その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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後編になります。




 

 

運動会に限らず何事にもある唯一つの楽しみと言えば昼休みの食事である。

 

”食べる”と言う字は人が良くなると書く。とは天の道を行く男の祖母が言う程に人間にとっては健康面でも精神面でも必要不可欠なもの。

 

そして、悠の前に置いてあるお重の三段弁当もその一つだ。

 

蓋を開ければまずそこにあったのは、びっしり敷き詰められたおにぎり。

一口大に握られたおにぎりには鮭やおかかや梅干し等の定番の具だが絶妙な握り加減と程よい塩加減のバランスがとれたメイン。

 

次の段には卵焼きや鶏肉の唐揚げ、プチトマトやブロッコリー等色合いの鮮やかな野菜やポテトサラダなどの一般的な弁当のおかずが。

卵焼きは甘めに作られ出汁が効いており、唐揚げも下味がしっかりついて外はカリッと揚がって中はジューシーな肉汁があふれ出る。

 

そして最後の段には口直しの果物がびっしり。

リンゴやオレンジやイチゴやブドウなどが彩輝く光景は一種の宝石箱を想像させる。(さり気無くオレンジに混ざって、ブラッドオレンジが入ってるのは狙っての行為だろうか。)

 

口に付けた悠の思った事は唯一つ、”美味い”。

味もそうだし、栄養も徹底的に考えられた弁当は悠を満足させるのに十分な食事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だったのだが……。

 

「……うっぷ。」

 

その量は彼の胃には多かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ、大丈夫か?灰原。」

 

「おう、なんとかな…。」

 

腹を擦りながら横たわる悠を古城が声を掛ける。

空になった重箱の弁当は、元々朧達4人の分を含めた量でありこの日の昼食は朧達を含めた5人での食事になった。

だが駆逐艦である朧達は戦艦組や何処かの腹ペコ一航戦達とは違い、見た目通りに食べる量は少ない。

であって当然の如く後の量は悠が食べる事になり、今に至る。

 

(やっぱしきつかったぜこの量は、天国と地獄を同時に味わうとは正にこの事……。

いや、それは流石に失礼だ。事実味は最高だったし、あれだけのモノを作るのにかなりの手間暇をかけた筈だ。

そうだこんな苦痛アレに比べたら遥かにマシだ。

思い出せ、比叡の作ったカレーと言う名の劇物を!思い出せ、磯風が作ったシチューと言う名のバイオ兵器を………うっ!!?)

 

「?、オイ灰原。急に顔が真っ青になったが大丈夫か?

…オイ灰原!オイしっかりしろ!!灰原ぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ハッ!」

 

「うおっ!?っと、ようやく気が付いたか!?」

 

「あ、ああ。…暁、俺はどのくらい気を失ってた?」

 

「大体で言ったら3分ぐらいか?それよりもどうしたんだよお前、いきなり気を失うとか。」

 

「(3分か…確かこの前は何時の間にか洒落たバーに居て、そこに居た黒服の男に”男と飲む趣味はねぇ”とか言われて蹴りで追い返されたっけ。)…いやなに、人生最大のトラウマを思い出していただけさ。」

 

「あっ、お兄ちゃんやっと起きた~?」

 

心配そうに悠に気を掛ける古城と違いこの状況を何処か楽しんでる漣が笑いながら声を掛ける。

 

「お陰様で。」

 

「にしてもお前に親戚が居たとか驚いたよ。

普段自分の事何も言わねえしな。」

 

「口に出すことじゃないって判断しての行動だ。

それよりもお前等まだ居るつもりかよ。」

 

「イイじゃんイイじゃん、こっちからしたら海なんて初めてなんだし。それに迷惑掛けてないよ?、ホラ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!いきなり抱き着いてくんな!離せ!」

 

「いや~ん、ぼのちゃん可愛い~!こういうツンな所がいいわ~。

ねえアタシの事、浅葱お姉ちゃんって言ってみて!」

 

「誰が言うかぁーー!離せーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、朧ちゃんの頭に乗ってるカニってこれ本物?」

 

「うん、そうだよ。…あっ、指出したら・(ザクッ!)・あ。」

 

「ギャーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………。」(ジーーー)

 

「あ、あの…。」(オロオロ)

 

「…デカい。」

 

「ふえっ!?」

 

 

 

 

「ね?」

 

「いや、ね?、と言われても。」

 

浅葱に後ろから抱き着かれ抜け出そうと暴れる曙と矢瀬の指を挟んだカニを心配する朧、潮の胸を見て自身のと比べるゼノヴィア。

端から見れば朧達は完全にこの場に居る者達と解けきっており言葉を詰まらせる悠に古城が口を開く。

 

「まあ良いじゃねえかよ。折角ここまで来てもらったんだし無理に追い返す必要もないだろ?」

 

「そうそう!そこのパッとしないお兄さんの言う通り!別に最後まで居たっていいでしょ?お兄ちゃん。」

 

「……最後まで大人しくしろよ。」

 

「いよっしゃ!」

 

悠からの許しを得て思わずガッツポーズを取る漣。

今思えば、あまり外に出る機会が少なかったのだろうか朧達が浅葱達と関わってる様子は何処か楽しそうに見えた。

やはり彼女らも年頃の女子なのだろうか、生まれや本質は違ってもその心はそこらの女子と何ら変わりない。

そんな事をしみじみ思ってると古城が悠の肩に手を掛け温かい目で話しかける。

 

「灰原、俺今ならお前とうまく付き合えるかも。」

 

「…一緒にするなシスコン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして水上運動会は進んで行き、遂に悠の出る競技が来た。

 

「ハァ。」

 

「諦めろよ。俺だってこんな暑い中走ったんだから。」

 

「そうよ、特にこの競技勝ったら学食のデザートの無料券貰えんだから頑張んなさい。」

 

「それよりいい加減に離せーーー!!」

 

「まあここまで来たらやるだけやりますよ。

さっきからおっかないおチビさんも睨んでるし。」

 

視線を向けた先に、どうやって運んだのか自室の豪華な椅子にいつものドレス姿の那月が日傘を差しながら此方に目を向けてた。

まるで”逃げるなよ”という鋭い目線を。

 

そんな事を余所に、これから始まる競技についての説明が今始まろうとしていた。

 

【それでは次の競技!ワシが長年考えそしてようやく実現する事が出来た男が試される競技!

その名も益荒男決定戦!!!】

 

(何だよそのネーミング。名前からしてバトルファイトか?)

 

【この競技は、各学年クラス選抜に磔の状態になってもらい目の前の学園女子生徒からの誘惑に耐え凌ぐ、正に男の精神力を試される競技じゃ!!】

 

「…すまん、急に体調が悪くなったからこの競技…。」

 

「「「「ダメ!」」」」

 

「………ですよね。」

 

【なお誘惑に負け股間が反応した場合、股間の血流を感知して電流が流れるので感電したクラス選抜はその場で脱落じゃ。】

 

「……なんか聞けば聞くほどやる気無くすんだけどこの競技。てかこの行事事態あの爺さんの私欲まみれじゃねえかオイ。」

 

「頑張って耐えなさいよ灰原。

アンタがちょっと頑張ればデザート無料券が手に入るんだから。」

 

「俺が黒焦げになる心配よりデザート優先ですか君は…。」

 

「まあ正直言ってこの競技殆ど勝ったも当然なんだよな。

見るからにドライなお前にはピッタリだし、負けたら負けたでムッツリスケベって事が分かるしよ。」

 

「そんなに楽しそうなら変わってあげようか?矢瀬。」

 

「そう心配するな。聞けばこの競技私達も出て他のクラスの男子を誘惑すればいいのだろう?

君が耐えてる間に私達が速攻で片付けて見せるさ。」

 

「それなら是非そうしてくれ。こっちはさっさと終わらせて日陰で休みたいからな。

んじゃ、行って来るよ。」

 

「オイ灰原、お前その格好で行くのか?」

 

古城が呼び止めた悠の格好は運動会が始まった時から着ている黒Tシャツを着たまま。

古城でさえ日の光が苦手と言っても流石に炎天下の中パーカーを着たまま走り回るのはキツイものが有ったので、古城が出る競技には日に焼かれるなか水着姿で走り回っていたのだ。

だがそんななか悠は古城と違って吸血鬼と言う訳でも無く、必要以上に素肌を見せない悠に古城は疑問を抱いたのだ。

 

「ああこれ?別に禁止されてる訳じゃないし、我慢できないって訳じゃないからこのままでいいよ。」

 

そう言って悠は古城達に背を向けて会場へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【それでは益荒男決定戦開始ィ!!!】

 

(あーークソ、やっぱ暑。)

 

磔の状態された悠に襲い掛かったのは目の前の女子達のセクシーポーズより降り注いでくる直射日光だった。

肌の露出自体は少ないが、それでも顔や手足にに感じるジリジリと焼かれる感じはどうにも好きにはなれない。潮風を肌に感じながら周りを見渡してみれば既に開始一分と掛からず電流の発光と男子の悲鳴が砂浜に響き渡っていた。

そんな光景を余所に、暑さで顔から汗がしたり落ちる感触を感じながら段々と覇気が失われていく悠。

目の前ではスクール水着と言えど水着姿の女子がこれでもかとポージングを取っているというのに悠の中では性欲より暑さによる気怠さが勝っていた。

 

「ちょっと!ここまでしてるのに、この男全然反応薄いわよ!?」

 

「無気力とは聞いてたけど、最早それ以上に悟り開いてる様にも見えるわよ!?」

 

「て言うかこの男子、女の体に興味無いんじゃないの!?もしかしてホモ!?」

 

「…ハァ。(早く帰りたい。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、やっぱ善戦してんなぁ灰原のヤツ。

この調子ならアイツ最後まで残りそうだぜ古城…。

うん?どうしたお前。」

 

「い、いや。ちょっと暑さでフラついただけだ。気にすんな。」

 

クラスの陣地では会場から目を逸らして蹲ってる古城に声を掛ける矢瀬。

当の古城は今必死に吹き出し寸前の鼻血を必死に抑えていた。理由は吸血鬼特有の体質である吸血衝動。

古城からしたら性的興奮がピークに達した時が主な吸血衝動の理由であり、今の今まで耐えてきた衝動が今現在の益荒男決定戦の光景によって遂にその理性が決壊しかかっていた。

 

(ヤバい!ヤバい!ヤバい!此処まで何とか耐えてきたけど、アレは流石にヤバいって!)

 

「あ、あの。大丈夫ですか?」

 

「あぁ、大丈夫だ。何の問題もなッッ!?」

 

「?」

 

声を掛けらえた方へ目を受けると、此方の様子がおかしい事に首を傾げる潮のある一点を見てしまった古城。

妹の凪沙と同じくらいの背と幼い顔立ちに合わない発達しすぎた胸部を。

 

(あ、もうダメだ…。)

 

「ブッッハーーーーーーーー!!!」

 

「ヒャーーーーーーッ!?!?」

 

「おあっ!?古城のヤツ鼻血を噴水の様に吹き出して倒れた!?」

 

「て言うか大丈夫なのアレ!?今でも鼻血すごい勢いで流れてるし、浜辺に打ち揚げられた魚みたいにピクピク痙攣してるわよ!?」

 

「潮ちゃんのデカおっぱいにノックダウンとか、うしパイマジパネェ!!」

 

「漣!今ふざけてる場合じゃないよ!とにかく早く手当てしなきゃ!!」

 

陣地では会場に負けを取らず騒がしくなったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?なんだありゃ?」

 

会場では自分のクラスの陣地の様子が慌ただしくなった事に気付き、其方に目を向ける悠。

先程より悠を取り囲む女子の数が増えているが当の本人は目の色変えるどころか周りの女子達に対して全くの反応を見せていない。

女子達も自分たちに全く見向きもされない事に段々とやる気を失っていき、その様子が顔に表れ始めている。

 

(ホント早く終わってくんねえかなぁ。)

 

「ほう、貴様の黒焦げになった姿を拝みに来たつもりだったがこの状況下でも変わらずそのような態度か。」

 

「ん?」

 

取り囲んでる女子達を押し退いてある三人が悠の元に近ずく。

その中の一人が前に出て悠に対して睨みを利かせながら語りかける。

 

「まぁいい、残ってるのなら自分達が誘惑してやろう。

残ってるのは貴様とあと僅かのクラスだけなのでな。」

 

「…ねえ。」

 

「なんだ?」

 

「……どちら様?」

 

「なっ!?き、貴様自分を覚えてないのか!?一度貴様と闘ったクリスティアーネ・フリードリヒを!」

 

「…………あぁハイハイ。」

 

「思い出したか!」

 

「確か俺にあっさり素手で負けちゃった人ね。いや失礼、余りにもどうでもよかったので頭から完全に切り離されてたよ。」

 

「ぐぬぬぬっ!」

 

悠に敵対心を抱いていたクリスだが当の悠はクリスのこと等どうでもいいと言う風にしか思って無い事に地団駄を踏むが、それすらも対して目を向けてる様子は無かった。

 

「ふん、まあいい。出来れば武の方で貴様を打ち負かしたかったがこれもまた一つの勝負、ここで貴様を誘惑して前回の無念を晴らさしてもらう!」

 

「あ、川神さん今日は髪下ろしてんだ、雰囲気違うから気付かなかったわ。」

 

「えっ?う、うん。変…だった?」

 

「いや、いつもと違って新鮮な感じあっていいと思うけど。」

 

「そ、そうかなあ?」

 

「コラァーーー!!!自分を無視するんじゃなぁーーーい!!!」

 

「クリス、完璧に灰原のペースに飲まれてるよ。

ワン子もいつまでも照れてないでやるならやるで早くしよ。折角大和が頑張って耐えてるんだしさ。」

 

「おっとイカンイカン。また怒りに我を忘れる所だった。」

 

京の一声により我を取り戻したクリスは磔の悠に近ずいて行く。

 

「?、オーイ。なーに企んでやがりますか。」

 

「その答えは…こうだ!」(ガンッ!)

 

「え…ちょっとちょっとオイ!」

 

クリスは突然磔台を蹴り、バランスを崩した磔台はそのまま後ろに倒れる。

地面が砂だった為に倒れた際の衝撃はそこまで無く見下ろす立場が一遍変わって見上げる立場に瞬替わりした。

突然の事に面を喰らうが此方を見下ろしてるクリスを見て悠は抗議の声を上げる。

 

「オーイ!これは反則行為にならないんですかねぇ!?」

 

【えー、その件については”磔状態の男子を誘惑する”というルール状、台は倒れても拘束されており尚且つ誘惑の仕方にもこれといった制限は設けておらぬので不正行為には該当しないものとなる。】

 

「あっそう…。」

 

「フフン、残念だったな。我々の戦略勝ちだ。」

 

「て言っても、大和にされてるのと同じことを私達がしてるだけだけど。」

 

「そこは言うな京!

それと貴様なんだその格好は!?他の男子は皆水着姿と言うのに貴様だけシャツを着るなど!」

 

「イヤ俺肌焼く趣味無いから…。」

 

「何を女子みたいな事を!貴様も男なら堂々とせんか!!」

 

「キャータスケテーオカサレルー。」

 

「誰が犯すか!貴様みたいな…!」

 

悠に跨って着ているシャツを捲り上げるクリスだがあるモノを見て硬直してしまう。

悠の体は白い肌に細身でありながら無駄の無い引き締まった体つきをしており相当な鍛錬により仕上がった体だと武道をしてるクリスの目から見て取れる。

だがそれよりも目に付くのが右の脇腹辺りに大きくある刺し傷。

傷跡の大きさから見るに一般的なナイフ等で刺された跡では無く刀剣類のような物で刺されたモノがクリスの目に焼き付いていた。

 

「お前、この傷は…。」

 

「オーイ、何野郎の体凝視して見とれてんですかー?」

 

「(ビキッ)貴様ァ。この状況でもトコトン自分をバカにしているようだなァ?」

 

「イイエ、ソンナコト、ナイデスヨ。」

 

「このッ…こうなったら徹底的にやってやる!」(ダキッ)

 

ある程度シャツを捲り上げられた状態で悠の素肌に感触がモロに伝わる様に自分の体を抱き着く形で押し付けるクリス。

水着越しと言えど胸が押し付けられることで形が変わる感触を感じ、密着しているので美少女の枠に入るクリスの顔と悠の顔がかなり近いので並の男子がやられてたら一瞬で堕ちるであろう。

 

「どうだ?自分で言うのもなんだがそれなりにイイ体をしている女子にここまでされて何も反応しない訳があるまい?」

 

「まあ確かに反応してるよ、お宅の心拍に。

モロに胸押しつけてる所為で嫌でも感じちゃってるよ、平気ですって顔しても内心じゃあそっちの方が密着しすぎて興奮してんじゃねえの?」

 

「なッ!?」

 

悠に言われて突然顔を赤くするクリス。

悠の言った言葉通り、勢いとは言え同年代の男の服を無理矢理脱がせ尚且つ水着を着ているとはいえこうして裸当然の男に抱き着くなどクリスにとって何の反応を表れない筈がない。

この一言が皮切りにクリスの様子が一変し、反論しようにも言葉が思うように出ず顔の色が段々と赤くなっているのと同時に熱が出ていることが眼前の悠にも分かるほど伝わって来たところで。

 

「な、ち、ち、が………(ガクッ)」

 

「あ、気絶した。」

 

「この勝負もクリスの負けだね。」

 

完璧に冷静を失い気絶したクリスを冷静にその場を見ていた京が気絶しているクリスを悠の上から退かす。

 

「っと、どうも。」

 

「別に、クリスが居たら邪魔になるから退かしただけ。」

 

「て、まだやるつもりなのかよ。」

 

「当然。でもやるのは私じゃなくてワン子だけど。」

 

「…え?、えぇぇぇぇッ!?」

 

京が言った突然の指名に一子は絶叫する。

 

「ちょっと待ってよ京!」

 

「何?自信無いのワン子?」

 

「だって!アタシがやるって事はさっきのクリ以上のことをしろって事でしょ!?そんなの…。」

 

「ふぅん、じゃあこのまま黙って見てる?灰原が他の女の子と抱き合ってる光景を。」

 

「それは…。」

 

「…ワン子、私からは特に口出しはしないけど、このまま何もしないでずっとそうしてるとダメだって事くらいとっくに気付いてるでしょ?」

 

「………。」

 

京の言葉に一子は暫く考えた後、意を決したように黙って悠の元に近ずき馬乗りに跨る。

京は顔色は変えなかったが一先ず満足と言った風に息を吐いて一子の様子を見る事にした。

 

「…あー、川神さん?」

 

「何?」

 

「…なんでそんな戦地に向かうような覚悟決めた眼してるんですか?」

 

一子の様子がいつもの前向きで何処か抜けている様な様子では無く、前に闘った時の真剣な表情になっていることに悠は問いかける。

 

「…これもある意味闘いだからかな?」

 

「闘いって、誰と?」

 

「…弱い自分と…。」

 

それだけ言って一子は先程のクリスと同じように悠に抱き着く。

悠は先程と同じ手かと思っていたが、この考えは裏切られる。

 

「……。」(ぺロ)

 

「ッ!?」

 

一子は抱き着いたままの状態で悠の首元に舌を這わせる。

流石の悠もこれには予想つかない一手に面喰い、何よりあの一子がこんな大胆な行動に出るとは思いもよらなかったからである。

 

その間にも一子の行為は段々とエスカレートしていき、鎖骨部分や耳など人間によっては敏感な部分に舌を這わせる。

 

(…アレ?これ以外にヤベェぞ…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ。」

 

「あ、あの、ラ・フォリア王女?」

 

「はい?なんですか紗矢華?」

 

「あ、えと…すみません、何でも無いです。」

 

(言えない。王女からとんでもないオーラが出てるってこと…。)

 

「フフフ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………。」

 

「?、どうしたのよゼノヴィア。灰原の方を見て。」

 

「…私もあの位大胆に行くべきか…。」

 

「何言ってんのアンタ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ。」

 

(なんか向こうの方が興奮して来てる!?)

 

暫く一子の攻めが続いていき一子の息遣いが荒くなっていき、悠の体に伝わってくる心拍も段々と上がっている状態であることから一子が興奮状態なっている事に気付く。

そんな一子は悠の顔に両側から固定するように手を掛け、自身の顔を近ずけていく。

 

「…ユウ…。」

 

「ちょっと川神さん!君ちょっとヤバい状態だよ!?目がトロンって感じになってるよ!?」

 

悠の呼びかけに答えず止まる様子が無い一子。

悠は周りに目を向けるが誰も止める様子が無く、寧ろ京などは目を輝かせて”行け!ワン子!既成事実作っちゃえ!”など言ってくる様子から全く止める気など無いみたいだ。

 

そうこうしてる内に一子との距離が鼻先が着くぐらいにまで近ずき、悠の口と一子の口があと僅かで…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【終了ーーーーー!!!】

 

 

 

 

「へっ?」

 

「ホ。」

 

「チッ。」

 

終了の宣告に一子は呆け声を悠は安堵の息を京は舌打ちをそれぞれする。

先程まで若干理性を無くしていた一子は我を取り戻したかのように今自分が悠の顔に手を掛け顔同士があと数ミリで接触するこの状況に今やっと気づく。

 

「ユ、ユウ?」

 

「…やあ。」

 

「ユ、ユウ!こ、これは、その、えと、あの………。

う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

自分のした行動に一子は大きく動揺し赤面の状態で会場から逃げる様に疾走していき、悠が声を掛けようにも既にその姿は見えなくなってしまった。

 

「………ハァ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果的に言うと、益荒男決定戦は悠達のクラスが一位という結果に終わった。

最後の感電したのは一子達のクラス選抜である大和が悠同様に耐え切っていたが、周りにいた女子達はいきなり感電したと言う。

本人の後日談では”不意に頭にカニを乗せた女の子が目に写って、あれがヤドカリだったらと妄想してしまった”と彼の所属するファミリーにだけ語られ、公に語られる事は無かった。

 

そして水上運動会は終わり、悠は救護用テントに訪れていた。

何故救護用テントに居るかと言うと、重度の貧血と熱中症により運び込まれた古城の元に那月からなるべく古城の事情を知った人間が行った方がいいと言われたので今に至る。

 

「ん…。」

 

「おはよう、吸血鬼さん。取りあえずトマトジュースでも飲む?」

 

「灰原…あれ此処は…。」

 

「救護用のテント。聞いたよ、潮の胸見て鼻血噴出したんだって?」

 

古城の傍らで買ってきたトマトジュースを飲みながら話しかける悠。

シートに寝かされている古城は起き上がろうとするが血を出し過ぎたのか、フラフラであることが見て分かる。

 

「まだゆっくりした方がいいじゃないの?」

 

「いや、何とか平気だ。浅葱達は?」

 

「藍羽はお前の様子を見に行こうとしたが南宮先生がうまく誤魔化してくれたよ。

矢瀬は急に用があると言って居なくなったって、ゼノヴィアは川神さんを捜してる。」

 

「お前の親戚の娘達は?」

 

「帰りが何時になるか分からないんで先に帰ってもらった。

後潮が、何か知らないけどごめんなさいと、曙が次潮をやらしい眼で見たら殺すだって。」

 

「あー、変な誤解生んじゃったか俺。」

 

「まあ俺の方から後で言っとくよ。

お前の胸を見て興奮して鼻血ブーって。」

 

「それだけはやめてくれ。姫柊に殺される。

それにしてもお前すごいよな。あんな状況にも平然としてられるなんて。」

 

「…そうでもないさ、流石に後半のアレは俺もちょっとヤバくてな。」

 

「え、何それ?俺が倒れた時何が有ったの?」

 

「教えてあげましょうか?」

 

突如二人以外の声が聞こえ首を声の主の方へ向けると、テントの入り口にラ・フォリアと後ろに紗矢華の二人組が立っていた。

 

「ラ・フォリア!?それに煌坂も!?」

 

「ご機嫌よう古城。アナタが倒れたと聞いたのでお見舞いに来ました。

特に紗矢華なんか珍しく慌てた様子で…。」

 

「王女!私はこの変態男がやっと死んだかと思っただけです!

こんな奴の心配なんか全!然!ありませんから!」

 

「ハイハイ。それよりも先程はすごかったですね悠。

あの赤い髪の人に抱き着かれてキス寸前まで行ったのですから。」

 

「………。」

 

「え?灰原お前、ラ・フォリアと知り合いだったのかよ!?」

 

「アンタ知らなかったの?その男、王女と二人きりで出掛ける程の仲よ。」

 

「えぇっ!?それって、デート…。」

 

「まあ私と彼の関係はひとまず置いといて。

私は彼と話が有りますので、紗矢華。

古城の事はアナタに任せます。では悠、行きましょうか。」

 

「え!?ちょっと、王女!?」

 

「オイオイちょっと!引っ張んなくても付いて行くから!

というか意外に力強いな君!?」

 

ラ・フォリアは半ば強引に古城を紗矢華に任せ、悠の襟口を掴んでテントの外に連れ出して行く。

テントから出た二人はそこそこ離れた所で足を止め、悠は手に乗せたバイラルコア達に指示を出す。

 

「この辺りを見回ってくれ。」

 

「そんな警戒しなくても此処一には結界が張られてるようですよ?」

 

「知ってるよ。ウチのチビッ子教師が張った奴だ。

此処に来るのも妙な術で飛ばされたから念の為だよ。

…さて、それはそうと何でアイツに俺達の事バラしたんだ?」

 

「特に意味はありませんよ。どの道遅かれ早かれ私達の関係が古城にバレるのは時間の問題かと思ったので。」

 

「どう答えるつもりだよ。」

 

「ありのまま言いますよ。必要な事は言ってそうじゃ無いのは言わない。

ホラ、特に問題ないでしょう?」

 

「…まあ、確かに余計な事を言わなきゃ対して不思議に思われないよな。叶瀬の件も含めて。」

 

「それはそうと悠。私からも聞かなきゃいけない事が有るのですが。」

 

「…何でしょうか…。」

 

「あの赤い髪の女性とはどういった関係なのでしょう?」

 

「どういう関係ってそんなん君が知らな・「誰なんですか?」・…同級生です。」

 

「へえ、同級生ですか。

ちなみにその他の女性とも仲がよろしいのですか?」

 

「………まあ、ボチボチ。」

 

「そうですか。…ホントに困った人ですね。」

 

「え?何が?」

 

「別に何も。私もグズグズしてられないということです。

ところで今日伝えた情報の見返りですが…。」

 

「?、なん…っ!?」

 

「ん。」

 

ラ・フォリアは悠の顔に手を掛け、自身の顔に近ずけてお互いの口を合わせる。

前回の時と比べ少し長く、口から離した時に銀の橋が掛かっていたことからかなり深いアレであったことが分かる。

 

「っ~~!、また君は。」

 

「良いじゃないですか、既に一度してるんですし。」

 

「二度も不意打ちでやられたがな!」

 

「まあまあ、それより向こうもそろそろ良い頃合いだと思いますので戻りましょう。

あぁそれとあと一つ。」

 

「何だよ。」

 

「私、諦めるつもり有りませんから。その辺り覚悟してくださいね?」

 

そう言って先を歩くラ・フォリアの背中を悠は只見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言う訳で速やかに調べてください。」

 

「はいよ。しかし功魔官を襲う謎の魔獣ねえ。」

 

夜の学園の屋上では、ある者達の話が進められていた。

茶髪にヘッドフォンを首に掛けた古城の友人でもある矢瀬がフェンスに停まってる鳥相手にある任務を伝えられてた。

 

「にしても変だねぇ、襲った功魔官の命を取るんじゃなく魔力を取るとは。」

 

「それが人外の悪魔や堕天使、果ては獣人や吸血鬼等も含まれますから我々も動く事にしたのですよ。」

 

「それにしてもさっき言ってたのマジなんすかねえ?

噂の仮面ライダーも関わってるって。」

 

「目撃によれば、ですがね。

ベルトに仮面の人物が居たという特徴からそのような仮説が出たまでですよ。」

 

「ふーん。まあなにわともあれ、面倒な事になりつつあるってことかこの街は。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も無い黒一色の空間に悠の上司である神はいた。

 

手にある情報が書かれた書類を見ながら彼は物思いに捕らわれていた。

 

(やっとブラックボックスから掴めた転生者の情報…。

これなら場所の特定は出来るが肝心の特典が未だ不明のまま。彼に行かせるのは些か危険だがこれだけ時間が掛かってようやく掴んだ情報は一人の名前と顔だけ…この間にも奴らが善からぬ事を進めているとしたら。)

 

例の転生者の情報を悠に伝えるべきか否か、それ程までの決断を強いられるほど今回の相手は強敵なのだ。

上司は資料とは別の手に持った一台のシフトカーを見つめる。

 

(とにかく一刻も早くこれを完成させねば。これから彼が戦う強敵に向けて。)

 

上司は手に持ったシフトカーを懐に仕舞い、黒の空間を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時はまだ誰も、神である上司すら想像つかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これから始まる激闘が世界を巻き込む事を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その激闘のスタートラインを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上司が立ち去った空間に置いてある、黒く青いラインの入ったスポーツカーが近い内入ろうとしていた







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