その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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やってしまった。話を進めようとギリギリまで詰め込んだら2万字出してしまった。

読者の皆様。途中読み辛くなったら本当ゴメンなさい。


究極

 

 

永遠なんてものはこの世に絶対ありえない。

 

 

分かっていた。この幸せな日常も終わりが来ると。

 

愛しき者達への別れも必然だと。

 

 

あの時まではそれが自然の摂理とも言える常識だった。

 

 

 

だが。

 

 

もし、永遠なんてものがあるとするならば、それはきっと…。

 

 

 

 

 

 

人ならざるモノでしか味わえないのだろう…。

 

 

 

 

 

─────

 

───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あー、やっべえ。大分時間喰っちまったよ…。」

 

日もすっかり落ち辺りは夜空に包まれた時刻。一際大きな荷物を抱えた少年は歩調を早めて帰宅している真っ最中であった。

 

片腕で荷物を抱え、もう片方の手にはラッピング包装が施された細長い小箱を手にして。

 

「今日が何の日かって?……んなもん忘れる訳ねえじゃん…。」

 

手にした小箱を眺めて笑みを浮かべる。コレを渡した時どんな顔をするだろう?

 

黙って高い買い物をしたから怒った顔?それとも突然のサプライズに驚いた顔か、今日という日をちゃんと覚えてた事による笑顔か。

どちらにせよコレを渡す時が来るのを待ち遠しに気分が上がりながら帰りを待っている我が家へ足早に進めていた。

 

「…っと。こりゃ本気で急がねえとマジで遅れ……?なんだアレ?」

 

少年は不意に空を見上げるとそこに不自然な光景が目に入った。

 

暗い夜空でも分かる位の黒煙が立ち昇り、一部がオレンジに光っている。そうまるで、大きな火が灯ってるみたいに。

 

「あの方角って……まさか、そんな!!」

 

火が昇ってる位置。そう、今自分が向かおうとしている施設がある場所。

少年は一目散に走った。少年は思わず手に抱えてた荷物を落としてしまったが今はそんな事どうでもよかった。頭にあるのはそこに居る子供達。恩師。そして愛する恋人の安否。

 

幸いにも近くまで来ていたので林道を抜ければすぐ目的地であった。そして一番に目に写ったのは。

 

 

燃え滾る炎に包まれている、我が家の全貌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

───

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!───ハァッ!」

 

 

意識が戻り、仰向けに寝転がっていた体勢から瞬間的に上体を起こして悠は最悪の目覚めをした。

 

肩で息をしながら吹き出た汗を拭う。暫く時間が経ち心を落ち着かせた。

 

 

(またあの夢……止めろ…今の俺にこれ以上あの夢を見させるな…!)

 

 

続けて夢に出て来る悪夢。特にあの場面から続く展開…いや、過去の記憶の映像を目にしたくない。

 

クリムに自身の過去を指摘されてから悠の心に波紋が広がりつつあった。

 

(……落ち着け。そうだ。一々この程度で心を乱すな……別の事を考えろ。クリムの俺に関するデータは、回収した後削除すればいい、あの時聞かれた三人にも復元するメモリで記憶を消せば良いだけだ。うん…後は……そうだ、今俺は何処に居るんだ?)

 

一先ず今自分が置かれてるこの状況を確認すべく辺りを見渡す。

 

木造建築内。床は畳張り。開かれた障子から見える庭からかなりの広さの家。

布団に入ってる自分。服は変えられ簡素な寝巻姿。所持品は…目の見える所に無し。

 

(前にも似たような事があったな…あの時は知ってる顔だったから記憶障害のフリをしたが今回はどうするべきか…。)

 

倒れた自分を此処まで運んでくれた家主にどう接するべきか悩んでるなか、此方に向かって来る足音に気付き様子見で寝たフリをする事にした。

 

部屋に入って来た人物は布団でまだ寝ていると思ってる悠の近くで腰を下ろし悠の額に手を乗せた。

 

「…熱は大分下がってるわね。もうそろそろ起きるかな?」

 

(この声…。)

 

聞き覚えのある声に誰が自分を拾って何処に居るかを察した悠は、少しの間考えると目が覚めた様に見せて目を開ける事にした。

濡れたタオルで顔を拭いている彼女は悠が目が覚めた事に気付き、顔を近づけて来た。

 

「あ!ユウ大丈夫!?アタシが誰だか分かる!?」

 

「…うん。ちゃんと分かってるから、大声は勘弁して、頭に響く…。」

 

「あ、ゴメン…。」

 

シュンと静かになる彼女、一子を前に悠は起き上がる。

 

「此処は…。」

 

「ココ?川神院の中よ!帰る時に道でユウが倒れたから此処まで運んで来たの!」

 

「川神さんが、俺を?」

 

「うん!………本当は救急車呼ぼうとしたんだけど、間違えて警察に電話かけちゃって…かけ直そうとしたら携帯の電池が切れちゃって…。」

 

「…暫く見なかったけど、相変わらずのご様子で。」

 

「アハハハ…。」

 

「………フッ。」

 

「ハハハ…あ…笑った。」

 

「………え?」

 

突然の事に一子はおろか悠までも唖然とする。

 

「笑った?……俺が?」

 

「うん!うん!!確かに今笑ってたよ!!」

 

目を輝かせながら見た事をありのまま伝えて来る一子に悠は信じられないと言った顔で口元に手をやった。

 

「……川神さん。水を、頼めないかな?喉が渇いたんだ。」

 

「いいよ!ちょっと待ってて今持って来るから!!」

 

悠の要望に一子は快く引き受けて部屋を出て行った。一人残された悠は誰もいない部屋の中で頭を抱え込む。

 

「ダメだ……戻るのは、ダメだ………俺は…オレは…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃一子は、台所で水を用意しながら先程見た光景を思い返していた。

 

(良かった。ちゃんとユウも笑えるんだ…。)

 

鼻で笑った様に見えるが、確かに口角が上がって笑っている顔であった。何時も無表情だったり疲れたような顔ばかり見ていた分、悠の笑顔がとても新鮮に思えた。

 

(笑った顔見せてくれたって事は…アタシの事、それなりに信用してくれてるって事だよね…?

うん!そうだよきっと!)

 

ルンルンとした気持ちで一子はお盆に水の入った容器とグラスを乗せて部屋に向かった。

ファミリーの皆は悠に対しあまり印象を抱いていないが少なくともちゃんと笑える人間だと言う事を聞けば少しは見直してくれるだろうか?コレを機会にもしかしたら今以上に仲良く出来るんじゃないか?そしたらさっき見たのより満悦の笑顔をみれるだろうか?

 

そんな期待を抱きつつ一子は久しぶりに本人の体調に差支えない程度に色々話そうと思って部屋へ向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、灰原家。

 

一夜が明けた灰原家のリビングで秋とハルナを除いた面子が一同集まっていたが昨日の事もあって中々話せずにいた。

 

秋とハルナを謎の症状に負わせた黒い仮面ライダーの襲撃と、悠の過去。

昨日の間に起きた出来事が出来事な為にそのショックを未だ解消できずにいた。

 

 

「………なんか、色々有り過ぎたよな。昨日は…。」

 

「そうですね…。」

 

「あぁ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか悠が……既に女性との関係を持っていたなんて…!」

 

「くッ!…奥手だからまだ居ないと思っていたのだが…!」

 

 

「「そっち かよ・ですか!?」」

 

 

「イヤイヤ!もっと持ち上げるところあるだろうよ!?いや正直オレもそこはビックリしたけどさ!!」

 

「アララ~。思いのほか元気ね~。」

 

 

…直ぐに順応できそうであった。

 

 

「まぁ冗談はさておき…。」

 

「本当に冗談かよ。マジに落ち込んでる風に見えたぞ、っていっでェ!?」

 

「天龍ちゃん。無駄な発言は控えた方が良いわよ~。」

 

包帯が目立つ天龍の前回の戦闘で負った傷の箇所を突いた龍田が黙らせると話が再開された。

 

「秋とハルナのお二人ですけど、まだ眼が覚めて無いんですよね?」

 

「えぇ。秋くんはともかくハルナちゃんはまだ熱が下がってないわ~。」

 

「回復役のアイツが居ないってのは、結構な痛手だぜ。現にオレはまだこんなザマだしよ。」

 

<だから、キミもマッドドクターの治療を受ければその程度の傷位直ぐに…。>

 

「イヤだよ!!」

 

治療なのに死ぬほど痛い治療など受けるモノ好き一名を除けば普通は受けたがらないのを卓上の真ん中に置かれたクリムに訴える天龍。

 

それに乗って一同の視線がクリムに向いた。

 

「さてベルトさん。アナタは悠の過去を知っているとは聞きましたが、何故あの場面で彼にあんな事を?」

 

<…正直言うと。自分でも何故あのあそこで彼の神経を逆撫でするような発言をしたか分からない…。

…ただあのまま行けば悠は間違いなく、自らを滅ぼすのは目に見えていた。だから彼がああなった原因……過去を思い返さす事が必要かと…。>

 

「…あの、聞いてもいいですか?」

 

<何かね?暁 凪沙。>

 

「…ゆーくんて…ちゃんと笑える人でしたか?」

 

「凪沙?」

 

<…フム……そうだね。笑っていたよ。今と違って笑顔の似合う好青年である事が記録されてるよ。>

 

「はぁ~。今の見てちゃ全然思いつかねえなソレ。」

 

「好青年、ねぇ~。」

 

「なぁ凪沙そんな事聞いて何の意味があるんだ?」

 

「あぁ。あの時古城は居ませんでしたね。」

 

「あの時…公園で凪沙が攫われる前にね、見たんだ。」

 

「…まさか。」

 

「うん。ゆーくんの笑った顔…。びっくりしちゃったよ。」

 

<恐らく。キミと会うのも最後と思ったからこそ、伝えようとしたのかもな。ありのままの本心と言うのを。>

 

「うむ…どうにかして今の考えを変えられないだろうか。」

 

「でも私達が出た所で灰原先輩の意志は相当固いものですよ。ラ・フォリア王女ですら聞く耳持たずでしたし…。」

 

雪菜の言葉に一同が下を向く。説得による方法はダメ。かと言って実力行使は圧倒的に無理。今の悠を止められる材料が一切ない。つまり、お手上げだ。

 

 

満場一致で全員が短い溜め息を吐いた時だった。

 

 

 

 

 

「大変かも!大変かも!!大変かあああああもおおおお!!!」

 

 

慌ただしく玄関からリビングに入って来た、買い物袋を手にした秋津州に天龍が怒鳴った。

 

「うっっっさい!!!傷に響くわ!!」

 

「だって!今街がどっかーんかもで!うわぁーかもで!どどーんかもで!」

 

「はぁ~い落ち着きましょうねぇ~あきつちゃん。端から見ると頭可笑しい人に見えるからね~?」

 

 

「…あの。もしかしてこの事を言ってるんじゃないですか?」

 

雪菜が着けていたテレビの臨時速報のニュースを指差すと、機械の異形が街を破壊している映像が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

速報ニュースが流れる数十分前。川神院にいる悠の方は…。

 

 

「行方不明?あのゴリ…キミのお姉さんが?」

 

「うん。何か知らない?」

 

「…いや。俺は何も。」

 

一子から水を受け取った悠は、昨日から義姉である百代が家に帰ってないと聞いていた所だった。

 

一子からは燕と戦って負けて以来何処か様子が可笑しかったと水を飲みながら耳を傾けてたが、ここ最近世間の武神に対するバッシングめいた陰口は嫌でも耳にしているのであまり聞き流していた。大方思春期少女の家出と言うのが悠の結論であった。

 

ある程度一子と会話した上で悠は話すタイミングを見計らい、本命の話題へと移る。

 

「それはそうと川神さん。俺の所持品、何処にあるか知ってる?」

 

「ユウの?それならアタシの部屋に預かってるよ!バックとか無いのにあんなかさ張るモノ一杯あったからアタシ最初びっくりしちゃったよ!

アレって一体なんなの?何処かで見たような気がするけど…?」

 

「あぁ。最近流行のアクセサリーとかそういうのだよ。気にいっちゃったの片端から買っちゃって…。」

 

「へぇー。ユウってお金使い意外と荒いんだ…。あ、あと服も洗濯して乾燥機かけてるからもうすぐ終わると思うよ。」

 

「そうか…。重ね重ね悪いけど、所持品全部持って来てくれないかな?

家と連絡取りたいし、もしかしたら倒れた拍子に無くなってるかもしれないとなると気になっちゃって…。」

 

「いいよ!今持って来るね!!」

 

そう言って何の疑いも無く悠の所持品を取りに部屋へ戻る一子を見て騙した筈である悠ですら不安に思う程の純粋さに痛ましく思う。

 

(少しは疑うと言う事を考えないのか…。まぁ、ドライバーが戻って来るならそれでいい。

とにかく一刻も早く黒い仮面ライダーを見つけねば……ッ。)

 

部屋の外に目をやる悠。一子と話してた顔付きとは違い、警戒を露わにしてた。

 

「……隠れて覗き見とは、教育者の割に悪趣味ですよ?」

 

「……ほっほっほ。いや、ばれてしまってたか。」

 

部屋の外に居たのは一子と百代の祖父である鉄心であった。頭を搔きながら中に入って来る鉄心に少し警戒を解いた。

 

「うむ。その様子じゃと体の具合は大分良くなった様じゃの。」

 

「…お世話かけまして、本当に申し訳ありません。」

 

「なあに気にする事無いわい。倒れた学園の生徒を外に放り出す等、教育者失格じゃろうて。それにお主の事は、孫達から色々聞いておったしの。個人的に話したいと思っていたんじゃ。」

 

「学園長が気にいるような話のネタありますかねぇ?」

 

「ほっほ。別に学園長やら川神院の総支配人とか気にする事は無い。ただの老いぼれと話す気楽さでええんじゃよ。

…その前に灰原君。ウチの百代が前からキミに迷惑を掛けていたようで、真に申し訳ない。」

 

間を溜めて何が来るかと思いきや腰を掛けた状態で深々と頭を下げての謝罪だった。突然の謝罪に悠は面を喰らった顔になる。

 

「知るのが大分遅れたが、戦う気も無いキミに対し百代があれこれしつこく勝負を挑んだとか。

百代は自分と同じかそれ以上の強者を知ると時折手が付けられなくなってのぉ。…精神修業を身に着けさせようと何時も口酸っぱく言っとるが…。」

 

「あの如何にもガサツそうな性格の所為で何時もはぐらかされると。」

 

「うむ。最近になってようやく基礎の修行に手を出したが、それでもどこか不安な所がある。

こんな事なら例え心を鬼にしてでもあの子に武を振るうのはなんたるかを教えてやればよかった。

百代がああなったのは、師でもあるワシの責任じゃ…。」

 

「……あー。つまりこう言いたいんですか?

孫娘がああも人様に迷惑かけるようになったのは自分の所為だから、孫は許して自分を恨め。って、言いたいんですか?」

 

「似たようなものかのぉ。全て許せとは流石に思わないが、事の一旦にはワシも含まれてるからのぉ…。」

 

「……ふぅ。

別に学園長に同情してとか、孫娘に対しての気持ちは無しにして言わせて貰いますが。

俺はどっちも悪いとは思いますよ。学園長の指導不足なり本人の意志の弱さも積み重なってああなったんでしょう。」

 

「お主、顔に合わずズバッと言うのぉ。」

 

「お褒めにあつかりどうも。…でもね、俺思うんですよ。さっき言ったのもあるけど。もう一つダメにしてる原因。」

 

「ほぉ。それはなんじゃね?」

 

「…才能ですよ。生まれ以って恵まれた才能。」

 

悠は部屋の外に一目向けた後、話しに聞き入ってる鉄心の反応を待った。

 

「恵まれた才能……それは百代の多大な気の事を言うとるのかね?」

 

「それ以外何が?アレの戦い方見れば如何に気に頼ってるか簡単に見れますよ。あの人並み外れた身体能力も無意識に気で底上げしてるんでしょ?」

 

「………。」

 

「川神流の技をモノにするのにそれなりの鍛錬はしたかもしれない。でも結局は気の量でどうにかなる。あの女が使ってる技はみんなそう。薙刀メインの川神さんと断然違う。」

 

「…確かに言えとるのぉ。百代の場合瞬間回復を身に付けた途端、それに頼る戦い方になった。」

 

「そしてそれを松永 燕に封じられ負けた。もしあの時、気に頼らない武術を扱えてたらもしかしたらはあったかもしれませんが。」

 

一通りの話しを聞いて鉄心は腕を組み深く考えると、先程の話しを簡潔に纏める。

 

「つまり要約するとこうかの?

百代は生まれ持った膨大な気に頼り過ぎたのが百代を苦しめている一番の原因、と?」

 

「俺の中ではね…生まれ持った才能が必ずしも持ち主を幸せにするとは限らない。ってハナシですよ。」

 

「………ウゥム。」

 

鉄心は眉間にシワを寄せながら今までの百代の成長と自身の育て方について思い出した。

 

確かに百代は物心ついた時には膨大な気の存在を感じ取っていた。故に武道家として育て上げればいつかは自分すら超える武の最高峰に至る事を心から期待してた。

 

だがその期待は何時からか次第に歪んでいった。武神という名を受け取って以来向かって来る挑戦者を簡単に伸し倒す百代は次第に強者との戦いに飢えを出してた。

それこそ目を付けた相手に片っ端から挑み時には強引な手を使ってまで戦いたがる百代を目に鉄心は武神の名を与えるのは早すぎたのでは?と時折思う様になった。

 

基を見直せば師でもある自分の監督責任だ。しかも悠の言っていた”才能による怠慢”の指摘に恥ずかしながら言われるまで気付く事は無かった。これでは自分も川神院の最高責任者として語る名が無い。

 

「…最後に聞いてもよいかの?」

 

「どうぞ。」

 

「キミの目から見て、今の百代はもう手遅れかの?」

 

「……さぁ。そこまでは分かりませんよ。ただ…。」

 

「ただ?」

 

「妹さんから聞いた話からすると、多分今が分岐点だと思いますよ…これからの武道家としてどう突き進んで行くか。」

 

 

「ウム…。」

 

頭を捻って唸る鉄心を前に悠は再度部屋の外に視線を移した。外に居る一子にあえて百代に抱いてる印象を聞かせて。

 

 

 

(…お姉さまを苦しめているのは、生まれ持った才能…。)

 

そして部屋の外で悠の所持品を詰めた手提げ袋と洗った服を抱えた一子は壁に背を齎せながら一人思いふけていた。

 

ずっと憧れてた背中。いつの日か追いつきたいとがむしゃらに追いかけていた存在。強者にしか見えないその高見にある光景をいつか対等に、隣で見たいとも思っていた。

 

でも鉄心と悠の話を聞いていると疑問に思う事が出来た。

強者にしか見えない高見。それは本当自分が望む光景が見えるのか?

 

前に百代が名前の知り渡ってた挑戦者を叩きのめした時、期待に焦がれる表情から一変酷く落胆した顔になったのを見た覚えがある。その時の百代はそれと同じ位悲しそうに見えた。

 

 

 

「ワシから見て灰原君はかなりの強者と見える。あの松永 燕にも序盤は引けを取らなかったしのぉ。

キミにはあるかね?強者として抱える苦悩は?」

 

「大いにありますよぉ。変なヤツに付き纏われるし、やられると痛いし……疲れるだけです。力が在ろうが無かろうが。」

 

「……。」

 

弱い者だけでは無い。強い者にも、いや、強いからこそ弱い者より大きな苦悩と困難の連続がある。

 

悠の言っている意味が理解出来た一子。それを踏まえた上で自分はどう強くなるか。自然と出された課題に直面する事になった。

 

 

「フム……もし百代がもっと早くキミの様な男に会っていれば少しはマシになっていたかものぉ…。」

 

「もし早く会ったとしても仲良くなりたくないですね。」

 

「ひょ!?…ズバッと言うのぉお主。……ウム。まぁ百代は仕方ないとして、一子とゼノヴィアとは仲良くしてる様じゃが…。」

 

「ゼノヴィアはクラスメイト。妹さんは姉と比べればもう全然。むしろ喜んで仲良くなりたい。」

 

「ッ~~~!」

 

「ホォ、ここまで正直言ってくるとは相当一子を気に入ってるようじゃの。」

 

「えぇ。だって、川神さんは…。」

 

(ア、アタシは…!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イジメてて超楽しいですし。唯一のお楽しみが無くなると思うとそれはそれで超ショックで…。」

 

「…って!!ちょっと待ってよ!!アタシの事今までそういう風に見ていたの!?」

 

「あだぁッ!?」

 

思いがけず隠れて傾聴していたが押し入る様に部屋に入ると悠に詰め寄って来た一子、その勢いに鉄心は押され柱に頭をぶつける羽目になった。

 

「いやいや。決して悪い意味じゃあ無いよ?現に川神さんの事、俺好きですから。」

 

「すすすすすすッ、好きってッ!?そそそそそれッ!?!?」

 

「うん…マスコット的に。」

 

「ユゥゥゥウウゥゥウッ!!!」

 

「あいたた。全く最近の若者の事情はよう読めんなぁ…ん?」

 

胸倉を掴んで悠の首を揺らす一子の脇に置かれた手提げ袋から携帯のアラーム音に気付く鉄心。

 

「のぉ。これは灰原君の携帯の音かね?」

 

「え?…ッ!ちょっとゴメン!」

 

「きゃッ!?」

 

鉄心言われ携帯のアラーム音に気付くと半ば強引に胸倉を掴んでた一子を引き剥がし手提げ袋の中を漁る様に携帯を出す。

 

(ロイミュード、この反応は…!)

 

 

「───ム?この気の感じは…!ま、まさか!!」

 

「じっちゃん?ユウ?一体どうしたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灰原家、リビング

 

 

【現在!□☓通りでは、秘密組織BABELのロイミュードと呼称される機械生命体が破壊活動を繰り広げております!!

現場はご覧の様に瓦礫と火に包まれて、混乱と化し──う、うわぁあッ!!!!──】

 

 

「ッ……!」

 

「……ひでぇ。」

 

テレビに映し出されてる戦場と化した街通りの惨劇に凪沙は口を抑え古城は胸の内を溢した。

 

古城達がテレビのニュースに釘付けになってるのと対象に天龍達はこの騒動に焦りの色を見せていた。

 

「これって相当大変じゃな~い?秋君達はまだ目を覚まさないし、まともに動けるのは中身空っぽのベルトさんだけよ~?」

 

「なろッ!…こうなったらまたオレが変身して、っでぇ!?」

 

「その傷ではまだ戦えませんよ天龍。下手したら今度は死んでしまいます。」

 

<ラ・フォリアに同意だ。先程の映像を見た限りじゃ、今回の敵は下級のロイミュードでは無い可能性が高い。傷着いたキミがやり合うには厳し過ぎる。>

 

「じゃあどうすんだよ!?このまま中身のねぇドライブ一人でやる気かよ!?他のヤツ等呼んでるヒマもねえんだぞ!!」

 

古城達の後ろでは天龍達がどう動くかで言い合っていた。

誰が行くのか、自分が行くと一点張りの天龍を止めるラ・フォリア達を見て古城の視線は卓上に置かれたクリムに行く。

 

 

吸血鬼の力を使うより、顔を隠せるコイツなら──。

 

 

「──先輩?」

 

クリムに視線が言ってる古城の様子に雪菜がまさかと気付きだす。古城が何を言い出し、実行しよとしているのか。

 

 

「……なぁ!その変身って言うの、オレにも出来るか!?」

 

「先輩!?」

 

「古城くん!?」

 

<…まさかとは思うが、キミがドライブになって戦う気かね?>

 

「手が足りないんだろ。ドライブ、ってのにアンタを使ってなれるんならオレが行く。倒す事は出来なくても街の被害を抑える位なら…。」

 

「駄目です!!先輩は戦ってはいけません!!」

 

「そうだよ!!凪沙嫌だよ!下手したら古城くんが死んじゃうんだよ!!」

 

「でも!…。」

 

 

 

 

 

 

 

「そーそ。そんな事したら、悠兄さんにすっげえ怒られるのが目に見えるって。」

 

「ッ!お、お前…!」

 

突然入って来た声の主に一同は目を見開く。

 

黒い仮面ライダーによって昏睡状態に陥ってた秋が何とも無いような状態で姿を現わしたのだから。隣では傍に付いてた速吸がオロオロと慌てている。

 

「秋お前、大丈夫なのかよ体は!?」

 

「おう!ちょーっと寝苦しかったけど起きたらご覧の通りピンピン。

…それよりも今はロイミュードでしょ?問題無く行けるぜ。」

 

「バカ!仮に大丈夫だとしても病み上がりだろ!?そんなヤツ行かせられる訳…!」

 

「包帯グルグル巻きのソッチに比べたらマシじゃん……それにさ、みんな一番大事な事忘れて無い?」

 

卓上に乗ってるクリムを肩で担ぎながら疑問符を浮かべる一同に自信満々で答える。

 

「とんだ家出不良兄貴が、こんな騒ぎに駆け付けない訳無いじゃん。実質これで三人。少なくて二人だぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。川神院、本堂一室内。

 

 

(この反応。融合進化態か。)

 

 

携帯に写しだされてるマーカーの大きさから敵の情報を知った悠の傍らで、鉄心は何かを察知したのか外の通路で騒ぎの起きてる方角を向いていた。

 

「この気の性質。間違いない…あの馬鹿者めが!!」

 

「じっちゃん?どうしたって言うのいきなり怖い顔して…。」

 

「……一子。お主は灰原君と共にここに居るんじゃ。決して川神院から出てはならぬぞ。良いな!」

 

「じっちゃん!?」

 

一子に川神院からで無いよう告げると空高く跳躍して姿が消えるくらいの速さで騒ぎの起きてる街へと飛んでいった鉄心。残された一子は訳分からず首を傾げるしかなかった。

 

「どうしたんだろうじっちゃん。急に様子が変わっちゃって…ねぇ、ユウどう思う…ッ!?」

 

悠に意見を問うとした一子だが突然の光景に言葉が詰まる。振り向いた先では悠が寝巻を脱ぎ捨て自身が持って来た服を手にかけた姿があったからだ。

 

「ちょちょっと!何で脱いでるの!?」

 

「着替えですよ。ちょっと用が出来たからそろそろ御暇を。」

 

「えぇ!?だ、ダメだよ!!さっきじっちゃんが出るなって言ってたし、本当に治ったのかどうかだって…。」

 

手で目を隠して悠の姿を見ないようにしてた一子だったが指の隙間からうっすらと見える悠の体に刻まれた傷跡に目を奪われた。

 

後姿だがそれでも分かる程に大きく刻まれてる二つの傷跡。とても生半可な修行でついた後には見えず、その大きな背中もあってか、一子には悠の姿が正しく”戦う男”と言う風に見えた。

 

「…ん?……あのぉ、そんながっつり生着替えみられるのも…。」

 

「ご、ゴメン!!そ、そのつい…!」

 

悠に言われ、背中を向ける一子。その間に悠は手提げ袋からドライバーとアイテムを全て懐に入れると一子に話し掛けた。

 

「ねぇ川神さん…こんな事聞くのは可笑しいって思うけどさ……俺と出会った事に、後悔した事は無い?」

 

「え?…そ、そんなこと思ってないよ!

イジワルで何時までたっても名前で呼んでくれないけど…悠と会ってイヤな事なんて一つも無かったよ。出来れば

何時か、ファミリーの皆やお姉さまとも仲良くなって、友達でいたいよ!…うん…その、出来ればそれ以上の仲にも…。」

 

「…そっか………オレも会えて楽しかったよ…一子。」

 

 

<< ZONE >>

 

 

「…え!?い、今アタシの名前…!……ユウ?」

 

 

振り返ったそこには、居た筈の悠が忽然と、最初から居なかった様に姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、□×通り。

 

 

「──ごはッ!」

 

 

普段なら平穏な空気に包まれた通り街はその片隅ですら殺伐とした異常な気で包まれていた。

 

先程川神院から飛び出て行った筈の鉄心はまだ十分とも経たない僅かな時間で満身創痍に追い込まれていた。寄りかかった壁には赤い血がこびりつき、どれ程の重傷か物語っていた。鉄心の目の前には此方にゆっくり歩み寄る機械の異形。

赤と黒の二色で彩られたカラーリングと剥き出しの牙に額中心から生える一本角。両肩、肘・膝関節から生えた突起物。長身でありながらも女性特有のシルエットがハッキリ浮き出て、凶悪な外見に見合わず性別が女性である事が読み取れる。

 

そしてそれを高みの見物で眺めるのが一人。近くの雑居ビルの屋上から見下ろしてるアベルが手に持ったパッドに話し掛けた。

 

「へぇ~。中々の性能だな、シュラロイミュード。流石はキミの最高傑作と言った所か?」

 

<当然だ。今彼女が使ってるバイラルコアはネオバイラルコアの上を行く代物だ。

強い感情を籠めれば、融合に必要なロイミュード無しで…いや、融合ではなくロイミュードそのものになれると言う、正に人類の進化の鍵!加え性能は融合進化態を遥かに上回ると言うボクの生涯一の発明品さ!!

……だが。>

 

パッド内に閉じ込められた番堂ことドクターは、自身の命を握られてる状況を分かった上でアベルに対し文句を言おうとしてた。それだけに自身の矜持を踏みにじられたのだ。

 

<あのバイラルコアは、まだ試作段階のプロトタイプだ!!その証拠に本来の色では無く、あんな醜い色を出している!!

まだ完成されていない発明品を世に出すのみならず、ボクがラボに厳重に保管してた詩作品を勝手に持ちだすなんて…!>

 

「まるで前世で自分の発明を横取りした学会の教授共と同じ、か?」

 

<ッ!……貴様ッ!!>

 

「ハハハッ、まぁそんな固い事言うなよ。それに試作品だ何だ言ってるけど、完成品ならもうすぐ見れると思うよ。だって彼女の望んでる欲は…お、来た来た♪」

 

足をプラプラと屋上の塀から投げ出しながら見ているアベルは下に見えた人物に期待を寄せながら見続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ。ひっでえなコリャ。」

 

川神院から現場に到着した悠。周囲の惨劇を見回しながら洩らす様に呟くと、血塗れの鉄心を見つけ直ぐ駆け寄った。

 

「学園長!…おいしっかりしろじーさん!!」

 

「……ふひょ?…なぜ、キミが…ココに…。」

 

「喋るな!クソ、出血が…!マッドドクター!」

 

「逃げ、るんじゃ、早く…アレは、もう…わし、の…知って……──。」

 

「オイ!……チィ!」

 

 

多量出血で意識を失った鉄心。悠はマッドドクターの治療と共に来ていた上着をちぎって止血を施していた。

鉄心は百代は燕、武神四天王よりはるか上の実力者である筈。それがこの短時間にここまでの重傷負わせるなど、相手が例えロイミュードであってもここまでの傷は負わない筈だ。

 

それだけ強力なヤツが今回の敵かと思っていると、それは瓦礫を踏み砕いた音と共に現れた。

 

「ッ!」

 

悠は現れたロイミュード。シュラロイミュードにブレイクガンナーの銃口を向ける。

 

形状から見て融合進化態だと知ると、後ろの鉄心を気にしながら僅かな気迫を放ち此方をジッと見て来るシュラロイミュードに話し掛ける。

 

「オタク誰?自分が何やってるか分かってるのか。」

 

【………。】

 

「…あぁもう!言葉分かる!?Can you Speak Japanese!?」

 

怪我人が後ろに居るからか痺れを切らし言葉が荒くなる。

暫く経った後シュラロイミュードから気迫が次第に漏れ出していき、やっと言葉を発したが…。

 

【………ハイバラァ。】

 

「ッ、俺の名前…?」

 

【見つけたぞォ…戦え……私と戦えぇ!!ハイバラァアァアッ!!】

 

「ッ!?」

 

凄まじい気迫を出しながら悠に向かって突っ込んでくるシュラ。悠は回避しようとしたがシュラの直線状、悠の後ろにはまだ治療が終わって無い鉄心が。

 

「ッ~~!クソッ!」

 

 

<< BREAK UP >>

 

 

<< TUNE CHASER SPIDER >>

 

 

「オォァッ!!」

 

回避では無く迎え撃つ事にした悠は魔進チェイサーへ変わりファングスパイディーにエネルギーを溜める。

 

シュラはコアから送られるエネルギーを拳に集め突出し、チェイサーは爪先にエネルギーを集中させ一点突破で迎え撃った。

 

【ハァアアァアッ!!!】

 

「ッ!?──グァァッ!!!」

 

 

シュラの拳とチェイサーのファングスパイデイーがぶつかると、エネルギー同士の衝突により途轍もない余波が生じる。

拮抗状態になるかと思いきや、踏み込んで来たシュラの拳にファングスパイディーの爪先から皹が生じ始めた。これにシュラは更に踏み込むとファングスパイディーが砕ける。

砕け散ったファングスパイディーの残骸にチェイサーが目を疑った隙を狙われ、逆の腕で攻撃して来たシュラの一撃がチェイサーのボディへ。受けたチェイサーは勢い良く後方へ吹き飛び、変身解除にまで陥ってしまった。

 

 

「ッ…ゴホッ!……一撃で、このザマって……只の進化態じゃない!?」

 

【ハイバラ……さっきの姿…お前も私と同じ力を持ってるのかァ!】

 

血反吐を吐きながらシュラロイミュードの力を痛感する悠に対しシュラは先程のチェイサーの姿に興奮を隠しきれていなかった。

 

【もう一度なれ!!そして本気で掛かって来い!!本気のお前との戦い…あァ!すごく、すごく楽しそうだ!!】

 

「うわ、小金井以上の中毒者かよ……つかマジで誰……いや、待て…まさかお前…。」

 

【ハァアアア──】

 

悠がシュラの正体に心当たりを見つけるなか、シュラはエネルギーを溜め込み技を放つようなモーションに入った。

 

【──川神流。】

 

「ッ!」

 

【かわかみ波ァ!!】

 

「やっぱオメェかよ!!──ヌォ!!」

 

放って来たビームを間一髪で避ける悠はシュラの正体に気付いた。

自分を知っている人物、川神 鉄心に重傷を負わせられる実力者、そして先程放った川神流の技。これだけのキーワードが揃った今、導かれるのは唯一人だった。

 

 

「ったく。家出娘がとんだ不良になって帰ってきやがって……川神 百代。」

 

【ハハハァッ!!さぁドンドン行くぞォ!!】

 

 

川神 鉄心が傷を負わされた原因は単に力量の差では無く、血の繋がった孫娘の変わり果てた姿に心を乱さたのかか、それとも手を出す事の躊躇いか、いずれにせよ鉄心は暴走した百代を止める事は出来なかったと言う訳だ。

 

シュラからはコアのエネルギーと百代自身の気が混ざり合って莫大なエネルギーとなり体から漏れ出してる。このまま見るからに暴走してるこのロイミュード相手を野放しには出来ない為、マッハドライバーを取り出そうとした時だった。

 

此方に徐々に近づいて来るのが分かるエンジン音が聞こえて来た。

 

【ん?なんだ?】

 

「……来ちまったか。」

 

シュラと悠と向けた視線の先。そこには此方に猛スピードで向かって来る黒いスポーツカー。ネクストライドロンがスリップしながら二人の間に入り運転席部のドアが開くと、おにぎりを片手にクリムを担いだ秋が出て来た。

 

「お待たせ!桜井 秋只今到着!!」

 

「お前……大丈夫なのかよ!?お前だってあの訳分からない粒子を浴びてまだ一日だぞ!?その時の俺だってまだ症状が…!」

 

<その辺は心配いらない。ココに来る途中秋の体をスキャンしたが、バイタルは安定している。戦闘に支障は無いよ。>

 

「そういう事!…姉ちゃんはまだ起きてねえけど、流石にコレほったらかしには出来ねえって。」

 

そう言いながらおにぎりを食べ悠にクリムを渡す。突きつけられたクリムを前に悠は手を伸ばさなかった。

 

「…お前なぁ。俺が昨日なにしたかもう忘れたのかよ?」

 

「忘れてねえよ!コレが終わったらガタックゼクター返してもらうからな!……そんでもっていい加減ウチ帰ろうよ。」

 

「お前は……俺の気持ちも知らないで…。」

 

「お互い様じゃん、そんなの。幾ら悠兄さんが一人で戦うと言ってもオレは止めねえよ。中途半端何て気分悪いし…それに前言ってたよね?戦う理由はお前が決めろって。

コレがそれ。アンタの隣で一緒に戦う。それが今オレがここに居る理由だよ。悠兄さん。」

 

「………ハァ。お前ってホントバカ。」

 

ふんだくる様にクリムを手にする悠。秋はそれに笑みを浮かべるとマッハドライバーを取り出し、悠の隣に並んだ。

 

「何時また頭痛やら発熱やらが来るか分からねえぞ。少しでも可笑しくなったらすぐ引っ込んでろ。」

 

「平気平気。皆勤賞を取る位体丈夫なのも自慢の内だぜ。」

 

「…あぁそうだった。すっかり忘れてた。…バカは風邪ひかない、か。」

 

「そうそう…って、違うわ!!」

 

【お前等ぁ!何時まで私を待たせる気だ!?早く私と戦えぇエエッ!!!】

 

怒りを表す様にエネルギーが盛大に放たれるシュラを前に、二人はドライバーを身に付けた。

 

「気を付けろ。中身は川神 百代だ。今までの融合進化態とは違うぞ。」

 

「マジで!?……よっし!なら尚更気合入れていくぜ!」

 

「……行くぞ!」

 

<OK!Start our Mission!>

 

「よっしゃあ!──Let`s!」

 

 

【か~わ~か~み~波ァ!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

「「──変身ッ!!」」

 

 

<< DRIVEtypeNEXT! >>

 

<< MACH! >>

 

 

「「──オォオォォッラァァッ!!!!」」

 

【なにィ!?】

 

 

ダークドライブ、マッハへ変身した二人は武器を手に持ち、シュラの放ったビームを打ち払い、霧散したビームはあらぬ方向へ飛び散ると爆散していった。

 

姿を変えた二人の姿と放った技が破られた事実を前にシュラは驚愕の反応を示した後、笑みが毀れ落ちた。

 

【クク…ハハハハッ!!!お前が!!お前が仮面ライダーだったのか!!!いいぞ、私の目に狂いは無かった!!!】

 

「今絶賛狂ってるだろうが!」

 

「追跡!以下略!仮面ライダ~…マッハーッ!んじゃ行くぜ!」

 

<< ゼンリン! >>

 

ダークドライブとマッハはシュラへと向かって駆け。シュラはそれに対し動かず待ち構えている。

 

「ハァ!」

 

「ソラッ!」

 

【フンッ!】

 

振り下ろしたブレードガンナーと突き出したゼンリンシューターを受け止めるシュラ。

弾き返すと横蹴りを放つシュラだが、二人は即座にバックステップで回避。

 

<< シューター! >>

 

<< GUN >>

 

「フッ!」

 

「ソラソラソラッ!」

 

ダークドライブはブレイクガンナーとブレードガンナーの二つとマッハはゼンリンシューターで光弾を撃ちながら接近していき…。

 

<< ゼンリン! >>

 

<< BREAK >>

 

「「ハァッ!」」

 

【グァッ!!】

 

腕を交差してガードするシュラの懐に入り、下からガードを崩すアッパーを叩き入れガードを崩しシュラのボディに二人分の一撃が炸裂した。

 

「援護しろ!」

 

<< タイヤコウカーン! >>

 

<< MAX FLARE! >>

 

「了解!」

 

<< シグナルバイク! >>

 

<< シグナルコウカーン・マガール! >>

 

 

【ハハッ、良いぞ!川神流…】

 

またしても技を放とうとモーションに入るシュラ、それにダークドライブはシュラに向かいマッハはゼンリンシューターを構えた。

 

「撃たせるか!」

 

<< シューター! >>

 

<< キュウニ・マガール! >>

 

 

【グァッ!──た、弾が曲がっただとォ!?】

 

丁度ダークドライブの真後ろの為シュラからマッハの姿が見えず撃ってくる光弾に気付けず光弾を喰らった。怯んだ隙を狙いダークドライブはシフトアップを掛ける。

 

<< Fla、Fla、FLARE! >>

 

「オォォゥラァァッ!!!」

 

【ゴハァッ!?】

 

炎を灯した拳をシュラの顔面に叩きいれるダークドライブ。拳に終わらず、足にも炎が灯ると蹴りも交えたラッシュを容赦なく叩きいれ、仕上げに下あごを狙ってのフックを決め、完璧にダメージを与えた。

 

<よし!相当なダメージだ。今が分離のチャンスだ!>

 

「あぁ!」

 

ブレードガンナーを手にロイミュードと融合者の分離を試みる。

千鳥足のシュラの肩口にブレードガンナーを押し当て、そのまま一気に袈裟懸けに斬り付けた…だが。

 

「ッ!どういう事だ!?」

 

<分離が、出来ないだと!?>

 

何時もなら斬り付けた後に出て来る切り口から融合者を引っ張り出すのだが、シュラの体には切り口が出来ずただ攻撃を加えただけに終わった。

 

「どうなってる?ダメージが足らなかったのか!?」

 

<いや、そんな筈は無い。確かに分離が可能なまでのダメージを蓄積したはずだ!一体何が…ッ!これは!>

 

「何だ!?一体何が分かった!?」

 

<あの進化態…アレは融合進化態では無い!

ヤツ融合進化態ならコアの反応がバイラルコアとロイミュードのコア、二つの反応が有る筈だ。だが、ヤツのコア反応は一つ…バイラルコアの反応だ!>

 

「オイ待て、その話が本当なら……今アイツが使ってるのは、融合してロイミュードになるんじゃなくて、”ロイミュードそのものになる”コアてことか!?」

 

<信じられないが、そう言う事になる…。>

 

【んん……川神流・瞬間回復!】

 

「ッ!」

 

分離が出来ない事実と融合進化態では無い二つの事実に惑わされた所為かシュラに回復の間を与えてしまった。

それに気付いたダークドライブは尽かさずブレードガンナーで斬り掛かり刃がシュラのボディに入るが。

 

【川神流・雪達磨!】

 

「何ッ!?」

 

【ハァッ!!】

 

ブレードガンナーの刃先からダークドライブの右手首まで瞬時に凍り付いてしまった。その次にダークドライブに拳による突きを喰らわせ後ろに吹き飛ばされる。

 

「グッ…!」

 

「悠兄さん大丈夫!?…って凍ってる!?」

 

「落ち着け!良いからコレ倒せ!」

 

「え?…あぁそういう事!」

 

<< Fla、Fla、FLARE! >>

 

慌てるマッハを落ち着かせイグニッションを回すとシフトレバーをマッハに三回倒させた。シフトアップの恩恵によりダークドライブの右手に炎が灯り、凍り付いた腕は元に戻った。

 

その間にシュラはダークドライブとマッハへ肉薄して来る。

 

【ハハハハッ!楽しい!!すごく楽しいぞ!!もっと私を楽しませろォ灰原ァ!!!】

 

「おわぁッ!?──こりゃマズイ!悠兄さんさっき何で分離しなかったの!?チャンスだったじゃん!!」

 

「うるせぇ!融合進化態じゃねえのに分離が出来るかってんだ!」

 

「はぁ!?それどういう事さ!?」

 

<私が説明する!!あのロイミュードは──。>

 

シュラの攻撃を流したり、ガードする傍らクリムが先程の会話の内容をマッハへ説明していた。

 

「──はぁ!?じゃあどうやって倒すんだよ!?このままじゃあ川神センパイ諸共倒さなきゃいけなくなるじゃん!!」

 

「それを今考えてるんだよ!!………で!今思いついた!!」

 

「おぉ!!流石悠兄さん!!こういう時マジ頼りになる!!で、作戦は!?」

 

「あぁいいか?コイツの中の…。」

 

【えぇいッ!!私を挟んで作戦会議するなぁァアア!!!川神流・人間爆弾!】

 

「「うわァッ!?」」

 

 

丁度二人掛かりでシュラの腕を抑えてた為に、自爆技に巻き込まれ吹き飛ぶ二人。

飛ばされて再び並び立ち、作戦の内容を伝える。

 

「いいか一度だけ言うから覚えろ。アイツがロイミュードになっている要因はバイラルコアだ。ならそれさえ壊せば…。」

 

「…成程。センパイにもダメージ云っちゃうけど、コアさえ壊せば…。でもその前に…。」

 

【川神流・瞬間回復!──】

 

「アレ、どうにかしないとマジで延々とやり合う羽目になるよ?必殺技当てても回復されちまったら…。」

 

「それも分かってる…クリム。ヤツのダメージ受けてから回復するまでのインターバルは?」

 

<1.68秒だ。>

 

「一秒ね……ギリギリって所か。

秋、喜べ。お前にここ一番の見せ場作ってやる。」

 

「うわぁ、なーんか無茶振りの予感…でも、そういうの決めたら最高にカッコいいよな!」

 

 

 

 

【ふゥ~~~…あぁ最高だぁぁ。もっと、もっとこの快感を味わいたい!!だからまだ付き合ってもらうぞ灰原ぁ!例え命尽きようとッ!!!】

 

「最後までテメエと一緒だなんてご免だっての!!

秋!しくじんなよ!!」

 

「おぅ!まずは…。」

 

<< タイヤコウカーン! >>

 

<< SPIN MIXER! >>

 

<< Mi、Mi、MIXER! >>

 

 

<< シグナルコウカーン・トマーレ! >>

 

<< イマスグ・トマーレ! >>

 

 

【無駄だぁ!!私にはどんな攻撃にも……ッ、な、なんだとぉ!?】

 

 

スピンミキサーのコンクリート弾とシグナルトマーレの拘束にシュラは完璧に動きを封じられてしまう。

 

その間にダークドライブがブレイクガンナーを手に前に出て、マッハは手にシフトデッドヒートを持った。

 

「頼んだぜ悠兄さん!!」

 

「誰に言ってる!お前は自分の事気にしてろ!」

 

<< タイヤコウカーン! >>

 

<< RUMBULL DUMP! >>

 

 

<< TUNE FUNKY SPIKE >>

 

 

ダークドライブの手にはランブルスマッシャーとファンキースパイクを装填したブレイクガンナー。高い攻撃力を持つ武器を手に駆けた。

 

<< ヒッサーツ! >>

 

<< FULL THROTTLE! DUMP!>>

 

 

<< EXECUTION >>

 

<< FULL BREAK・SPIKE >>

 

 

【ぶっはぁ!!やっと出れ…ッ!】

 

 

「オォォウラァッ!!──」

 

【グゥッ!!グァァアアアッ!!!!】

 

 

コンクリートによって固められたシュラは自力でコンクリから抜け出すと、眼前に迫ったダークドライブに対処できず胸部の中心にランブルスマッシャーを突き立てる。高速回転のドリルがシュラを貫こうと激しい火花を立てる。

 

「ヌウウゥゥウッ!!」

 

【ガァアァアァァアアアッ!!!ヤ、ヤメロォオォオォォォ!!!そ、そこはァ…!】

 

「ヌゥウウゥゥウ───ッ!見えたァ!!」

 

ランブルスマッシャーでシュラのボディが徐々に削れていくと、開いた穴の隙間から金色の光が毀れた。

 

「オラァアアッ!!!」

 

【グァァアアアァアァアッ!!!──が、ァアッ、コアがァア!!!】

 

尽かさずダークドライブはランブルスマッシャーを引っ込めると、ブレイクガンナーで隙間の部分を殴りつけた。

ガンナーから伸びた針が隙間から入り込み、核であるコアを突き刺した。

 

【グウゥゥッ…グゾオォオォッ!!!】

 

「グァッ!!」

 

半ば自棄気味にダークドライブを殴りつけ吹き飛ばすシュラ。

まだコアは破壊されてない為、瞬間回復を掛ければ…。

 

【か、川神流・瞬間…。】

 

 

<< Burst! Full Throttle! >>

 

 

【ッ!?】

 

「行けえええええ!!秋ゥ!!」

 

「オオオオォオォッ!!!──」

 

回復を掛けようとしたシュラの目の前には、デッドヒートとなったマッハが必殺技に入る為に空中に跳んでいた。

 

 

<< DERD HERT! >>

 

 

「ダァァアアアッ!!!」

 

【ま、間に合わな…!】

 

シュラの回復より早くマッハのデッドヒートマッハがシュラの胸元に炸裂した。

 

着地したマッハの元に駆け寄るダークドライブ。その背後では、シュラが手をダークドライブとマッハへ伸ばしていた。

 

 

【あ……い、イヤだ…私はまだ……戦、え…アァアアアァアーーーーーッ!!!!】

 

 

只々戦いたいと言う欲求を最後まで言葉にしたシュラは膝を着いて倒れ爆散していった。

 

 

<Mission Complete!実に素晴らしいコンビネーションだ!>

 

「……イイイイイヤッタアァァアアアーーーーッ!さっすがオレ!タイミングバッチリ!!

そして見たかぁ!!オレ達のスーパーコンビネーション!!っで痛い!!」

 

「るっさいもう……全くお前は。」

 

「へへぇ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直後に、金色の波紋が周囲に広がった。

 

「ッ!?グッ!!」

 

「うわぁ!な、何々!?一体何なのさ!?」

 

<何だ、この高エネルギーの波は!?…ッ、あ、アレは!?>

 

 

 

背後での波紋の中心点は先程シュラが爆散していった場所。そこには金色の発光で全体像は見えないがシルエットからしてシュラロイミュードであった。

 

「一体何が…!?」

 

 

 

 

 

 

 

<おお!あの輝きは…!間違いない、あの輝きこそが本来の進化形態!!だがなぜ今になって…?>

 

「簡単だよ。キミの造ったコアは、人間の強い感情によってその力を発揮する。

倒される寸前、彼女のもっと戦いたいと言う強い願いが爆発的に上がり、それに壊れる寸前のコアが本来の力を発揮したんだ。

正に火事場の馬鹿力…フフ。ホ~ント人間って面白いねぇ。追い込めば追い込むほど、それ以上のモノを見せてくれんだから…アレ?聞いてる?」

 

<おぉ。なんと美しい…あれこそがボクの最高傑作、スーパーバイラルコアによって生まれた新たなロイミュード。究極進化態!!…ハ、アッハハハハハッ!!!>

 

「あ~。ダメだ。完全にスイッチ入っちゃったね…お?アレは…!」

 

高みから見下ろすアベルの目には、黄金の輝きを放つシュラの形が変わり始めていた。

 

 

背中からその形を表したのは、腕。しかも一本では無く四本。元々の腕を合わせ六本の腕になり、顔の側面にも新たに二つの顔が現れた。

 

全身が赤と黒から金一色のカラーリングとなり、大きく変わった六本の腕と三つの顔。

 

 

 

その姿はかの三面六臂の戦闘神。究極進化態・アシュラロイミュードがここに誕生した瞬間だった。

 

 

 

 

【【【……ハァァア~~】】】

 

 

「なん、だ。ありゃ…?」

 

「…進化、したのか?」

 

<何だこの計測値は…!?悠!秋!ココは一旦引くぞ!!今のままではアレには勝てん!!>

 

「オイそれどういう…ッ!」

 

「ッ!!」

 

 

【【【………川神流…。】】】

 

 

クリムがアシュラの圧倒的な強さを前に二人に撤退を指示するが、瞬間移動とも言える位の速さで二人の眼前に迫ったアシュラは六本の腕を引いて…。

 

 

【【【無双正拳突きィ!!!】】】

 

 

「ッ!!!」

 

「ぐ、グァァアアッ!!!」

 

 

六本の腕から繰り広げられる高速のラッシュ。一発一発が必殺技級の威力を持つこのラッシュをダークドライブはどうにかガードで耐えるが、喰らってしまった一撃を皮切りにラッシュを全身に喰らってしまうマッハ。

 

トドメに二人に三本の腕で殴り抜くアシュラ。その一撃にマッハの変身は解除されてしまい。ダークドライブも変身解除まではいかなかったが、大きなダメージを負う事になった。

 

二人は大きく吹き飛び瓦礫の山に突っ込む。かろじて起き上がろうとするダークドライブは倒れてる秋に声を掛けた。

 

「おい秋、まだ生きてるよな…!?」

 

「……へへ。とーぜん…勝手に、殺さないでよ…。」

 

仰向けに倒れ生きてる事を告げる秋だが、声色は弱く戦闘続行は難しい状態であった。

 

立ち上がるダークドライブは秋の前に立ちアシュラにブレードガンナーを向けるがアシュラはダークドライブを見ておらず、自身の力の向上に酔いしれていた。

 

 

【【【ハッハッハッハァ!!!すごいぞ!!力が、気が、体中に漲って来るゥゥゥウッ!!!最高だァこの力ァ…これがあれば私はもう何もいらない…!戦いだ、戦いだ!戦いだ!!死闘だぁ!!!

先ずは灰原、お前からだ!!お前を倒した後、私はこの力を使って、全ての強者と戦う!!!】】】

 

 

「お前……その中に自分の身内や仲間も交じってるってコト分かってるのかよ!!!」

 

【【【…そんなのどうだっていいィ、この力と比べれば、そんなちっぽけなコト……どうだっていいんだよォッ!!!アーーーッハッハッハ!!!!】】】

 

「お前…。」

 

<無駄だ。恐らくコアの爆発的な進化の影響で精神が異常状態に陥ってる。今の彼女に言葉は届かない。>

 

「…さっきと同じやり方で行けると思うか?」

 

<……可能性は、ゼロに等しい。強化されたボディに加え、あの六本腕とほぼ死角の無い三面を前に打倒策は見出せない。>

 

「……。」

 

<悠。ここは秋を連れて撤退すべきだ。幸い彼女は陶酔して此方の動きを全く見ていない。逃げるチャンスは今だ。>

 

「………分かった。今は引いて体制を立てなお…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お姉、さま…?」

 

 

「ッ!?…なんで!?」

 

【【【ん~?…おぉ、お前かぁ!】】】

 

 

撤退を決めた矢先、第三者の声が耳に入った。それは先程まで共に居た少女の声だった。

 

その声はアシュラの耳にも届いており姿を見るや腕を広げて招いていた。

 

川神院に居る筈の一子の姿に両者の目に釘付けにされた。

 

「その声…お姉さま…なのよ、ね?」

 

【【【そうだぞ妹よ!!どうだ凄いだろこの姿!!コレがあれば私はもう負けない!!ずっと戦っていられるんだ!!現に仮面ライダーの一人や、ジジイにも余裕で勝ったしな!!!】】】

 

「じっちゃん?……ッ!じ、じっちゃんッ!!!」

 

一子が辺りを見渡すと血塗れで意識の無い鉄心の姿を見つけると真っ先に向かって行く。マッドドクターの治療によって大分傷が治ってるも服に染みついた血の量から慌てるのも当然だった。

 

「じっちゃん!じっちゃん!!しっかりしてよ!!」

 

【【【アッハッハッハ!!すごいだろ妹よ!!あのジジイをそんなになるまで強くなったんだ!!瞬間回復も技も全部打ち破ってだ!!……そうだ。ジジイを倒したんだ。私はもう武神なんてちっさいものじゃ収まらない位に強くなったんだ!!】】】

 

「…違う。こんなの違うよ!!こんなの……こんなのアタシが憧れてるお姉さまじゃない!!そんな化け物になって喜ぶお姉さまなんて、本当のお姉さまじゃないわよ!!!」

 

【【【なんだと?……一子。お前、この力がどれだけ凄いのか……ワカラナイノカ?】】】

 

「ッ!!」

 

 

<< Sha、Sha、SHADOW! >>

 

「「「「「ハァッ!!」」」」」

 

 

【【【ヌッ!?】】】

 

アシュラが一子に威圧を飛ばし息の詰まる思いをしたが、ミッドナイトシャドウの能力で分身したダークドライブがアシュラに向かって攻撃しだした。

五人となったダークドライブの攻撃を六本の腕で受けたり流したりして防ぐアシュラの注意は一子から分身達へ向けられた。

 

【【【アッハッハ!なんだコレは!?忍者かお前は!?】】】

 

首を掴んだ分身の一体に残った腕でラッシュを入れると分身は消えていった。アシュラは高々と笑いながら残りの分身を相手に無双する。

 

威圧から解放された一子は腰が抜けたのかストンと尻を着き呆然としてると急に肩を掴まれる。ビクッと驚きながら顔を向けると掴んだのは本体のダークドライブだった。

 

「なんでこんな所に居る!?ココが今どれだけ危険か、分からない程バカなのかキミは!?」

 

「ごッ、ごめんなさいッ…友達を捜してて…見つからなくて、何処に行ったのかなって思っていたら、黒いマントみたいなの被った人が、ココに居るって教えてくれて…お姉さまも居るって聞いて、居ても経ってもいられなくなって…!」

 

「ッ!…アベルのヤツか…!──ッ!!」

 

ダークドライブの問いに怯えながらも答える一子の言葉に全ての元凶が分かった。アベル対する怒りが込み上げ来るが、そんな暇など与えないと言わんばかりのビーム砲がダークドライブに向けられて放たれ、とっさに一子と意識の無い鉄心を抱えてその場から避ける。

放って来たのは分身全てを倒し終え、此方に狙いを変えたアシュラだった。

 

「お前何やってんだよ!!俺はともかく妹と祖父諸共仕留める気か!?」

 

【【【あ~~~?そんなもの知るか、たまたまそこに居るのが悪いんだろォ?】】】

 

「お姉さま…!あんな事を言う人じゃないのに、どうして!?」

 

「…頭可笑しくなってんだよ。あのブサイクなカッコと一緒にね…。」

 

【【【ホラホラァ!!もうお前の分身は居なくなったから来いよォ!!早く私と戦えぇ!灰原ァアッ!!!】】】

 

「……え?」

 

アシュラの放った言葉に一子は信じられないと言った顔で自分を庇い前に出てるダークドライブを見る。

 

一子の頭はもう理解が追い付かない事ばかりだった。百代が怪物になり、悠が仮面ライダーという真実。もう考える事を止めたいと思う位に理解に苦しんでいた。

 

「ユウ?…ユウ、なの?アナタ…ねぇ…何か言ってよぉ、アタシもう、何が何だかわからないよぉ…。」

 

「……ゴメン。」

 

【【【オイ!早く来いと言ってるだろう!!来ないならこっちから行くぞ!

川神流──。】】】

 

<ッ!これはマズイ!悠!!>

 

「ッ!逃げろ!!!」

 

アシュラの全身に途轍もないエネルギーが身に纏われ、相当の技を放つのが目に見える。

 

ダークドライブは逃げる様怒鳴りながら言うが、一子はショック状態の所為か俯いた姿勢のまま動く気配が一向に無い。また担いで逃げようにもアレを前に無事で要られるビジョンが浮かばない。

 

ダークドライブの取る行動は、最早一つしかなかった。

 

 

「クソッタレェ!!!クリムッ、最大出力!!」

 

<OK!>

 

<< ヒッサーツ! >>

 

<< FULL THROTTLE! SHADOW!>>

 

 

【【【星砕きィィィイッ!!!】】】

 

 

アシュラから放たれる特大のビームにダークドライブはブレードガンナーに特大の手裏剣を生み出し、放った。

 

 

特大ビームの前に放った手裏剣は僅かな抵抗で踏み止まるが、勢いを少し抑えただけで消え去った。ビームはまだダークドライブ目掛け向かって来る。

 

 

 

 

 

 

 

そして、それは真っ直ぐとダークドライブの体を呑み込んだ。

 

「グゥッ!!ヌァアアァアアアァアッッーーーーーーーーー!!!」

 

スーツが通して熱が、速さが、重みが、素肌に直に触れるように感じそれが痛みとなって体を駆け巡る。

だがそれでも倒れない、後ろの二人が傷つかないよう守りきる為に、逃げる事も、飛ばされる事も、倒れる事も許されなかった。

 

「……ユウ?」

 

「ァアアアァアアアァアーーーーーーッ!!!」

 

一子が顔を上げればそこには腕を広げてただひたすら星砕きを受けるダークドライブの姿。そこで一子の意識は正常に戻った頃には放たれたビームが止んだ時だった。

 

「ッ!ユウ!!」

 

「………。」

 

ビームを受けきったダークドライブは所々黒く焦げ、火花が血のように止まらずドライブドライバーから煙が上っている。

広げてた腕がダランと力無く下げられ、膝が崩れ落ちた瞬間。スーツが弾けるように変身が解けた。

 

「ユウ!!」

 

「………あ…。」

 

 

 

 

”ドクン──ドクン──ドクン”

 

 

 

 

 

 

(……あぁ。このカンジ…。)

 

 

 

 

 

 

”トクン────トクン──”

 

 

 

 

 

 

(…ハァ。だから守りながら戦うのは苦手なんだ…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”トクン─────”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……まぁ、いいや。……今回は、ちゃんと…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”─────”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…守るこ、と…が……──。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ードサッー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え?」

 

 

 

 

 

「…おい。嘘だろ……悠兄さん…悠兄さんッ!!!」

 

 

激痛が走る体を無理矢理起こして倒れた悠の元に駆け寄る秋。

 

抱えた悠の耳元でコレでもかという位、喉が裂けるくらいに大声で叫んだ。

 

「悠兄さんッ!!なぁ目ぇ開けてくれよ!!これもつまらねえウソだって言ってくれよぉッ!!!」

 

「ヤダ…ヤダ!ユウ!!起きてよ!!お願いだから起きてよぉ!ユウゥ!!」

 

 

 

【【【…なんだ、この終わり方は………まだ足りないぞ。こんなので…こんな終わり方で納得できるかァァアアアッ!!!】】】

 

 

 

 

 

 

 

いくら体を揺すっても、目を開けてくれなかった。

 

いくら大声で叫んでも、応えてくれなかった。

 

 

いくら、目の前の事実を否定したくても。

 

 

止まった心臓が、悠の死を物語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 







トゥルーエンディング見て来ましたぁ!!

やっぱ夏映画はイイですね。みんな見せ場があってカッコよかったし。

でも、最後に流れたあの告知。アレがマジだとするとか~な~り…ショックです。

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