その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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「前回のあらすじ。
アホ上司がアベルに取り込まれ意気消沈する俺の元に現れたBABELのメンバーが、俺達に打倒アベルに向けて共闘を持ちかけて来たのだった…。」





処分

 

 

 

 

「何だと?」

 

目の前の史汪から持ち掛けて来た提案を聞いて悠は一刻剥き出しにしていた警戒心が解けてしまう程に衝撃的だった。

 

「実に信じ難い内容とは存じてますが、我々は本気です。今では強大な力を手にしてしまったアベルを倒すのに私達3人では敵わないでしょう。」

 

「それはキミ達も痛感した筈だよ?アベルは最早この世界において最強の座に…まさしく神の領域に至る程の力を宿してる事に。」

 

「……。」

 

番堂に言われ口を閉ざす悠。実際に目の当たりにした悠だからこそ番堂の指摘に否定する要素は何処にも無かったからだ。

 

「ボウヤがそんな難しい顔するのは仕方ないわよね。アタシ達がやってきた事考えれば尚の事…。」

 

「…まるで心入れ替えたヤツの台詞だな。」

 

「…言い得て妙、ですかね。天治君が消してくれたのは、アベルの洗脳だけではないんですよ。」

 

「は?……ッ!まさか…。」

 

転生者は必ずしも誰もが積極的になりたいと思う存在では無い。中には力を持たされ危険な世界に行かされるのを躊躇いなく拒否する人間もいる。

そういった人間に対し、転生させる神はその人間の人格を書き換えてしまうのだ。温厚な性格を真逆な性格に…残虐非道な悪意を持った転生者として送り込み、文字通り生まれ変わった様を見て愉しむ神が居るのだ。

 

だがその転生者が好き勝手に動いて世界に与える影響が酷いとされ、天界の間で問題視され禁止事項とされていた。悠もその転生者を相手にぶつかった事は何度もある為、その厄介さは良く知っている。

 

「やはりキミは知ってましたか…。思い出したんですよ。訳も分からず転生される時、アベルからライダーの力と呪いのようなモノを掛けられて、自分が自分でなくなってしまいながら此処に来たのを…。」

 

「今でも鳥肌が立つわ。まるで真っ黒な何かに塗りつぶされるようなあの感覚……アタシでさえ怖いと感じたわ…。」

 

「…て事は、アンタ等…。」

 

「そう。あのクソ野郎にとって都合の良い駒として集められたんだよ。魔力の収集も、塔の完成さえも、そうなるように私達の頭に植え込まれたんだよ…!」

 

口調が荒くなる番堂に史汪も黒咲も驚いた顔をしていた。根本的に板東の感情的になった姿を始めて見たからだ。

 

そんな中、悠は自身が思っている事を史汪達に告げる。

 

「事情は分かった…でもだからと言ってそう簡単にOK出す程、まだアンタ等を信用できない。」

 

「……。」

 

「そうよね…。」

 

「……。」

 

 

「………とにかく俺の一存じゃ決められない。ウチの連中とも話し決める。」

 

「…えぇ。それだけでも聞けて、満足です。」

 

「ありがとう、ボウヤ。」

 

「フン…。」

 

 

「じゃあ俺は行くぜ。」

 

「…最後に一つだけ、よろしいですか?」

 

「…何だ?」

 

「…キングの、竜二君に関してです。」

 

「ッ!」

 

史汪の口から出て来た名前に悠は反応を見せる。

 

小金井 竜二。仮面ライダーマルスとして悠と何度も死闘を繰り広げて来た強敵。

戦いの場以外でも交流のあった竜二との決戦において辛うじて勝ったが、そこへアベルが割り込んで動けない竜二にヘルヘイムの果実を喰わせオーバーロードにさせられた竜二を極アームズとなって倒した。

 

悠は史汪が竜二を倒した事に何かしらの苦言を言って来るのかと思っていたが、その考えとは裏腹に、悠に向けて頭を下げてきた。

 

思いもよらない光景に目が点になりながらも、史汪は悠に感謝の意を伝えて来た。

 

「彼を、竜二君を止めてくれて、ありがとうございました!」

 

「…何で、礼なんか…俺はアイツを殺したんだぞ?」

 

「彼がどうしてああなったのかは、天治君がアベルから聞き出して知りました。

彼の意志を汲み取ってアナタが単身で倒し…竜二君の思いに応えてくれた。だったら、仲間としてお礼を言わなければと思ったのですよ。」

 

「アタシからお礼を申し上げるわ。あの子、とにかく意地っ張りだったからだったから、ね。」

 

「…ま、嫌いじゃなかったよ。彼の事は…。」

 

 

「……。」

 

竜二の一件についてその仲間達から感謝されるという奇妙な出来事に悠はいたたまれなくなって足早に公園から去って行った。

 

悠の姿が完全に見えなくなるまで、史汪は悠に頭を下げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「BABELに共闘を持ち掛けられたぁ~~ッ!?」」

 

「あぁ…。」

 

「ねぇねぇ、きょうとうってアレだよね?校長先生の次にエライ人。」

 

「教頭先生ではなく共闘。つまりBABELと一緒に手を組んで戦うという事だ。」

 

「へぇ~~……ええええッ!?」

 

蓮司の自宅に戻り史汪達から持ち掛けられた提案を4人に話した悠。

 

突然告げられた申し出に対して驚いている4人だが、悠は更にBABELはアベルの洗脳の基に操られていたことも話した。終始信じられないといった風に聞いていた秋達であったが、事細かな詳細を話していく内にどうにか理解してくれた。だが、理解は出来ても納得はいかないといった表情を浮かべていた。

 

「…コレ、どうする気なの?」

 

「そうだぜ。今まで敵と思ってたヤツ等と仲良くしましょう。って…。」

 

「しかしゲンムが居なくなった今、少しでも戦力が必要な状況において願ってもない機会には違いないがな…。」

 

「……悠兄さん。アンタの意見は?」

 

「…俺は……この話、受けても良いと思ってる。」

 

代表として挙げられた悠の意見を聞いて場は静かになる。無意識に難色を示していた者もいる中で悠は自分の考えを口に述べた。

 

「剣バカの言った通り今俺達は最悪な状況だ。

敵は強化。こっちは戦力低下。ラボは潰れて装備が十全に整えられない。動けるマシンもほぼ無い…ここまで最悪な状況は初めてだ。」

 

「確かに…。」

 

「ヤロウ殺すには余計な自尊心は捨てるしかねぇ…だから、俺はヤツ等の手を借りる気だ。」

 

「…オレも同意だ。」

 

「レンジも?」

 

「少なくとも向こうもアベルに対して因縁がある。敵の敵は味方だ。」

 

「…そう言われると。反対する言葉が見つからないわね……私も賛成。」

 

「………ハァ。しゃぁねぇ、正直煮え切れないけどアベルに好き勝手やらされるよりマシ、って事で。」

 

「決まりだな。」

 

同意を経てBABELとの共闘を結ぶことに決めたライダーズの面々。

 

その際、蓮司は悠の僅かな反応から何かを感付くが、口に出す直前になってウラナが首を傾げだした。

 

「あれぇ?ねぇねぇ、アタシの意見は?」

 

「お前今までの話し、ちゃんと理解して聞いてたか?」

 

「えーっと……難しくて分かんない。」

 

「だろ?…じゃあ満場一致でヤツ等と手を組んでアベルを殺す、って方針で進めていくぞ。」

 

「「「「えぇ。/了解。/あぁ。/はーい…。」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が暮れた夜の公園。悠に共闘を持ち掛けたBABELの三人はアベルから離反した為塔に戻れず、かといって前の拠点である喫茶店は塔の建ってる場所にあった為今は無く、黒咲の経営してた花屋も今や差し押さえられ使えない為に宿無し無一文の為に、今夜は公園で一夜を過ごすつもりでいた。

 

「───それにしても、本当に意外でしたよ天治君。」

 

「…何がだい?」

 

コネクトの魔法陣から寝袋を取り出しながら史汪はブランコに座る番堂に前々から思っていた事を打ち明けた。その傍では、滑り台を使って懸垂している黒咲が耳を傾けていた。

 

「キミは自他共にご自身の研究にしか興味を持たない人格の持ち主だとずっと思っていましたが、私と一心さんを助けるべくアベルからの恥辱に耐える様な人だと思っていなかったので。」

 

「またその話かい?もういいだろう、結果的に私の目的は果たしてキミ達は助かった。ただそれだけで。

そんな話を吞気にするよりも私達の問題は山積みだよ?アベルに対しても、向こうが共闘を呑んでくれるかどうかも、今のこの宿無し無一文の現状も…。」

 

「んもうッ!一番目を背けたい事を言わないでよん!日課のお肌の手入れが満足に出来ないから筋トレ気を紛らわしているのにィ!」

 

「あのー、そういう事だったら言いますけれど。流れてる汗の所為でメイクが崩れてますよ?」

 

「え?…あらヤダ!メイク落とすの忘れてたわ!!どうしましょ!?

ねぇちょっとアンタ!なんかこういう時に使える魔法無いの!?」

 

「すみません、生憎と私のはコネクト以外攻撃系がメインの魔法なので…。」

 

「ソレが出来てればこの野宿もどうにか出来てたろうね。」

 

「えぇホント、面目ない…。」

 

「はぁ~…でもマジメなハナシ、もしボウヤがアタシ達との共闘を断ったら、どうする気?」

 

「その時はその時です。彼等の邪魔にならないよう我々でアベルを倒すつもりです……このケジメだけはキッチリと着けなければ。」

 

「当然だね。」

 

「えぇ。アタシ達をコケにしてくれたお礼はたっぷり返してあげなきゃ。」

 

「あぁそうだ。もしそうなった場合にも、彼等にあの情報を教える気かい?」

 

「えぇ勿論。少しでもアベルを倒せる確率を上げる為に、必要…。」

 

 

 

「”あの情報”?…それは一体どういう情報なのかな~?」

 

 

「「「ッ!?」」」

 

突如として上から聞こえてくる声に反応して空を見上げる三人。

 

そこには何もない宙に立って見下ろす、三人にとって忌々しい存在であるアベルが不敵な笑みを向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──何故連絡先を交換しておかなかったんだ。」

 

「しゃあねぇだろうあんな空気の中振り返って”電話番号教えて?”とか聞けるか…つーか、なんでお前が付いて来てんだよ?」

 

日が暮れて常闇に包まれた街道を歩く二つの影。悠はBABELとの共闘に皆の同意を得た為それを3人に伝えるべく公園に向かっていた。何故かその際蓮司が一緒に行くと言い出して来たのだ。蓮司が進んで悠と共に行動共にするという行為に場は軽く騒然となる程であった。

 

ある程度歩いた所で悠は後ろをついて来る蓮司が同行してきた理由を聞いてみた。

 

「連中に対して少し話したい事があるのと…お前に聞きたい事が有るからだ。」

 

「俺?今更何を話す必要がある?」

 

「…気の所為かどうか知らんが、BABELと手を組むと皆が決めた時、お前の様子が気になってな…。」

 

「は?」

 

蓮司曰く、BABELとの共同戦線を取ると決まった際に僅かに読み取った表情の変化。

 

安堵。肩の荷が下りたという緩んだ表情筋を秋やハルナに向けていたのが、何故だが蓮司はこうして二人きりになってまで聞き出す程に気になってしまっていたのだ。

 

「はぁ~。まぁよくもそんな細かいのに気付けるもんで…。」

 

「一流の剣士は相手の表情から次の手を読み取れる事もある。この程度造作も無い。」

 

「あぁそうかい…で何だっけ?何でそんな顔してたか、だっけ?」

 

「あぁ。連中と手を組むという事だけで、お前があんな顔すると思えなくてな。それも、オレを除いた3人に対して、だ。」

 

「ふぅむ……此処で一つ問題です。俺とお前にあって、あの3人に無いモノ、それなーんだ?」

 

突然として漠然としたクイズを出して来た悠であったが、蓮司はその真意に気付いたのか顔を少し険しくしながら答えを口にしだした。

 

「…人を、殺した経験。」

 

「ピンポーン。」

 

「…ゲンムから聞いたのか。」

 

「あぁ。初めて会ったあの後、武者修行の旅に出て海を越え、雇われの傭兵団に入り紛争地域を巡り回った、って…。

仕事してる時に死んだんだって?」

 

「あぁ。ゲリラ兵から現地民を逃がす為に殿を名乗り出た。

一心不乱に剣を振って、気付いたらゲンムと対面してたよ。」

 

「そこまで言ったら俺の言いたい事分かるだろ?手を血で汚したヤツには、それなりの苦痛が有るって。」

 

「ソレをアイツ等に味合わせたくなかったのか。」

 

「まぁね。ロイミュードは機械だし、バグスターはデータの塊。ファントムは実質動く死体だから心配なかった。

BABELと殺り合う時はある程度痛めつけて、トドメ刺す時に俺がやればいいって思ってたけど、今回の一件でもうする必要が無くなったからな。」

 

「貴様、思ってた以上に心配性だな。」

 

「あ?……あぁそうだね、お前と桜井が今後どうなるかもちょっと心配かも。」

 

「な…ッ!?」

 

意趣返しとしてハルナとの関係性について切り出した途端顔を真っ赤にしだした蓮司を見てニヤニヤする悠であった。

 

「剣士じゃなくても修学旅行から桜井を見る目が変わったのは一目瞭然だったぞ?秋のヤツはまだ気づいてないが…もしお前が桜井に気があるって知ったらどうなるかな~?」

 

「ッ~~!…人の事気にするより自分の事を機にやったらどうだ?

…もうすぐ決戦だ。彼女達をどうこうするかは知らんが…お互いの為にちゃんとケジメ点けろ。」

 

「へぇ、此処に来てそういう事言える位は丸くなったな。」

 

「フン。貴様が節操無しなだけだ。」

 

「ヘイヘイ。肝に銘じておきますよ。」

 

適当に聞き流すフリをしながらも、蓮司の言葉を重く受け止めていた悠は7人の彼女たちの顔を浮かべながら、最低限殴られる覚悟決めておかなければと思った直後だった。

 

 

「「ッ!?───」」

 

 

途轍もなく強大な威圧感を感じ取り背筋に悪寒が奔る。決して近くない位置にいながら空気すら重くさせる程の圧迫感を出す存在など、二人にとってたった一人しか思いつかなかった。

 

「おい、お前が行こうとしてる公園は…!」

 

「この先だ!ショートカットするぞ!!」

 

悠が手を翳すと現れるオーロラカーテン。前に出した手を引くとオーロラは二人を通過させ、目的地である公園へと一瞬で着く。

 

 

「ッ!?──何だよありゃ?」

 

潜り抜けた二人を待ち構えていたのは、公園の原型が無くなっている程に荒れた土地。

オーロラの行く先を間違えたかと疑う位に破壊尽くされた公園には倒れ伏すBABELのライダー。

 

そしてその中心にいるのは、二人にとっての恩師が変身する仮面ライダー、ゲンムの姿が。

 

だが悠達が目を見開いてるのはそれだけでない。ゲンムの身に纏っている巨大なアーマー。ハルナの持つマキシマムマイティXが黒くなったこと以外見た目は同じであったが、ソレから放たれている圧倒的な存在感を前に圧倒されていた。

 

「ん?…キミ達か!参ったなぁ、こんな形でこの姿を見せる気は無かったんだが…。」

 

「アベル…その姿…!!」

 

「あぁ、コレがカインの力を得て誕生した新たなゲンム!──仮面ライダーゲンムゴッドマキシマムゲーマー!そのレベルは…なんと、10億だ!」

 

 

 

 

 

 







ゼロワンの新しいフォームが、ヘル(地獄)って、また悪堕ちじゃないですか!?

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