その男が進む道は・・。   作:卯月七日

187 / 187





条件

早朝。彩守宅の目覚めは早い。

 

それが例え昨夜如何なる天変地異レベルの騒動や瀕死する程の怪我を負ったとしても変わらない。

 

そしてその習慣は同じ屋根の下で寝ている者達も必然的に起きる羽目に…。

 

 

 

 

「Zzzzzz…。」

 

「ん……んん~~…。」

 

「スピ~~…ムニャムニャ…。」

 

 

布団を川の字で並べて寝ている桜井姉弟とウラナ。

 

心身共に疲れていたのもあって未だ起きる気配が一向に無い三人が寝ている部屋の襖が勢いよく開かれた。

 

 

「起きろ。朝食が出来たぞ。」

 

 

「Zzzzzz……フガッ。」

 

「んん?……後10分~~……。」

 

「スピ~~…。」

 

 

「ハァ…スゥゥゥ……。

起きろォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

 

「「「うェェッ!?」」」

 

 

 

 

 

 

「──全く、如何に貴様等がだらしない生活をしているのがよく分かったよ。」

 

卓には蓮司が作ったであろう味噌汁や卵焼きその他小鉢に目移りする事無く、おひつからよそった山盛りの白米を蓮司から受け取った秋。他の二人もまだ完全に覚め切って無く未だ寝ぼけ眼で睨みながら渋々箸を持つ。

 

「オメェが早すぎんだよ、学校もねぇってのにまだ6時前ってよぉ…。」

 

「学校は無くとも戦争の真っただ中だ。この程度で文句を垂れてどうする。」

 

「へぇーへぇー。そりゃごもっともで…んまッ!んだコレ、ただのご飯だってのに…。」

 

「ホント、美味しい!何時も食べてるご飯と何か違う…。」

 

「当然だ。竈の火で炊いた米だ。お前達が普段食べてる炊飯器のとは火の通りが段違いだ。」

 

「竈って…この家、電気通ってるわよね?」

 

「米は竈で炊くに限る。」

 

「クッソ、悔しいけどマジで美味ぇ…あ、そういや悠兄さんは?」

 

「先に食べてろ、だそうだ。黒咲の遺体を処理した後寝ずに調べモノしてたらしい。」

 

「それって、あの手紙の事よね?」

 

「あぁ。少し覗いて見たが暗号化された文章みたいだった。数字の羅列や魔法陣みたいな…。」

 

悠はあの後、唯一遺体として残っていた黒咲の遺体を処理すると名乗り出て公園と別れそれっきりである。アベルから受けた傷は治したというもの、遺体を埋葬してからBABELの貰った情報を寝ずに目を通すそのストイックな行動力にはいつもながら感服モノである。

 

完全に目が覚めて黙々と蓮司の作った朝食に舌つづみするのを横目に悠の事を気にしながら食べていると、居間の襖が開き、そこから目尻にうっすらとクマが出来てる悠が姿を現した。

 

「あ、噂をすれば…。」

 

「悪口じゃないよな?…俺にもメシくれ。昨日の昼から何も食って無かった…。」

 

「ほら喰え…黒咲の遺体はどうした?」

 

「ん゛ッ…メシの時にんなハナシ持ち出すなよなぁ…。」

 

「遺体は火葬して人気のない場所に簡易的な墓を建てたよ。表立つ訳にはいかないからな。

戻ってからからはずっと一人寂しくナゾナゾ解き。」

 

「そっちの進捗はどうだった?」

 

「おぅ。気のとぉーくなる作業だったが、そこは俺の理系のパワーで解読成功よ。お陰で脳細胞が死滅寸前だが…デザート無いのか?」

 

「砂糖でも舐めてろ。」

 

「じゃあ超重要な情報が分かったって事!?で?で?一体何が書かれてたん?」

 

「落ち着けよ、メシが食い終わったらゆっくり話してやる……この米美味ぇな。」

 

彩守家の白米は絶賛好評であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食が終わり、一同が居間に揃って悠が拡げた数枚の羊皮紙を目にするが、蓮司の言った通り数字の羅列やどこぞの外来語、更には魔法陣の絵が描かれており、一見目にしただけで内容を理解するのはとても無理だ。なので4人は一斉に視線を悠に移し、説明を求めた。

 

「まぁざっと簡潔に言うと書かれてた情報は二つ。一つはあの塔を守ってるバリアについてだ。」

 

「確か、賢者の石で動いてるっつてたよな、アレ。」

 

「あぁ。塔のてっぺんに描かれたこの魔法陣と合わせてな。」

 

「コレがか…?」

 

魔法陣が描かれた羊皮紙を手に持って見せる悠。全員で攻撃してもビクともしなかったバリアの基盤がこのようなモノだった事に思わず声を漏らす。

 

「要は乾電池とおもちゃだよ。で、こっからが大事な情報。

番堂は裏切る前に、この魔法陣にバレない程度に手を加えたんだと。」

 

「それで何が変わるの?」

 

「塔を覆ってるバリアは消えて無いしな…。」

 

「あぁ消えては無い。でも強固な守りに僅かなほつれが出来た。ソレがコレ。」

 

そう言って次に持った紙には幾つもの数字の羅列が書かれていた。

 

「コレに書かれてるのは位置情報。たった一か所、針の穴程度のサイズだが、正確な一発を加えればバリアを破壊出来る箇所の詳しい情報のな。」

 

「ッ!バリアを破壊出来れば、中に入って計画を阻止できる…。」

 

「おぉ!内側から壊しちまえば取り敢えず世界崩壊は免れる!そうとなれば後はもうコッチのもんってか!!」

 

「中枢部は塔の地下、それさえ完全に破壊すれば塔は崩れ落ちる…ただ、中に入ったとしてもそこまで楽に辿り着けるか、そこまでは書いてない。」

 

「フム、最低限罠なり番人は居ると見ておくべきか…。して、もう一つの情報とやらは?」

 

「二つ目はあの塔で天界を開くための絶対条件。あの塔が建ってる場所と、時間。

聞いた事ない?マンガやらアニメとかでよく出て来る地脈エネルギーとか。」

 

コレに対しハルナと秋は首を縦に頷く。ウラナも良くゲームで聞く単語だった為に肯定の意を返すが、そういった知識に疎い蓮司は話についていけて無かった。コレに対し、ハルナがフォローに入る。

 

「えっとね…パワースポットってあるでしょ?願いが叶う神社とか、樹齢何百年の樹とか。」

 

「あぁ、それなら分かる。」

 

「ああいうとこってその地脈の上に立っているのよ。そのエネルギーの力で後利益が得られるってワケ。他にも風水とかの占いにも出て来るの。」

 

「成程。となると、あの塔もその力で…。」

 

「そ、この街はその地脈が特に多く張り巡らされてる。そんで…。」

 

広げた街の地図に幾つも書かれてる赤い線が全て重なった地点を見ると、丁度バベルの塔が建っている位置と一致している。

 

「幾つもある地脈の線が一つに重なってる地点に建てれば、この地球のエネルギーを引き出させる事が出来る。コイツが地球崩壊の大本と言って良い筈だ。」

 

「既に一つの条件はクリアしてるって訳ね…それで、もうひとつの時間っていうのはどういう意味?」

 

「そのまんまの意味。今も刻一刻とカウントダウンを刻んでいるんだよ。地理的なハナシの次は、天文学的なハナシだ。」

 

そう言うや今度は蓮司の家にあったノートとペンを取り出し、分かりやすく伝わるように絵を書き始める。

 

「俺達のいる地球の他に太陽を中心として、幾つもの惑星がグルグルと回ってる。コレはイイよな?

回るスピードはバラバラだが、コイツがこう…。」

 

悠が描いた絵は二つ。太陽と思われる中心のマルと、ソレを囲う幾つもの円の線上にポツンと書かれた惑星を示したマルが統一感なくバラバラに書かれているのに対し、もう一つの絵は隣に書かれた太陽系と同じであったが、違った点はバラバラだった惑星を示したマルが奇麗に並んで一本の線を繋げていたのだ。

 

「こういった具合に一直線上に揃う。こうして星と星が一直線に繋がる事で天界へと続く道が出来るんだ。」

 

「コレがもう一つの条件。」

 

「今まで塔を完成しても直ぐ計画を移さなかったんじゃなくて、やろうにも出来なかったからか!」

 

「で、一番気になるそのカウントダウンの時間についてだが…。」

 

ペンを離した悠の言葉に緊張感が生まれ思わず息を呑む。

 

「…9日後の午前10時17分。」

 

「ず、随分具体的ね…。」

 

「本当に合ってるのソレ?」

 

「念の為ネットでも調べてみたよ。天文学者のツイートやら各国の宇宙センターの公開サイトとか。

するとほとんどが、”あと少しで奇跡の太陽系!”ってのが…ホレ。」

 

取り出して見せてきた携帯には、大まかな日付と時間帯が載せられており、史汪から送られた情報の信憑性が増したのだった。

 

一通りの説明が終わり整理すると、アベルがバベルの塔で天界へ通じる道を開くのが9日後の午前。詰まる所、決戦の日である。

 

だが悠は、4人の考えとは裏腹に思いがけない言葉を投げる。

 

「という訳で、8日後に総攻撃を仕掛けるぞ。その日がこのふざけた戦争の終結日だ。」

 

「8日後!?…あ、そうか。そっちのほうがコッチにとって安泰か…。」

 

「それだったらもう少し早く攻めてもいいのではないか?弱体化している今この機会を逃す訳には…。」

 

バベルの塔が起動する当日の前日に総攻撃を仕掛けると聞き、秋は納得の顔を見せるが、蓮司は直ぐにでも決行すべきと自身の考えを進言するも悠がソレに対しちゃんとした理由を交えて答える。

 

「まぁ落ち着けよ。実のところ決行日の作戦はもう思いついてる。その為の準備が必要だ。

それに言ったろ、終結って。要は最後の戦いになるワケだ…。だったら出来るだけ悔いの残らないよう思い思いの時間を過ごせってハナシ。」

 

「「「「……。」」」」

 

ココにきてまさかの休みを言い渡される面々が言葉を失う中で、悠は立ち上がる。

 

「作戦の説明は今から7日後にするから、それまで自由行動って事で…。」

 

「ってぇ!ちょ、悠兄さん何処行くの!?」

 

「寝るんだけど?俺徹夜。体張り過ぎ。超頭使った。すっごく眠い。以上、おやすみ。」

 

「えぇ~?」

 

最後は悠のペースで締めくくられて終わり、残された秋達は暫く互いに見つめ合っていたが、ここまでほぼ無言だったウラナが…。

 

「ねぇねぇ。ユウが何言ってるかほとんどわからなかったけど…取り敢えず7日後まで遊んでもいいんだよね?」

 

「ってオォイ、さっきから静かだと思ったら…まぁそういう事。今ならやれなかった事もやってイイってさ。」

 

「じゃあアタシゲーセン行って来るー!その後はレンジとデートね!」

 

「ってぇ!ウラナ待ちなさい!この時間からゲーセンなんて開いてないでしょ!ちょっとぉ!!」

 

意気揚々と飛び出て行ったウラナと、ソレを追いかけに行ったハルナ。残された秋と蓮司は、互いに顔を見つめる。

 

「取り敢えず、どうするよ?おたくは。」

 

「…弟。」

 

「あ?」

 

「少し、付き合え──。」

 

 

 

 

 

 

 

悠は居間から仮の自室へと戻ると布団を敷いて寝る準備をしていた。

 

昨日の午後から立て続けの戦闘、BABELの暗号文の解読、作戦の考案等休む間も無く動き続けた為に心身ともにもう限界であった。先程食べた朝食で睡魔に拍車がかかりいざこれから眠りに入ろうと布団に入った時だった…。

 

<悠。>

 

「…んだよクリム。俺これからやっとこさ寝るって時によぉ…。」

 

寝転がったまま視線を向けた先には、シフトネクストを通じて話して来たクリムが顰めた表情を向けられながらも話し掛けて来たのだ。

 

昨夜、秋達に気付かれないよう暗号を解読している悠に接触し、ある情報を伝えたのだ。不機嫌になると知りながらも話し掛けてきた理由は、十中八九ソレに関する事であった。

 

<すまない。だが、今の内に話しておきたくてな。>

 

「昨日のヤツか?…まぁビックリしたけど反って深夜テンションのお陰でどうにか呑み込めたし…。」

 

<…その早く飲み込めた事に若干不安を感じてね。何と言えばよいのか…あの時のキミの様子を見て胸騒ぎがしたんだ…。>

 

「……。」

 

<悠、まさかとはキミは…。>

 

「悪いけど長話になりそうならもう限界…一先ず、10時間は、寝かせてくれ……Zzzz…。」

 

クリムの言葉に耳を傾けず目を閉じる悠。直ぐに寝息を立てる悠を眼前に、クリムはシフトカー越しに困り果てた。

 

<私の声では彼の心に響いてくれないか…やはりここは…。>

 

クリムは胸の内に巣食う懸念を払拭すべく、僅かな希望を頼りに悠の元を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり、バベルの塔内部で…。

 

「──クソ!クソクソクソッ!!クソったれ!!」

 

番堂の捨て身の策によってゲムデウスの力をリセットされて失ったアベル。

番堂に対しての怒りと、現在行っている作業の面倒臭さに悪態を吐きながらも端末の前で地道にキーを叩いていた。

 

「ホンットやってくれたよあの男!お陰で大事なシナリオが滅茶苦茶になる所じゃ済まされない位だったぞ…!

カインの知識を取り込んでいなければどうなっていた事か…!」

 

何時に無く感情的になっているアベルは返って来る事のない言葉を延々と口にしながらも只々地道になれない作業を進めていく。

 

アベルが今組み立てているのは変身するのに必要な、バグスターウイルスの抗体プログラム。アベルにとってゲムデウスの力はゴッドマキシマムゲーマーに変身するのに必要な抗体替わりであった為に、ソレを失った今こうして一から変身に必要な抗体プログラムを組み立てる必要があるのだ。

 

だがゴッドマキシマムゲーマーは従来のガシャットとは別格の代物故に、変身に使う抗体は悠達の体内にあるモノとはまた更に手を加えなければいけない為そう易々と創れない。取り込んだ神太郎の知識をフルに引き出せても、慣れない作業を強いられるアベルにとって苦難の道である。

 

何時完成するか分からないが、長年にかけて築き上げた計画の実行日までまだ時間はある。そう自分に言い聞かせて落ち着きを取り戻しながらアベルは抗体の完成を急がせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡り、悠がBABELの暗号文を解読している深夜。

 

デスクスタンドだけが点いている部屋の中で眉間に皺を寄せながらペンを走らせる悠の元に、背後から一台のシフトカーが近づいて来る。

 

<悠。今良いかね?>

 

「クリム?…向こうで何かあったのか?」

 

<いや、此方は問題無いよ。やっと落ち着いて眠っているさ。

キミに見せたいモノがあるんだ…あの方からの、最後のメッセージを。>

 

「何?…。」

 

<映像を再生するよ…。>

 

シフトカーからホロ映像が流れ始める。振り返った悠の目に写ったのは…。

 

 

 

 

 

 

【───私が、神だ。】

 

上半身裸で黒タイツを履いた黒髪ロン毛となった神太郎が何故か目を閉じて現れた。

 

 

「……クリム?」

 

<いや、私も言ったのだが、こういうのは出だしが肝心と言って聞かなくて…。>

 

 

【ふーむ、掴みは上々かな?天界を出る前に流行ってたネタだし…。】

 

被ってたカツラを外し、服を着直す映像を冷めた目で眺めてると、映像の神太郎は改まったようにゴホンと一息ついて語りだした。

 

【さて、この映像を見てるキミは養豚場のブタを見る目で視ているだろうが、生憎シリアスなムードは好きじゃなくてね…私が消えて物凄く大変な状況になって、苦しんでいるだろうキミが少しは気が紛れてくれると思って、ね…。】

 

「ハッ、余計な気遣いだっての…。」

 

【……あー、うん。本当は私の口から直接言いたかったが、何時消される身となった今万が一を考えてこうして映像に残しておく事を許して欲しい。

そして、どうか心して聞いて欲しい……キミにとって大事な話だ。】

 

「?…今更何があるって?」

 

 

 

 

 

 

 

 

【…キミの……生前、失われた記憶についてなんだが…──。】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───………。」

 

目を開けてまず一番に目に入った木造作りの屋根を見て、先程の光景が過去を振り返った夢だと気付くのに時間は掛からなかった。

 

僅かに開いてる襖の隙間に目をやると、挿し込む日の光がうっすらと赤みがかってる事から朝から夕方位まで休めたと思いながら体を起こそうとするが、胸から下が金縛りにあったように上手く動かせなかった。

 

「?スンッ……この匂い…。」

 

おもむろにかけ布団をめくり覗いて見ると、そこには見慣れた黒髪が腹の上で寝息を立てていた。

 

「オイ……オイ起きろ、川内。」

 

「ん~~?……あ、おはようぉ…。」

 

「おはよう。早速聞くけど、なんでまた布団の中に忍び込んでたワケ?」

 

「いやぁ~ヒマが出来たから遊びに来たんだけど、気持ちよく寝てる悠の寝顔見てたらつい、えへへ…。」

 

「…普段夜にしか動かないお前が、明るい昼間から遊びに?」

 

「え?…ま、まぁね!ほら作戦決行日まで時間あるとはいえ有限なんだし、こういうのは思い立ったが吉日でしょ?」

 

「…まぁ、もうすぐ夜になるか。」

 

何処か気になる一面を見せた川内だが、悠は深く追求せず起き上がった時、部屋の襖が勢いよく開かれた。

 

「あ、悠さんと姉さんやっと起きましたか。」

 

「神通も来てたのか。」

 

「えぇ。姉さんだけだと少し心配でしたので。」

 

「ちょっと神通~、それどういう意味?」

 

「そのままです。来て早々布団の中に入り込んで寝るのはどうかと。」

 

「俺はこういうのもう慣れちゃったけどね。」

 

「ホラ悠もこう言ってるよ!」

 

「姉さん屁理屈を言わない。悠さんも易々同衾を許さないでください。もう…。」

 

呆れた様子を見せながら神通は悠と川内の傍に寄り腰を下ろす。奇麗な姿勢で正座する神通と、膝の上に乗ってる川内を前に頭を掻く悠。

 

「ねぇ悠、この後なんだけど三人で一緒にご飯食べに行かない?みんなそれぞれ行きたいとこ行ってるようだしさ。

そ・れ・でぇ、その後は熱くて激しい夜戦のあいたァ!?」

 

「姉さん、何でもかんでもソッチに持っていかないでください。はしたないです。」

 

「だからって殴る事無いじゃん!今の流石にヒドイよねぇ!?……悠?」

 

「悠さん?どうかしました?」

 

「いやぁ、ねぇ……うん。率直に聞いちゃうけど、クリムからなんて聞いた?」

 

その言葉発した途端、二人の目が見開き空気が静まり返った。二人の反応を目に、悠は短い溜息を吐く。

 

このタイミングで川内と神通の二人が来たこと自体偶然と思えなかった悠は試しにカマを掛けてみたが見事的中であった。

 

沈黙の間が続く中、観念したように神通が細い声で白状する。

 

「その…詳しくは聞かされて無いのですが、”良くない事を考えてるかもしれない。”と…。」

 

「良くない、ね…。」

 

クリムの予想している考えは強ち間違っていない。神太郎からのメッセージを受けて暫し苦悩した故に決めた事。周囲の人間が聞けば、それは反対されるであろう決意を。

 

「ねぇ悠、また一人で無茶な事しようとか考えて無いよね?最後の戦いはちゃんと生きて帰ってくれるんだよね?」

 

「ハッキリと無事帰って来るとは言えないな。向こうもそれなりの抵抗を見せるだろうから。」

 

「そう、ですよね…。」

 

「……そういえばさ。」

 

また沈黙の間が出来そうな雰囲気のなか、悠が何か思い出した様に言葉を発した。

 

「確か川内が言ってた姉妹丼ってアレ、まだ有効?」

 

「ッ!?…なぁッ!?ななななななな…ッ?!」

 

「ふぇぇッ!?え、えーっとぉ、いや、ダメじゃないよ!私は全然OKだけども…。」

 

「うん。流石にこういう誘い方はダメだよな…じゃあ。」

 

「「ッ!」」

 

悠は突然の事で困惑する二人の手を掴んで引き寄せ、抱きしめる。

 

また突然の行動に理解が追い付かない二人の耳元に口を近づけると、そっと囁く様に言葉を発した途端、二人の顔が真っ赤に染まった。

 

「俺は悪人だが、ちゃんとお前等の意思は尊重するさ。そっちの方が燃えるし…どうする?」

 

「「………。」」

 

この言葉に二人は何も言い返さなかったが、その代わりに悠の背中にギュッと腕を回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり、とある回転寿司店。

 

そのテーブル席の一角で秋と蓮司は向かい合って座っていた。蓮司に誘われるがままに入店し、何故自分を誘ったのか聞くも中々本題が言い辛いものなのか、先程から無言で流れる寿司を手に取り食べる蓮司。

 

蓮司の不自然な態度に怪訝な顔になるも、様子を窺いながら秋も流れて来る寿司を手に取っていく。底無しと言って良い食欲を持つ二人が2時間近く食べ続けている為に、二人の周りには高く積み上げられた皿の塔が幾つも出来ている始末である。

 

そんな状況が続いてる事に痺れを切らした秋は、マグロを2貫をいっきに口に入れて呑み込んだ後、問い詰めて来た。

 

「あー、んッ…んぐ。

ふぅ…なぁそろそろお前の顔見ながら寿司食うのもアレになってきたんだけどまだ言わねぇの?

この皿の山で壁作らなきゃロクに話せない内容なワケ?」

 

「…あぁ、そうだな………分かった話す。言うよ…その、だな……。」

 

「ハァ…頼むから寿司じゃなくてコッチ見て言えよな。このやり取りでもう何回したか…。」

 

中々本題を切り出せない蓮司の野暮ったい様子にうんざりしながら湯飲みの茶を啜る秋。

 

だが蓮司もようやく腹をくくり、秋にとって衝撃的な言葉を放った。

 

「………オレはお前の姉に恋してる。」

 

「ぶぅぅぅーーッ!?ゲホッウエェアッツゥ…ッ!………ハァァ!?」

 

意を決して語った蓮司の告白に思わず口にしてた茶を吹き出してしまう秋。盛大にむせて、少し火傷した唇がヒリヒリするのを感じながら、険しくなった視線を蓮司に向けてどういう事だと無言の訴えを突き付ける。

 

「…アイツが言っただろう。今の内に悔いの無い様に過ごせと。ならば後悔しないよう、桜井にはオレの思いを伝えておきたいとおもってな…。」

 

「で、だからって何でオレにソレ言うんだよ…!しかもこんな場所で…!!」

 

「一応身内のお前に言わねばならないかと思って…言わない方が良かったのか?」

 

「どっちも良くねぇよ!!何時の間にか姉ちゃんがお前と付き合ってる、なんて聞かされたらそれこそ昇天モノだわ!!」

 

「…やはり、オレでは不服か…?」

 

「…………あぁ~ッ!もう!」

 

何時に無く表情が曇る蓮司を前に、秋は何を思ったのか少しの間を空けた後頭を掻いて立ち上がった。

 

「弟?」

 

「…来いよ。今度はコッチに付き合え。」

 

 

 

 

 

 

 

完全に余談だが、席を立つ二人を見て、店の店員達は安堵の表情を浮かべてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夜明けた明朝。

 

日が昇りかけた空の下に悠は居た。背伸びして出て来た建物は、繁華街地に建てられたホテル。

 

若干疲れた表情で一晩中交えた後疲れて寝てる二人の事思いながら歩く悠は携帯を取り出す。大淀宛てに川内、神通のスケージュールの変更についてのメールを送った後、自身の今日のスケジュールを頭で組み立てていた時背後から小さな影が声を掛けてきた。

 

「こんなご時世に朝帰りとは、随分と余裕だな?問題児。」

 

「ん?…よぉセンセイ。こんな朝早くから出勤とは、お疲れ様です。」

 

「全くだ。人が休む間も無く働いてるというのに、お前は不純異性交遊に励んでいるとは。」

 

「とっくの前に言いましたけど、俺本当はアンタより年上。プライベートは好きに過ごさせて欲しいんすけどね。愛しい女との思い出作りなら尚更…。」

 

「それでもお前は私が受け持つ生徒なのでな。何かやらかしたら私にもしわ寄せが掛かって来るんだ。」

 

「それなら…ん。」

 

「…何だコレは?」

 

偶然出くわした那月にあるモノを投げ渡した悠。

 

地面に落ちている白封筒に書かれてる、”退学届”を拾うと那月は険しい目付きになる。

 

「これならもう面倒見なくて済むだろ?」

 

「何の真似だ?今になってこんなモノを。」

 

「今から7日後に、あの塔を攻める。最後の戦いだよ。」

 

「答えになって無いぞ!コレはどういう…!!」

 

「それに退学の願書と一緒に、終わった後やって貰いたい事が書かれてる…アンタにしか頼めない。」

 

「…お前、まさか。」

 

「ケジメだよ…知らずの内に溜めてたデッカイヤツの…。」

 

「…灰原。」

 

「…ま、そういう事でソイツの受理よろしく……俺の中でアンタ一番に良いセンセイだったよ、那月チャン。」

 

「……。」

 

最後に行った自身の呼び名に何時もなら扇子を投げるなり言葉を返すなりしていたが、那月は何も言い返さなかった。

 

丁度昇ってきた朝日の光に向かって歩く悠の姿が見えなくなるまで…。

 

 

 

 

 

 

 





次の投稿が何時になるか…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:10文字~500文字)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。