その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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騒動

 

7月後半。学生達にとっては待ちに憧れた夏休み。

 

残りわずかと言った学生生活にとって、青春の思い出を刻むのに忙しない者も居たり、自分にとってこれからの人生夢の為に必要な事を覚え、学ぶために遊ぶ間を惜しんで努力している者もいるであろう。

 

 

 

 

そしてその学生達に紛れて世界の命運を握っている者達にとっても、忘れられない夏になる事は今はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪~~…。」

 

夏休みに入って三日経ったこの日の昼前。

悠は一人自宅のリビングにて日頃働いてるシフトカー達を労おうと、口笛を吹きながらボディを丹念に磨いてる真っ最中である。

 

「ハイお終い。次。」

 

磨き終わったランブルダンプを置いて傍に居たスピンミキサーを手に布で汚れを落としていく。テーブルの右端には磨き終わってピカピカになったシフトカーがご機嫌の様子で話し合っていたり(実際にはクラクションが鳴っているだけ)反対側のテーブルには順番待ちで並んでいるシフトカー達に加えバイラルコアや秋のシグナルバイクも今か今かと順番に待っている最中である。

 

ある程度汚れを拭き落としてコーティング用のワックスで丁寧に磨き上げている最中で、玄関のドアが勢いよく開いた音を耳に帰って来たかと思っている内にリビングの扉が開く。

 

「ただいまー。ふー、いい汗搔いたぁ。」

 

「お帰りー。付き合わせて悪かったね、長良。」

 

頭に鉢巻と上は制服で下は体操服と言う変わった格好の艦娘、長良に作業を中断して声を掛ける悠に対して長良は気にしない様子で答える。

 

「いいよいいよ。アタシ走るの好きだし、この位なら何時でも頼って来ていいからさ。」

 

「そうか……で、アイツはどうした?」

 

「秋君なら、そこで…。」

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…。」

 

長良が指差した方にはジャージの姿で、汗だくの状態で息が切れ切れの秋が扉から顔を出していた。

 

「…で、見ていてどうだった?」

 

「うーん…足腰の強さと瞬発力は良いと思ったけど、持久力がちょっと足りてないって所かなー。半分過ぎてた頃にはペースが段々落ちていたし。」

 

「ぜぇ、ぜぇ……オ、オレ。短期決戦タイプ、なんで…。」

 

「…持久力付けるメニューを中心に考えた方が良いか。

あぁ長良。冷凍庫のアイス好きに持っていって良いよ。また頼む時はよろしく。」

 

「いいの!?やった!ならお言葉に甘えて~♪

……それじゃあ秋君、また今度一緒に走ろうね。」

 

「オ、オウ。長良ちゃんとなら何時だって大歓迎~…。」

 

冷凍庫から取り出したアイスを抱えて長良は去って行き、長良とすれ違った秋も冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して一気に口にし、息が少し落ち着いた所で作業を再開した悠に声を掛ける。

 

「ねぇ悠兄さん。さっきの30キロマラソン。あれって一体何の意味があったの?」

 

「お前のこれまでの経験のお蔭でファントムやロイミュード複数相手なら楽に対処できるようになっているだろうけど、ライダーが相手だとそうはいかない。長期戦に持ち込む確率だって無い訳じゃない。だから手っ取り早くギリギリまで走らせたんだよ。

今のお前のバテ具合を見て根本的に長期戦に持ち込む体力が有るか否かを判断する為のマラソン。」

 

「で、必要になりましたって訳ね……ちなみにこれからどんな特訓を…。」

 

「それついてはこれから考えるよ。コイツ等をキレイにしながら、ね。」

 

スピンミキサーを置き、次にデコトラベラーを手に汚れを拭き落としていく。

走り終えた疲れとこれからの特訓の厳しさを考えて気分が下がる秋は水を飲み干して、一先ず汗だくの体をサッパリさせようと浴室に向かおうとする。

 

「取りあえずシャワー浴びて来るね。」

 

「あぁ。」

 

悠に短く告げて浴室に向かう秋。

時間が経ち作業をして暫くと言った所で、次々とシフトカー達を磨き終え順番待ちしてるバイラルコア達に手を付けようとした所であった。

 

 

 

ピンポーン

 

 

「ん?…ふぅ。」

 

突如家中に鳴ったインターホンに作業を中断して玄関口へと向かう。セールスなら二度と来ない様に追い出し、宅配便ならさっさと荷物を受け取って作業に戻ろうとしかこの時は考えていなかったのだ。

 

その所為でこれから自らの失態を嫌と言う程叩き付けられるとも知らずに。

 

 

 

 

 

ガチャ

 

「あ、ゆーくん。来たよー!」

 

「よぉ灰原ぁ。早く、早く中に入れてくれぇ……あぁ、日差しが…。」

 

「先輩、来て早々それは流石に失礼ですよ。こんにちは灰原先輩。」

 

「……。」

 

「…………え?」

 

ドアを開けて外に居た人物は私服姿の古城、凪沙、雪菜とそして何故か居るアスタルテの四人。全くと言って良い程の予想外の面子に呆気に取られながらもここに居る理由を聞き出す。

 

「えーっと……何でココに?」

 

「え?ゆーくん忘れちゃったの?この間ご飯食べに来た時に、ゆーくん家に行って良い?って言ったらOKしてくれたじゃない!」

 

「…………あ。」

 

「……灰原先輩。その反応もしかして…。」

 

「……いや。忘れる訳、無いじゃない…(ヤッベェ、すっかり忘れてた。)…。」

 

雪菜が悠の反応から見て今日来る事を忘れてる風に見られたが苦し紛れに誤魔化し、不意に視界に入ったアスタルテに気付く。

 

「…あのー、何でまたおチビ先生のとこのメイドちゃんも居るの?」

 

「あぁ、此処に来る最中にばったり会ったんだよ。休み貰ったらしくてさ。

そんで、凪沙がどうせなら一緒に行かないか?って誘った訳。」

 

「うん!これを期にアスタルテさんと親睦を深めようと思って誘ったの!ゆーくんなら大丈夫かなって思って。」

 

上機嫌で答える凪沙の隣でただ此方をじっと見つめるアスタルテを目に、正直了承したくは無いがアスタルテが那月と繋がってる以上ここで断って那月に変に勘ぐられるのは避けたいので、NOとは言えない。

 

「まぁ一人増えるぐらい全然大丈夫だけど…。」

 

「やった!良かったね、アスタルテさん!」

 

「感謝します。Ms暁、Mr灰原。」

 

「おーい。それよりも早く中に入れてくれぇ、もう暑くてどうにかなっちまいそうなんだ…。」

 

「あ、あぁ、取りあえず中入んなさいよ。」

 

一先ず四人を家の中に入れる事にした悠。後ろで雪菜と凪沙に注意を受けている古城を余所に、普段通りに接していれば問題は無い。在るとしてもアスタルテにさえ注意すれば大丈夫。

 

(後はガレージにさえ容易に近ずけさせなければ…。)

 

大丈夫だ。と先程までパニックに近い状態を落ち着かせて平常心になろうと思っていた矢先、此方に気付かずリビングのテーブルで順番待ちと喋って集ってるシフトカー+バイラルコア+シグナルバイクの集団を目にしてしまい…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(パニクって忘れてたぁぁっ!!!)

 

「どうした灰原、そんなとこで立ち止まって…。」

 

古城が悠に声を掛けるが今の悠にはそんな言葉は耳に入らず、今すぐ姿を隠すように言っても間に合わないしすぐ目の前に居る古城達に気付かれない様に指示を出すのは不可能だ。

どうする、と必死に頭を働かせても時は止まってくれる訳でなく…。

 

「おい灰原。何固まってんだ?」

 

「…何か聞こえませんか?車のクラクションみたいな音がその部屋から…。」

 

不審に思った古城達が悠に近ずいてリビングに足を踏み入れようとした時…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふィ~。カラダさっぱり、気分爽快っと!……ん?」

 

「え?」

 

「な…なッ!」

 

「きゃあッ!」

 

「……。」

 

丁度その時浴室でシャワーを浴びていた秋が気分を良くして出て来たが、男二人の環境の所為か首にタオルを巻いただけの格好…つまり裸の格好で、しかもリビング前の扉と浴室の出入り口が近かった為に突然の秋の登場を間近で見てしまい…。

 

「イ…イヤァァァァッッ!!!」

 

「ブッヘェッ!?」

 

全裸の男と言う画を見た所為か反射的に全力の蹴りを叩き込む雪菜。

訳も分からず秋は蹴りを喰らって後ろに吹っ飛ばされるが、この異変にシフトカー達が気付き古城達の目が秋にいってる間にすぐさま姿を隠しシフトカー達の存在がばれる事無く切り抜ける事は出来た。

 

だが、全裸で吹っ飛ばされて気絶してる秋を目に素直に喜べる事が出来ず…

 

「…ゴメン、秋。」

 

古城達に聞こえない様に悠は謝罪を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イテテテ…。」

 

「すみません。先輩達のご自宅だと言うのに、その…取り乱したりして…。」

 

「いやいや、元はと言えば俺が忘れてたのが原因だし姫柊さんは気にしなくていいよ。」

 

「お前やっぱりオレ達が来る事忘れてたんだな…。」

 

一先ず落ち着いた一同はリビングにて対面する形に座り、古城達が来る事を忘れてた事がバレて冷ややかな目を向けられるが、話を流すように隣で腹部を抑えてる秋に目をやる。

 

「あぁそれとコイツが前言ってた居候の桜井 秋。」

 

「どうもっす。オレの事は気兼ね無く、秋って呼んでくれていいんで。」

 

「おぉ。オレは暁 古城だ。よろしく。」

 

「い、妹の暁 凪沙です。」

 

「姫柊 雪菜です。先程は蹴り飛ばしてすみませんでした。」

 

「アスタルテです。以後お見知りおきを。」

 

各々自己紹介をするなか、やはり先程の光景が目に焼き付いているのかアスタルテを除いた女性陣は秋を前に少しぎこちない感じが見られる。

 

「あぁ気にしなくていいよ。流石に野郎の素っ裸見ちゃあな……すっごく痛い蹴りだったけど…。」

 

「すみません…。」

 

「まぁこの話はもう終わりって事で、今お茶でも…。」

 

「どうぞ。」

 

立ち上がろうとした時にちょうど置かれた湯呑にその場に居た全員が意表を突かれたように驚く。突然現れて人数分のお茶を入れて出て来た早霜に。

 

「…何時から居た?」

 

「フフ、ずっと前から、居ましたよ?」

 

「え、えっと…灰原、この子は?」

 

「あ、あぁ。親戚の早霜。突然現れて突然消えるのが得意な娘。」

 

「早霜です。どうぞよろしく。」

 

(お茶を入れて来たと言う事は、そこの台所に立ってたって事ですよね…その割に全然気配が感じられなかった!?)

 

(…要注意人物、認定。)

 

気配が感じられなかった事に驚く雪菜と余りの気配の薄さに内心で警戒の対象にするアスタルテを余所に頭を下げて挨拶する早霜。古城と凪沙は見た目の歳に反して早霜から感じられる妖艶な雰囲気に相槌を打つように返しただけであった。

それから悠の隣に早霜が腰を掛けて本題へと話を移す。

 

「それで、こうして家に来た訳だけど何する?ゲーム機ならソコに有るが…。」

 

この世界に来るまではゲーム機などの娯楽品などに全く興味が無かった悠だが、この家に来る艦娘達などが暇つぶしに勝手に買って来たゲーム機をこの家に置いているのもあって、ある意味この家が彼女等にとっての娯楽室代わりになっている。その為置いてあるゲーム機やソフトは最新のも含めて数多くある。

 

最も悠からしたら余り家の中を詮索して欲しくない為、これに喰い付いてくれと言わんばかりに勧めるのだが。

 

「ゲームかぁ、私の家にはそういうのあんまり置いてないから、ちょっとパスかな。

それよりもこうして初めてゆーくん家に居るんだし、これを機に私生活除いちゃって親睦を深めよう!とか思うんだけど…。」

 

(どんな親睦の深め方?)

 

悠の提案を一蹴した凪沙は悠の私生活を除いてみたいと提案する。

凪沙は只単に意中である悠について少しでも知りたいと言う好奇心からなるものだったが悠からしたらかなり面倒な事だ。

仮面ライダーである事を隠す悠にとって此処は生活する拠点であって弱点でもある。特にガレージの地下はおろか中に置いてあるマシンもである。この前は余り使わないディケイダーを見せる事になったが全てのマシンを見せるとなると、もし変身した状態で乗っている所を見られたら即アウト。仮面ライダーの正体が一気に広まってしまうのである。

 

これには流石の秋も気付いたのか少し冷や汗を流して隣の悠を横目に見る。どう答えるか悩む悠に対面の古城達は不思議そうに見るが、この空気を破ったのは意外な人物だった。

 

「知りたいんですか?この人の事?」

 

(早霜?)

 

口を開いた早霜にその場の全員が目をやる。そうして次に何処から取り出したか分からない分厚いアルバムのようなモノを取り出して如何にも注目を浴びさせる。

 

「手っ取り早く、見ます?」

 

「見ます、って…それは…。」

 

「ある人が隠し…ゲフンゲフン。記録した悠さんの写真です。口で言うより実際見た方が分かりやすいでしょう?」

 

「ちょっと待って。今隠し撮りって言おうとしてなかった?それよりも記録って何?俺観察日記のアサガオみたいな扱い?」

 

「ま、まぁまぁ悠兄さん。別にヤバいモンでも撮られたわけじゃ無いみたいだし、いいんじゃない?」

 

色々と聞き流してはいけない様なワードが出て来たが秋の言う通りこの場で出すと言う事はちゃんと見せるべき

モノと見せてはいけないモノの区別はしてあるのだろう。…むしろそうであってほしいと願いたい悠であった。

 

「へぇ、ゆーくんの記録写真とか結構気になる!」

 

「確かに、コイツいつも無表情だからなぁ。笑ってピースする画なんて全然想像つかねえ。」

 

「先輩それはちょっと失礼かと……私も少し気になりますけど。」

 

「それじゃあ、早速。」

 

そう言ってアルバムを置いてページをめくり出す早霜。一枚目のページに写っていた写真に

 

「………。」

 

「…えっと。」

 

「灰原、コレ…。」

 

「……持ち上げてますね。片手で…。」

 

(……デカい。)

 

「………。」

 

写っている本人でさえ黙ってしまう。

 

 

 

 

 

愛宕にアイアンクローを決めて片手で持ち上げている写真に。

 

 

「…なぁ灰原。コレって一体、どういう状況なんだ?」

 

「…跳びついてのハグにびっくりしてなぁ…つい。」

 

「ついって思いっきりやってますよね!?持ち上げる程に!」

 

「しかもすんげぇ痛そう。足ジタバタしてるのが丸分かりの画だし…。」

 

「と言うかゆーくんこの人って…。」

 

「親戚。」

 

「またかよ!お前の所一体どんだけ親戚居るんだよ!?」

 

「沢山。

…それよりもなぁ早霜、このアングルどう見ても隠れて撮りましたって言わんばかりのヤツなんだが、これ撮ったのって…。」

 

「想像通りの人ですよ。」

 

「何だ?一体誰が撮ったって言うんだ?」

 

「この人です。」

 

古城の疑問に答える様にページをめくる早霜。

そこに載ってるのはアルゼンチンバックブリンガーを喰らっている青葉と悠のツーショット写真。

 

「この技を喰らっている人が、殆どの写真を隠し撮りしている人です。」

 

「正直に言っちゃったよ。隠し撮りしてるって。と言うか何で隠し撮りしてた写真をお前が持ってるんだよ?」

 

「私以外にも持っている人居ますよ?青葉さんが販売しているのを買っているだけで。」

 

「よーし、アイツ後でシメる。」

 

「オーイ。お前等の話してる内容もそうだが、これについてもなんでこうなってるのかがすごく気になるんだが…。」

 

「盗撮、バレる、お仕置き。以上。」

 

「…お前、普段学校じゃあ想像尽かない事してんのな。」

 

「そんなもんさ。……あー、所で秋。確かお茶請け切らしてたからお前ちょっと買いに行って来い。」

 

「え!?オレ!?何で!?」

 

突然の買い出しを言われた秋は悠に反論しようとするが、古城達に見られないよう背を向けられて見せられたのは悠の携帯に写しだされた重加速反応の知らせだった。

 

「ロイミュード!?こんな時に…!」(ヒソヒソ)

 

「これ以上言わなくても分かるだろう。俺が行ってもいいんだが、それだと不自然に思われる。」(ヒソヒソ)

 

那月の下に就いているアスタルテを前に出来れば目を離したくない為に、消去法で秋に頼む悠である。

 

「分かった。コッチはなんとかする。その代わりライドマッハー使わせてもらうよ。」(ヒソヒソ)

 

「好きにしろ。」(ヒソヒソ)

 

「御二人共、どうかされましたか?」

 

「いいんや、何も。そんじゃ秋頼んだぞ。」

 

「了解!」

 

後ろを向いて話しているのに対してアスタルテに声を掛けらえた後、大袈裟に敬礼してその場を後にする秋。

突然秋が出てしまった事に一時場の空気が静かになるが、古城が悠に話しかける。

 

「いいのかアイツ行かせて、オレ達の事は気にしなくても良かったんだぞ?」

 

「あぁいいのいいの。金渡して残りは好きにして良いって言ったから。

…そういえば何か静かだと思ったら凪沙ちゃ…ん…。」

 

何か話を掛けようと思い、先程から感じる違和感を感じたことに気付きいつも聞く凪沙のマシンガントークが無い事に気が付いて声を掛けたのだが、凪沙の視線がアルバムにいっておりただならぬ気迫を纏っいた。隣に座ってるアスタルテは終始無表情だが、何処かぎこちない表情が見られる。

 

「………ねぇ、ゆーくん。」

 

「………はい。」

 

トーンが低い声で悠に話しかける凪沙。思わず豹変した凪沙に悠も何処か無意識にその気迫に当てられているのか、返事が何処か弱い。

 

「コレ…何?」

 

アルバムから取り出した写真を突きつける凪沙。

突きつけられた写真は、ベットで寝ている悠に満更でも無い顔で向き合って寝ている川内とのツーショット写真。

 

「……えー、俺が寝ている所にベットに潜り込んで来てですねぇ…。」

 

「へぇー。それでこんなに仲良く一緒に寝てるんだぁ?……もしかして、他の子とかもこんな風に?」

 

「い、いや、それは流石にねぇ…。」

 

「ありますよ。ホラ。」

 

「ちょ、お前…。」

 

早霜が楽しそうに次々と取り出した写真について凪沙からこっぴどく追及される羽目になった悠。

この光景に残された古城達は、この光景を目に皆同じことを考えていた。

 

 

ー灰原 悠は女に弱い。ー

 

 

謎に包まれている悠の弱点とも言える部分を知った古城達だが、この事実は使うべき時に使おうと内心腹黒くも胸に留めようとした一同だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わり、市街地。

 

夏休みと言うのもあり、更に賑わいに包まれている此処一帯は今異形から放たれる重加速に包まれ混乱の場へと変わり果てていた。

そしてこの二人もある意味混乱していた。

 

「ふおぉぉッッ!?こ、これがどんより!?すごい!本当に体が思うように動かないよ!ガクト!」

 

「何喜んでんだお前は!?大和達から聞いただろ!?こいつが出ているって事はよぉ…!」

 

偶々二人で行動を共にしていたモロとガクトは街を散策していた所を重加速に呑まれてしまい、今に至る。

モロはこの状況にかなり興奮しているようだったが、ガクトは得体の知れないこの状況に酷く動揺していた。何故かと問われれば、この現象を引き起こしたのは自身が知る最強と謳われた武神を簡単に手玉に取った異形の怪人が近くに居る事を示す前触れだと聞かされているからだ。

 

そしてガクトの抱いてた予感は的中する。この現象を引き起こした張本人である二体の死神ロイミュードの姿は動けなくて混乱してる町の住民達を動揺を更に勢いづかせるのに十分すぎる程のスパイスだった。

 

「ぬおぉぉぉぉッッッ!?!?あ、あれってもしかしてロイミュード!?ネットで噂の機械生命体のロイミュード!?すごい!すごいよガクト!実物見たのボク初めてだよ!!!」

 

「喜んでる場合か!くっそォ逃げたくても逃げれねえ!……オイ、何かアイツ等、こっちに近ずいて来てねえか?」

 

モロを連れてこの場から一刻も離れたいガクトだが、重加速の影響で思うように体が動かない。そんなガクト達を追いつめるかのように一体の死神がガクト達に歩み寄って来る。

 

「ガ、ガクト?もしかしてだけど、さっきかなり大声出しちゃったから向こうの目に付いちゃったんじゃ…。」

 

「………うおォォォォォッッッ!!!動けぇ!動いてくれぇ!俺様の筋肉ゥゥゥッッッ!!!」

 

「イヤァァァァァッッッ!!!ボクまだ童貞なのにィィィッ!!!」

 

二人が必死の思いで叫ぶもそれは無情にも聞き届かず、死神は二人の眼前とも言えるくらいにまで近ずき鉤爪の付いた腕をこれ見よがしに高く振り上げる。

 

「「イヤァァァァァァァッッッ!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

<< シューター! >>

 

二人が絶叫に近い悲鳴を上げるなか死神の頭部に命中した一発の光弾は二人と死神を引き離した。

撃たれた死神が光弾の放たれた所へ目をやると、此方に猛スピードで向かって来る白いバイクに乗った仮面の戦士が段々と近づき。

 

「見様見真似!必殺・ライダァァーブレイクッ!」

 

巨体のバイクを持ち上げての体当たりを喰らった死神はその威力に大きく突き飛ばされる。体当たりをした白い戦士、マッハは自称愛機であるライドマッハーから降りて此方を睨む二体の死神を前に何時もの名乗りを上げる。

 

「追跡!撲滅!いずれも、マッハーッ!仮面ライダーーーッ、マッハーーー!

うっしゃあ!行くぜ!」

 

最早お決まりと言ったこの動作に気合を入れてマッハはゼンリンシューターを手に死神ロイミュード達の元へ駆けて行く。

そしてそれを間近に見たモロとガクトはと言うと。

 

「ほおわぁぁぁぁぁッッッ!!!う、噂の仮面ライダー、キターーーーーッッ!!!」

 

「す、すげえ!…写メ写メ…って今動けなかったぁー!チッキッショーーッ!」

 

先程までの恐怖が嘘みたいに消えたと思いきや、マッハの登場にテンションが最高潮に上がりマッハの姿が見えなくなるまでこのテンションが続いたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、この膝に座ってるこの娘は?」

 

「大姉妹の長女で、何時も妹の面倒見てる分甘えられたいと相談されて最終的にこんな風に…あとこの影から除いてるピンク頭と黒髪はその次女と三女。」

 

「じゃあ、寝ているゆー君の上に乗っかって寝ているヒトと、膝枕してるヒトは?」

 

「俺がソファーで先に寝ている所に勝手に上に乗っかったまま昼寝して来て、その後に姉のコイツがその光景をどう思ったのかは知らないが俺の頭を膝に……起きてびっくりしたけど、俺のシャツがヨダレでベトベトになったんだっけか。」

 

「じゃあこれ、神通さんだよね?一緒に料理している風に見えるけど?」

 

「…料理してますね。」

 

「ふ~ん。じゃあ次は…。」

 

「まだ続くんですか…。」

 

自宅では悠は凪沙に容赦なく追い込まれていた。

次々と凪沙から来る追及に淡々と答えるも写真の数が数だけに追及の手は止まず、古城達も早霜が出してきた羊羹を口にしながら事の一部始終を見ていた。

 

「凪沙ちゃん。そろそろその辺にしといたほうが…かなり時間も経っていますし…。」

 

「雪菜ちゃん……そうだね、このままいくと夜まで掛かっちゃいそうだからこの話はまた今度で。」

 

「今度って、まだやるんですかい?」

 

「何か、問題?」

 

「……いいえ。」

 

怒っているのかどうかは知らないが、先程から垂れ流れてる凪沙の覇気にどうにも反論できない。そんな悠に古城が話しかける。

 

「大丈夫か?お前。」

 

「心配してるのなら兄のキミが何とかして欲しいんだけど…。」

 

「…すまん。あの状態の凪沙は多分親父でも無理だ。」

 

「マジかぁ……アレ?メイドちゃん何処行った?早霜も…。」

 

「それでしたらお手洗いに行くと言って行きましたよ?早霜さんは気付いたら姿が見えなくなりましたね。」

 

「ホントに消えたんだな、あの子……灰原、お前の親戚ってどういう人達なんだ?」

 

「そうだねぇ………個性的な奴が殆どって所かな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって自宅ガレージの裏口。

 

「………。」

 

そこには手洗いに行くと雪菜に伝え離れた筈のアスタルテがそこに居た。

 

本来彼女は休みなど与えられておらず、上司でもある那月にある事を頼まれ灰原家に行こうとしていた所を偶然にも古城達と遭遇しこうして中に入れてもらっているのである。

そして隙を見てバイクが置いてあるだろうガレージの裏口に辿り着きドアを開けようとするも鍵が掛かってるのか開けられない。

どうするべきかと悩んでいた所、突然自身の後ろから人の気配がすることに気付き勢いよく振り返るとそこに居たのは同じく悠達の前から姿を消した早霜だった。

 

「…何、してるんですか?こんな所で…。」

 

「…お手洗いを借りようと思いまして…。」

 

「フフフ、其処はトイレではありませんよ?」

 

「…そうみたいですね。失礼致しました。」

 

怪しげに笑う少女と顔色を変えない少女は只それだけを告げて話を切った。

 

内心ではこれ以上の事をそれぞれ語りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、アスタルテさん。早霜さんと一緒だったんですか?」

 

「はい。」

 

「フフフ、少し迷っていたそうなので、私が教えに行ったんです。

……それよりも、アレは?」

 

戻って来たアスタルテ達がリビングで見たのはソファーで座ってる悠の膝の上に凪沙が体を預けるような形で座っており、ご満悦な様子の凪沙に比べ古城が睨みを利かせている。

 

「えぇ、それが、凪沙ちゃんが”私もゆーくんに甘えたい!”って言って、あんな風に…。」

 

「フフフ、そうですか。」

 

雪菜が早霜に説明してるなか、ご機嫌な凪沙と更に睨みを利かせている古城のサンドイッチの状況に困惑してる悠をアスタルテは只ジッと見ていただけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<< SignalBike! >>

<< シグナルコウカーン!カクサーン! >>

 

所変わり市街地でも戦闘は、シグナルバイクを変えたマッハが取り替えたシグナルマッハーをゼンリンシューターに入れる所であった。

 

<< ヒッサツ! >>

<< Full Throttle! MACH! ゼンリン! >>

 

必殺技のモーションに入ったマッハは鉤爪の死神に向かって駆けて行き、鉤爪の攻撃を掻い潜って懐に入る。

 

「デァッ!」

 

そのままシューターの打撃を連続で浴びせて上に打ち上げ、自身も大きく跳び上がるとベルトの上部スイッチを押す。

 

<< カクサーン! >>

 

「オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラァ!」

 

シグナルカクサーンの能力で出来るようになった連打のビートマッハーは死神のボディを容赦なく撃ち抜き、死神は爆散。

 

着地したマッハはすぐもう一体の死神を相手にしようとするが、もう一体は腕を銃器に替えマッハに発砲。

これをマッハは尽かさず回避するが、発砲は一度に止まらず連射して撃ってくるため思うように前に出ることが出来ずにいた。

 

(くっそ、シグナルバイク替えるヒマがねぇ!)

 

銃器の死神は先程倒された鉤爪の死神との戦闘でマッハの長所とも言えるシグナルバイクを替えさせない戦法を取りマシンガン並みの連射をしてマッハをじわじわと追いつめるつもりでいるようである。

 

今マッハが使っているのはシグナルカクサーン。シューターで散弾の雨を降らせてやろうかと思ったが砲撃並の威力を持つ連射攻撃の所為で撃ちだすヒマすら与えられず攻め胡坐を搔いていたが、そのピンチを救うようにカクサーン以外のシグナルバイク達が死神に向かって行き連射してくる死神を牽制して攻撃が止んだ瞬間をマッハは見逃さない。

 

「ナイスだお前等!」

 

<< シューター!>>

<< タクサン・カクサーン! >>

 

死神の上空に散弾の雨を降らし死神に容赦ない攻撃をお返しした後、マッハはシグナルキケーンを手にベルトのパネルを上げる。

 

<< SignalBike! >>

<< シグナルコウカーン!キケーン! >>

 

「これで決めるぜ!」

 

<< ヒッサツ! >>

<< Full Throttle!キケーン! >>

 

跳び上がったマッハは空中で回転し、キックの体制に入りながらミサイル魔獣を宿してそのままキックする[キケンキックマッハー]が炸裂。死神はそのまま喰らい、爆散していった。

 

死神が爆散していった跡で、マッハはロイミュードは撃破する事が出来たがいつもの様に素直に勝利を喜べなかった。

もしシグナルバイク達が死神に向かっていなかったら自分はどうなっていただろうか?実際死神の取った戦法はマッハにとって有効だった。

ただ一つの誤算はマッハにはシグナルバイクと言う頼れる仲間が居たから今回は勝てただろうが、それは言い方を変えればシグナルバイク達が居なかったら勝てなかったと言う自身の実力不足を叩き付けられたようなものでもあった。

 

(…もし悠兄さんだったら、こんなの簡単に切り抜けるんだろうなぁ…。)

 

ふとこの場に居ない人間の事を思ってしまい。自分の未熟さを噛み締めるマッハだった。

 

 

 

 

 

 

そして傍に置いてあったライドマッハーの影から姿を覗かせてるサイドカーのシフトカーは、何処かマッハを見定めているようにも感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー、ゴメン遅くなって……何やってんの悠兄さん?」

 

「お帰り。これはまぁ…あれだ、うん。」

 

帰宅した秋の目に写ったのは、何故か凪沙を膝に乗せている悠の姿を睨んでいる古城を落ち着かせている雪菜と互いにジッと見つめ合っている早霜とアスタルテと言う、状況が全くと言って良い程分からない光景があった。

 

「…何かオレが出てる間に色々あったみたいで…あ、これお茶請けね。」

 

「ご苦労さん。

あー、凪沙ちゃんそろそろ降りてもらって良い?少し膝が痺れてきて…。」

 

「えー?」

 

「えー?じゃなくて、お願いします。キミの兄貴がもう視線だけで人殺せそうなくらいシスコン出しちゃってるから。」

 

「…はーい。」

 

少しガッカリしてる凪沙に退いてもらい背を伸ばすように立った悠。

秋から買って来てもらった菓子を受け取って小声で会話する。

 

「どうだった?そっちは…。」

 

「…問題無く片付いたよ。バッチリね…ねぇ悠兄さん。」

 

「何だ?」

 

「…修業の件さ、どんなにキツくてもいいから確実に強くなるヤツにしてくんね?」

 

「…どうした急に、朝とはエライ違いじゃねえか。」

 

「別に、ただ今よりもっと速く前突っ走んなきゃいけねぇって思っちゃったり…。」

 

「……そうか。」

 

「ねぇねぇ、二人とも何話してるの?」

 

「ん?あぁそれは…。」

 

「いや聞いてよ!この後悠兄さんがメシでも食いに行くかって太っ腹な事言ってさ!しかもおごりだって!」

 

「なっ!テメエ!」

 

「えー!いいの!?ゆーくん太っ腹!」

 

「あ、いや、これはですね…。」

 

「へー、悪いな灰原。ご馳走になるぜ。」

 

「先輩…。」

 

「フフフ、だそうですよ?アスタルテさん。」

 

「…ご馳走になります。」

 

「…おいテメエ、どういうつもりだコラ…。」

 

「いやぁ、このまま家に居るよりも外で騒いだ方が都合良くない?」

 

「…確かに一理有るが…。飯食うにしても、お前のバカ食いにどんだけ掛かると思ってんだ!?」

 

「イイじゃんイイじゃん。細かい事は、よーし!それじゃあ皆行きましょうや!」

 

「………くそったれ。」

 

 

 

この後盛り上がった食事だったらしいが、対象に悠の財布の中が寂しくなったとか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、ご苦労だったな。アスタルテ。」

 

既に日付が変わった深夜の一室に居るのはゴシックドレスを身に纏った那月と今日一日悠を見ていたアスタルテの二人。

今し方今日一日の報告を那月に言い終えた所であった。

 

「で、それ以外に不自然な所は見られなかったのか?」

 

「はい。ですが、灰原 悠の親戚を名乗る者に、少し違和感と言う物が…。

それと教官の仰ってた調査の件ですが、その親戚の者に見られてしまい実行不能となりました。申し訳ございません。」

 

「…ふむ、今日も市街地の方で仮面ライダーが出たとの報告がこっちに来てるがお前の報告通りだと、灰原が仮面ライダーである可能性がゼロになってしまうな。」

 

「…一つ。気になった点が。」

 

「何だ?

 

「その時間帯、灰原 悠は確かに私の前に居ましたが、彼の居候はその時間出ていました。彼が出る前に隠れて何か話している場面も見られました。」

 

「……仮面ライダーは複数居ると聞いているが…本当にアイツ等が…。」

 

「現時点では可能性は大いに在るかと思われます。」

 

「……こうなれば、少し大きく出てみるか。」

 

 

 

悠に降り注ぐ騒動はまだ終わっておらず、その勢いを増していったのだった。


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