その男が進む道は・・。   作:卯月七日

115 / 187


今日の仮面ライダーが無い分、少し長めに書いてしまった…。


駅伝とかゴルフとかそりゃ楽しみにしてる人は居るんだろうけど、どうしても日曜の朝にやる必要があるんですかね?


接触

 

 

 

「では此方が今週分の成果報酬です。」

 

クラウディオから手渡された小切手を受け取り書かれてる金額を目に満足気で懐に入れた悠。

 

スティールソルジャーの初めての戦闘から数日、マープルの自室にて報酬を受け取る為に悠は足を運んでいた。

 

「にしても欲張りなガキだねぇ、一介の高校生のクセに随分とたかったモンだ。」

 

「この五日で九体。 多対一の状況もアリで、命がけのバイトにしちゃあこの位貰ってもバチは当たんねえと思うよ?……それに。」

 

提示した金額に文句を着けに来たマープルにサラッと受け流しながらマープルの座る席にゆっくりと近づきながら語り続ける悠。

その眼の奥には隠し事を見抜かれるような鋭い視線が籠められているのをマープルは長年の経験からそれを感じ取れた。

 

「ここ最近の戦闘で結構溜まったんじゃない? スーツを作ったおたく等の知名度も…スーツの戦闘データも。」

 

「…前半はともかく後半は何の事だがね…。」

 

「……ま、俺はちゃーんと貰えるモノ貰えれば何の問題も無いけど。」

 

それだけを言い残し悠はマープルの自室から出て行った。

 

悠が去って行った後を見送ったクラウディオは尽かさずマープルの傍に近寄り声を掛ける。

 

「…気付かれてるのですかね、例の件について。」

 

「そんな筈無いよ。たかが一介の高校生が知れる安い案件じゃない…と、言いたいが、あの得体の知れないボウヤだとそうハッキリ言えないねぇ。」

 

「どうされますか? なんならいっその事全て話して、報酬次第で此方に積極的に協力させるという手もあります。 正体は定かではありませんが、腕は確かなようですし…。」

 

「どうだがねぇ、少なくともあのボウヤが素直に了承するなんてイメージが全然湧いて来ないよ………むしろ…。」

 

「? いかがされましたかマープル?」

 

「……いや、何でも無いよ。 それよりもまずはコッチの件を片付けるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、いたいた。 おーーい!灰原君!! こっちこっち!!」

 

「あぁ久信さん。 すいません、待たせたようで。」

 

「いやいやそこまで待ってないから、気にしないで良いって!」

 

本社ビルのエントランスの場で悠は事前に待ち合わせを約束した久信の元まで来ていた。

 

「じゃあ行こっか!

…それにしても僕に技術部の見学を頼むなんて、そういうの装着者の権限とかで僕無しで何時でも入れるんじゃないの?」

 

「いや~、流石に勝手の知らない所を図々しく入るのはちょっと…(下手に向こうに探ってるのを感付かれる訳にはいかないし。)」

 

「あ~、確かにそういうのあるよねぇ、でも今じゃキミは技術部のアイドル的存在なんだから堂々と顔見せても大丈夫だと思うよ?

あ、このエレベーターで下降りるよ。」

 

会話をしながらエントランスから離れたエレベーターへと乗り込み近階数のボタンを押すと二人を乗せたエレベーターは地下へと降りていく。

やがて階層へとたどり着き扉が開くと、無機質な白一色の壁と床が二人を出迎えた。

 

「なんか如何にも研究所ってカンジっすね。」

 

「まぁね、ボクも此処に来たときそう思っちゃったよ。

…この扉の先が技術開発の部屋だよ。」

 

長い廊下を歩いた先には厳重なセキュリティーが設けられた扉が。 久信は首にかけてる社員証のようなカードを扉横の操作盤にカードを翳し、数字を入力すると扉が開いた。

 

「さて、ようこそ技術開発部へ! キミが使ってるスティールソルジャーのスーツも、会見の時に倒したガードクッキーも皆ここで造られたんだ。」

 

「へぇ~、こりゃ想像してたよりも凄い…。」

 

開発部の広さやガラス越しに見れる作業内容。機材の品揃え等もどれも一般のより遥か高性能の機材が並べられてる光景は思わず自身のラボと比べてしまう程であった。

 

暫く久信の説明を聞きながら周ってる様に見せ一つ一つを注意深く観察する悠。やがて二人はスティールソルジャーの開発部門のスペースへと足を向ける。

 

ベルトの状態では無く、展開されたスーツの状態のスティールソルジャーがケースの様なもに寝かされながら、数多くの技術者たちが議論してる光景を久信は嬉々とした表情で語り出す。

 

「で、ここが僕の担当するエリア。 スティールソルジャーのメンテナンスをしたり、バージョンアップをする場所だよ。今も更なる改良を考えて色々試している最中なんだ。」

 

「へぇー。まだ強くなるんすか、アレ。」

 

「ああ。 僕達の手掛けたスーツがこの街の平和を守る。 そう考えると俄然やる気が出るじゃないか!

……その分灰原君には負担を掛けてしまうようで申し訳無い気持ちで一杯なんだけど…。」

 

「…いいえ。 寧ろこっちも俄然やる気が出ますよ。

自分が身に付けて戦っているのは、そういう思いで造られた努力の結晶なんだって。 俺なんかより、久信さん達の方がよっぽど立派ですよ。」

 

「灰原君……うん! キミにそう言われちゃ、ますます手を抜くわけにはいかないね!!

そうだ! 折角装着者に灰原君が居るんだから、スーツを着けて何か気になった所や、ああして欲しい所があったら是非みんなの前で言ってくれないか? 実際スーツを着て戦ってるキミの方が僕達よりずっとスーツの調子に詳しいだろうし!」

 

「えぇ。 そういう事なら喜んで協力しますよ。」

 

「ホントかい!? ありがとう!! おーい皆!!ちょっと聞いてくれ!!」

 

悠の了承を得た久信は議論していた技術者達の元へ向かって駆けだして行った。

 

輪の中に入って先程の会話の内容を説明している久信の姿は、年配の姿より若々しく、まるで子供の様に目を輝かせており説明を聞いてる技術者たちも同様の目の色が窺えた。

 

彼等は本気だ。自分達が手掛けたスーツが市民の平和を守る希望として情熱を掛けている姿は、嘘偽りの無い熱意である事が伝わった。

 

 

 

だが彼等は気付いていない。その希望が必ずしも正義の道を歩み続けるという保証はどこにも無いのだと。

 

 

久信が離れたのを隙見て悠は、手に見えないよう隠し持っているモノを手放す。

 

それはダークドライブの変身の際に使うシフトネクスト。手から離れたシフトネクストは独りでに何処かへ走り去って行く。

 

(久々だよな。 こういう汚れた仕事、ていうのは。)

 

「お待たせ灰原君! それじゃあ早速だけど、皆に聞かせて貰って良いかな?」

 

「えぇ、問題無いですよ。」

 

久信に薦められ色々と質問を用意している技術者達の輪の中へ行こうとした時だった。少し離れた所で口論をしている様な怒号が聞こえて来たのは。

 

「オイオイ! 流石にソイツは聞き捨てならないぜ、一体何処に不満があるってんだ?」

 

「ですから! 一度も使わないだろう武装にデータ容量喰われるより、もっと効率よく…!」

 

 

「…何すかねぇ、アレって。」

 

「あの人は……ゴメン灰原君、ちょっと待って貰って良い?…おーい!どうしたの?」

 

「あ、松永さん…実はですね…。」

 

口論をしている一人に何処か見覚えを…いや、むしろ知っている顔に悠は目の色を変えた。

 

若い技術者から口論の原因を聞く久信。

 

「成程、そういう事か…。」

 

「ひでぇだろ? オレが考えて取り付けた武装を外して別のに変えるなんてよ。」

 

「ですけど、戦闘では主に銃とブレードの二つメインで戦ってますし…流石にパイルバンカーって扱いづらそうな武装は外して別のヤツに…。」

 

「全く分かってねえなぁ、ロマンある一撃必殺の武器が男のアクセサリーなんだよ。」

 

「いや、カッコよく言ってますけど男のロマン一回も使われてませんから。」

 

「今じゃ無くともこれからって事があるだろうよ! とにかくだな……お、オイオイ。話しすりゃイイとこにいるじゃねえか。」

 

自身の考えた武装を力説しようとした男は離れて見ていた悠に目をやった。

男は悠の元まで歩み近寄り、対面する形となる。

 

「よぉ! 噂は重ね重ね聞いてるぜ、装着者。 こうして話すのはお互い初めてだったよな。」

 

「アナタ確か、ウチの学校の…。」

 

「おう、受け持ってるクラスは違うがあの学園の教師もやって、堕天使の総督をやってるアザゼルだ。 近い内会って話して見たいと思ってたぞ、灰原。」

 

「あーー、アナタが例の総督ですか。 ウチの担任がグチグチとセクハラだ汚らしいカラスとか言われてた。」

 

「オイ待て。 誰だお前の担任?」

 

「おチ…南宮先生ですけど?」

 

「かぁー、空隙のとこの生徒かよ……てかお前さり気無くアイツの事チビとか言おうとしてなかったか?」

 

「まぁそこの所は置いといて……何か揉めていたようでしたけど? 武装がどうのこうのとか…。」

 

「おぉっとそうだった! お前よぉ、聞いた話じゃスーツの武装ほぼブレードで戦ってるって言うじゃねえか、スーツに備わってる武装の種類は一通り聞いてるんだろ?」

 

「聞いてますよ。 その上でコレ使えばこうなるかなー、なんて考えながらやってますし。

まぁ確かにそう言われればほぼ剣とか銃でやってますけど。」

 

「成程。 てことは、だ。 敵や状況によってはパイルバンカーも使う時がある、と。 そういう考えもあるって事で良いんだな?ん?」

 

アザゼルの問い掛けに首を捻りながら、うーんと腕を組む悠。

 

「…………………まぁ、固いヤツとか、それしか武装が使えなくなったら使いますけど…。」

 

「よぉしよく言った!! ホレ見ろ!正規の装着者様がこう言ってるんだぞ?」

 

「アハハハ……まぁ、アレだね。 外すかどうかは色々と使ってみて決めるという事で、どうかな?」

 

「わ、分かりました…。」

 

渋々というか気押されながら技術者は返事をし、アザゼルはその返事を聞いて満足したようで悠の肩をバンバンと叩きながら気さくに話し掛ける。

 

「いやーやっぱりオレの見込んだ通り分かってくれるヤツだったぜ!! 戦う男にはどうしても外せねえロマンってモンがよ!!」

 

「あー…まぁ、どうも。」

 

「灰原君。この人はね、前言ったスーツの開発の大きな壁となった動力源の問題を解決してくれた功労者なんだ。 だからこうして開発部の出入りも自由にしてるんだよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「おうよ! 動力のコアを造ってみたわいいが丁度良い使い道が無くてな。 そんな時ここで戦闘用パワードスーツの製作の話を聞いてよ。 お互いの利害一致でコイツの開発に手を貸したってワケだ。」

 

スーツが収められてるケースに手を掛けながらアザゼルはこの場に居る経緯を悠に話す。

 

だが悠は既に知っていた。スーツを手掛けた者の一人にアザゼルが関わっている事も、功労者として名を挙げるのに使ったコアの事も。

 

そんな事も知らずに何時の間にかアザゼルも改良プランの輪の中に入って談義し始める。

そんな集団を前に悠の携帯から一通のメールが届き、内容を読み流し気味で読むと一瞬顔が強張るが周りの目に付く前に元に戻す。

 

(やっぱり、まだ人の手には早すぎる代物だったか…。)

 

何処か諦めた物思いで携帯を仕舞う悠。これからやる事が明確に決まった。

 

 

そして、悠の一連の動作を気付かれず見て居た者がいたのに悠は気付いていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~ん…この世界の人間は随分と変わったモノも作るんだねえ…。」

 

何時ものビルの屋上でアベルは何処からか入手した新聞を手に寝転びながら読み上げた文の記事を口にした。

生地にはデカデカとスティールソルジャーの写真が載せられ、ここ最近の活躍について挙げられていた。

 

寝転んでいるアベルの横で置かれてるゲンムの使っているパッド、ガシャコンバグバイザーに閉じ込められてる番堂が口を出して来る。

 

<実際にロイミュードやファントムを倒してる辺りそこそこ高性能なんだろうが、一番の功績を立てているはスーツの性能じゃ無く、彼の技量だろうね。

普通の奴だったらここまで名前が広がる事は無いだろうね。>

 

「そんなのどーでもイイ事だよ。 それよりも気にいらないのは…こんな三流役者が横からしゃしゃり出て来た事だよ。」

 

手にしていた新聞がライターもマッチも無いのに勝手に火が着いて燃えていく新聞を適当に放り投げる。

 

「やっと撒いた種が芽吹きだして盛り上がり時だってのに、ボクの断りも無く勝手に舞台に上がるなんて……主役も、敵役も、エキストラも、このボクが選び抜いた役者を差し置いてぬけぬけと出てきやがって…ボクの造り上げる舞台に、こんな役者はボクの舞台に必要ない。」

 

燃え移る火がスティールソルジャーの姿が灰に変わり、風に吹かれる灰と共にアベルも霧の様に風と共にその場から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──とまぁ、こんな所ですかね着けていて気になった所は。」

 

「うんうん、成程。

銃を構える時の若干のズレと、蹴る時の打点の高さが低くなってる、と…。

う~ん、やっぱり生身と身に付けている状態とじゃ、僅かな違いがあるか。その辺気を付けていたつもりだけどやっぱり完璧とはいかないね。」

 

「あぁは言いましたが、その辺のズレぐらいなら馴れでどうにか出来ますよ?」

 

「いやいや、装着者に全力のパフォーマンスが出来る様に調整すれば生存率が自然と上がるからね、この課題も僕達にとっては大きな課題なんだよ。

後気になった事は無いかい? 武器が使い慣れないとか、重いとか。」

 

「えぇ、さっき言った二つ以外は大丈夫です。」

 

「分かった。 じゃあこの二つのどうにか出来ないか皆と話し合ってやってみるよ。」

 

「お願いします。」

 

「松永さん、すみませんちょっと聞きたい事が…。」

 

「ああ!ちょっと待ってて! ゴメン、少し席離すけど…。」

 

「大丈夫ですよ。 久信さん達が忙しいのは重々分かってますから。」

 

久信は悠にスーツの調整具合の注文を聞いた後、呼び出された久信はゴメンと一言言った後席を立った。

 

残された悠は渡された資料を手に疑問点を聞いて居る久信達の姿を眺めながら、先程渡された缶コーヒーを口にボーっとしていた。

 

そんな悠の隣にアザゼルが近寄り話しかけて来る。

 

「よぉお疲れ、随分と話し込んでたじゃないか。」

 

「えぇ。でも有意義な時間でしたよ。ところでアザゼルさんは…いや、先生?」」

 

「好きに呼んでくれればいいさ。 さんでも先生でもなんでも構わねえよ。」

 

「じゃあ、汚れたカラスで。」

 

「オイ。」

 

「冗談です。」

 

ジョークをかましつつ友好的に放す悠にアザゼルも悠の人となりを大分知ってか、隣に腰掛けて色々と話し掛けてきた。

 

「そう言えば見させて貰ったぜ、適性試験の結果とここ数日の戦闘ログを。 お見事、としか言いようがなかったぜ。」

 

「それはどうも。 途中ヒヤッとした場面もいくらかありましたけど。」

 

「だがそれを無事突破した。 時には民間人を後ろに庇いながらの戦闘もあったが、敵の撃破では無く防衛に主を置きながらその場から一時撤退。民間人の安全を確保した後再度戦線に戻り撃破。

これは簡単そうに見えて中々出来る事じゃ無い。 ベテランの軍人ですらも容易には出来ない。」

 

「偶々上手くいっただけですよ。 近くに避難誘導していた警官が近くに居て本当に運が良かった。」

 

「…聞いた噂はそれだけじゃねえ。 ウチの学園で不利な状況の決闘に勝ったとか、武神の川神百代を恐れさせた、トーナメントではウチのとこのイッセーと木場を武器も使わずに簡単に勝った…。

…しかも、だ。 お前誰も知らねえファントムとか言うバケモノの事を知っているみたいじゃあねえか。しかも今個人的に調べているとか。」

 

「……前半はともかく後半は何の事やら。」

 

「オイオイ、この期に及んでシラを切るのは無理があるぜ? これでも堕天使勢のトップだ、それなりの情報網がある。」

 

「…先生は随分と俺にご執心のご様子で、生憎と生徒と教師の関係はアレですし、なによりソッチの気は全くありませんし。」

 

「バーカ、野郎となんざオレだってご免だ。 なによりお前、女関係の方も相当手が広いとか聞いたぞ?この間もパーティーじゃあ松永の嬢ちゃんと終始良いムードで過ごしたとか。」

 

「ビジネスパートナーとして、ですよ……で、まどろっこしい前置きは止めてそろそろ本題に入りません? そこまで俺の個人情報調べて、一体どういうお考えなのかと。」

 

「……オレもこういうのはあんま好きじゃねえが、立場上な……。

お前さっき携帯、弄ってたよな? 誰からだ?」

 

「買い出しのメールを、帰るついでに卵買って来て、ですよ。」

 

「………可笑しいんだよなぁ、それがよ。」

 

「…何が?」

 

突然、アザゼルの目の色が変わる。 今悠に向けられているのは、疑念の眼差しだった。

 

「ここはよ、云わば九鬼の機密やら何やらが保管されてる重大な場所なんだ。 ココに入る際のセキュリティーも相当のモノだったろ?

……ここはな、内部からも情報漏洩を防ぐ為に外部からの通信電波は一切遮断してんだよ。」

 

「……。」

 

「ココまでいえば分かるだろ? お前がさっき言った買い出しのメールは本当なら送られてくるわけねえんだ。だからお前が携帯取り出して何かを読み取ってるのが気になってよ。」

 

アザゼルの指摘に悠は顔色こそ変えないが、その裏は若干の変化が見られていた。

そんな悠の心境にアザゼルは気付いてるいるかのように、畳み掛けてくる。

 

「さてここからが本題だ…灰原、お前は一体何が目的で此処に来た? スーツの装着者になったのと何か関係があるのか?」

 

「………それは…。」

 

 

 

 

「た、大変だ!!」

 

悠がアザゼルの追及から口を出そうとした最中、酷く慌てた様子の久信が二人の間に入って来て、大声で悠に知らせる。

 

「大変だよ灰原君! 今上のエントランスで────ツ!」

 

「ッ! 何だと…!?」

 

久信の報せに悠はアザゼルの追及など忘れた様に動揺の色を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

九鬼本社エントランス内。

 

ゲートを潜れば清潔感溢れる広大な広場が九鬼の大きさを初見で示して来る、いわば玄関口は鉄火の戦場と化していた。

 

ゲートを派手に爆発させ人々を混乱の渦に招き入れたモノの正体は二体の死神ロイミュード。 九鬼の序列階位の精鋭たちが対抗しているも人智を超えた異形の機械生命には足を止める事もままならず負傷者を出していくばかりだった。

 

「FUCK! 撃っても撃っても全然ッ、効かねえ! マジでウゼェアイツ等!!」

 

「死角からの奇襲もてんで効果ナシ。おまけにさっきので手持ちが………武器がもう”クナイ”しか無”クナイ”?」

 

「こんな時にまで親父ギャグまかしてんじゃねえ!! つか武器ならクナイ以外も持ってるだろテメエは!!」

 

エントランスでロイミュードの侵攻を食い止めている二丁の大型ライフルを構えた金髪のメイド序列十一位 ステイシー・コナーは悪態を吐きながら銃をロイミュード目掛け発砲し続け、その隣では黒髪短髪のメイド序列九位 李 静初は何を考えてかこの場に似つかわしくないダジャレを言ってステイシーに怒鳴られてた。

 

二人の視線の先には序列持ちの精鋭たちをいとも簡単にあしらっていくロイミュードを忌々しく見ながら本棟へ繋がる通路の前に陣取り、弾倉を変えたり残った手持ち武器の確認をする。

 

「今回は冗談は抜きで色々大変ですね。 不幸中の幸いは帝様ご一行が遠方での取引で不在中でしょうが。」

 

「そのお供にコッチの最大戦力も不在じゃあ、どの道ツイねえじゃねえかよ。どーすんだよもうまともにやれるの私らしかいねえぞ。」

 

「いえ、私の記憶が確かなら今此処に例の彼が…!?…アナタ達は…。」

 

李とステイシーが守ってる通路口からエントランスへと向かって来る複数の気配に気付く。

 

李が驚きながらも姿を現わしたのは、それぞれの得物を手にしたクローンの三人。義経、弁慶、与一の三人だった。

 

「何をやってるんですか? 今此処が危険なのは見てお判りでしょう?」

 

「分かってるとも! だからこそ義経達も来たのだ!!」

 

「主がこう言ってるもんだから仕方なくね~。 ま、アタシもウチにカチコミ入れられて黙って呑むのも割に合わなくてね。」

 

「勘違いするなよ。オレはようやく姿を現わした組織の奴等を見に来ただけだ。

オレの運命とも呼べる、正にこの刻をな!」

 

「だぁーー! 冗談じゃねえ!!こんな状況下でお守りも追加かよ!?」

 

「きもちは大変ご立派ですが、貴方方に万が一があれば私達の首が飛びます。 ですので許可は出来ません。」

 

「でも皆が傷ついてまで戦ってるのに、義経は隠れてるなんて…。」

 

「私達には私達の戦場が、貴方達には貴方達の戦場があるという事です。 さぁ早くここから…ッ、伏せて!!」

 

李の掛け声と共に皆が頭を伏せていくと、頭上を通過していく吹き飛ばされた序列持ちが壁に激突して倒れ込む。

そして吹き飛んできた方角へ目をやると、飛ばしたであろう死神ロイミュード達が通路、五人の居る方へ向かって歩いていく。

 

「ステイシー。 どうにかして三人が逃げる間の時間を稼ぎますよ。」

 

「JESUS…やるっきゃねえか、チクショー。」

 

三人を庇う形で武器を構える李とステイシー。後ろで、特に義経が納得のいってない様子で叫んでいたが二人の意識は既にロイミュードへと向いており一切耳に入って来なかった。

 

精鋭たちをあしらってきた死神達は駆け出す。 脅威では無いと判断しても、”与えられた使命”を果たす為に雑魚に大分時間を喰ってしまった。遅れを取り戻す為にも目の前で無意味な抵抗をする邪魔者をさっさと退けてしまおう。

 

それぞれの武器である鉤爪と鎌を手にしながら距離を詰めて行くロイミュード達。 だがそれを阻むが如くの銃弾によってその足は止められた。

 

「ステイシー?」

 

「い、いや今の私じゃねえぞ!?」

 

「じゃあ一体何処から…。」

 

向かって来るロイミュードの体から火花が散ったため、てっきりステイシーが構えるライフルから放たれたモノだと思ったが持っている本人がそれを否定した為に周りは混乱するが、一人、李はようやくかと思いながら通路から走って来る存在に目をやった。

 

 

「いよ、っと!」

 

 

混乱する四人の頭上を後ろから跳び越えた存在は、前に降り立って手に持った拳銃をロイミュードに向けて発砲する。

 

発砲しているのはスティールソルジャーを身に着けた悠。 久信からエントランス内での騒動を聞きつけたのだ。

 

「ん?…おー、何時ぞやのこじらせくんじゃん、おひさー。」

 

「誰がこじらせだ!! …って、お前、なんでここに…。」

 

「社会科見学だよ! それよかコイツ等外に連れ出すから怪我人運んどいてくれや!」

 

発砲する手を止めて拳銃を仕舞い、怯んでいるロイミュード達へダッシュして懐に入る。

 

片手で首元を掴むと、手足から蒸気を噴き出しながらロイミュード二体を押しだす形でエントランスから離れさせ、外へ場所を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

「──っと!」

 

外へと連れ出す事が出来たソルジャーは鎌を持ったロイミュードを踏み台に後ろへ跳んで距離を空ける。

 

死神達は武器を構えてソルジャー目掛けて肉薄して行く。 ソルジャーは拳銃を抜きつつ、ベルトの中央左のボタンを押す。

 

<< ROUND SHIELD! >>

 

機械音が発せられると左腕から直径が60cm位の、縁が紫でカラーリングされた円形の盾が展開される。

 

右手に銃と左腕に盾を装備しての戦闘スタイル。

突き出された鉤爪を盾で受け止め、振り払って流した後がら空きとなった胴体部に銃弾を数発撃ち込む。

 

怯んで下がった所をカバーするように鎌の死神が振り降ろして来るが、ソルジャーはそれを盾でパリィ。 パリィして流した盾を戻した反動を活かして死神の顔面目掛け、裏拳を入れる様に叩き付ける。

 

更に追撃としてた手を装備した左腕で殴る。 盾の縁が死神の胸部に当たり強烈な一撃を叩き入れる。

 

背後から鉤爪が不意を突いて光弾を放つ。 ソレに気付いたソルジャーは盾を翳してガード。盾で身を守りながら死神の周りを拳銃を発砲しながら駆け周り、死神に当てる。

 

そんな光景を後を追い掛けてきたクローンの三人組は圧巻しながら見ていた。

防御に使う盾を攻撃にも利用しながら、銃による遠距離攻撃で敵を圧倒している。 スーツの性能もそうであるが、それを完璧に使いこなしてる悠の実力にも驚いているのだ。

 

 

「すごい…。」

 

「うん…さっきから一発も外してないよ、あんなに速く走ってるのに。」

 

「アイツ…本当に何者だ?」

 

 

義経と弁慶は悠の実力にひたすら開いた口が塞がらなかったが、与一は死神を圧倒する悠の正体が未だ気掛かりだった。

あれだけの強者がただの一般人なワケが無い。 未だ謎に包まれてるその全貌を疑い掛かってるのだ。

 

 

そんな疑いの眼差しを向けられてるのもいざ知らずにソルジャーは、左腕の盾をなんと取り外し、あろうことかそれをフリスビーの如く投げようとしていた。

 

「ソオッラッ!!」

 

回転の勢いも付けて投げた盾は真っ直ぐと死神の顔面に直撃。 跳ね返って宙に浮いた盾をジャンプして手に取り、もう一体へ投げつけようとしていた。

 

「ッ、もういっちょォ!!」

 

今度は上から来る為に重力の法則も加わった事で威力を増した盾は見事綺麗にもう一体の死神の顔面へ。 先程よりも威力を増した所為か、顔の籠目部分が凹んでいた。

 

ソルジャーは盾を仕舞うと大技を放つ準備をしだす。

 

<< CHAIN BLADE! >>

 

<< FINISH ATTACK! >>

 

ベルトからマガジンを取り出すと、右腕の差込口に差し込む。 すると刀身の根元から光が灯り、やがてビームソードの様な姿となる。

 

「──シッ!」

 

足に力を籠め、籠めた力を吐き出す様に前へ跳躍し間を詰めに行くソルジャーは死神達の懐へ。

懐に入り込み、剣を横一閃に振り払う。

 

剣は死神達のボディを焼き切り、胴と下半身を真っ二つに分けて機能を停止し爆散。 腕の剣を血を不払う様に振って仕舞うと背を向けて元の悠の姿に戻った。

 

「…ふぅー。 おしまい、と。」

 

「おーい!」

 

肩を鳴らしながら歩いてく悠に、大手を振って駆け寄って来る義経達。

義経はあまりの光景に興奮してるのかヒーローショーを見終わった子供の様に目を輝かせながら悠に詰め寄って来た。

 

「すごかったぞ灰原君! 二対一にもかかわらず難無く勝ってしまうとは!! 一子殿の言う通り本当に何でもで出来るのだな!!」

 

「近ッ……まぁ川神さんが何言ってたかは知らないけど、取りあえずありがとう。」

 

「やるねぇアンタ、いやタダもんじゃないってのはトーナメントから薄々感じてたけど…ホラ与一も、後ろに居ないで何か言いなよ!」

 

「止めろ! オレは不吉も招く存在だ。 幾らソイツが秘めたる力を持っていようと、呪われた運命には…。」

 

「あーー…いやゴメンね、コイツ人と接するのがどうも不器用みたいで…。」

 

「いやいやお気になさらず、初めて会った時もこじらせくんは盛大にこじらせてたし。」

 

「オイ!そのこじらせくんってのは止めろ! マジで!!」

 

「う~~ん、とは言ってもイマイチしっくりくるのが………じゃあ簡単によっちゃんで。」

 

「よ、よっ…ちゃん?」

 

「ブッ! ッハッハッハッハッハッ!! よ、与一アンタッ、よ、よっちゃんなんて…!アハハハ!!、そんな駄菓子みたいな…ハァーー、お腹痛い…!」

 

「うるせぇ!!」

 

「与一!! 遂に、遂にあだ名で呼び合える程の友達が出来たのだな!!

義経は……ッ、うぅッ、義経はッ、う゛、嬉じい゛ぞ!!」

 

「お前も泣きながら喜んでじゃねえ!! ちっくしょう!!」

 

「やれやれ、賑やかなんだねえ、よっちゃん?」

 

「テメエの所為だろうが!!!」

 

悠のとんだ一言ですっかり賑やかな場になってしまい、先程まで殺伐とした戦場に居た事など忘れさせる程の笑い声(主に弁慶)に包まれていた。

 

 

だが、そんな賑やかな場を近くの茂みから覗き、構え撃とうとしているのに誰も気づかず…。」

 

 

「ハイハイ、一先ず落ち付……ッ!! 危ない!!」

 

 

「ッ!? ヌォッ!?」

 

「ふぇ?」

 

「なんと!?」

 

 

 

 

 

 

ードガアァァァンッ!!-

 

 

悠達が居た場所から突如立ち昇る爆炎。

 

咄嗟に気付いた悠から押し出された三人は尻餅を着く形で爆発の熱を肌で感じながら呆然としていた。 もし悠が気付いて押し出されなかったら、今頃自分等はあの炎の中心で焼かれていた。

 

そんなイメージが脳裏に浮かぶかハッと気付き、先程の最悪なイメージを振り払う様に立ち上がった。

 

「灰原君!! 大丈夫なのか灰原君!?」

 

「熱ッ! これじゃあ、近ずけないよ…!!」

 

「チクショウ! やっぱオレは呪われたんだ!! その所為で…!」

 

 

「いやいや、それは流石に被虐すぎだって…。」

 

 

よろよろと炎の中から出て来た悠。 生きている事にホッとした義経達だったが、右腕が焼け爛れ夥しい量の血を流してる悠に顔色が一変し、すぐさま駆け寄る。

 

「ちょっと大丈夫!? アンタ、腕が…!」

 

「正直コレでも大分運が良い方だよ…咄嗟に腕で庇わなかったら今頃全身ウェルダンに…。」

 

「あぁもう喋るな! いいからジッとしてな!!」

 

弁慶は腰にぶら下げている瓢箪の中の水を悠の右腕に少しづつ掛ける。 流石に染みるのか顔が痛みで歪む。

 

「酷い…早く医務室に! 与一、肩を!!」

 

「…いや、それはちょーっと難しいかも…。」

 

義経が悠を本社の医務室へ連れてこうとしたが、悠の視線の先には先程撃って来たであろう死神ロイミュードが腕にキャノンを付けた状態で茂みの中から出て来た。

 

「やれやれ…人気者ってのは、辛いねえ…。」

 

「灰原君!? まさか、その状態で戦うつもり…!?」

 

「だってねぇ、あんな熱烈なアンコール求められちゃあなぁ…。」

 

「バカ言うんじゃないよ!! そんな腕でどうやって戦うんだってんだい!?」

 

「まぁどうにか、銃撃ちながらヒットアンドウェイ戦法で…。」

 

「……チッ、ったくしょうがねえなぁ。」

 

平気そうな顔をしてるが、どう見ても無理してるのが見て取れる悠の腰からベルトをふんだくる与一。

 

「オイオイちょっと、まさかとは思うけど。」

 

「怪我人は黙って向こう行ってろ。 オレが時間を稼ぐ。」

 

「与一!? 何を言ってるんだ!?」

 

「アンタ弓以外は素人じゃないか!! いくらスーツを着けたからって…!」

 

「それは大いに同意。 時間稼ぐっつっても…。」

 

「分かってんだよんなの…でもやるしかねえだろ!! 」

 

三人の意見を押し切ってベルトを自身の腹部に巻き付けた与一。 その顔には若干の恐怖が見えるモノの、同時に揺るぎ無い強い意志で満ちていた。

 

<< SET READY… >>

 

「いざ行かん…──装 着ッ!」

 

<< GO! FIGHT! >>

 

悠とは違いポーズを着けながらスーツを身に付けた与一。

 

変わった自身の姿に”おぉ…”っと声が漏れるも近づいて来る死神にすぐ意識を戻した。

 

「行くぞ、機械の悪魔よ!…ウオォオオオッ!!!」

 

ソルジャーは雄叫びを上げながら死神の腰にしがみ付いて、力の限りを振り絞って押していく。 恐らく悠達の避難を優先に考えて少しでも遠ざけようとしてるのだろう。

 

「行けぇ!! オレの屍を超えて行けぇ!!早く!!」

 

「でも与一!!それだとお前が…!!」

 

「…主。 灰原を医務室まで連れて行こう。」

 

「弁慶!? お前まで何を言ってるんだ!? 与一が…!」

 

「私だってまだあの馬鹿のしてる事に納得してないよ!!…でもね、いつもみたいにこじらせてるけど今のアイツは覚悟決めてんだよ…。」

 

弁慶につられて与一を方へ目をやる義経。 ソルジャーとなった与一が死神に拳や砲身を背中に叩き付けられようが必死にしがみ付いて少しでも遠ざけようと奮闘している。

 

「あんな必死な与一を始めて見たよ…アイツにもあるんだよ。男の子の意地ってヤツがさ。 アイツは今私達を逃がそうと必死に戦ってる。 それを無駄にする訳にはいかないよ。」

 

「弁慶……。」

 

「…でも、だからと言って何してもイイって訳じゃないよ! 灰原をさっさと医務室に運んで、人連れて与一の所に戻ってくる!! だから行くよ主!!」

 

「ッ! し、承知!! 与一ーー!! 義経達が戻って来るまで無茶はするんじゃないぞ!!」

 

「いい、からッ! さっさと…行けってんだ!!」

 

弁慶は悠を肩を貸して運びそれに義経が付いて行く形で本社ビル内に向かって行く。

 

ある程度離れ、これなら大丈夫かと思った矢先気が緩んでしまったのか、死神の膝蹴りを喰らいその際に死神から離れてしまい砲身で殴られて吹き飛ばされる。

 

スーツのお蔭で動けなくなるほどのダメージでは無いが、死神はソルジャーを敵として認識し、砲身をソルジャーへと向けた。

 

「…フ。 オレもヤキが回ったものだ……だがこのような運命が訪れるのをオレは予測していた!!故に、抗ってみせようとも!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビル内へと戻った悠達の目に飛び込んで来たのは、ロイミュードの襲撃に対して場の混乱の鎮静化と負傷者の対応に急がされてる救急隊の人員が忙しなく駆け回っている。

 

負傷したのは序列持ちの精鋭だけでなくその場に居合わせてしまった社員なども含められ、大災害が起きた後だと思わせる程だった。

 

「うわ、こりゃ酷い…。」

 

「ま、当然の光景だねこりゃ。」

 

「とにかく一刻も早く灰原君を医者に診て貰わないと、何処か手の空いてる医者は「あの。」…?」

 

余りの光景に呆然と立ち尽くしていた三人の元に一人のメイドが近づいて声を掛けて来た。

 

「義経様、弁慶様。 マープル様から、至急書斎に向かわれるよう仰せつかっております。」

 

「マープルが?…でも灰原君をこのままには…!」

 

「それでしたら私が後を引き継ぎますのでご安心を。」

 

「…そう。ならお願い。 行こう主。マープルのとこに行けばすぐ手配してくれるかも。」

 

「そうか!ならば急いで行こう!! すまないが灰原君、義経達は…。」

 

「そういうのいいから早く行きなよ。 こっちはそこまでじゃないし。」

 

「そんな傷でよく言えるよ。 とにかくアンタも安静にしてなよ。」

 

「あぁ。」

 

弁慶の肩からメイドの肩へ手を回し、悠は駆け足で向かう二人を見送った。

 

メイドの案内で先へ進む悠だが歩けば歩くほど人目のつかない所へ。 ある程度歩くと下を俯いていた悠が顔を上げてメイドに話しかける。

 

「…ナースも良いけどメイドも似合ってるね。」

 

「そう? なら今度家でメイドプレイでもしてみる?」

 

「考えとく…それよりも、地下の開発部が外部との通信が一切通じないとか聞いてないんだけど?」

 

「うッ……ゴメン。 あそこが一番厳重で入れなかったからそこまでの事は…。」

 

「まぁいいよ。 もう中にクリムが入ってるから後は時間の問題。 それよりもまずは、この騒ぎをどうにかしないと…。川内。」

 

「なに?」

 

メイド…の変装をした川内の肩から離れ、悠は川内へこれからの指示を与える。

 

「お前は仕掛けた盗聴器を全部回収しといて、それかその場で壊すか、そこの判断は任せる。 それが終わったら即座に撤収。」

 

「良いけど、悠はどうするの? そんな腕で…。」

 

「確かに重症だけど、止血剤と鎮痛剤打てば多少は動く。

俺はこの騒ぎを収めつつ、例のアレを回収する。」

 

「簡単に言ってるけど出来るのソレ? なんなら私がコッソリ近づいて…。」

 

「向こうが喰い付くエサは知ってる。楽な釣りなのは確かだから、こんな俺一人でも十分。」

 

「でも…。」

 

川内は悠の右腕を見ながら未だ不安な表情を浮かべるが、今までの悠の行動を思い返し、この程度で止まるような男では無い事を思い出す。

些か納得は出来て無いが、彼のやる事は大事な事だ。 邪魔をしたくない一心で無理矢理受け入れる。

 

「…分かったよ。 悠に任せる。」

 

「ありがとう。」

 

「………待って、悠に渡すモノが…。」

 

「?」

 

別れて行こうとした悠だが後ろから川内に呼び止められて振り返ると、頬に柔らかな感触が。

思わず目を見開く悠。 そう、悠の頬に当たってるのは川内の唇だった。

 

「えへへ。 前にラ・フォリアから聞いたんだ。 おまじないだって。」

 

「…てっきり口にやられると思ってた。」

 

「それは夜の時に取っておきたいから、今は、お預け♪

それとも口でして欲しかった?」

 

「それこそ慌ただしい今じゃ無くて、ゆっくり良いムードの時が良いね…なにわともあれ、おまじないどうも。

ちょっとやる気出た。」

 

「…もう片方もする?」

 

「いや、時間が押してるから行動開始で。」

 

「じゃあ終わったらご褒美ってことで! …でもやっぱ無理はしないでよ!!そんな怪我した状態で戦うなら尚更!!」

 

「ハイハイ。 分かったから早く仕事してね。」

 

今度こそ別れてそれぞれの分担をこなす為に動いた二人は別々の道へ。

 

悠は非常口の階段扉前に着くと携帯を取り出して、何処かへ電話を掛ける。

 

「……あぁ明石?俺だけど……あぁ知ってるそこに居るんだから…それでお願いだけど、例のスーツ、準備しといて……マジマジ超マジ、ちょっとした訳ありと起動テストを兼ねてね…あぁそれとだけど、運搬方法はこれからそっち向かうから、何時でも持ち出せる準備をして置いて、じゃよろしく。」

 

半ば一方的に切り、携帯を仕舞って次に取り出したのは金のライダーパス。 パスを手にしながらドアを開け中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──グァァッ!!」

 

一方のソルジャーとなった与一は、死神と交戦中。

 

馴れない近接戦に苦戦を強いられ、地に転がされていた。

 

「この…!」

 

ソルジャーは拳銃を抜いて発砲するも、弓矢と勝手が違うため上手く当てられず、辛うじて当たった場所は急所で無い為に大したダメージは与えられずにいた。

 

「クソッ、やっぱりコイツじゃダメか! 何か、何か他の武器を…!」

 

銃では満足に扱えない事を察し、先程の悠が戦っていた場面を思い出してベルトのボタンへ意識を向ける。

真ん中以外の四つのボタンに指を掛けようとするが、どれがどの武器が出て来るか分からない為半ば運任せで押す事にした。

 

(出来ればさっきの盾! 攻撃を防ぎながら前に出てコイツを撃てば…!)

 

そう思って選びに選んだボタンは、まだ悠が押してない右端から二番目のボタンだった。

 

<< PILE BUNKER! >>

 

 

「……何?」

 

ソルジャーの右腕から出て来たのは、巨大な盾の中心に添えつけられた巨大な杭。 良くて盾、悪くて剣だと思っていた与一だったが…。

 

 

「……カッケエ。」

 

 

コレはコレで悪くないという結果に至った。

 

そんな事を考えてる内に、死神は腕のキャノンをソルジャーへ向けて発砲。

見惚れていたソルジャーはコレに気付いて咄嗟にパイルバンカーを前に翳すと、右腕に強い衝撃が走ったがそれ以外はノーダメージ。

コレに絶好の機会と考えてか、前に翳したまま死神に向けて特攻を仕掛けた。

 

「ウォォオォーーーーッ!!!」

 

迎え撃ってくる砲撃を前にしてもソルジャーの足は止まらずに走り続ける。

やがて死神の懐に入り込み、腕のキャノン砲を弾くと杭の先端を死神のボディへピタリとくっ付けさせ…。

 

「喰らえェエエエエーーーッ!!!」

 

 

 

ーガアァァッンッッ!!!ー

 

凄まじい破裂音と破壊音が混ざり合ったような音が響く。

 

死神の腹部から背中まで貫かれた巨大な杭。ソルジャーは先程の衝撃で腕が動かせない程痺れたが、下がって杭を抜いた。

 

肩で息をするソルジャーの前には体の真ん中を大きく空けられた死神が立ち尽くしていたが、膝から崩れ落ち、完全に動かなくなってしまったのを確認すると、腰が抜けた様に倒れ込んだ。

 

「…は…ハハ……やったぜ……。」

 

見事死神を撃破した事の満足感に浸る与一。 大の字に寝転んで見上げる空の青さが今の自身の心境をあらわすかのように清々しく、スーツを解除するのを忘れるくらいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、三流でもそこそこは出来るんだねぇ…。」

 

「ッ! ガハッ!?」

 

突然聞こえて来た声と腹部に走る鈍い痛みに襲われるソルジャー。

 

見上げた視線の先には、アベルがソルジャーの腹部を踏みつけていた。

 

「誰だお前…!? まさか、組織の幹部か…!?」

 

「幹部ゥ? ノーノ―、そんな小さな役職じゃないよボクは…。言うならば…そうだなぁ……一つの傑作を生み出す芸術家みたいなモノさ。」

 

「グッ…この、退かしやがれ、このッ。」

 

アベルの足を払いのけようにもそれ以上の力で更に踏みつけられ段々息がし辛くなってくる。

 

此方はスーツを身に付けているのに対して生身の人間の筈のアベルの足を振り払えずそれ以上の力で踏みつけられている所為で段々と息がし辛くなっているのと、先程から感じる底知れない圧力に圧されているアベルに勝てるビジョンが浮かばずにいた。

 

「…ま、三流だ何だと思ってたけど意外と出来そうだし…そうだねぇ……こんな役回りはどうかな?」

 

「ッ!? なんだそりゃあ!?オレに一体何を、ッ!? ぐ、グアァアァアアアッ!!!」

 

アベルの右手から黒いモヤの様なモノが噴き出るとそれをソルジャーへと降り注いだ。

 

モヤを浴びたソルジャーのボディから紫の電流が流れ、バイザーに隠れたイエローのツインアイが、赤くなっていく。

 

そしてアベルが足を退かすとムクリと立ち上がり、アベルの命令を待つよう立ち尽くしている。

 

「人々の希望として造られた兵器が、逆に人々絶望に追いやる最悪の兵器と化す…ありきたりなシナリオだけど、意外とこういうのがウケるんだよねぇ~♪

あそうだ、ついでだから~…。」

 

そう言って番堂を閉じ込めているバグヴァイザーを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

技術開発部メインコンピュータールーム。

 

「一体どうなってるんだいコレは!? 状況報告を!!」

 

「そ、それが、スティールソルジャーのメインプログラムがハッキングされた模様で…。

此方からの通信もデータ受信も一切遮断されてます!!」

 

「これは…! 大変です!! ここにも強力なハッキングを受けてます!! メンテナンス中のガードクッキーのコントロールがスティールソルジャー同様奪われて暴走しています!!」

 

「なんだって!?」

 

マープルは知らされてくる凶報に普段変り無い顔色が変わりつつある。

 

それでもどうにか最悪の事態を避けようと、強気な態度に戻って指示を出していく。

 

「とにかくソルジャーへのアクセスを続けるんだよ!!

ガードクッキーも同様にアクセスしてコントロールを戻しな!外に出たのはまだ動ける序列持ちに対処を!壊しても構わないから街には絶対出すんじゃないよ!!」

 

「マープル! 今義経様達から大変なご報告が。」

 

「今この状況より大変なのかい? 悪いがそれは少し後回しに…。」

 

「それが…。

正規装着者の灰原様が負傷し、今スーツを身に付けているのは──。」

 

「──ッ!? そんな…与一が!?」

 

クラウディオの持って来た報せがマープルに衝撃を走らせる。

 

先程まで強気で指示を出していた姿から一変、目を言開いて呆然と立ち尽くしていた。

 

そんなマープルの元に、また新たな報せが入って来る。

 

「な、なんだぁこりゃあ!?………ま、マープル様、あの…そのぉ…。」

 

「ッ! こ、今度は一体何だって言うんだい!?」

 

「その、ですね…今この上…本社ビル上空で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

列車が走っています。」

 

 

 

「…………は?」

 

今度の報せに衝撃は走らず、思考が停止してしまうマープルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──状況は?」

 

「ベルトさんからの連絡には、”状況は更に悪化”、とのことです。

ハッキングを受けたスーツと警備ロボがビル周辺を囲んでいるとの事です。」

 

何処かの室内の中、悠は明石から体の至る所に黒い金属のパーツを取り付けて貰いながら九鬼本社ビルの状況を聞いていた。

 

「でも本当に大丈夫なんですか? 起動テストを実戦で行うなんて、無茶苦茶にも程がありますよ。」

 

「利き腕が満足に使えない以上接近戦はキツイからな。

もう一度クリムから送られたスーツのデータを。」

 

「ハイハイ。 龍田さん、そこの端末持ってくれます?」

 

「は~い。」

 

龍田がタブレット式の端末を悠の眼前に翳しながら、明石は腕と肩のパーツを取り付ける。

 

「コアがある位置はベルト中央のクリスタル……そこを取っちまえば、スーツは動かなくなる。」

 

「スーツはねぇ~、でも飛び回ってるロボットはどうするつもり~?」

 

「此方に向かって来るなら壊す。 いつも通りだ。」

 

「それは素晴らしい作戦ですねー、っと、よし!」

 

最後の腰のベルトを着けると、具合を確かめて大丈夫だと見た明石は最後に近くに置いてあったマスクを悠の頭部へ取り付け、置かれている端末を操作しだした。

 

「全システム、回路、オールグリーン…オートフィット起動。」

 

端末を操作しエンターキーを押すと悠に着けられたパーツが空気の排出音と共に密着し、スーツとして身に纏われた。

 

手探りで調子を確かめながら悠は最後の確認を取る。

 

「夕張、武装の方は?」

 

「ハイ! バッチリ準備オーケーです!いつでも派手にブッパ出来ますよ!!」

 

「天龍。 俺が降りたらビルから少し離れた所で周回してろ。 回収は俺の合図を待て。」

 

【おうよ!任せとけ!! にしても、列車動かせなんて言われた時は何をトチ狂ったかと思ったが、最近の電車はバイクで動かせられんだな!!】

 

「天龍ちゃ~ん。 バイクで動く電車何て多分これしか無いわよ~。」

 

「さて……行くか。」

 

歩を進めた悠は部屋から通路へ出て一つの扉の前へ、扉が開くと九鬼本社ビルの周りをレールで走る列車、神の列車とも言われた[ガオウライナー]から飛び降りた。

 

地上へと真っ逆さまに落ちながら体制を整えて着地、地面のコンクリートが凹みながらも立ち上がったソレは、陽の下に曝されるとその全貌を明かしていった。

 

 

黒いボディに蒼い複眼が映える姿は、以前身に付けて死に掛けたG4ユニットそのものだが、装甲が分厚くなり胸のシンボルマークも翼の広がってるマークから不吉を表す鉄で出来た髑髏のマークへ。

 

悠がG4を一から組み直し、AIシステムを外して本当の意味で歩く弾薬庫と言われるほどの装備を詰め込んだ、火力重視の遠距離戦闘用に造り直した新たなG4

 

G4-X Type-DESTROYER

 

 

「夕張、落とせ!」

 

 

上空を走るガオウライナー向けて声を発すると、ガオウライナーから落ちてくる物体が少し離れた所に直立で落ちて来た。

 

それは死体を入れる棺桶だった。だが普通の棺桶とは違い一人所か横に三人は並べて入れるくらいの大きさ、棺桶にはG4と同じ髑髏のマークが彫られてる。

 

G4は棺桶に近づき…。

 

「…トイボックス。起動。」

 

<<──承認 トイボックス 起動シマス >>

 

「まずは…01、05起動。」

 

<< 了解 解除シマス >>

 

棺桶の両サイドの部分が開かれると、そこには一丁の拳銃とガトリングガンが収められている。それを手に取り、拳銃を足のホルスターへ、ガトリングを棺桶、トイボックスの背後にあるコードを取り付けると、ガトリングに弾丸が装填される。

 

そしてG4視線の先にはハッキングを受け此方に向かって飛んで来るガードクッキーの軍団が。

 

G4はガトリング、GX-05 ケルベロスを構えた。

 

「新調したスーツ……どこまで踊れるか、特とご覧あれ!!」

 

引かれるトリガー、回る砲身、轟く銃声と次々と落ちていく薬莢。

 

鉄火が破壊の豪雨となって、放たれた。

 

 

 

 






G4-X Type-DESTROYER


G4の一番の特徴でもあるAIシステムを取り外して火力中心にバージョンアップさせたアワードスーツ。

見た目はG3-XをG4仕様にしたものだが、胸のレリーフのデザインを元のとは真逆の意味を込めた髑髏のモノへ。 背中のバッテリーパックはコアドライピアを動力の代わりとした為スリムとなっている。

動力がコアドライピアに変換された為重加速にも対応。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。