その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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二つの激闘が終わり、夜が過ぎて朝方の灰原家での一室では…。

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~ん。灰原君が散々注意するように言った力を使って、それでヘロヘロの状態で何とか部長達の前から逃げる事が出来たけど、力尽きて路地裏のゴミ捨て場に酔っぱらったサラリーマンの様に気絶じゃなくて爆睡してた、と?」

 

「ん…まぁ、そう言う事…。」

 

ベットに寝かされている秋を見下ろす形で追及してる姉のハルナ。

 

夜が明けても一向に戻る気配の無い二人の身を心配してハルナやラ・フォリアは艦娘達も動いて街中探した結果、ゴミ袋の山で大の字になって気絶、もとい爆睡してる秋を回収し今に至ると言う話である。

 

「…姉ちゃん。悠兄さんは…。」

 

「…まだよ。ラ・フォリアさんや皆が探してるけど携帯は繋がらないし、この子達も持って無いとすると地道に探すしか方法は無いわね。」

 

「……そう。」

 

秋のベットに悠のバイラルコア達がしょんぼりしたように鳴き声を上げてるなか沈黙の空気が漂った。

 

結論から言って、悠は今現在生存不明の行方不明の状況である。

 

悠がミラーワールドで戦う際にいつも傍についてるバイラルコア達を必ず手放していた為に悠の居場所が分からず携帯も繋がらないと言う状況なのでこうして地道に出歩いて捜す羽目になっているのだ。

 

報せを聞いて腕で目元を隠す秋は…。

 

「…悪ィ姉ちゃん。ちょっとばかし一人にしてくんない?」

 

「秋?…。」

 

「……。」

 

秋の様子が何時と違う事に気付くハルナ。

 

悠の戦況と所在は不明ではあるが秋の戦闘についてはクリムがシグナルバイクを通じてハルナの耳に入っていた。戦いには何とか勝てたがトドメを刺しきれず相手は逃亡と言う結果。試合に勝って勝負に負ける。という何とも言えない結果はいくら底抜けの明るい性格の秋でも堪えるモノが有ると言うのが今眼前に見える光景だと言うのが嫌でも分かった。

 

「…何かあったら呼んでね?傷は治っても反動の所為で全快じゃないんだからね?」

 

「……おう。」

 

掛ける言葉が見つからなかったのでハルナは素直に秋の願いを聞き届けた。

 

部屋から出てドアにもたれ掛るハルナ。部屋の秋に聞こえない位の小さな声で不意にポツリと呟いた。

 

「…私にも…戦える力が在ればな…。」

 

無い物ねだりだと言う事は分かってる。でももし戦う力が在れば二人の負担も減らせるし、本当の意味で苦しんでる弟の支えになれる。

そんなどうしようもない事をハルナは少し考えながらも時刻を見て秋の昼食でも作るかと思い下の台所に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、今現在行方不明とされてる悠は…。

 

「………。」

 

 

 

 

 

 

目が覚めると見知らぬ天井が目に入った。

コレが世に言う”知らない天井だ。”と言うモノだが、俗世に疎い悠から見れば本当に知らない天井だった。

 

自分の状況を首を動かして見てみると、上半身裸に包帯が巻かれ下はジャージの様なモノが履かされている。布団に寝かされており部屋の様子は良く見掛けるこじんまりした和風の部屋だった。

 

(……なんでこうなってんだ?)

 

一先ず何故ココにこうして治療されて寝かされているか、誰が自分を此処まで運んだのか持ち前の冷静な思考を働かせるもその答えは襖から部屋に入って来た人物によって明らかになった。

 

「あ、目が覚めた?

よかった~、余りにも死んだ様に寝てたから心配しちゃったよん。」

 

「………。」

 

部屋には言って来たのは、如何にも部屋着と言うシャツと七分丈のパンツと言う格好の燕だった。片手には盆の上に一人前用の土鍋と茶碗が置かれてる。

 

「いや~びっくりしちゃったよん。あの時どうしても手を放してくれずに気絶しちゃったもんだからどうしようと思って止む無くウチに運んだけど、私でも手当て出来る程度の傷で良かったよ。

あ、そのジャージ、オトンのだけど返さなくても大丈夫だよ。お古でそろそろ捨てようと思ってたのだから。

あとお粥作ったけど食べれる?」

 

「………あの。」

 

「ん?」

 

「……俺。一体全体、どうして此処に寝かされているんです?後、何でこんな傷だらけ?」

 

「…え?」

 

如何なる反応にも予め対策を立てておいた燕だったが、この返しは予想してなかったのか間抜けな声が出る。

 

「えっと……覚えてないの?」

 

「えーっと何と言いますか………そんな感じです。」

 

「…私の事は?」

 

「うーん……会ったような、会って無いような…何かおぼろげな…。」

 

「そう…じゃあ、自分の事は?」

 

「えーっと……分からない。」

 

「…そう、なんだ…。」

 

悠の反応に何処か複雑めいた表情を見せながら少し間が空いた後、話題を変える様に口を開く。

 

「じゃあキミは今、記憶喪失って事で良いのかな?」

 

「…かも、しれないです。…分かる筈の事が、思い出せない…。」

 

思いつめた表情を浮かべる悠。とてもあの時の気迫を纏う切れた刃という雰囲気の悠と違う事に燕は信じられない気持ちだったが、目の前の悠を見るにこの現実を受け止めるしかなかった。

 

「…とにかく、もう少し休んだ方が良いかもしれないね。此処にお粥置いとくからお腹空いたら食べて。何かあったら奥の私の部屋に居るから遠慮無く呼んでね?」

 

「…はい。すみません。何か色々。」

 

「気にしない気にしない♪…一応、恩人だしね。キミは…。」(ボソッ)

 

「?」

 

最後の辺り小さく呟いた事に気付くが内容を分かってない様に首を傾げる悠を後に部屋から出た燕。

 

部屋から出て自室に戻った燕は、大きく一息を吐いた後に先程の悠について思い返す。

 

(あの様子からして、本当に記憶を無くした?でもあの得体の知れない灰原君だから演技の可能性も…。

いやでも、大きいショックで少し前の記憶が飛ぶって言うのは良く聞くし、あれ程の傷を負ったらそうなっても可笑しくは無い…。

…それは後に置いておくとして、今は…。)

 

思う耽る燕の眼前にあるモノ。

 

自室の卓袱台に置かれているのは、悠が所持してるベルトやアイテム等の全てが陳列している光景だった。

その中から紫の拳銃型のメリケンサック。ブレイクガンナーを手にまじまじと見つめる。

 

(これはあの時に見た紫の武器だよね。コレが在るって事は、あの時助けてくれたのは間違いなく灰原君って事ね。

……にしても良く見ると、本当に玩具みたい。

何でこの錠前フルーツが描かれてんだろ?中には木の実もあるし、何か果物とは微妙に違うのもあるし…。

…この携帯とベルトは、此処に嵌めれば良いのかな?あとコレは…定期券?に、カード入れと、カメラみたいなモノに、ジューサー…これも仮面ライダーになるのに必要なのかな?

後…すごい量のUSBメモリ。てかこれだけのかさばる量をあの軽装でどうやって仕舞ってたの?コレも色々種類有るけど…何て書かれてるんだろ?)

 

 

<< TRIGGER >>

 

 

「わ!…もしかして、このスイッチ?」

 

 

<< T,T,TRI,TRIGGE,TRIGGER >>

 

 

(…トリガーって、銃?良く見ればこのTって文字、銃の形してる。他のメモリも見てみると結構凝ってるデザインだな~。そして一番気になるのが…。)

 

一本一本のガイアメモリを見た後に次に手にしたのは、あの時悠が身に付けてたライダーベルトを燕は手にした。

 

(このベルト、多分怪我を治す機能が付いてるんだ。ウチに運ぶまでの間に右足の傷がほぼ治っていたから相当高い技術で作られている……いや、違うか。見た目は完璧に玩具だけど、これ全部が規格外の技術で作られているんだ。)

 

手にしたベルトを置いて再び陳列されたベルトを眺める燕。

 

なにわともあれ、記憶を無くしてる悠だがこれで悠が仮面ライダーであるとの物的証拠が目の前にズラリと並んでいる。この事実とベルトを雇い主である九鬼財閥に送れば燕の一つの仕事は無事成功となり高い報酬が手に入る訳だが、それとは裏腹に燕の表情は何処か優れなかった。

 

 

仮にも恩人である彼をこのまま売る様な事をしていいのか?記憶を無くし無抵抗に近い彼を。

 

 

自分の利益の為に一人の男を売るか。それとも助けてくれた恩を返す為に自らの情に従うか。

 

二つの感情に追いつめられている燕。

 

 

 

そんな燕の部屋の外で誰か立っていた事に気付かぬままで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、行方不明とされてる悠の捜索チームの一つであるラ・フォリア、瑞鶴の二人。

二人はアテも無くひたすら聞き込みや街中を歩いたりして悠を捜索しているのだが…。

 

「ふぅ。未だに手掛かり無しですか。この辺りには居ないと見て良いかもしれませんね。」

 

「そうね。

なら少し休んだ後に一回球磨達と妙高さん達と合流しましょう。ラ・フォ…じゃなかった。翔鶴姉。」

 

そう、何故かラ・フォリアが瑞鶴の姉である翔鶴の格好をしているのだ。

 

何故普段の軍服の様な格好では無いか理由だが、ラ・フォリアは一国の王女である為に知名度が高い。そんな人物と一緒に居る悠も当然目に付いてしまうとの理由で悠から、”基本自由に外に出てもいいが、その際は王女とバレない様にある程度変装しろ”と言われてる為に、こうして普段と違う格好をしているのである。

 

 

 

そして当然服を変えた翔鶴は…。

 

 

 

「うーん。着物とは違って少し違和感が…でもこういった感じのお洋服も、悪くないかも…。」

 

灰原家にてラ・フォリアの服を着た自分を姿見で見ていた。

 

 

 

 

そして場所は戻り髪の色が似てると言う何とも単純な理由で翔鶴となっているラ・フォリアと瑞鶴は街中に設置されてるベンチにて自販機で買った缶ジュースを口にしながら一息吐いてた。

喉を鳴らしてジュースを飲む瑞鶴は、不意に悠に対しての愚痴を漏らす。

 

「にしてもアイツ。これで二度目よ、二度目。連絡も取らず私達に捜させて、挙句の果てにアナタまで動かせて、こりゃ見つけた後、たっぷりそれ相応の見返り要求しないとやってられないわよ、あの迷子は。」

 

「アラアラ。迷子ですか。フフ…。」

 

「そうよ。まぁあの時は何でか知んないけど取りあえず天龍達がボロボロの状態で見つけて来たし、今回も多分何処かでぐったりと寝てんじゃないの?」

 

「…そうですね。悠、無事だといいんですけど…。」

 

「…やっぱり心配?アイツの事。」

 

「…えぇ。してない、と言えば嘘になりますね。正直、今の瑞鶴が少し羨ましいです。

なんだかんだ言って彼が無事である事を信じてるのに対して、私は…。」

 

何時もと違いその笑みに何処か不安な表情が見られるラ・フォリア。普段の彼女からしたら滅多に出さない顔だ。

そんな彼女の顔を見て、瑞鶴は缶を口にした後に顎に手を掛けながらラ・フォリアに話し掛ける。

 

「ホンットにアイツって女の心ってモンが分かって無いわよねぇ。ラ・フォリアさんみたいな美人を知らずにこんな風にさしちゃって…て言うか、あの二人もそうだけどアイツの何処が好きになったワケ?確かに顔は良い方に入るけど、基本戦いに関する事以外ズボラな所一杯あるわよ?」

 

「そう言われてみればどうしてでしょうねぇ……知らぬ間に気に為ってしまったと言いますか、王女である身分を前に変わらぬ態度で接して来たと言いますか…色々有り過ぎて逆に答えが詰まっちゃいますね。

コレが、ホレた弱みってヤツなんでしょうか…。」

 

「ふーん。恋する女は大変ねぇ。…ま、それならアイツを見つけた際に、ウンと我儘言った方が良いわよ。なんならこれを機会に進むとこ進んじゃいなさいな。そうでもしないと、アイツ絶対何もしてこないから。」

 

悠の安否を気にするラ・フォリアだが、瑞鶴なりの励ましに少しキョトンとした抜けた顔になるも、瑞鶴の話に乗っかる様に気持ちを切り返し始めた。

 

「…はい。是非そうさせてもらいます。ここまで人を動かせたんですから、ウンと我儘言わないと釣り合いませんよね?」

 

「そうそう!ちなみに私は翔鶴姉と今話題のスイーツ店奢ってもらうから、その際にラ・フォリアさんも一緒に行ってアイツの財布、ウンと困らせてやりましょ?」

 

「イイですねそれ。…それと瑞鶴。呼び方。」

 

「あ……アハハ。ゴメンナサイ。」

 

「……ありがとうございます。瑞鶴。…本当に。」

 

「…うん!どういたしまして!」

 

迷いが吹っ切れたようにいつもの調子に戻るラ・フォリア。そんなラ・フォリアを目に、もう大丈夫だと確信した瑞鶴は互いに笑みを向ける。

 

暫く経った後にそろそろ動こうとした時であった。遠くの方で爆発音が二人の耳に聞こえて来たのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラ・フォリア達が爆発音を聞く数分前。燕の家に居る悠は敷かれた布団に乃転がって寝ていた。

その様子を見に来た燕は、眠っている悠の寝顔を観察するように見ていた。

 

(…寝てる、よね?…お粥は手を付けて無いみたい。あの後すぐ寝たのか、それとも警戒して食べて無いのか…。

にしても今日オトンが仕事で家空けてて良かった。男の子連れ込んで来たって聞いたらどんな反応するか…。)

 

まじまじと傍らに座って見つめる燕。そんな視線を向けられている悠…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、正確には、記憶の無いフリをしている悠はと言うと…。

 

(…気付かれたかなぁ?芝居打って狸寝入りしてるの…。

とにかく俺の持ち物は全部コイツの部屋にあるのは分かったとして、何時、どう動くか…。まだ洩らして無い様だけど、下手にタイミングを逃したら一気に面倒になっちまうし…。)

 

そう、記憶を無くしたと言うのは真っ赤な嘘。あの時状況が状況で仕方ないとは言え、燕に正体がバレてしまいそれを外に漏らしたかどうかを知るために、止む無く記憶が無いフリで様子を見ていたがどうやらベルトとアイテムを持ってかれただけで外に洩らして無い様だ。洩らしてたら燕の雇い主である九鬼財閥がベルトを回収しているだろうから。

 

一先ず向こうは半分疑ってるが一応は上手く乗り切る事が出来たが、問題はこの後である。どうやってベルトを回収し事態を収拾するかが見極められる場面だ。

 

 

(…本当。)

 

(全く…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

((どうすれば いいんだろう・いいものだろうか。))

 

 

 

 

互いにこれからの方針について悩んでる時であった。僅かながら遠くの方で爆発音が響き渡る様に聞こえて来た事に。

 

「!、今のって…。」

 

(この破壊音…遠からず近く過ぎないって位か…。思いの他早すぎる。)

 

「案外遠くないね、今の音だと……テレビで何かやってるかな?」

 

おもむろに部屋から出てテレビの在る居間へ移動した燕の後を追う様に気配を潜めながら付いて行く悠。

居間にて燕がテレビを点けるのを今の外で影から見てるなかテレビでは早速先程の爆発音についてテレビのニュースで取り上げられてた。

 

『臨時ニュースです!先程○△街道にて謎の三人の集団が、破壊行動を起こしてるとのことです!

いずれもその姿は全身鎧に身を包んでるかのような格好をしており、一部では噂の仮面ライダーとの証言が現場付近で見た目撃者が証言しているとのことです!』

 

「えッ!?仮面ライダーって、どういう事!?しかも三人って…!?」

 

(三人……もしかして。)

 

『あ、た、只今!現場付近の目撃者が撮った静止画像が送られてきました!』

 

そう言ってテレビの画面が変わりだし、燃え滾る炎と瓦礫に包まれた街道の中を歩いている銀色、黄緑色、水色の仮面ライダーと思わしき三人の人影が荒い画像の所為で分かり辛かったが悠はコレだけで全てを察するに十分だった。

 

(やっぱり。アイツ俺から奪ったカードで…まさかブランクのカードデッキを持ってたとは…。

…これはもう、仕方なしと言うべきか…。)

 

内心大きな溜息を吐いた悠はテレビに釘付けになってる燕の居る居間へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして急な敵の報せは灰原家の耳にも届いていた。

 

「待って!待ちなさい秋!!!」

 

「退いてくれよ姉ちゃん!こんなトコで時間無駄にしているヒマはねぇんだよ!!」

 

ガレージに向かおうとしてる秋を止めているハルナ。

 

偶々点けたテレビに敵ライダーの襲撃が補導されている場面をトイレに降りて来た秋が偶然にも目にしてしまい、こうなっているのであった。

 

「分かってるのアンタは!?体はまだ完全に治りきって無い!おまけに灰原君もまだ見付かって無い!!そんな状況でアンタ一人で行ったって…!」

 

「…だからじゃねえか。」

 

正面に立って両肩を掴むハルナに対し、秋は顔を俯かせて小さくボソリと言った後に声を荒げた。

 

「だから行かなきゃいけねぇんだろ!悠兄さんが居ない今、誰がアイツ等止めなきゃなんねぇんだってんだよ!!!」

 

「秋…。」

 

「姉ちゃんには分かんねえよ……仮面ライダーじゃねえ姉ちゃんには、それがどんだけ責任重大か分かる訳ねえだろ!!!」

 

「!」

 

その言葉にハルナの頭が真っ白になった。

 

戦う者と戦わない者。その間に敷かれた大きな壁。弟がここまで自信を拒絶した事もそうだが、ハルナが心の片隅で二人の間に感じていた溝が、今此処でハッキリと、弟である秋にその事実を突きつけられてしまった事に何も言い返す事も、何も出来なかった。

 

そんなハルナを振り切って秋はガレージへと駆け出す。

ガレージにはクリムの意識が移ってるシフトネクストが秋の元に近寄って来た。

 

<秋!>

 

「ベルトさん!オレのマッハドライバー何処!?あと、デッドヒートも!!」

 

<落ち着きたまえ!

今キミのドライバーはシフトデッドヒートと共に調整中だ。調整が終わるのには、まだ時間が掛かる…。>

 

「クソッ!なら別のライダーで行くっきゃねぇか…!」

 

<待ちたまえ!最後まで話を…!>

 

クリムの制止を振り切ってガタックエクステンダーに跨り、アクセルを吹かした秋の耳にクリムの静止の声は全く届いてなかった。

扉が開くとフルスロットルでとび出して行き、残されたのはクリムだけだった。

 

<全く、あの様子では最悪自滅する可能性が大いに高い。…こうなったら、私が…。>

 

「ベルトさん…。」

 

残されたクリムの元に顔色が優れないハルナがガレージに入って来る。

 

<ハルナ!キミも一緒に来てくれ!これから秋の元に行って彼を援護するぞ!>

 

「援護って…私には戦う力なんてないし、灰原君も…。」

 

<えぇい!何をウジウジしとるんだねキミは!!姉のキミが弟である彼をやすやすと死なせていいのかね!?>

 

「でも…。」

 

<とにかく、悠が居なくとも私が微量ながらも何とかするよ。とにかく今は早く秋の元に行くんだ!

キミは戦う力は無くとも、チームとしての一員では無かったのか!キミはその程度で決心が揺らぐ覚悟で、あの時チームの結成を口にしたのかね!?>

 

もしベルトの状態なら彼のディスプレイには怒り心頭の表情が写っている位の一括を膝を着いてるハルナに容赦なく叩きこむクリム。

 

そんなクリムに押されてか、ハルナは少し間を空けた後に、顔色はまだ優れなかったが目の色は明らかに強い何かが宿ってた。

 

「……そうね。秋は秋で出来る事、私には私に出来る事…馬鹿ね。あの二人を見て少し見失ってたわ、私…。」

 

<自分を見返すのは一先ず後だ!とにかく今は一刻も早く彼に追いつこう!>

 

「えぇ!……ベルトさん。」

 

<何かね?今ネクストライドロンを用意するから少し…。>

 

「…ありがとう。ベルトの割に、如何にも人間臭い説教出来る事にびっくりしたけど、お蔭で少しスッキリしたわ。」

 

<…人間臭い、か……AIの私が、まさかそう言われるとは…。

と、いけない!とにかく早く乗りたまえ!>

 

「うん!」

 

玄関前に来たネクストライドロンに乗ったと同時にトップスピードで走り出し、車内中央に設置されてるクリムにハルナは話し掛ける。

 

「ベルトさん。私が何とかするって言ってたけど、具体的にどうするの?」

 

<あぁ。これは悠にも黙ってた事だが、事態が事態だ。私は此処で奥の手を使う事にする。>

 

「奥の手?」

 

<そうだ。本当はもう少し先にしておきたかったがね。>

 

そう言ってクリムはネクストライドロンの操作に専念し、敵ライダーが暴れているだろう現場へ向かうのだった。

 

 


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