その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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衝撃! ブラッドスタークの正体…! って、言う程周りは驚いてないだろうですよねぇ、きっと。


前半は読む人からしたらどうでもいい内容ですけど、後半は新章のスタート回になります!ではどうぞ。


顛末

 

 

 

九鬼本社ビルで起きた騒動はすぐさま世間の耳に知れ渡った。

 

大企業に突如攻め込んだロイミュード。それを迎え撃ったスティールソルジャー。

 

 

ここまでの話しでは社員、来客に負傷者が出た事と設備に被害が出た事くらいで済みそうであるが、問題はこの後に起こった手痛い喪失負う事になった話し。

 

 

まず一つはスティールソルジャーの動力源であるコアの消失。ソルジャーに組み込まれていたのと技術部のデータバンクに記録されているコアの設計図、そして製作者であるアザゼルの記憶からコアに関する事が綺麗サッパリ無くなっていたという大きな損失。

 

この失態に着き”Project Soldier Army”の計画は破断。当初の計画通り、武士道プランの成功に主を置きスティールソルジャーの損失を補う為に動く事をマープルは決断した。

 

そして最も九鬼にとって重大な問題の処理。尚且つ繊細に動かねばならない後始末が、メディアへの公表である。

 

今回の騒動の結果は九鬼にとって大きな失態だ。会見の時に大きく”人類の希望”という名目で見せた前でやすやすとコアを物理的に破壊されるのを許してしまった事は九鬼の名声に大きく影響を及ぼしてしまう一大事である。

 

真実を伏せようも仮面ライダーすら動いたあの騒動の大きさはとても隠せたものでなく、世間からは事実公表を求められ逃げ場がない状況。

 

これにより九鬼にとってマイナスなイメージが着いてしまうのは最早必須。ならば手を打つところは、掛かる負担をどこまで減らせるか。

 

それ故に九鬼が打った手は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Zzzz──。」

 

「オイ…オイ灰原。 起きろよ、もう昼休みだぞ。」

 

「Zzzz…んぁ?……あぁ。」

 

学園の教室内。悠は寝ていた所を古城達に起こされ顔を上げる。

 

悠の右腕はあの時の騒動で負った怪我の度合いが見ただけでも分かる様に包帯に巻かれ首から通した布で固定している。

そんな状態で悠は左腕で鞄の中から今日の弁当を取り出して食堂へ向かう。

 

道中悠の事を依然として見て来る生徒の視線があったが、それらを何処吹く風の如く流して食堂に着き昼食を取る。

 

 

その中でも変わらず悠に視線が向けられながら矢瀬が口を開く。

 

「…なーんかやっぱ馴れねえなぁ。こうも周りから見られっとよ。」

 

「じゃあ俺がどっか行くか? そうすりゃ落ち着いて食えるぜ。」

 

「そんな事しなくていいわよ。そんな理由で周りに合わせるの一々馬鹿らしいし。」

 

「キミが別のとこに行くとしても私も付いて行くからな。 仮にも怪我人なんだし。」

 

「それに三日もこれじゃあもう慣れたよ。 だから気にすんな。」

 

「………そ。」

 

左手でサンドイッチを齧りながら悠は一度周りを見渡すと、周りの人間はワザとらしく視線を外す。

 

 

 

あの騒動からもう三日が経ち、九鬼が本社で起こった騒動についての会見では、まず本社ビルに居合わせた正規装着者である悠は襲撃してきたロイミュードと交戦したものの戦闘中に重傷を負って戦闘不能に。そこに那須 与一が悠を庇い自身がスティールソルジャーへとなりロイミュードと戦闘。見事撃破したものの後から出て来た仮面ライダーにより与一が纏ったスティールソルジャーのコアは破壊され、技術部に保管していたコアのデータも仮面ライダーの手によって消されてしまい、事実上スティールソルジャーは二度と動く事は無い。

 

今回の会見で九鬼が大きく出たのは、”弓士の与一が危険を顧みずにロイミュードへ立ち向かった”事。負傷した悠を救うべく勇敢に戦前に立ちロイミュードを撃破した功績を九鬼は英雄として心からの称賛を送ると言った言葉に世間も与一へのイメージを、”那須 与一のクローン”から”勇敢な英雄”としてのイメージアップを九鬼が仕掛けて来た。

 

事実その作戦は成功した。 無理な戦闘で暫く学園に来なかった(実際はスーツの無茶な動きに肉体が追い付かず、丸二日筋肉痛で寝ていた)与一に待ち受けていたのは、クラスからの称賛の声だった。

 

それとは逆に悠の方は当初の注目が下がるのと同時に、スティールソルジャーの損失の原因の一角だとヘイトの声が上がったが、そこは九鬼や学園側から”未知の怪物相手に彼も命掛けで我々を守って傷ついたので彼を非難すような事はしないで欲しい”と言っており、その中には今まで悠がスティールソルジャーで助けて来た街の住民にも声が上がり、悠が来るであろうと待ち構えていた非難の声は余り来なかったのである。

 

だがそれでも口に出さないだけでこうした注目の的になっているだけに収まり今に至る訳である。

 

 

「そういやオレ見たぜ、那須 与一。

アイドル張りに女子にキャーキャー言われながら囲まれてたぜ、本人は心底嫌がってたけど。」

 

「ちょっとバカ。灰原が居る前で何言ってのよアンタは。」

 

「いやだって本人は大してこれっぽっちも気にしてないようだし、コレならいっその事、事の事情を聞いておこうと思ってよ。

で、実際はどうなんだよ灰原? あの会見の話しって嘘偽りない真実? それとも自分等の失態を隠す為のでっち上げ?」

 

「生憎その辺は口止めされてね。 少なくとも答えられるのは、こんな腕になる位油断したってコト。」

 

「んだよソレ、めちゃくちゃ裏ありそうな言い方じゃねえかよ。」

 

「クイズを出してるつもりは無いんだけどね。」

 

悠は九鬼から莫大な口止め料と腕の治療費を貰う代わりに今回の騒動に関しての口外をしないという契約を結んでいた。

時折此方に対し何かを言いたげな義経と弁慶の姿を目にするが、九鬼から余計な接触はしない様にと言われてる為に二人の顔に罪悪感の色が見える。

それは話の中心になってる与一も同様、二人以上に何処か思わせぶりな表情を浮かべるが、当の悠は契約した分不必要に関わる理由は無い為に、距離を取る様にした。

 

「ハイハイこの話はお終い。 ご飯食べ終わったならもう行きましょ。」

 

「あ、俺飲みもん買うから先行ってていーよ。」

 

「オレも行く。 コーヒーが欲しくなったから。」

 

「私も行こう。」

 

 

浅葱、矢瀬と別れ別々に別れた悠、古城、ゼノヴィア。

いつもの自販機に行く道中、裏の事を知ってる二人は再度あの騒動の事実を聞こうとしたが言っても恐らく答えてはくれないだろうと思い、それとは違った疑問点について話し掛けた。

 

「なぁ灰原、ずっと気になってたんだけどよ。

その腕、なんでまだそのまんまなんだ? 桜井の力が在ればすぐにでも治るだろ?」

 

「古城……吸血鬼のキミは腹に穴が空いてもすぐ治るが、悠は仮面ライダーになれる以外は只の人間だぞ?

今の悠の立場を考えれば、どれだけ規格外でも、壊死寸前の腕が一日経っただけで完治するのはどう考えても可笑しいだろう。」

 

「そ、それもそうだったな…確かに色々ぶっ飛んでるから忘れてたけど、灰原もちゃんとした人間だったな。うん。」

 

「あぁ人間だ。常識から大きく外れてるがな。 だがそんな悠が私は好きだ。」

 

「…お前等が俺をどうみてるか、よぉーく分かったよ。」

 

自販機前で器用に片手でコーヒー缶を開けながら自身が人間として見られてない事に若干傷つくのが見て取れた。

 

「まぁこの腕はゼノヴィアの言ってた通りってのもあるけど、それとは違った別の理由がな。」

 

「何だよ?」

 

「労災。」

 

「………は?」

 

思わず口に含んだコーヒーが口から出そうなのを堪えた古城は、何を言ってるんだと言わんばかりの視線を投げた。

 

「だから、労災。 仕事中怪我した時に企業や国が払うアレ。」

 

「いや知ってるけど…何お前。 腕治さない理由が金目的!?」

 

「うん。 この前の戦いで結構費用掛かったし、その分補おうとね。」

 

前回の戦闘で使用した銃火器の弾薬やスーツと武器のメンテナンス、アップグレード等に掛かった費用の額を見て見ると軽く見積もって宝くじ一等三回分の額を叩きだしてしまった為に、G4-Xは機能面では使えるものの、経済面では非常に扱い辛いスーツへと変わった現実に頭を痛めたのは今でも大きな悩みである。

 

 

「お前………セコイな。」

 

「あぁ。流石にそれは、な…。」

 

「何をやるにもお金が必要なの。これすごく常識。

取りあえずは稼いだ報酬と労災に加えて、口止めの退職金も今日振り込まれるから、そろそろ治すよ。これすっごく痒いし、水ぶくれが潰れて液出るし。」

 

「いやそんなんよりもっと深刻だろソレ。実際右腕動いてねえじゃねえかよ。戦う時すごく不利なんじゃ…。」

 

「左でやれない事は無いけどね。

まぁ最悪跡が残るだけで動けばこっちは問題ないから。」

 

「お前……前から思ってたけど、もう少し自分を大事にしろよ。」

 

「そうだな。キミは些か周りは見てるのに自分の事を疎かにし過ぎている。」

 

「そうでも無いよ。 だって俺が死んじゃったら、誰が奴等の悪巧み止めろって言うのさ。

ライダーにはライダー。少なくとも奴等全員ブッ飛ばすまで死にはしないよ。」

 

「そういうのを言ってるんだって…。」

 

古城とゼノヴィアの言った言葉は悠にとってはあまり関心が無く、結果さえ出されば自分に降り掛かる痛手は必要の内と捕えてる節がある為に今の腕の状態も大した損失だと思っていない。

その上自分達に関係無い周囲の人間を必要以上に巻き込まないようにしてる辺り彼等の行動は世間から評価されていいものだが、世間からの評価は未だ仮面ライダーを危険な異物として謳われ、この間の九鬼の騒動でそれが悪化した。

 

悠本人は必要な結果を出せたから気にしてないと言っている分、気掛かりなのだ。悠の本当の一面を知ってる分余計に。

 

そんな古城の隣で先程の悠の発現に思った所があるのかゼノヴィアは”いや、まさか…いやでも悠なら…”とブツブツ言ってるなか、恐る恐る悠に声を掛ける。

 

「………なぁ悠。さっきの口ぶりからして、その…修学旅行、行かないつもりか?」

 

「………何ソレ?」

 

「オイ……朝HRで言ってただろ、修学旅行の話し。今年は新オープンした増設人工島のリゾート施設で仮オープンを兼ねたテスト営業。

後でレポート提出するって言う課題はあるけど、新しく出来たリゾート地で過ごせるって話題で朝メッチャ騒いでただろ。」

 

「あーー…上手い事寝て過ごしたな。」

 

「あの騒ぎのなか寝てられるのかよ…。」

 

「そ、それで、悠も当然行くよな!? 丁度一区切りついたと聞くし、ここで息抜きしてもバチは当たらないだろう!うん!!」

 

「全く、何を当たり前の事言ってるんだよゼノヴィア。」

 

肩を掴んで血気迫る勢いで追及してきたゼノヴィアの手を優しく放し、穏やかな声で優しげに落ち着かせる悠。

 

「悠…!なら…!」

 

「うん…。」

 

ゼノヴィアの目に期待の眼差しが見られるなか、悠は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ける訳無いじゃん。 ていうか行くつもり無いし。俺。」

 

 

詰み上げられた期待が崩れ去る音がゼノヴィアに現実を知らせた。

 

 

「え!?お前行かないのかよ!?折角のリゾート地!」

 

「あのねぇ、俺や桜井がこの街離れたら、あのバカ一人でこの街の騒動収めなきゃいけないでしょう?

その間に敵が総戦力で来たらどうするよ? この街一気に崩れるよ?」

 

「それもそうか…本当に大変なんだな。お前。」

 

「こればかりは妥協できんよ……で、ゼノヴィアはどうしてそこまで落ち込んでるの?」

 

悠の向けた先には膝を着いて崩れてるゼノヴィアの姿。

ブツブツと”デート…砂浜…夕日…二人きり…”と聞こえるか聞こえないかの声量で呟いてる。

 

「…こればかりはしょうがないよ。うん。」

 

「悪いと思ってるなら、ちゃんと埋め合わせしてやれよ?この街にも海はあるから…。」

 

「そうする。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~灰原家・地下ラボ~

 

悠はラボ内で今日学園で起こった事を夕張と瑞鶴に話していた。

 

「へぇ~。最近の修学旅行ってリッチね~。最新のリゾート地かぁ、いいなぁ。」

 

「まだ最低限の施設しか置いて無いらしいけどね。 それでもホテルやら商業施設だけでも相当のレベルだと…。

前世は京都にも行けなかったってのになぁ。なんだろうねこの差は。」

 

「あ、やっぱり悠さん的には行ってみたかったんですか?」

 

「いや特に。仕事で色んな世界の色んなとこ、時代に行ったからなぁ、南の島国なんかも散々行ったし。」

 

「ふぅ~ん…ねぇ、例えばどんな時代のどんなところを見て来たの?」

 

「どんなっつっても…まぁ強いて挙げるならRPGみたいなファンタジーな世界とか…。」

 

「あ! それもしかして異世界転生とかそういうジャンルのヤツですか!? 普通の学生がひょんな事で勇者になって魔王を倒すって言う…!」

 

「あーー、あったなぁそういうの…確かその時潜伏したクラス全員の時もあったなぁ。確か1対30だっけ?あん時。」

 

「うわぁ、そいつらにとっちゃ初っ端からラスボスと遭遇みたいなものじゃない。」

 

「確かに悠さんって勇者っていうより魔王の方がピッタリですね!」

 

「……俺ってそんなに人外かなぁ、特に体弄ってないのに…。」

 

クラスメイトはおろか身内にまで人間として見られてない事にショック受けてデスクに額を乗せて項垂れる悠。

まさかこれしきの事で落ち込む悠にどうすべきか見合わせるも気の利いた言葉が浮かばず困惑する夕張と瑞鶴。そんな空気を破る様に、地下に繋がる階段から明石が上がって来た。

 

「んー!終わったぁ、後は…アレ、何この空気?」

 

「うーん、コレは何と言えばいいか……傷心中?」

 

「はい?」

 

事情の知らない明石に事の詳細を話し、少し意外だったのか目を点にして驚く。

 

「そうですか。まぁそれで落ち込む辺り悠さんもれっきとした人間ってのが今目に見えてますけど。」

 

「いや、アンタのそれも十分傷つけてるわよ…。」

 

「そういえばさっき終わったって言ってましたけど、まさか…。」

 

「えぇ!今し方最後の仕上げを済ませましてね…あ、そうだ!」

 

何を思い付いてか明石は落ち込んでる悠の右腕を目にした後、陽気な足取りで近づく。

 

「悠さん、傷心中な所失礼しますけど、少しお話が。」

 

「何さ?」

 

機嫌が悪いのか、或いは不貞腐れたとも言える重い声色で返事を返すも明石は気にせず悠に話し掛けた。

 

「実はですね、前々からあの方に許可を頂いて此処の地下にドッグを建造していまして、今し方やっと完成したんですよ!」

 

「ドッグ?」

 

聞き馴れない単語に首を動かして視線を明かしに向けて無言の説明要求を求める。

 

「あぁ。ドッグって言うのはですね、いわば艦娘の怪我を癒す為の部屋ですね。

とは言っても、実際はお風呂なんですけど。」

 

「?…どういう事だ。」

 

「悠さんは知らないでしょうけど、私達艦娘は怪我をした際ドッグと呼ばれるお風呂に浸かれば元通りに治るんです。」

 

「怪我の大きさや艦種によってお湯に浸かる時間はバラバラだけど、治り難い致命傷の傷も完璧に治るわ。

私は正規空母だから長湯ね。」

 

「マジか。何その医者要らずのインチキ銭湯。」

 

「吹雪ちゃん達が悠さんの所に住むようになりましたし怪我した際に一々向こうに戻るよりここで治した方が良いと思って急ピッチで仕上げたんです。」

 

「成程。確かにソッチの方が都合が良いか。」

 

「それでですね、こっからが本題になりますけど。本来ならドッグの効能が効くのは艦娘だけなんですが、あの方の助力もあってお湯の効能を大分変えたんです。」

 

「…もしかして。」

 

「はい♪ 艦娘だけでなく人間にも効く様に改良したんです!」

 

デスクに着いた顔がようやく上がって明石を正面から見詰める。

その視線に、”何故?”という無言の質問を突きつけ、それを悟った明石は説明をする。

 

「今の所悠さん達の回復方法って、マッドドクターと秋さんの魔法、ハルナさんの能力の三つですよね?」

 

「あぁ。」

 

「もしもですよ?治療が必要な時にマッドドクターがいなかったら?秋さんの魔力が空っぽだったら?回復薬のハルナさん自身が深手を負っていたら?

そう考えると回復手段を多く用意しても良いと思ったんですよあの方は。私達も日頃傷つく悠さん達を見てますし、私達の技術が役に立てればと思って。」

 

「……。」

 

自信満々に言う明石の言葉を悠は指差された右腕を眺めた後、巻いてる包帯に手を掛け解き始める。

 

曝された素肌は肌色では無く赤く腫れあがっており、所々に水ぶくれが出来ており、他にも裂傷等の傷もあってとても満足に動けない状態が見て取れる。

 

腕の状態を見て明石以外の二人は顔を青くしてるが、明石は医師としての見解から満足気に頷く。

 

「うん!これくらいなら1~2時間くらいですね。」

 

「…本当に大丈夫なんだろうな? 後遺症とか中毒性やら。」

 

「その辺もバッチシ問題無しですよ! それに悠さんの強靭な体なら、多少の成分のズレでも異常は見られないでしょうし。」

 

「……なんか信頼のされ方が少し複雑…。

でも桜井の長い愚痴聞きながらの治療よりいいかも…。」

 

「ドッグは一番下に設けましたから、後で経過を見に行きますので水着を着といてくださいね?」

 

「了解。」

 

軽く手を振って下に続く階段を下っていく悠。

 

明石達から少し離れた所でラボの壁面が一部紙の様にめくれると、そこには少し顔を覗かせた川内が…。

 

「ムフフ♪良い事聞いちゃった♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「広…。」

 

引き戸を開けた先にあったのはイメージしてた銭湯様な作りでは無くどちらかといえばレジャーランドに近い広い大浴場でメインの大浴場の他にも数々の浴槽があった。

 

「こんなデカいのどうやって気付かれずに作ったのやらか…アイツか、うん、アイツの仕業だな。」

 

脳裏で現在行方不明の上司がムカつく笑顔でサムズアップしてる光景が浮かぶがすぐ払いのけ、浴槽へと足を運ぶ。

取り敢えず中央にデカデカとある大浴場に足を入れ、徐々に腰を落とし問題の右腕が浸かる程度に腰を下ろした。

 

「ッ…………ハァァアァ~~~。」

 

右腕から染みる様な痛みが走るが、湯の効能か体の隅から芯まで染み渡るような心地よさから思わず声が漏れる。

 

「……まぁこれで傷が治るなら、悪くないな、うん…。」

 

呟いた声が浴室内に反響して響いた後、お湯が流れる音だけがその場に残る。

 

伸び伸びと足を延ばして完全なリラックス状態になる悠。このまま寝てしまおうかと思い目を瞑るが、背後の脱衣所から物音が聞こえたので明石が来たものとばかり思い、耳だけ傾けて後は完全に気を抜けた状態にした。

 

そして引き戸開き、中に入って来る。

 

 

「へぇ~!こりゃ広いねぇ!向こうのよりデカいんじゃない?」

 

「…………んん?」

 

耳以外の器官が少しの間を空けて覚め始めた。

明石にしてはやけに声が違う。むしろ普段から聞き覚えのある声が後ろからした。恐る恐る振り返ると悠の想像通りの人物が居た。

 

「やっほ~!背中流しに来ましたよー!」

 

「……何やってんの川内。」

 

後ろに居たのは悠の想像通り川内だった。しかもこの前の教訓を活かしたのかどうかは知らないが、彼女の格好は悠と同様水着である。

 

「いやホラ、悠がお風呂入ってる間ヒマしてるだろうな~って思って話し相手になってあげようとね!

それに今年の夏の水着お披露目できなかったからそれも兼ねて、ね?」

 

「お前なぁ…。」

 

自身の制服と同じカラーリングのオレンジと白を合わせた三角ビキニでポーズを取る川内に悠は半ば呆れたように声を漏らす。

 

普通なら驚く場面だが相手がスキンシップの多い川内だけと言うのもあって対して驚いてない悠。だがそれは予想外の人物の登場で覆される。

 

「ほらほら何時までも恥ずかしがってないで神通もおいでって!ホラ!!」

 

「ちょっと姉さん!引っ張らないで…!」

 

「…………えぇええ?」

 

川内が脱衣所から引っ張って連れて来たのは同じく競泳水着を着た神通だった。普段から姉である川内のストッパー役でもある彼女すらも浴室に入って来るという異常な行為に悠は声を上げずにいられなかった。

 

「…いやいや、マジでどういう事よ?何で神通も?」

 

「ち、違うんです! これは姉さんが…!」

 

「だって神通ってばお固くダメだ何だ言うから、いっその事もう一緒に入っちゃえ! って事で。

それに私一人より二人の方が話も盛り上がるでしょ?」

 

そう言いながらもかけ湯をして入る気満々の川内を誰も止められずに湯船へと足を入れる。肩まで浸かって背を伸ばす姿に悠は傍に佇む申し訳なさそうな表情の神通に同情の目をやる。

 

「すみません。私は治療をしているんだから止めましょうと言ったんですけど、気が付いたら服を脱がされて…。」

 

「…あぁ、うん……気にすんな。………なんならいっその事入る?キミさえよければ。」

 

「………失礼します。」

 

「もうホント固いんだから神通ってば~!いいじゃん、水着なんだから一緒に入ったって、それに混浴なんてそうそう出来ないんだし、もっと気楽に行こうよ!!」

 

「お前はちったぁ反省しろ!!」

 

「ぎゃひんッ!!」

 

川内の脳天に悠の拳骨の音が浴室内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──痛た、もうあんな強く殴る事無いじゃん。」

 

「少しは自分の行動を見返せって事だ、妹まで振り回しやがって。」

 

「でもなんだかんだで一緒に入ってんじゃん、ね、神通?」

 

「…姉さんなんてもう知りません。」

 

そっぽを向く神通にガーンと音が響く川内に対し自業自得だと心の中で思う悠は暇潰しの話を切り出した。

 

「で? 一体何の話しして時間潰すの?」

 

「うぅ。二人がいじめるよォ……そうだねぇ。

よくよく考えたら、こうしてこの三人で一緒に居るのって初めてだよね!

だから此処はお互いの事を良く知ろうと思うの!!」

 

「良く知るって、例えば?」

 

「う~んそうだねぇ……各々の好きな事とか!!」

 

「好きな事ねぇ……寝る事、機械弄り、静かな時間。」

 

「私は…鍛錬してる時が好きですかね。後は読書とか。」

 

「そうそう!そんなカンジにお互いを知りあうんだよ! ちなみに私は…!」

 

「「夜戦 だろ/ですよね。」」

 

「って!何二人して被せてんの!?実際そうだけど!!」

 

「だって、ねぇ…。」

 

「あれだけ言ってれば、もうそれしか眼中に無いのが丸分かりですから…。」

 

「もうつまんない!!……あ。

…で~も~、戦う夜戦は勿論好きだけど…。」

 

川内は悠に詰め寄り、足を延ばした彼の膝の上に座り体を密着させて来た。

 

「こっちの夜戦も好きなんだよねぇ、勿論悠限定で♪」

 

「ね、姉さん!!」

 

「おいおい…そうまで言われるとコッチは意識せざる得ないんだけど?アッチの方で。」

 

「あ、やっぱ悠も男だから意識しちゃう?今までそういうの見せてくれないから、本気で心配してたんだよ?」

 

「前は仕事の事ばっかで平気だったんだけどねぇ。最近美人が周りに居るわボディタッチが多いやらでイヤでも意識するようになって。」

 

「ふ~ん、ならいっその事私の事襲う?全然イイよ、悠なら。」

 

「勢いでヤルほど理性が無い訳じゃ無いよ。それにそういうのでやっちゃった関係って後ですごく後悔しそうだから。」

 

「そう?私は良いのにな~。」

 

「姉さん!悠さんも堂々と、その…ッ。

ふ、不潔ですよ!」

 

「分かってないなぁ神通は。こうでもしなきゃ悠は絶対手を出さないから!ガンガン言ってアピールしなきゃいけないの!!

それなのにアンタときたら…姉の私を差し置いて、けしからんスタイルをしおって!少し分けろこの~!」

 

「ひゃぁ!! ちょっと姉さん!やめッ、んぁぁッ!!」

 

自身と胸と比較しての嫉妬か神通の背後に回ってその胸部を揉みしだく川内。

 

肌の露出は川内に比べて少ないが、体に張り付く競泳水着を着てる為クッキリとボディラインが分かり、胸部や臀部など出てる所出て腰の括れも細い。普段から降ろしてる長髪も団子状に纏めてる為うなじの部分も見え、如何に男性が目の引く要素を持っている神通は十人中十人が美女と言うだろう。

 

川内も神通の事を嫉妬してるが、彼女も言う程乏しい訳でなく普段から動いてる為に体も引き締まっておりその上足も美脚の部類に入る位スラリと細い為十分に美女と言える。

 

そんな彼女たちが目の前で保養と成り得る行為をしてる事に悠も意識せざる得なく、正直困ってる所がある。

 

「おーい。そろそろ止めときなよ。神通も困ってるし、俺も困る。」

 

「ん?…それって、神通がいやらしくて理性無くしそうってヤツ?」

 

「うん。今の神通、エロい。 ちょーーやらしい。」

 

「ふぇええッ!?」

 

「悠ってそういうのは正直に言うんだねぇ…。」

 

「流石に三大欲求には抗えないしねぇ。皆俺の事人外扱いしてるけど、俺だって人間だもの。そう思っちゃうのも仕方ないでしょ。」

 

「…そっかぁ、だったら…。」

 

何か閃いたような素振りを見せる川内に悠の直感が警告を出す。このままあの暴走忍者を好きにさせてはならないと。

だが右腕の治療の為満足に動けない悠。そんな悠を前に川内は神通の後ろに回り込み…。

 

 

「えいッ♪」

 

「きゃ!!」

 

「ッ!おぉぉ!?」

 

 

背後から押された神通はバランスを崩して悠の胸元目掛けて倒れ込んだ。

咄嗟に空いてる左腕で受け止める悠だが、かなり密着する形となり彼女の豊満な胸部が悠の胸元にモロ当たって来るし、顔も鼻と鼻の先が着くぐらい近かった。

 

「あ……。」

 

「………。」

 

「ムフフ♪──えいッ♪」

 

眼前に広がるお互いの顔を見つめだす悠と神通を見てイタズラが成功した子供の様な無邪気な笑顔を見せる川内。彼女はそのまま悠の左側に移動して、その腕に自信の胸部を押し付けるくらいに密着しだした。

 

「…川内。いい加減にしないとマジで…。」

 

「ねぇ悠。ここから本気の話しなんだけどさ……姉妹丼に興味無い?」

 

「………………。」

 

「…………ええぇええぇッ!?!?ねねね、姉さん!?」

 

衝撃的な爆弾発言に悠の思考がフリーズ仕掛けたが、神通の叫びで強制的に再起動した。

 

「……なに、言ってん、ですか、キミは……いや、マジで…。」

 

「だってぇ、多分悠の中じゃ圧倒的にラ・フォリアの方に気持ち傾いてるしィ、学校でもほぼゼノヴィアとか一子とかと一緒に甘酸っぱい青春過ごしてるし、最近じゃポニーテールのあの子も悠の正体知っちゃったし。

このままじゃあ私達の事忘れられそうだから、いっその事姉妹諸共関係持っちゃおうかと。」

 

「おい。マジで頭痛くなってきた。神通なんかもうショートしてるし。」

 

「関…係……姉、と…三人……。」

 

「……私、本気だよ?」

 

顔を真っ赤にして頭から湯気らしきものが噴き出てる神通を傍に、悠の顔に手を添えて自身の方へ向かせる川内の目からは冗談の色も無い、本気の眼差しが向けられた。

 

「冗談なんかでこんな事言わないよ。それだけ私は悠と神通の事が好き。

どっちか一つ選べなんて言われるくらいなら、いっその事私は両方取る。」

 

「…ずっと前から聞きたかったことがあんだけど…俺の一体何処に惚れたの?こーんな最低野郎に。」

 

「一杯あるよ?私と同じ夜型の人間だったり、強いし優しいし、普段とのギャップもポイント高いし……うん。私でも知らない間に好きになっちゃってた。

…不思議だよねぇ、私人間じゃ無くて艦娘って言う兵器って言われても可笑しくない存在なのに誰かをこーんなに好きになるって…だからかな?こんなぶっ飛んだ提案に妹まで巻きこんじゃうのは…。」

 

「……ばーか。」

 

川内の頭に悠の拳骨が乗る。ただし先程の様に強く無く軽く小突く程度のものだった。

 

「…今までライダーシステムや通常の武器も触って使って、人間殺した俺の持論だが…兵器は、喋りも笑いも泣きも大喰らいもアイドルもカッコつけも語尾も付けねえよ。

本当の兵器は、心も情も無く、ただ淡々と作業をこなす様に命奪うヤツらしい…どっかの誰かがそうだったってさ。

…お前等見てぇな五月蠅い連中、兵器として見ろってのが無理な話だっつうの。」

 

「悠…。」

 

「……。」

 

「まぁソレに正直、最初お前等の事聞いた時に思ったのが、コイツ等俺より人間らしい、(ザバァ!)、ヌォッ!?」

 

川内に自身の考えを告げる悠の首元に突然抱き着いて来た川内。突然の行為に思わず声が出てしまう悠だが、抱き着いてる川内の方は満悦の笑みを浮かべていた。

 

「うん!うん!! コレだよ!こういう所が私のハートを射抜いたんだよ!!」

 

「あの…ちょっと、もうなんか色々当たり過ぎてしんんッ……ッ!」

 

「ッ!?」

 

「んん…。」

 

感極まってか川内はそのまま悠目掛けキスをした。何時の間にか正気になっていた神通のほぼ眼前で。

 

「んん……ん…。」

 

「ん~…ぷは…ん…えへへ。」

 

ほんの短い時間、啄む様なキスを繰り返し顔を離した川内の顔はこれ以上に無い程の満悦の笑みを悠の前で見せた。それは思わず見惚れてしまう位に。

 

暫く思考が働かない悠の頭を起こしたのは、神通が悠の顔を自身の方まで向けた直後だった。

 

「神通?」

 

「悠さん……ん。」

 

「おぉ!」

 

暫し見つめた後、神通も川内と同じく悠にキスを仕掛けに行った。

合わさる唇の感触にもう思考する事を捨て去りたい位の快楽を二度も味わう悠に神通の行為は拒めなかった。それどころか火が着いた様に彼女の背に手を回し自身と体を密着させて来た。

 

「んん!……はぁ……。」

 

「悠さん……好きです。」

 

「神通…。」

 

「…困らせる事を言って、ごめんなさい。でも、私は姉さんと同じ位貴方が好きです。他の誰でも無い、貴方を…。」

 

「悠…私達は悠に戦いの中でも支えられる存在になりたい。心も、体も…。悠がこれまでどれだけ傷ついて苦しんだかその気持ちは分からないけど、少しでも和らげてあげられるなら…。」

 

「………俺は…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでしたら私も、喜んで差し出しますよ?この体。」

 

「「「ッ~~~~~!?!?!?」」」

 

突然の第三者の声に思わず身が跳び上がった三人は湯船の中で後退りしてしまう位の驚く。壁にぶつかるまで下がった三人前に居たのは、買い物しに街に出てたラ・フォリアが以前海で見せた水着姿で佇んでいた。

 

「い…何時からそこに…?」

 

「そうですねぇ…姉妹丼の辺りでしょうか?」

 

「ほぼ最初からかよ! てか何で気付かなかった俺ェ!!」

 

「…あの、ラ・フォリアさん何でココに?」

 

「いえ、買い物から帰ってきたら悠が新しく出来た此処で腕の怪我を治してると聞きましたから混浴でもと思いまして。そしたら川内達が何やら興味あるお話をしていたものですから、つい聞き耳を立ててしまいましてね。

ヒドイですよ、私を仲間外れにするなんて…。」

 

「だってだって!!ラ・フォリアが一番有利じゃん!! 毎晩悠と一緒に寝ちゃってさ!!」

 

「でも抱き枕にされてる以外なーんにもしてこないんですよ?」

 

「それでも十分羨ましいってのーーー!私なんか一回きりでそれ以降は追い出されてるんだよ!?」

 

「お前等少し落ち着けっての!! こんなアホらしい言い合いで…!」

 

「アホらしくない!!」

 

「ええ、女の子にとって重要な話です。」

 

ヒートアップする言い争いに悠が静止を掛けて立つも収まる気配が無いなか、神通は立ち上がった悠のある部分を注視して驚いた表情を浮かべた。

 

「悠さん……腕が…。」

 

「あ?……アレ、もう治ってる?」

 

「え?速すぎない?まだそんな時間経ってないよ?」

 

まじまじと見る右腕は火傷を負う前の綺麗な肌色になり、手を開いたり閉じたりを繰り返しても何の支障も見当たらなかった。

 

「確か一、二時間は掛かると言ってたが…明石の誤診?」

 

「さぁ?」

 

「まぁなにわともあれ、これで悠の両腕もバッチリ治りましたし、問題無く…。」

 

「待てや。」

 

ラ・フォリアが背中に結ばれてる水着の紐に手を掛けたのを、瞬時に間を詰めて止めた。

 

「何脱ごうとしてんの?」

 

「いえ、問題無く両手が使える状態になった記念に、裸の付き合いでもと思いまして。」

 

「何の付き合いをする気だ!?」

 

「ハッ、マズイ!折角一歩有利に事進めたのにラ・フォリアのペースに…!

かくなる上は、私も…!!」

 

「お前もヒモ解こうとすんな!!」

 

「うぅぅ……わ、私も覚悟を決めて、いざ…!」

 

「決めんで良いわ!!」

 

三人の暴走に奮闘する悠の理性は後に検診に来た明石によってどうにか保てられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。休日の街外れの山道で一台のスポーツカー、ネクストライドロンを走らせていた悠はハンドルを握りながら半ば鬱憤を吐くような口調で助手席に座る人物とここ数日の出来事について語っていた。

 

「と言う訳で、最近のアイツ等のアプローチがのレベルが上がってきているこの状況、一体どう対処すればいいだろうか?」

 

「…うん。取りあえず、爆ぜろ!とだけ言っておこうかな?」

 

助手席に座って事の流れを聞いた人物、松永 燕は率直な感想を悠に述べた。

 

二人は今ある目的の為に行動しており、目的地に辿り着くまでの道中の話しとして悠のラ・フォリア達に対する悩みを打ち明けていたのだ。

 

「ていうか、それをどうして私に言うのかな?」

 

「ん? あぁ理由? 少なくともアンタほどの人心掌握が得意そうな人間は知らないし、その上俺の正体を知ってから最適かと思って。」

 

「うーん…これは信頼の証と見ていいのかな?」

 

「信頼はしてない。むしろ信じちゃいけない類の女だよ。アンタ。」

 

「アハハ…私ってそんな悪女に見える?」

 

「今はまだ、な。 それで?さっきの話し、どうよ?」

 

「そんな相手によくそういう相談持ち掛けるね、キミは…。

そうだねぇ……君自身は彼女たちの事をまずどう思ってるの?」

 

「好きか嫌いかと言われれば、迷い無く好きな方だよ。ただ、恋愛感情とかそういうのは…。」

 

「そうかぁ。じゃあさ、キミは彼女等の告白を受けてどう思ったの?」

 

「そりゃ…………嬉しい、のかな?

そういった感情を向けられるのは本当に久しぶりだから尚更…。」

 

「ふむふむ…なら率直な所効くけど、今の所キミはどうするつもりなの?誰か一人選んで結ばれるのか、それとも誰も選ばないか。」

 

「……………そこが分からなくなっているんだ。

…最初は後者一択だった……でも…。」

 

「でも?…。」

 

「…………いや、やっぱいい。それ以上言ったら、色々複雑になって来る…。」

 

「…そっか。じゃあ仕方ないね。」

 

「………ごめん。」

 

「え…。」

 

「相談に乗って貰おうとしたが、結局ただの愚痴を聞かせるだけになった…。?。なんだよその意外なモノ見たような顔。」

 

「あ……ううん。こっちこそ何でも無いよん!」

 

「…そう。…もう着くぞ。」

 

「うん、分かった……ねぇ。今更なんだけど、あんな話聞いた手前私と二人きりでこんな所に来ている事に対して変な誤解持たれない?」

 

「大丈夫だろ。こっちはやましい事してないんだし堂々としてれば。それにいざとなれば証人だっているし。」

 

「証人?…誰かにこの事言ったの?」

 

「いいや、知ってる人間は俺とお前の二人。」

 

「じゃあ一体誰が証人に…。」

 

「ん。」

 

片手で指差したのは、車内に取り付けられていたドライブドライバーを見て燕は怪訝な視線を向ける。

 

「ねえ。これって私をからかってる?」

 

「いいや。」

 

「じゃあ、何でベルトが証人扱い?…あ、そうか!録音か映像を記録するんだ!!へぇーこれってそういう機能もあるんだ…。」

 

<…まぁ確かにその位の機能なら搭載されているよ。>

 

「え?………うわぁあッ!?!? べ…ベルトが、喋った…?」

 

「やっぱアンタでもそういうリアクションはするんだ。」

 

<こういうのを俗に言う、お約束、と言うモノだと私は最近知ったよ。>

 

車内でこんなやり取りをしてると目的に着いたのかネクストライドロンは停車する。

 

二人が降りたのは山中の開けた荒野だった。人気が無く障害物に成り得そうな木々や岩も無い所だった。

 

そんな二人の手には、互いのベルト。平蜘蛛とドライブドライバーを腰に着けた状態で相対する。

 

「じゃあ早速始めるとしよう。」

 

「うん…ありがとうね。こんなお願い聞いてもらって。」

 

「久々の良い夜を過ごせた礼だ。この位ならどうって事無い。」

 

「オーケー。ならそういう事にしておくよん……変身!」

 

燕は平蜘蛛を起動させ戦闘服をその身に包む。対する悠もイグニッションを回してシフトブレスを巻き手にはシフトカーが握られてる。

 

「クリム。出力をローギアに調整よろしく。」

 

<了解した。…余計な口を出すつもりは無いが、それで行くのは彼女の精神に支障をきたすのでは?>

 

「この位で心揺さぶられるならその程度だよ。なによりコレはアイツの望んだ事だよ?”俺と本気で戦いたい”なんて馬鹿げたお願いなんて、な。」

 

<フム…人間と言うのは時に不可解な行動を起こすと言われるが、コレが正にそうなのか?>

 

「あぁ。そうだね…変身。」

 

 

 

<< DRIVEtypeSPEED! >>

 

 

「ッ!!」

 

 

悠が変身し燕の前に見せた姿。それは燕の命を救い彼女が始めて見た戦士、プロトドライブであった。

 

「…それは揺さ振りの策でその姿なのかな?」

 

「他のじゃ強すぎてアンタに合うのがこれしか無かったんだよ。競技用とガチのじゃえらく勝手が違うんだから…。」

 

「…ふぅーー……っし!ならばいざ、尋常に!」

 

「あぁ…来な。」

 

その言葉が開始の合図の様に駆けだした燕は、大きく跳躍。蹴りの体制に入り、プロトドライブは拳を構える。

 

「ハァアアアッ!!」

 

「ゼァッ!!」

 

突き出された足と拳がぶつかり、偽りの無い戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいまー……アラ?」

 

燕との戦闘を終えて帰宅した悠。リビングで彼を待ち構えていたのは私服姿の古城と深刻な顔の雪菜だった。

 

「よぉ。」

 

「おぉ。何々?二人揃って…ってそれはいつもの事か。王女が呼んだのか?」

 

「いいえ。悠に用が有るみたいですよ?なんの用かは私もまだ聞いていないんですけど…。」

 

「用?…もしかして婚姻届の証人になれってか?それなら喜んで書くぞ。」

 

「まぁ!遂に結ばれたのですね!!」

 

「違ぇ!!毎度毎度お前はそうやってオレと姫柊をからかわなきゃ死ぬ病気にでもなってんのか!?」

 

「お前が期待通りのリアクションして来るのが少ない楽しみなんだよ……で、リアクションが今日は薄い姫柊が俺になんの用?」

 

何時ものやり取りと比べ様子が違う雪菜に悠が目を付けたのが当たっていたのか、古城の後ろにいた雪菜が前に出て深刻な顔から重い口を開いた。

 

「……獅子王機関から緊急の連絡が入りました。来たのは灰原先輩の耳にも入れておこうと思って…。」

 

「俺に?…なんだ?」

 

「………BABELの情報です。」

 

「ッ!」

 

「BABELは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦王領域・アルデアル公国の君主。ディミトリエ・ヴァトラーを襲撃。更に彼から戦王領域の情報を奪取した後、第一真祖“忘却の戦王”(ロストウォーロード)の夜の国・戦王領域に襲撃を仕掛け、大々的な被害を出したとの事です。」

 

 

「ッ!?」

 

「なッ!?…ヴァトラーが…?」

 

「そんな…なんてこと……。」

 

 

雪菜の口から告げられた報せは全員の予想を遥かに超えた衝撃をもたらした。

 

この街を起点に活動していたBABELがそのルールを破って国に襲撃を仕掛けた。ずっとこの街を中心に破壊活動を仕掛けると決めつけていた悠の考えが外れたのだ。

 

 

「…大々的と言ったが、詳しい被害は?」

 

「…アルデアル公や戦王領域内の吸血鬼達、そして第一真祖に深手の重傷を負わせ魔力を…。」

 

「ッ……クソッ!!」

 

雪菜からの報せを聞いて悠は完全に冷静を失ったか八つ当たりするように悪態を吐く姿に、誰も物言う事が出来なかった。

 

「……連中が狙うとしたら、まだ真祖になって日が浅い暁を狙うモノばかりと考えてた。この街から出ずに狙うとしたら格好の得物だと…!

…知った気になってた。今までの言動から奴等の考えをッ……完全に俺の失態だ…。」

 

「悠…。」

 

「灰原…。」

 

手から血が滲み出る程強く握りしめて自分を責める悠に、雪菜はまだ告げてない機関からの指示を意を決して口にする。

 

「…灰原先輩。今回のBABELの襲撃に対し、獅子王機関から新たなる指令が下されました。」

 

「………。」

 

「それは…「悠!大変よ!!」…!」

 

雪菜の口から言葉が出る前に、リビングに慌てて駆け込んで来た瑞鶴が慌ただしく叫ぶ。

 

「今暇潰しにSNSを見ていたら、街で怪人の大群が暴れてるって!」

 

「何ッ!?」

 

瑞鶴に言われて携帯を取り出すと、怪人の出現を知らせるアラームが起動していない。

 

「センサーに反応が無いぞ、確かか!?」

 

「本当よ!!写真付きも見たけど確かに怪人よ!!メカメカしく無いからロイミュードじゃなくて多分ファントムだと思う!!」

 

「だったら何故センサーが…?、とにかく出る!外に出てる秋に現場へ直行するよう伝えろ!!」

 

センサーの誤作動を疑った悠だが今はそんな事より事態の収拾をすべく家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来たか。」

 

また別の場所では道場のような場所で座禅を組んでいた蓮司は、携帯のアラーム音が鳴った直後その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠はライドチェイサーに跨り街道をフルアクセルで走っていた。向かう先では遠くからでも見える破壊行為の爆発と倒壊する音が聞こえるなか、瓦礫で道が塞がれバイクで通れなくなったのを見てバイクから降りてその瓦礫の壁を飛び越えた。

 

積まれた瓦礫の山を越えて悠の視界にこの騒動を引き起こした根源である怪人が暴れていた。

だが悠はその姿を目にするや否や、信じられないモノを見たような驚愕の現実を叩きつけられる。

 

そんな悠の背後から近づいてく影が一つ。連絡を受けて駆け付けた秋が瓦礫を飛び越えて悠の元まで来た。

 

「おっ待たせ悠兄さん!オレが来たからにはもう安心…!」

 

「どういう事だ……何故奴等が此処に…?」

 

「?おーい!何ブツブツ言っちゃってんの!?それよりも早く敵倒さねえと……ッ!?」

 

悠の様子が可笑しい事に疑問を抱きながらも、悠の隣に立った秋の目に写ったモノに悠が可笑しくなった原因の正体が分かった秋は、悠の胸中にある念を代弁するかのように口にしだした。

 

「…は、はは…どういうこった?何で…何で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何で”イマジン”が暴れているんだよ!?」

 

 

 

 

 

悠と秋の目に写っている異形の怪人。両手が鉤爪、ドリル、丸鋸などそれぞれに違う武器を取り付けたモグラをイメージさせられる怪人。”モールイマジン”が集団で建物の破壊活動を行っている。

 

BABELが生み出した怪人、ロイミュードでもファントムでも無い。別次元の怪人の出現に、悠達は困惑しているが、次々と壊される街の様子を見て止まりかけた思考が動き出す。

 

「ッ! 何でイマジンが居るかは分からんが、どの道倒すしかねぇ!秋!!」

 

「ッ! お、おうッ!こうしちゃいられねえ!!」

 

<< DRIVER ON! >>

 

<< ブラッドオレンジ >>

 

 

「変身ッ!」

 

「変~身ッ!」

 

 

<< ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道・オン・ステージ! >>

 

<< L・I・O・N LION!>>

 

 

悠は武神鎧武、秋はビーストへと変身し暴れているモールイマジン目掛け各々の武器を手に駆けだし、攻撃を仕掛けに行く。

 

 

「ゼァッ!!」

 

「デリャァ!!」

 

 

狙いを着けたモールイマジンに気付かれながらも振り降ろした剣はそのままモールイマジンの体を斬り付ける。

 

 

 

 

 

 

──”MISS!”──

 

 

「ッ!? 何ッ!?…フッ!」

 

「何今の!? …オリャ!!」

 

 

──”MISS!"──”MISS!"──”MISS!"──”MISS!"──

 

 

武神鎧武とビーストの攻撃が当たるたび出て来る”MISS!”という表記が現れ、攻撃を与えたモールイマジンは大したダメージが伝わって無いのかピクリとも反応しない。惑わせながらも攻撃を繰り返すが何度当てても止まず出て来る表記。

 

絶えず攻め続けるも一向に倒れないモールイマジンは、反撃に二人へ攻撃を仕掛けに行った。

 

「グァッ!」

 

「ウワァッ!!」

 

当たった瞬間二人から”HIT!"の文字が現れ、後ろに吹き飛ばされる。

 

「攻撃が、通じない? アイツ等イマジンじゃないのか!?」

 

「だったらコレでどうだよ!!」

 

<< KICK STRIKE! GO! >>

 

「オウラァアッ!!」

 

ビーストが必殺技を仕掛けキックを繰り出して行くが、ビーストのキックストライクも通常の攻撃と同様にモールイマジンに当たった瞬間”MISS!"の文字が現れると無効化されて弾かれてしまう。

 

「グァァアッ!!」

 

「秋!!──ッ!」

 

必殺技を弾かれたビーストの元まで駆け寄る武神鎧武に別方向から青いエネルギー光球が武神鎧武の近くで着弾しその爆発の威力に武神鎧武の体は吹き飛ばされる。

 

「ヌァッ!!──グゥゥッ!」

 

「悠兄さん!…ッ!あ、アイツは…!」

 

「オイオイ…洒落じゃない冗談にもう頭がパンク状態だっての…!」

 

武神鎧武目掛け攻撃を放ったであろう当人が、道を開けたモールイマジンの群の中を悠々と歩きながら二人の前に姿を見せた。

 

モールイマジンとは違い、圧倒的な威圧感を放つソレは姿を見せただけでも今の二人を窮地に追い込ませるのに十分な存在感だった。

 

 

かつての別世界で未来の侵略者であるイマジンと時の運行者の最終対局にて最大の壁として現れたラスボス──。

 

『オレは、なる!…完全なる存在に!』

 

白い死神を思わせる姿と武器である鎌を構え堂々と出て来たイマジン───デスイマジンを前にかつて無い動揺を隠しながら武器を構える武神鎧武。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──フフフ♪…アハハハッ!」

 

その光景を遥か遠くから眺めてるアベルは手を広げ空を見上げながら大声で告げた。

 

この世界に巻き起こる、新たな混乱の狂乱劇を。

 

 

「ようこそ! 世界の命運を賭けた、最高にクールな狂乱の舞台へ!!」

 

 






なんだかんだで好きです。スタークのキャラとか。

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