その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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「前回のあらすじ…。
アベルのけしかけて来た罠にまんまと引っ掛かってしまい、俺達は帰るべき家と…仲間の一人を失った。」




停戦

 

 

 

呆然と立ち尽くす悠、秋、ハルナ、蓮司、ウラナの目の前に広がる受け入れがたい光景が広がる。

 

唯一とも言える安息の地である我が家が瓦礫に積まれた荒地。その真ん中に立つ不快な笑い声をあげるアベル。

 

そして何より信じたくないのが、たった今アベルの手によって神太郎が消滅されてしまった事。少しして有頂天であったアベルが悠達の存在に気付く。

 

「あ、いたんだ。ゴメンゴメン♪気付かなかったよ。」

 

「アベルッ!貴様ゲンムをどうした!!」

 

唯一我に返った蓮司がアベルに問い詰める。蓮司の質問に対し、アベルは悠達に背を向けながら口にしていった。

 

「一つに戻ったんだよ♪コレが、本来のボクだ♪」

 

「何訳分かんねぇ事言ってやがる…!」

 

「カインから聞いてないかい?ボク達は元々一つだった存在を効率の考えから二つに分かれたんだ。

それに伴い本来持つ力も分かれた…で、ソレによって創れたのがこのガシャットってワケ♪」

 

振り返って満悦の笑みと共に見せつける黒いガシャット。だがそんな事よりも悠達にとって肝心な事は応えて無いアベルに業を煮やす。

 

「んな事どうだっていいんだよ!!目当てのモン出来たんならおやっさんを返せこの野郎!!」

 

「オイオイ、さっき言った事もう忘れちゃった?ボク達は、元々、一つの、存在だった♪だから本来あるべき意思は…一つだ♪」

 

「ッ!……まさか。」

 

「ウソ、じゃあ、神太郎さんは…。」

 

「そ!カインはボクと一つになりその意思は完全に消滅…死んだって事さ♪」

 

告げられた衝撃の真実。もしかしたらまだ間に合うかもしれないという僅かな望みを絶ち切ったアベル。

 

残酷な真実を突き付けられ反応を見せて来たのは、秋と、これまで一言も発しなかった悠。二人はマッハドライバーを装着する。

 

「テメエェェェェェッ!!!」

 

「ッ~~~!!!ア゛ア゛ッ!!」

 

<<<< Signal Bike! RIDER! >>>>

 

二人はマッハ、チェイサーに変身しアベルへ向かって行く。

 

「「ラァッ!!──ッ!?」」

 

「ハハハハ、無駄無駄♪」

 

二人が同時に繰り出した拳は、モーションも無しに出現させた障壁により阻まれる。

 

二人は拳を引き、今度は左右同時に攻撃を繰り出そうと試みる。アベルの右側からマッハのハイキック。左側からチェイサーのフックパンチ。

 

だがアベルは障壁で受ける事無く、余裕綽々と素手でマッハとチェイサーの手足を掴みあげたのだ。

 

「「ッ!!」」

 

「う~~ん軽いねぇ♪──そおォりゃ!」

 

「「ウワッ!?」」

 

軽々と片手でマッハとチェイサーを投げ飛ばすアベル。地面に打ち付けられる二人を目に笑いが止まらないアベルに、マッハとチェイサーは武器を手に取った。

 

「んにゃろッ!」

 

<< シューター! >>

 

「ッ!」

 

<< GUN >>

 

 

「ハハハハ、やれやれ…。」

 

青と紫の光弾が次々とアベルに向かって行くも、アベルの眼前に現れた障壁によって防がれてしまう。

 

「この程度じゃ遊びにもならない…──」

 

「ッ!?」

 

「ただの弱いモノいじめになっちゃうよ♪」

 

10m弱の位置に居たアベルが一瞬の内にチェイサーのすぐ目の前に現れた。高速移動では無く、瞬間移動の類で近づかれた為にチェイサーは接近を許してしまったのだ。

 

突然アベルが眼前に現れた事により反応が遅れてしまったチェイサーに、瘴気を溜めた右手をチェイサーの腹部、ベルトに当てる。

 

「はい、ドーン!」

 

「グァァァッ!!」

 

「悠兄さん!!──ッ!テメ…!」

 

「はいキミもドーン!」

 

「ウワアァァッ!!」

 

ベルトに当てた手が弾けて吹き飛ばされるチェイサー。反撃するマッハも掌から放った衝撃波によってチェイサーと同様に吹き飛ばされる。

 

内臓にまで浸透する衝撃に視界が暗転しかけるが立ち上がろうと足に力を入れるチェイサー。だが、ゼロ距離から衝撃波を受けたマッハドライバーに亀裂や火花が散り立ったと同時にチェイサーから離れ地面に落ちた瞬間、粉々に砕け散ってしまった。

 

「ッ!…ドライバーが…!」

 

変身が解けて破壊されたマッハドライバーを目に顔を顰める悠。中に入ってたシグナルチェイサーは辛うじて無事だが、ドライバーはもう修理の施しようが無い位バラバラに壊れてしまっていた。

 

「あれぇ?中のバイクも壊すつもりだったのに…カインの創ったヤツじゃないな。思ってたより頑丈に出来てるんだ……でも。」

 

アベルが瘴気を纏わせた人差し指の先を、マッハの身に着けてるマッハドライバーへ合わせる。

 

「彼のは壊れちゃうだろうねぇ♪」

 

「秋ッ!」

 

「え?…」

 

アベルから放たれる一筋の光が一直線にマッハのドライバーに目掛け向かって行く。悠に叫ばれて顔を上げたマッハは向かって来るレーザーの光に反応が追い付かず、このままドライバーを貫かれてしまいそうになるが…。

 

 

<< ──TADDLE LEGACY! >>

 

「グゥゥッ!!」

 

「ッ!──ロン毛!!」

 

間一髪のタイミングでレーザーをガシャコンソードの刀身で受け止めたブレイブに変身した蓮司がマッハの危機を救った。

 

アベルの放ったレーザーの光熱によって刀身が融解しかけてるソードを目に、ブレイブは即座にマッハの腕を掴んで起き上がらせた。

 

「しっかりしろお前等!今のアベルは冷静を欠いて倒せるほどの相手では無い!このまま感情に任せていったら全滅するぞ!!」

 

「ッ!───クッソ!」

 

「……。」

 

ブレイブに一喝されて自分達がどれだけ浅はかな行動をとったかを自覚する悠と秋。マッハはブレイブの背後で悪態を吐くのに対し、悠は顔を俯かせ表情を隠す。

 

そんな悠達のやり取りを見てアベルは、絶対的有利にあるにも関わらず踵を返してこの場から去ろうとした。

 

「…何の真似だ。」

 

「別にィ?目的は果たしたから帰るだけ♪それに今戦ったって勝つのは目に見えてるし、キミ達にとって都合いいだろ?

次は…ちゃんとコレを使って遊んであげるよ♪」

 

手に持つ黒いガシャットを見せ付けた後アベルはこの場から煙のように消え去った。

 

警戒を解いたブレイブの手に持っていたガシャコンソードの刀身がアベルが消えたと同時に半ばから折れた。

 

折れた刀身が地面に落ちた拍子に砕け散る。その時の乾いた音が耳に入り、その後、誰も口を開く事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手元の新たなガシャットを手に塔に帰還したアベル。

 

もはやこの戦争は勝ったも同然。後は自分が描くシナリオ通りに事を進めればいい。

 

「フンフ~ン♪フフフフ~ン♪…ただいまぁ~。

……アレ?誰も、いない?」

 

塔の中に自分一人しかいないという現状に何か引っかかりを感じ、僅かに顔を顰めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん、だよ!コレは…!?」

 

キンジは目の前に映る光景に自身の目を何度も疑う。

事有る事に災難に見舞われがちで金欠のキンジはまたも恥を承知で悠から金銭を借りようと重い足取りで灰原家に向かっていたのだが、辿り着いたそこには見慣れた一軒家ではなく、瓦礫の積もった荒れ地となっていた。

 

「どうなってんだこりゃあ…灰原達は一体…。」

 

「おい。そこの武偵。」

 

「うぉッ!?…み、南宮、先生…。」

 

不意に足下から聞こえる声に驚くキンジ。視線を下げると、其処に居たのは不機嫌な様子の那月だった。

 

「南宮先生!コレ、灰原達の家が…!!」

 

「見れば分かるし既に聞いている。

敵の親玉が此処を襲撃してこの有り様だそうだ。」

 

「襲撃…!

灰原達は!アイツ等は、大丈夫なんですか!?」

 

「……。」

 

「先生!ってぇ!?」

 

キンジが必死の表情で那月に詰め寄って来たのを持っていた扇子で叩いた。

 

「灰原達やアルティギアの王女達は無事だが…。

灰原 神太郎は王女達を逃がす為に一人残ったそうでな。」

 

「神太郎さんが!?」

 

「あぁ…その際、アベルとやらに取り込まれ糧とされたそうだ。しかも生存の可能性は限りなくゼロだと。」

 

「ッ!!…ウソ、だろ。死んだって、事か?…神太郎さんが……。」

 

「………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、倒壊したガレージの地下ラボ。

 

「うわああぁぁぁぁん!!!こんなの!、こんなのあんまりよぉぉぉぉッ!!!」

 

 

アベルが襲撃時に暴れた所為で、ラボ内の機材やガレージに置かれていたマシン等が破壊されてしまっている。膝を着いて泣き叫ぶ夕張の目の前に、開発に関わったライドブースターの無残な姿があった。

 

「夕張…気持ちは分かるが作業に専念してくれ。

上に居る南宮教諭が抑えてくれてるとは言え長くは無いし…ショックを受けてるのはお前だけでは無い。」

 

この場を指揮する立場の長門が夕張を宥めながら辺りを見渡す。

 

見るも無残に荒らされたラボの中で、まだ使える物や保管庫から運び出す作業を悠から与えられた艦娘達だが、皆曇った表情のまま無言で手を動かしていた。

 

艦娘達にとってどん底の運命から助けてくれたのが悠ならば、生きる理由を与えてくれたのが神太郎。そんな恩人が死んだとなった報せを受けてショックを受けない者などいない。

かくいう長門も神太郎の知らせを聞いた時は眩暈がするほどショックを受けたが、指揮する立場から自分も浮かない顔であれこれ指示を出すわけにはいかない。今は心の心情をなるべく表に出さないよう平然と構えている彼女の元に、大淀が話しかける。

 

「長門さん。ラボのダメージチェックの確認終了しました。」

 

「あぁご苦労。で、どうだった?」

 

「はい。上のガレージに置かれていたマシン、ラボに置いてたライドブースター2台共に全て大破。

ラボの機材は端末9台。サーバー5台が機能停止。データは大半が消し飛んで、僅かに残ったデータは明石が回収中です。

保管庫に置かれてるG4-Xのアーマー、トイボックス、その他無事なアイテムは列車に積んでいます。

天上に開いた穴は、シフトカー達が塞いでくれています。」

 

「うむ。ドッグの方はどうだった?」

 

「えぇ。保管庫より更に下に造りましたからどうにか無事でした。」

 

「そうか…だが、こうして襲撃されたとなると、もう此処は使えない。当初の指示通り、駆動核のコアドライピアを回収したら天上の穴を塞いで引き上げよう。」

 

「了解です……まさか、こんな事になるなんて、思いもよりませんでした。」

 

「私もだ。と、言いたい所だが、今我々がやっているのは戦争だ。もしかしなくともこんな時が何時来ても、可笑しくは無い状況なんだと、恥ずかしながら改めて思い知らされたよ…。」

 

「…悠さん達、大丈夫ですかね。」

 

「…少なくとも、こうして我々に指示を出すだけの冷静はあるだろうが、…近くにいながら救えなかった事と、彼は我々よりあの方と付き合いが長い分相当傷付いてる…今はそっとしておくべきだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠達ライダーズは今、蓮司が住み付いている日本家屋風の家に居た。

 

畳の敷かれている居間に悠を除いた4人が集まっている。浮かない顔で誰一人言葉を発さず重い空気が流れているなか、襖を開いて悠が姿を現した。

 

悠は廊下でクリムと連絡を取っており、那月の元に保護を頼んだラ・フォリア達の元に古城と雪菜が訪れたという報せを聞いた後、神太郎の事を伝えた。今頃ラ・フォリア達もクリムから神太郎がアベルに取り込まれた事を聞かされているであろう。

 

「…未だに信じられないわ。神太郎さんが……死んだなんて。」

 

「…どうにもなるまい。オレ達がやってるのは戦争だ…この中の誰が死んでも可笑しくない立場に居るんだ。ゲンムも例外ではない…。」

 

「それでも、イヤだよ…誰かが死んじゃうのは…。」

 

「クッソ!アベルの野郎ぜってぇ許さねぇ!!おやっさんの敵ぜってぇ取ってやる!!」

 

「落ち着け…一筋縄じゃいかないのは、さっきイヤでも思い知らされただろ。」

 

「ッ!!…。」

 

「だろうな、変身しないであの強さだ。今のアベルは、ゲムデウス以上の力を持ってると見て間違いない筈だ。」

 

「あぁ……一先ずお前等は休んでろ。俺は向こうの様子と王女達の方に行って来る。」

 

「ちょっと、大丈夫なの?」

 

「…何に対しての大丈夫だ?」

 

「あ…いや、その……ごめんなさい。」

 

「…いや、コッチこそ悪い。

アジトが無くなった以上ゆっくりできん…俺なら、大丈夫だ…。」

 

そう言い残し悠は居間から出て行った。去って行く悠の背中を見送って4人は悲痛な表情を浮かべる。

 

「馬鹿め、分かりやすい嘘をつきおって。」

 

「神太郎さんが死んで一番傷付いてるのは、灰原君なのにね。」

 

「ユウ、大丈夫かな…?」

 

「………。」

 

「オレ達に出来る事は無い。そっとしておくのが一番だ。

部屋は好きに使え。オレも少し、一人になりたい。」

 

続けて居間から蓮司が退出し、残ったのは秋、ハルナ、ウラナの三人は悠に言われた通り今は体を休めることに専念した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蓮司の家から一人外に出た悠は、バイクでは無く徒歩で灰原宅へ向かっていた。

 

下を向きながら歩く悠の脳裏に浮かぶのは、神太郎がアベルに取り込まれた際に最後に見せた顔。

 

神太郎自身取り込まれたら最後消えてしまうのは分かっていた筈なのに、助けようと走って来る悠達に見せたのは、消えることに対しての恐れでも、救い求める目でも無かった。

 

とてもこれから死ぬとは思えない程穏やかな笑顔。親が我が子へ向ける様な親愛の籠った笑みを向けて消えた神太郎の姿がイヤでも浮かんでくる。

 

悠は何故神太郎が最後にあの顔を向けて来たのが心底理解出来ずにいたまま歩いていた所に、背後から近づいて来る複数の気配を感じ足を止めた。

 

「今が狙い時、って思ってるなら大きな間違いだぞ…俺は今、無性に暴れたくて堪らないんだ。」

 

後ろを振り向くと其処に居たのはBABELの仮面ライダー達。クロノス、ソーサラー、コーカサスの三人。

 

間髪入れず襲撃してくる敵の行動力にうんざりしながらも既にやる気である悠はディケイドライバーを装着して変身しようとした所で、ソーサラーが一歩前に出て両手を上げてきた。

 

「?…なんだ?」

 

「…お気持ちはお察ししますが、我々に戦闘の意志はありません。ですからどうか話を聞いて貰えませんか?」

 

「ッ!…お前、正気に戻ったのか。」

 

「えぇ。ドクターのお陰で。」

 

驚く悠の前で変身を解く三人。

 

アベルに操られ意思の無い人形と化していたソーサラー、史汪 真とコーカサス、黒咲 一心とそっぽを向く番堂 天治の姿になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって近くの公園に移った悠とBABELの3人。

 

「リセット?」

 

「えぇ。ドクター…いや、天治君の新しい力で我々二人は正気に戻りました。」

 

史汪が言うには、ロイミュードでもある番堂がエグゼイドことハルナに負けた悔しさから超進化に至り、それがガシャットにも影響を及ぼし、”起こり得た事象を巻き戻す”というリセットの能力で史汪と黒咲の洗脳を掛けられる前に巻き戻したというのだ。

 

「クロノスにそんな力が…。」

 

「元々クロノスは、我々をアベルから解放する為に創ってくれたモノだそうです。天治君がいなければ、我々はずっと操られるだけの人形になる所でした…。」

 

「もうホント天ちゃんには感謝だわ~!

普段はツンとしてるのに、その実は思ってた以上に仲間想いのイイ男なんて、ホレちゃいそ♪」

 

「えぇい止めろ!抱き着くな!!キスしようとするな!!」

 

 

「…お騒がせしてすみません。」

 

「いや良いよ。コッチも似たような感じだから…で?話って。」

 

「えぇ。率直に申し上げますと…あなた方仮面ライダー達と我々BABELとの、停戦を申し込みたい。」

 

「何だと?」

 

「それで我々が手を組み───アベルを倒す。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







ゼロワンの真エンディングは劇場版まで持ち越しかぁ…。まさか真のラスボスがあの有名俳優とは…。



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