最近のハーメルンを見るとダークライダー系の出る作品を良く見る様になりましたね。しかもよく出来てるから追い抜かれそうと危機感を感じつつ自分も負けずと思って書いたけど…今回全く出ないんです、ハイ。
九鬼財閥が世間に公表したパワードスーツ、スティールソルジャーの発表。
この報せは少なからず世間を揺るがす一大スクープとなった。スペックの一般公開から評論家やロボット工学、技術専門家は仮面ライダーや怪人の力をを抜きにすればこのスーツは次世代の発明と評した事によって注目度は更に上がる事になる。
今でも報道番組ではスティールソルジャーに関する特番で盛り上がり少しでも新たな情報が無いかと九鬼企業の前に報道陣が居座ってる状態だ。
そしてその注目度は当然、その装着者にも向けられる訳で…。
「──ハァ~~~~~~…。」
「エラく長い溜息だな、こりゃ出会って一番の長さか?」
「相当参ってるようだな灰原。」
「変わってみる?客寄せパンダの気持ちになれるよぉ……ったくあの腐れババア、末代まで祟られろ…。」
「オイ口調、変わってる変わってる。」
学園内の人通りの少ない自販機前で悠、古城、キンジの三人は久しぶりにこの場に集まって屯っている最中だった。
缶コーヒーを口にしながら不機嫌な顔の悠に二人は同情の眼差しを向ける。あの会見で悠がスティールソルジャーの装着者である事を大々的に公表した日から二日、当然の事ながら悠に向けられる目は大きく変わっていた。
学園に来れば当たり前の如く質問攻め。何処であの技術を身に着けたのか、どうやって装着者になったのか休み時間になれば色々聞かれる為休めないわ、顔が広まった事により女子からのアプローチが増えて対応に困るわ、名を挙げようと悠に決闘を申し込む輩が増えるわで精神的に休まる間が無い。先程も坊主頭とメガネの二人組を蹴り飛ばした。
こうして人目を避けてコーヒーを飲むのが彼の貴重な休み時間となっているのだ。
「にしてもこのメンツも久しぶりだよな。 ちょっと前は少しギスギスしてたけど、こうしてまた前の関係に戻れて良かったよ、オレは。」
「へぇ、遠山がそう思っていたのは少し意外。」
「まぁな。なんだかんだで結構気に入ってるんだよこの関係……オレの所は血気盛んなのが殆どだからよ。」
「そりゃご愁傷様。」
「でも本当びっくりしたぜ。 お前はともかく暁も暫く学校休んだかと思えば灰原は知らぬ間にヒーローみたいなスーツ着てお茶の間に出るわでよ。」
「あー、まぁね、ちょーっとバカンス行ったら帰った時に九鬼からのバイトのお誘い来て?そんでちょーどヒマしてたから行ってみるかーの気持ちで行ったら、何か知らんけど受かったってカンジ?」
「軽すぎるわ!! お前自分の命が掛かってるってコト分かってるのか!?」
「命の危機なんて何度も経験したよ。 時には心臓が止まった事も一回じゃないって。
…ま、死なない程度に頑張るよ。」
「だから軽いってのお前はよ…。」
「幾ら言っても無駄だぜ遠山。 コイツはもうどうしようもないからよ。」
「言ってくれるねぇ二人共…俺の事とんだ問題児だと思ってる?」
「「色んな意味で問題児な。」」
「ヒッドーイ、俺こう見えて繊細な心なんだよ? ショックで寝込みそう。」
「そんなヤツがあんなスーツ着てバケモノと殺り合うバイトするかよ。こっちよりヤバそうなじゃねえか。」
「ご心配どうも…でもそう簡単にはくたばらないよ。これでも生涯は孫に囲まれて終わるのが夢なんだよねぇ。」
「…ハッ、お前らしいな。…っとそろそろ時間だな。 バイトで金入ったらなんか奢れよ、灰原。」
「その前に借りてる借金返してくれればね。 最もお互い生きてればのハナシだけど。」
「お前よりかは危ない橋渡らねえよ。 じゃあな灰原、暁。」
「おう。」
「じゃね~。」
休み時間が終わりそうなので別校舎のキンジと別れた悠と古城。
教室までの道すがら自販機前であまり口を出さなかった古城の視線が悠に突き刺さってくる。
「ん? 何さそんな神妙な顔しちゃって、お腹痛い?」
「…なぁ。 さっきは遠山にあぁ言ってたけど、本当の所最初からコレを狙ってたんじゃないのか?」
「…ほぉ?」
「良く考えればお前の不可解な行動が当て嵌まるんだよ、目立ちたがらないお前があんなデカい大会に出場に出る理由が。 最初からあのスーツの事知って近づく為に九鬼に自分の強さをアピールする場として大会に出た。違うか?」
古城の推測を聞いた悠の表情がみるみる内に変わっていく、無気力ともいえる目の色が別人と思わせるくらいの目つきで。
「…お前ってほんっとこういう所は目ざといよなぁ。いっその事遠山と同じトコ行く?」
「それこそ目立っちまうからイヤだね…。で、お前の狙いがあのスティールソルジャーとか言うのならその目的は何なんだよ?」
「それこそ当ててご覧よ。 幾らお互いの秘密知ってる仲とは言え、そう易々口に出来んよ。」
おどける仕草も混ぜながら胸の内を明かさない悠に古城は顔を顰める。
多少なりとも悠の本心を知れて距離が縮まったと思ったが、流石に仮面ライダー絡みならば事情が事情の為にそこまで深い所は聞けないのは仕方ないと知ってそれ以上は口にしなかった。
そんな古城とは逆に憂さが晴れて無いのは悠である。
本当ならこのような展開は悠の計画にはない、完璧な誤算だった。九鬼が他の企業とは違い考えが一つ二つずば抜けてる事は承知の筈、だった。
あの会見の後、悠は雇い主であるマープルに顔を公表した事について異議を申し立てた。
サインした契約書に素顔を公表するなど書いてなかったと言えば──”素顔を公表しないとも書いてないよ”と返された。
契約を担当した役人に色々聞き、その中に顔見せNGと言って承諾したが?と言うと──”そりゃソイツは下っ端だからねぇ、詳しい事知らずに適当に応えたんじゃないかい?”とはぐらかされ。
自分の仕事は化け物対峙で、一会社の看板役者じゃ無いが?と強く言った所──”アンタは今日から九鬼の一員になったんだ。会社の顔立てるのも仕事の内だよ。”と、引けを取らずに強く返された。。
それでも納得がいかず異議を申し込もうとするが、”それ以上言うならアンタを装着者から外すよ?替えなら幾らでも居るからね。”と脅迫めいて言われたので渋々引く事にしたが、せめてもの対価に怪人を撃破した際の報酬を宣伝料も兼ねて契約の倍上げる事を要求し、長い交渉の上了承を得る事が出来たのを慰めに引き下がった。
だがそれでもあの会見で顔を出したのは悠的に宜しく無かった。何処に行っても好奇の目で見られ挙句の果てには家にマスコミが貼りついて来る始末だ。テレビでも悠のプロフィールやこの街に来てまでの行動と偽の経歴が公に出される等仕事抜きに溜まったもんじゃない。
九鬼でのやる事を終えた場合を考えると今後の仕事に支障がでる。どうにかしてこの騒ぎを鎮めることは出来ないかと色々思案するなか悠の携帯が鳴る。
取り出して画面を見るとメールの受信を知らせる文が、中身を開いて内容を読み上げてく内に悠の顔がどんどん険しくなり隣に居た古城は思わず声を掛ける。
「オイどうした?…もしかして、BABELか?」
「…そうだったら不謹慎ながら跳びはねて喜んでたよ…。」
~数時間後~
ー九鬼財閥所有パーティールーム前ー
「……なんでこうなったかねぇ。」
「まぁまぁ。 そのような仏頂面では折角の美貌も台無しですよ?」
「お飾りの美貌なんて何の役に立つのかご教授願いたいですよ。」
「教えるのは一向に構いませんが、少なくとも貴方の耳にはこの手の話は殆ど入らないでしょうね。」
「ですよねー。」
如何にもと言った大広間、絢爛な装飾の施された大扉の前にはパーティー用スーツに着替えさせられた悠と物腰の良い老執事、序列第三位に座するクラウディオ・ネエロが佇んでいた。
学園が終わった直後に九鬼が主催するパーティーとやらに参加るようメールを受けこの場まで来るように指示を受けた悠は嫌々ながら足を運んだわけだが、その後に現れたクラウディオに為すがままに連れられスーツやら髪型のセットなどさせられ今に至る。
壁にもたれながら首元のネクタイを鬱陶しそうにするなか悠は監視役であろうクラウディオに話し掛ける。
「にしても俺は何時までこうして待ちぼうけ喰らってりゃあいいんです?…てか、コレって一体何待ちなんすか?」
「パートナーですよ。 今回はある意味アナタが主役のパーティーですからパートナーの女性が必要となりますので今ドレスアップしてる最中なんですよ。」
「オイオイオイオイ、 馴れない空気のなか放り投げられるはともかく見知らぬ女と腕組めって、そりゃちょっと無茶振りし過ぎと言いますか…。」
「ご心配せずともアナタの腕を組むのはよく御存知の女性ですよ。 それに彼女ならばアナタのフォローを入れるのに最適ですしね。」
「ご存知って、九鬼で知ってるヤツなんか居ない…いやもしかして…。」
「ゴッメ~ン! ちょーっと遅れちゃったよん♪」
人当たりの良い笑顔を向けるクラウディオに対し悠は眉間にシワを寄せた顔をしながら目を向けた先には此方に小走りで駆け寄るタイトの黒いパーティードレスを着た燕が大手を振って姿を見せた。
「……チェンジで。」
「えぇ!? 折角おめかしして来たのに!?」
「アンタと一緒に回る位なら一人で「あぁそういえばマープルから伝言が、”此方に従わなかった場合、報酬の件は無し”、だそうです。」……チッ!」
「オヨヨ、そこまで嫌がれると流石にへこむんだけど……それにしても…。」
「?…何?」
悠のスーツ姿を物珍しそうに眺める燕に悠はイヤな顔一つ隠すは無かった。
「いやー、こうしてみると普段と凄いギャップが。」
「へーへー、どうせ俺には縁の無い格好ですよぉ。」
「違う違う! いい意味で言ったんだよ! 今のキミカッコいいよ!髪型もバッチリ決まってるし、スタイルだっていいからスーツ姿が映えてるし。」
「お世辞の言葉どうも。」
「クスクス。 どうやら問題は無さそうですね。私は別件の仕事が有りますのでこの場で失礼させて頂きます。
スポンサーや招待客に失礼が無ければ好きにしていただいて結構ですので、では。」
悠と燕の僅かなやり取りを見て満足したクラウディオはその場を後に踵を返した。
「コレの何処が問題ねぇって言うんだよ…。」
「まぁまぁ、イヤな気持ちは分かるけどこれも仕事の内だと思って、ね?」
「俺の仕事は怪人退治がメインなんだけど。」
「それに比べれば平和的でイイじゃん! あ、そうだ。
この前は助けてくれてありがとうね!…で、一つ気になったんだけど、あの怪物ってもしかして…。」
「アンタが知る必要は無いよ。もう終わった事だし、それよりウチのチビ共が迷惑掛けて無かったかどうか気掛かりだったが。」
「いやいや!良い子達だったよ朝霜ちゃんは、清霜ちゃんも可愛かったし、またいつでもウチに来てって伝えといてよ!!」
「伝えておこう……さて、ここで話すのもそろそろ切り上げて……行かなきゃダメか。」
「そんなにイヤなの?」
「こういうカッコも今から行くとこも肌に合わないんだよ。 元は金なしの貧乏生活してた身だし。」
「へぇー…(仮面ライダーになる前にそんな生活を…じゃあ彼が仮面ライダーをやってるのは、お金の為なのかな?)…まぁここは乗りかかった船と言う事で頑張ろうよ!お偉いさん方の挨拶は私に任せていいから!!」
「俺は隣で愛想笑いね………まぁ確かに楽だな。」
いい加減腹をくくった悠は顔を引き締めて燕に腕を差し出す。意図を読んだのか燕は悠の腕に自信の腕を交差させて燕をエスコートする形に。
そして扉へと手を伸ばして中へと入って行く。
悠と燕が入った瞬間、会場の視線が二人へ突き刺さる。
「ほお、アレが例の装着者ですか…。」
「見た目はそこまで強くなさそうだが…。」
「隣に居るのは…四天王の松永 燕か?…。」
「あぁしてみれば中々お似合いの二人だな、容姿といい持ってる実力といい…。」
「また九鬼は良い人材を手に入れたようだ…。」
(…気にいらねえなぁ、こう値踏みするような目って言うのは、潰したくなる。)
「ほら灰原君、早速来たよ。」
内心周りからの視線に鬱陶しく思っていると燕から悠に聞こえるだけの声量で話し掛けられる。目を向けた先には此方に笑みを浮かべながら近づいて来る男性と女性の二人組が。
「失礼、もしやキミが例のパワードスーツの装着者かね?」
「えぇ。灰原と言います。此度は顔見せの名目で此方のパーティーに参加しています。」
(ッ!?は、灰原君が笑ってる!? 格好の所為か、別人に見えちゃう…!)
「ハハハッ、思ってたより好青年じゃないか!!」
「えぇ。危ない仕事を為さるからもっと猛々しいイメージでしたけど、紳士的な振る舞いで!」
「恐縮です。」
恐らく夫婦であろう二人組に所轄営業スマイルで対応する悠の姿に隣の燕は置いてかれてしまう始末であった。
男性の様子を見てか悠達の周りに次々と人だかりが出来始めていた。
「それで此方のお嬢さんは、あの松永 燕さんですかな?納豆小町の。」
「ハイ。彼女も九鬼に所属して、私とも多少の交友はあるのでパートナーをお願いしてもらっていまして。」
(私!?)
「そういえばキミ達は一度戦ってるではないか!! 見たよ若獅子トーナメント!いやぁアレは凄かったねぇ、キミの足技に魅了されてしまったよ!!」
「アレは一体何処で身に付けたのかね!?」
「長い修行の上に得た賜物です。 それにそこまで大したものではありませんよ、空飛んだりビーム出したりする人間もいる世の中ですから、私などは所詮地味の部類に入る人間です。」
「ガハハハッ! 随分と謙遜な少年だな!いやはや、このご時世このような若者も居るのですな!!」
「アハハハ。」
(…私の隣に立ってるこの人、ホント誰?)
「そういえばアナタパーティーに出るのは初めて? 実は私の娘が今日初めての社交場デビューなのよ。 ほら、アナタも挨拶なさい。」
「こ、こんばんわ!」
「こんばんわ。 いやぁ今日はツイている。見目麗しいお嬢さんの初めてのドレス姿を一番に見れたという事だ。」
「ッ! そ、そんな大袈裟な…!」
「いえいえ、アナタの美しい姿を見て今日は来て良かったと心から思っていますよ、私は。」
「ッ…あ、ありがとうございます!!」
「アラアラ、これは…。」
「ハッハッハ! こりゃ近い内縁談の話しを設けるかもしれんの!!アッハッハ!!」
「お、お父様!?」
「アハハハ。」
(…コレ、私が着いてる必要無かったんじゃ…。)
悠は心から嫌がっていたが、決して出来ないという訳では無かった。
「あーーー、つっかれた。 もう表情筋が痛いわ…。」
「……うん。灰原君だね。 やっぱそっちの方が灰原君だよね。」
パーティー会場から人目を避けた場所で悠は集まって来た人だかりを一つ一つ対処し終わり普段の口調に戻っていた。頬を擦る悠を見て何処か安堵の表情を浮かべる燕を隣に疲れの色を見せる。
「ハイ、料理持って来たから食べよ?」
「どうも…にしてもお偉いさん方は本当に良くやるよ。 必死に何時死ぬか分からないヤツと仲良くなっておこうとか。」
「縁談の話しも結構持ち掛けられたしね……にしてもビックリだよん。 灰原君って常時無表情かイヤな顔しかしないと思ってたけどあんな風に万人受けな笑顔出せるんだ。 受け答えだって私より上手く出来てたし。」
「戦い以外にも調べ物の為に色々潜入して来たからな。 今日みたいなパーティーにだって忍び込んだのは一度やん二度じゃないし。」
「そうなんだ。(仮面ライダーって戦闘だけじゃなくてスパイ活動もやる組織なのかな?……なんだが色々知って来てるけど知るたんびに余計真相が見えなくなってる様な…。)」
「………何を考えてるかは聞かないが、下手な詮索は身を滅ぼすとだけ言っとくぞ?」
「ッ…ヤダなぁ~! 私もその辺りは十分理解してるよん!(やっぱりこの子を敵に回すのだけは避けるべきだね。 折角オトンの就職も決まった矢先下手に動いて全部無くなったなんて洒落にならないし。)」
横目でパーティーの料理を口に運ぶ悠を見て燕は冷や汗を流しながらこの男の異常性を再度認識した。
武力も知力も桁外れであろうこの男は間違っても敵に回さないよう仮面ライダーの事を伏せておこうと思った。その方が多少なりとも有効な関係を保て、上手く行けば内容次第で協力してくれるかもしれないからだ。
でもそれではきっと悠の嫌ってるあのお偉いさん方と同じなのかと思ってしまうが、少なくとも今までの会話の中で自分の事を話してくれたのは今回が初めてだ。距離が縮まったと期待するのは早計だが彼の機嫌は損なわないよう気を付ければイイ。今の関係を崩さない事が一番の最善策だ。
【ご来場の皆様、只今よりダンス用の音楽が流れますのでご希望の方は是非ステージ中央へ。】
「あ。ダンスタイム始まったね。」
「欧米かよ。」
アナウンスと共に音楽が流れ男女のペアが中央で手を取り合って踊り始める。この光景に燕は悠に手を差し伸ばす。
「ねぇ、折角だから踊ろうよ!」
「えーー? 出来ればもうちょっとゆっくりしたいんだけど。」
「でもあんまりゆっくりしてるとさっき声掛けた女の子たちがキミを誘おうとたくさん押し掛けて来るよ? それより先に私と一緒に踊った方が色々都合が良いと思うけどな~?」
「………ハァ。 癪だが、アンタの案に乗るのが得策か。」
「へへん♪」
勝ち誇った燕の手を取り会場の中央へ歩を進める二人。踊り場の中へ入ると体を密着し手をお互いの腰に回してステップを刻みだす。
悠のリードに燕がしっかり合わせ美男美女の組み合わせもあって二人は注目の的になっているなか、燕は悠にだけ聞こえる声量で話し掛けてきた。
「ダンスも上手だね。」
「普段から激しいテンポのを踊ってるからな。」
「ふ~ん、じゃあキミには今踊ってる奴じゃ物足りないのかな?」
「そうでもない。どちらかといえばこういうのが好きだし、相手が美人ならより気分が良い。」
「ッ……不覚にもドキっとさせられたよ。」
「男なら皆そう言うさ。」
「………ねぇ。 大分前の話になるんだけどさ、あの時戦って負けたのって…。」
「概ねアンタの考え通りだ。 九鬼に目を付けられるよう結果でなくパフォーマンスであの大会に出た。
お宅の秘密兵器も、大会が宣言されてから調べて既に情報を掴んでいた。」
「………。」
「…憎いか?アンタを利用した俺が。」
「…ううん。 どちらと言えばキミが出てる目的の意図を掴めずにまんまと乗せられた自分が悔しい……でも、アレがあったから私はモモちゃんに勝てて、オトンの技術も認められて九鬼に入れたし……。
正直感謝すればいいのかどうかすら分かんないんだよね。」
「……。」
「……ねぇ。 キミが私を利用して悪いと思ってるなら、今から言うお願い聞けるよね?」
「…聞くだけ聞こう。」
足を止めずに燕は悠の耳元に顔を近寄せて囁く様に頼み事とやらを聞かせた。
その内容に思わず一瞬顔色が変わるが、耳元から離れた燕の目には冗談の色などが一切見えない、真剣な眼差しで見つめていた。
「…賢いアンタが言う頼みじゃないな。」
「そうだね、自分でも思う。 でも私は本気。」
「……そうだな……この一件が片付いたら、その願いを叶えてやろう。」
「…嘘じゃないよね?」
「いい気分にさせてくれた礼、だと思ってくれればいい。」
燕のお願いとやらを承諾した頃合いに音楽は止みダンスの時間は終わる。
踊っていた客人達は散らばり出し、悠達も声を掛けられる前に颯爽と行こうとするが、それを遮る様に悠の懐から着信音が鳴る。
取り出したのは携帯電話だが、悠が何時も使っている携帯では無い。先程燕を待ってる際にクラウディオから仕事用の連絡手段として受け取った携帯だ。
これが鳴ったという事はこれから知らされる内容は一つである。
「……抜け出すいい口実が出来た。」
「──…で? なんで着いて来てるの?」
「まぁまぁ♪ ココまで来ちゃったんだからそんな固い事言わず。」
場所は絢爛な大広間から一遍変わって走行中の大型バンの中。
セットされた髪やスーツを崩しながらちゃっかり車内に紛れ込んでいた燕に冷めた視線を向けるが、当の本人は何時もながらあどけた表情で笑いながら受け流していく。
「ものの興味本位で付いて来るのは身を滅ぼすってさっき言わなかった?」
「それは重々承知の上です! まぁぶっちゃけた話しが、オトンの仕事が上手くいってるかの様子見でキミの後をついて来たんだよね!」
「オトン?」
「あ、それ僕の事でーす!」
悠達の傍で端末を前に作業をしていた技術者が控えめに手を挙げて名乗り出て来た。
「どうも初めまして! 燕ちゃんの父親の、松永 久信です!」
「オトンはこれからキミの使うスーツの開発に関わった技術者なんだよん。」
「へぇー、アナタが…灰原です。」
差し出された手を掴んで挨拶する悠は、スーツの開発に関わったという燕の言葉を聞いて現場に着くまでの間幾つか質問する事にした。
「にしてもスゴイですね。 あのスーツを作ったなんて。 身に付けたからこそ感じましたけど中々の着心地ですよ。通気性も俄然いいし。」
「いやぁ~、そうかなぁ? とは言っても僕は平蜘蛛の性能を認められて途中からの参加だったんだけど、開発に関わった僕からしてもあのスーツは凄いよ!
性能も凄いし、何より一番驚いたのが動力源だね!! アレがあれば平蜘蛛も今よりかなり高性能になっただろうなぁ~、って思いながら寝る間を惜しんで組み上げたよ。うんうん。」
「動力源…そういえば自分その辺の所詳しく聞かされてないんですけど、そんなに凄いんですか?」
「スゴイも何もアレは僕どころか今の科学技術を遥かに超えた代物だよ!! 始めは動力が上手く安定しないわ作動しないわで結構シビアだったらしいけど……ココだけのハナシ、どうやらスーツに使われてる動力の技術って、あの仮面ライダー技術が使われてるって噂なんだよ。」
「……へぇ。 そりゃ興味深い。」
「ちょっとオトン、そんな話しちゃっていいの?」
「いや話すも何もコレ技術班に流れてる風の噂だよ、ウ・ワ・サ!今まで難攻不落だった問題点がアッサリ解決しやったのが原因で根も葉もない噂が出るようになったんだから…っと、そろそろ目撃連絡が来た地点に着くよ。
場所はココ。人通りから離れてる所で、あるのは廃墟となったビルだけ……なんだけど、そこのビルを溜まり場にしてる若い子等が居るって聞いてるから、万が一を考えた方が良いかもね。」
「了解。 適当なトコで降ろしてください。 近くに居たら居たで流れ弾気にしなきゃいけないんで。」
「アハハ~ 、ぜひそうさせて貰うよ。 流石にそれで死んだら洒落にならないしね。」
冗談にも聞こえない宣告に苦笑いしながら久信は手元にあったジェラルミンケースを開き中に入ってる一つのベルトを悠に差し出す。
バンが停車し扉を開けて悠は車から降りる。
「じゃあ僕達は通信がギリギリ届く場所まで離れてるから。
いいかい。危なくなったらすぐ逃げるんだよ! 幾ら強くてもキミはまだ燕ちゃんより一つ下の子供である事に変わりは無いんだからね!!」
「お気遣いどうも。」
「気を付けてね灰原君!!」
「だから分かってるっての…んじゃ。」
悠は小走りで伝えられた目撃現場……怪人の居るであろう地点へ向かう。
「さて、噂のライダー擬きがどこまでやれるか、採点してみるか。」
肩にかけた一本のベルトを見て呟きながら走るペースを早めた。
(どうして……どうしてこうなった…!?)
直江 大和は持ち前の頭脳を以って今の状況を理解しようとフル稼働している真っ最中だった…逃げながら。
事の始まりは数十分前、そう夕飯を済まして少し過ぎた位だ。 明日の準備を済まそうと鞄を見たら明日使う授業のノートが無い事に気付いた。 最後に使ったのは何時かと思い出して廃ビルの時にガクトに見せた時に鞄に入れるのを忘れたのだと思いだす。
別に無くてもそこまで困る事は無かったが食後の軽い運動というほんの気紛れ程度で廃ビルに足を訪れたのが運の分かれ目だった…月夜の散歩が、決死の逃避劇になってしまったのが。
ーキシャアァアアァァァッ!!!ー
「うぉわぁッ!?」
背後から飛びかかって来たソイツを寸での所で躱すがその際に足を躓いて転んでしまう。
起き上がろうと直ぐに手を支えに立つが背中に凄まじい力で抑え付けられ一瞬骨が砕けたと思わせる程に痛みで顔が歪んだ。
「グゥッ!……ッ!?」
ーハァァアアアァァア…ー
首元に生暖かい吐息が肌に感じる。 その後に来るのは僅かに粘り気を感じる液体が頬に伝ってくる。自分の想像してる事が当たってるならコイツは自分の血肉をB級のホラー映画の様に喰らう気なのか。
「は、離せこのッ!! オ、オレなんか食ったって美味くないぞ!!」
ーフシャアァアァアアッ!!!ー
「う…うわぁああッ!!!」
「──ソォウッ、ラッ!!」
ーギャッ!?ー
「ッ!?」
その牙を突き立てようとするギリギリの直面で駆け付けた悠の蹴りがソイツの顔面を捕え大和から引き剥がす。
「フゥーー…間一髪セーフ。 おーい大丈夫?…ってお前…。」
「は、灰原! 何でお前が…!?」
「何でってお仕事で居るんですけど。 そう言うソッチこそ何やってんのこんなとこで?……もしかしてお邪魔しちゃった?」
「なわけあるか!! 絶賛ピンチだったんだよ!!お前が来てくれなきゃ今頃アイツの腹の中だよ!助けてくれてありがとう!!」
「なんか変わった感謝の伝え方だけど…まぁ良いわ、それより逃げなさいよ。 お前はああ言うけど、向こうはお前にご執心だと。」
ーフウウゥゥウ…!ー
獣のような唸り声と血走った目で此方を睨み付けている異形、デビルファントムは突如邪魔をしてきた悠に怒りを覚えるのではなく、未だその血肉を喰らおうとする欲望を大和へと向けているのが分かる位に殺気を大和へと向けていた。
「オイオイ…一体どういう口説き文句かければああもメロメロにさせられるのよ。」
「違うからな! 軽口だとしても、オレにそんな趣味はないからな!!
オレだって知りたいよ、いきなり襲い掛かってきて気が付いたらコレだぞ!?」
「へー、そう。 じゃあアイツはトンだ一目惚れをしたってワケ。(今まで人外しか相手しなかったファントムが人間狙って、挙句喰らう? 一体何がどうなってんだが。)」
デビルファントムの不可解な行動に疑問を抱くも、聞いた所で会話が出来る輩でも無いので速攻に排除を決行する悠。
腰に掛けてた銀のベルトを腰に巻き付け、側面部にある機動スイッチを押すとベルトの中央部分にある両開きのカバーが開いて、金のクリスタルが見える。
<< SET READY… >>
「変 、いや……装着。」
<< GO! FIGHT! >>
クリスタルから目が焼けるほどの凄まじい光が放たれ、傍に居た大和は思わず腕で目を隠す。
やがて光が収まり大和が閉じていた目を開けるとそこに立っていたのは悠では無く、テレビで見たスティールソルジャーが関節部などから蒸気を勢い良く排出しながら背を向けていた。
「…偶にはいい気分の夜で締め括りたかったが…。」
ーウウゥゥウッ!!……シャアァッ!!!ー
「──ドゥラァッ!!!」
風を裂く弾丸の如き速さでソルジャーへと特攻するデビルファントムに、回避では無くギリギリのタイミングを狙って顎目掛け放った蹴り上げのカウンターが見事決まってデビルは宙高く舞い上がった。
ーガバァ…!ー
「…踊ろうか。 R指定のな!!」
跳躍をしたソルジャーは空中でのけ反ったデビルの真上にまで跳び、高く上げた足を腹部目掛け踵落としを決める。
下に叩き付けられたデビルは背中から地面に激突。僅かにクレーターが出来る程地面に叩き付けられたデビルは真っ先に起き上がり狙いを大和からソルジャーへと変えて飛び掛かって行った。
これに対しソルジャーは牽制でホルスターに収まった拳銃を発砲。素早い動きのデビルの動きを銃弾で限定的にし戦況を有利に事動かす。
ーグルゥゥウッ!……ブァッ!-
「ッ、っとォ!」
デビルの口から放たれた無数の魔力弾が向かってくるのをソルジャーはローリングで回避。 すぐ体制を整え銃口を向けるが、気付いた時にはデビルはソルジャーの懐に入り、その凶刃な爪がメタリックな紫の両肩を捕えた。
「ぬおっとォ!?」
掴み掛られた際に手から拳銃が零れ落ち組み敷かれてしまう。 デビルはしっかりと肩口を抑え口から生えてる牙をソルジャーへと突き立てようとするのをソルジャーは顔を掴んで阻止していた。
その際に頭部のヘルメットに備え付けられた通信から久野の声が耳に届く。
【灰原君!! どれでもいいからベルトのスイッチを押して武器を!! 早く!!!】
「分かってますよォ! だから大声で叫ぶなって!キーンてするから!!」
片手で顔を抑えながらベルトの上部にある五つのスイッチの内一番右端のボタンを押した。
<< CHAIN BLADE! >>
ソルジャーの右腕部が展開され80cm程の両刃の剣が伸び、刀身から僅かな駆動音が聞こえ刃先がチェーンソーの様に駆動している。
ソルジャーは腕のブレードをデビルの体に押し当てる。 刃先が触れたデビルの体から火花が血の様に散る様が少し続くと、刃がデビルの屈強な肉体を切り裂き火花では無く本当の血が噴き出て来た。
返り血がソルジャーのボディを赤く染めるなかデビルは悲鳴染みた奇声を上げながら傷口を抑えソルジャーから離れる。
抑えてる傷口から夥しい量の血が流れるのを目にデビルは、このままの戦闘は続けられないと悟ったのか翼を広げて空へ飛び逃走の道を選んだ。
「つれねえな、最後まで付き合えよ!!」
<< SCISSOR CLAW! >>
今度は左端のボタンを押すと左腕部からハサミ状の鉤爪が展開され、鉤爪が開くと空へ飛んでるデビルに狙いを定める。
すると鉤爪部が左腕から射出され左腕からは鉤爪を繋ぐワイヤーが。 鉤爪は飛んでいるデビルの体を挟み拘束するとワイヤーが一気に巻き上げられデビルの体がくの字になりながら地面へと戻って行く。
ワイヤーを引き寄せながらソルジャーは右のブレードを構えデビル向かって跳躍した。
「丸裸、だッ!!」
ーッ!!!ー
引き寄せたデビルの翼をバッサリと切り取り、鉤爪が左腕に戻ると左腕を振りかぶりながら鉤爪を離すとデビルは真っ逆さまに地面へと落ちていく。
ソルジャーは難無く地面へ着地し、両腕の武装を解除するとそこに運良く先程手放した拳銃が落ちていた為拾い上げる。
「おっとこんな所に…っと、そろそろラストパートでいきますかね。」
<< FINISH ATTACK! >>
ベルトの中央のボタンを押すとクリスタルが輝く。 ベルトの起動スイッチの逆側を引っ張るとベルトからマガジンの様なパーツが取り出されるとベルトのクリスタルの輝きが消える。
拳銃のグリップの底面から弾丸の入ったマガジンが排出され、ソルジャーはベルトから抜き取ったマガジンを拳銃へ、すると銃身が伸び、銃口の大きさも僅かに広がり銃口から光が漏れだす。
狙いを起き上がろうとするデビルへ寸分違わず構え、引き金を引くと放たれたのは銃弾では無く高エネルギーで放たれたビームだった。
ー?…ッ!?……──ー
ビームは起き上がったデビルの胸部を貫き大きな穴を空けた。 撃たれたデビルは僅かな間自分の体に何が起こったか分からない様子だったが、下を向いて胸に大きなが穴が空いてるのに気付くと息絶えたように倒れ、肉体は爆散せず塵屑となって風に舞った。
「ふ~ん…オモチャにしては良く出来てる事。」
「す…すげぇ…。」
目も前で行われた異形との戦闘を間近で見た大和は余りの迫力に圧巻されっぱなしだった。
「アレ? おたくまだ居たの?逃げろって言ったのに。」
「い、いや、これにはその、深い理由が…。」
「…あぁ。 腰が抜けて立てないって言うヤツね。」
「し、しょうがないだろ!! 仮にも命の危機に瀕していたんだぞ!?腰くらい普通抜けるわ!!」
「分かってる分かってる。 馬鹿にしたつもりは無いって、おたくの言ってる事は至極正しいよ。」
腰が砕け立ち上がれない大和に手を差し伸べて、大和はそれを掴み手を借りて立ち上がる。
そっぽを向いてムッとした顔の大和だが、暫く経った後、ソルジャーへ向けて口を開く。
「…改めて言うけど、助かったよ。 来てくれなきゃ、今頃オレは…。」
「気にしなさんな。 これも仕事だから。」
「……お前さ、なんでそんなに強いんだよ…。」
「ん?」
ポツリと思わず出てしまった言葉に大和は一瞬自分でも驚いたような顔をするが、聞き逃さなかったソルジャーを見て自棄気味に話した。
「お前って本当に分からない奴だよ。 姐さんは簡単に組み敷くし、化け物とは平然と戦えるし、一時仮面ライダーなのかと思えばそれは違ってたし……どうやってもお前が何者なのかが全く分からない。」
「ふぅん。それで、率直ハナシお前は俺にどういう感情を持ってるって? 少なくとも好意的な感情は無いでしょ。」
「……それも分かんないな。確かにお前の事は好きじゃない。でもクリスの様に敵意も無い。ただ得体が知れないってだけで注視はしてただけだし……。」
「疑い深いねぇ、そんなに気にし過ぎたらおたく将来ハゲるんじゃない?」
「………それは、ヤダな。 特にお前の所為でハゲたっていうのは特にヤダ。」
「じゃあ余計な考えはもうこれっきりで。
少なくとも俺はおたくの命の恩人、難しい事考えずそういうに見れば良いじゃない?」
「……分かったよ。 今はそういう事にする………でも姐さんの事を許した訳じゃないからな。」
「ご自由に、俺はその辺全く反省する気ないし。」
最後の一言で顔顰める大和だが圧倒的なパワードスーツを身に付けている悠に掴み掛る力量が無い為グッと堪えた。
そんな大和達の元へ近づいて来る一台のバンが、停車すると後部席の扉が開き中から燕がとび出してきた。
「燕さん!? どうしてここに居るんですか!? それにその格好は…。」
「そんな事より大和クン大丈夫!? びっくりしたよまさかキミが襲われているなんて!!」
突如として現れた燕のドレス姿に一瞬見惚れる大和と対象に燕は大和の身を案じて冷静では無かった。
二人のやり取りに余計な口出しは不要と見たソルジャーは一人バンの方へ。 ベルトのカバーを閉じるとスーツが光となって消え悠の姿に戻り、ベルトを腰から外してバンの中に入った。
「あ、灰原君! 大丈夫だったかい!?怪我とかは!?」
「問題無し。 コイツのお蔭で難無く倒せましたよ。」
久信は悠の無事を確認するとホッとした表情で差し出されたベルトを受け取る。受け取ったベルトをすぐさま端末へ繋ぎ異常が無いかのチェックをしだした。
「いやーにしてもスゴイね、スティールソルジャーもさながらキミの腕前も。初めての実戦であそこまで戦えるのはもう凄いとしか言いようが…。」
「ねぇ久信さん。 久信さんは九鬼の技術班に勤めているんですよね?」
「え? …ああ!そうだよ!!仮にも技術者だからね!!
実はここだけのハナシ、キミが使ったスティールソルジャーには僕の平蜘蛛の技術も…ってああ!!ゴメン!!キミにこのハナシはイヤだったろうね!!ホントゴメン!!!」
「いえいえ、あの時は実力不足で負けたに過ぎないので…ハナシは戻りますけど、実は自分こう見えて機械オタクなんですよ。趣味でバイクもちょくちょく弄ってたりしてるんです。」
「へぇ!そうなのか!!」
「えぇ、そこでちょっとお願いがあるんですけど……。」
所変わり、夜の繁華街にて…。
「──…う……うぅ……く、苦しいッ…体が…熱いッ…!」
路地裏で一人、人目が無く明かりも無い暗い場所に若い女性が胸を抑えながら壁伝いに歩いていた。
目は焦点が定まらず尋常じゃない脂汗が流れ意識が朦朧としているの目に見て分かる程だ。この場所に来たのも思考が上手く働かず分からずに来たのが推測される。
そして路地の行き止まりにまで辿り着くととうとう倒れ込む。
彼女の意識はほぼ失いかけ、冷たく固い地面の感触が更に彼女の体に不快感を与える。
そんな彼女の体からぽつぽつと肉塊とは違うオレンジで出来た肉片らしき物体が浮かび上がってくる。肉塊は彼女の体を徐々に包み込みやがて繭のような形となって不気味な鼓動を感じさせている。
そんな物体のある場所へ向かっている足音が。 彼女の様に何の考えも無くふらついてるのとは違い意識的にそこを目的地へ目指している足取り。
次第に足音が近くなり物体の元まで辿り着いた男がオレンジの繭を目にした。
その男はまだ十代半ばの年齢に見える所から学生と思われ、長い髪を後ろに束ね方に細長いケースを担いだ容姿の整った男子、そうハルナのクラスに転校生として現れた彩守 蓮司であった。
蓮司は目の前の繭を見て顰めた顔をすると肩に担いでたケースを近くの壁に立てかけ、懐に手を伸ばした。
「聞いていた話しよりも早く発症者がでたか……奴等はまだコレに気付いて無いのか…。」
目の前の繭について知ってる口ぶりかと思いきや繭に変化が。
丸っこい繭の形が次第に変わりだし周りにはオレンジの肉塊が纏わりついてるがソレは人の形として二足で地に立ちあがった。
蓮司は懐から取り出したグリーンとピンクのレバーが特徴的のバックルを腰に巻きつけるとベルトが伸びて腹部に装着される。 そして次に取り出したのは黒い仮面ライダー、ゲンムが使っていたカセット、ライダーガシャットを取り出し顔の横へ構える。
「───変身。」
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悠達の知れない所で、新たな脅威と運命が、動き出していた。
活動にまたアンケート募集行ってますので気が向いたら是非とも皆様のご意見お聞かせください。