかけ離れた告白にゼノヴィアは黙って聞いた。ゼノヴィアには悠がどれだけ今自分の気持ちを伝えようとしてるかが、今の言動で分かっていたからだ。

 

「…でも悪いんだけど、俺はお前の気持ちに…応えてやれない。………いや、むしろ俺はそういうのに答える人間じゃ無い…。」

 

「何故だ?何故そこまで自分をそう言いきれる?」

 

「…前に仮面ライダーにどういう噂が流れてたか、お前覚えてるか?」

 

「あぁ。凶悪な異能力者を倒している仮面の男だろ?…。」

 

「そう、怪人退治する前はそう言われてた。

そして、それは別の言い方に直すと。凶悪な異能力者を”殺してた”だ。」

 

「………。」

 

「相手がどんな悪人だろうと、どんな理由だろうと、やってる事はソイツ等と同じ。…分かる?俺、頭の先からつま先まで、真っ黒なんだよ。人殺しだよ。

でも俺は奴等を殺した事に関して後悔はしてない。そうしなければいけない奴等だったからだ。

………そんな人間が、誰かに好意を向けられていい人間じゃダメなんだよ。………だから……お前は、俺を好きになっちゃいけないんだよ。」

 

「………。」

 

 

今まで目を背けてた気持ちに対して向き合い、これが正解だと確信した上での答えを悠は告げる。

 

こういう事になったきっかけは言わずもがな今日の騒動、BABELの宣戦布告である。

これから敵の行動は本格的に動く。恐らく今まで以上に大胆にだ。それと同時に世間に仮面ライダーの存在が公になってしまった事で向けられる眼もこれから増えて来るだろう。様々な感情が籠った邪なモノも。

 

だからこそ今此処で告げなければいけない。それが自分にとっても、ゼノヴィアにとっても、今頃家にいるラ・フォリアも、学園で知り合った古城達にも。

 

メモリーメモリを見えない様に手に隠して、隙を窺い記憶を消す用意をする悠。

今まで黙って聞いてたゼノヴィアは長い沈黙の後、ようやく口を開いた。

 

「……真っ黒か。それなら私もキミ同様に真っ黒と言う事になるな。」

 

「え?…。」

 

「教会に属してた頃の私はこの手で異端者を何人も殺めた。

神の意志に反すると言う理由で、自分が行ってる事が正しいと疑わずにだ…。

でも、神が居ない事を知って……いや、今のキミの言葉を聞いて改めて思い返すと、私のしたことは救いでも神の意志でも無い、ただの殺しだったんだなって、今になって気付いてしまったよ…。」

 

「……。」

 

「…なぁ悠。逆に聞いてしまうが、そんな私がキミを好きになって本当に良かったのだろうか?」

 

「…え゛?……いやそれは……そうだな……うん…。」

 

想いも寄らない展開に、本気で焦り出した悠。

本当なら言うだけ言ってきっぱり拒絶した上で記憶を消そうとしただけなのに、何故か過去の過ちについての応えを求められる羽目になり、最早ラスボス級の怪人を相手にした方がマシと思える位の状況に悠は必死に頭を働かせていた。

 

「えと、その、だな……ま、まァ確かに、殺した事実は何があっても消えないモンだから一生残るとして…大事なのは、その…向き合うと言うか、受け入れると言うか……そう!過ちから目を逸らしちゃいけないってヤツだ!

俺が今まで見たヤツの中には殺して当たり前だー、や、殴ったら死んだー、だの、微塵も悪いと思って無い奴も居た訳だから、その分お前は自覚が在るから全然マシと言うか……。

───あ゛ーーーーーーッ!!!もう!メンドクセェ!!!」

 

馴れない人生相談に気が狂ったのか、頭を掻き毟りながら叫ぶ様は至高を放棄した表れだった。

 

「悪い事したって自覚あんなら、それ以上に人の為になる事やれや!!!

あん時も言っただろがよ!”誰かに言われたからってソレが生きる全てじゃない”って!

贖罪も恋愛も、自分のやりたいようにやって勝手に満足しやがれ!!!」

 

吹っ切れた悠は半ば吐き出す様に胸の内を言い、余りに大声で叫んだ所為で息を切らす悠と、目をパチクリと見開くゼノヴィアにしばらく沈黙の空気が流れると、冷静になった悠が感情的とは言え自分の言った事に対してどれだけ無茶苦茶な発言だったか思い知ってしまった。

 

「…あーー…ゼノヴィア。さっき言ったのは…。」

 

「…ハ…アッハッハッハ!」

 

どうにかして訂正しようとした悠だったが、そうする前に何故か腹を抱えて笑い出すゼノヴィアを前に悠は内面狼狽える精神を落ち着けるのに必死だった。

 

「ハハハ。全くキミは、戦う時とのギャップが激し過ぎるよ…。」

 

「…るっせえよ。」

 

「…だが、お蔭で私も吹っ切れた。

そうだな、贖罪も恋愛も、他人に聞いてやる事では無いな。

なら、別にキミをこのまま好きなままでいい訳だ。うん。」

 

「…って待てい。

言ったじゃん。俺さっき言ったじゃん!俺は止めとけ、って!」

 

「でも私はキミが好きなんだ。止めろと言われても私がそうしたいんだから仕方ないじゃないか。」

 

「仕方ないって、お前なぁ…………ほらアレ!俺いい年こいて未だ全然泳げないし!この間も溺れる様見せちゃったし!」

 

「なら、泳げるように練習に付き合うよ。時間を掛ければすぐ泳げるようになるさ。」

 

「…えーっと……そう!俺嘘吐きまくりの野郎だし!言ってる事ほぼ九割が嘘みたいなもんだし!」

 

「ならキミがさっき自分を最低だと言ったのも嘘か?私に対してのさっきの言葉も。」

 

「………いやアレは本心であって、お前がマシなヤツってのも嘘じゃ無くてだな…。」

 

「ならその本心だけ知れて私は満足だよ。」

 

(オイオイ、なんか描いてた展開と全く違うんだけど!?全然俺を諦めてくれる感じじゃないんだけど!?……仕方ない、ここはアレを使って…!)

 

「ゼノヴィア!」

 

「なんだい?まだ何か言う事があるのか?」

 

悠はなんとかゼノヴィアに諦めて貰おうと、ある意味最大の爆弾を使おうと最早躍起になっていた。

 

「これは、これから言う事はお前にしか言わない真実だ。

正直、聞いたらすごく引くレベル。」

 

「ほお…。」

 

「いいか?良く聞いとけよ。実は俺───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

年齢詐称してる。」

 

「………。」

 

「ぶっちゃけ言うと、もう還暦超えるくらい生きてる。」

 

「………。」

 

(流石に中身がジジイで若作りしてるヤツが学生やってるだなんて受け入れがたいだろ。……正直コレ、転生に関してギリギリ触れるか触れないかのレベルだからバレたら減給モンだし。)

 

実際の所、悠の言ってる事は本当にヤバいレベルでギリギリである。

 

悠の仕事柄超ハードな肉体労働である為に体のコンディションを最高にする為、体の成長が止められているのだ。これは天界側が決めた原則のルールであり、悠は今の状態より先の、自分の姿を知らない。ずっと17歳のままの体で長い時を過ごして来たのだ。

 

だからコレは本来言ってはならない事だが、ヤケになりがちの悠にはもうゼノヴィアに自分への好意を諦めさせることしか考えてなかった為に言ったのだ。

 

流石にこれには直ぐに言葉を返してこない反応に、それなりの効果を期待した悠であったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そうか、そういう事か。」

 

「…はい?」

 

何故か顎に手を当てて納得する反応が出て、思わず間抜けな声が出てしまう。

 

「キミがその歳であそこまでの強さを持つ秘密は、長寿による長年の経験の賜物と言う訳か…。合点がいったよ。

にしても私にだけ、か…フフ。」

 

(………アレ?なんか、喜んでね?もしかして、逆効果?…。)

 

ゼノヴィアにとっては悠が自分にだけ打ち明けた秘密という響きに優越感に浸っており、悠が思い描いたシナリオとは全くの別ものとなる結果に終わってしまっただけだった。

 

(どーーすんだよコレよォ。なんかもうやる事全部から周りなんですけどォ。

つかなんで俺こんなことやってるんだっけ?てかさっきから俺何言ってる訳?て言うかこんな事になるなら無理矢理メモリ挿せば済む話だったんじゃね?あーもーなにがなんやら───。)

 

「悠?………もう、しょうがない──ん。」

 

もう成す術無く完璧に圧された悠の惨敗だった。今のように悉く失敗に終わり真っ白になってる姿は今日一番に暴れてた仮面ライダーだとは誰も思うまい。

 

そんな悠にゼノヴィアは声を掛けるも、口から魂が出てる状態の悠は全く反応しない事に無理やり奪う形で口同士を合わせた。

 

「ん…ちゅ…。」

 

「ッ!?」

 

オマケに放心状態である為に簡単に口内に舌を入れるなどの大胆な行動は悠を正気に戻すのに十分だった。

 

「ぷはッ…ふぅ。さて悠、これから私の話をよく聞いてくれ。」

 

「あ……はい。」

 

顔を掴まれながら真剣な目で語るゼノヴィアを前に、悠はもうされるがままだった。

 

「キミが私に持ち出した話の意味は理解できる。じゃなきゃそこまで躍起になるまで関係を切ろうと言う筈無いからな。」

 

「分かってるなら、尚更…。」

 

「でもその前にキミはちゃんと向き合うべきだ。私やラ・フォリアや一子の様に君を好いてる人たちの気持ちに。私の後にラ・フォリアにも同じことを言うつもりだったんだろう?」

 

「……。」

 

当たってる為に何も言えない悠であった…。

 

「これは私からのお願いだ。

ちゃんと私達の気持ちに向き合って、その後に言ってくれ。その時は素直にキミの意見を尊重するさ。」

 

「…コレがお前にとっての本気の恋なら、敵に塩どころか財産送る様な行為だと思うけど?」

 

「勝てばいいだけさ。勝って私に夢中にさせる。誰よりもね。」

 

「…ヤダお前、すっげえ男前。」

 

「そうさせたのは、キミだよ…。」

 

そう言いながら段々と顔を近ずけるのに対し悠は。

 

「待って、もう大分落ち着いたから…。」

 

「あぁこれはあの時出来なかったやつだよ。」

 

「あの時って?」

 

「仮面で隠れて出来なかった時だよ…。ンッ…。」

 

再び重なる口づけは先程とは違って触れるだけのモノだったが、今までされるがままの行為に対し悠はそっとゼノヴィアを抱きしめたのは、大きな変化だった。

 

 




闘いにはとことん強く、女には滅法弱い。今回はそんな感じがメインの主人公を描いた感じでした。

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