その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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この二週間、色々あり過ぎた…。

ホテルおじさんが実はカラオケおじさんだったり、万丈は人間じゃない説が出て来たり、マスターがスタークに乗っ取られ説出たり。

そして何よりの衝撃が…おいプロフェッサー!あんた本当に悪い大人になってどうすんだよ!!


分断

 

 

ハルナが正式にエグゼイドとして前線に加わる事が決まって数日。

オロチを撃破してからのハルナの生活は一変、本格的なライダーとしての戦闘訓練の日々を過ごしていた。

 

 

…地獄のような日々を今日この日まで…。

 

 

 

 

 

 

「………。」

 

「オイどうしたその顔。まるで死刑宣告受けた囚人みたいだぞ。」

 

「もしかして船が苦手なんですか? 酔い止め飲みます?」

 

「…酔う所か何度も何度も死に掛けたわよ。」

 

ハルナと悠とラ・フォリア(三つ編み、黒縁眼鏡の変装済)が居る場所は港の出航場。そう、今日が修学旅行初日までハルナはみっちり猛特訓を受けていた。楽しみにしていた修学旅行の存在を忘れる位に、必死に。

 

「秋があそこまで強くなった原因がよく分かったわ……そりゃ自然と身に付くわよ、あんな数の暴力と言って良い鬼ごっことか…。」

 

「あー、あれか。最近になって駆逐のガキ共、知らぬ間に数増えてんだよなぁ。建造、だっけ?それで仲間ホイホイ増えてって…。

響のヤツなんかこの前珍しくイキイキと新人紹介してたなぁ。」

 

「あぁ、あのロシア人二人でしょ?私としてはアンタがあの大きい響ちゃんにアイアンクロー決めた場面が印象的だったけど。

ていうか最初に顔合わす娘等に毎回アイアンクロー決めてるのは気のせい?」

 

「そんな事無いぞ。その後来たアメリカのパツキンには、ガンバレってエール言ったし。」

 

「あぁ、あの人ですか。やたら緊張していたのか体振るわせていたんでよく覚えていますよ。」

 

「いやそれ、大の大人を持ち上げるアイアンクローを前に恐れていただけでしょう…。」

 

その後明確な上下関係が築かれ、悠の事を”ボス”と呼ぶようになったとか。

 

出航する時間が刻一刻と迫りそろそろ船へと乗り込もうと地面に置いていた荷物に手を掛けるハルナ。

 

「それじゃあそろそろ行くわね。秋の事よろしくね。」

 

「お前もそうそう何かあるとは思えんが気を付けろよ。

もしヤバいのが来たら即座に連絡だ。いいな?」

 

「楽しんで来て下さいね。 あそこの彼にもよろしく伝えておいてください。」

 

「?…あぁ、彼ね。」

 

ラ・フォリアが見上げた先には一足先に船に乗船した蓮司の姿があった。蓮司は此方と目が合うと、即座に何処かへと去って行った。

 

「相変わらず愛想のねぇ野郎だ事で。

おい桜井、もしアイツに何かされそうだったら遠慮なく言え。俺がある事無い事でっち上げて即有罪モンに立ててやる。」

 

「まぁまぁ、こればかりはハルナの付き合い次第でもありますから。今回はそっとしときましょう。」

 

「あのぉ、ラ・フォリアさん? なんか妙なフレーズに聞こえちゃんですけど気のせい?」

 

「フフ、さぁどうでしょう?」

 

何処か含みのある笑みを浮かべるラ・フォリア。そうこうしてる内に船の出航時間が迫りハルナは慌てて船に乗り込む。

 

動き出した船を静かに見送っていく悠達。途中船のデッキから見知った顔が手を振って来たので此方も手を振り返したり、ラ・フォリアと並んでいる姿に男子からの嫉妬の目線が飛んで来るのを無視したりなどしている間にやがて船は見えなくなった。

 

 

「……。」

 

「やっぱり心配ですか?」

 

「べっつにィ、これは自己責任だし、そこまで気に欠ける必要は無いし。念の為ソーラー達も行かせたし、そうそうアイツ等が動く様な事も起きないだろうし。」

 

「そうですか……何も起こらなければいいですねぇ。」

 

「…そうだなぁ。」

 

 

 

 

「何が起きるって?」

 

「ッ!?」

 

 

突然足音も気配も察知出来ず背後を取られた事に身構えてしまう悠だが、振り返っていたのは腕を組んで悠達を見上げていた担任の那月であった。

 

「なんだ先生か、ビックリさせないでくださいよ。心臓に悪いなぁ。」

 

「あらこれは空隙の、ご無沙汰してます。」

 

「なに、こうすれば滅多に見れない生徒の驚いた表情を拝めるのでな。」

 

「うっわ、趣味悪ィ。」

 

 

「で? 貴様は堂々と学園行事をサボった挙句隣に王女を侍らせお見送りか? 大した根性をしているな。」

 

「まぁその点に関しては前にも言った様に家庭の事情で…。

ていうかそういう先生こそなんでまたここに? 担任だったら普通クラスの引率に行くのが普通じゃあないすか?」

 

「私にも事情があってな。容易に此処を離れる事が出来ないんだ。引率ならロスヴァイセとアスタルテに任せてあるから心配はいらん。」

 

「いや姉さんは分かるけども、あのメイドちゃんにバカ騒ぎする生徒の纏め役って…。」

 

「これも社会勉強だ。

それに近頃未確認のバケモノや仮面ライダーが出現したとの報せも来ている。その対応にも追われてる所為で尚更離れられんのだ。」

 

(それはこっちもだっつうの…。)

 

その片割れが隣で内心愚痴っているという画にラ・フォリアは思わず苦笑いを浮かべてしまう。

船も最早海の向こうへと消えていき此処に居る理由はもう無いので、悠は那月に一言言ってラ・フォリアと共にこの場から去ろうとした。

 

「んじゃ先生、俺等はそろそろこの辺で。」

 

「あぁ。学園に行かない分、ちゃんと課題をやるんだぞ。女遊びもほどほどにな。」

 

「ハーイ…って、俺そこまでふしだらに見えます?」

 

「普段の行い故だ。少なくとも私は女たらしと言う点では暁を超えていると思っているぞ。」

 

「…アハハハ、そりゃないっすよ~…(こんのドチビ、身長もう10cm縮ませたろか…。)」

 

「悠。抑えて抑えて。」

 

声にこそ出してないが考えている事を分かっているかのように宥めるラ・フォリアのお蔭で落ち着いた悠は今度こそその場を後にした。

 

その後ろ姿を那月は横目で追う様に見ながらポツリと溢す様に口から洩れた。

 

「…此処を出れないのを抜きにしても、最大の理由はお前にあるんだぞ、灰原…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──それで?悠はこれから何をするんですか?」

 

「あーー…そうだなぁ…。」

 

ライドチェイサーを走らせながらこれからの日程をラ・フォリアに聞かれ考える悠。

 

修学旅行初日である今日は平日の水曜。二泊三日によって行われる行事を蹴った為に週末を含め五日程時間が出来たのだ。

 

本来ならばラボで整備や開発作業に時間を使うのだが、今では神太郎が占領したとも言える状態で安易な場所とはいえなくなっており、夜な夜なガシャット開発の奇声がラボに響いているというクリムの報告時の声色は若干げんなりしたような感じだった。

 

うーんと首を捻りながらバイクを走らせる悠。那月の出された課題も徹夜で速攻仕上げたのでトレーニング以外何もやる事が無い。

 

なかなか名案が思い付かない悠に、ラ・フォリアが一つの提案を持ち掛ける。

 

「なら、パトロールなんかどうですか?」

 

「パトロール?」

 

「ハイ。デートと言う名のパトロールです♪」

 

「それ思いっきしオタクの願望でしょ……でもそうだなぁ。

息抜きがてら街の様子窺うのもアリっちゃアリかなぁ…。」

 

「満更イヤじゃ無いじゃないですか。なら今日はこのまま二人でぶらりと街巡りしましょう♪…あ、秋とお義父様の夕飯…。」

 

「アイツ等ならどっかで適当に済ますだろから大丈夫だろ。 偶には家事休ませたって文句言うような奴等でもねえし。」

 

「…そうですね!でしたらまずは何処に行きましょうか?」

 

「時間的に少し早いが昼メシでも食いに行くか。今の内に行けばランチタイムの混雑に合わねぇだろ。」

 

「それならこの近くにいいお店があるの聞きましたからそちらにしましょう!魚が美味しいんだそうですよ!」

 

「了解。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フム。コレは想定以上の成果だな…。」

 

ラボに一人、コーヒーを片手に幾つのも端末と向き合う神太郎。

写しだされてる画面にはこれまでガシャットを用いて収集された戦闘データの映像。神太郎はその光景に満足していた。

 

(マイティアクションX、タドルクエスト、バンバンシューティング、爆走バイク、ゲキトツロボッツ、ドレミファビート、ギリギリチャンバラ、ジェットコンバット、シャカリキスポーツ、そしてドラゴナイトハンターZ…。

彼等の戦闘センスはずば抜けて高い事は分かっていたがこの短期間でこれ程までのデータは想像していなかった…。

これなら新ガシャットの開発も近い内に出来上がる。そして…。)

 

神太郎は懐から一つのガシャットを取り出す。

絵柄の無く持ち手が白いそのガシャットを専用機材に挿し込み、データを打ち込んでいく。

 

(このガシャットを完成させるのに必要な死のデータ…リスクは高いが、これさえ手に入れば…!)

 

一心に打ち込む神太郎の手を止めたのはデスクに置かれた携帯からメールの着信音だった。

携帯を手に取り送られたメールを確認する神太郎。文面を読み上げてくと、無意識に強張ってた表情が柔らかくなる。

 

「デートと言う名のパトロールねぇ…。青春だねぇ…”了解!今夜は秋君達連れて焼肉にでも行きます。朝帰りコースなら色々準備してから挑むように!”っと……お、返信早ッ…って、”死ね”は無いでしょう仮にも上司なのに…。

さて…。」

 

僅かな休息を取って神太郎は作業を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──お待たせしました。…?、誰とメールしているんです?」

 

「ん? ゼノヴィア。」

 

昼下がりの公園、ベンチに座ってる悠に自販機で買って来た缶コーヒーを渡すラ・フォリアは携帯でゼノヴィアと連絡を取り合ってる事を聞くと、頬を膨らませ不機嫌である事を示すかのような視線を送る。

 

「私と一緒に居るのに別の女性と仲良くメールですか。」

 

「俺がラブコールするようなヤツに見えるかよ。速い話、向こうの状・況・報・告。

暁が船酔いでグロッキー状態だと……お、ポニテが勇気出して膝枕してるって。」

 

「まぁ!紗矢華ったら大胆に来ましたね。やっぱり雪菜の代わりについてるからでしょうか?」

 

「こりゃ流石の暁も少しは…………いや、無さそうだな。藍葉が混ざった所為で修羅場ってるって。」

 

「アラアラ、古城の周りは何処に行っても慌ただしいみたいですね。

…私達もします?」

 

「…んじゃお言葉に甘えて。」

 

ラ・フォリアに誘われるがまま彼女の膝に頭を乗せる悠。

空けた缶コーヒーを口にしつつ白い雲が浮かぶ青い空を眺めつつ心地いい陽のぬくもりと風を感じていた。

 

「………平和だねぇ。」

 

「そうですね。こうしてゆっくりとした時間を過ごすのは久しぶりですね。」

 

「あぁ。反って怖い位に平穏だ…。」

 

「フフ、それだと戦いの日々が落ち着くって聞こえますよ?」

 

「ただの比喩ですよ。俺だって好きで戦ってるわけじゃ無いし。むしろ何時でもこうしてのんびり過ごしたいのが本音だよ。」

 

「それは私と一緒に、ですか?」

 

「…答えに困るね。分かってって言ってる?」

 

「私は全然問題ありませんよ?ゼノヴィアや一子もその辺り分かって未だアナタに好意を持っているんですし。」

 

「…そうでもない子だっているさ。」

 

「…凪沙ですか。確かに彼女には、少し受け止めきれない所もあるかもしれませんね。」

 

「あぁ、兄貴の方にどうにかしろって言われちまってるし。俺も早いトコ気持ちの整理つかなきゃいけないってのは承知だけど……中々行動に。」

 

「変な所でヘタレですねアナタは。

何か切っ掛けさえあればあれなんですけど、あんまり不自然なのだと反って気まずいですよねぇ、こういうのは…。」

 

「分かってるならあんま口に出すなよ。コッチは連中相手するより頭抱えてんだからよぉ…。」

 

未だ向き合う決心がつけない悠。どのようにして彼女との溝を埋めるか考えていく悠の元に一本の着信が入った。

 

「睦月? 一体何だってんだ?

はいもしもし?──は?緊急事態?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暁宅、台所。

 

 

「───呼ばれた理由は分かったけどさ…これ、俺呼ぶ必要あった?」

 

 

「だ、だって無理なものは無理にゃしィ!!」

 

「夕立もこんなパーティー嫌っぽい~!!」

 

「急に呼び立ててすみません!!でも無理なんです!!こればかりはお役に立てません!!」

 

 

「お前等…じゃあ姫柊がやれば…。」

 

「何の為に先輩を呼んだと思ってるんですか!?やれたらとっくにやってますよ!!」

 

「お願いします、お兄さん…!」

 

「ゴメンゆーくん!今古城くんが居ないから、頼れるのゆーくんしか居ないの!!」

 

「確かにこれは女性にとってどうしようもないですね…悠、お願いします。」

 

 

「え~…。」

 

 

暁兄妹の住むマンションの一室、そこの台所で悠は丸めた新聞紙を片手に隠れた女性陣に見つめられながら床を注視していた。

 

早い話が兄の古城が居ない部屋で一人過ごす凪沙の為に夕立が提案したお泊り会を開いていざ夕飯の支度をしようとした際に台所で女性が最も嫌悪する黒いアレが出た為に、睦月がパニック状態で悠にSOSを出したという事であった。

 

数々の転生者を相手してきた自分がまさか害虫退治に呼ばれるとは。思いも寄らない始末仕事をやらされてる反面久々に凪沙とまともに話せたと少し喜んでしまいながらも、床を這って動き回るソイツを視界に捕えた瞬間手にした新聞紙を素早く床に叩き付けた。

 

「…よし。おーいやったぞー、ご覧の通りゴキブ…。」

 

「見せないで下さい!!捨てて!!そのまま捨ててぇ!!」

 

「そこにビニールあるから新聞紙丸めて中に入れて縛ってゴミ箱に入れて!!!」

 

「…りょーかーい…あと床も掃除した方がイイ?」

 

「「「「「「「お願いします っぽい!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───っと、ホイ掃除終わりましたよっと。」

 

「あ、ありがとうゆーくん…。」

 

台所の床掃除を終えた悠はリビングに集って寛いでいる女性人達の元へ。

 

「ったくまさか害虫一匹に駆り出されるとは…お前等何の為にいるのよ。そこらの雑魚より楽勝だろうに。」

 

「無理にゃしぃ!!アレだけは…アレだけはLv100になってもダメなのぉ!!」

 

「悠さんは怖いモノ知らずだからそんな事言えるんです!!もっと女の子の気持ちを考えてください!!」

 

「ぽーーいッ!!」

 

 

「失礼な。どこぞの朴念仁よりか察せるし、俺にだって怖いモノの一つや二つある。」

 

「ぽい~?……女の人?」

 

「……いや、それは怖いより苦手、っていう認識かな?」

 

「それ一緒じゃないっぽいの~?」

 

「うるさいよ。」

 

弾力のある頬を摘まんで夕立を黙らせる。”ぽいーーーッ!!”と悲鳴が聞こえるが、端から見れば兄妹のじゃれ合いに見える。

 

そんな光景を目にする一同の中に何処か浮かない表情をする凪沙。そんな彼女の様子が気になったのか夏音が声を掛ける。

 

「…凪沙ちゃん、お兄さんと何かあったんですか?」

 

「え?…。」

 

「いや、お兄さんを見て何処か思い詰めたような顔をしていたから何かあったのかと…。」

 

「ッ…い、いやいや!そんな事無いよ!うん!!

あ、いけないそろそろ夕飯の準備しないと!今日は大人数だし腕によりをかけて…あ、食材が無かった!!買い出しに行かないと!!」

 

「それだったら私が行きましょうか?凪沙ちゃんに全部任せるのは申し訳ないので。」

 

「私もその位のお手伝いはしますよ。」

 

「いやいや良いよ!二人はお客さんなんだし、ゆっくり待ってて…。」

 

「それでしたら……悠?」

 

「あ?」

 

「ちょっと夏音と一緒に買い出しに行ってもらえますか?男手も必要でしょうし、女子達だけで行かせるのは危険でしょうから。

良いですよね?夏音。」

 

「ふぇ?……あ、ハイ。大丈夫です。」

 

「じゃあそういう事で行ってらしゃい!」

 

「オ、オイ!」

 

半ば強引に悠と夏音の二人を部屋から出したラ・フォリア。閉じていくドアを前に呆然と立ち尽くす二人。そして手には何時の間にか持たされたエコバックと買い出しのメモが持たされていた。

 

「…取り敢えず、行くか?」

 

「ハイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───さて、これで気兼ねなく話す事が出来ますね。凪沙?」

 

「へ?ラ・フォリアさん?」

 

「此処に夏音が居たら話そうにも話せませんでしたし、なにより悠が居たら尚更ですよね。」

 

「あ、そうか。 夏音ちゃんだけが悠さんの事知っていないんだ。」

 

吹雪がラ・フォリアの突然の行動の理由について気付くなか、凪沙はラ・フォリアの言葉に観念したようにぎこちない苦笑いを浮かべる

 

「…アハハ、そんなに顔に出てました?」

 

「普段の凪沙を知っていれば簡単に分かりますよ。

彼はそんな凪沙を見るたびに苦悩していましたよ。自分の所為であんな顔させてしまったって。」

 

「ゆーくんが…。」

 

凪沙はへたり込むようにソファーに腰を掛ける。顔を俯く彼女の胸にある感情を吐き出す様に口にしだす。彼女の積み重ねてきた、自責の念を。

 

「…違うの。ゆーくんはあの時凪沙を助けてくれただけ……本当に悪いのは…私なんです。」

 

凪沙の脳裏に浮かんでくるのは魔進チェイサーとなった悠の姿。自分は彼が傷つきながらも伸ばしてくれた手を、拒絶した。

 

その時の自分は確実に恐怖対象である魔族と同じ目を彼に向けていた。

その時の彼の顔は仮面によって隠されていたが、伸ばされた手が僅かに震えていたのが今でも覚えている。

 

時間が経って冷静になるにつれ凪沙は自分の仕出かした行為の愚かさに気付いたのだ。自分は命の恩人の心に傷を負わせてしまった事に。

 

ラ・フォリアを含めた一同は凪沙の話しを静かに聞いた。そして俯いた凪沙の肩にそっと手を添えた。

 

「…あなたが抱えていた思いはよく分かりました。でも、それならば尚の事アナタは悠とちゃんと向き合って話しを付けるべきです。」

 

「ラ・フォリアさん…。」

 

「悠、言ってましたよ。”俺の存在が、彼女の心にいらない傷を負わせてしまった”って。今のアナタと同じ事を。

アナタの言う通り悠の心に傷があるなら、それを癒せるのはアナタだけ。

過ぎた事はもう取り返しがつかない。でも、これから先の未来は何にでも創れるし変える事も出来る。」

 

「でも…。」

 

「今じゃなくてもいいんですよ。悠も中々決心がつかずヘタレですし。私からこれ以上何も言いません。後は二人の、心次第。」

 

「………心。」

 

「えぇ………でも、私が悠の心を独り占め、っていう未来も有り得ますので、その辺はご了承くださいね♪」

 

「ッ!」

 

「ラ、ラ・フォリア王女。それ、今言う必要ありますか?」

 

「えぇ♪ 凪沙とは恋敵でもありますからちゃんと宣戦布告を。雪菜もモタモタしてると、あっという間に出し抜かれてしまいますよ?」

 

「ちょッ、な、なんで私に!? べ、別に先輩とはそんな関係では…!!」

 

「なになに~?雪菜ちゃんも恋に悩む乙女っぽい?」

 

「ゆ、夕立ちゃん!?」

 

「夕立ちゃん知らなかったの?雪菜ちゃんは凪沙ちゃんのお兄さんの事が好きだって。」

 

「睦月ちゃん!?ち、違…!」

 

「雪菜ちゃん…こういっちゃアレだけど、雪菜ちゃんの気持ち凪沙ちゃんのお兄さん以外全然隠しきれて無いよ。」

 

「吹雪ちゃん!?…まさか、そんな…!」

 

「雪菜ちゃんも凪沙ちゃんもファイトっぽい~!」

 

「え……う、うん。」

 

ラ・フォリア達が赤面している雪菜を囲うなか凪沙はラ・フォリアの言葉を思い返す。

 

ラ・フォリアが悠の心を独り占めすると言った際、発破をかけられた様に塞ぎ込んでいた心が大きく躍動し思わず立ち上がってしまいそうになる位突き動かされた。

 

(私……まだ好きなんだ、ゆーくんの事…。)

 

改めて自覚した彼女の心は、今確かな一歩を歩み出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───それじゃあ、凪沙ちゃんとは喧嘩したわけでは無いんですね。」

 

「あぁ……むしろ喧嘩をしている方が、数倍マシさ。」

 

夏音との買い出しの帰り道、手には食材で一杯になったエコバックを持ちながら悠は夏音に事の詳細を話していた。

 

悠はこの事を夏音に話す気など毛頭無かったのだが、彼女から凪沙との間に何かあったのかと追及されてしまいどうすべきか少し考えたが、夏音の純粋に悠と凪沙を案ずる視線に負けてしまい一部を隠して話す事にした。

 

自分の思っていた事と違って安心したが、話していた悠の浮かない顔から相当思い詰めているのだと目で悟った。廃教会の猫達や自身の生い立ちの剣で世話になった悠と友人である凪沙の為に何かしてやれないかと考える夏音。

 

だが一向に案が浮かばない夏音に悠がある問いを投げて来る。夏音の心情を読み取っていたたまれなくなった悠が出した助け舟でもあった。

 

「もし、例えの話しなんだが…。

自分のやってる事が誰かの為だとして…。」

 

「お兄さんと凪沙ちゃんですか?」

 

「例えだからな!…んでよ、そのやっていた事が実はその誰かの心を傷つけていたとして…。」

 

「凪沙ちゃんの心を傷付けちゃったんですか!?」

 

「だから例え…!………いや、そうです。結果的に、彼女にいらない傷を負わせてしまったんです。」

 

取り調べで白状する犯人の様に自身の罪を口に出す悠。純真な心を持つ夏音には違うベクトルで弱いらしい。

 

項垂れて自虐する悠に夏音は子供をあやす様に優しく声を掛ける。

 

「お兄さんは…凪沙ちゃんの為にそのなにかをしていたんですか?」

 

「……まぁ、一応、な。」

 

「だったら…その事をちゃんと凪沙ちゃんと話すべきです。凪沙ちゃんも私も、お兄さんが意味も無く誰かを傷つける人だって思っていないです。」

 

「…どうかなぁ? 人畜無害な顔をしてる反面、ロクでも無い事考えてる悪人かもしれないよ?」

 

「そんな事無いです…お兄さんは優しい人ですよ。」

 

「ッ…。」

 

何の曇りの無い真っ直ぐな慈しみに思わず目を合わせられなくなる悠。

 

今まで悪意に満ち溢れた環境に馴れてしまった所為かこういった温情な眼差しに耐性が無くなっている。特に夏音のそれは悠にとって効果覿面と言える程に。

 

そんな悠に対して夏音は悠の手を取り微笑みかける。

 

「もし一人で行くのが辛いなら、その時は私が一緒に行ってあげるです。お兄さんには沢山助けて貰いましたから、今度は私がお兄さんを助ける番でした。」

 

「………参ったねぇ、こりゃ。」

 

ポツリと口から自虐気味なセリフが洩れる。自身の手を握って微笑む彼女より年上の自分がココまで言われるとは。一人の少女と向き合う覚悟が決まらない不甲斐無い自分を再度痛感させられる。

 

だが夏音の言葉はそれと同時に悠の心を押ししてくれた。

 

「夏音。」

 

「はい?」

 

思わず顔に浮かんだ笑みが、突き動かした心を物語っていた。

 

「…ありがと。お蔭で出せなかった勇気、出たわ。」

 

「ッ…ハイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、中々にイイシーンが見れたね♪」

 

「ッ!お前…ッ!」

 

「?」

 

「や! 久しぶり♪…って、言う程じゃないか。」

 

悠と夏音の前に突如現れたのは、気楽に接する友人の様に笑顔を振りまくアベル。

 

その手には何かが入った袋を持ち下げており、悠は先程の笑顔から一変し険しい表情で夏音の前に立つ。

 

「一体何しに来た?呑気に買い物帰り、な訳無いだろ?」

 

「まぁ~ね♪いやぁさっきは良いモノ見させて貰ったよ。キミの笑った顔なんて、”あの夜”から滅多に見られるものじゃ無くなったしね!」

 

「ッ!……どういう意味だ…。」

 

「お兄、さん…?」

 

「や!初めまして見目麗しいお嬢さん♪

良ければお近づきの印に…コレをどうぞ♪」

 

悠の態度の変わり様に困惑する夏音。そんな夏音に目を付けたアベルは袋を悠達の前に投げた。地面に落ちた際に袋の中身が表に出る。

 

 

「?……ッッッ!!」

 

「ッ、コイツは…!」

 

中身の正体を知った夏音は口から声を出す事を忘れる位に顔を青くして地面にへたり込み、悠はその中身の正体の状態に顔を顰める。

 

中身に入っていたのは、バラバラに解体された猫の死体。別れた手足や頭と共に地面にぶちまけられて広がる血によって周りの通行人も声を上げて騒ぎ出す。

 

「ひ…酷い!なんで…こんな……!」

 

「夏音!……テメェ、どういうつもりだ…!!」

 

「なぁに、蒔いた花の種に水をやっただけ。ほら、そろそろ綺麗な花が咲くよ?」

 

「まさか……ッ!夏音!!」

 

「ッ!!…ぅ、ゥゥゥウ…ッ!!」

 

抱き抱える夏音に体に奔るノイズ。それは夏音がバグスターウイルスの感染者である事の証である発症のサインだ。

 

「ゥゥッ……ウワぁアァアァアアアッ!!!」

 

「ッ、グァッ!!」

 

夏音の体がオレンジの粒子に包まれ悠は吹き飛ばされる。周りの野次馬の悲鳴を上げながら逃げ惑い、アベルはウキウキとした表情で夏音の発症を眺める。

 

そして粒子が人型を作りその姿が表に出て来た。

 

 

『───。』

 

圧倒的なオーラを放つソレは全身が灰色の外骨格に背中に靡くマントのようなマフラー。悠達の変身する仮面ライダーに酷似した姿は死した人間が覚醒した種族の王。

 

アークオルフェノク。

 

 

「ビューティフル! いやー、ボクのお気に入りの怪人がようやく誕生したか!!」

 

「アベルゥ!!テメエ、夏音にウイルスを…!」

 

「オイオイそれは誤解だよ!ボクの撒いたウイルスはその辺適当に撒いただけであって、彼女に感染したのは偶々だよ、た・ま・た・ま♪彼女が感染者だって気付いたのは最近だし。

ただ、キミも知っての通り彼女稀に見ない純情ピュアな心の持ち主だからさ、発症までに至るストレスが無かった訳だよ!」

 

「だから強引にストレスを与えて発症させたってかぁ?………こんのクソ野郎がァッ!!」

 

「うわ怖ッ、相当怒っちゃってるねェ…でも、ボクの相手をしてるヒマ、無いと思うけどなァ~?」

 

「ッ、グッ!!」

 

悠の下に飛んできた光球が先程まで立っていた地面を消し飛ばす。

光球を放った張本人であるアークは、悠に狙いを定め静かに歩み寄って来た。

 

「あーらら。キミを消そうとしてるねェ♪ 

単純に大好きなキミを殺せば中の彼女は多大なストレスを感じるという訳か。」

 

「解説どうも…!

俺に取っちゃ好都合だがな!」

 

<< BANG BANG SHOOTING >>

 

「変身ッ!──」

 

<< I`ma KAMEN RIDER! >>

 

<< STAGE SELECT >>

 

 

悠はスナイプLv1へ変身しゲームエリアを展開。場所を街中からアリーナドームの中に変わり、スナイプはマグナムを構える。

 

「すぐに出してやっから…ちょっとだけ我慢してくれ!──ハァァアッ!!!」

 

 

『───ッ!』

 

 

アークから夏音を取り返すべくスナイプはマグナムを放つ。アークは放たれたマグナムの弾丸をモノとせず歩いて来るがスナイプは臆せずアークへ肉薄して行く。

 

一人アークとスナイプの一騎打ちを眺めるアベル。スナイプの蹴りがアークに弾き返されるのを見ていると、ふとアークの体が光っている事に気付いた。

 

「ん?……んん?」

 

その光を目にした途端アベルの顔付きが変わる。アレはバグスターウイルスでもなく、アークオルフェノクの力でも無い、全く異質な光が。

 

「あの光……なんじゃ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッ…ウラァァアァア!!!」

 

スナイプはマグナムのBボタンを押して連射モードに切り替えて放つもアークに大したダメージは与えられていない。

スナイプの弾丸を受けながらも、アークは指先から出た光の鞭をスナイプに振るう。当たれば大ダメージが予想されるソレを身を捻って回避に専念する。

 

「クソッ…だったら!───コレだ!」

 

<< 高速化! >>

 

スナイプは辺りのドラム缶を撃ち抜き、高速化のエナジーアイテムを取り込みスピードを上げながらアークへ攻撃を仕掛ける。

アークはスピードに翻弄されるが、それでも決定打に至る決め手に欠けている。ならば…。

 

「これしかねぇか!!──ッ!」

 

<< マッスル化! >>

 

 

攻撃力を強化のアイテムを取り込み、自身が弾丸となって特攻覚悟でアークにぶつかるスナイプ。

 

スナイプの攻撃を受け止めるアーク。アークの手から発する光が弾丸となったスナイプを押し返していく。

 

「クッ、グァァアア…ッ!!」

 

浴びるだけで身が塵になる位焼き尽くす光はスナイプのライダーゲージをみるみる減らしていく。エナジーアイテムの効果も切れ確実に押し負けているスナイプのゲージは半分を切っていた。

 

「グ、グォッ………ッ、ァァアアアーーーーーッ!!!」

 

『ッ!?』

 

確実に押し負けているに関わらず、気力を振り絞ってアークへの特攻を続けるスナイプ。急激にゲージの減り具合が早まるが、押し負けていたスナイプはアークを次第に押し返していく。

 

そして弾丸はアークの体に届いた。

 

「ウラァァアァアーーーーーッ!!!」

 

『ッーーー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ハァッ、ハァッ、ハァッ…ァアッ!」

 

背後で燃え盛る炎を背に膝を着いたスナイプの太い腕抱えられた夏音を落とさぬように気を張っていた。

 

荒い息遣いでかなりの消耗が見られるスナイプの背後から伸びて来た光の鞭。鞭は無防備なスナイプの背を貫こうとしていた。

 

 

「ウラァッ!!」

 

間一髪の所で間に入り鞭を弾いたレーザーLv1。鞭は燃える炎の元まで戻り、やがて炎の中から健在なアークの姿が出て来た。

 

「ちょっとちょっと、何が起こってるか大体分かったけどさ。一体どうしてこうなったワケ?」

 

「ハァ…るっせぇ、そんな悠長に説明できる場でもねぇだろ…!」

 

「悠君!無事か!?」

 

スナイプの前に立ち庇うレーザー。夏音を抱えたスナイプの下に神太郎が駆け寄り、彼はスナイプの胸のゲージを見て驚愕の顔になる。

スナイプの生死を表すライダーゲージは、ギリギリの1。点滅音が未だ鳴り響いていた。

 

「悠君、キミってヤツは…!」

 

「首の皮繋がっただけだろが、一々騒ぐんじゃねえよ。

…それよりも、夏音を連れて此処から離れろ。」

 

<< ガッシューン! >>

 

悠は夏音を神太郎に預けるとガシャットを抜き変身を解除する。解除した事によりゲームエリアが解かれるなか悠はゲーマドライバーの代わりに、地の帝王のベルトを巻く。

 

「悠兄さん!」

 

「秋。ゲームエリア貼り直せ…手加減なんて、これっぽっちも考えてねえからよ。」

 

「お、おう。」

 

 

 

<< STAGE SELECT >>

 

 

悠に言われゲームエリアを展開するレーザー。今度は広大な採石場となり悠を見据えるアークの下にオーガフォンを開いてコードを打ち込んでいく。

 

 

「生憎今日の俺は、一段と! 機嫌が悪いんでなァ…八つ当たりも兼ねて速攻でぶっ殺す。」

 

『………。』

 

「…だんまりかよ。べらべら喋るヤツは嫌いだがな…。」

 

 

<< Standing By >>

 

 

「無視決め込まれるのイラつくんだよ…!──変身ッ!」

 

 

<< Complete >>

 

 

荒々しくオーガフォンをベルトに挿し倒す悠の体に張り廻られる金色のフォトンブラッド。

 

激しい怒りを誇張するように光る輝きと共に現れたオーガの赤い眼がアークを捕える。

 

オーガの出現により闘争本能が刺激されたのかアークの体から青きオーラが炎の様にゆらめいてその強大さを指し示している。

 

「覚悟しやがれ虫顔野郎…ゴキブリより早く駆除してやるかっらよぉ!」

 

 

オルフェノクの王、地の帝王、同じ種族の力の頂点である王同士の激突が始まる。







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