その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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昼に上げましたが、一部書き入れる筈だった部分を入れ忘れていたので訂正入れました。(20:50)


進化

 

 

進化

 

街の街道を並走する二台のマシン。

マシンディケイダーに乗ってる悠がサクラハリケーンで追い掛ける様に走らせてる秋に事の事情を話していた。

 

「えぇッ!?天龍達が!?」

 

「あぁ。地下に置いてあったライダーシステムを勝手に持ち出しやがった。」

 

アクセルを前のディケイダーに合わせる様に一定のスピードに調整しながら耳を傾けてた秋。天龍や同じく持ち出してった摩耶と木曽も普段から前線への出撃を強く希望していたのは秋も知っている事だったが、まさかこのような形で前線へ出ようとしてるなんて想像尽かなかった。

 

「それで具体的に三人を見つけてどうすんのさ!?」

 

「ベルトを回収した後に馬鹿共にキツイお仕置き喰らわせてやる。

…とにかくあのベルトを使わすような事態になるまでに見つけるぞ、持ち出したモノがモノだ。もし下手したら…。」

 

「悠兄さん?」

 

「…シフトカーはもちろん、地下に置いてたガジェットも各地に動かした。俺達はこの辺一帯隈なく探すぞ。」

 

「了解!

…それと悠兄さん。関係無い事だけど聞いても良い?」

 

「何だ…。」

 

「……何でさ、神通ちゃんが運転して悠兄さんは後ろに乗ってるの?」

 

ずっと気になってた疑問点を指摘する秋。

今ディケイダーを動かしているのは付き添いで来た神通であり、悠はその後ろで腰に手を回して座っている状態。

 

「いや、最初は俺が自分で運転するつもりだったんだけど…。」

 

「重症人が下手に動いて良い訳無いでしょう。

今の悠さんは痛覚を感じないだけで実際は途轍もない負荷が体に掛かってる状態なんですよ。」

 

ハーフメットとゴーグルを身に付けディケイダーを操作しながら悠の代わりに答える神通。

秋が後ろに座ってる悠の体を注視してると脇腹辺りの包帯に若干血が滲んでた。

 

「だから秋さん。もし戦闘が起こる様ならその時はお願いしていいですか?」

 

「オイ神通。俺はそこまでお世話されるつもりはねえんだけど?」

 

「そんな体で言われても説得力の欠片も在りませんよ。秋さんが見つかったら良かったものの、その体で戦えば…。」

 

それ以上先が言えず黙り込む神通。悠も顰め面をするだけで何も言って来ないと言う事は自身の体がどんな状態なのか、このまま戦えばどうなるかがある程度予測できるみたいであった。

 

「…オーケー。オレも丁度覚悟決めて来たとこだし、悠兄さんはゆっくり見てなよ。」

 

「……はぁ、仕方ねえか。ただみっともないザマ見せたら即座に変わるからな。」

 

「要らねえ心配だよ。ちったぁオレを信じろっての。」

 

「…そうかい。なら期待しとくよ。」

 

「オウッ!」

 

(…この様子なら、お二人の仲の心配は杞憂だったかもしれませんね。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、時に悠兄さん。

今神通ちゃんと密着してるけど、抱き心地の感想どう?いい匂いする?」

 

「え?…んなぁッ!?」

 

「おぉッいッ!?ちょ神通!しっかりハンドル握れ!今事故ったら俺死ぬから!」

 

「アッハッハ!やっぱオレ達ってこうでなきゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、事の重大さを知らず街を散策してる当の三人は…。

 

「う~んやっぱ居ねえなぁ敵さん。」

 

「まぁ出て来るタイミングはかなりバラつきがあったみてぇだからなぁ。

偶然街を歩いてタイミング良く遭遇は流石に出来過ぎだったかぁ…。」

 

「…なぁ、今になって気付いたんだけど。

オレ達何も言わずコレ持って来ちゃったけど、冷静に考えたらコレって相当ヤバい事してねえか?」

 

地下で見つけたライダーシステムを早速実戦で試そうとする天龍、摩耶、木曽の三人は、街を散策して試すのに丁度良い相手を探しているがそんな都合よく出て来る様なもので無い事に気落ちしながら周囲を見渡していく天龍と摩耶。

そんな中木曽が一人懐に入れたライダーシステムを服の上から抑えながら事の重大さに気づいて不安な気持ちになるなか、そんな心配など全く眼中に無い二人。

 

「まぁーだ、んな事気にしてんのかよ木曽。

お前少し心配性すぎんだよ。」

 

「どちらにせよ、やっちまったもんはもうどうしようもねぇ。いい加減きっぱり覚悟決めろよな。」

 

「そうだけど……?」

 

「?、どうした木曽、なんか目が点になってんぞお前。」

 

「う…うし…。」

 

「牛ィ?ダッハッハ!何だよお前、腹減って牛喰いてぇってか!?」

 

「違う!後ろ!二人とも後ろ!!!」

 

「あ?後ろが何だって…。」

 

天龍と摩耶が同時に後ろを振り返ってみると…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーギィェェエエェェェッ!!!!!ーー

 

「のわぁぁぁあぁああッ!?!?!?」

 

「ひゃぁあああぁぁあッ!?!?!?」

 

空を飛ぶ悪魔の様な風貌の怪人が二人に襲いかかって来たが、瞬時に頭を下げたお蔭で怪人は頭上を通り過ぎるだけに終わった。

突然空から現れた怪人の姿を見て街の住民達は悲鳴を上げて我先に逃げて行く。そんな中三人は空を滞空する怪人を前に落ち着きを取り戻せずにいた。

 

「な、なななッ、なんだありゃ!?あ、ああああ悪魔かありゃあ!?」

 

「お、落ち着け!アレは多分敵だ!機械の体じゃねえって事は、ヤツはファントムだ!」

 

「何ィ!?…!、お、オイアレ…。」

 

「…ウソだろ。」

 

「確かに探してたけど…此処までは要らねえよ…。」

 

 

ーーキィェエァァアアァァッ!!!ーー

 

ーーシィャァアアァァァアッ!!!ーー

 

いち早く冷静になり目の前の怪人の正体を当てる木曽。

現れた未知のファントム、デビルファントムを前にする天竜の耳に背後から羽を羽ばたく様な音が二つほど耳に入り目をやると、そこには前方同様に二体のデビルファントムが下の天龍達を前に滞空してた。

 

「…へ、へへ。」

 

「おいどうした天龍。引きつった苦笑い浮かべて…。」

 

「いや、来ねえか来ねえか思ってた敵が思い掛けない位来た事に武者震いしてたんだよ。」

 

「へっ、どっちかと言うとビビッて気が可笑しくなりそうに見えたけど?」

 

「うるせぇ。オメェだってさっきの”ひゃあぁ!”って随分可愛らしい声で叫んでたクセに。」

 

「うっせえ!アレは…アレだ!驚いたんじゃ無くてだな!」

 

「オイ二人とも!その辺にしろ!オレ達今狙われてんだぞ!」

 

敵をほったらかして口論しそうになる天龍と摩耶を止める木曽。木曽の言う通り、デビルファントムは全員三人に狙いを定めまたしても上空から襲いかかって来た。

 

各々回避行動を取るなか、天龍は地下から持ち出したベルトとカードを取りだす。

 

「摩耶ぁ!木曽ぉ!行くぞぉ!!」

 

「よっしゃあ!摩耶様の戦いぶり見せてやんぜ!」

 

「あークソッ!もうなる様になっちまえ!!」

 

摩耶と木曽もベルトとカードを取り出すと、トレイを引き出してカード入れる。そのまま腰に当てるとベルトからカードが腰に巻き付くと一本のベルトになり、低い待機音が鳴り響く。

 

三匹のデビルファントムが地上に降り立ち対面向き合い、ニヒルな笑みを浮かべた。

 

「さぁて、初のお披露目がテメエ等見てぇなブサイクには少し勿体ねえが特と目に焼き付けやがれ!

──変ッ身ッ!」

 

「よっしゃアタシも、変身ッ!」

 

「え、これ言う決まりなの?…あぁもう!変身!」

 

少し大袈裟なポーズを取る天龍がベルトのカバーをスライドさせると、そこから黄色のゲートが現れ天龍に迫る。

次いで摩耶、木曽の前にもゲートが出現し、三人はゲートをくぐろうと駆けだして行くが…。

 

 

 

 

 

バチィィンッッ!!

 

 

「へぶッ!?」

 

「んひゃあッ!?」

 

「おわッ!?」

 

ゲートが三人を拒むように弾き壁に当たったボールのように弾き飛ばされてしまう。

ベルトのカバーも自動的に閉じゲートが消失するなか摩耶がベルトを引き剥がして吠える様に言う。

 

「何ッだよコレ!変身する所か弾かれたぞ!!

壊れてんのかよコイツ!!」

 

「…いや、普通に考えてやっぱりオレ達には扱えないって事じゃ…。」

 

「イテテ……ッ!」

 

文句を言う摩耶に冷静に何故自分達が弾かれたのか分析する木曽。頭を擦る天龍が瞬時に前に出て刀を構えると、そこへデビルファントムの手が受け止められてた。

 

「ぎッ、ぐぅッ!」

 

「天龍!」

 

「こんなろッ!」

 

尽かさず摩耶が艤装を展開してデビルファントム目掛けて砲撃を放つも空へ飛び上って躱される。残りの二匹もまた空へ飛び上って三人を囲う様に飛び回り、逃げ場を無くした。

 

「…なぁ。これもしかしてヤバい状況ってヤツか?」

 

「もしかしなくてもヤバいに決まってるだろ、コレ。どうする?天龍。」

 

「…こうなりゃ腹括るしかねえだろ。ライダーにはなれなかったけど、オレ達は戦える!」

 

背中を合わせ各々艤装を展開し構える三人。

 

そんな三人にデビルファントム達が一斉に襲い掛かって来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<< GUN >>

 

<< シューター! >>

 

 

紫と青の光弾が三人に襲い掛かって来るデビル達に炸裂し、距離を空ける。

 

光弾が放たれたであろう所へ目をやると、そこには重傷で寝ている筈の悠と秋がそれぞれ武器を構えており、傍には同じく艤装を展開した神通が立っていた。

 

「ゆ、悠!?おまえ、どうしてッ!?」

 

「胸に手を当てて空っぽの頭働かせろや。お前等のお蔭でこっちはボロボロの体引きずって動く羽目になってんんだよ。

……この始末、お前ら覚悟しとけよ。」

 

助けが来た筈なのに感情が高ぶる所か逆に下がり出す三人。目の前の異形の怪人より、死に体に近い男の方が何倍も恐ろしい存在に見える所為で膝が笑い出す始末であった。

 

そんな三人を横目に悠達は地上に降り立ったデビルファントムを前にアレが冥界で変わり果てた転生悪魔の姿だと容易に察した。

 

「秋。未知の相手だ、決して油断すんじゃねぇぞ。」

 

「オッケイ。任しといてよ。」

 

<< DRIVER ON! >>

 

注意を呼び掛ける悠に応え秋はビーストドライバーを起動し、チェンジリングを左手に嵌め込む。

 

「変~身ッ!」

 

<< SET OPEN! >>

 

<< L・I・O・N LION!>>

 

その身をビーストに変えた秋はダイスサーベルを構え、デビルファントムへ肉薄していく。

 

一体目の攻撃を受け流し、回り込んで反撃するも臀部の尾が意思を持ったようにダイスサーベルを防ぎその後ろから二体目が爪で切り掛かりそれを受けてしまう。

一瞬よろめいた隙を突かれサーベルを受けた尾でビーストが弾かれ、空を飛んでいた三匹目が大口を開きバレーボール大の魔力弾を放つ。

魔力弾に気付いたビーストはローリングで回避するも三匹目は魔力弾を撃ち続ける。仮面の下で苦い顔をしながら回避し続けるビーストは右手のリングを変える。

 

<< FALCO GO! >>

 

<< Fa-Fa-Fa-FALCO! >>

 

「そゥらッ!」

 

ファルコンマントを身に纏いビーストも飛び上がる。

 

空中戦に切り替わり残る二体も空へ飛び上がり、接近して肉薄するの魔力弾の攻撃を捌きながらビーストもデビルファントムに向かって攻撃する手を休まない。

三匹と一人の戦士の衝突する様を四人はただ眺めているだけだった。

 

「あぁ後ろ来てる!避けろ!……そこだ!イケ!………あッ!今度は上だッ!!!」

 

「煩ぇよ天龍!援護しようにも横でギャーギャーしてたら狙いが定まんねぇだろ!」

 

「止めとけ。今のお前らの弾じゃ援護にもならんよ。」

 

「何落ち着いてんだよお前は!?て言うかお前は戦わねえのかよ!?今秋の奴かなりピンチだぞ!?」

 

「戦おうにも無理なんです!!今戦ったら、傷が悪化するどころか死に至るかもしれないんです!!!」

 

「えぇ!?お前、そんな状態でここに来たのかよ!?」

 

「さっき言った通りですけど?……だがあれじゃあ…俺が出る必要があるか…。」

 

そう言って懐から戦極ドライバーを取り出す悠の手を神通が抑える。

 

「駄目です!!今度こそ本当に死んでしまうかもしれないんですよ!?」

 

「百も承知、ってヤツさ。でも見た限りじゃ、あのファントムの強さと数の差は今の秋じゃ荷が重い。

どちらにせよ俺が加勢に行かなきゃいけねえ。」

 

「待てよ!加勢くらいならアタシ達だって出来る!アタシの十八番の対空なら!」

 

「オレの魚雷だって、仕留めるには役不足かもしれないが動きを止める事位出来る!!」

 

「…アホ抜かせ。これは俺達の戦いだ。お前等の出る幕じゃ…。」

 

「オイ!秋のヤツが!!」

 

天龍の指差す先には三匹に囲まれて魔力弾の容赦ない砲撃を喰らうビーストが落ちて行く姿。ビーストの姿を見た悠の目が見開き今度こそ前に出ようとするが、それを神通が抱き着く形で止める。

 

「離せ…ッ!」

 

「ダメ!アナタが死んでしまったら、それこそ…。」

 

「だからってアイツを死なせる理由にはならねえだろ!!」

 

抑える神通を押し退け様とする悠。巻かれてる包帯が段々血によって赤く染まりながらも止まるつもりは無く戦うつもりだったが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───待ってくれよ悠兄さんッ!」

 

「…秋?」

 

起き上がったビーストが叫び、その声に止まる悠。

サーベルを杖代わりに立ち上がり後ろを振り返らず喋り続ける。

 

「オレはまだ全然やれるぜ…こんな奴ら悠兄さんが出る必要ねえって。」

 

「何言ってやがる!そんな様で…。」

 

「いやー、飯食って無かった所為かなぁ、ちょっとギアが上手く入んなかったわ。

でもこっからカッコいい逆転劇だ!」

 

<< BUFFA! GO! >>

 

<< Bu-Bu-BuBuBu-BUFFA! >>

 

空から来るデビルの一体をバッファマントの角で弾き飛ばしたビースト。

続く二体目の尾が槍のように突き出して来るがサーベルで受け流して、切り返しに横一閃。そのまま足を掴みジャイアントスイングの要領で三体目に目掛けて投げ飛ばし、見事命中させた。

 

「フゥーーッ。

──問題ねえよ、こいつ等も、ロイミュードも、金ピカライダーも…何だってオレは…仮面ライダーで、悠兄さんの相棒なんだからなッ!」

 

「……秋。」

 

自身に活を入れて再度投げ当てたデビルファントムに向かって行くビーストだが、渾身のショルダータックルは横から三体目の突進で吹き飛ばされる。

 

「ぐッ…こんにゃろッ!ならッ!」

 

<< Two! >>

 

<< BUFFA! SAVER STRIKE! >>

 

「どりゃあッ!」

 

突き飛ばしたデビルに向けてセイバーバッファを放つビースト。だがここで残りの二体が一体づつセイバーバッファを特大の魔力弾を放って打ち消し、残る一体がビースト目掛けて突進して来た。

ビーストは真っ向から迎え撃ち、取っ組み合いの形になる。パワー重視のバッファマントを身に着けてる為最低でも拮抗状態になるやと思いきや、ビーストが押され、後ろの建物の壁にぶつかった際にクレーターが生じる。

 

「ガッハッ!?(なんつー馬鹿力だよコイツッ!為す術無く押されたッ!?)」

 

ーーキィェエァァアアァァッ!!!ーー

 

壁に押さえつけられたビーストにデビルは攻める手を止める事無く、耳に突くような鳴き声を上げた後に魔力弾を至近距離から放つ。

 

「グッ!グアァァアアアッ!!!!」

 

体の至る所に容赦なく撃ち抜かれる痛みが走るビーストの叫びは悠達の耳にも届いていた。

ドライバーを着けようとする悠だが途中で止まる。

 

 

 

 

 

 

ー何だってオレは…仮面ライダーで、悠兄さんの相棒なんだからなッ!ー

 

 

(そんだけデカい口叩くなら、この位の逆境を超えて見せろ!)

 

 

 

掛ける言葉はない。助けの手は貸さない。今はただ、秋の可能性を信じる。

 

それが灰原悠の、桜井秋に対する信頼の形。

 

壁に磔にされてるビースト、秋の姿を悠は眼を逸らさず見続けていた。

 

 

 

 

「…ん?な、なぁ、皆あれって…。」

 

「?、何だいった…?」

 

後ろで何か見つけた木曽が呼びかけ全員が後ろに注視すると此方に向かってくる余りにも小さな影が走って来るのが見えた。

そして何故かそのシルエットに全員が見覚えのある姿でもあった。

 

「…なぁ、気のせいじゃなければアレって…。」

 

「いやまさか…でも背の低さって…。」

 

「…神通?」

 

「いえ!彼女は基本戦場に出るような役割を与えてない筈です!」

 

「いやでもアレどっからどう見ても…。」

 

やがてその正体が悠達の足元に辿り着いた。

 

 

 

「お待たせしましたぁ!雪風ただいま到着です!」

 

影の正体は駆逐艦の中で幼い部類に入る雪風。天界での決まりであまりに年端もいかない駆逐艦は戦闘以外の任務を務めさせるという決まり事があるのだが、何故ここに雪風が一人で来たのか誰も分かる訳がなかった。

尽かさず天龍が雪風の目線に合わせてしゃがむとここに来た訳を聞き出す。

 

「お、オイ雪風。なんでたってこんなトコ来てんだよ!?」

 

「ハイ!雪風はあのお方のおつかい任務を任されてココに来ましたぁ!」

 

「お使いって…初めてのお使いが戦場ってどんだけだよ。」

 

「いや、よく考えたらこれ雪風にはピッタリの任務かもしれないぞ。持ち前の幸運で。」

 

「そんな事よりお使いって、一体何のお使い任されたんだ?」

 

「ハイ!えーっと…あ、コレを秋さんに渡してくれって、言ってました!」

 

「!オイこれ…ッ。」

 

雪風がポーチから取り出した指輪を見て悠はそれを手に取る。

 

秋にしか使えない逆転の切り札。それを渡すべく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガハッ…イッテェちくしょう…。」

 

磔にされた状態から自力で出たビーストは今にも崩れそうな足を最早意地で支えてる状態だった。

 

ゆっくりとじりじり此方に詰め寄ってくるデビルファントム達を前に絶望的な状況だがそれでも闘志は消えなかった。

 

自分が今こうして命を懸けて戦う目的。今のビーストから未だ湧き出る闘志の源はまだ尽きてないからだ。

 

だがそれとは裏腹に体は多大なダメージを負ってるこの状況。どうにかならないものかと思ってた矢先、頭にコツンと何かが投げられた。

 

「え、なに?…ッ!これ…ッ!」

 

地に落ちたモノを拾うとそれは指輪だった。青の縁取りで獅子の顔が彫られた指輪に赤い点が着いてる事に気付くがビーストはそんな事を気にする余裕がなかった。

 

指輪を取ったビーストに突然突っ込んで来るデビルファントム。ビーストは四の五の言う間もなく即座に指輪を嵌めた。

 

(頼むぜ、キマイラ!)

 

ベルトに指輪を嵌め込んだ瞬間、視界が真っ白になっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あー、やっぱここか。」

 

気が付くと秋はまたしても自分の精神世界に入っていた。今度は最初から目の前にキマイラが居る状態で。

 

[まさか一日に二度もその顔を見る羽目になるとは、どうやら今日は我にとって厄日のようだ。]

 

「最初はオメェが勝手に此処に連れて来たんだろうがよ…まぁいいや。

さっきの見てたよな?」

 

[貴様が今使っているのは我の力だぞ。嫌でも目に入ってしまう。]

 

「そ、なら話は早ぇな………オレにお前の力を貸してくれ、キマイラ。」

 

リングが嵌められてる右手を突出す。中指のリングを見てキマイラはフンッと鼻で笑った後吐き捨てるように秋に言った。

 

[その指輪。貴様は使い方を知ってるようだがそれは我の力を現実世界引き出す代物…。

だが扱いを間違えれば貴様はその力に耐え切れず内側から崩壊していく。ましてや傷だらけのその体でだ。]

 

「ンな事だろうと思ったよ。お前が言ってくるセリフ。

…それでも頼むよ。」

 

[ほう?その様子だと先の問答の答えを見つけた。と見ていいのか?

そのちっぽけな命を投げ捨てる程の理由を…。]

 

「あぁ。でも投げ捨てる命なんざこれっぽちもねえよ。

勝って、生き延びて、そんであの家に帰る。

皆が居る……オレの家族が居るあの家でまたバカみたいに笑って過ごす為に、オレは勝って生きる!

だから……オレに力を貸せ!キマイラ!!!」

 

戦う理由、強くなる理由に深い考えなどいらない。ただ自分がどうしたいか。それだけだ。

 

そうして得た秋だけの答え。”あの家に帰って楽しく過ごしたい”

 

自分が欲しかった家族。ハルナと悠とで過ごすあの日常を得る為に力を欲する。

 

そのような考えなど温い等小さい等馬鹿にするのもいるだろう、だが今の秋の目にはそれを黙らす強い意志を目に宿らせていた。

 

[……フン。なんともヒヨっ子に相応しい単純すぎる幼稚な考えよ…。]

 

「………。」

 

[…だが、そんな幼稚な考えでどこまで足掻くか、その様を眺めるのも暇潰しの一興にもなるやもな。]

 

「それじゃあ…。」

 

[だが勘違いするな!我はまだ貴様を認めてはおらぬ。

我の力を使っても無様な様を見せるようなら、その時はもう二度と力を貸さん!]

 

「…あぁ。特等席でじっくり見なよ。オレの活躍するカッコいいシーンをさ。」

 

[その口が何時まで叩けるかも見物だな…。

口を開けて待っていろ!!]

 

大口を開きその牙で秋に噛みつく勢いでキマイラは秋の体内に入っていく。

秋の体には溢れんばかりの光に包まれその勢いはだんだん強くなっていく。

 

「さぁ~て、こっからが本番だぜッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<< HYPER! >>

 

迫り来るデビルファントム達がビーストドライバーから出て来たキマイラの魔力によって弾かれる。

 

巨大な獅子の形をした魔力はビーストの周りを飛び回ると一直線にビーストに向かって行きその姿を変えていく。

 

<< GO! >>

 

<< HyHy-Hy-HYPRE! >>

 

体に纏った魔力が弾けると進化した姿がそこに在った。

 

黒から青のアンダースーツに変わり両腕には金の糸[フリンジスリンガー]が付き、胸部にキマイラの頭部、自身の頭部も青と金の色に赤い複眼が映えていた。

 

これがキマイラの力を現実世界に引き出したビーストの強化形態。

 

仮面ライダービーストハイパー。

 

 

 

「うおッ!?なんか、スッゲエ派手になったぞ、オイ!」

 

「か…カッケエ!」

 

「…両腕のアレ、邪魔になんねえのか?」

 

「うわぁー!ゴージャスでカッコいいです!!」

 

進化したビーストの姿を見て周りは騒然とするなか吹き飛ばされたデビル達はまたしても空へ飛び上った。

ビーストはベルトのバックルに手を翳すと、鏡の付いた青い拳銃を器用に回しながら取り出した。

 

<< MIRAGE MAGNUM! >>

 

「撃ちまくるぜぇ~!そりゃ!!」

 

新たな武器[ミラージュマグナム]を手に空を飛んでいるデビル達に撃ちまくるビースト。

 

四方を自在に飛んでいるデビルファントム三匹にという不利な状況に対し、ビーストの射撃はその状況を打ち払った。

 

後ろから迫って来るデビルを背面で一匹を落とし、次に狙いを定めた二匹を狙って連射。

コレを回避しながら二匹目は迎撃に魔力弾を放つがビーストもこれを回避しながら撃つ手を止めない。回避しながら二匹目を追い掛けて撃ち続けるが、その隙を狙って三匹目が奇襲してくる。だが。

 

「せいりゃッ!!!」

 

ビーストが回ると、両腕のフリンジスリンガーの内の片方が意志を持ったように三匹目を弾き飛ばし、もう片方が三匹目に巻き付いて拘束。そしてそのまま。

 

「ヘイ、パースッ!!!」

 

此方に向かって魔力弾を放ってくる二匹目に向かって投げ飛ばす。射線上に三匹目が入った事に魔力弾が三匹目に当たってしまうなかビーストは投げ飛ばした直後即座に駆け出しながら三匹目に気を取られてる二匹目に連射。

全て命中し二匹目も地に落ちていった。

 

三匹目も二匹目の放った魔力弾によって地に落ち、一方的に不利だったこの状況を覆した。

 

「おぉ!!スッゲエじゃねえか秋のヤツ!!!形勢逆転だぜ!!!」

 

「よし!このまま決めちまえ!!」

 

「いけーーーッ!!!」

 

「…腕のアレ、飾りじゃ無かったんだ。」

 

戦況を覆したビーストは落としてたサーベルを回収し、起き上がって来たデビルに前にしてダイスを回した。

 

「フィナーレ、っだ!」

 

<< Six! >>

 

<< HYPER! SAVER STRIKE! >>

 

6を引き当てたビーストは二匹纏まってるデビルに狙いを定め、いつもより巨大な魔法陣を出現させる。

 

「大!サービスッ、だッ!!!」

 

豪快にサーベルを振るうと魔方陣から牛、隼、イルカ、カメレオンが六匹づつ、計24匹が一斉に二匹のデビルファントムに向かって行き、一匹目はイルカの体当たりに気を取られてる内に猛牛達の突進を直に喰らってしまい爆散。二匹目は空ヘ逃げようとするが隼の群れが総出で阻止し、止められてる内にカメレオン質の体当たりが炸裂し同じく爆散していった。

 

「よし、残り一匹…ッ!」

 

二匹のデビルファントムを撃破し残る一匹を倒すべく辺りを見回すと既に空へ飛び上り逃亡を図ろうとする最後の一匹を見つけその間はかなり空いてしまっていたが。

 

「逃がすか、っての!」

 

嵌めていたハイパーリングの口の部分を下げるとスライドし、獅子の口が空いた状態に変わるとミラージュマグナムにセットする。

 

<< HYPER! MAGUNM STRIKE! >>

 

鏡にキマイラが雄叫びを上げる姿の幻影が写ると銃口に魔力がどんどん集まり、それを高く飛んでいるデビルファントムの後姿へ狙いを定め…。

 

 

「狙い撃つぜぇ──そうりゃッ!!!」

 

ーGaaaaaaaaa!!!ー

 

銃口からキマイラの姿をした魔力弾が逃げて行くデビルファントム目掛け一直線に向かって行き、振り返り迫るキマイラの幻影から逃れようとするデビルだが、そのスピードと迫力に一向に距離が縮まらずむしろ間隔が狭くなる始末。

喰らう様に大口を開けるキマイラの前から逃れる事が出来ず、最後はキマイラに喰われるように魔力弾に飲み込まれ爆散。

 

ビーストハイパーの必殺技、[シューティングミラージュ]が茜空の下で盛大にその威力を発揮した瞬間だった。

 

 

 

「…へへッ、やった…ぜ…。」

 

空で爆散していったデビルの最後を見届けたビーストは、気が抜けたように後ろへ倒れると同時に変身も解けた。

 

大の字で倒れ込み、中指に嵌めたハイパーリングを顔に持ってく秋。僅かに赤い点々について赤黒く変色してる事から血だと判明した時だ。倒れてる秋を見下ろしながら傍に立つ悠の姿がそこにあった。

下から見る悠の姿を見て秋は笑う。

 

「…何が可笑しいんだよ。」

 

「だって…何で悠兄さん俺よりボロボロなのさ?」

 

今の悠は体に巻いてる包帯のほとんどが血の赤に染まっており、秋も先程の戦闘で傷を負ってるものの二人を見比べると悠の方が明らかに重症と言える姿だった。

 

「傷口が開いたんだよ。」

 

「へぇー、これ投げてオレに渡したからじゃなくて?

あの距離で、正確にオレの方へ投げれるの悠兄さんだけでしょ?」

 

「……さぁね。

それよりも…ん。」

 

「…ハハッ、サンキュ-。」

 

はぐらかす様に倒れてる秋へ手を伸ばす悠。それを掴んで立ち上がった秋はそのまま悠の腕を肩に回して支える様に歩き出す。

 

「オイ…。」

 

「ハイハイ。怪我人は黙って介護されてなさいっての。全く悠兄さんは手が掛かるんだから…。」

 

「お前も大概ボロボロの癖に良く言うよ。そう言うのは無傷で済ましてから言えってんだ…。」

 

「…あぁ。そうだな……その為に、もっと強くならなきゃな…もっと…。」

 

「………そうだな。」

 

段々力が入らなくなり、ぐったりと力が抜けて完全に秋に身を任せる事にした悠は胸の内にあったモヤが晴れた様な心境で小さく呟いた。

 

此方に駆け寄って来る神通達の姿を最後に悠は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、悠の自室内。

 

 

「ホンットなんでこうなるのかしらねぇ~~~?

バカ弟探して街中走り回って中々見つからないと思えば家に帰ってると来るわ、帰ったら帰ったで折角治した怪我が開いて更にヤバい重症人は出るわでアンタ等は……どこまで私に苦労かければ気が済むんじゃい!!!

アンタ等馬鹿共に付き合わされる私の苦労、一遍死ななきゃ分からんのかい!?あぁん!?!?!?」

 

「ま、まぁ落ち着いてくださいハルナさん。」

 

誰が見ても怒り心頭と言ったハルナがベットに座ってる悠に対し全ての怒りをぶつけているのを神通が鎮めようとするが静まる様子は見られない。

悠も昨日無茶な行動が原因で巻いてる包帯の量が増え、さらけ出してる肌の部分が目と頭髪しかないと言う最早ミイラ状態になる始末であった。

 

「まぁ別に良いじゃねえかよ。なんだかんだで秋は元の調子に戻ったし、俺は何とか生きてるし、万事解決って事で。」

 

「ミイラみたいなカッコになって何シメようとしてんだアンタは!?」

 

「そうですよ、私達が居ない間にそんな大事になってるだなんて聞いた時は何で連絡寄越してくれなかったか事について納得してしてないんですからね。」

 

「そうだよ!しかもアタシが居ない間になんか神通がずっと一緒に居たって聞いたし!」

 

そこへ割り込むように事の事情を聞いたラ・フォリアと川内が口を挟んで来るが、二人の格好に三人は呆然。いち早く口を割ったのは悠だった。

 

「…あのさ……なんでナース服?」

 

「あら?日本の殿方はナース服が好物って聞いて来てみたんですけど、似合いませんでした?」

 

「いや似合ってるよ、不覚にもドキッとしちゃたよ俺、違う意味でですけど。」

 

「またまたぁ~。本当はカワイイアタシ達にドキッとしたんでしょ?ほら、このミニスカとか。」

 

「普段からミニスカでしょキミ達。で?なんでミニスカナースの格好?」

 

「いえ、何処かの誰かさんが勝手にバカして怪我人が出たとの事ですから、色々お世話が必要かと思まして。」

 

「下の世話もバッチリ任せて!」

 

「いえ結構です。だからその尿瓶は仕舞ってください、頼むから…。」

 

「いいじゃない灰原君。こんな美人ナースがお世話するとか言ってきてるんですから、素直に甘えなさいよ。

下の世話も。」

 

「オイ。なんだその笑顔。ザマァってか?オイ。」

 

「あ、そう言えば後でゼノヴィアもお見舞いに来るよ。一子も連れて来て。」

 

「何でそこで川神さん出て来るの?まさか向こうで仲良くなったってオチ?」

 

「ハイハイ。そんな事よりもこれから人が来るんですから服を着替えましょう。川内さん、下の方お願いします。」

 

「イヤいいから!ホントいいから、マジで!てか秋の奴何処行った!?」

 

「秋ならトレーニング行ったわよー。それじゃあ私はお邪魔らしいんでこの辺で。」

 

「オイ待て!オイィィィィッ!!!

あぁ待て!ズボン手を掛けるな!しかもなんか鼻息荒いぞお前!!!」

 

「…あの~。」

 

「あら青葉さん。どうしたんですか?」

 

「あぁいえ、悠さんに頼まれてた調査の報告をと思ったんですけど……出直して来ますね。」

 

「おぉ丁度いい所に!青葉!その調査結果早く!」

 

「あ、ハイ。」

 

悠にとっては良いタイミングで前から頼んでた九鬼財閥の調査の報告と聞くと残念がる二人を押し退いて青葉から渡された資料を一枚一枚確認すると、とある項目に注目する。

 

「?どうかされました?」

 

「…なぁ。コレ、どう思う?」

 

気になる資料の項目見せ意見を求める悠。その場に居た者は口に出して読み上げた。

 

「何々。えーっと…偉人クローンによる武士道プラン?」

 

「クローンって、牛とか羊とかの前例はありますけど、まさか人の…偉人のクローンを生み出すなんて。…。」

 

「青葉。このプランの詳しい詳細は?」

 

「それがなんですけど、調べ上げた中でそれが一番重要機密だったらしくて知ることが出来たのはそれだけなんですよ。」

 

「……キナ臭いな。」

 

悠が注視する武士道プラン。その全貌は全くと言って良い程見えないその計画。自分を探してる事に何か関係あるのではないかと。

 

「……青葉。お前は引き続き九鬼の、このプランについて徹底的に調べ上げろ。

クローンで生み出す偉人、プランの発案者、最終目的。徹底的にだ。どれだけ人員と費用が掛かっても良い。結果を持って来い。」

 

「はいッ!青葉、頑張ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──フッ、フッ、フッ。」

 

その頃秋はランニングのまっ最中であった。

 

新たに心掛けた思いを叶える為、掻き消されない為に今日も突っ走る。

 

クールダウンに走るペースを下げゆっくりと止まった秋は不意に懐から取り出したハイパーリングを手に笑みを浮かべた。

 

「…これからも頼むぜ、キマイラ。オレの居場所、守る為に…。」

 

秋の決意に応えたのかどうかは知らないが、一瞬ハイパーリングが光ったのを目にした秋はまた全力で突っ走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また別の所では…。

 

「ホラ一子。何をそんなに躊躇っているんだ?たかがお見舞いに行くだけだろう?」

 

「う、うん。でもいいのかな?皆ユウの事色々調べてるなかアタシも行っちゃって…。」

 

「そんな気にする事じゃ無いだろう。只怪我した友人のお見舞いに行くと言うだけの話しさ。

それに京も言ってただろう?こればかりは一子が自分で決める事だって、みんなが一子の答えに納得したのだから誰も咎めないさ。」

 

「…うん。」

 

街中で二人悠の自宅へと向かっている一子とゼノヴィア。

この前ゼノヴィアが住んでいる川神院に邪魔したラ・フォリアと川内とゼノヴィアを通じて仲良くなった一子は川内から悠がかなり深手の怪我をしたとの連絡を聞いてゼノヴィアが見舞いに行こうと提案し今に居たる。

道中ファミリーの皆に対し自分は悠と親しくしていいのだろうかと悩んでいるのを気にする事は無いと言うゼノヴィアの言葉に少し気が楽になる一子。

 

そんな時道中見覚えの無い花屋が有り、長くこの街に居る一子はこの辺りに花屋など無かった筈だと記憶してたが花屋の前のこの地は確か空き家だと言う事を思い出し新しく出来た店かと推測した。

 

折角だから見舞い用の花でも見繕って貰おうかとゼノヴィアに待ってもらう様に言い、店内へと入って行った。

 

店の中は様々花が煌びやかに添えられており、花に詳しくない一子だったが正直に綺麗と言える花が様々な組み合わせで芸術品の様な美しさを出している事が感じ取れた。

店員を呼ぼうと店の奥を覗くと人影が見えた。

その人影の正体に一子は唖然とする。何故なら店内の煌びやかな花に似合わない短い毛が逆立った大柄の男がこれまた似合わないピンクのエプロンを着けて店に飾るであろう花を活けているのだから。そんな大柄の店員は後ろの一子に気付くとこれまた想像を絶する接し方をして来た。

 

「あ、いらっしゃ~い!ごめんなさい気付かなくて。」

 

「ふぇ?…あ、いいえ!そんな此方こそ!黙って入って来ちゃってごめんなさい!」

 

「アラアラ、アナタがそんな畏まらなくていいのよ。アナタは当店初めてのお客様なんですから。」

 

「は、はぁ…。」

 

その風貌に合うような低い声だが喋り方が女口調で物腰が女性そのもの。一子はこの目の前の男性がいわゆるオカマだと察した。

 

「それで?今日はどのような花をお買い求めで?」

 

「あ、えっと、お、お見舞い用の花をお願いします!」

 

「ハイ、受け堪りました。今見繕って来るから、ちょっと待ってってね。」

 

言われるがままになる一子。目の前で様々な花を見繕う男性を前に店内の花を見回るしかなかったが、不意に男性の方から一子に話し掛けてきた。

 

「…アナタ、武術の心得があるのかしら?」

 

「え!?な、なんで!?」

 

「その様子だと当たってるようね。アナタの足運びが武術をやってる人のソレだったからもしかしてって思っただけよ。

こうみえてアタシも武術を嗜んでた身ですからね。」

 

「そうなんですか!?へぇー…。」

 

「…ウフフ。アナタ隠し事が出来ない人でしょ?顔に出てるわよ。”どうしてこんな人が花屋をやってるんだろう?”って。」

 

「え!?あ、あ。…ご、ごめんなさい!そのなんて言うか、その…!」

 

「謝る事は無いわ。誰が見たってそうですもの。こんなゴツイ男がって…でも、それが叶えたい夢の一つだったもの。美しい花達に囲まれたいってね。」

 

「夢、ですか?」

 

「そう、夢よ。…っと、ハイ出来たわ。お代千円になります。」

 

「あ、ハイ。」

 

見舞い用に見繕った花束を受け取った一子は店員に別れを告げ店を後にした。

 

一子が去った後の店内を見て店員の男性は作業をする為に、店の奥へ入って行った。

 

 

 

 









~裏道2~


ー二人乗りー


※悠と神通が出る前の様子。


「…なぁ。ホントにお前運転できんの?」

「ご心配無用です。これでも天龍さんより上手いと言われてるんですから。さぁ、運転は私に任せて悠さんは後ろに乗ってください。」

「お、おう。
…それにしても俺が後ろに乗るなんて、考えたらコレが初めてだよな…よっと。」

「ッ!」

「…ん?どうした?」

「い、いえ!何でも無いです!(お、思ってたより体が近い!だ、大丈夫かしら!?変な匂いしてないかしら!?こうなるならあの時那珂ちゃんから勧められた香水でも憑けて来ればよかった。
あぁ!そんな腰に手を回して余計に!し、心臓の鼓動伝わってないかしら!?どうしよう、この状況で私上手く運転できるのかしら!?)」

「………あの。やっぱり俺が運転しようか?」

「だ、だいしょぶでしゅ!!な、何も!心配いりません!」

「いやでも、お前なんか声裏返って…。」

「大丈夫ですッ!!!」



このやり取りが後数十分続いた後、やっと発進したとか…。






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