悠が三大勢力との間に不可侵条約の規定を設け数日後。
今悠は正直に言って忘れかけてた人物…否、神と久しぶりに電話越しで会話をしていた。
「ようやく食中毒の苦しみから解放か、カミサマの割には随分時間掛かったんじゃないか?」
『まぁね。仮にもコッチの食材で作ったモノだったから。
いやにしてもホント貴重な体験をしたよ。神の私が食中毒で寝込むなんて神からしたら滅多に聞かないよ。…二度と寝込みたくないけど。』
ラボで携帯片手に上司の神と話す悠。
今朝方ラボとガレージに知っているには知っているが、見覚えの無いあるモノ等が置いてありもしやと思って電話を掛けた予想が的中。悠達が色々動いているのに対し上司が寝込んで何もしていなかったそのお詫びにとして送って来たのである。
『それで如何かな?お詫びの品は。これでも結構考えて送ったつもりの品なんだが。』
「秋は大いに気に入ってるよ。今でも上でバカみたいに…いやバカか。新しいオモチャにはしゃいでる。
…だがもう一つの品について色々聞きたいんだが…。」
悠が目を向けた先には、デスクに置かれてる開かれたアタッシュケース。
悠のその声に少しばかり憤りの色が混じっていた。
『あー、それ?
いやね、一応武装面が少ないから、こちらで多少スペックは弄っているから怪人相手には全然通用する代物なんだけど。…』
「俺が聞いているのはスペックの話じゃない。聞きたいのは、コレの数だ。」
『数?…あぁそう言う事か。
いやなに、一応彼女もキミ達と協力している上で結構頑張っているから、護身用としての意味合いでそれを選んだんだよ。数も丁度三つだしね。』
「…言おうと思っていたんだがな。
秋の件もそうだけど、俺の知らない所で勝手に人手を増やすな。
幾ら今の戦況が厳しくなったとはいえ、戦わせる人員は増やす必要は無い。」
『それはキミの意見だろう?キミが別の誰かを巻き込みたくないのという意志が在るのと同様に、私だって譲れない意志があるのさ。
世界線を安定させる為、私達神の居るこの天界の秩序の為、その為に私はキミ達にベルトやバイクを与えた。…まぁ殆どはキミが自作しちゃったけどね。
それとも、人員を増やさなくてもこの状況をひっくり返す一発逆転の名案が浮かんだのかい?』
「…あぁ。あるさ。」
『ほぅ。どんな?』
「…近々ようやく見直しのプログラムが出来てあと一歩で実用可能だ。アンタが送って来た、扱いに困る記念プレゼントのね。」
『プレゼント……あぁ!アレか!十周年記念に私が送ったあのスーツ!
…て言うかアレ結局キミが書き換えちゃったの?言ったじゃん、言えば何時でも私がリスク無しにしてあげるって。それなのに自分でやるって言って頑なに断って…。』
「何で拗ねるんだよ。…とにかく!アレが実戦に使えれば此方にとって多少有利に事が運ぶ。だから、コレに関しては暫くは保留って形にさせてもらうからな?」
『……フゥ。キミは神の私相手でも頑固者だからなぁ…。分かった。それを彼女に与えるかはキミの判断に任せるよ。』
仕方なしにと言った風に上司は電話を切った。
悠も携帯をデスクに投げ捨て送られた品の入っているアタッシュケースの中身を暫く見た後、閉じた。
そして目の前のパソコンを操作し、パスワードの様な文字列を打ち込むと少し離れた床の一部がスライドして開き、中には此処より更に下へ続く階段が隠されていた。
秋はおろかクリムにも言ってない秘密の地下室。悠はアタッシュケースを持って階段を下り目的の地下室に辿り着くと、センサーの様なモノが付いているのか勝手に電気が付いた。
地下室には壁掛けに銃器やナイフ、果てはミサイルなどの現代的な武器が置かれており一言で言うなら武器庫。
奥へと進みアタッシュケースを中の机の上に置いた後、悠は部屋の奥に置かれてる円形の収納庫を見て思わず口が開いた。
「…化け物スーツのお披露目会、か。…耐えられるかね…。」
ポロと溢す呟きは、小さくても地下の部屋に響き渡った。
上司との話が終わりラボから出る階段を上り、ガレージへと出た悠の目に映ったのは。
「くゥぁ~ッ!遂に!遂に来たぜオレ専用バイクゥ!やっぱけカッケエよなぁ、うん!」
「…いいなぁ。アイツ等ばっかり…オレも欲しい。」
ガレージでは目の前に置いてあるバイク、[ガタックエクステンダー]を前にあらゆる角度から眺めてはしゃいでいる秋とそれを羨ましい目で見ている天龍。
どうやら自分専用と言う響にかなり気分が高揚しているようであった。
「お前、まだソイツではしゃいでたのかよ…。」
「そりゃはしゃぎたくなるさ!念願のバイクだぜ!?バイク!
ライドマッハーは悠兄さんに一言言わなきゃ使えねえし、ビーストはバイクねえし…。それが今ようやくだぜ!?これでやっと仮面ライダーっぽくさ、バイクで参上!って出来るのが嬉しくない訳ねえじゃんか。
…と言う訳で。」
そう言って秋はヘルメットを被り、ガタックエクステンダーに跨りエンジンを着けた。
「早速試し乗りしてくるわ!夕飯までには帰って来るんでヨロシクッ!」
悠の返事も聞かずに秋はアクセルを回し、ガレージから出て行った。
取り残された悠と天龍は只々、走り去った秋の後姿を見るだけだった。
「……なぁ悠。一つ話が有るんだけどよ…。」
「バイクなら貯金して買いなよ。最近のは良いバイク結構在るから。」
「頼むよォ!オレもカッコいいバイクに乗って、天龍参上!ってしてぇんだよォ!」
腰元にしがみ付いて頼み込む天龍。涙目になって頼み込む様子から相当悠達のバイクに対して憧れを抱いているのが丸分かりである。
そんな天龍を放そうとしている悠だが中々離れてくれない天龍にどうしようかと悩んでいた時である。
携帯に着信が入り、通話に出る。
「はいもしもし。……アンタかよ、何?………は?」
電話の相手は悠の知っている人間の様だ。通話の相手に少し眉間にシワがよる悠だが少しした後に険しい顔つきが一気に抜け落ちた顔になり、これには未だにしがみ付いてた天龍も気になって放してしまう。
「え今から?いやちょっと待ってよ急すぎるっての………ハァ。…あぁそうでしたねハイハイ。分かりましたよ今から其方に伺いますゥ!
…ハァ~~~~。」
「オイどうしたんだよ。一体誰からだ?」
「…俺が最も苦手な人間。…悪いけど今から出るわ。」
場所は大きく変わりどこぞの研究室。
コアの入っていないロイミュードのボディが盛大に並んでいる広い研究室では金色の仮面ライダー、ゴルドドライブが何かを造っている最中であり手馴れた手つきでパソコンのキーボードを叩く音が研究室に響き渡っていた。
「フム。これで基本プログラムは終了。後はボクのベルトのデータをコイツに送れば…。」
「作業中すみませんが少しよろしいですかドクター?」
手を止めて一息吐いた所に魔方陣が現れそこから出て来たのは同じく金色の仮面ライダー、ソーサラー。
突然のソーサラーの訪問に仮面を被っているがその目線は少し嫌そうな視線が向けられてた。
「何だい急に。ご覧の通りボクは今新しいバイラルコアの開発中なのだが?」
「そんな嫌そうな態度をしないでくださいよ。まぁでも、これからアナタに頼むのは少し面倒な仕事になりますけど。」
「面倒?」
「えぇ。近々ジャッジが戻って来るのはご存知ですよね?」
「あぁ。確か日本を出て行ったんだっけ?全く、彼の身勝手な行動には困った…ちょっと待ってくれ。まさかとは思うが…。」
「そのまさかですよ。アナタにはジャッジが勝手な事をしない様にお守りを頼みたいんです。」
「却下。」
最初から話が無かったようにソーサラーに背を向けて作業を再開するゴルドドライブ。
「…そんな即決で言わなくても…。」
「こんな事ボクが喜んで受けると思ったのかい?それにボクじゃなくても他に人手は居るだろう?」
「そうはいかないんですよ。キングはグレムリンとデビル達の調教に忙しくしてますし、ラヴァーは暫く表の仕事に精を出したいと言って来てるんですから。」
「それじゃあ組織を束ねるキミがやればいいだけじゃないか。」
「私は私で最終計画の準備に手が離せないんです。それに…。」
「それに?」
「実は昨日、表の仕事で急な用件が入っちゃいましてね。私の料理を気に入ったお客さんが団体で来る予約入れっちゃったんですよ。しかも二日後に。」
「そんなのキャンセルすればいいじゃないか。」
「本当はそうしようと思ったんですけどねぇ。でもあの金ぴかのスーツ着た少年、やたら声がデカいし大声で笑ってきますし。何より前金であんな大金置いていかれたら断りづらいと言うかで断りきれなかったんですよ。しかも御付きのメイドが後ろから殺気飛ばしてきますし…。」
「…キミの店に来る客は一体何なんだい?」
「とにかく。そう言う事なので頼めるのはアナタしか居ないんですよ。彼を放っておくとそれこそ後々面倒になってしまいますからブレーキが必要なんです。
勿論タダとは言いませんよ。受けてくれたらアナタが前から仰ってた研究費用の見直しを考えてあげます。」
「…はぁ。それを言われたらどうしようも出来ないじゃないか。」
ソーサラーの提案に渋々席から立ったゴルドドライブ。
「分かったよ。彼を監視して何か仕出かそうとしたらボクが止めに入る。で、イイかな?」
「えぇ構いません。その辺はアナタの判断に任せますのでよろしくお願いしますね。」
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ゴルドドライブの了承を得たソーサラーは満足気に研究室から去って行った。
ソーサラーが去った後を見て大きく溜息を吐いたゴルドドライブはケーブルに繋がれたバイラルコアを見て完成は予定より先になってしまう事に少し残念な思いでいた。
サイの造形が施された金色のバイラルコアを…。
そして電話を受けて家を出た悠が辿り着いた先は空港のロビー。
ロビーに椅子に座りながら悠はこれから会うであろう嵐の様な人物を前に、自分がどれだけ心労を抱えるかの心配事で頭が一杯になっていた時であった。
向かいのゲート口から悠を呼び出した人物の姿が見え椅子から立ち上がって歩を進める。
銀髪の長髪をなびかせて向かって来る彼女に。
「お久しぶりです。元気になされてましたか?」
「まぁね。にしても急なご来訪で大変驚きでごぜえます王女サマ。」
「フフフ。相変わらずで何よりです。」
思わぬ再会を果たした悠とラ・フォリアの二人。
彼女は数少ない悠の正体を知っている人物の一人であるので、電話の際に来てくれなければ思わず喋る、と脅迫紛いの事を言われたために悠は少し不機嫌な顔をしているのだが当の彼女はそんな悠の顔を見て本心から笑顔で笑ってた。
そんなラ・フォリアを前に悠はある事に気付いてラ・フォリアに聞く事にした。
「アンタ一人か?流石に王女のアンタが付き添い無しで一人なんて可笑しいんだが…。」
「…実はその事でアナタの助けが居るんです。」
先程と打って変わって深刻な顔をしだしたラ・フォリアを前に悠は頭を搔きながら息を吐く。
「…気のせいかなぁ、アンタが毎度俺に会う度に厄介事を持ち込んできているのはさ?」
「それについては申し訳ないと思っています。でも今回ばかりは流石の私でもどうしようも出来ない事態ですので…。」
「…それってそんなにヤバいの?」
「はい。」
「………ハァ。場所を変えよう。俺の家なら落ち着いて話せる。」
「もう何なのよ!あの北岡ってヤツ…!あぁーッ!あのすました顔がすっごく腹立つ!」
「…ふぅ、アリア。今回ばかりは相手が悪かったんだって。…まさか武偵のとこまで根回しが来るとはな…。」
とある街道を並んで歩くアリアとキンジ。
かなりご機嫌斜めと言ったアリアを落ち着かせようとしていたキンジだがどう言っても機嫌が直らないアリアに手を焼いていた。
何故こうまで機嫌が悪いかは三大勢力との条約を結んだ次の日である。武偵側にある男がキンジとアリアに訪問して来たのが事の始まりだった。
北岡 秀一と名乗って来た男はキンジがこの前会った村上と同僚と言ってきてキンジ達の担任でもある蘭豹を交えてアリア達の行ってきた仮面ライダーの捜索についての問題点を挙げて来た。
武偵側としてはアリア達の今回の件について一切の報告は受けて無く。それどころか仮面ライダーの捜索は依頼を受けて活動する武偵としての本来の活動に含まれておらず一言で言うなら命令違反に近い行為。それと仮面ライダーに構っていたお蔭で武偵としての単位の取得を疎かにしていると言う事実を突きつけられアリアは北岡に反発したが、そこは担任の蘭豹が武偵の面子と言うのもあって鉄拳で黙らせたと言う。
武偵側としても三大勢力を黙らせた仮面ライダーの危機度に警戒をしており出来れば敵に回したくないと考えもあって武力派として知られてる蘭豹もデカく動く事が出来ずにいた。それ程にまで仮面ライダーというネームバリューの脅威は武偵や三大勢力のみならず、世界に知れ渡ってしまったのだ。
そんな事もあってアリア達は仮面ライダーの捜索から引き離されてしまい、単独行動の罰としての街のパトロールに宛がわれてしまい今に至ると言う訳であった。
「これが落ち着いていられるかぁーッ!あの北岡ってヤツ、アタシの事見下した挙句先祖の名前までバカにして!何が、”そんな事で、ホームズなんてビックネームを使うとかえって格が下がる”よ!…次会ったら、風穴空けるどころじゃ済まさないんだから…!」
(そういう所が言われても可笑しくないとオレは思うんだけどな…。ん?)
憤慨してるアリアを見て内心呆れているキンジ。そんな時ふと、前から来るバイクに目を奪われついつい注視してしまう。
(何だあのバイク?髑髏?すごいデザインだな…おまけに後ろに乗ってる女の人、アレは銀色か?ジャンヌと暁以外でも居るんだな…。)
「キンジ!何ボサっとしてんの!早く歩く!」
「ハイハイ。(PiPiPi!)っと、電話か。ハイもしもし…何だ理子か、どうした?……え?明日空いているか?」
「はぁ~~。怒られちゃったよん。」
別の所でキンジ達同様に街道を歩いている燕の姿が。
だがその姿は普段のハツラツとした様子は見られず何処か落ち込んでいる様子であった。
(モモちゃん対策は順調なんだけど、仮面ライダーの正体は未だ進展ゼロ。間違いは許されないから仮定を言っても外れたら速攻アウトだし…でも今最も可能性が高いのは彼なんだよなぁ~。)
燕が脳裏に浮かぶのは百代を簡単に伸したみせた悠の顔。
あれ以降何とか悠に近ずき彼の情報を掴もうとしていた燕だったが、いざ対面しようとするとその次に姿を消していく。まるで霧の様に中々その実態を掴ませない徹底振りに燕は成す術無く空回りさせられているのだ。
(う~んどうしよう…少なくとも彼は普通の高校生じゃ無い事は確実だとして、その本質を掴むための策は……駄目だ。今までのやり方じゃ成功出来ない。彼は本当に隙が無い…。)
どうにかして素性を知る方法が無いか考える燕だが一向にいい案が思いつかない。
そんな時である。前のT字路から燕の前を通りすぎた二人乗りのバイクを見て、それまで働かせていた思考が瞬時に止まった感覚が走った。
(今のバイク……間違いない!あの時見た仮面ライダーのバイク!)
燕の頭に浮かんだのは、あの時仮面ライダーが自分を助け離れた場所で姿を変えるのを見て正体は学園の生徒であると分かった後に現れた無人で走るバイク。そのバイクが特徴的なのもあって燕の記憶にハッキリと残っていたのが今自分の目の前を横切ったのだった。
(運転してたのはヘルメットで分からなかったけど、後ろに乗っていたのは女の人だってのは分かった。しかも銀髪なんてそうそう無い色だから簡単に見つけられる……コレって、一世一代のチャンス!?)
想いもよらない出来事に内心気分が舞い上がって今にも跳びはしゃぎたい気持ちを堪えようとする燕。そんな彼女の携帯に着信が入り、画面を見た後通話に出る。
「もしもしモモちゃん?どうしたの?……明日?ヒマだけど…。」
そして、そんな燕の背後から顔覗かせる怪しげな人物が…。
「ムムッ、電話に出ましたね。恋人からの電話でしょうか…。」
「いやいや、そんな事まで調べ上げなくても良くない?一応あのデカい会社…九鬼って所に入り浸ってるって分かれば十分…。」
「何言ってるんですか衣笠!悠さんから直々に頼まれた諜報任務ですよ!?
情報収集を得意とするこの青葉、何処までも調べ上げていく所存ですよ!」
手にメモ帳とペン持つ青葉の後ろから少し離れて話している衣笠。
燕が悠について調べているのと同時に悠も燕の動向について調べるよう情報収集(と言う名の隠し撮り)が得意な青葉に頼み、衣笠はそのお守り役として就くように言われており青葉達はここ最近の燕の行動を調べていたのだった。
「熱心なのはイイけどさ、それを身内の私達にまで向けるのはいい加減止めなよね。この前なんて隠し撮りばれて悠君からキツイの貰ったばっかじゃん。」
「うッ!き、衣笠。それは出来れば言わないでください。アレを思い出すと、青葉は…青葉の心がッ!」
「どんなお仕置き喰らったのよアンタ…にしてもさっき悠君通らなかった?何か女の人乗せてたけど…。」
「何ですと!?それは本当ですか衣笠!?」
「うん。だってあのバイク悠君以外使うの居ないじゃん。」
「女の人を乗せてた?…もしやこれは、遂に悠さんに春到来!?川内さんと神通さんの恋散る!?
これは良いスクープネタですね!」
「…青葉ぁ。アンタもう一度お仕置き喰らった方がいいんじゃない?」
「たっだいま~♪いやーやっぱ自分のバイクで走ると気分が全然違うね~♪
…アレ?」
日が暮れた夕方時、ガタックエクステンダーの試し乗りと言う名のツーリングを終えた秋は帰宅し機嫌良く家の仕切りを跨いで帰って来た。
そんな秋の目の前で不自然な光景が広がっていた。リビングの出入り口で廊下から天龍と龍田が揃ってリビング除いているのだ。
「どったの二人とも?そんなとこで顔覗かせちゃってさ。」
「おう秋か。いや、実は悠のヤツが何かエラい美人連れて来たんでよ、つい気になってこうしてるんだよ。」
「私は天龍ちゃんを迎えに来たんだけど~、何か面白い事になっているからつい~。」
「面白い事?……うわ何あの人?すっげえ美人じゃん!悠兄さんは…何やってんだ?」
秋の視線の先ではリビングでソファーに座っているラ・フォリアと、その向かい側に座っている悠の姿。だが悠の方は後姿でも分かる様に頭を抱えている状態であった。
「……あー、悪いんだけど。さっきの話、ちょっとおさらいさせてもらって良い?」
「えぇ。構いませんよ?」
「うん。…事の発端は、アンタのお父様とやらが、アンタに何も言わず勝手に縁談の話を設けた。」
「えぇ。アレは流石に怒りますよ。私に何も言わないで勝手に決めて…。」
「んで、当然の如く反発し、喧嘩した。」
「ハイ。」
「そんで、勢い余って、考えが変わるまで出てってやるって啖呵切って出て行った。」
「ハイ。」
「……それってさぁ、アレだよね?…所謂……家出、だよね?」
「ハイ。出たは良かったんですけど、お父様の考えが変わるまで滞在するアテが無かったもので、アナタに助けを求めて此処に来ました♪」
「………。」
ラ・フォリアの来日した理由がまさかの親と喧嘩しての家出だったという事実に悠は何も言えず只々、口が開くまで思考が止まっていたと言う。
「…………帰れ。」
「え?」
「直ぐに、国に、帰れ。」
ドスを利かせた睨みから真っ先に開口一番に言って来た言葉に流石のラ・フォリアも冷や汗を流さずにはいられなかった。
「…あの…怒ってます?」
「怒ってると言うかよぉ、どちらと言うとアンタの話を真に受けて相当な厄介事だと思った自分に怒りたいよ。
ていうか何?これまでアンタとは色々あったけどさぁ、まさか家出の手助けまで求められて来るとは誰が想像したかねえ?えぇ?」
「ま、まぁまぁ。今までのと比べたら今回は平和的と言っても過言ではないですか。それに何だかんだ言って私も年頃の女の子ですし、家出するには可笑しくないと思いますけど?」
「その頼ってきた先が何で俺んとこかねぇ?
あのポニテとか暁とか、この街の人間に頼むならまだそっちの方が安心だと俺は思うけど?」
「えぇ確かに、紗矢華も古城も助けを求めるのに信頼出来る人達というのは理解してます。
…でもその中でも私が一番信頼しているのはアナタなんですよ?アナタは今でも夏音の事を良くしてもらっているようですし、偶に電話しても良く聞きますよ。アナタとの話を、それで嫉妬しちゃう時もありますけど。」
「……あっそう。本当に変わり者だこって……俺が今此処で何をしてるかって噂は、海を越えてもソッチの耳にも聞こえてる筈だと思うんだが?」
「えぇもちろん。それを踏まえてアナタの所に来たんですもの。
言いましたよね?ナメないで欲しいって。好きでも無い人とお見合いするくらいなら、好きな人と一緒に居たいのは可笑しい事ですか?」
「……ホント何でそんなこっ恥ずかしい事を平気で言えるかね…。」
包み隠さず言って来るラ・フォリアの言葉に顔を上に向ける悠。自分はやっぱりこのバカ正直に自分の好意を言って来るラ・フォリアに対し改めて苦手なタイプだと嫌ほど思い知らされた。
「まぁそれはともかく……テメエ等何時まで除いてんだ!いい加減にしねえとブッ飛ばすぞゴラァ!」
「あらら~バレてたわね~。」
「い、いや。べ、別に除いてたわけじゃ無いぜ。ただどんな事話してるか気になって…。」
「それよか悠兄さ~ん。ちょっとちょっと、今の話はどうなんですか~?何か二人とも結構いい画に決まってたけど、実の関係はどうなのさァ~?ん?」
「お前は黙ってろ秋…!」
「兄さん?悠。アナタご兄弟がいらしたんですか?」
「あ、オレ?どうも!桜井 秋っていいます!訳あってこの家に居候してまーす!」
「居候ですか…もしかして其方のお二人も?」
「え?あぁいや、オレ達は…。」
「私達、悠君の親戚の者です~。偶にこの子の様子を見にここに来てるから一緒には住んで無いわ~。」
「アラそうですか。安心しました。」
「何に安心したの?」
「それよかお姉さんさ、家出で住むとこ困ってんなら此処に住んじゃう?部屋はまだ一杯空いているからさ!」
「まぁ!本当ですか!?それはとても助かります。」
「オイ秋!お前何言ってんだ!」
(バカンッ!)「そうだそうだ!そんな事はこの私が許さないよ!」
「「ウェイ!?」」
「おわッ!?」
「あらら~。」
「まぁ!」
悠が秋の提案に反対したと同時に天井が開き、そこから顔を覗かせて同じく反対してきた川内は天井穴から回転しながらラ・フォリアの前に降りて来た。
「何さ何さ!いきなり出て来てユウの事好きだなんだ言っちゃってくれてさ!そっちが何時ユウを好きになったか知らないけど、私だってユウを好きな気持ちは誰に負けないって自負してるんだ!ぽっと出のイイとこお嬢さまみたいなアンタにユウと同じ屋根の下なんて、羨ま、っとゲフンゲフン。この夜戦忍者の川内さんが許さないよ!」
「ニンジャ?ジャパニーズ・ニンジャですか!?まさか本当に居たなんて!ユスティナが聞いたらさぞ喜ぶ顔が思い浮かびます!」
「あの…て言うか、コレ天井…。」
「お邪魔しまーす。…何この騒ぎ?」
「お、姉ちゃん!いや実は今スゲエ面白い事になっててよ!」
「面白い事?一体何……アレ?あの人確か…運動会の時の王女様!?何でここに居んの!?」
「あのぉすみません。ここに川内姉さんが来てませんか?」
「あっれー?何か今日は人一杯だねえ。何かあったの?」
「お、おぉ。これはどう説明すればいいのか…。」
「そうねぇ~。一言で言うなら神通ちゃん。アナタもウカウカしてられないってハナシよ~?」
「え?」
「……誰か、この状況何とかしてくれ……(ポン)…?」
項垂れる悠の肩に置かれた小さな手。振り返ると何時の間にかそこに居た早霜が温かい目で悠を見ていた。
「…ドンマイ。」
「………どうも。」
日が完全に暮れて夜の闇に包まれた街の都心部。
高層ビルの屋上。そこから街を見渡している人型の異形は全体が影で覆われているためにその全貌は明らかではないが下から来る光の反射具合でその体は金色をしていることは分かる。
「この街に居るようだな。あの老いぼれの下等な生物は……この世に私と同じ名を持つ等、私が許さん…。」
そしてその異形は街に背を向けたと同時に一瞬の内にその姿を何処かへ消していった。
金の羽をその場に撒き散らせながら…。
そして場所は戻り灰原宅。リビングにて。
「………なーんでこうなったんだ?」
悠が一人呟く視線の先にあったのは何故かラ・フォリア中心に楽しく談笑する悠以外のメンバー。
時間が経つにつれ彼女の才能と言うのかこの場に居た全員に歓迎ムードに変えられ、先程まで啖呵を切ってた川内も仲良さ気に話している。どうやら共通する話の話題があったようだ。…何がとは言わないが。
(オイオイ。この調子じゃマジで此処に居させる展開になっちまうじゃねーかよオイ。)
悠がこれ以上の心労を抱えない為にどうにかしてこの状況を打開できないか考えてた時だった。
家のインターホンが鳴り龍田が玄関先で見て来ると言い席を立って少しした後に戻って来た。
「悠く~ん。お客さんよ~。なんか、可愛らしいメイドの娘が悠君に伝言が在るって~。」
「……メイド?」
龍田の言って来たメイドと言うワードに当て嵌る人物は悠の記憶上一人しかいない。
若干の緊張を持ちつつ玄関先にやや速足で向かうとそこには悠の思ってた通りの人物である、那月のメイドにして助手的な立ち位置に居るアスタルテが立っていた。
「夜分急な訪問で申し訳ありません。南宮教官から貴方にメッセージが有るのでそれを伝えに伺いました。」
「何だい、電話で済みそうな用件を態々人伝えに来させるほどの用件なんて…赤点なら取った覚えは無いよ?」
「南宮教官からは生徒としてでは無く、専門家として聞きたい事が有るので明日来て欲しいと言う事です。」
「専門家?…あぁそう言う事かなら納得……で、何処に行けばいいって?」
「海です。」
「………何?」