その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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「前回のあらすじ。
青葉の頼みを聞いて過去の仕事の話をした俺こと灰原 悠。その際に、俺は思い出す。
まだまだ若くケツの青かった俺の…オレの復讐劇。」



覚醒

”事実は小説より奇なり”

 

という言葉は誰が言った言葉だが知らないが、これを口にしたヤツは今の俺に起きた出来事なぞ、誰も想像出来ないだろう。

 

当然俺もこれっぽっちも考えた事無かった。そう、文字通り生まれてから死ぬまでだ…。

 

大事な人を守り切れず、無駄死にした時だって、ああなるなんてな…。

 

 

 

 

 

 

───

 

──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───……?」

 

目を開けるとまず最初に映ったのは、白一色の世界。

 

目が覚めた直後の鈍い頭でも直ぐ結論が着く程の異質、いや、異常な空気を肌で感じ取った悠は、仰向けの態勢から起き上がって立ち上がる。

 

再度周囲を見渡すも、目に映るのは白一色。音も匂いもしない異常な世界にただ一人立っている中悠は何故自分がここに居るのか、ココに来るまでの記憶を遡る事にした。そうでもしないと、この異常な空気に耐え切れず気が狂いそうだからだ。

 

 

(オレは、確か……そうだ、あの時…ッ!!)

 

その時大事な事を思い出す。

 

 

炎に包まれる帰る家。

 

血を流し冷たくなっていく恩師。

 

炎の中に呑まれていく兄弟達。そして…。

 

 

 

「ッ!──カナァッ!!お前も居るのかカナァ!!オォイッ!!」

 

悠は叫んだ。彼にとって愛する人の名を。自分がこうして無事でいるなら、彼女も…。

 

 

「──残念だが、彼女の魂はここに居ないよ。」

 

「ッ!」

 

その思いをあっさりと打ち砕いたのは背後に立っていた一人の男。

 

先程まで自分以外誰も居なかった筈。突然現れた謎の男の正体より、悠は男が口にした言葉が気にかかり思わず聞き返す。

 

「どういう意味だ…魂って、一体…。」

 

「その答えを、キミはもう知ってる筈だ。

キミは死んで、肉体を失い、魂だけの存在となってこの狭間の世界に居る。その証拠に、お腹の傷が無くなってるだろう?」

 

「ッ!」

 

男に言われて悠は腹部に手を当てる。

 

飛来して来た剣によって貫かれた右わき腹。悠が死んだ原因となった傷が無くなっている。

 

そして嫌でも浮かんでくる。自身の腹を貫いた剣が、そのまま庇った彼女に刺さったビジョンが。

 

「ッ……じゃあやっぱり、オレはあの時…ッ!」

 

「そう。正確には、殺されたんだけどね。」

 

「殺された…アイツ等もか?」

 

「………。」

 

「なんでだよ……なんでッ、アイツ等が!あんな死に方…ッ!

シスターもッ!カナもッ!…なんでぇ!!」

 

「………。」

 

膝を着く悠の悲痛な叫び。

 

大事なヒト達を失った事に対する喪失、何一つ守れなかったことに対する無力、そして、成す術無く全て奪われた事に対する怒り。

 

暫くの間を開けて頃合いを見計らってた男は、悠に本題を切り出した。

 

「キミとご家族に対しては、お悔やみ申し上げるよ。それと…そろそろ本題を言ってもいいかな?キミの今後に対しての重大な話があるんだ。」

 

「…あんた、誰なんだ。」

 

「私かい?私はそうだなぁ…世界の秩序を守る者。とでも言っとこう。

…まぁ、ありきたりに言えば神サマとだけ。」

 

「神サマ?…アンタが?」

 

「あ、信用してない目だね。んまぁ神サマと言っても役職みたいなものだよ。要は肩書き。」

 

「…で、オレに何の用だよカミサマとやら。アンタの有難いお言葉を聞く程、オレは信奉者じゃねぇんだ…。」

 

「…キミ達を殺した男について。」

 

「ッ!───ッ!!」

 

「おぉっと!?」

 

男が放った言葉にいち早く反応示した悠は、立ち上がって男の胸倉を掴んだ。憎悪の眼差しを向けて。

 

「知ってるのか!…あの男について!!アイツを!!」

 

「知ってる!全部知ってる全て話すから!!…まま、とりあえず座って落ち着いて話そ?ささ、ホラ。」

 

「ッ!?」

 

最早血走った目で問い詰める悠に対し、男は宥めながら手を叩くと何処からか突然現れた椅子二つに目を見開かせる悠。

 

男は黒スーツの襟元を直しながら椅子に腰かける。手で悠に座るよう勧める男に、悠は鋭い視線を刺したまま椅子に座った。

 

「さて、これから話す事はキミの常識を遥かに超える内容で受け入れがたいと思うが、全て事実だという事をどうか受け入れて欲しい。」

 

「……。」

 

「…うん。沈黙は肯定って事でイイね。ならば話そう。キミと家族を殺した、転生者と言う存在について──。」

 

 

そして悠は、男の口から出てきた言葉を黙って聞いていたが、その内容は男が言った様に悠の常識を全て覆す程に予想を大きく超えていた。

 

 

 

転生者…死の運命よりも早く死した人間が、神の罪滅ぼしによって本来一度しかない人生をもう一度与えられた者。

 

その際転生者達は特典と呼ばれる力を神から授かる。その力は望む望まないに限らず強大が故に、彼等の欲望力に振り回される形で暴走するのが多い。今回の悠を襲った転生者の様に。

 

近年そのような転生者が段々と増え、幾多にある平行世界のバランスが乱れると目の前にいる男が住む天界と言う世界にも悪影響が及んでしまい、もしその時が来たらバランスを乱してる世界を止む無く消してしまう必要があるのだと。

 

悠達を殺した男の話を聞く筈だったが、何時の間にか世界規模の話しにまで大きくなっている事に、悠は頭を抱えだした。

次々と耳に入って来る言葉を整理しようにも、話の規模があまりにデカくて軽く眩暈を起こしていた。

 

 

 

 

「…やっぱり、理解出来ないかな?」

 

「……信じられない。て、言いたいけど。アレを間近に見た後じゃ、な……。」

 

男がそっと気遣う中、悠が思い浮かばせるのは殺された場面。男の背後に浮かぶ金色の波紋から、剣がミサイルの如く放たれるという非現実的な光景も、男が話してくれた特典というのなら納得がいく。

 

粗方の整理がついた所で、悠は男に質問を投げる。

 

「何故、オレにこんな話を?あの男の話はともかく、そこまで教える必要は無いと思うんだが?」

 

「これから話す本題について前以って知ってもらう必要があったからだよ。キミがココに、私とこうして面と向き合って話すほど、重要なね。」

 

男が真剣味を帯びた声と眼差しを悠に向ける。その気迫に一瞬呑まれそうになったが、気を取り直して構える悠を見て、男は本題を切り出した。

 

「我々は幾多ある世界に対し余計な干渉は出来ない。例え悪影響を及ぼしてる転生者がいたとしてもだ。

だから我々の変わりに彼等を世界から抹消してくれる存在が必要なんだ。

故に灰原 悠君。我々はキミをスカウトしたい。世界のバランスを保つ、イレイザー<抹消者>として。」

 

「…どんなのが来るかと思えば…ようはアンタ等にとって都合の良い殺し屋になれ、って事だろ?」

 

「……。」

 

「…一つ、聞かせろ。」

 

「どうぞ。答えられる範囲であれば、だけど。」

 

 

俯かせてた顔を上げた、悠の目には…。

 

「そのイレイザー、ってのになれば……オレを殺したアイツも殺せるんだよな?…。」

 

 

 

揺るぎない、確固たる決意を帯びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あ、いたいた~。おーいカイン~。」

 

「ハァ…その呼び名、認めた覚えはないんだが?」

 

悠と対談し数日後。

 

悠をイレイザーへスカウトした男の元にやって来たのは、髪の色を除いて男と瓜二つの男。

 

自身の事をカインと呼ばれる事に良しと思って無いのか眉を顰める男ことカインに対し、瓜二つの男は不敵な笑みを浮かべるだけだった。

 

「イイじゃんイイじゃん♪ボク達って決まった名前は特に無いんだし、呼称ぐらい自分で決めたってさ。だからボクの事も、アベルって呼んでよ♪」

 

「その名前の由来をちゃんと理解してるのか?…ハァ、もういいよ。

で?一体何しに来たんだ?」

 

「何って決まってるだろ?彼の様子、見に来たんだよ♪で、どうなの今の所?」

 

「…ん?」

 

「ん~?どれどれ……うっわぁ。」

 

カインから手渡されたタブレット端末らしきモノを受け取って、アベルは声に出す位引いた。どうやら想像していたよりも悲惨な映像が流れているようだ。

 

「…ちなみにコレ、どん位やってんの?」

 

「スカウトした直後、日時換算だと12日と15時間47分17秒だ。」

 

「…何回死んだ?」

 

「99回…あ、今100回目だ。

いくら肉体を失って魂だけの存在になったとはいえ、ここまでやるのは異常過ぎる。」

 

「ふぅ~ん……フフ、やっぱり人間って面白いよね♪

イレイザーになる為の試験も兼ねての訓練でボク達を驚かせるなんてさ!」

 

「……。」

 

「アレ?浮かない顔だね。

もしかしてまだ反対だったりするのかな?キミは。」

 

「…正直言ってな。お前が考案したイレイザー計画。アレは今の転生者による問題を拭うのには画期的な案だと思ってる…だがそれと同じ位に不安なんだよ。」

 

「へぇ?」

 

「見たまえよ彼を。今の彼は復讐する一心で文字通り死に物狂いになっている。

復讐を果たしたとして、彼はイレイザーとして戦ってくれるのか。または感情に捕らわれ過ぎて、返り討ちに遭うかもしれない。」

 

「その辺の説明はちゃんとしたんだろ?で、彼はそれを全部承諾した。

なら万が一何かあったって、それは彼の自己責任って事にしちゃえばイイじゃん。」

 

「だからって存外に扱っていい訳では無いだろう!

幾ら特異体質の持ち主だからって、元々彼には我々の抱える問題に関わらせるべき人間じゃない!我々の所為で出てしまった被害者だ!

…そんな彼に、これから過酷な試練を与えるだなんて…。」

 

「……相変わらず人が良いねぇカインは…でも、当の彼は、そんなキミの気持ちなんて全然気にしてないぜ?ホラ。」

 

「?───ッ!」

 

アベルが指を指している方へ振り返ると、カインは目を見開く程に驚く。

 

そこには試験という名の訓練を受けてる筈の悠がボロボロの姿でいたからだ。恰好だけでなく、痛々しい生傷が体中にあるも、向けている力強い目はイレイザーになると告げた時と変わらずであった。

 

「き、キミがココに居るという事は、まさか…。」

 

「あぁ。死闘・100人組手だっけ?…全部倒した。」

 

(まさか…!

いくらケンカ慣れしてるとは言え、用意した100人の兵士を二週間足らずで…!?

メンタルケアを除いたとして早くとも1ヶ月は掛かると予想していたのを、彼は…。)

 

カインが与えた試練は、様々な武器を持った兵士100人が一斉に襲い掛かって来るのを倒していくという、無理難題な試練。

元々戦いとは無縁の生活を過ごしていた悠に、戦い方と、痛み、そして死と直面する恐怖心。戦うに辺りこれらを身に覚えさせるのが目的の試練を乗り越えて貰わなければイレイザーとして認められないと言ってやらせたが、その結果が余りにも予想を大きく超えた。

 

天界と言うある意味何でも有りな世界の為、死んでも蘇るよう設定されてある。でもだからといって死に対する恐怖心を植え付けられながらも、この様な最速記録を叩き出した悠はカインから見て異常としか見られないのだ。

 

(コレも全て、彼の復讐心から生んだ賜物なのか?)

 

「オイ…。」

 

「ッ!…あ、あぁすまない。

よく頑張ったね、まさかこんなにも早くクリアするとは…取り敢えず怪我の治療を。あと、メンタルケアも…。」

 

「治療だけで良い…それよりも、コレでオレはイレイザーって事で認めて貰えるんだろ?

…オレをヤツの所に行かせろ。」

 

「なッ!?」

 

悠が発した言葉に、カインは再度言葉を失った。100人も相手にして心身共に消耗しきってるのは明らかであるにも関わらず、早速イレイザーとして戦わせろと言う悠の発言に、カインは流石に言葉を荒げて返した。

 

「馬鹿を言うな!そんな状態のキミを行かせる訳にはいかないだろう!!

それにキミに与える特典だってまだ決まっていないんだぞ!」

 

「何だっていい!戦えるならッ…ヤツを殺せるための力なら何だって!───ッ!」

 

「お、おい!?何を…ッ!?」

 

突然足早に動いた悠に戸惑うカイン。

カインの背後にはアベルが居た筈だが、アベルの姿は無かった。そして変わりにあったのは、小さなテーブルに置かれたアタッシュケース。

 

ケースに目を付けた悠は何の躊躇も無くケースを開けた。ケースの中には、一本のUSBメモリと片側にメモリを刺すスロットが着いたベルトのバックル。

 

悠はケースの中身に入ってるメモリとバックルを知っていた。生前施設の子供達の為になけなしの金を使ってレンタルした特撮映画に出ていたあるダークヒーローの使うアイテム。一緒に見ていたから使い方も知っている悠は、メモリとバックルを手に取った。

 

「ッ!?…なんでソレがココにあるんだ!?」

 

「……コレで良い。コイツを使わせて貰う。」

 

「な…ダメだそれは…!──ッ!?」

 

「ッ!───野郎ッ!」

 

メモリとバックルを手にした悠にカインは待ったを掛けようとするが、突如として二人の間に灰色のオーロラカーテンが出現する。

 

悠はオーロラの先に何かを見つけたのか、地を蹴って駆け出しオーロラを潜っていった。悠の後にオーロラが消え、突然の事が起きて唖然と立ち尽くすカインの耳に足音が聞こえて来る。

 

「アハハ♪行っちゃったねぇ彼。」

 

「ッ!やはり貴様の仕業か!」

 

カインは元凶であろうアベルに掴みかかり、真意を聞き出そうとした。そしてアベルは何の悪びれる様子も無く淡々と答える。

 

「いやねぇ、遅かれ早かれどの道行かせるんだし、本人の意思も尊重しての行動だよ。うん。」

 

「ッ…それについては百歩譲って良いとしてもッ、何でよりによってアレを渡したんだ!!」

 

「ハハハ、彼の身の上についてさ。

貧しかったが故に、漫画やアニメも殆ど知らない彼が唯一見ていたのがアレのシリーズものだったからねぇ。

全く知らない力より、知ってるヤツの方が良いだろ?」

 

「だからといって何でアレを…!あのアイテムの問題についてはお前だって当然知っていた筈だ!」

 

「だってぇ~、すぐ用意できるのがアレしかなかったんだもん。

まぁそんな気難しく考えなくても、コレも一種の試験だと思えばいいじゃないか!…彼が、灰原 悠という人間が我々の求める人材に相応しいかどうか、ってね♪」

 

「ッ!───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーロラを超えた先に待ち構えていたのは、一種の地獄だった。

 

夜の港で潮風と共に鼻につく血の匂い。目が次第に闇に慣れて見えて来たのは、夥しい死体。

 

そしてその中心地に立っているのが、悠と、彼にとって大事な家族を奪った怨敵がいた。

 

「見付けた……見付けたぞッ!!」

 

「あ?…」

 

沸き上がっていく感情のままに男の元へ向かって行く悠。悠に気付いた男はボロボロの装いの悠に対し、怪訝な顔を向ける。

 

「…誰だお前?」

 

「ッ!…忘れたって言うのかッ!あの夜の事を!!」

 

「あの夜?どの夜の事だよ?……あぁアレか?お前の女寝取ったってヤツか?あー、捨てられちまったからそんなボロっちぃ格好なのか!アッハッハッハッハ!!」

 

「ッ!───ふッ、ざけるなぁ!!」

 

悠の事など最早記憶にすら無い男の態度に対し、怒りが頂点に達した悠は持って来たバックルを腰に当てると腹部に巻き付きベルトなる。

 

そしてメモリのスイッチを押し起動させると、ベルトへと挿し込むとスロットを倒した。

 

 

<< E,ee〇◇/Na※◇l >>

 

「ッ!───グゥッ!?」

 

スロットを倒した直後、ノイズが奔るバグ音がベルトから発せられた後悠の姿が変わった。

白いボディスーツと無機質なアーマーに身を包み、頭部の黄色い複眼、赤い炎のエンブレムが描かれた手足の姿になると、スーツ越しに傷ついた体に奔る電流の痛みに襲われる。

 

自身の変わり果てた姿を見て、悠は戸惑いを隠せなかった。本当なら今自分が目にしてる手足の炎の色は、赤では無く青い炎だから。

 

「なんでッ、どういう事だよ、コレ…ッ!」

 

「変わった?…お前も転生者か!なら、さっさと殺しとかなきゃなぁ!!」

 

姿が変わった悠に対して、自身と同じ転生者だと悟った男は、背後に現れた金色の波紋から剣や槍をを悠へと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の天界では、カインがタブレット端末で悠の様子を見守りつつ、アベルは手にした資料に書かれてる事を読み上げる様に口に出していた。

 

「転生者・金木 秀夫。与えられた特典は”王の財宝”。

転生を果たしてからは特典を使っての強盗、無差別殺害、強姦多数…対象とするには十分な犯歴だねぇ。

んでどうよ?彼の様子は。」

 

「…変身は出来てるが、適合数値が低い。

元々オリジナルと同等に創ったあのメモリは、特に持ち主を選ぶワガママなメモリだから彼に与える特典の候補から外したというのに貴様は…!」

 

「まぁまぁ!過ぎた事を怒ったって得する事無いじゃん?…で、そのてきごうすうち、ってどん位なのよ?」

 

「…32.9%だ。これでは返り討ちに合うのが目に見えてる!……やはりここは強制的に連れ戻すしか…!」

 

「おっと、それはボク等にとってのルール違反だぜカイン。

お前がやらかしたら、ボクまで連帯責任負わされるんだから。」

 

「だが…!」

 

「そう心配するなよ。案外また驚かせてくれるかもよ?それに…。」

 

「?それに、なんだ?」

 

「…いや、何でも。あ、ホラ今彼がマトリックスみたいに避けてたぞ!」

 

「えぇ!?」

 

アベルに言われて慌てて視線を戻したカイン。

 

その背後から、アベルが向ける視線に秘められた思惑に気付く事なく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ハァ、ハァ、ハァ…ッ!ウォッ!!」

 

「ブッハッハッハッハ!!オイオイどうしたァ?逃げてばっかかぁ!?あぁん?」

 

「クソッ!…なんで思い通りに動いてくれない…!?」

 

迫り来る剣や槍から逃れ、港に置いてあるコンテナの物陰に隠れる悠。

 

未だ電流が流れてる手を見る。姿が変わってから体に重りを巻きつけられてるかのように鈍くなり、ココに来る前の訓練で元々消耗しきってるのも合わさって反撃に転ずる事も出来ない。

 

一方的に追いやられてるこの現状に、悠は歯がゆい思いで一杯だった。

 

ここまで来て、こんな情けないザマになるなんて…その思いが仇となったのか、隠れてるコンテナを囲んでいる切っ先に気付けずにいた。

 

「見ィ~付けたァ!!真っ白野郎!!」

 

「ッ!───グァァッ!!」

 

一斉に降りかかって来る刀剣の嵐にコンテナごと吹き飛ばされる悠。

 

倒れる悠に対し尚も降って来る剣と槍の雨。辛うじてスーツの耐久性によりその身が切り刻まれる事は無かったが、蓄積されるダメージにスーツも悠自身も限界を超え、遂にスーツが強制的に解除されてしまった。

 

「ガッ…!」

 

「んん?…あれって確か……あ~!思い出した!お前あん時のか!」

 

倒れる悠を見て金木はその時の光景が思い出す鍵となったのか、倒れながらも憎悪の目で睨みつけて来る悠の事を思い出した。今目の前で倒れてる男が、殺してきた人間達の内の一人だという事に。

 

そして完全に思い出した金木は、余りの滑稽さに盛大に笑った。何故あれほど可笑しいのか悠には分からないが、悠にとってその笑い声が物凄く不快に聞こえた。

 

「何が可笑しい…!」

 

「えぇ?何が可笑しい、って…だってオレが殺したヤツが!あんな傑作な死に方したヤツが転生者になってまた殺されに来たんだぜ!?

これで笑うなって言う方が可笑しいぜ!」

 

「ッ…!」

 

何も言い返せなかった。

 

殺された仕返しを、カナやシスター、兄弟達の敵を討つ一心で戦いに身を投じる覚悟を決めたというのに…。

 

こうして無様に倒れている自分が嫌でも金木の言ってる事が正しいと言わざるを得ない事に何も言い返せず、睨みつけていた眼を下げる事しか出来なかった。

 

「にしても勿体ねぇよなあお前。折角転生さして貰えて、好き勝手出来るチャンスをこんな形で棒に振るうなんて!

あ、でもあんなダッセェのじゃあ元々無理か!」

 

「何だと…?お前のやってる事が正しいと言うのか!?オレを殺しただけでなくッ、アイツ等を殺した事が!!」

 

「そういうモンだろ?転生者っていうのはよぉ!じゃなきゃこ~んな力くれねぇって!

誰もオレを止める事なんて出来ない!前の人生じゃ絶対手に入れられなかった快感だ!!分かるか?オレは人生の勝ち組なんだよ!!」

 

「なんだよそれ……力があれば何したっていいってか?……女子供何人死のうが、転生者だからって理由で許されるのかよ…!」

 

「聞き分けが悪い奴だなぁ、お前だって聞いた事あんだろ?

勝てば官軍、負ければ賊軍。勝ったもんが正義なんだよ!」

 

「………。」

 

不快な笑い声を耳にしながらも、頭の中は悠は金木の主張について一杯だった。

 

 

転生者はみんなこうなのか?特典って言う力がコイツ等を歪めているのか?

 

なら…今のオレもこいつ等と同類なのか?

 

力を使って、復讐を果たそうとするオレとアイツ…何が違うんだ?

 

オレが復讐を果たしたとして、その後は?オレは、何を目的に戦えばいいんだ?

 

オレは……オレは……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーお前だけのヒーローになって、ずっと守ってやるよ…ー

 

 

ー…アタシだけのヒーローだけじゃなくて、出来るだけ皆のヒーローに成ってあげてー

 

 

 

 

 

 

 

「………。」

 

「さぁ~てそれじゃあそろそろ…「待てよ…。」…あ?」

 

金木がトドメを刺そうと波紋から剣を取り出した直後、悠が言葉と同時に膝を着きながらも立ち上がって来た。

 

「…感謝するよ。アンタのお陰でやっと…決心がついたよ。」

 

「はぁ?」

 

「一刻の感情で自分を見失う所だった…どんだけ言い繕っても、所詮やってる事はアンタと同じだ。

だから…。」

 

語りながら悠は落ちていたメモリ、ガイアメモリの中で頂点に立つと言われた永遠の記憶を宿す、エターナルメモリを手に取った。

 

「オレも!…俺も好き勝手やらせて貰うよ!

お前等みたいな好き勝手やらかしてる転生者共を、一人残らずぶっ殺す!!

どれだけ強い力持ってようが、例え正義が相手だろうが!俺は悪にでも外道にでもなってやる!…俺や、アイツ等みたいなのを増やさない為にも…。」

 

 

果たせなかった約束。失ったからこそ見えてきた道に一歩踏み出す為に。

 

 

「戦ってやるよ…お前等一人残さず、この身が朽ち果てるまで……

 

 

 

 

 

 

永遠に、な。」

 

 

「さっきからゴチャゴチャうっせぇ!!とっとと死ねぇ!!」

 

悠に向けて放たれた大剣。前と同じように串刺しにしてやろうと放たれた剣を前に、悠は鼓動するかのように光を放つメモリを前に翳した。

 

 

<< ETERNAL >>

 

「───変身」

 

スロットに挿し倒したと同時に大剣が直撃。

 

ミサイルの着弾の様に爆発した大剣は悠を瞬く間に火の海に包み、金木は悠の死を確信した。

 

「…ハッ!ベラベラと語ってザマァねぇ……?」

 

悠の死を確信した金木だったが、広がっていく炎が渦巻いて竜巻となると、赤い炎が段々と色を変え、青くなっていく。

 

そしてその炎の中には姿を変えた悠が立っていたが、変化はソレだけに終わらない。

 

青い炎に包まれながら手足のエンブレムが赤から青へ。胸部、右腕、左足に着けられた計24個のスロット。そして首元に巻き付いた黒いローブが風に靡いた。

 

黄色く光る複眼が金木を睨む。睨まれた金木の背筋に悪寒が奔った。

 

目の前に佇む存在が、先程と比べて明らかに違うと。

 

「な…何だよソレ?…何なんだよお前は!」

 

「…エターナル。ただのエターナルだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な…何だコレは!?」

 

そして天界の方でも悠の変身に驚く者がいた。

 

「適合数値、98.7%!?

馬鹿な!あのメモリで、こんな数値が出るなんて…!」

 

「フフッ…ハハハハハ!どうだよカイン?ボクの見立ては間違ってなかったろう?」

 

「お前…最初からこうなるのを分かって、彼にあのメモリを?」

 

「フフン♪さぁどうだろうねぇ~?

ホラ、彼の快進撃が始まるよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふん!所詮飾りが付いただけだろうがぁぁッ!!」

 

金木は一瞬だけエターナルに怖気づくも、波紋から次々と剣や槍を放つ。

 

向かって来る剣や槍を前に、エターナルは地面を蹴って駆けた。さっきまでとは段違いの動きで回避しながら距離を詰めていくエターナルは、金木の懐に入り込むと握り締めたその拳を金木に突き出した。

 

「オラァッ!」

 

「ッ!?──ブフォッ!?」

 

金木の顔面目掛けて放った右のストレートは金木の歯をへし折り、その顔の形を歪ませた。

 

殴り飛ばされた金木は顔に奔る激痛に悶え、殴られた箇所に触れると大きく凹んでいたのに気付き、今度は金木が激しい怒りにつのらせた。

 

「テ、テメエェェェェェェッ!!!ホフェノファフォヲォォッ!!フォロス!フッフォフィヒェヒャル!!」

 

「いや…。」

 

頬骨が折れてる所為でまともに喋れない金木だが、何を伝えたいのか分かっているエターナルは、コンバットナイフ型装備、エターナルエッジを手にした。

 

「殺すのはオレだ、そして殺されるのは──お前だ。」

 

<< ETERNAL MAXIMUM DRIVE! >>

 

「ヒィィィヒェェェェェェッ!!!」

 

放たれる刀剣類をエターナルメモリを挿したエッジの斬撃で全て薙ぎ払いながら、怒りで我を失ってる金木に詰め寄っていくと、大きく跳んだ。

 

そしてエターナルメモリから送られたエネルギーが右足に集う。空中で身を捻り、飛んでくる刀剣を躱しながら突き出した右足が金木の胸に突き刺さった。

 

”エターナルレクイエム”──本来はキックを強化する必殺技では無いがこの場、相手に使うのに最も相応しい技を喰らった金木は、キックによって叩き込まれたエネルギーに体が耐え切れず、体の内から爆散して消えていった。

 

地面に降りたエターナルは、先程まで金木が居た場所へ横目を向けて胸の思いを口にした。

 

「流石に地獄じゃ好き勝手出来ねぇだろ…たっぷり反省しろ。」

 

エターナルは聞こえる筈の無い相手に対し言い残した後、変身を解かずその場から跳んだ。

 

 

 

彼にとっての、ケジメを着ける為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エターナルが付いた場所は。かつての我が家だった施設の焼け跡だった。

 

あの日から数日経ったからか、規制線が張られている焼け跡を目にエターナルは変身を解除した。

 

そして目を向けたのは、自分が最後に居た場所。そこに辿り着くと、力が抜けたように膝が地面に着いた。

 

「みんな…敵は取ったよ…シスターは、まぁおっかなく叱るだろうけどさ…。後さ、オレ、変身したんだぜ?仮面ライダーに…でもクウガやファイズとかじゃなくて、エターナルなんだけど…でもスゲェだろ?本当になっちゃったんだよ……。」

 

まるでその場に誰か居るかのように語る悠。だが、次第に口数が減っていき、声が震え出した。

 

 

「……ゴメンなぁ。助けて、やれなくて…約束、守ってッ、やれなくて!…ゴメンッ!…ごめんなさい…!ゴメン……。」

 

遂には蹲って、ひたすら自分の非を謝る悠。

 

 

 

 

彼は気付かない。蹲って謝り続ける彼を囲う子供達が必死に何か伝えようとしているのを。

 

彼は気付かない。震わせる肩に手を置く老婆の存在を。

 

彼は気付かない。泣きじゃくる彼に抱き着いて同じく涙流す少女の存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの夜から数日後。

 

天界へと戻った悠を迎えたカインは、一枚の紙を悠に渡した。

 

それは悠をイレイザーとして認可する一種の証明書。正式にイレイザー認められた悠の上司となったカインは賞賛の言葉を贈った。

 

「おめでとう。コレでキミは晴れてイレイザーとして認められた。これから大変な目に色々と遭うと思うが我々も尽力を尽くしてバックアップを…。」

 

「長い世辞話はどうだっていい…それより。」

 

悠はカインの長くなるであろう話を一蹴し、唖然とするカインに胸張って言った。

 

 

「で?早速何処の誰を殺せばいいんだ?」

 

 

 

 

 

 

 






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