その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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熱い、そしてダルイ。
そんな中頑張って投稿しました。
それではどうぞ。




空が晴れてる学園の敷地内の中、悠は缶コーヒーと本を持ちながらある場所に向かっていた。

 

今は授業を行っている時間なのだが、担当の教師が急な用が入ったため自習となってしまったのでそれならばと思い最近見つけたベストスポットに行ってコーヒーを飲みつつ、木陰の下で静かに本でも読もうとその場に向かっていた所だったのだ。

 

校舎の裏で少し距離があるのだが、清掃が行き届いており広々とした場に木々があることから日よけにもなって人通りも少ないことから悠のお気に入りになっていた。

 

喧騒な殺し合いの日々の僅かな休息を味わおうとしてだが、角を曲がり目的地へ着いた悠の目に飛び込んできた光景は…。

 

「ふっ!はっ!やぁっ!」

 

「……。」

 

ベストスポットは赤い長髪をポニーテールにした体操服の女子が一人薙刀のような物を持ちながら素振りをしていた。その掛け声から静かだと思っていた場が騒がしい場に変わっていた。

 

「ふ~~ッ、さて、次は…。」

 

「何やってるの?」

 

「うわぁ!?」

 

素振りが終わった様子の女子に悠は声をかける、その口ぶりから折角の楽しみを捕られた所為もあってか、少し声色に不満な様子が見られた。

 

「ビックリした~…あれアナタなんでこんな所に?」

 

「それはこっちが聞きたいことなんだが。」

 

「アタシ?アタシは見ての通りココで稽古してたの!授業が自習になったからヒマになっちゃってさ、ここあんまり人来ないし広いから稽古するのに丁度いいからね。それはそうと君は何でココに?」

 

「俺のところも自習だったからココで静かに本でも読もうかと思っていたところに君がいたって所かな…。」

 

「ふ~ん、あっ、アタシ!2-Cの川神一子!よろしくね!」

 

「…2-B、灰原 悠…。」

 

二人は軽い自己紹介をした後、悠はいまさら教室に戻るのも癪なので木陰の下に座り、先程素振りをしてた一子も休憩と言って若干の距離を取りながら悠の隣に座った。

 

「そういえば、灰原君て転校生だったわよね?」

 

「あぁ。」

 

「どう?この学園?色々有って楽しいでしょ?」

 

「色々有り過ぎて困惑したってのが本音かな。…川神さんって武術やってるの?」

 

「うん!アタシ川神院ってトコに住んでるから、やってて結構経ってるの。

それでね、アタシは何時か川神院で師範代になってお姉さまに一歩でも近ずくのがアタシの夢!」

 

「へぇ…。」

 

「…まぁなんて言ってるけどアタシちょっと思っちゃうんだよね、本当に夢が叶うのかって。

アタシはお姉さまの強い姿を見て、アタシもいつかあんな風にっての憧れがあったからアタシの夢は夢じゃなくて、ただの憧れから来るものなのかなって。」

 

「…初対面の俺にそこまで聞かされてもなぁ。」

 

「あはは、ゴメンね。

でも灰原君てなんか不思議と悩み打ち明けられそうな雰囲気がね…。」

 

「…本当に憧れだけ?」

 

「えっ?」

 

「…夢っていうのはさ、時々すっごく切なくなるけど、時々すっごく熱くなれる…らしい。

今の俺には夢はないからその感覚は分からないけど、君がもしそれを今感じることが出来るならその夢は本物だよ。何者でもない君自身の夢…受け売りだけどね。」

 

顔を上に向けて空を見ながら悠は一子に夢について語り出す。

 

その時の悠の目は失ったものが元に戻らないとわかってた上で見つめる遠い目をしていた。

一子は悠の言葉を聞いて自分の夢に対して感じるものを思い出し、笑顔を浮かべて語り出した。

 

「本物か…。うん!そうよね!アタシが師範代になるのも!お姉さまを超えるのも!アタシの本当の目標よ!

ありがとう灰原君!なんか今まで悩んでたモノがスッキリしたわ。ようし!そうと決まればさっそく鍛錬あるのみだーッ!」

 

先程の思い悩んでた顔から一転して全てを吹っ切った一子はその場から走って行こうとするが、突如悠の方へ振り返り笑顔で叫んだ。

 

「灰原君!キミは夢がないって言ってたけど、熱くなる感覚が分からないって言ってたけど、君にも見つかるよ!本物の夢!

だって、アタシみたいな武道バカにも見つけられたんだからさ!」

 

そう悠に告げた後一子は今度こそその場から消えた。悠は一子との会話の中自身の記憶に眠る一旦が脳裏を過る。

 

かつての自分の夢について。そう、今では叶えられない夢を無駄だと思い返しながら。

 

 

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放課後、帰宅途中の悠は今日の夕飯の献立を考えながら買い物していた。

 

メニューをどうするか考える悠の背後から、悠に気付いて声を掛けて来るものが居た。

 

「あれっ?もしかして灰原先輩ですか?」

 

「ん?……君は。」

 

黒い髪を短くポニーテールに纏め中等部制服を着た少女、かつて悠がこの世界に来て早々に助けた古城の妹の凪沙であった。

 

 

「やっぱり!あぁよかった~!間違えてたらどうしようかと思っちゃた~!

先輩も買い物ですか?やっぱり一人暮らしだとゴハンとかちゃんと作らないといけないんですね!家の古城君も少しは先輩見習って作ってくれたらいいのに、いつもいつもアタシに任せっきり…。

あっ、そうそう!灰原先輩よかったら家でご飯食べてってくださいよ!あの時のお礼もまだだし、一人暮らしだと…。」

 

「あぁ……うん………その内、お邪魔させてもらいます。」

 

容赦なく掛かって来る凪沙のマシンガントークに飲まれそうになった悠はついつい誘いに乗ってしまう。出来るならこれを機に、凪沙の言ってる恩とやらを清算して早々わだかまりを失くそうと考えての返答だ。

 

買い物を済ませ家の方角がどちらも一緒だったので途中まで一緒に帰る事になる。悠は普段どうり無表情であまりしゃべりかける様子はなく、凪沙の方は悠の顔をチラチラ見ながら話しかけられずにいた。

 

(う~~、勢いで声掛けたけどこの後どうしよう!折角やっと先輩に会えてゴハンの約束したっていうのに話しかけられないなんて。

もしかして若干強引に誘ったのがマズかったのかな?もしかして、嫌われちゃった?!)

 

(随分静かになったな……まぁ流石にこんな男じゃ何話して良いか分からないか…。)

 

「あれ、灰原君?」

 

何も会話せず凪沙と共に歩いていく中で、薙刀の入った包みを持ちながら制服姿の一子が悠に話しかけた。

 

「あぁ、川神さんか。」

 

「灰原君は帰り?…あれ、その子……もしかして、アタシお邪魔だった?」

 

「お邪魔……ッ!ち、違いま…!」

 

「違うよ、唯の知り合い。

偶々そこで会ったから途中まで帰ろうってだけ。川神さんは帰りって訳じゃ無さそうだけど、寄り道?」

 

一子の言葉を凪沙が否定するよりも先に悠がバッサリ否定したことにより凪沙の表情がムッとした顔になる。そんな凪沙の変化に目をくれず悠は一子から僅かに出てる闘気を感じ一子に問いかけた。

 

「うん!決闘を申し込まれたから、今その先の川原に行くところ。」

 

「決闘?今のご時世に?」

 

「川神院って武を重んじる習性があるからそこに通ってる人たちは時々他の武芸者から申し込まれるの。アタシも何回か戦ったことがあるわ。」

 

「で、今回も申し込まれたと。」

 

「そっ!でも今回申し込んだの明らかに武道やってる人ってカンジじゃないのよね、いかにも素人って感じの…まっ、例え誰であろうとアタシは全力を出すのみよ!じゃあアタシ行くね!」

 

そういって一子は悠に手を振って威勢よく走って行った。

 

「……決闘ねぇ。…うん?どうしたの?」

 

「…先輩、今の人って…。」

 

「今日知り合ったんだ。…迷える子羊、かな?

…ところでどうしたの?なんか、すごい不満です!って顔してるけど…。」

 

「いいえ!何でもありませんよ!」

 

面白くないモノを見たような顔で凪沙は歩いて行った。悠は何か怒らせるような事を言ったか?と思いつつ、一子の行った後を見て、少し、胸騒ぎがしたのを感じた。

 

 

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「もう諦めたらどうだ?すでにボロボロじゃないか。」

 

「はぁ!はぁ!……まだよ!」

 

場所は川原、異様な光景がそこにあった。

 

赤い短髪の男が先ほど悠と別れた一子に申し込んだ決闘にて一方的に打ち負かしてるところであった。

 

勝負の内容は勝負と言っていいモノではなかった。武器を手に技を仕掛ける一子に対し男は圧倒的な気から放つ気弾で痛めつけるだけの一方的な暴力とも言える展開であった。

 

「諦めろよ。気の持ってないお前が勝つ確率なんて有る訳ない。それがお前の限界だよ。」

 

「なにを…。」

 

「だってそうだろ?お前の姉の武神も道場の師範代たちも皆気を持ってるから強いんだ、それに比べ気のないお前が師範代になろうなんて無理に決まってるよ。現に俺に負けてんだからさ。」

 

男の言う言葉によって一子は気付かされる。自分には姉たちのような気は持っていない、それは才能が無い事。いくらどれ程頑張ったって大きな才能の前には無力だと言う事に。

 

「自覚しろよ、お前には高すぎた理想だって。

そんな理想持つくらいなら俺のモノに成れよ、望めない夢持つよりそっちの方がずっと…ッ!?」

 

男が近づき一子に救いの手を差し伸べる様に手を伸ばそうとするその腕を突然横から掴まれる。

 

掴んだ相手は、先ほど一子と別れた悠だった。

 

「灰原…君?」

 

「何だテメエは離し…ッ!」

 

掴まれた手を振りほどこうとする男であったが悠は何も言わず威圧的な視線を向ける、悠から放たれる威圧感は男だけに向けられてるのもあって、先程の優勢な態度が引っ込み冷や汗を搔いている。

 

「ッ……チッ!興が削がれたぜ。」

 

掴まれた腕を必死に振り払い、男はその場から逃げるように速足で去って行った。

 

残されたのは悠と一子の二人。一子は立ち上がって悠に何か言おうとするがフラフラと足元が覚束なかった。

 

「灰原君…アタ、シ…──。」

 

痛め付けられた解放感からか意識を失い倒れていく一子の体を悠は出来るだけ優しく受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次に出るライダーは察しのいい方なら気付いてる筈です。
それでは皆さんまた次回。

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