その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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今回はオリジナル要素が多いです。読み前にご注意を。


披露

 

 

 

グールの群集を対峙し終えた悠達は戻って早々ハルナからの報告を受けて顔色を変えた。

 

 

「紫の仮面ライダーだと?」

 

「うん…。」

 

「オイオイマジかよ…。」

 

ハルナの口から告げられた新たなるライダーの出現。戻ったら話が有ると言われ何かと思って身構えていたがそれを嘲笑う如く二人の心境を乱していく。

 

「他に特徴は?」

 

「えっと…剣を持ってて、なんとなくサソリみたいで…あと二人が使ってる高速移動も使えてた。」

 

「…悠兄さん。それってもう、アレだよな?」

 

「あぁ…サソードだ。」

 

「サソード?」

 

「姉ちゃんが見た仮面ライダーの名前。 紫のサソリでクロックアップならもう確定モン。」

 

「サソード……ねぇ。やっぱりサソードも私達と同じ転生者かしら?」

 

「当然だろうな。 この世界にはマスクドライダーシステムの技術は存在しない。そもそもアレは宇宙から来た技術だ。俺や秋のを奪って解析したとしてもこの世界の技術力では複製するのでさえ数十年は掛かる。」

 

「他のベルトだってそうだしね。自然と転生者って考えた方が良いっしょ…問題はソイツが敵か味方か、だよねぇ。」

 

「黒い仮面ライダーの件もあるからな。 俺等と同じように複数のベルトを持っているのか、あるいはアイツ等が手を組んでいるとか…どちらにせよ十分警戒だな。」

 

「でも可笑しな話よね、今になって新しい転生者がこの世界に来るなんて…私達の戦いに関係してるのかな?じゃなきゃ態々グールを倒すなんてしないだろうし。」

 

「それこそ問い詰めて聞きだせばいい。 あともう少しでメモリーメモリの復元が終わる。いざとなったらコイツで頭の中を除けばいい。」

 

「おーぉー。プライバシーの侵害。もし中身が女の子だったら色々ヤバくない?」

 

「敵かどうかを見極めるのにそんなの気にしてたら足元を掬われるだけだ。」

 

(…ホント良かったわ。この男の敵に回らなくて。)

 

この時ハルナは内心色んな意味で女の敵、とサソードより悠の事を本気で警戒していた。そんな視線を向けられながら悠はラボに置いてある端末を操作していた。

 

「サソードの件は手の内が明らかであるから対処はそう難しくない…ただ問題は黒い仮面ライダーだ。」

 

端末の画面には採石場で現れた黒い仮面ライダーの姿ともう一本のガシャットを挿して強化した姿の二画面が写しだされていた。

 

「ヤツは俺達の知らないライダーシステムを使ってる。俺達が知っているのはドライブまでのライダーだ。それ以降のライダーの姿も、能力も全く知らない。」

 

「だよなぁ。ベルトも挿し込んでるカセットも平成ライダーっぽいのは分かるけど…。」

 

「俺はこれとは違うカセットの形態を見た。恐らくカセットの組み合わせで強化するタイプの様だ。

コレが基本形態で、もう一本を挿す事で強化形態となる…。見て取れる所はそんな所か。」

 

「それで、次またコイツが現れた時はどうするつもりなの?」

 

「サソードと同じだ。 少なくともコイツは此方に二度も襲撃を仕掛けている事から敵対していると見ていい。

このカセットの二本差しをする前に速攻で倒す。今の所それがベストな対処法だ。」

 

「やっぱそういう展開ですか…ぁーあ、BABELのライダー二人倒してコッチに傾いて来たと思えばまたライダーかよ…中々思い通りにいかねえモンだな。」

 

「嫌なら降りるか? 俺は一向に構わないが?」

 

「まーたそんな事言っちゃって、懲りないなぁ悠兄さんも。」

 

「しつこい男は私嫌いよ? いい加減に諦めたら?」

 

「…だったらつべこべ文句を言わずに戦え……俺達が勝つまでな。」

 

「ッ!…ハハッ! そうだな!」

 

「えぇ! やってやりましょ!」

 

悠の口から出た思い掛けない言葉に一瞬目を丸くした秋達だったが悪い気など一切無く、寧ろ向上心が上がる一言だった。

 

そんな二人の気などお構いなしに悠はラボの端末を操作し作業に取り掛かる。

 

(サソードなら同じマスクドライダーシステムを持つ俺と秋でクロックアップには対抗できる。実力は分からないが二人掛かりなら…。

となるとやはり問題は黒い仮面ライダー……あの形態もそうだが一番に警戒するのはあの粒子だ。またアレに掛かればどうなるか…特に…。)

 

後ろのハルナに気付かれないよう視線を向ける悠。同じ粒子を浴びた自分や秋に対して一番の変化が見られたのは恐らくハルナだと仮定するとあの時見た人格の変化がその症状の一種だと思われる。

 

(ヤツと桜井を合わせるのは極力避けるとして未知の相手に対する戦法……カセットの二本差しも考えると…遠距離による火力重視の攻撃が妥当か……コイツを近い内に使うやもしれん…。)

 

一人黒い仮面ライダーに対する打倒策を思案する悠の脳裏には地下の保管庫で眠っている新たな戦力。調整を急ぐ為に今夜も夜通しを覚悟してキーボードを動かす手を早めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、リビングにて…。

 

 

「美味しいっぽい~! おかわりっぽい!」

 

「美味しいにゃし~。」

 

「すみません。私達の分まで用意してもらって…。」

 

「いえいえ、同じ屋根の下に住むなら当然ですよ♪」

 

「いや~。 一層賑やかになったもんだねえ、この家。」

 

「ここまで行くともう下宿みたいねこの家。 まぁ悪い気はしないけど。」

 

護衛任務の為に学園に通う様になった吹雪、睦月、夕立の三人はいちいち天界から下に降りて通うのは効率が悪いと考えこうして灰原家に住み着いて通う事になったのだ。

一気に三人が増えた事で朝の食卓もより賑やかになる灰原家。自分の作った食事を美味いと言われ喜ぶラ・フォリアに目の前の光景を微笑ましく眺める桜井姉弟。そしてこの家の家主は…。

 

「Zzz…Zzz…。」

 

リビングのソファーにて未だ熟睡中だった。

 

「…あのぉ。 そろそろ起こした方がいいんじゃありませんか?悠さんもこの後学校あるんですし…。」

 

「なら夕立が起こすっぽーいーー!」

 

「あ、ちょっと待って夕立ちゃん!!」

 

「ぽーーいッ!!」

 

「ぶはッ!?」

 

睦月の静止の声を聴かずソファーで寝てる悠に向かってダイビングを決めた夕立。しかも仰向けの体制であったが為に受ける衝撃はかなりのものだった。

 

「おはよー!そろそろ起きるっぽ”ガッ!”…い?」

 

「朝、から、ナニ、して、くれてん、だッ、コラァ!!」

 

「ぽいィィィイッ!?」

 

「あーぁー。 最悪の寝起きみたいだ。」

 

ムクリと起き上がった状態から右手で夕立の顔を鷲掴み上げてアイアイクローをかます悠。額にうっすら青筋が浮かび如何に機嫌が悪いのが隠す気も無いらしい。

 

夕立の悲鳴をバックにあたふたする吹雪と睦月。こういった光景は見慣れているのか静観して食事を取る秋達を余所にエプロン姿のラ・フォリアが待ったを掛けた。

 

「ハイハイ。朝から暴力行為なんて最悪の一日になってしまいますよ。起こし方はともあれその辺で良いんじゃありません?」

 

「…………ハァ。」

 

「うぅ~頭がぁ~ ラ・フォリアさ~ん!…。」

 

「えぇ、痛かったでしょうね。 これからは飛び付いて起こすんじゃなくて優しく起こしましょうね?」

 

「ぽい~~。」

 

ラ・フォリアに唆され仕方なしに放した悠。夕立はラ・フォリアに泣きつき注意しながら慰められていく光景を秋とハルナは”もう夫婦じゃねえか。いい加減くっ付けよ。”と言いたげな目でコーヒーを口にした。

 

「にしてもどうしてここで寝てたんです?昨日はずっと待ってたんですよ?」

 

「俺が寝ようとした時はもう日が昇りかけだったし、部屋行ったらお前が俺のベッドで寝てたから起こさすのもアレだと思ってここで寝たんだよ。」

 

「気を使ってくれたのは嬉しいですけど、それなら尚更一緒に寝て欲しかったですよ。 今日の目覚めいつもより少し悪かったんですよ。」

 

「さっきの俺よりかマシだろ。 むしろ馴れた方が良いんじゃねえの?一人で寝るのに。」

 

「えー? でもそういうアナタこそ私と寝ている時の寝顔、まんざらでも無いの私知ってますよ?」

 

「……あー…仮にそうだったとしてなら、尚の事だな…。」

 

「…あの、秋さん。ハルナさん。 あの二人って何時もあぁなんですか?」

 

「そだよー。 いや何時もあんなの見せ付けられてるこっちの身にもなって欲しいよねー。」

 

「…アレ?でも秋さん、この間速吸さんとデートに行ったって…。」

 

「ブーーッ!?」

 

睦月の思いがけない発言が衝撃的だったのか口にしてたコーヒーを噴き出した秋。コレには隣に座ってたハルナも口をあんぐりと開いていた。

 

「…え?なに? あんた速吸ちゃんと仲良いなあとは前から思っていたけど…え?そういう、関係?」

 

「あー、いや、その、ね? ホラ、あの娘さ、気配りが出来てオレ色々とそれに世話になってるし、今までのお礼を兼ねて、メシ奢ったり、色々見て回って遊んだり、ねぇ?」

 

「ぽい? 速吸さんシュウから買ってもらったペンダント見て偶に嬉しそうに笑うっぽい。 しかもその時の顔川内さんや神通さんと同じだから一目瞭然っぽい。」

 

「え?マジ?」

 

「秋さんは速吸さんの事をどう思ってるんですか?」

 

「え? いやどうってそりゃ……好きか嫌いだったら、当然好き、だけど…。」

 

(…アレ?私、弟に先、越された?)

 

何時にも無く速吸の事でたじろく秋の様子にハルナは生前の記憶もあってかそういった話題に縁の無い記憶が蘇り表情が固まってしまう。

 

そんなやり取りを余所に悠とラ・フォリアの言い合いは一先ず収まり…。

 

「まぁこの話は後でゆっくり話すとして、早く支度しないと遅刻しちゃいますよ?」

 

「あぁそれなんだが、今日は訳あって休む……コレでね。」

 

「アレ、コレって確か…。」

 

そう言ってラ・フォリアに突き出したのは封が開けられた封筒。昨日ラ・フォリアが悠に渡し忘れてたあの封筒である。

 

「選考審査のご案内?……ッ、悠コレって…。」

 

「そういう事。」

 

「え?何々? 何の話ししてんの二人共?」

 

「あ、逃げたっぽい~!」

 

「イヤ、逃げたとかそう言うんじゃないからね? えーっと何々………あ、悠兄さん。コレ…。」

 

「あぁ。 その時が来たってヤツだ…。」

 

悠の元に送られて来た一枚の紹介状。それは今後の大きな波乱を呼ぶ前兆の現れであったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(──あの秋がねぇ……何時の間にそういうのが出来ていたとは…。)

 

学園の教室内の一角。ハルナは窓際の日差しが挿し込む席にて一人頬杖を突きながら今朝の一コマを思い返していた。

 

(灰原君はともかく秋が、ねぇ。 まぁ我が弟ながら元の顔はイイ方だし、女子の間で結構聞くし……恋愛、かぁ…。)

 

ハルナの生前は両親が他界したこと以外は普通の女学生であった。バイトして生活費を稼ぎ、娯楽としてサブカルチャーに魅入り共通の趣味を持つ友人と共に語り合う等の不満の無い人生を送っていた。

時間が経つにつれ趣味に掛ける時間も熱意も増えてくなか何時の間にか自分の周りに居た友人たちは趣味よりも男に目がいくようになっていた。

 

ハルナとて興味が無いわけじゃ無い。ただ弟と生活するなかでバイトでの生活費も稼がなければいけないのもあって彼氏探しに使う時間も無かったし、何より生活面に気を使うその反動にサブカルチャーに自然とどっぷり浸かっていくのも本人にとって唯一のストレス発散でもあったのだ。

 

一度死んでこうして再び生を得て悪の組織と戦う仮面ライダーを今やっている訳だが、今朝の一コマでモノの見方が今かなり変わってしまった。他でもない、一人の年頃の女としての生き方だ。

 

(今の生活に不満が無いと言えば嘘になっちゃうけど…まぁそこまで悪いとも言えないのよね。

最初はアニメキャラと会えるってのに心惹かれたけど、会って現実味感じちゃった今はなんともねぇ……私って男運無いのかしら?)

 

ハルナは自分の周りに居る男性陣を振り返って見る事にした。

 

(最初に異性として気になってたのは灰原君だったわよねぇ。 同じ転生者だしパッと見は無害そうだったし…でもあの時はまんまと騙されてたワケよねぇ、おまけに気付いていながらも色んな娘のフラグ建てるわで女殺しだし、付き合ってる訳でも無いのにあんなピンクの空気出しちゃって、見てるこっちはもうウンザリなんだけど………ああもう!!ラ・フォリアさんでも川内でも神通さんでもゼノヴィアでも凪沙ちゃんでもいいからいい加減くっ付きなさいよ! 何時までアンタ等の無自覚イチャラブ見せつけられなきゃいけないのよ!!! なんならもういっその事ハーレムでいいわよ!!少なくとも兵藤よりかはマシだし!!!)

 

内心とんでもない事を吐き出してるハルナだが、もし此処に悠が居れば「ハーレム? イヤイヤないない。経済的にも厳しそうだし、人間関係円滑にするのも大変そうだし、なにより今の法律じゃ出来ないっしょ?」と、言われるのがオチである。

 

(………フゥ。 よし、一旦落ち着こう。とにかく灰原君は無し。後私の身近に居る男は……。

兵藤はまず無し。前に下心アリの目で見られた時は本気で鳥肌モノだったし…木場君は…なんか爽やか過ぎて物足りないというか。ギャスパー君…引っ張っていくのが大変そうね。

他は…あぁ、遠山が居たわね……神崎さんやヤンデレ気味の幼馴染に噛まれそうだから無し。

最近知り合ったのは暁君だけど、典型的な鈍感モテ男だし……。

……ハァ、ダメだコレ。)

 

机に額を乗せて頭が垂れるハルナはこの世の終わりとも言えるような深い溜め息を吐いた。

 

ハルナの脳裏には前世の頃と同じように、チームの二人や、今まで関わりを持った人間たちが幸せムードに包まれるなか一人それを眺めてる自分の姿が浮かんでしまう…。

 

それはヤダ。もうイヤだ。あんな虚しい気分に陥るのは! そんな光景を振り払うかのように頭を横に振るう。

折角手に入れた二度目の人生だ。仮面ライダーとしての戦いが終わったら幸せになってやる。それで最後は孫に囲まれた静かな死を全うしてやるんだ。

 

(でもこの戦いっていつ終わるか分からないのよね、 もしかしたら学生生活は終わって二十代まで長引いたら……ッ…頭痛い…。)

 

頭を抑えながら鈍い痛みに顔を歪めるハルナ。HRのチャイムが鳴ったのを機にこれからの人生設計を一時保留にする。

 

 

「はーい。 HR始めるぞー…と、その前に、突然ですがこのクラスに転校生が来たから、そっちの紹介するぞー。」

 

「ハイ先生!その転校生は、美少女ですかッ!?」

 

「残念ながら男だぞー。 ホレ男子、分かりやすくガッカリすんな。 んじゃ入ってこーい。」

 

(転校生?この中途半端な時期に?)

 

ハルナのクラスの担任から告げられた言葉にクラスの顔色は様々な表情を浮かべてたがハルナは一人だけ転校生の存在に疑問を抱く様な目をしていた。

 

そんな事を考えてる間にも騒ぎの中心人物となっている転校生がドアから姿を現わす。

 

制服に身を包んだ180cmはありそうな長身に肩口まで届く黒い長髪を一束に結んだ髪型。鋭いナイフの様な切れ目だが整った顔立ちに学生鞄と共に方には細長いケースを肩に担いでいる。女子は黄色い歓声上げ、逆に男子は面白くない顔をしたのが数人ほどいる。

 

教卓の後ろに立っている担任の隣に立つその転校生をハルナは頬杖をついてふぅーんと声を漏らしながら眺めていた。

 

「じゃあ軽く自己紹介を。」

 

「…彩守 蓮司です。」

 

静かに名前を口にした転校生、彩守 蓮司はそれ以上口を開かなかった。すると徐に一人の女子生徒が好奇心から手を挙げて質問をしてくる。

 

「ハーイ!彩守クンにしつもーん! その肩に掛けている細長いケースには何が入っているんですか-?」

 

「…剣だ。」

 

「へ?」

 

「…剣術を扱っている。 その為の必要な剣だ。」

 

「ハイハイ、質問タイムは休み時間にたっぷりやってくれ。 自己紹介は終わったらしいからそろそろHRを始めるぞ~。 彩守はそこの空いてる席に座ってくれ。」

 

「ハイ。」

 

担任に言われ彩守は空いている席に腰を下ろした。女子達の好奇な視線が向くなかハルナは彩守の近くに置かれてるケースに目がいく。

 

昨日遭遇した謎のライダー、サソード。彼が持っていたのは剣だった。そして先程彩守が言った剣術というワードからある一つの仮説が…。

 

(…まさかね流石に早計過ぎるか……でも一応灰原君達に報告はしておこうかしら?)

 

彩守からHRの報告をしている担任へと視線を変えたハルナ。

だがその直後にハルナの席と少し離れている彩守の視線がハルナに向けられていたのに気付く事は無かった。

 

 

(………あの女が昨日のか。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の悠は…。

 

 

「Zzz…。」

 

公園のベンチで横たわり程よく熟睡していた。

その傍では屋台でたこ焼きを焼いている龍驤が横目で見ながら声を掛けた。

 

「おーい。 そろそろ時間やで。ええ加減起きんと遅刻してしまうで?」

 

「Zzz……あ?…おぉ。もうそんな時間か。」

 

「随分のんびりやなぁ。 仮にも試験ゆうとるのに多少の緊張感は必要じゃあらへん?」

 

「むさくるしい部屋の中で無駄に固くなるより、休めるだけ休んで万全のコンディションにした方がよくない?

それに試験の内容を見てもそう手こずるのは無さそうだったし。」

 

そう言いながら翳した一枚の紙面に書かれてる文を見せ付ける様に差し出す。

 

「余裕やねぇ…。」

 

「まぁね。 さてそろそろ行きますか。採用試験とやらに。」

 

「あ、ちょい待ちや。 これ持っていき。」

 

ベンチから立ち上がって何処かへ向かおうとする悠を引き止めた龍驤はパックに入れられたたこ焼きを差し出した。

 

「…コレは?」

 

「万全のコンディションならきっちり腹ごしらえせなな。 お代は出世払いでよろしゅう。」

 

「そう言うとこはきっちりしてるんですねぇ…ま、ありがたく受け取りますけど。」

 

「おう!やるからにはきっちりやるんやでぇ!じゃなきゃこれまでの働きが全部パーやからな!!」

 

「おー、任せろや……失敗する気は毛ほどもねえよ。」

 

楊枝に刺したたこ焼きを口にしながら視界に入る高層ビル目掛け歩いていく。

 

向かう先は九鬼本社。BABELとの戦争と同じように為すべく事を為す為に足取りを速めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー数日後…。ー

 

 

 

場所、九鬼特設スタジアム内。

 

【皆様、大変長らくお待たせしました! 此度は我々九鬼財閥の急な発表会見に関わらずお集まり頂き、真に感謝しております!】

 

スタジアム中央には以前行われた若獅子トーナメントにも匹敵する程のリングとそれを囲う報道陣やVIP観客。おまけに報道カメラから世界配信など武士道プランの発表同様に大々的な会見の全容をまだ知らされてない為今か今かとその全容に注目だった。

 

 

 

 

 

 

 

ー風間ファミリー、集会所ー

 

「お!オイ皆、始まったみたいだぞ!!」

 

「またえらくド派手な演出だな。 一体今度は何をやるつもりなんだ九鬼は?」

 

「さぁ、この演出を見るに相当なものだと思うけど…クッキーは知らないのか?」

 

「ゴメン。流石のボクもトップシークレット扱いの企画は閲覧出来ないんだ。

でも今やっているのは急な企画だけども武士道プランより熱が入っていることぐらいしか…。」

 

「武士道プランよりだと!? 九鬼がそこまでする程の規格とは一体…?」

 

「皆静かに! そろそろ企画の内容を言うみたいだよ!!」

 

モロの所持しているパソコンから配信される映像に釘付けの風間フォミリー。突然の企画変更の真実に驚くがその全容を知る為にも今は静かに静観する事にしたのだった。

 

映像では、司会の男性がスポットライトを浴びながらリング内にていよいよその全貌を明かそうとしていた。

 

 

【皆様もご存じの通り今世間で大きく話題にあげられています謎の存在、そう!仮面ライダーです!

中には彼等を街のヒーローと呼ぶ者もおられますが中には最も危険な存在とも言える賛否両論の存在!! そんな存在を前に我々はこのままで良いのか? 否! 我々は如何なる困難な時にも立ち向かわねばならない!!目の前の障害を乗り越えてこそ人類の到達点とも言えるのです!!

…そんなコンプセントを我々九鬼は遂に、 遂に生み出しました!! 如何なる困難も障害すら払いのける皆様の希望を!! それが、こちらです!!!】

 

 

スポットライトがリングの中央に照らされると、床が開きだし何かが上がって来た。

 

その光景に観客はおろか中継で見ている視聴者も言葉を失う。何故なら今上がってきているのはつい先ほど司会者が言っていた存在と似た姿をしているからだ。

 

スポットライトがメタリックパープルとシルバーで彩られたボディを輝かせ、バイザーで隠したイエローのツインアイ。右足にはホルスターに収まった大口径と思われる拳銃。

そして何より幾つものボタンが着いた特徴的なベルトから誰もが仮面ライダーを想像した。

 

【これこそが我が九鬼財閥が叡智と技術を以って生み出した我々の平和を守ってくれる最強の兵士!

──名を、スティールソルジャー!!!】

 

司会者の淡々と饒舌に進める紹介に報道陣はその姿を映像と写真に残すのに必死になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふおおぉぉぉッ!?!?!?かかか、カッコいい!!」

 

「オイ落ち着けってモロ!もうキャラが分からなくなってんぞお前!!」

 

「大和、アレってクッキーの…。」

 

「あぁ。 多分それの改良したバージョンだと思う。それにあの首の動き…人が身に付けているのか!?」

 

「まさか九鬼がパワードスーツを作っていたとは…これも仮面ライダーが生み出した影響なのか…。」

 

「ッ!」

 

「? どうしました一子さん。顔色が…。」

 

「へ?…い、いいいや!!なんでもないよ!!うん!!」

 

「?…そうですか?」

 

「一子……(これは色々フォローしなければいけなさそうだ。)」

 

 

 

風間ファミリーが九鬼の開発したパワードスーツの発表にモロは興奮しそれを抑えるガクトと冷静にスティールソルジャーを観察する大和と京、クリスの呟いた言葉に反応してしまった一子に疑問を抱く由記江と一子のフォローが必要だと判断したゼノヴィアと驚く者もいれば比較的落ち着いている者に分かれてた。

 

そうこうしてる間にも司会者は進行を進めていく。スティールソルジャーの周囲の床が開き、そこから上がって来たのは十体ほどの戦闘ロボットだった。

 

「あ!アレは警備用に改造されたガードクッキー! しかも迎撃モードに入っているよ!?」

 

「そうなのか!?クッキー!?」

 

スティールソルジャーを囲う様に配置づけられたガードクッキーはビーム状の剣を取り出して構える。向けられているのは当然の如くスティールソルジャーであった。

 

【それでは皆様には実際に御覧に入れるとしましょう!! スティールソルジャーのその性能を!!】

 

 

それが合図の如く一斉にスティールソルジャーに向かって攻撃を仕掛けに来た。

 

 

「ッ──!」

 

ガードクッキー達が動いた後にスティールソルジャーも動き出す。

 

真正面にいた剣を振りかぶる前のガードクッキーの懐に瞬時入り込み拳を突き出した。

すると拳はガードクッキーの胴体を易々と貫き、拳を引き抜いた後には大きな穴が空けられたガードクッキーが後ろに倒れた。

 

構えを取るスティールソルジャーの左右からから二体のガードクッキーが攻めて来る。左に動いたスティールソルジャーは突き出された剣の持ってる方の腕を掴み取りそのまま背負い投げでもう一体の方へ投げ飛ばす。

 

投げ飛ばした直後の隙を狙われ死角から攻めて来るがこれも剣を掴み取り脇で固めて動きを封じる。

絶え間なくガードクッキー達がスティールソルジャー目掛け突撃を仕掛けるなか、スティールソルジャーをホルスターに収まってる銃を抜いた。

 

「ッ!」

 

 

ーダンッ! ダンッ! ダンッ!ー

 

 

抜いたと同時に迷いも無く放った三発は、三体のガードクッキーに一発ずつ放たれた。

 

三体はいずれも装甲が薄いと見られるであろう目元、放たれた弾丸は的確に人間で言う眼球をから頭部を貫き機能停止にしてみせた。

 

その直後に動きを封じてたガードクッキーの腕を捻って関節技を決めると後ろの首に銃口を当てて引き金を引いた。

 

「──ッ!」

 

そこからは蹂躙劇と言った方が良い位のワンサイドゲームだった。

 

ある時は手首を狙い撃って武器を奪い横一文字に焼き切り、ある時は首を締め上げへし折り、ある時は関節を重点的に狙い撃ち続けたり、またある時は両腕をへし折ったガードクッキーの頭部を掴んでそのまま他のガードクッキー目掛け振り降ろして武器代わりにしたりなどの力の差を見せつける。

 

これに大和達と見ているクッキーは悲鳴を上げたがそんな事は遠くに居るスティールソルジャーには聞こえない。

残ったガードクッキーが一体になり、スティールソルジャーは残る一体に指で挑発仕掛けた。

 

これにガードクッキーは迷い無く特攻を仕掛ける。対してスティールソルジャーはその場から動かず呆然と立ち尽くす。

やがて攻撃の届く領域にまで近づくと剣を上段から振るって来たが、スティールソルジャーは足を蹴り上げてつま先が剣の柄頭目掛け振り抜くと、剣はガードクッキーの手から離れ宙に舞った。

 

そして丸腰になったガードクッキーの額に銃口を当て引き金を引いた。

 

短い銃声と共に額に穴が空いたガードクッキーが倒れたのを見てスティールソルジャーは銃をホルスターに収めたると、スタジアムから興奮の歓声が上がった。

 

【ご覧になりましたでしょうか!? 数の差をモノとしないこの強さ!!

この強さを以ってこの街を混乱に陥る機械生命体と魔獣…そして仮面ライダーにも対抗出来るであろう強さを!!!】

 

 

スティールソルジャーの傍に並んで豪語する司会者に観客のボルテージが上がる。人気ミュージシャンのライブにも引けを取らない歓声にドンドン進んで行く。

 

【さて皆様にはスティールソルジャーの性能を見て貰いましたが、それと同様にご覧になっていただいたのはその戦闘力!!スティールソルジャーはその高い性能故にそれを纏う装着者もかなりの実力者でなければそのスペックを発揮できません!!……ではここで、スティールソルジャーの性能を十二分に引き出す凄腕の装着者のご紹介に入りましょう!!】

 

「ッ!?」

 

歓声が上がるのと対照にリング内のスティールソルジャーに僅かな同様の動きが見れた。司会者に詰め寄ろうと足を動かすが、突然動きがピタリとやんで耳に手を当てて立ち尽くす。端から見ると何処かと通信を取っている様に見えた。

 

【ではご紹介しましょう!!我が九鬼財閥が選び抜いた129人の候補からたった一人!厳しい試験を乗り越えたその正体は──!!】

 

「………ハァ。」

 

高揚する司会者とは打って変わり冷めた溜息を吐くスティールソルジャー。頭部のヘルメットについてるスイッチを押すと空気が勢いよく抜けた音が聞こえ首元から僅かな肌色が見えた。

 

そしてヘルメットを手に頭から脱がせ、その素顔を観客、中継を見ている視聴者の前に曝しだした。

 

 

 

 

 

「ッ!?!?…アイツは…!!」

 

「な、んだ、と…!?」

 

「え?…え?ええぇえぇえええぇ!?!?!?」

 

大和達はその素顔に平静を保てなかった。

 

何故ならその顔はこの場に居る誰もが知っている顔なのだから。

 

 

【では改めてご紹介しましょう! 若獅子トーナメントにてベスト4に駆け上がったダークホース、チームグレーオータムの灰原 悠さんです!!】

 

「………どーもー。」

 

ヘルメットを脇に抱えて手を振るう悠の顔にはやや納得のいかないという不満が目に浮かんでいたがそんな事お構いなしにカメラのフラッシュと熱烈な歓声が向けられる。

 

 

 

 

そしてその顔色の真意を気付いた者は此処とは違う別室にてそれを読み取っていた。

 

 

アンティーク調の椅子に座った老婆は手にした無線機の様なモノを片手に目の前に写しだされtる画面から目を離さなかった。

だからであろうかその背後に近づいて来る人物の存在に気付くのは声を掛けられる寸前の所であった。

 

「…おー、こりゃ随分大きく出たもんだ。 九鬼ってのはこうも派手な演出がお好みか?」

 

「上がこうすると言うなら、それに従うのが会社というものさ…それよりも何の言葉も無しに無断で部屋に入ってきたのに対して言う事は無いのかい?えぇ?」

 

「おっとそれは悪かったな。だがオレは今回の一件でそんな事気にする必要ない位仲良くなったと思ってるんだが?」

 

「…確かにアンタの助力が無ければアレは完成しなかっただろうさ、でもね…。」

 

画面に目をやりながら男へ話し掛ける老婆…九鬼序列二位の座についてるマープルは躊躇いも無く口を開く。

 

「一体何の目的で動力源であるコアの情報を九鬼によこしたんだい?……それも仮面ライダーの使ってるコアの、ねぇ、アザゼル?」

 

「なーに、そこまで深い意味はねえよ。 ただコイツの事をよーく知るにも三大勢力に入ってるグリゴリを大きく使えんし、オレ個人としては人間と円滑な関係を結びたいと思ってるしよ。これを機に共同開発もアリと思ってな。」

 

着物の懐から取り出した金色のバイラルコア。偶然にも手に入れたその未知の能力の真意を知る為と人類との友好関係を改善を告白する堕天使総督、アザゼル。アザゼルの告白にマープルはアザゼルに視線をやり怪訝な視線を向ける。

 

「後半は聞こえのイイ理由だが、それ以外は九鬼を体のいい隠れ苗にしてるって事じゃないか。」

 

「そう見られても可笑しくは無いが、コイツの事を教えたのはお前等だけだぜ?少しは信用してくれてもいいんじゃねえのか?」

 

「どうだろうね。 少なくともアンタの過去に行った所業を考えると、多少の疑いを持った方がいいと思うのだがね?」

 

「喰えねえバアさんだこって……んで、コイツがお前等の選んだ装着者か…ていうかコイツウチの学園の生徒じゃねえか、幾ら腕が立つからって…。」

 

「ならコレを見てごらんよ。」

 

そう言って差し出したのは束に纏められた紙の資料。そこに書かれてるのは選抜試験に伴っての悠の成績評価と軽い身辺調査の結果だった。

 

「九鬼が提示したテスト…体力測定、知力判断テスト、対人格闘、射撃exc…全てにおいて高得点を叩きだしたんだよ。ウチの従者や現役軍人、傭兵、諜報員を差し置いて十代半ばの子供がね。」

 

「…確かにテストの結果だけ見てりゃ相当なものだな……思い出したぜ、コイツ、イッセーと木場相手に丸腰で圧勝したヤツじゃねーか。」

 

「それだけじゃないよ、資料をよーく見てご覧。」

 

「?…ッ。コイツは…。」

 

「そのボウヤの周りで色んな噂が飛び交っているみたいだけど、ごく短い間にこんな噂もあったらしいよ…灰原 悠が仮面ライダーだってね。

そんな男が偶然にもウチの一大企画の重要人物となった……コレは果たして偶然かねえ?」

 

「…で?お前さんは何を考えているんだ?」

 

「さてね…取り合えずは九鬼と人類平和の為に汗と血を流して貰おうかね。」

 

「ほぉー…それはまぁ、大変そうだ。」

 

他人事のように語るアザゼルの視線は画面に映ってる悠に向けられた。

 

画面の悠は偶然にも此方に向かって目を向けており互いに見つめ合っていた。

 

 

 

 

 

 






レジェンド参戦、キタ――!!!

ガイムとかフォーゼとか豪華すぎじゃありません!?そして何よりアンクが帰って来た!!こりゃもう見に行かなきゃ!!(使命感)




そして今回出たスティールソルジャー、簡単なイメージはメタルヒーローとアギトのV1システムみたいなカンジです。ハイ。

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