「………う~ん。」
ガイ、ベルデ、アビスの襲撃事件から一日経った昼の灰原邸。
リビングの一室にてソファーに座りながら、今朝届いた新聞の一面を見て悠は浮かない顔をする。
ー真昼の騒動!噂の仮面ライダーは実在した!?ー
(これは……あまり良くない事態だねぇ。)
今まで噂程度で広がってた仮面ライダーの信憑性はこの間の一件で世間に大きく広まってしまった。
昨晩は徹夜でネット上に広まった仮面ライダーに関するコメントや昨日の映像、画像等をひたすら消す作業をしていたのだが、それでも拡大は収まらず結果的にメディアに流出されてしまったのである。
今でもテレビでは昨日の襲撃に関するニュースでもちきりの状態であった。
幸いにも悠や秋が戦闘している場面は、目撃者が逃げたと言うのもあって公にならずに済んだが、これからの事を考えるとこれ以上目立った動きが出来ず、最悪此方の戦況に影響が出るかもしれない。
只でさえ色々目を付けられてる仮面ライダーの正体が世間にバレるとそれこそいらぬ敵が増える可能性も有り得るのだ。
そして頭を悩ましている問題はそれだけでない。
悩ましてる原因は、悠の手に握られたブランク状態の契約のカードだった。
事の発端はオーディンとの戦闘まで遡る。
<< FINAL VENT >>
「ッ!ちっくしょうが!!」
オーディンのファイナルベント、エターナルカオスが発動された際にリュウガは右足を必要以上に痛め付けられ、まともに立ち上がれる状態ではなかった。
動く事の出来ないリュウガは苦渋の決断をした。
デッキから引き抜いたカードを素早くバイザーに入れるなか、オーディンのエターナルカオスは、既にリュウガへと向かって突撃状態でいた。
<< ADVENT >>
エターナルカオスが段々近ずくなか、リュウガの足元から現れたのは契約モンスターの中で一番の防御力を持つマグナギガだった。
マグナギガはエターナルカオスを防ぐための盾とし直撃こそは防ぐ事は出来たが、その破壊力にマグナギガは耐え切れず爆散。
近くに居たリュウガはその際の爆発に巻き込まれ吹き飛ばされてしまうが、これが幸いにもオーディンから逃れるきっかけになり、飛ばされた先にあった鏡を使ってミラーワールドから出たのだった。
そして今に至り、咄嗟の判断とは言え火力中心のマグナギガを失った事に、手痛い損失感を味わっている最中だった。
(マグナギガを死なせたのは、ちょっと厳しいな…エサの配分が減った事に喜ぶべきだが、こんな状況じゃあ…。
…これは本格的に、アレの実戦導入考えるべきかぁ…。)
頭に浮かんだのはラボの地下に眠っている、一癖どころか厄介な性能持ちのパワードスーツ。
今夜あたり見直したプログラムでテストしてみようかと思った矢先、目の前にコーヒーの入ったカップが差し出された。
「随分深刻な顔ですね。遠くから見ても丸分かりでしたよ?」
「ん。…まぁ色々問題が、ね…。」
ラ・フォリアからカップを受け取った悠はコーヒーを一口飲み、その悠の隣にラ・フォリアが座る形に収まる。
「問題。というと…秋の事ですか?」
「それも大いに在る。
アイツ、少し焦り過ぎてる…。」
昨日の騒動の後、ハルナの献身的な治療のお蔭で今朝方には全快に近い状態まで戻った秋であったが、体の調子が戻るや否や真っ先にトレーニングに行ったきりで、まだ戻って来てないのだ。
一応傍にハルナと速吸を付かせてはいるが、未だ戻らない所を見て相当無理なトレーニングでもしているのだろう。
「良いのですか?このまま秋を放って置いて…。」
「下手に俺が声を掛けたら、最悪アイツの心境が悪化する可能性が高いんだよ。
この前の一件で追い打ち掛かった所があるみたいだし、少なくとも今は様子を見て下手に動かない方が良いかもしれないね…。」
「…それでもし、心境が変わらなかったら?」
「……その時は、その時さ。こればかりはあまりやりたくないがな。」
目を細めて眉間にシワが寄る顔には、良く無い事でも考えてるのが聞かなくとも分かる程だ。
深刻そうな顔のままコーヒーを飲むも一向に気分が優れない。何時の間にか先の二つの問題より秋のメンタル面についての事ばかり考えている事に気付かずにいた。
悠の深刻な表情を覗き込むように心配するラ・フォリアだが、どう声を掛けるべきか悩んでる時であった。
インターホンの呼び鈴が家中に鳴り、現実に無理やり戻された悠は取りあえず玄関に向かうとそこに居たのは。
「ハーイ。…ゼノヴィア?」
「やぁ。海の一件以来だね。」
ドアを開けると外に居たのは私服姿のゼノヴィアが一人で立っていた。
「どうしたよ急にまた…。」
「あぁ、ちょっとキミに言わなければいけない話が有ってね。」
夏の日差しが強く照らされてる河川敷。
そこで朝からオーバーワーク気味の秋は、河川敷の階段往復をしている光景をハルナとドリンクとタオルを持った速吸が見守りながらも、秋は滝のように流れる汗を手で拭いながら足を止めなかった。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハァッ!」
「秋さん!ちゃんとこまめに水分補給とらなきゃ、脱水症状ですぐ倒れますよ!ハイ、これ飲んで、汗ちゃんと拭いて!」
「ん、サンキュー。」
「…もうそろそろお昼時よ?今日はもうこの位で良いんじゃない?」
「…いや、もうちょいやるわ。なんか動いてないとモヤモヤしちゃって…。」
「え、ちょっと秋さん!?」
渡されたドリンクとタオルを返して今度はランニングを始めた秋。
無理なトレーニングをどうにか止めさせたいハルナだが、昨日の事もあってか言うにも中々言えず今に至ってしまったのだ。
「秋さん大丈夫かなぁ。治ったばかりなのにあんな無茶して…。」
「…今のあの子には何言っても聞いてくれないわよ。多分灰原君でも…。
昨日の事があの子にとってそれだけ悔しいモノだって言う事よ。」
姉として言ったハルナの秋の心境は間違って無かった。
速いペースで走ってる秋の頭に浮かんでいるのは、あと一歩と言う所で逃がしてしまったゴルドドライブ。成す術無く完璧に打ちのめされたガイ、ベルデ、アビス。
秋が苦戦を強いられた相手は悠が簡単に倒した敵。悠には出来て自分は勝てない。
悠に置いていかれてる一種の焦りが、今の秋を追い立ててる元になっているのだ。
そして秋を悩ましてるのはそれだけでは無かった。
(だぁーッ!クソッ!
感情的とは言え、何で姉ちゃんにああ言っちまったんだよオレは!)
緊急事態とは言え姉のハルナを否定するようなことを言ってしまった事に後から後悔する羽目になった秋。
あの時の事を謝ろうにも今のハルナと同じ、言うに言えないという複雑な心境に悩まされているのだ。
「チクショウ…チックッショーーーーッ!!!!」
溜まってる鬱憤を声に出すも、日が燦々と照らされる空とは対象に胸の内は曇ったままだった。
「…と、言う訳なんだ。」
「勘って…しかも当たってる分、何とも言えねえんだけどアイツ等…。」
そして同時刻、悠は対面に座ってるゼノヴィアの話を聞いて頭を抱えてる最中だった。
百代を軽くあしらった事で風間ファミリーに目を付けられてしまい、果てには悠が仮面ライダーであるとの仮説を立てられ、今でも調べられているとか。
「んで、ノリノリなアイツ等に対し乗り気じゃないのはキミと川神さんだけ?」
「あぁ。私はキミの正体について知ってるし、一子もキミに色々思いを抱いているが故の判断だそうだ。
何とか止めようとしたんだが、下手するとキミが仮面ライダーである事を教える様なモノだから…。」
「良いよ良いよ。こうして教えてくれるだけありがたいさ。
…さて、どうしたものか。」
「それよりも一つ、聞いてもよろしいですか?」
風間ファミリーの処遇について考えよう押した矢先、隣で話しを傍観してたラ・フォリアがここで口を割り出す。
この時の悠は、”何か嫌な事起こりそう。”という予感が胸の内に現れてた。
「…何?」
「いえ、少しお二人の関係が気になっちゃいまして、どうやら貴方の事情を知っている様なのでつい…。」
「貴方は確か海であったアルディギアの王女であったな。
ゼノヴィアだ。前は教会に属してたが、今は川神館で世話になっている。」
「改めまして、ラ・フォリア・リハヴァインです。前に言いましたが、私の事は王女としてでは無くラ・フォリア個人として接してくれると嬉しいです。」
「そうか、ではそうさせて貰おう。
それで、私と悠の関係については、そうだな……助けられた身と言うべきか、助けた身と言うか…。」
「その口ぶりだと、大体私と同じみたいですね。
…でも、助けた身と言うのは?」
「あぁそれなら、海で溺れて危篤状態な彼に人口…。」
「っとォ!そろそろ昼時だなぁ!何かメシでも買って来るかぁ!」
「待ちなさい。」
それなりの理由を付けて外出と言う名の撤退をしようとしてた悠だが、襟元を掴んで止めたラ・フォリアの手によって敢え無く失敗に終わった。
「すみません、話の腰を折ってしまって。それで?どうなったんですか?」
「あ、あぁ。海で溺れて危篤状態な彼に、人口呼吸をした。」
「へぇ。」
「………(頼むそれ以上は言わないで、後が面倒になるから)。」
「…その後に、私のファーストキスをこんな形で済ましてしまうのもどうかと思ってしまってな。助けた報酬として、彼と正式なキスをさせて貰ったよ。」
(言っちゃったよ。よりによって一番聞いて欲しくない相手の前で…。)
「何だとォーーーーーーッ!?!?!?」(バガンッ!)
「えぇッ!?」
必死のアイコンタクトでそれ以上は言ってはいけないと悲願する悠であったが、悠に気付くも伝わらなかったのかあの時の出来事を喋ってしまったゼノヴィア。
暴露された事に思わず逃げ出したくなる悠であったが、話を聞いていたのか、川内が仰天したような様子でリビングの床の一部を開いて出てきた。
「まさかッ、まさかそんな形で先を越されてたとは…ッ。」
「あら川内さん。お久しぶりです。」
「オイオイ。なにさらっと受け流してるの?
て言うか、ガレージ以外ウチ普通の家なのに、何時の間に忍者屋敷になってんだコレ?…アレ、開かない?今さっき開いたよなコレ?…アレ?」
「…あの、それよりもこの人は…。」
「あぁ。彼女は川内さん。悠の親戚らしくて、ラストニンジャだそうです。」
「ニンジャだと!?あの、シュリケンと忍法を扱うと言う、ジャパニーズアサシンと言われてる、あの!?」
「くぅ~ッ!、やっぱり相手を知ると言う一環で様子見してたのがイケなかったか、ここはやっぱり攻めの一手で行くしか…。」
「アレ?天井も開かねえ。この前開いたの此処だったよな?…えぇ?」
家の構造を調べてる悠を差し置いて、この後なんやかんやで仲良くなる女性三人組だった。
最後にライバル宣言だ正々堂々だの言っていたらしいが、悠はあえてその話題から目と耳を逸らしていたとか。
その後ゼノヴィアは帰り、家には女性陣から何とも言えない視線を感じ取った悠は、家から素早く撤退するように街へ買い出しにへと出て行った。
そしてスーパーにて買い出しを済ませ帰宅途中、悠はクリムと通話しながら歩いてた。
「じゃあそう言う事で、今夜頼む。
…え?隠してたって、それソッチが言える事か?……まぁその時はその時で、調整よろしく。んじゃ。」
携帯を仕舞い、そこそこ賑わってる街中を歩きながら悠は今抱えてる問題について考える。
風間ファミリーの件は所詮素人の集まりだからどうとでも対処可能、マグナギガの消失で低下した火力戦力の見直しは今夜実行、新たに現れたオーディンの正体について未だ不明。
そして、今一種のスランプに近い秋の様子。
次々と悩みの種が増える一方の状態。
何か此方にとってプラスな事が出て来ないかと願っても無い事を考えた時だった。
「ん?…あ。」
「あ、アナタは…。」
ふと正面から何処かで見た様な人影が目に入ると、そこに居たのは北欧のオーディンのお供に居たロスヴァイセだった。向こうも悠の存在に気付いたらしく、買い物途中の姿が意外だったのか、少し間抜けた顔をしてた。
悠はそんなロスヴァイセの横を、最初からそこに何も無いかのように素通り…。
「って!何無視決め込んで立ち去ろうとしてるんですか!?」
「え、何って、めんどくさそうだからさっさと帰ろうとしてた所ですけど?」
「そんなさも当たり前の様に言われた!?」
「違うの?」
「違います!…オホン。それはそうと奇遇ですね。まさかこのような形で…。」
「そうですね。じゃあそう言う事で。」
「だから帰らないでください!」
とにかくその場から立ち去りたい悠であったが、頑なに呼び止めるロスヴァイセ相手にこれっぽっちも隠すつもりもなく迷惑そうな顔を露わにした。
「何だよ…もしかしてアンタ等に掛けた暗示を解いて欲しいとかそう言うの?
言わせて貰うけど、実際それ無理だから。解こうとする意志を見せると、自殺するようになってるんで。」
「え…えぇぇぇえぇえッ!?!?!?
な、なななな、なんて恐ろしいもの掛けてるんですかアナタはぁ!?私はおろかオーディン様にもそんな悪魔が使うような術を!」
「だってその位はしとかねえとなぁ。
(なんて言うけど、ウソ。実際掛けたのは”自動的に俺達に関する記憶が無くなる”ってだけ。
それにエクストリームで底上げしたライアーメモリで二重にも三重にも暗示掛けてるから、まず自力での解除は無理だし。)」
悠はオーディンの話を承諾する契約を立てたと同時に一種の縛りとしてライアーメモリでの暗示を掛ける事を条件に身の安全を保障させたのだ。
その為今目の前にいるロスヴァイセには、悠が掛けた暗示と言う名の枷がかけられている。
”仮面ライダーの正体に繋がる事を喋ったり、何かしらの手段で伝えようとしない”
”掛けた暗示に、解除する意志や方法を見つけ出してはならない”
”灰原家に出入りする者達の詮索や敵対行動は絶対しない”
等、その他にもある数多くの暗示をエターナルに変身しエクストリームメモリで能力を底上げしたライアーメモリで神でもあるオーディンにも使い、万が一の事があっても良い様に手を打った悠なのであった。
そんな事もあって未だ悠の事を覚えてると言う事は、掛けた暗示の内容に触れて無い事が見て取れる悠を前に、自殺する嘘を信じ込んで涙目で肩を震わせるロスヴァイセに悠は口を開く。
「で?呼び止めたワケは何?」
「ヒッ!、そ、そうでした。実は、オーディン様から預かり物を…。」
そう言ってオズオズと差し出したのは、一通手紙。
怪しげな目で手紙を受け取った悠は取りあえず中身を確認すべく手紙の封を切った。
ー小僧へ。
まずお主に礼を言おう。あの金色の目が上手くお主に留まったお蔭か、あの日以来襲われる動きが途絶えた。
いやぁ本当に感謝しとるよ。ー
(あのジジイ。最初からコレが狙いだったのかよ…。
まぁ別に良いんだけどよ…。)
ー本当ならそれ相応の礼をしたい所じゃが、お主が立てた条件もあって必要以上に会う訳にもいかんのでな。
…そこでじゃ…。ー
(………へぇ。)
手紙を読んでいく内に表情こそ変わりないが、その目から如何にも悪役めいたような目つきに変わりだす。
「オイ。」
「な、何ですか?」
「コレ、ちょっと読んでみ。この辺の文章。」
「え?えーと…”せめてもの気持ちとして、ロスヴァイセを置いていく。好きに使ってもよいぞ。”……え?……えぇぇええええぇぇぇえッッッ!?!?!?!?!?」
先程よりも一段デカい声を上げている所為かかなり周囲の目に留まってるが、当のロスヴァイセはそんな事気に欠ける余裕も無く何度も手紙の文章を読み返しているが、その内容はどう見ても間違えようが無かった。
「そんなオーディン様ぁぁぁッ!!!幾らなんでもこんな扱いは無いですよォォッ!!!」
「オーイ。もうちょっと声抑えなさいよ。めっちゃ周りに見られてんじゃねえか。」
「コレが落ち着いていられますかぁ!!!」
「良いから…黙れ。」
ドスを利かせた声で無理矢理黙らし、相当複雑な心境のロスヴァイセを気にする様子も無く悠は話を進めた。
「さて、爺さんはアンタを置いてったってことは、実質アンタは今の仕事をクビに近い形にした訳だ。て言うかクビだなコリャ。」
「そんなぁ。私は無職になって、この男の下で良い様に扱われて…!」
「話を最後まで聞けや。
んで、今現在無職のアンタに丁度ピッタリな仕事があんだよねぇ。」
「仕事って…まさか、私の体で慰みモノに…!」
「だから聞けってんだよ。この妄想女が。」
「…ってなカンジでしてぇ。是非先生の元で、無職になった親戚を雇ってもらえないかと、相談しに来た訳でしてぇ。」
「…何だが、如何にも胡散臭い話なんだが?」
悠とロスヴァイセが訪れたのは学園にある那月の自室。
相も変わらず高級そうな椅子に履歴書を手に座る那月を前に悠はロスヴァイセを雇わせてくれないかの話を持ちかけ、つくづく裏が有りそうな眼をする那月を前に終始自分のペースを貫いてた。
「いやそうは言いますがねぇ、俺に至っては正直どうでもいいんですけど。泣きながら縋り付いて来るこの人がどうして助けてくれとねぇ。」
「フム。それにしてもまさか北欧の戦乙女がお前の親戚で、無職になったのが上司のセクハラに対する我慢の限界など、なんだが信じようにも信じられんのだがな。」
「まぁその辺に関しちゃ、俺の引き取り手が色々顔が効くとしかいいようが無いんで…。」
「…フン。で、ロスヴァイセと言ったか?」
「ハ、ハイ!」
「私が請け負う仕事内容に関しては、事前に知らされているのか?」
「ハイ。学園内での教鞭と、功魔官としての仕事をなさってると…。」
「実際先生、メイドちゃんだけじゃ手が回らない時だって在るでしょ?その点この人は、堅物ですけど腕は確か何で色々役立つと思いますよ?教育免許取ってるらしいし。」
「……フム。」
顎に手を当てて考え込む那月。緊張でビクビクするロスヴァイセとは対象に、これといって表情の変化を見せない悠。
しばらく沈黙が続いた後、考えが纏まった那月は提案を出した。
「ならこうしよう。
暫く私の元で研修生として働かせ、学園の事務作業。功魔官の活動。二つの出来具合から判断して、ダメなら不合格。どちらかが問題無しと見た場合、学園の教師か私の部下として働かせる。これでイイか?」
「問題無しです。要はちゃんと仕事が出来れば良いだけですから。
ねぇ、ロスヴァイセさん?」
「ハ、ハイ!よ、よろしくお願いします!」
そういう感じで、ロスヴァイセの就職活動が始まった。
<それで?キミは都合良く手にした駒を、要注意人物のスパイとして見事送り込んだ訳だ。>
「人聞き悪いなぁ。俺はただ路頭に迷う筈の親戚(仮)に、安定の職場先を紹介しただけさ。
ついでに、”何かあったら色々話聞くから、遠慮しないでジャンジャン言ってね”って、ちゃーんと声を掛けただけさ。」
<全く、キミはホント良い性格をしているよ。>
クリムに今日あった出来事を話している悠達が今居る所は、ラボより地下深くにある一室。
照明はラボにある程多く無く、部屋全体を照らし出されなくて薄暗い感じだが悠は全く気にせず、自身の体に黙々と黒い装甲を身に付けていた。
<にしても、まさかこのような場所にそんなパワードスーツを持っていたなんて初耳だよ。>
「言って無かったからな。」
<キミはその一言で上手く収められると、本気で思っているのかい?…それにそのスーツ。改良前のプログラミングを見ると、とんでもない代物の一言しか出なかったよ。そんなモノのテストの付き添いが、私一人で本当に大丈夫かね?>
「今ちょっとゴタゴタしてんだよ。そんな状態で言ったって、余計ひどくなるかもしれないだろ?」
<それもそうだが…。>
「とにかく話はお終い。さ、始めよう。どこまで動かせるか、やってみようか。」
クリムの話を少し強引に打ち切った悠の全身には、重厚な黒の装甲。
デスクの上に有るマスクを手に取り、部屋を区切る為の強化ガラスのドアが開くと奥へ進み先の部屋には、四方に砲丸を発射する装置があった。
悠は丁度四つの装置の真ん中に立ち、そこで手に持ってたマスクを被るとパワードスーツに包まれた姿がそこに在った。
「…初めてくれ。」
<分かった。何かあったら、無理せずそのスーツを脱ぐんだぞ。>
「バカ言え。多少無理しなきゃ、コイツのデータは上手く取れねえよ。」
室内に響く開始のブザー。
正面の装置から放たれた砲丸は軽く200kmは超える速さで撃ちだされるが、それを上体を反らして回避。
続けて来る砲丸も躱す中、背後の装置から二発の砲丸が放たれる。が、それを裏拳で弾き、二発目の砲丸に当てると今度は横サイドの装置からもランダムに撃ちだされる中、躱し、弾き、時に掴み止める。
暫くすると、右足に取り付けられたホルスターから大型の突撃銃を手にすると今度は迫り来る砲丸に向けて発砲。
銃弾は砲丸を的確に撃ち抜き、死角から来る砲丸も撃ち抜く的確な射撃だった。
僅かなマズルフラッシュの光で露わになる、マスクの複眼の様な青いツインアイと、左肩に記されてる文字が僅かにでも目に付いた。
ーG4ー…と。